―――PM18:00、杜王町別荘地帯。
ザッ
ザザッ
零<……コ………温子、聞こえる?>
アッコ「オーケー、聞こえるヨ。」
アッコが無線機の周波数を合わせ、零と連絡を取る。
零<もう、アジトの付近にはたどりついたのね?>
アッコ「ウン、もう着いてるよ。」
零<それで、アジトは見つかった?>
アッコ「……ソレなんだけど……。」
模たちの隠れている家屋のカゲから、エリックと模が顔を出している。
模「間違いはない?」
エリック「ああ、姿を現せばこれだとはっきりとわかる。向こうの角から1、2、3番目……白い塗装の建物だ。」
模「こんなに当たり前のように建っているなんて……今まで見つけられなかったのも、『ピープル・イン・ザ・ボックス』の能力のせいなの?」
エリック「ああ、そうだ。その建物の存在自体が隠される……。この能力によってディザスターは杜王町に潜んでたのさ。」
五代とアッコも顔を出し、その建物を眺める。
ディザスターの拠点だというその白亜の建物は、別荘地帯に数多く並ぶただのペンションのひとつにしか過ぎなかった。
零<……なんにせよ、ディザスターの拠点は見つけたのね?>
アッコ「ウン、まわりには……誰もいない。」
別荘地帯に建ち並ぶペンションは80年代後半からのバブル景気のときに建てられたものがほとんどだが、
90年代前半にバブルがはじけ、景気が落ち込むにつれて別荘を手放す人があとを絶たなかった。
そのため、このあたりに建つ別荘はほとんどが空家となっており、またサマーシーズン前であるため、利用客はまったくいなかった。
そういった状況が、ディザスターの隠れ蓑としてはぴったりだったのだ。
零<では、はじめましょう。>
アッコ「ウン……エリック!!」
エリック「ッ!!」ビクッ
五代「ビクついてんじゃねえ、テメーには最後まで手伝ってもらうぜ。」
エリック「~~~~~~ッ、くそお……」
家屋のカゲからエリックがひとり姿を現し、白亜の建物に近づいていく。
エリック「もう一度確認するぞォ~~~?俺はドアを開けるだけでいいんだよなあ~~~~?」
五代「『中の安全を確認する』までだ、さっさとやれ。」
エリック「くっそお~~~~……」
エリックが、白亜の建物の扉の前に立った。
模たちは斜め向かいの家のカゲからその様子を見ている。
五代(いいか、扉を開けて、数秒待ち、何もなかったら突入する。)
模(わかった。)
アッコ(オッケェ。)
エリックは閉じた扉に手を伸ばし……
コン
コン コン
コン コン
コンコンコン
あらかじめ決められていたのだろう、暗号のようなリズムで扉を叩いた。
キツツキが木をつつく音のように、静かな別荘地帯の中をその音が響いた。
カチャリ
ドアノブのひねる音がハッキリと模たちにも聞こえる。
ドアがゆっくりと開き…………
模「!!?」
五代「な……!?」
次の瞬間……いや、ドアすら開ききってない中、その異変は起きた。
アッコ「エリックが……消エタ!?」
エリックはドアを開けたらすぐに逃げる……エリックはそういっていたし、
模たちもそうするんだろうと思っていた。
しかし、エリックはこつ然と姿を消したのだ。
アッコ「ド、ドウスル!?」
模「このまま扉が閉じたらまずい!とにかく行こう!!」
ダダダッ!
建物のカゲから駆け出し、白亜の建物の前に3人が立つ。
扉は、半開きのまま止まった。
近づいてもやはり、エリックの姿は見えなかった。
五代「どういうことだ……!!」
アッコ「………!!……建物の中から、なにかガ来ル!」
ギッ
ギッ
ギッ
木の床板が軋む音が聞こえる。
その音は次第に近づき、大きくなっていく。
五代「模、温子……スタンドを出しておけ。間違いなく、敵スタンド使いだ!」
ドドドドドドドドド………
『セクター9』、『ワン・トゥ・ワン』、『ファイン・カラーデイ』が姿を現し、それぞれ臨戦態勢をとる。
ギッ
ギッ
足音が止まった。
ギィィィィ……
再びゆっくりと、扉が開きはじめる。
姿を現したのは……
棟耶「………エリック・キャトルズ、この不埒者がッ!!」
ディザスター幹部、棟耶輝彦だった。……そして彼のスタンド『エル・シド』が、消えたはずのエリックの胸に腕を突き抜けさせ、掲げていた。
エリック「ぶぐ………ごばっ……!」
模「な……エリックが!!」
棟耶は『エル・シド』の能力により、エリックの『扉を開ける』行為と、『中に入って様子を見る』行為を入れ替え、
扉を開ける前にエリックを建物の中に引き入れた。……もちろん、そのことは棟耶が模たちに語るには及ばないだろう。
急転する状況を飲み込むために動きを止めてしまった3人……しかし、それを後悔したときには、棟耶は次の行動に移っていた。
棟耶「緊急警報発令だッ!!作戦コード『M-5』!!!」
ビーーーーーーーーーーーーッ!!!
棟耶が叫ぶやいなや、建物内からサイレンが響きはじめる。
模「さ、作戦コード……?」
エリック「つ……え…たに……」
エル・シドの腕からすでに落とされていたエリックが、息絶え絶えにして模に語りかけた。
エリック「『M-5』は……緊急時本拠地移転の作戦……だ。」
模「本拠地移転……」
エリック「『ヴァン・エンド』は絶対に逃すな……また……場所…が、わからな……」
棟耶「五月蝿いわッ!!」
ゴグチャッ!!
模「!!」
エル・シドがエリックの頭を殴りつぶした。
たとえ仲間でも、不利益になるのなら容赦なく切り捨てる。
そう、そうなのだ。それが、ディザスターなのだ。
模「仲間を……!」
しかし、模がそう言った直後、またも予想もしていないことが起こる。
バリィィン!!!
バギィッ!!
急に発生した二つの音は、白亜の建物のガラス窓をやぶる音と、壁が破かれる音だった。
ガラス窓をやぶって現れたのは、模たちは面識のない男……『ヴァン・エンド』。
そして、建物の壁をやぶって現れたのは……
五代「てめえは……ついに姿を現しやがったな、『弓と矢の男』!!」
キル・シプチル……かつて五代と四宮の前に現れた『弓と矢の男』であった。
模たち3人は、ディザスター3人の幹部に囲まれる形となった。
アッコ「こ……コンな状況って……!」
模「落ち着こう、アッコ。数なら3対3だ、冷静になって……。」
棟耶「『3対3』?……はたして、それはどうかな?」
バッ!
バッ!
次の瞬間、キルとヴァンは2方向に分かれて、模たちから『逃げて行った』。
模「ッ!!」
キル「……『ラクリマ・クリスティー』。」
グォン!
キルは『ラクリマ・クリスティー』の能力によって世の理から解放されて、空を駆け出していった。
五代「待ちやがれッ!!」
五代はすぐさまキルを追い出した。
五代にとっての目的は、『弓と矢の男』……キル・シプチルを倒すことなのである。
模たちになにも言わずキルを追ったのは当然のことだった。
アッコ「逃げるなアーーーーーーーッ、おおりゃッ!!」
アッコは別方向に逃げた男……ヴァン・エンドに向かって石を投げた。
ガッ!!
ヴァン「………ッ!」
わずかに肩に命中したものの、動きを止めるまでには至らなかった。
アッコ「くッソ……!」
棟耶「向こうにかまっている余裕があるのか?林原温子よ……『エル・シド』ッ!!」
グオオオオオオッ!!
アッコ「ッッ!!」
エル・シドの拳が猛スピードでアッコに迫る……!
アッコ(ガードが……間に合わ……!!)
ガシィィン!!
棟耶「!!」
エル・シドの拳からアッコは守られた……模の『サウンド・ドライブ・セクター9』によって!
模「あいつを追って、アッコ……!!この男は、僕が引き受ける!!」
アッコ「ば、模!!」
模「行けえええええッッ……!!」
ググググググ……
エル・シドは拳に力を込めてセクター9のガードを押し切ろうとする。
アッコ「ご……ごめん、バク!」
ダダダダ……
アッコは、ヴァンが消えた方向に走り出した。
別荘地帯の、ディザスター拠点前にいるのはもはや模と棟耶だけになっていた。
棟耶はすでに模から距離をおいていた。
棟耶「杖谷模……ボスが一目置いていたよ、恐るべき潜在能力を秘めているとな。」
模「…………」
模は棟耶に応えぬまま、ポケットから携帯無線機を取り出し、スイッチを入れた。
模「零さん、聞こえますか。……エリックは殺された。
ディザスターのうち、3人の姿を確認した。『弓と矢の男』は、五代くんが追っている。『ヴァン・エンド』はアッコが追っている。
そして、今僕の目の前には、『トウヤ』がいる。……ディザスターは町へ散った。
ヤツらは別の拠点ヘ移るつもりだ。『ヴァン・エンド』を探してください。僕は………」
棟耶「ふん、いい覚悟だ……杖谷模。」
模「コイツと戦う!『セクター9』!!」
第七章 -血道の世界-
模<『ヴァン・エンド』を探してください。僕はコイツと戦う!……>
ブツッ
小道の屋敷、作戦室で零、紅葉、九堂、陸は模からの無線通信を聞いていた。
紅葉「……予想していたよりずいぶん事態が変わってるね。早く行こう、零さん!」
零「模くんの援護と、『ヴァン・エンド』の捜索が優先事項ね。次の拠点がわかれば一番いいんだけど……」
陸「どちらにせよ、ここでじっとしている時間はないな。」
零「ええ、そうね。私と紅葉は別荘地帯に向かい、模くんのところへ、
九堂くんと武田さんはアッコと合流してから『ヴァン・エンド』を探してください。」
九堂「了解!」
紅葉「よし、行こう!!」
現在の状況
模 :別荘地帯にて『棟耶輝彦』と交戦中。
五代 :『キル・シプチル』を追い、杜王町の街中へ。
アッコ :『ヴァン・エンド』を追い、杜王町の街中へ。
九堂・陸:『ヴァン・エンド』捜索に、屋敷を出発。
零・紅葉:模の支援のため別荘地帯へ向け、屋敷を出発。
棟耶「ゆくぞッ、杖谷!『エル・シド』ッ!!」
バオンッ!!
模「……ッ!」
身長190cmはある棟耶のスタンド……エル・シドはそれよりもさらに大きく、
その巨躯から放たれたパンチは、拳というよりもむしろ巨大な岩が迫ってくるほどの迫力で、模はよけるだけで精一杯だった。
棟耶「運動神経はかなりいいようだ、身のこなしが軽い。」
模「『セクター9』ッ!!」
よけつつも模は棟耶の隙をつき、セクター9のパンチを放つ。
ババババババババババババッ!!
しかし、すべてのパンチを棟耶のエル・シドは軽くいなす。
棟耶「……だが、それだけに攻撃が軽い。総合力では我が『エル・シド』のほうが上だな。」
模「…………」
棟耶「杖谷……ひとつ、教えておいてやろう。
君の仲間がキルとヴァンを追っているが、今危険なのはキルやヴァンではない。追っている五代や林原温子のほうなのだ。」
模「なに……!」
棟耶「今、杜王町にはディザスターのスタンド使いが3人潜んでいる。『M-5』が発令されたことにより、
彼らはキルやヴァンを援護するため、動き出すだろう。作戦を必ず成功させるためにな……!」
模「………五代くん、アッコ……!!」
―――杜王町商店街、路地裏。
能力を発動し、障害物を無視して進むキルを五代は見逃してしまってしまっていた。
しかし、それでもなお五代がキルを探しにいけないのは、五代の前に立ちふさがる男がいたからである。
五代「…………なんだ、てめえは。」
スイップ「私の名は『スイップ・ホック』……我が主を安全に向かわすため、私が君の行く手を阻もう。」
五代「ディザスターの人間か、俺の邪魔をするなら容赦しねえぜ。」
スイップ「逃げるつもりはない……か。私を乗り越え先へ進もうというのだな。……だが、私はそう簡単には倒せぬぞ?『ハイ・シエラ』ッ!!」
ズズズズズズズ……
スイップ・ホックと名乗った男の傍らにそのスタンド『ハイ・シエラ』は姿を現した。
きわめて人に近い姿のスタンド……しかし、その体は『毒々しいほどの紫色』に染まっていた。
五代「…………」
スイップ「『退くに易し、然れども触り難し』……私と戦うのなら、五体満足には終わらぬぞ……五代衛。」
スイップ・ホックのまわりの空気が、歪んだ。
―――別荘地帯と杜王町の住宅地をつなぐ山道。
林に囲まれた道の真ん中でアッコが一人たたずんでいた。
アッコ「ちくしょう……コツゼンと姿を消しやがッタ……。
まずイナ、『ヴァン・エンド』は決して逃がしちゃいけないのに。」
ザザザザザザザザザザッ!!
アッコ「…………?」
木々が風で揺れる音……にしてはやや不自然だった。
ザザザザザザザザザザッ!!
アッコ「誰か………イル。」
グオオオオオオオオ!!
アッコ「ウシロかッ!!」バッ!
バギィィッ!!
アッコは背後から振り下ろされた『ムチ』のようなものをかわし、振り返った。
その『ムチ』のようなものの正体は……『鎖』。打ちつけられた鎖はアスファルトをも砕いていた。
よけなければ、アッコもただではすまなかっただろう。
???「アラ、よけられちゃったわね。そんなに素早く動けるのは……あなたが機械だから?
でも、あなたはスタンド使いなのよね?機械がスタンドを持ってるなんて聞いたこと無いわ。やっぱり人間なのかしらね?」
アッコ「…………アンタは誰ダ、出てコイ。」
鎖の伸びる先……林の中から現れたのは、ブロンドの髪の女だった。
ブロンドの女「『ヴァン・エンド』を捕まえさせるわけにはいかないわ。あの方を拠点まで無事送り届けるのが私の最重要任務……」
アッコ「アンタの相手をしてイル時間は無イ。何ヲしようトモ、アンタにあたしは捕まえられない。」
ブロンドの女「フフフ、冷めるわあ。せっかく戦える機会なのに。そうね……林原温子、あなたがもし私と戦って勝つことができたら、
『次の拠点の場所を教えてもいいわ』。」
アッコ「……………」
ブロンドの女「どうせあなた、ヴァン・エンドを見逃しちゃったんでしょう?このまま探し回っても、ヴァン・エンドは見つけられない。そうでしょ?」
アッコ「…………『ファイン・カラーデイ』。」
ズズズズズズズズズズ……
ブロンドの女「……私と戦う気になってくれたかしら?でも、簡単に勝てると思わないでね。この『アリーナ・シュゲット』の……」
アリーナと名乗ったそのブロンドの女は、自らのスタンドを発現させた。体に鎖の巻かれた女性型。
アリーナ「『ホンキー・トンク・ウーマン』の……『鎖の牢獄』から。」
アッコ「……………!!」
アッコが薄暗い林の中を目を凝らしてよく見ると、木々の間には、何本もの鎖が繋げられていた。
縦横無尽に繋がり、垂れ下がった鎖に囲まれた空間はまさに牢獄のようだった。
―――杜王町海岸沿いの道路。
別荘地帯へ向かって零と紅葉が走っている。
紅葉がふと海のほうに目をやると、太平洋の広がる東の空は夕焼けから徐々に青黒い色に変わっていた。
杜王町の空は黄昏から夜へと変わろうとしていた。
紅葉「……何かヘンな感じね。いつも見てる景色のはずなのに。」
ザザザザザザザザザザ……
紅葉「…………何?」
零「……紅葉。」
紅葉「?(零さん、いつもと雰囲気が違うような……。)」
ザザザザザザザザザザ!
零「そのまま止まらずに、私の後ろを走りなさい。」
紅葉「え?」
零「………来るッ!」
ゴオオオオオオオオオオオオッ!!!
ザグッ!
零「…………ッ!」
紅葉「零さんッ!?」
???「……ちっ、かすったか。」
瞬きするほどの瞬間、零の目の前に一人の女が現れた。
女の右手にはナイフが握られており、血が滴っていた。
紅葉「て、敵ッ!?」
零「『止まるな』、紅葉!模のところへ向かいなさい!」
紅葉「でも………」
零「私なら心配はいらない!」
紅葉「……はい!」
ダッ!
女「ダメダメ、にがさないよ紅葉!」
ガシッ!
女「ッ!?」
零「……あなたは、私が相手になってあげる。」
零が紅葉を追おうとする敵の腕を掴み、遮った。
零「振り返らずに、走りなさい!」
零が紅葉の背中に呼びかける。
紅葉は走りながら一度頷き、別荘地帯の方角へ駆けていった。
零「…………」
女「『リバーサイド・ビュー』!!」
ビュオオオオオッ!
零「!」バッ!
『リバーサイド・ビュー』と呼んだその女のスタンドが、持っていた鎌を零に向けて振り下ろした。
かろうじて致命傷は避けたたものの、零の服の肩の部分が斬れてしまった。
女「あなた……写真でも見たことがない顔だね。新手の仲間……いや、あなたが噂の『司令役』ってやつなんでしょう?」
零「………」
女「ずいぶん動きも鈍いわ。大方、戦いは苦手だから紅葉や五代に任せて………」
女はスタンドで斬った零の肩を見て、口をつぐむ。
女(斬った感触はあったはずなのに、出血どころか傷もない……?)
零「……鎌で斬られたことは、昔は何度もあったかもね。もう忘れたけれど。」
女「スタンド能力かな……?フッ、思ったよりは楽しませてくれるようね、この『シーチゥ』を。でも、紅葉を行かせないほうが良かったんじゃない?
身を呈して……なんて、今の時代じゃカッコよくもなんともないわよ。」
零「勘違いをしているわ……紅葉を先に行かせたのはね……」
アンティーク・レッド「グオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!」
零のスタンド……『アンティーク・レッド』が姿を現し、零は身構えた。
零「私の戦う姿を誰にも見て欲しくはないから。……きっと残酷で、凄惨な戦いを。」
シーチゥの頬に冷たい汗が流れた。
肌で零の覇気を感じ取ったのだ。
もしかしたらこの女は、敵の中で一番恐ろしいスタンド使いかもしれない。
そう、シーチゥは思った。
【スタンド名】
リバーサイド・ビュー
【本体】
シーチゥ(中国語の⑲「シーチゥ」より。)
【タイプ】
近距離型
【特徴】
下半身が船の形をした波打つ鎌を持つ死神
【能力】
距離を操る
自分と相手の距離を縮めて不意打ちを食らわせたり、逆に広げて攻撃をかわしたりできる
歩くのも楽になるので、本体はしょっちゅうこの能力を使っている
自分と相手の距離を縮めて不意打ちを食らわせたり、逆に広げて攻撃をかわしたりできる
歩くのも楽になるので、本体はしょっちゅうこの能力を使っている
破壊力-A
スピード-C
()
()
射程距離-E
(能力射程-視認出来る距離まで)
(能力射程-視認出来る距離まで)
持続力-E
精密動作性-C
成長性-C
―――再び杜王町商店街、路地裏。
五代衛と、紫色のスタンド『ハイ・シエラ』のスイップ・ホックが対峙している。
五代の行く手を阻むスイップ・ホックだが、道の真ん中に立ちふさがったまま、自らはいっこうに動こうとしなかった。
スイップ「忠告しておこう、五代衛。今君と私の距離はたった3mだが……これ以上は近づかないほうがいい。」
五代「……悪いがその忠告、素直に受け取るわけにはいかねーな。目的のために、俺は行かなきゃならねえ、『ワン・トゥ・ワン』!」
五代はワン・トゥ・ワンを発現させ、拳をおおきく振りかぶる。
スイップ「……後悔するなよ、五代衛。」
五代「オオラッ!!」
グオオオオオオオオオオッ!!
ワン・トゥ・ワンの拳がスイップ・ホックの顔面めがけて放たれる。
五代「腕を、『2倍』にするッ!」
しかも、ただのパンチじゃない。腕を伸ばしながらの……「ズームパンチ」!
スイップ「!」
ドグォオオッ!!
スイップ「がフッ!!」
急速にノビるパンチにスイップ・ホックはガードが間に合わなかった。
ワン・トゥ・ワンのパンチを喰らい、スイップ・ホックの体がフッ飛んだ!
五代「パンチのスピードと『2倍』にするスピード……倍の威力だぜ………」
しかし五代は自分の腕の異変に気づく。
五代「……こ、これはッ!!」
スイップ「……忠告はしたぞ五代。」
ワン・トゥ・ワンの一撃を喰らったスイップ・ホックがゆっくりと起き上がった。
スイップ「『ハイ・シエラ』、君の周りはすでに『毒』が包囲している。」
パンチを放ったワン・トゥ・ワンの……五代の腕は、紫色に変色していた。
青アザなんてものではなく、皮膚が、肉がそのまま変色し、その部分の感覚が無かった。
五代「くそッ!」
スイップ「腕に触れないほうがいい、色が変わった部分はすでに腐り始めている。」
五代「……『毒を包囲』……って言ったな。あらかた、空気に毒を混ぜるような能力か。だがな……」
五代はそばに落ちていた鉄パイプを掴み取った。
五代「俺が、ここから動かなければ問題はないんだろう?」
ブゥン!
ワン・トゥ・ワンの能力で鉄パイプを2倍の長さにし、スイップ・ホックの脳天に向けて振り下ろす!
スイップ「……ムダだ、『ハイ・シエラ』。」
バギィィン!!
ワン・トゥ・ワンの振り下ろした鉄パイプは、ハイ・シエラが軽くガードしただけで、簡単に折れてしまった。
ヘシ折ったのではなく、刃物で斬ったわけでもない。鉄パイプは、ハイ・シエラがガードした場所でバキリと折れてしまった。
五代「鉄パイプの先端が、錆びている……!」
スイップ「……腐らせるのは生物に限らない。鉄だろうが何だろうが、『ハイ・シエラ』は腐食させる。」
五代「ッチ………」
スイップ「もう、君の360度全方向に『毒』を包囲させている。……君は、もう動けないのだ。」
五代は変色した腕をだらりとさげ、ワン・トゥ・ワンの姿も消した。
五代「……………」
スイップ「五代衛……正直言うと、私は君と出くわすことが出来て幸運だと思っている。C・Rの件を聞いて私は君のことを買っていたからだ。
彼女の術中にはまって生存した者など、これまで存在しなかったからな。」
五代「……フン、そりゃありがたいことだ。」
スイップ「だからこそ……残念でならない。君が『復讐』などという目的で戦っていることがな。」
スイップ「そんな負の感情で戦っているものの末路は誰であろうと決まっている。……救われぬ、終わりだ。私はそのような者を何人も見てきている。
我々ディザスターの者に言われるのは癪だろうがな。」
五代「…………」
スイップ「改めろ、五代。そうすれば私は自ら君を毒で侵すことはしない。作戦が終わるまではこのまま包囲させておくだけにしてやろう。」
五代「……『復讐は身を焦がす』……ってことか。どこかで聞いたような言葉だ。」
五代は折れた鉄パイプを捨て、別の鉄パイプを手に取る。
五代「あいつらの前では言えないが………おれは、もう『復讐』のために戦ってはいない。」
スイップ「!?」
五代「勿論、『弓と矢の男』への恨みが消えたわけじゃねえ。ただな……」
五代は鉄パイプを目の前の地面につき立て、鉄パイプのてっぺんを両手で握っている。鉄パイプは五代よりも長く、2m30cmはある。
五代「『ワン・トゥ・ワン』。」
グィィン!
スイップ「な……五代ッ!?」
五代は鉄パイプを握ったまま鉄パイプの長さを『2倍』にし、伸びる勢いを借りて棒高跳びの要領で空中へ高く跳びあがった。
『自らは五代を毒で侵すことはしない』と言ったスイップ・ホックは、重力で毒の成分が五代に降りかかることがないよう、
五代の頭上には『ハイ・シエラ』の毒は撒かなかったのである!『ハイ・シエラ』の毒は五代の平面上のまわりにだけしか包囲させていなかった。
五代がスイップ・ホックの言葉によって気づいたか、もしくは賭けだったのかはわからない。
しかし、結果として五代は毒の包囲を脱出したのであった。
五代「四宮は……」
跳び上がった五代の体はスイップ・ホックの方向へ向かっていった。
五代はワン・トゥ・ワンを発現させ、拳を振りかぶる。
五代「 四宮は……笑って、逝ったんだ。 」
ワン・トゥ・ワン「オラァーーーーーーーーーーーッ!!」
バグァ――――――――――――ン!!
ワン・トゥ・ワンの左拳はスイップ・ホックの右頬を殴りぬいた。
ドグォン!!
スイップ・ホックの体は壁に強くたたきつけられる!
スイップ「………がふっ!」
五代「俺はそのときの四宮の顔を……どうしても忘れることが出来ねえ。」
【スタンド名】
ハイ・シエラ
【本体】
スイップ・ホック(タイ語の⑯「スイップ・ホック」より)
【タイプ】
近距離型
【特徴】
白いコートを着た紫色の人型。口を縫っている
【能力】
空間に毒を混ぜる能力
毒が混ざった空間に触れたものは、それが何であろうと触れた場所から紫色に変色し、徐々に腐ってゆく。
毒が混ざった空間に触れたものは、それが何であろうと触れた場所から紫色に変色し、徐々に腐ってゆく。
破壊力-B
スピード-B
射程距離-E
持続力-A
精密動作性-C
成長性-C
―――別荘地帯、ディザスターのアジト前。
オオオオオオオオオ!!
模「!!」
棟耶は素早く模に接近し、エル・シドの巨大な拳を振り上げる。
ガードしようとすれば、セクター9のパワーではエル・シドに押し負けるだろう。
バグォオッ!
模は迷わず身を翻して振り下ろされたパンチを避けた。エル・シドの拳はアスファルトをまるでビスケットかのように、いとも簡単に砕く。
棟耶「素早いな……。スタンドのポテンシャルというより、杖谷自身の身体能力によるものと考えたほうがいいか。」
模「…………」
模は幼いころから波紋を習うのと同時に曽祖父から体術も学んでおり、運動神経はかなりよかった。
……しかし、それだけでは強大な暴力組織であるディザスターに立ち向かうことなどは出来ない。
恐怖心に打ち勝つ精神力がなければ体は動かない。
模「フー……。」
ビシッ
模は息を整え、両手を前に構えた。……今だって模の心の中に恐怖心はある。
殴られる、蹴られる、殺される、消される恐怖……そんなものは簡単に消せはしない。
しかし模にとっては、もっと恐いことを知っているから、戦える。
模「『サウンド・ドライブ・セクター9』ッ!!」
ゴオオオオッ!!
―― 仲間の下から逃げることが、一番恐い ――
ダダダダダダダダダッ!!
棟耶に向かって模が駆け出す。
棟耶「攻撃してくるか、望むところだ杖谷ッ!『エル・シド』!!」
ゴォン!
向かってくる模を迎え撃つようにエル・シドがパンチを放つ。
模は理解していなかった……エル・シドの持つスピードを。
模自身の速さでも補いきれないくらい、エル・シドのスピードはセクター9を、模を上回っていた!
バギィッ!!
模「…………ッ。」
棟耶「…………ぐッ!」
しかし、攻撃を喰らったのはエル・シドのほうだった。エル・シドの顔面にセクター9の拳が命中した。
ワン・トゥ・ワン
模「第三の世界『倍返しの世界』……!」
エル・シドの頬を突くセクター9の腕は、少しだけ『伸び』ていた。
伸ばすスピードがパンチのスピードと重なり、瞬間的にエル・シドのスピードを上回った。
棟耶「ぐ……ガガ……だ、が、やはり……パワーは、劣るッ!『エル・シド』!!」
グオオオオッ!
至近距離でエル・シドから模に向けパンチが放たれる!
この距離ではもはやスピードなど関係ない。避けようがない攻撃……!
・・・・・・・・・・・・
棟耶「………?」
エル・シドの拳は模の腹部に当たったものの、模は吹っ飛ばされるどころか、ダメージすら受けていない。
……模にとっては、はじめから『避ける必要の無い』攻撃だったのだ。
ブラック・スペード
模「第二の世界『衝撃の世界』……。」
棟耶「なん………」
模は棟耶の腹に拳を当て、
模「返すよ、エル・シドの衝撃。」
棟耶「だとォォォ!!」
ドォン!!
棟耶「ぐふぉおおっ!!」
エル・シドから受けたパンチの衝撃を操作し、寸頸で返す。
棟耶にとってみれば、エル・シドのパンチをノーガードで受けたようなもの。そのパワーは棟耶自身が一番良く知っている。
棟耶「が……はっ……!やは……り、き、効くな…。」
模(衛藤もそうだったけど、やっぱりこいつら、かなりタフだな……。)
棟耶は模と距離を置き、一度息を整える。
棟耶「今の攻撃で勝負がついたとは、さすがに思っていないだろうな杖谷……。」
模「…………」
ここで模が追撃することができなかったのには理由があった。
模(僕は……まだ見ていない。)
棟耶「これから見せてやろう、私の本気の戦いを。」
模(『奴の能力』……僕はまだ、それを理解できていない……!)
ガシィン!!
棟耶の前でエル・シドは自分の両手の拳を突き合わせた。
模からは、その突き合わせた拳には『3つのレバー』のようなものが見えるが、それがなんなのかはわからなかった。
「本気を見せる」とは言ったものの、棟耶は立ち止まったまま動こうとはしない。
しかし、棟耶の雰囲気は模の目からは明らかに変わっているように見えた。
棟耶「どうした、杖谷。真正面からでも、真後ろからでも、どこからでも、かかってくるがいい。」
模「……………ッ。」
ドドドドドドドドドドド……
タタタッ!
模はサイドステップで棟耶と距離を置きつつ背後に回りこむが、それでも棟耶は動かないどころか、視線すら模に移さない。
模「『エル・シド』の……能力……。」
模は棟耶の能力の断片を一度だけ見ている。
杜王町へ帰り、紅葉を助けたときの西都との戦い。
西都が模から逃走して街中へ出て、五代と九堂が街中で西都を追い詰めたときに、棟耶が現れたのだ。
九堂「まさか……こいつもディザスターか!『アウェーキング・キーパー』!!」
アウェーキング・キーパー「シャアアアアアアアアアア!!!」
棟耶「無駄だ……『エル・シド』。」
アウェーキング・キーパーと九堂が棟耶に攻撃を仕掛けようと駆け寄る。
棟耶の『エル・シド』は『両の拳を合わせ』て、待ち受けていた……。
ドォ―――――z______ン!
九堂「!?」
棟耶に殴りかかろうとしていたはずの九堂だったが、気づくと九堂は棟耶の目の前で立ち止まっただけだった。
五代「模……今、ヤツ(棟耶)は何をしたんだ?」
模「わからない……僕には、九堂くんが『その場でパンチを空振って』から『ヤツに近づいた』ことしか見えなかった。」
五代「ああ、それは俺も見たが……」
九堂(なんでだ?……なんで俺、あんな意味わかんねえ行動をしたんだ?)
模(どうする……もし、あれが『エル・シド』の能力によるものなら……。)
棟耶「……………。」
模(『衝撃の世界』で衝撃を足元に移動させて牽制するか?……いや、ダメだ。もし、それすらも超える能力だったなら、
もしものときに攻撃をまともに喰らってしまうことになる。『衝撃の世界』の能力は一度使ったら連続しては使えない。やはり直接叩くしかない……!)
模「いくぞッ、セクター9!!」
棟耶の背後にいた模はそのまま棟耶に詰め寄り、エル・シドの能力が発動される前に、振り返るか振り返らないかに関わらず叩く……つもりだった。
脳でそう思考し、脳神経を通じて中枢神経へ、運動神経へ伝わり、筋肉の動きに現れる。
何分の1秒の間で脳からの幾万回の指令が伝えられ、両脚で体を棟耶のもとへ運び、腕を振りかぶらせて、そのまま突き出す。
そのはずだった。
模「…………!?」
棟耶「フフ………。」
しかし、模は棟耶の背後に近づいたところで、行動を終えてしまっていた。
そこまでの過程で、模の体は模の思考とは完全に『食い違った』行動をとってしまったのだ。
模(僕は何をした……?「棟耶に近づく前に拳を振り下ろし」、「棟耶に接近した」……?)
棟耶「君にはマネできまい……これが、『エル・シド』の能力……世界だッ!」
グオオオオオッ!!
棟耶は近づいた模のほうに振り返り、エル・シドの拳を振り下ろす!
模「!!セクター9、『衝撃の世界』ッ!」
・・・・・・・・・・・・
模はエル・シドの攻撃を『衝撃の世界』の能力でガードした。
棟耶「そう、一発の拳は止められるだろうな。……『ブラック・スペード』の能力で。」
模「!」
棟耶「だが……二発目の追撃はどうだッ!!」
エル・シドはもう一方の拳を模に振り下ろす!
『衝撃の世界』……『ブラック・スペード』の能力は、連続しては使えない!
模「――――――――ッ!!」
棟耶「…………ム?」
棟耶が放った二発目のパンチは、模の体に触れたまま止まった。
模は棟耶の攻撃に身を硬直させ目をつぶっていただけだったが、おそるおそる目を開けて、自分の体に何も起こっていないことを確認する。
棟耶「なぜだ……連続しては使えないはず……。」
そのとき、棟耶の背後に人影が現れた。
*「……そう、『衝撃の世界』ひとつじゃあ連続して使えない。」
そのハスキーな声は……仲間の窮地に馳せ参じた、気高き女性のものであった!
紅葉「『ブラック・スペード』ッ!!」
グオン!
棟耶「ガ、ガードしろッ、『エル・シド』!!」
バシィイン!!
棟耶「ヌ………。」
背後からのブラック・スペードの攻撃に棟耶は振り返ってからの攻撃は間に合わず、かろうじてガードするので精一杯だった。
模「く、紅葉………!」ダッ
模は棟耶から距離をとり、紅葉は模のもとへ駆け寄る。
紅葉「危なかったじゃない。……間に合ってよかった。」
模「零さんや九堂くんは?」
紅葉「九堂と陸さんは『ヴァン・エンド』を探してるはず。零さんは途中で敵と出くわして、私を先に行かせてくれた。」
模「……そうか。よし、じゃあ二人で協力してこいつを……」
紅葉「いいや、模。あんたは五代とアッコを援護しに行って。」
模「え!?」
紅葉「忘れないで、今優先すべきことは『ヴァン・エンドの捜索』と『移転先の特定』のはず。この男を食い止めるには一人いればいい。
模はヴァン・エンドの顔を見ているはず。ここは私に任せて。」
地に膝をついていた棟耶がゆっくりと立ち上がりはじめた。ガードしたとはいっても、多少のダメージは負ったようだった。
紅葉「行くなら今しかない。早く行って!」
模「でも……」
紅葉「大丈夫、零さんもすぐに敵を倒してここに来てくれるはず。」
模「…………」
紅葉「……みんな、『杜王町でいっしょに』戦っているんだ。行け、模。」
模「………わかった、頼んだよ。」
紅葉「任せといて。」
ダッ!
模は紅葉と棟耶のもとから、アッコが降りていった方向の道へ向かった。
紅葉「…………。」
紅葉は体を棟耶のほうに向けたまま、横目で模が道を降りていくのを見送った。
模の姿が見えなくなったところで視線を戻すと、すでに棟耶は起き上がっていた。
棟耶「いいのかな一之瀬紅葉。……ひとりで戦おうなどとして。今、君は私の能力を見ていたはずだ。」
紅葉「……どーだろうね。チョットカッコつけてみたかっただけだから、勝てる確証なんかないんだけど。」
紅葉はブラック・スペードを発現させ、身構えた。
紅葉「……さあ、おいで。アンタは私が相手になってやる。」
この戦いが別の意味で紅葉に「衝撃」をもたらすことになることを
紅葉はまだ、知らない。
【スタンド名】
エル・シド
【本体】
棟耶輝彦(トウヤ テルヒコ)『ディザスター』幹部。
【タイプ】
近距離型
【特徴】
黄色を基調とした鎧を纏った人型。
【能力】
時を「ぶれさせる」能力。
時が「ぶれる」ことによって、1秒後に起きる事象とそのさらに数秒後起こる事象の順番が入れ替わる。
例えば、「三人の男に襲撃された剣士」が、初斬で「Aを斬って」、次に「Bの攻撃を剣で防ぎ」、次に「Cに蹴撃を加える」と言う順序なら、
Bは攻撃を開始していないのに、二番目の工程たる「Bの攻撃を剣で防ぐ」を先に行わせることが可能。
時が「ぶれる」ことによって、1秒後に起きる事象とそのさらに数秒後起こる事象の順番が入れ替わる。
例えば、「三人の男に襲撃された剣士」が、初斬で「Aを斬って」、次に「Bの攻撃を剣で防ぎ」、次に「Cに蹴撃を加える」と言う順序なら、
Bは攻撃を開始していないのに、二番目の工程たる「Bの攻撃を剣で防ぐ」を先に行わせることが可能。
破壊力-A
スピード-A
射程距離-D
持続力-E
精密動作性-B
成長性-D
杜王町、街中の路地裏。
上半身を壁にもたれて倒れているスイップ・ホックの前に五代が立っていた。
スイップ「グフッ……迂闊だった。確かに、真上に脱出路はあったが……盲点だったか。」
五代「奴は、『弓と矢の男』はどこへ行った?お前は知っているはずだ、連中の目的地を。」
スイップ・ホックは少し五代の眼を見て、口をゆがませてフッと笑った。
スイップ「………いいだろう、教えてやろう友よ。」
顔を上げて、路地裏から表の道へ出る方へ視線を向けた。
スイップ「……ここから少しだけ"看板"が見える、あの建物だ。名前を何と言ったっけ……。」
五代はスイップ・ホックの視線の先を見て、その"看板"を確認する。
……それは、杜王町の住民には馴染みのある建物だった。
五代「『カメユーマーケット』……!!」
スイップ「ああ、そうだ。そんな名前だ。……タイミングが良かったな。廃業したあのデパートを
ディザスターの息のかかった外資ファンドに買い取らせた。『もしものための』次の拠点としてな。」
五代「……なるほどな。」
スイップ「まだ建物を『確認』できるということは、ヴァン・エンドはまだ到着していないか、
幹部とボスの移転がまだ終わっていないということだろうが……急いだほうがいい。」
五代「…………」
スイップ・ホックは敵であるはずの五代に移転先の場所、作戦の状況まで教えた。
その中に嘘はひとつもなかった。
五代「……なぜ、話したんだ?わざわざ話すメリットもないだろうに。」
スイップ「なに……君がほんとうに復讐に命を燃やすような男であったなら、全力で叩き潰してやっただろう……。
だが、どうやら君は違ったようだ。いま、君の中で、君の友人の死が復讐とは別の形をつくろうとしている。」
スイップ・ホックは顔を上げて、路地裏の狭い空を見上げる。日はすでに沈み、真っ黒な空に幾多もの星が煌いている。
スイップ「私はこの組織に身をおいて、さまざまな者と戦い、殺してきた。命をかえりみず最期まで抵抗し戦う者、許しを請う者、
死を前に聖人のように悟った風な者、仲間を裏切り自らは助かろうとする者……。
だが、君はどれとも違うようにも思える。」
五代「何が言いたいんだ。」
スイップ「私はね、見てみたいんだ。これから君が、君の真の敵を前にしてどのように戦うのかを。……ならば私は道を拓こう。」
五代「……そうか、そりゃありがとよ。」
五代は壁にもたれかかるスイップ・ホックに背を向け、カメユーマーケットのある通りに向かって歩みを進めた。
……そこで、スイップ・ホックは五代に向かい、彼への言葉をつづけた。
スイップ「『メメント・モリ』……五代、君にこの言葉を贈ろう。私の好きな言葉だ。」
五代は足を止め、スイップ・ホックに背を向けたまま言葉に耳を傾ける。
スイップ「私の戯言だ……。意味がわからなくても、それでいい。」
五代「………」
スイップ「私はここで、君の健闘を祈るよ。」
五代は振り返らず、再び歩みだした。
スイップ・ホックは壁にもたれかかったまま、ハイ・シエラを発現させる。
スイップ「なあ、ハイ・シエラ。敵を見逃しただけでなく、移転先への道案内をした私を組織は許してはくれないだろう。
だが、私は後悔していないよ。私はディザスターの理念に心から賛同している。腐った世界を支配する者たちを粛清し、
『無法・無政府・無秩序』の……原始的で、純粋な世界に一度戻さねばならない。
……しかしそれは、彼らのような、純粋に町を守ろうとする彼らを淘汰することとは違うような気がするんだ。
彼らのような純粋な希望と、我らではどちらが強いのか?……私は、第三者の目で見てみたい。
そのために私が、彼らがボスたちと戦うための踏み台となることはいとわない。……そして、その役目は終わった。」
ハイ・シエラがスイップ・ホックの眼前で手を合わせ、ゆっくりと広げていく。
ハイ・シエラが空間に毒を混ぜるときと、同じ動作だ。
スイップ「 少し眠ろうか、ハイ・シエラ……。 」
【杜王町内、路地裏の戦い】
○ 五代衛 - スイップ・ホック ×
to be continued...
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