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男とハルの間に、ピリピリとした空気が張り詰める。
ハルに言われて物陰に隠れていたサクラは、
その様子を固唾を飲んで見守っていた。
ハルに言われて物陰に隠れていたサクラは、
その様子を固唾を飲んで見守っていた。
「さて、まずはお前らしいな。どんなスタンドを持ってんのか知らねーが、
全力で来いよ。じゃねーと殺し甲斐がねーからなぁ」
全力で来いよ。じゃねーと殺し甲斐がねーからなぁ」
「スタンドは…持ってない。だけどあんたに負ける訳にはいかない!」
「は?…くは、くはははっ!マジかよおいっ!くはははっ!」
男は今にも転げ回りそうに、腹を抱えて大笑いしている。
「スタンド使いじゃねーのかよ!くは、お前らの学園にはスタンド使いが集まってるって聞いたんだけどなぁ」
ひとしきり笑うと、先程までとは違う冷たい笑みを浮かべて
男は言い放つ。
男は言い放つ。
「まぁいい…殺すのにかわりはねーしなぁぁぁぁぁ!」
男は腰に刀を構え、間合いを一気に詰める。
その勢いのままハルに向かって突きを繰り出す。
しかしハルはそれをギリギリまで待ち、
少ない動作で横にかわす。
男は突き出した刀をそのまま横に薙ぎ、ハルを追うように追撃する。
それをバックステップで素早くかわすと、
ハルは男と距離を取った。
その勢いのままハルに向かって突きを繰り出す。
しかしハルはそれをギリギリまで待ち、
少ない動作で横にかわす。
男は突き出した刀をそのまま横に薙ぎ、ハルを追うように追撃する。
それをバックステップで素早くかわすと、
ハルは男と距離を取った。
「おっ、なかなかやるねぇ」
ハルはサクラを守ると決めた日から、
サクラにも内緒で空手を習っていた。
本格的ではないが、空手部に所属する友人から、
ある程度の事は教わっていた。
元々運動神経の良いハルは、友人も驚く程成長した。
全ては親友を、サクラを守る為。
サクラにも内緒で空手を習っていた。
本格的ではないが、空手部に所属する友人から、
ある程度の事は教わっていた。
元々運動神経の良いハルは、友人も驚く程成長した。
全ては親友を、サクラを守る為。
(最初の一撃はかわせた…でも素手と刀じゃ間合いが違いすぎる…)
ハルは男との間合いを慎重に計りながら、
最善の策を模索していた。
最善の策を模索していた。
(攻撃のチャンスは…あいつが攻撃して来たその一瞬。
カウンターを狙うしかない)
カウンターを狙うしかない)
「いいねぇ!ただ喰うだけじゃ面白くねぇもんなぁ!もっと足掻いてみせろ女ぁぁぁ!」
男は刀を振り上げると、ハルとの距離を一気に縮める。
「おらぁぁぁっ!」
男は斜めに刀を振り下ろし、ハルはそれをサイドステップでかわす。
(今だっ!)
(今だっ!)
ハルが男の脇に拳を突き出そうとした瞬間。
「ぐっ!かはっ!」
ハルの脇に鈍い衝撃が加えられた。
男は刀をフェイントに使っていた。
はなから刀を当てる気はなかった。
振り下ろす勢いで体を強引に捻り、回し蹴りをハルに叩き込んだのだ。
男は刀をフェイントに使っていた。
はなから刀を当てる気はなかった。
振り下ろす勢いで体を強引に捻り、回し蹴りをハルに叩き込んだのだ。
「ぐっ!」
拳を突き出そうと体重を前に乗せていた分、
ハルのダメージも大きくなっていた。
固い地面を滑り、ハルの体のあちこちから激痛が走る。
ハルのダメージも大きくなっていた。
固い地面を滑り、ハルの体のあちこちから激痛が走る。
「うっ…ぐ…」
追撃から逃れる為、痛む体を無理やり動かし、
ハルは素早く立ち上がる。
ハルは素早く立ち上がる。
「まだ終わりじゃねぇよなぁ!」
男は刀を再度振り上げ、ハルに向かってくる。
(思い出せ、稽古を。教えてもらったんだ。獲物を持った敵との闘い方!)
今度は刀を避ける事をせず、ハルは自分から男の懐に飛び込む。
突然の事に男は一瞬、ほんの一瞬刀を振り下ろすのが遅れた。
突然の事に男は一瞬、ほんの一瞬刀を振り下ろすのが遅れた。
「はぁぁぁっ!」
ハルの拳が男の鳩尾に突き刺さる。
「がはぁっ!」
男は膝から崩れ、地面に手をついた。
すかさず男の顔面に回し蹴りを叩き込む。
手応えはあった。しかし―
すかさず男の顔面に回し蹴りを叩き込む。
手応えはあった。しかし―
「壁っ!?」
ハルの足の先には、公園を囲んでいるのと同じ壁が地面から生えていた。
公園を囲んでいるものと違い、大きさは畳一枚分程度だが、
それでもハルの攻撃を防ぐのには十分な大きさだった。
公園を囲んでいるものと違い、大きさは畳一枚分程度だが、
それでもハルの攻撃を防ぐのには十分な大きさだった。
「『リフューズ・ウォール』。俺のスタンドだ」
壁が消え、その向こうから男が姿を現す。
その背後には、筋肉質な人のようなものが浮いていた。
体には何本かラインが入っており、
全体的にシンプルな姿をしている。
その背後には、筋肉質な人のようなものが浮いていた。
体には何本かラインが入っており、
全体的にシンプルな姿をしている。
「お前には何も出来ないだろうから教えてやるよ。
俺の『リフューズ・ウォール』はその名の通り、拒絶する壁だ。
まぁ、ここを囲ってる分、自由に使える壁は畳一枚分くらいしかないけどな」
俺の『リフューズ・ウォール』はその名の通り、拒絶する壁だ。
まぁ、ここを囲ってる分、自由に使える壁は畳一枚分くらいしかないけどな」
ハルは男の言葉を素早く分析していく。
(あの壁で囲まれた空間は、外部から遮断される。
あいつがあたし達を逃がさない為に、ここを囲ってる分、
使える壁は減ってる。
おそらく壁の枚数か面積に制約があるんだ。
さっきの使い方から考えると…
おそらく攻撃には使えない。
防御に特化したスタンドだ)
あいつがあたし達を逃がさない為に、ここを囲ってる分、
使える壁は減ってる。
おそらく壁の枚数か面積に制約があるんだ。
さっきの使い方から考えると…
おそらく攻撃には使えない。
防御に特化したスタンドだ)
「えっ…!?」
そこまで考えて、ハルは自分の体が傾くのを感じた。
「こういう使い方もあるんだなぁ、これが」
「しまっ…」
ハルの体を押し上げるかたちで、地面から壁が生えていた。
そのままバランスを崩し、ハルは地面に倒れ込む。
そのままバランスを崩し、ハルは地面に倒れ込む。
「おっらぁぁっ!」
ハルが慌てて立ち上がるより先に、腹部に男の蹴りが突き刺さった。
「うっぐ、げほっ!」
呼吸が正常に出来ず、視界は涙でぼやける。
しかし男の攻撃は止まらない。
しかし男の攻撃は止まらない。
「殴られた分、楽には殺さねぇ!くはははっ!」
「あぐっ!がぁっ!」
男は何度も何度もハルを蹴り上げる。
まるでサッカーに夢中な少年のように。
その顔には笑みが浮かんでいた。
まるでサッカーに夢中な少年のように。
その顔には笑みが浮かんでいた。
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サクラはその光景を直視出来なかった。
離れている為、会話は聞こえなかったが、
男がスタンドを発現させた直後、ハルは地面に倒れ込んだ。
その後はまさに鬼畜の所業だった。
男はハルを何度も何度も蹴り上げた。
ハルの体はぼろ雑巾のように、地面を転がっている。
離れている為、会話は聞こえなかったが、
男がスタンドを発現させた直後、ハルは地面に倒れ込んだ。
その後はまさに鬼畜の所業だった。
男はハルを何度も何度も蹴り上げた。
ハルの体はぼろ雑巾のように、地面を転がっている。
(ハル!ハルっ!)
サクラの体は小刻みに震え、恐怖で体温が下がっていく。
(怖い!私怖いよ!ハルっ!)
目を瞑ったサクラの脳裏に、
ハルの笑顔が浮かぶ。
ハルの笑顔が浮かぶ。
《大丈夫だよ、サクラ!あたしが守るから!》
(私どうすればいいの?ハル…)
《あたしは春!あなたは桜!》
(ハル…)
《運命だね、巡り会う運命!》
(ハルっ!)
《ずっと仲良しでいようね、サクラ!》
「…めて…もぅ…やめてぇぇぇ!!」
気付けばサクラは物陰から飛び出していた。
何か策があった訳じゃない。
ただ、ただハルを守りたかった。
いつも守ってくれたハルを、
今度は自分が守ろうと思ったのだ。
何か策があった訳じゃない。
ただ、ただハルを守りたかった。
いつも守ってくれたハルを、
今度は自分が守ろうと思ったのだ。
「もうっ、もうやめて!お願い!」
サクラは男とサクラの間に割って入る。
恐怖で足は震え、今にも涙が溢れそうになる。
しかしサクラは引き下がらなかった。
いつも自分の前に立ち、時には体を張って守ってくれたハル。
その背中を何度も見てきた。
恐怖で足は震え、今にも涙が溢れそうになる。
しかしサクラは引き下がらなかった。
いつも自分の前に立ち、時には体を張って守ってくれたハル。
その背中を何度も見てきた。
(今度は…私がハルの前に立つ番だっ!)
サクラは大きく両手を広げ、男の前に立ちふさがる。
「ちっ、邪魔すんじゃねーよ。てめぇはこいつの後なんだからよ」
男は玩具を取り上げられた子供のように、
明らかに不機嫌になった。
明らかに不機嫌になった。
「…うして…どうしてこんな事するんですか!?私達に何か恨みがあるんですかっ!?」
サクラの問い掛けに、男はつまらなさそうに答える。
「あぁ?てめぇは呼吸すんのにいちいち理由考えてんのか?」
「な、何を…」
「分かんねーか?殺したいから殺す。殺したい時に殺す。
今回は降星学園の生徒を殺そうと思った。
そこにたまたまお前らが現れた。
だから殺す。そんだけだ」
今回は降星学園の生徒を殺そうと思った。
そこにたまたまお前らが現れた。
だから殺す。そんだけだ」
そう言って男は口の端を吊り上げる。
圧倒的な狂気。
男は狂気の塊だった。
それでも―
圧倒的な狂気。
男は狂気の塊だった。
それでも―
「こ、殺したいなら!私を殺してください!」
「あ?」
「だから!この人だけは!ハルだけは助けてください!お願いします!」
サクラは引き下がらなかった。
本当に自分はどうなっても良いと思っていた。
ハルを助ける為なら死んでもいい。
例えそれでハルが喜ばなくても、
ハルが助かるならそれで良い。
本当に自分はどうなっても良いと思っていた。
ハルを助ける為なら死んでもいい。
例えそれでハルが喜ばなくても、
ハルが助かるならそれで良い。
「くそ、うぜーんだよっ!」
「きゃっ!」
男に突き飛ばされ、サクラは倒れているハルの横に尻餅をつく。
「そんなに死にたきゃ先に殺してやる。あの世でお友達を待ってろ」
男は刀を握り直すと、切っ先をサクラに向け、
腰に構える。
男は刀を握り直すと、切っ先をサクラに向け、
腰に構える。
(ごめんね…ハル。私何も出来なくて)
サクラは立ち上がり、そっと目を閉じる。
(守れなくてごめんね…ハル)
それでも両手は広げ、ハルの前に立ちふさがる。
「死ねぇぇ!!」
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サクラは体に衝撃を感じた。
そのまま横に倒れ込む。
そのまま横に倒れ込む。
(横…に?)
確かに男は真正面にいたはずだ。
刀も突き出す姿勢で構えていた。
いや、その前に―
刀も突き出す姿勢で構えていた。
いや、その前に―
(痛く…ない!)
恐る恐る目を開けたサクラが見たのは、
男の刀に胸を貫かれたハルだった。
男の刀に胸を貫かれたハルだった。
「え…ハ…ル…?」
ハルは胸を貫かれたまま、男の腹に爪先で蹴りを叩き込む。
「ぐぁぁっ!」
男が吹っ飛んだ拍子に、ハルの胸から刀が抜け、
辺りに血を撒き散らした。
ハルはそのまま血で出来た水溜まりに倒れ込む。
辺りに血を撒き散らした。
ハルはそのまま血で出来た水溜まりに倒れ込む。
「ハルっ!ハルっ!何で!ハルっ!」
サクラは血で汚れるのも構わず、水溜まりに膝をつき、ハルを抱きかかえた。
「ハルっ!どうして!?」
サクラの目から零れた大粒の涙が、ハルの頬に落ちる。
しかしハルから答えは返ってこない。
しかしハルから答えは返ってこない。
(声…出ないや)
「ハル!返事して!ねえっ!」
(サクラの顔も…よく見えないな)
「ハル!しっかりして!ハル!」
(ごめんねサクラ…守るって…言ったのにね)
「返事してよハル!お願いだから!」
(ハルの体…あったかいなぁ)
「ハル!ハルってば!」
(生まれ変わっても…また親友になれるかな…)
「ねえっ!ハル!」
(サクラ…大好きだよ…)
ハルの右手がゆっくりと持ち上がる。
そのままサクラの頬に触れる直前―
力を失い地面に落ちた。
そのままサクラの頬に触れる直前―
力を失い地面に落ちた。
「ハ…ル?」
膝の上のハルが、急に軽くなった気がした。
サクラはハルの胸に手を当て、その命の鼓動が止まった事を知った。
サクラはハルの胸に手を当て、その命の鼓動が止まった事を知った。
「…ハル」
(嘘だ…こんなの)
「…ねぇ、起きてよハル」
(夢だ…こんなの)
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
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「くそ、いてぇ…」
男は落ちている刀を手に取り、ゆっくりと立ち上がる。
本来ならすぐにでも警戒しなければならないが、
サクラの目にはもう男の姿など映っていなかった。
大切なハル。
いつも傍にいてくれたハル。
世界で一番大好きなハル。
そのハルの死が、サクラの心を粉々に打ち砕いていた。
本来ならすぐにでも警戒しなければならないが、
サクラの目にはもう男の姿など映っていなかった。
大切なハル。
いつも傍にいてくれたハル。
世界で一番大好きなハル。
そのハルの死が、サクラの心を粉々に打ち砕いていた。
「くはは、安心しろ女ぁ。すぐにお友達のとこに送ってやるからよ」
男はサクラの目の前まで来ると、ハルの血で赤く染まった刀を振り上げる。
(待っててねハル…私もすぐ行くから)
「死ね、女」
(ハルを一人にしないから…)
もう目を瞑る事もしない。
ハルを失った今、サクラは死んだ方が幸せだと本気で思っていた。
ハルを失った今、サクラは死んだ方が幸せだと本気で思っていた。
「おらぁっ!」
サクラの頭部に男の刀が振り下ろされる。
「な…!?」
しかしそれはあと数センチのところで止まってしまった。
何が起きたか分からない男は、
自分の腕が何者かに掴まれている事に気付くのに、
少しの時間を必要とした。
何が起きたか分からない男は、
自分の腕が何者かに掴まれている事に気付くのに、
少しの時間を必要とした。
「ば、バカな!?これは…」
男の腕を掴んでいるのは、殺したハズのハルだった。
しかし降星学園の制服ではない。
銀と赤を基調とした、西洋風の鎧を纏っている。
しかし降星学園の制服ではない。
銀と赤を基調とした、西洋風の鎧を纏っている。
「この感覚はっ…!」
男は知っている。
この奇妙な、引かれ合うような感覚を。
この奇妙な、引かれ合うような感覚を。
「スタンド…だとっ!?」
その光景をサクラは呆然と見つめていた。
確かにさっきまでは膝の上にハルがいた。
しかし、男が刀を振り下ろした瞬間、
突然ハルは消え、目の前に鎧を纏った人物が現れた。
何度も見てきた背中。
鎧を纏っていても、絶対に間違うはずがない。
それはハルだった。
確かにさっきまでは膝の上にハルがいた。
しかし、男が刀を振り下ろした瞬間、
突然ハルは消え、目の前に鎧を纏った人物が現れた。
何度も見てきた背中。
鎧を纏っていても、絶対に間違うはずがない。
それはハルだった。
「え、ハ…ル?」
鎧を纏ったハルは、掴んでいる男の腕を手前に引いてバランスを崩させる。
そこに前蹴りを叩き込んだ。
そこに前蹴りを叩き込んだ。
「ぐぁっ!!」
今までとは比べものにならない威力だった。
男は地面を10メートル程滑り、ベンチに背中を打ち付けてようやく止まった。
男は地面を10メートル程滑り、ベンチに背中を打ち付けてようやく止まった。
「ハルっ!良かった!無事なんだね!」
サクラはハルに駆け寄ると、涙を拭きながら笑顔を見せる。
しかし―
ハルは悲しそうに首を横に振った。
しかし―
ハルは悲しそうに首を横に振った。
(聞いて、サクラ)
「え…」
ハルは口を動かしていない。サクラの頭の中に、
ハルの声が直接聞こえてくる。
ハルの声が直接聞こえてくる。
(サクラ、あたしはね…死んじゃったんだ)
「でも…今ハルは…」
(あたしも何が原因でこうなったかは分からない…)
「………」
(でもね…何の為にこうなったかは分かるよ)
「何の…為?」
(サクラ、あんたを守る為)
ハルの視界が立ち上がる男を捉える。
「守らなくてもいいっ!ハルは生き返ったの!
また二人で学校行ったり…
それだけでいいっ!」
また二人で学校行ったり…
それだけでいいっ!」
(あたしは死んだ。サクラ、分かって。あたしはもう死んだの)
「ちが…違うっ…死んでなんか」
枯れたと思っていた涙が、サクラの目から次々と溢れてくる。
(聞いて、サクラ)
ハルはそう言って、指の腹でサクラの涙をそっと拭う。
金属で覆われている指。
冷たいはずなのに、その指には暖かさが溢れていた。
金属で覆われている指。
冷たいはずなのに、その指には暖かさが溢れていた。
(あたしは死んだ。これは事実。
あたしはハルであってハルじゃないの。
今こうして話す事も、多分そのうち出来なくなる)
あたしはハルであってハルじゃないの。
今こうして話す事も、多分そのうち出来なくなる)
ハルは気付いていた。自分の意識が―
咲洲ハルとしての意識がそんなに長く保たない事を。
咲洲ハルとしての意識がそんなに長く保たない事を。
「嫌だ!ハルは…ハルは今ここにいるもん!」
サクラも気付いていた。ハルがもう死んだ事、
今目の前にいるのは、ハルであってハルじゃない事を。
ただそれを認めたくなかった。
認めたら、ハルが消えてしまう気がした。
今目の前にいるのは、ハルであってハルじゃない事を。
ただそれを認めたくなかった。
認めたら、ハルが消えてしまう気がした。
(サクラ、お願い。あたしの死を受け入れて。
あたしの新しい姿を受け入れて)
あたしの新しい姿を受け入れて)
本当はハルだって苦しかった。
親友に自分の死を受け入れさせる事が。
このままいつもの日常に戻れたら、どんなに幸せか。
しかし―
親友に自分の死を受け入れさせる事が。
このままいつもの日常に戻れたら、どんなに幸せか。
しかし―
(サクラ、受け入れなきゃあんたは前に進めなくなる。
あたしはサクラのスタンドになったんだよ。
もう今までみたいにはなれない。
だから受け入れて。あたしの"本当の名前"を呼んで)
あたしはサクラのスタンドになったんだよ。
もう今までみたいにはなれない。
だから受け入れて。あたしの"本当の名前"を呼んで)
"本当の名前"
サクラには何故かそれが分かった。
しかしその名前を呼べば、ハルの死を―
ハルをスタンドとして受け入れる事になる。
サクラには何故かそれが分かった。
しかしその名前を呼べば、ハルの死を―
ハルをスタンドとして受け入れる事になる。
「呼べ…ない…」
(サクラ!お願い!)
「………」
(あたしは春…)
「え?」
(あなたは桜…)
「ハル…何を…」
(春は桜と共に、桜は春と共に…)
「……巡り会う運命…だから」
「……巡り会う運命…だから」
(そう、運命だから。あたしはサクラの心の中で生きてる。
ずっと傍にいる。
それが本物の咲洲ハル)
ずっと傍にいる。
それが本物の咲洲ハル)
「……ハル」
(だから…今目の前にいるあたしの…"本当の名前"を呼んで)
「………」
(前に進むの、あんたは強く生きていかなきゃダメなの。
サクラ、あたしからの最後のお願い)
サクラ、あたしからの最後のお願い)
男は刀を構えるとこちらに向かって走って来る。
その顔には禍々しい笑みが張り付いている。
サクラは涙を拭う。
その顔には、その瞳には、
もう迷いはなかった。
その顔には禍々しい笑みが張り付いている。
サクラは涙を拭う。
その顔には、その瞳には、
もう迷いはなかった。
「あたしの"本当の名前は"…」
「あなたの"本当の名前は"…」
「あなたの"本当の名前は"…」
『ガールズ・ガーディアン』っ!!!!』
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「死ねよ女ぁぁぁぁぁ!!『リフューズ・ウォール』ッッ!!」
男は公園を囲んでいた壁を全て消すと、
それを戦闘用に切り替えた。
『ガールズ・ガーディアン』に向かって、
何十枚もの壁が地面から飛び出してくる。
しかし『ガールズ・ガーディアン』はそれを難なくかわしながら、
一枚ずつ拳で粉砕していく。
まるでクッキーのように、頑丈なはずの壁が崩れていく。
それを戦闘用に切り替えた。
『ガールズ・ガーディアン』に向かって、
何十枚もの壁が地面から飛び出してくる。
しかし『ガールズ・ガーディアン』はそれを難なくかわしながら、
一枚ずつ拳で粉砕していく。
まるでクッキーのように、頑丈なはずの壁が崩れていく。
「ば、バカな!?」
「『ガールズ・ガーディアン』ッッ!!」
サクラの声に呼応するように、
『ガールズ・ガーディアン』は
さらにスピードを上げる。
『ガールズ・ガーディアン』は
さらにスピードを上げる。
「何なんだよこの力はぁ!?」
白兵戦に特化したタイプのスタンドは何度も見てきた。
だがここまでのスピードとパワーは、
男は見た事がなかった。
だがここまでのスピードとパワーは、
男は見た事がなかった。
「ぐぁぁぁぁっ!」
突然男の視界が揺らぎ、体が数十メートル宙に浮く。
『ガールズ・ガーディアン』に打ち上げられたのだ。
『ガールズ・ガーディアン』に打ち上げられたのだ。
(このまま落ちたらやべぇ!)
「『リフューズ・ウォール』ッッ!!」
男は自分に向かって壁を伸ばし、
それを足場に着地しようとする。
しかし―
それを足場に着地しようとする。
しかし―
「なっ…!?」
打ち上げられた男よりさらに上空から、
『ガールズ・ガーディアン』が落下してくる。
その落下の勢いをプラスして、
男の腹に拳を叩き込んだ。
『ガールズ・ガーディアン』が落下してくる。
その落下の勢いをプラスして、
男の腹に拳を叩き込んだ。
「あがっ……ぐぁぁ!!」
男は壁ごと地面に吹き飛ばされ、
砂場に体を半分以上沈めて―
意識を失った。
砂場に体を半分以上沈めて―
意識を失った。
(サクラ…あんたは必ずあたしが守る。
これは新しいあたしの最初の約束)
これは新しいあたしの最初の約束)
「うん…」
(あたしはそろそろ消えるみたい)
「うん…あのね」
(ん?)
「ハルは私の中で生きてる。もしあなたが私の心の中で…
ハルに会ったらね、伝えて」
ハルに会ったらね、伝えて」
(うん、何を伝えるの?)
「私はもう大丈夫!って」
(うん、必ず伝える)
『ガールズ・ガーディアン』は優しく微笑むと、
スッと姿を消した。
消える直前、微かに唇を動かしたのをサクラは見逃さなかった。
スッと姿を消した。
消える直前、微かに唇を動かしたのをサクラは見逃さなかった。
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時は流れ―
「サクラー!早く行かないと遅刻するよ!」
サクラの部屋の扉が開かれ、クラスメイトが手招きしている。
寮の隣部屋の女の子だ。
寮の隣部屋の女の子だ。
「うん、すぐ行く!」
サクラが返事をすると、女の子は手を振って走って行く。
(ハル…私、頑張ってるよ。前に進んでる)
開いていたアルバムから一枚の写真を抜き出す。
初めて二人で撮った写真。
恥ずかしがるサクラに、ハルが笑顔で抱きついている。
初めて二人で撮った写真。
恥ずかしがるサクラに、ハルが笑顔で抱きついている。
「さて、もう行かなきゃ」
あの時―
『ガールズ・ガーディアン』が消える直前に動かした唇。
サクラにはそれが何と言ったかハッキリ分かった。
『ガールズ・ガーディアン』が消える直前に動かした唇。
サクラにはそれが何と言ったかハッキリ分かった。
『ずっと…傍にいる』
サクラはアルバムの上に写真をそっと乗せて、部屋を後にする。
ねぇハル…私変われるかな?
ううん、変わってみせる。
ハルが私を守ってくれてたみたいに…
私もこの力で誰かを守れる人になってみせるよ
ねぇハル、私達がもしもう一度生まれ変わったら…
それで…もしどこかで出会ったら…
今度は私から声を掛けるね
その時はまた、その太陽みたいな笑顔を見せてね
完
★ 使用させていただいたスタンド
No.3042 ガールズ・ガーディアン