オリスタ @ wiki

第七章『血道の世界』その②

最終更新:

orisuta

- view
メンバー限定 登録/ログイン




五代が路地裏から出てきたとき、ちょうど、九堂と陸と鉢合わせた。

九堂「あ、五代!……ってうわっ!なんだ、その腕!!」

五代の腕はハイ・シエラの毒に侵されて変色したままだった。

五代「……さっき敵と出くわしてな。」

九堂「倒したのか?」

五代「…………ああ。」

陸「『スペア・リプレイ』、治せるか?」

スペア2「腕ガ無クナッタワケジャネーンナラ、問題ナイゼ!!」

陸「よし、じゃあ五代の腕を治せ!」

スペア1・2・3「「「オッケーイ!!!」」」


バシィ――――――z________ン!




スペア・リプレイの治療はあっという間に終わり、五代の腕の腐食はきれいさっぱり治った。


五代「流石だな。」

陸「ハハ、スペア・リプレイをナメんなよ。」

九堂「それで……ヴァン・エンドはどこに行ったのかわかったのか?」

五代「……ヴァン・エンドは模か温子が追ったはずだが……それよりも、奴らの目的地……移転先がわかった。『カメユーマーケット』だ。

   ヴァン・エンドを探すよりも、カメユーマーケットに行ったほうが得策だろう。そこには『弓と矢の男』もいるはずだ。

   模や温子、零さんにも伝えたほうがいいだろう。」

陸「……イヤ、ダメだ。連絡は取れない。たった数分前に無線で通信してみたんだが、

  無線機を持ってる零さんにも、模にもアッコにも連絡が取れなかった。通信できる状況にないと思う。」

九堂「どうする?俺たちがとれる行動は3つだ。『カメユーマーケットに向かう』、『別荘地帯に行って模に加勢する』、

   『ヴァン・エンドを探しているアッコに合流する』……。」

五代「俺は当然、カメユーマーケットへ向かう。」

九堂「まあ……おまえはそうだよな。どうする、陸さん?」

陸「……オレたちもカメユーマーケットに行こう。エリックによりゃあ、敵スタンド使いは7人なんだろ?

  1人は五代が倒し、模、アッコ、零さんがばらばらになって連絡が取れないってことは3人がそれぞれ戦っているはず。

  そうすると残りは『ヴァン・エンド』、『弓と矢の男』と、あと一人……おそらくは『ディエゴ・ディエス』ってことになる。

  最悪3人が固まっていることを想定したら、こっちも固まったほうがいい。」

九堂「……そりゃ、そうだな。模の加勢には零さんと紅葉が向かってるし、ヴァン・エンドもカメユーマーケットに向かってるはずだしな。」

五代「……決まったら、さっさと行くぞ。」

五代、九堂、陸の3人はカメユーマーケットに向かって走り出した。



現在の状況


模   :別荘地帯からアッコに合流するため杜王町の街中へ。

五代  :路地裏で『スイップ・ホック』と交戦後、九堂と陸に合流。

アッコ :山道で『アリーナ・シュゲット』と遭遇し、戦闘中。

九堂・陸:街中で五代と合流。ディザスターの目的地である『カメユーマーケット』へ向かう。

零   :別荘地帯へ向かう途中で『シーチゥ』と遭遇し、戦闘中。

紅葉  :別荘地帯で棟耶と交戦中の模と遭遇し、模を街中へ行かせて、『棟耶輝彦』と戦闘中。





―――別荘地帯と杜王町の住宅地をつなぐ山道。


バギィィン!!

鉄の鎖がアスファルトにたたきつけられ、鈍い金属音があたりに響く。

アッコとディザスターのスタンド使い……『ホンキー・トンク・ウーマン』のアリーナ・シュゲットの戦いが続いていた。


アッコは道路の中央で『ファイン・カラーデイ』を手に持ったまま、アリーナと距離を置いている。

アッコ「……………」


アッコの周りのアスファルトは、砕かれた跡が数多く見られる。

そのすべてはアリーナのスタンド攻撃によるものだった。

アリーナ「フフ……どうしたの?さっきから私の『鎖のムチ』の攻撃をよけてばかりじゃない。」

アッコ(アイツの攻撃……速くテ、重イ。一度でも喰らっタら、大キナダメージをクラう。)

アリーナ「でも、息は切れていないみたいね。……ほんとうに機械の体なのかしら?信じがたいことだけど。」

アッコ(………今のままジャ、よけ続けるシカない。『ファイン・カラーデイ』が、光リ輝くまでハ……。)


アッコの『ファイン・カラーデイ』は剣のスタンドである。

しかしそれは日本刀のような、細くて斬れ味を重視したものではなく、西洋剣のように刀身が長く重さのあるもので、

その用途は捌くように斬るというよりは重さを利用して叩き斬るというほうが向いていた。


アッコ「集中シ続ければ……いずれチャンスは来ル。」


しかし、アッコの闘争心が高まり、集中できるようになると『ファイン・カラーデイ』は変化を見せる。

刀身が晴れの日の太陽のように光り輝き、剣が軽くなる上に最高の斬れ味を持つようになるのだ。

光り輝く『ファイン・カラーデイ』が斬れるものに例外は、ない。



アッコ「クっ!」バッ!

バギィン!

アリーナ「……ほんと、素早いわねえ。正面から『鎖のムチ』を放つだけじゃ当たらないかしら。

     でも、今のままじゃあなたにも勝ち目は無いわよ?急いでるんでしょ?」

アッコ「チクしょう………。」


アリーナ「私はあなた達を足止めさせればいいだけ。でも、あなたには一刻の猶予もないのよね?

     もしかしたら、『ヴァン・エンド』はもう目的地についてしまってるかもしれないわねえ?」

アッコ「ソウだ、このままジャ埒があかナイ……!」


バッ!

アッコがアリーナに向かい駆け出した!

ファイン・カラーデイはまだ、ただの西洋剣のままだ。


アリーナ「………ッ、接近戦に持ち込むつもりかしら!?」

アッコ「今マデのアンタの行動デわかッタ……アンタのスタンド能力ハ『鎖を生み出す』コト……『鎖を操る』コトじゃあナイっ!」

アリーナ「それがどうしたというの!」

アッコ「それナラ簡単ナコト……『臭いは元から断て』……『ムチは、根元から断て』ッ!」


ゴウッ!!

アッコは急速にアリーナの懐に近づいた!







アリーナ「うッ!」

ガシッ


不意をつかれたアリーナは反射で『ホンキー・トンク・ウーマン』にアッコの左腕を掴ませた。

しかし、アッコがファイン・カラーデイを持っていたのは右手!

アッコ「おおオラぁッ!」


ブォン!!

剣がアリーナの左肩めがけ振り下ろされる!



ガギィィッ!!

アッコ「…………ッ。」

アリーナ「……危なかった。」


ファイン・カラーデイはホンキー・トンク・ウーマンの左腕に止められた。

アリーナのスタンドは腕や脚に鎖を巻きつかせており、その鎖でアッコの剣を受け止めたのだ。

アリーナ「『ホンキー・トンク・ウーマン』!」

アッコ「!!」

バッ!


ホンキー・トンク・ウーマンは近距離型のスタンドだ。

接近戦を持ち込んだところで、アッコが先制できなければその後は力で押し負ける可能性が高い。

アッコはホンキー・トンク・ウーマンの攻撃を警戒し、バックステップで距離をとった。……しかし。



ジャラッ



アッコ「…………!」

アッコは自分のとった行動を後悔した。……攻撃を喰らおうが、食い下がって追撃するべきだったのだ。

その理由は……その鈍い金属音が示していた。


アッコ「コノ……『鎖』はッ!」

アッコの左腕から、長い鎖が垂れていたのだ。

そして、そのだらんとさがった長い鎖の先は……ホンキー・トンク・ウーマンの右手に握られていた。



ドドドドドドドド……

アリーナ「私の『ホンキー・トンク・ウーマン』の能力は、あなたの言うとおり『鎖を生み出す』こと……たったそれだけよ。

     だけれど、私の鎖は『どこからでも』生やすことができる。それがたとえ……ヒトの体でも。」







グィィッ!

アリーナがアッコの左腕から生えた鎖を強く引いた。

アッコ「オ……おおおおッ!?」グイン!


ドシャッ!

アッコの体はアリーナのほうに引っ張られ、バランスを崩してアッコは倒れてしまった。

アッコ「ウ……。」

アリーナ「ウフフ……まるでリードに繋がれたワンコのようね、温子……。」


アッコ「クッソ、剣が光らナクても、こんな鎖くらイ……!」

アッコが、ファイン・カラーデイを振りかぶろうとしたその時……



アリーナ「そして……これが『もう一つ』の能力……!」


ジャラララッ!!

アッコ「ウわっ!?」


アッコの左腕から伸びた鎖が……ホンキー・トンク・ウーマンの手のひらに吸い込まれるように、どんどん短くなっていく!

だらんと垂れていた鎖はしだいに張り詰めていき……!


ザザザザザザッ!!

アッコの体は……アリーナのほうへ左腕から引きずられていった!


アッコ「ま、マズイってこりゃア……!」

アリーナ「『ホンキー・トンク・ウーマン』!!!」


ドゴォォッ!!

近づいてくるアッコに合わせ、ホンキー・トンク・ウーマンの強烈なパンチが放たれた!!


アッコ「グ……あ……ガ……!」
バギバギバギッ

その重いパンチは横っ腹に打ち込まれ、アッコの体の内部から何かが割れて壊れるような、鈍い音がした。

アッコ「ぐぐ……ぐ……」


アリーナ「私の『鎖』は、生やした後でも自由に長さを変えられる。言わば手錠のようにあなたの自由を奪うことができる……!」

アッコはお腹を抱えてうずくまった。

体の半分以上が機械でできているアッコに痛みというものはない。

しかし、強い衝撃で内部が損傷を受け、不快な軋みをあげることがアッコにとっての『痛み』だった。






【スタンド名】
ホンキー・トンク・ウーマン
【本体】
アリーナ・シュゲット(スウェーデン語の21「シュギエット」より。)

【タイプ】
近距離型

【特徴】
女性的な体つき。チェーンなどの金属がジャラジャラ付いている。

【能力】
殴った二ヶ所の間に「チェーン」を作り出す。
「チェーン」の強度は近距離型スタンドでも引きちぎれないほど強い。
「チェーン」の長さは作った後でも自由に変えることが出来る。

破壊力-A
スピード-A
()
射程距離-E
(能力射程-A)

持続力-D
精密動作性-C
成長性-D






―――杜王町海岸沿いの道路。


桐生零と『リバーサイド・ビュー』のシーチゥが対峙していた。

リバーサイド・ビューの鎌が零の体に傷をつけられないのを見て、シーチゥが攻められずにいたのだ。

シーチゥ「何者なのよ、この女……。」

零「…………」


今の模たちの目的は、『ヴァン・エンドを見つけること』と、『ディザスターの移転先を特定すること』なのだが、

実はこのときすでに五代によってディザスターの移転先は割れていたのだ。

よって、ヴァン・エンドを見つけることはさほど重要ではなくなったのだが、

通信機を持ってはいるが通信できる状況にない模とアッコと零、そして通信機を持っていない紅葉には知る由が無かった。

したがって、この零を含む4人にとっての目的ははじめの2つから何も変わっていない。


そのため模、アッコ、零、紅葉にとっては、敵に足止めされぬように戦いはできるだけ避けなければならなかった。


しかし今の零の場合では、それとは逆だった。

零(さっき、この女は遠い場所から一瞬で距離を詰め、私を攻撃した。

  ……もし、攻撃を受けたのが私でなかったら、紅葉だったなら、間違いなく重傷……運が悪ければ死んでしまったかもしれない。)

シーチゥ「………チッ。」

零(この女を、私のほかの仲間達に接触させるのは非常に危険……!ここで、私が倒す必要がある。)

シーチゥ「……私の歴戦のカンが告げてるよ。私とアンタの相性は……サイアクみたいだ。」

零「歴戦ねぇ……。それほどキャリアがあるようには見えないけど。ただ、私にとってはかなり幸運だったみたいね。」

シーチゥ「冷静になって考えれば……私に楽しむ余裕なんてない。」

零「そうかしら。」


シーチゥ「『リバーサイド・ビュー』!!」

グオンッ!


シーチゥのスタンド……リバーサイド・ビューが姿を現した。

鎌を持った死神が乗っている船にシーチゥも乗り、零を見下ろした。

零「なんのつもり……!」


シーチゥ「決まってるでしょ、『逃げる』のよ。………もとい、『別の誰かのところへ行く』。」

零「なんですって……」

シーチゥ「つかまえられるなら、つかまえてみな!『リバーサイド・ビュー』!!」

グィーン!


リバーサイド・ビューはシーチゥを乗せたまま、零の目の前から10mほど先の電柱まで一瞬で移動した!

零「くッ……!逃がすわけにはいかない!」

零はシーチゥを追って駆け出した。


グィーン!

シーチゥは零が近づく度に再び10m先へ移動し続けていった。


シーチゥ(敵前逃亡なんて……ディザスターでは御法度よ。ならば……あの女を『倒しうる場所』まで、誘導するのみ……!)

零は逃げていくシーチゥを追って走り続けた。


その方向は奇しくも紅葉が向かった先と同じ、別荘地帯への道だった……。







―――再び、別荘地帯と杜王町の住宅地をつなぐ山道。


うずくまっていたアッコがゆっくりと立ち上がった。

左腕の鎖はまだつながっていたままだ。


アッコ(……現状確認。四肢に影響ナシ、内部は……ちょっと、損傷あるカモ。)


アリーナ「あの攻撃で立ち上がれるのね。……機械の体なんて、ダメージがあるのかないのかよくわからないわ。」

アッコはその場でトントンッと軽くジャンプした。……今のところ、体に影響は見られない。

アリーナ「まあ……動けなくなるまで、壊せばすむ話ね。」

アッコ「コレ以上ハ……やらせはしなイッ!」

ダッ!


アッコはアリーナに向かって走り出した!

アッコ「離れてテモ鎖に引っ張らレルのなら……近づくコトだけ考えレばいい!」

アリーナ「フ、フフ……そうね、近づかれたら、あなたの体から生やした鎖は意味を持たなくなる。」

アッコ「コンドは、防がせない!『ファイン・カラーデイ』!!」



ゴオオオオッ!!

アリーナ「でもね……だからといって、私が迎え討つとは限らないわ。」

アリーナは剣を振りかぶったアッコが近づいてくる前に、自分の真上に垂れ下がった鎖を手に取った!

その鎖は……道路を覆う林の太い枝から垂れ下がっていたものだ。

アリーナ「この鎖を短くしなさい、『ホンキー・トンク・ウーマン』!」

ガララララララララッッ!!


頭上の枝から下がった鎖がウインチで巻き上げられるように短くなっていき、アリーナの体を吊り上げていった。

アッコが駆け寄ったときにはアリーナは頭上の木の枝に登っていた。


アリーナは不敵な笑みを浮かべてアッコを見下ろした。

アッコ「何のツモリだよ。もう戦ウのはヤメたのカ?」

アリーナ「……ええ、そうね。もう戦うのはやめたわ。……これから始まるのは、一方的な『蹂躙』よ。」

そう言うとアリーナはホンキー・トンク・ウーマンの右手を下方にかざした。

右手から生えた鎖は真下にぶらりと垂れ下がり、アッコの左腕につながれたままだ。そして……


アリーナ「さあ……覚悟なさい、林原温子。」

キリキリキリキリキリ……

アッコ「!!」


アッコとホンキー・トンク・ウーマンの右手をつなぐ鎖がどんどん短くなりはじめた!

鎖は金切り声を上げながら手のひらに吸い込まれていった。

アッコ「テメエ、まさか……」

ホンキー・トンク・ウーマンはあいた左手で木の幹にしっかりとしがみついて体を固定させていた。

鎖はしだいに張り詰めていく……。

アリーナは、アッコの体を吊り上げるつもりなのだ。







アッコ「クッ!」

アッコは右手で鎖をつかみ、腰を下ろして足で強く踏ん張った。

しかし、それでもアッコの体は少しずつ引っ張られていく。


アリーナ「無駄無駄。鎖はパワーで引っ張ってるんじゃない、能力で引っ張っているのよ?だいいち、上からの力に対して足で踏ん張ってどうするのよ。」

アッコ「ク、クソ……」

ググググ……


アッコの体の真上から垂直に下がった鎖はついにアッコの体を吊り上げはじめた。

母親が幼子の手を引くように、アッコは鎖のつなげられた左腕にぶら下がる形で引っ張りあげられた。


アッコ「ファイン………カラーデイ!」


ギンッ!  ガッ!


アッコは剣を鎖にたたきつけてちぎろうとするが、券を当てるたびに鎖を揺らすだけで、鎖にはキズひとつつかなかった。

アリーナ「無駄だってえ温子。私の鎖はスタンドにだってちぎることは難しいのよ?」

アッコ「ウウ……」

ホンキー・トンク・ウーマンはアッコにつながれた鎖を引き上げ続けていて、すでにアッコの体は8mほどの高さまで吊り上げられていた。


アリーナ「ねえ、温子……機械をこわすのにもっとも手っ取り早い方法はなんだと思う?」

アッコ「…………」

アリーナ「『水をかけてショートさせる』……これもひとつの手段ね。でも、水をかけただけじゃすぐ壊れたかどうかわからないし、

     壊れててもしばらくは動くこともある。防水加工されていたら、意味もない。

     ………あなたの場合、雨の中で動けなくなることはないわね。」

アッコの表情が曇った。

アッコはおそるおそる目を下に向けた。


……目測で3階の窓から見下ろすほどの高さがある。


アリーナ「……あるいは『強い衝撃を与えること』。」

ジャラララララララッ!!

アッコ「!!」


ホンキー・トンク・ウーマンの手から、今まで引き上げていた分の鎖が勢いよく吐き出された!

アッコの左腕から生えた鎖は支えを失い、アッコの体は地面に急速に向かっていく!


ドグアッ!

アッコ「ぐあッ……!」


アッコは腰から地面に落下し、強く体を叩きつけられた。

全身にビリビリと衝撃が走り、視界がかすんだ。


アリーナ「シンプルかつ手っ取り早い方法がこれ。……しかも、『殴る』『蹴る』ではなく、『落とす』ほうが、全体に衝撃がいきわたりやすいのよね。」







アッコ「く……そお……」


アリーナ「……まだ、終わりじゃないわよ。『ホンキー・トンク・ウーマン』、引き上げなさい。」

アッコ「!!」


アッコの左腕の鎖は、まだつながれていたままだった。

キリキリキリキリキリ……



ホンキー・トンク・ウーマンがアッコの体をふたたび引き上げはじめた。

ゆっくり、ゆっくりとアッコの体は鎖に持ち上げられていく。


アリーナ「……あなたに痛みはないとしても、『恐怖』はどうかしら?

     感情をもち、自ら考えるあなたには、『自分の体が壊れて、思い通りに動けなくなる』おそろしさを想像することができるはず。」

アッコ「…………ッ。」

アリーナ「一回落とされただけじゃあ壊れることはないでしょう?何回落としたら、あなたは壊れるのかしら。」


キリ……


アッコの体は再び地上から8mほどの高さまで持ち上げられた。

アッコは遠く離れた道路のアスファルトを見下ろす。

……その、直後。



ジャラララララララッ!!


ドガッ!!!

アッコ「………ぐぅッ!」

バギパキッ


またも、地上高くから落とされた。

……今度は、衝撃だけじゃなく明らかに体の中で何かが壊れる音が聞こえた。



アッコ「ああああっ……」

アリーナ「まだ、話せる余裕は残ってるようね。」


キリキリキリキリキリ……

アッコ「ま、マタ……」

アッコの体が左腕につながれた鎖にゆっくりと持ち上げられていく。

非常に、ゆっくり、ゆっくりと。


キリキリキリキリキリ……

持ち上げられてしまっては『ファイン・カラーデイ』も効かない以上、アッコに抵抗する術はない。


アリーナ「私の鎖……やろうと思えば吐き出すのと同じくらいの速さで吸い込み、短くすることだってできるのよ。

     それなのに、なぜゆっくり引き上げてるかわかる?」

アッコ「…………」

アリーナ「恐怖心を煽るためよ。……恐怖というのは、それを引き起こす事象が起こる直前までの感情。

     パッ、パッとやってしまうと恐怖心は沸きたてられない。

     ジェットコースターと同じよ。恐怖の頂点にたどりつくまではゆっくり……ゆっくりとね……。」

キリキリ……キリ……

鎖の巻上げが止まった。アッコの体は宙にぶらさがったまま、動きを止めた。


アリーナ「さあ……いつ落ちるか、あなたにはわからない。とても恐いでしょう?待ち続けるというのは……。」

アッコ「…………ウウ……。」

アリーナ「恐怖に支配されたあなたに、勝ち目はない。」


ジャララララララッ!!

ドガッ!!


ホンキー・トンク・ウーマンの右手から鎖が吐き出され、アッコの体は背中から地面に落ちた。







アッコ「……………」


アリーナ「今度は、うめき声さえも聞こえなくなったわね。壊れたかしら?」

アッコ「………ッ。」

仰向けに倒れたアッコの指がわずかに動いた。

アリーナ「……まだ、動くようね。壊れるまで、私はあなたを再び引き上げて再び落とすわよ。また、こわい時間がやってくるわね。」

アッコ「…………」

しかしアリーナは引き続き鎖を引き上げようとはせず、アッコを見下ろして話しだした。



アリーナ「『取引き』をしましょう、林原温子。……これ以上恐怖を味わいたくなかったら降参なさい。

     そうすれば、両脚を壊すくらいにして命は見逃してあげる。……命ってのがあなたにあるのかはわからないけど、

     両脚くらいなら壊れても大丈夫でしょ?歩けなくなるけど。」

アッコ「…………」

アリーナ「………反応が無いわね。ほんとに壊れたのかしら?」




アッコ「………壊レちゃいない……」

アリーナ「……あら。」


アッコはよろめきながら、足を踏ん張って立ち上がり、アリーナを見上げた。


アッコ「壊レちゃいナイよ……あたしノ『心』は!」





アリーナ「取引に応じる気はないようね。……いいの?このままじゃあなた、壊れて死んじゃうのよ?」

アッコ「それデモ構わなイ……あたしがアンタの足止めをシテいる間、他のミンナが少シでも『ヴァン・エンド』に追いツケられるのなら!」

アリーナ「………ふうん。」


アッコ「このミがどうなロウと……あたしはミンナを守りタイんだッ!」


アリーナ「……けっこうな心構えね、機械のくせに。」

アッコ「壊しタイんなら、壊セ。恐怖心を煽リたいんなら、ソウすればイイ。

    ゆっくりと時間をカケればカケるホド、アンタを食い止められるジカンは長クなる!」


アリーナ「……開き直っちゃって、つまらないわねえ。……それなら、時間なんかかけずにさっさと引き上げてさっさと落とすまでよ。

     『ホンキー・トンク・ウーマ……」

バギッ!

バギバギッ


アリーナ「んッ!?」

そのときであった。

アリーナの足元の枝が、根元からゆがみ、音を立てて折れはじめたのだ!







アリーナ「な、な、な……ちょっと、なんで折れるのよ?私そんなに重くないわよ!」


ドジャァァ……

アリーナの立っていた枝はその重みで根元からちぎれ、地面に落ちた。


アッコ「………?」

アリーナはわずかに残った枝の根元に片足をのせ、木の幹に抱きつくようにして身を支えた。

アリーナ「む、むこうの枝か鎖に飛び移らないと……」


バヂィッ!

アリーナ「きゃあッ!」


木の幹を抱きかかえるアリーナの手元で木の表面が小さな爆発をおこしたように弾け、アリーナは手を離してしまった。

アリーナ「あっ、あっ、ああっ……」

ズルッ

アリーナ「あああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」


ドジャァアアッ!!

バランスを崩したアリーナは、先ほど落ちた枝の上にまっさかさまに落ちてしまった。



アッコ「な、ナニ………?」


模「僕も同じ気持ちだよ、アッコ。」

アリーナの立っていた木のカゲから、模が姿を現した。

アッコ「バ、バク!」


模「だけど、ちょっとだけ違う。

  ……みんなを守りたい。でも、こいつらのためなんかに命を投げ出す必要は無い。」


アリーナ「ぐ……くぅ………杖谷…模……?」

アリーナは落ちた枝がクッションとなり、致命的なダメージはなかったが、それでも相当な深手を負った。


模「『みんなを守るために、みんな戦ってる』んだ。……だったら、誰一人死んじゃいけないんだ。」

アッコ「………ソウダネ。」

模「…………」

アッコ「バク………ありがと。」




アリーナ「ウッ……クッ、クックッククク……殺す、こいつら、ぶっ殺す!!」

落ちた枝の上から、体中血まみれのアリーナが起き上がってきた。






【名前】
林原温子
【身長】
155.0cm
【血液型】
不明

【好きな食べ物】
リクねえちゃんのつくったトンカツ
【嫌いな食べ物】
しいたけ

【趣味】
昆虫採集
【好きなマンガ】
『金色のガッシュ!!』『ワンピース』

【スタンド名】
ファイン・カラーデイ
【タイプ】
装備型

【特徴】
剣のスタンド。

【能力】
普段は単に頑丈な剣。しかし本体の闘争心が高まり、
このスタンドが光輝く時、物質、霊体、スタンド、エネルギー、空間、あらゆるものを切断する。
光の粒子へと分解する。但し相当スタンドパワーを消費する為、連発できない。

破壊力-B~∞
スピード-A
射程距離-E

持続力-E~A
精密動作性-B
成長性-C







――再び、別荘地帯。ディザスターアジト前。

紅葉「……さあ、おいで。アンタは私が相手になってやる。」


時間は前後して……紅葉が模を見送った直後、紅葉は目の前の棟耶輝彦に対し戦闘体制をとった。

棟耶「『おいで』……とはまァ、強気に出たものだ。」

棟耶は首と腕をまわして関節をポキポキ鳴らせながら、アジトの扉の前に立った。


棟耶「いささか、思い上がりが過ぎるのではないか一之瀬紅葉。私の能力……まったく知らぬわけではあるまい?」

紅葉「……知らないよ。アンタのつまらない能力なんかな。」

棟耶「フン、その強気がいつまで続くかな。……とはいえ、おまえは私の能力のすべては知らない反面、

   私はお前のスタンド能力だけでなく、パワー、スピードまでも把握している。おまえにはハンデが大きすぎるな?」

紅葉「…………別に。」

棟耶はその場で振り返って、白亜の建物……ディザスターのアジトの扉を開いた。

棟耶「紅葉、君を我らの屋敷へご招待しよう。屋内のほうがおまえにとっては戦いやすかろう?」

紅葉「…………」

棟耶「警戒しているのか?もはや本拠地移転の作戦が始まっているのだ。心配せずとも屋敷の中にスタンド使いはだれもいない。

   ……ま、おまえが拒もうがどうしようが、私は中へ入るがね。」


棟耶の言うとおり、紅葉の『ブラック・スペード』の能力……「衝撃を操作する能力」は屋外より屋内のほうが、壁や天井を利用できて扱いやすい。

とはいえ、棟耶が招きいれようとしているのは敵の巣穴。どんな罠が待ち受けているかわからない。

ここは棟耶と屋外で戦うように仕向けるか、この場所を離れ、模たちに合流するのが得策だ。それを紅葉もわかっている。……しかし。


紅葉「いいよ、案内してちょうだい。」

紅葉は中へ入ることを選択した。

その理由には、模に「まかせて」と言ったこともあったが、一番大きかったのは……もっと別のところにあった。


建物の中に消える棟耶を追い、紅葉も建物の扉のほうへ向かった。

紅葉(なんというか……こいつだけは私が戦わなければ、倒さなければいけない気がする……。)


それは、ただの直感に過ぎなかった。

しかしそのただの直感には、心許ないながらも、裏づけがあった。


紅葉(あの棟耶という男……『どこかで会ったような気がする』のはなぜだろう?最近じゃなく、もっと、前に……。)


そんな違和感を抱いたまま、紅葉は扉から建物の中へ入った。

紅葉は一人でディザスターのアジトに乗りこんだ。







―――再び、別荘地帯と杜王町の住宅地をつなぐ山道。

アリーナ「コッ、コロス!殺してやるよ!!鎖で、殴り絞め吊り殺してやる!!」


模「アッコ、動ける?」

アッコ「……ウン、大丈夫。ケッコウ、丈夫にできてるカラ。」

模「そっか……でも、少し僕に任せてて。」

アッコ「エ?」


アリーナ「『ホンキー・トンク・ウーマン』!!」

ゴオオッ!!


アリーナはスタンドを繰り出して、模へ向かって突っ込んでくる!

アリーナ「ホンキー・トンク・ウーマン、鎖のムチ!!」

グオオオオオオオオオ!!


アリーナのホンキー・トンク・ウーマンは、生み出した鎖を振りかぶって、模の頭上めがけ振り下ろした!

アッコ「避ケろ、バク!」
                               ハーミット・パープル
模「サウンド・ドライブ・セクター9……第四の世界、『いばらの世界』!!」

バチバチバチバチバチ!!

アリーナ「!!」


模「そんな攻撃……僕には通用しないッ!」


模の生み出した『いばら』は、鎖の輪っかのひとつひとつに瞬時にからみつき、その動きを止めた。

アリーナ「くそっ……鎖が、動かせない!」

模「さあ、次はどうするんだ!?」

アリーナ「決まってる……鎖がダメなら、直接叩くッ!!」ダッ

アリーナはいばらのからみついた鎖を手放し、さらに模との距離をつめた。

アリーナ「うおおおおらああああああっ!!」

ホンキー・トンク・ウーマンは高く振り上げた拳を一気に振り下ろす!

バグォオオッ!


模「…………ッ。」

アリーナ「ぐく……く……!」

ホンキー・トンク・ウーマンの拳は、振り下ろされたまま下に垂れ下がっている。セクター9の拳が、ホンキー・トンク・ウーマンの頬をとらえていた!

模「冷静さを欠いた攻撃なんて、避けるのはカンタンだよ。」

アッコ「スゴイ……!」







アリーナ「フ、フフ……冷静、ねぇ……。」

アリーナは鼻血を流しながら笑った。

アリーナ「私は冷静だよ。こんな攻撃……当たらなくても良かったのさ。」


アッコ「バク……肩ニ、『鎖』が!!」

模「……!」

模が自分の左肩を見ると、鉄の鎖が生えており、その一端はホンキー・トンク・ウーマンの右手に握られていた。


アッコ「バク、気をつけテ!」

アリーナ「今度は、おまえの番だッ!杖谷模!!」

アリーナは左手で自分の頭上に吊り下げられた鎖を手に取り、自分の体を能力によって引き上げ、再び木の枝に登った。




キリキリキリキリ……

幹に体を支えたホンキー・トンク・ウーマンは、徐々に鎖の長さを短くし始めた。

模の肩に繋がった鎖がしだいに張りつめていく……!

アリーナ「さあて、生身の体では……何度持ちこたえられるかな……?」

模「どういうことだ……?」

アリーナ「無論、温子と同じことをしてやるのよ。……脳ミソぶち撒けるまで、何度も落としてやるッ!」



アリーナの立つ木の枝までの高さはおよそ9m。その高さから落とされて、果たして人は動いていられるのだろうか?

それが、たったの一回でも……。

それを想像したアッコは急に不安に駆られた。

アッコ「バクっ!」



……しかし、名を呼ばれたその少年は、笑っていた。鎖はすでにピンとはり、模の体を引き始めていたにもかかわらず!

模「そうはいかないよ……。」

アッコ「バク……?」







アリーナ「ウフフ、何を言ってるの?足元を見ろ!!もう『鎖』は!おまえの体を吊り上げ始めているんだよ!」

確かに模の足は地面から離れ、鎖に吊るされている状態になっていた。


模「ああそうさ、だがな……『足元を見る』のは……お前のほうだ!」

アリーナ「………?」


アリーナがゆっくりと視線を足元に移し目をこらすと、自分の足に巻きついているものが見えた。

アリーナ「な……な、こ、これは!!」


アリーナの足に巻きついているものは、模の右手から鎖をつたって伸びていた。

模「セクター9、『いばらの世界』。」

アリーナ「あ、あんた、まさか……。」

模「自分自身で試してみなよ……その高さから落ちて、無事かどうかッ!」

グィィッ!

模はアリーナの足に巻きついたいばらを強く引っ張った。

木の幹につかまっていたアリーナだが、足を引っ張られたことでバランスを崩し、木の枝から足を踏み外した!

アリーナ「いやああああああああああああああああああああああ!!」

ズドォォォォォォン!!!!







模「あいてて……すべっちゃったよ。」

すでに1mほど吊り上げられていた模は、アリーナが木から落ちたことで自分も落ち、着地に失敗してしりもちをついてしまった。

模「あ、あいつはどこへいった……?」

模がきょろきょろとあたりを見回すと、自分の背後2mほどのところに仰向けに倒れていた。


アリーナ「ぐぐ……ぐ……」

体を強く打ち、呼吸ができなくなっているようだが、意識は失っていなかった。

模「2度も落ちたのに……やっぱりタフだ。」

アッコ「ソイツ、まだ意識アル?」


足を引きずりながらアッコが模のもとへ近づいてきた。

模「ああ、うん。でももう戦えないと思うよ。」

アッコ「……ひとつ、ヤルことがあってサ。」

模「?」


そういうとアッコはアリーナの体を背中から抱え込むようにして起こした。

アッコ「よい……しょット。」

模「どうしたの?」

アッコ「コイツと戦うトキ……約束シタんだ。あたしが勝ッタら、『ディザスターの移転先』を教えてくれるッテ。」

模「え……ほんとに!?」



アリーナ「あうう……」

アリーナはぼんやりした表情をしたまま、アッコの体に身を預けていた。


アッコ「デモ…………『ゴメン』ね、バク。」

模「……え?」

アッコ「コイツにさんざんイタブられて……かなり、イライラきてテサ。」

模「は?」

アッコ「ドーしても『一発』……かましてヤラなきゃ、気がスマないんだよ!」

アッコはアリーナの体を背中から両腕でガッチリ抱えたまま、腰を下ろした!




アッコ「   せーノッッ!!   」


ドッグォ―――――――――――――ン!!!




アリーナ「ンぐぁっ……!!」



アッコは身を反らせ、アリーナの体を自分の体の上から思い切り脳天から地面に叩きつけた!

アッコの体はキレーなブリッジを描いていた……。


模「ジャーマン・スープレックス……。」

アリーナは泡を吹いて気絶した。
 
 
 
 
【別荘地帯から杜王町へ向かう山道での戦い】

 ○ 林原温子・杖谷模  -  アリーナ・シュゲット × 






to be continued...



< 前へ       一覧へ戻る       次へ >





当wiki内に掲載されているすべての文章、画像等の無断転載、転用、AI学習の使用を禁止します。




記事メニュー
ウィキ募集バナー