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―ねぇ、ハル…私、ちゃんと頑張れてるかな?
ハルが誇りに思えるような…そんな人間に変われるかな?
ハルが誇りに思えるような…そんな人間に変われるかな?
―ねぇ、ハル…私が『力』を手にした日の事、
今でも昨日の事のように思い出すんだ…
・
・
・
今でも昨日の事のように思い出すんだ…
・
・
・
「いいじゃんサクラちゃん!俺らと遊びに行こうぜ!な?」
「あ、あの…私…」
下校時刻を過ぎ、人も疎らになった教室の隅で、
数人の男子生徒がサクラを囲んでいた。
用事がある―ただその一言で済むのだが、
サクラはなかなか言い出せないでいた。
押し切れると判断したのか、男子生徒達は
サクラの手を引いて教室から連れ出そうとする。
小さい頃から引っ込み思案で大人しいサクラは、
他人と上手くコミュニケーションを取る事が出来ないのだ。
ただ一人の例外を除いて。
数人の男子生徒がサクラを囲んでいた。
用事がある―ただその一言で済むのだが、
サクラはなかなか言い出せないでいた。
押し切れると判断したのか、男子生徒達は
サクラの手を引いて教室から連れ出そうとする。
小さい頃から引っ込み思案で大人しいサクラは、
他人と上手くコミュニケーションを取る事が出来ないのだ。
ただ一人の例外を除いて。
「うぉぉぉぉぉ……」
突然教室の扉が勢い良く開かれる。
「りゃぁぁっ!!」
飛び込んで来た人物は、勢いを殺さずに男子生徒の一人に跳び蹴りをかました。
「ぐはっ!」
その蹴りを背中で受けた男子生徒は、
サクラの横を掠め、机を薙ぎ倒しながら吹っ飛ぶ。
軽く五人分程の机を巻き込み、そのまま床に倒れ込んで止まった。
サクラの横を掠め、机を薙ぎ倒しながら吹っ飛ぶ。
軽く五人分程の机を巻き込み、そのまま床に倒れ込んで止まった。
「うっ…いってーな!くそ、誰だよ……あ」
吹っ飛ばされた男子生徒は、近くの机に手を付いて立ち上がり
―息を呑んだ。
―息を呑んだ。
「げ…ハル…」
難を逃れた残りの男子生徒も、
ハルと呼ばれた少女を見て顔がひきつっている。
ハルと呼ばれた少女を見て顔がひきつっている。
「あんた達!サクラが困ってるでしょ」
そう言って男子生徒達を睨むハルの目に、
明らかに敵意以上の何かが浮かんでいる。
明らかに敵意以上の何かが浮かんでいる。
(こ、これ以上怒らせたら殺される…)
これがシンクロなら高得点だろう程に、
男子生徒達の心はぴったり一致した。
男子生徒達の心はぴったり一致した。
「ちっ、馬鹿力女め…」
まるでB級映画のチンピラAのように、
口々に情けない負け惜しみを言いながら、
男子生徒達は教室を後にしていく。
口々に情けない負け惜しみを言いながら、
男子生徒達は教室を後にしていく。
「散れ!しっしっ!」
勝ち誇った顔で男子を追い払い、
ハルは満面の笑みでサクラに話し掛けた。
ハルは満面の笑みでサクラに話し掛けた。
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「大丈夫、サクラ?嫌な事されなかった?」
「うん、ありがとうハル。私は平気だよ」
サクラが唯一心を許した人物。
それがこの咲洲(さきしま)ハルだった。
それがこの咲洲(さきしま)ハルだった。
「嫌ならハッキリ断ればいいんだからね。サクラは優しすぎるんだよ」
ハルは倒れた机を丁寧に片付け終えると
「まぁサクラを一人で待たせたあたしも悪いんだけどね。
ほら行こう、サクラ!」
ほら行こう、サクラ!」
そう言ってサクラの手を取った。
気付けば生徒が疎らだった教室も、ハルとサクラだけになっている。
気付けば生徒が疎らだった教室も、ハルとサクラだけになっている。
「うん。帰ろっか」
・
・
・
これが、私とハルの最後の下校になっちゃったね。
あの日―もし私に力があれば…
あんな事にならなかったのかな?
・
・
これが、私とハルの最後の下校になっちゃったね。
あの日―もし私に力があれば…
あんな事にならなかったのかな?
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「うー、あっちー…」
学園からの帰り道、ハルは遠くに見える海を眺めながら呟いた。
季節は夏。
夕方とはいえ、肌に纏わりつくような嫌な暑さが二人を包んでいる。
二人の通う降星学園は星野古島に建てられた巨大な学園だ。
星野古島という名の通り、周囲を海に囲まれている。
しかし今は潮風の恩恵も受けられず、
昼間の内に熱を溜め込んだアスファルトに、
周囲の温度調節を握られているのだ。
季節は夏。
夕方とはいえ、肌に纏わりつくような嫌な暑さが二人を包んでいる。
二人の通う降星学園は星野古島に建てられた巨大な学園だ。
星野古島という名の通り、周囲を海に囲まれている。
しかし今は潮風の恩恵も受けられず、
昼間の内に熱を溜め込んだアスファルトに、
周囲の温度調節を握られているのだ。
「もう下着になっちゃおうかな…」
ボソッと良からぬ事を呟くハル。
サクラは慌ててハルの腕を掴むと
サクラは慌ててハルの腕を掴むと
「だっ、ダメ!絶対絶対ダメー!」
顔を真っ赤にして説得する。
もちろんハルもそんなはしたない事をするつもりは微塵もないが、
この純粋で優しい親友といると、
ついついからかいたくなってしまうのだ。
もちろんハルもそんなはしたない事をするつもりは微塵もないが、
この純粋で優しい親友といると、
ついついからかいたくなってしまうのだ。
「あっはは、冗談だってサクラ!するわけないじゃん!」
「……バカハル」
からかわれた事に気付いたサクラは、
早足でハルの前に出る。
その背中は明らかに拗ねていた。
サクラが足を動かす度に、カチューシャに付いたリボンがゆらゆらと揺れている。
ハルはそのリボンの上下運動を目で追いながら、
サクラと出会った時の事を思い出していた。
早足でハルの前に出る。
その背中は明らかに拗ねていた。
サクラが足を動かす度に、カチューシャに付いたリボンがゆらゆらと揺れている。
ハルはそのリボンの上下運動を目で追いながら、
サクラと出会った時の事を思い出していた。
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降星学園の入学式も終わり、新入生は自分達の教室に集められていた。
同じ小学校から入学してきた者は再開を喜び、
知り合いのいない者は新しい友人をつくろうと働き蜂のように動き回る。
そんな光景をサクラは羨ましそうに眺めていた。
そんなサクラに二人組の女の子が声を掛けて来た。
同じ小学校から入学してきた者は再開を喜び、
知り合いのいない者は新しい友人をつくろうと働き蜂のように動き回る。
そんな光景をサクラは羨ましそうに眺めていた。
そんなサクラに二人組の女の子が声を掛けて来た。
「ねぇ、あなたお名前は?どこから来たの?あなたもスタンド使いなの?」
「あっ、あの私…その…」
折角話し掛けられたのに、上手く言葉が出てこない。
そんな自分が悔しくて、サクラは目を伏せてしまう。
俯くサクラを見て、二人組の女の子も、気まずそうに離れていってしまった。
そんな自分が悔しくて、サクラは目を伏せてしまう。
俯くサクラを見て、二人組の女の子も、気まずそうに離れていってしまった。
(………)
他の生徒と仲良く話し始めた二人を見て、
サクラはますます落ち込んでしまう。
何故上手く話せないのだろう。
もっと上手く話せたら、きっとさっきの二人とも仲良くなれたかもしれない。
サクラはますます落ち込んでしまう。
何故上手く話せないのだろう。
もっと上手く話せたら、きっとさっきの二人とも仲良くなれたかもしれない。
(ここに来て…変わろうって…思ってたんだけどな)
教室の窓、外に広がる海を眺めながらサクラが深い溜め息を吐いた時だった。
ふいに
ふいに
「可愛いリボンだね!」
背後から声を掛けられた。
驚いたサクラが振り向くと、一人の女の子が満面の笑みで立っている。
セミロングの髪に、健康そうな身体。
太陽の下がよく似合う、そんな女の子。
驚いたサクラが振り向くと、一人の女の子が満面の笑みで立っている。
セミロングの髪に、健康そうな身体。
太陽の下がよく似合う、そんな女の子。
「あたしは咲洲ハル。あなたはサクラちゃん…だよね?
名簿見たんだ。名字は何て読むか分かんなかったけど」
名簿見たんだ。名字は何て読むか分かんなかったけど」
そういってハルと名乗った少女は頭を掻く。
「ひわ…ひかず…んー、…にわ?」
「あの、…ひより。私は日和サクラ」
成る程といった顔で、ハルは手を叩く。
「日和か!日和サクラ!素敵な名前だねっ!」
そう言ってまた満面の笑みを見せるハル。
しかしサクラは他の事で頭が一杯だった。
しかしサクラは他の事で頭が一杯だった。
(言えた…名前、自分で言えた!)
それから二人はたくさん話した。
自分の事、家族の事、学園に来る前の事。
何故か学園に来る前の事をハルは話さなかったが、
それでもとても楽しい時間だった。
ハルはたくさん質問するような事はしなかった。
なのに―ハルと話していると、自然と自分から話したくなる。
サクラはそんな不思議な感情で一杯だった。
自分の事、家族の事、学園に来る前の事。
何故か学園に来る前の事をハルは話さなかったが、
それでもとても楽しい時間だった。
ハルはたくさん質問するような事はしなかった。
なのに―ハルと話していると、自然と自分から話したくなる。
サクラはそんな不思議な感情で一杯だった。
その日の帰り道、ハルはサクラに言った。
「あたしは春。あなたは桜。運命だね。巡り会う運命!
ずっと仲良しでいようね、サクラっ!」
ずっと仲良しでいようね、サクラっ!」
二人が親友になるのに、時間はかからなかった。
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「ずっと仲良し…だからね、サクラ」
遠い記憶から現実へ。
ハルは拗ねて前を歩くサクラの背中に、小さく呟いた。
今、二人は三年生。
まだまだ男子とは上手く話せないが、
サクラも他の女子生徒とは上手く話せるようになった。
それは驚くべき進歩だ。
あの頃より少し大人になったサクラの背中に、
ハルの頬も自然と弛む。
ハルは拗ねて前を歩くサクラの背中に、小さく呟いた。
今、二人は三年生。
まだまだ男子とは上手く話せないが、
サクラも他の女子生徒とは上手く話せるようになった。
それは驚くべき進歩だ。
あの頃より少し大人になったサクラの背中に、
ハルの頬も自然と弛む。
「でも、まだまだあたしがいなきゃダメだねっ、サクラ!」
「きゃっ!」
突然後ろから飛び付いて来たハルに、
サクラは思わず声を上げる。
サクラは思わず声を上げる。
「な、何の話?」
「んーん、こっちの話ー」
サクラに頬刷りしながら笑うハルは、とても幸せそうだった。
このまま寄り道をしてアイスでも食べて…
可愛い洋服を見て、新しく出たCDを買って…
そんな当たり前の帰り道になる。
この時のハルはそんな事を考えていた。
この時までは。
このまま寄り道をしてアイスでも食べて…
可愛い洋服を見て、新しく出たCDを買って…
そんな当たり前の帰り道になる。
この時のハルはそんな事を考えていた。
この時までは。
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二人が繁華街まで近道しようと、寂れた公園を抜けて行こうとした時、
それは突然起こった。
ゴバッ!っという音とともに、公園の周囲を壁が囲んでいく。
それは突然起こった。
ゴバッ!っという音とともに、公園の周囲を壁が囲んでいく。
「な、何っ!」
ハルは咄嗟にサクラを背中で庇い、周囲を見渡す。
壁は素材の分からない無機質な光沢を放っており、高さは10m程。
天井は無く、夕暮れの空は四角く切り取られていた。
壁は素材の分からない無機質な光沢を放っており、高さは10m程。
天井は無く、夕暮れの空は四角く切り取られていた。
「ハルっ、これって!」
二人はすぐに思い当たる。
こんな事が出来るのは
こんな事が出来るのは
「「スタンド使いっ!」」
二人が声を上げたのと、背後で物音がしたのは同時だった。
「正解」
いつから居たのか、二人の背後に一人の男が立っていた。
ボロボロのコートを羽織り、全身が黒で統一されている。
髪は浮浪者のように長くボサボサで、
目だけがギラギラと異様に輝いている。
しかし二人の視線を釘付けにしたのは、男の異様な出で立ちではない。
男が右手に握り締めているモノだ。
ボロボロのコートを羽織り、全身が黒で統一されている。
髪は浮浪者のように長くボサボサで、
目だけがギラギラと異様に輝いている。
しかし二人の視線を釘付けにしたのは、男の異様な出で立ちではない。
男が右手に握り締めているモノだ。
「かた…な?」
サクラを庇いながら後退るハルが呟く。
夕日を浴びて、赤く煌めくモノ。
抜き身の刀だった。
サクラにも分かった。
壁で囲まれた公園にこんな物騒な物を持って現れた男。
自分達はとんでもないトラブルに巻き込まれている。
夕日を浴びて、赤く煌めくモノ。
抜き身の刀だった。
サクラにも分かった。
壁で囲まれた公園にこんな物騒な物を持って現れた男。
自分達はとんでもないトラブルに巻き込まれている。
「サクラ…走るよ」
男から視線を逸らさず、ハルが小さく耳打ちする。
サクラはハルの手をぎゅっと握ると、目で了解の合図を送った。
サクラはハルの手をぎゅっと握ると、目で了解の合図を送った。
「サクラっ!」
ハルはサクラの手を引き、男とは反対方向へ走り出す。
視界の端、逃げられないと分かっているのか、
男がニヤニヤと笑うのが見えたが、何もしない訳にはいかなかった。
視界の端、逃げられないと分かっているのか、
男がニヤニヤと笑うのが見えたが、何もしない訳にはいかなかった。
「ぐっ…!」
勢い良く壁に体当たりしたハルは、
そのあまりの固さに顔を歪める。
激しく打ち付けた肩や腕は、その衝撃にジンジンと痺れている。
そのあまりの固さに顔を歪める。
激しく打ち付けた肩や腕は、その衝撃にジンジンと痺れている。
「ハル!大丈夫っ!?」
「う、うん。平気。でも…」
ハルは公園を見渡す。どこか隙間がないか、
逃げ出せる箇所はないか。
しかしそんな淡い希望はすぐに砕かれる。
正方形の公園の四方、隙間なく壁で囲まれていた。
逃げ出せる箇所はないか。
しかしそんな淡い希望はすぐに砕かれる。
正方形の公園の四方、隙間なく壁で囲まれていた。
「上も…無理か…」
視線を空へ向けたハルは、すぐに首を振る。
壁は四方だけ、上まで囲まれてはいないが、
軽く10mはある。たかが二人の少女にどうこう出来る高さではなかった。
壁は四方だけ、上まで囲まれてはいないが、
軽く10mはある。たかが二人の少女にどうこう出来る高さではなかった。
「く…くはははは!無駄だよ、逃げようなんて。
お前らは虎の檻に放り込まれた生肉だ。
喰われてお終い、ってなぁ」
お前らは虎の檻に放り込まれた生肉だ。
喰われてお終い、ってなぁ」
耳につく嫌な笑い声を上げ、男は嘲るような目で二人を見ている。
(そうだ、警察!)
サクラは慌てて鞄から携帯を取り出すと、
素早くボタンを押していく。
しかしいくら待っても呼び出し音が聞こえてこない。
電波を確認しても、特に問題はなかった。
素早くボタンを押していく。
しかしいくら待っても呼び出し音が聞こえてこない。
電波を確認しても、特に問題はなかった。
「くはは、あー、それから…」
そんなサクラを面白そうに眺め、男が口を開いた。
「この壁で囲まれてる場所は、外部とは完全に遮断されてるから。
携帯も繋がらないし、大声上げても聞こえねーよ」
携帯も繋がらないし、大声上げても聞こえねーよ」
それはつまり二人に逃げ道はないという宣告。
サクラの手から携帯が滑り落ちる。
サクラの手から携帯が滑り落ちる。
「そんな…ハル…」
絶望。恐怖。緊張。不安。
サクラの心はその全てでぐちゃぐちゃになっていた。
しかしふいに
サクラの心はその全てでぐちゃぐちゃになっていた。
しかしふいに
「大丈夫、大丈夫だよサクラ」
サクラの手を強く握り締めて、ハルは優しく微笑んだ。
「サクラ。大丈夫だから。サクラは私が絶対に守る。守るからね」
「…ハル」
ハルの手の温もりに、
ハルの優しく力強い言葉に、
サクラは心が落ち着いていくのを感じた。
ハルの優しく力強い言葉に、
サクラは心が落ち着いていくのを感じた。
「さて、エサとして大人しく喰われるか、無駄に足掻いてみるか。
好きな方を選べ。まぁ…どちらも辿り着くのはお前らの死…だけどな!
くは、くははは!」
好きな方を選べ。まぁ…どちらも辿り着くのはお前らの死…だけどな!
くは、くははは!」
「あんたは一つ忘れてる」
「あ?」
「あんたを倒してここから出るって選択肢よ!」