X-evolution~戦いの中で

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X-evolution~戦いの中で ◆Z9iNYeY9a2



『12:00、定刻通り死亡者、並びに禁止領域の発表を始めよう』


放送が鳴り響こうとも、蹲った巨人は動かない。
そもそも今の彼には放送を聞き届ける聴覚もない。

一度の戦いで、多くの命を失いすぎた。
しかし今それを回復させる手段も時間もない。

それでも、止まることなどない。止まることなどできない。
今のこの身にあるのは、戦うことだけ。

――――何のために?

戦うことには理由があったはず。
もはや見ることも聞くこともできぬこの体、それでもたった一つ心の中にあったはずの何か。
なのに、それを思い出すことができない。
何かがあったことを示す黒き空洞だけが、何かがあったことを示すようにあるだけ。

―――――□■※■は◇◇■■いね

故に自問自答を続ける。
その記憶にあったはずのものを。たった一つだけ残っていたものを。

見えず、聞こえず、触れる感触も無く。
ただ、その守るべき何かのために黒き騎士をなぎ倒し続ける。

しかし、今視界の中にはその黒き騎士王はいない。
それまで一時として消えることのなかったその姿が、あの戦いの後消え去ってしまった。

ならば、どうするのか。
守らねばならない。――――を。
――――誰だそれは。

思考のループは続く。
理性があればまだ違ったのだろうが、今の彼には答えにたどり着くまで思考を止めることができない。

彼のいる場所の近くが禁止エリアとなる時が一刻一刻と迫っていく。
隣のエリアである以上本来なら心配する必要もないだろうが、しかし理性のないバーサーカーにはそれは大きく危険な事実。

静寂のまま身動き一つ取ること無く、時が過ぎるのみ。そのはずだった。

意識の中に、再度黒き騎士王が浮かび上がってくるその時までは。

「―――――――――」

戦う理由は思い出せない。
しかし、アレが現れるというのであれば戦わねばならない。
たとえ理由が分からずとも、アレがそこにある限り。



体の調子はとても良好だった。
自己再生でも治癒が限界だった傷もほとんど治っている。

バーサーカーを見つけるのに若干の手間こそかかったものの、特に何事もなく見つけることができた。
いくらミュウツーとて狭くないエリアから探索者を見つけるのはそう容易というわけでもなかった。
しかし市街地の建造物の崩壊具合からある程度位置を割り出すことはできた。

一部の地区があまりにも建造物の崩れ具合が激しい。
どころか瓦礫すらも残らず消滅し、更地と化している所も見受けられた。

「……ここでクロエ・フォン・アインツベルンとあのポケモンが……?」

推測するならば、ここであの二人―――いや、一人と一匹があの巨人に最後の一撃を仕掛けたか。
しかし放送で巨人――バーサーカーの名前が呼ばれなかったことからそれでも仕留め損ねた、ということか。

だとするなら、今もここにヤツがいる保証はあるだろうか?
いや、もう少しあいつのいた痕跡を探ればどこに向かったか知ることができるはず。

「…?」

ふと視界に何かが映った。
瓦礫の山の中でほんの少しだけそれらと違う色をした何かの色。

その映った何かに向けて、サイコキネシスを発動させる。
瓦礫の山を動かした奥にあったのは、一枚のカードらしき物体。
人間らしき者が鎧を纏い弓を構えている姿。

何故だか分からないが、その姿がかつてあのバーサーカーに立ち向かっていった少女の姿と被って見えたような気がした。

―――ズン、ズン

しかし、それに想いを馳せるような暇はなかった。
周囲に響く、巨大な何かが打ち鳴らされるような音。
それが何者かが歩く音だと気付いた時には、視界に黒き巨体が映っていた。

その手には長さが半分ほどにまでへし折れた岩の剣。
以前見た時にはまだその体の至るところに刻まれていたはずの傷はほとんど残っていない。
爛々と光る赤い瞳からは強烈な戦意と殺意が放たれ。
それはこちらへと向けられていた。

「――――――■■■■■■■■■■■!!!!!」

距離にして10メートル弱。
それを咆哮と同時に一飛びで軽々と飛び越え、着地と同時にその剣を振り下ろした。
咄嗟に横へと避けたミュウツーの身体に、砕かれたコンクリートの破片が飛び散る。

バリアを張り、その細かな弾幕を弾いた後ミュウツーはサイコキネシスを念じる。
あのバーサーカーの身体を抑えるほどの念力は困難。それは先の戦闘でよく分かっている。


ならば、その武器を奪う。

地面に叩きつけられた岩剣を宙に持ち上げると、バーサーカーの身体も追随して浮遊する。
しかしその態勢では成す術がない。武器を持った片腕だけを上げた状態で宙に浮かされているのだから。

そのまま手にサイコパワーを集め、その身体に叩きつけようと飛翔し急接近。
手に集められたエネルギーをその身体に叩きつけようとしたところで、バーサーカーは持っていた剣から手を離し。

「―――!」

そのまま、こともあろうにミュウツーが念力をかけていた剣を空中で蹴りつけ態勢を強引に整え、迫るミュウツーに拳を放った。
咄嗟にサイコパワーをその拳にぶつけて威力を相殺。
同時に集中力が途切れ剣が地面に落ちる。

着地したミュウツーに対しさらに追撃で蹴りを放つバーサーカー。
それをバリアで受け止めたミュウツーはさらに後ろに下がる。
と、その反動でバーサーカーの巨体も後退、剣の傍に辿り着き、武器を拾い上げる。

目の前の存在を改めて考察するミュウツー。
やつの思考を埋めているのは強い闘争本能だけ。
しかし、それ故に思考するという過程が存在せず、経験や勘のみで攻撃を繰り広げる。
だからこそ、幻惑や精神に働きかけるような技は効き目を持たぬだろう。まさしく悪タイプのポケモンが格闘タイプに不利となるがごとく。

その特性は格闘タイプに近いだろうが、しかし目の前の存在はポケモンではない。
特性こそ近いものだが、その腕力や素早さはポケモンであればその相性の不利を覆すほどのものだ。



剣を携えたバーサーカーは再度こちらへとそれを振り下ろす。
回避するミュウツー、しかしそこに追撃するように脚部が振り回される。
ただの力任せの蹴りでしかないにも関わらず、その一撃はバリアを砕きミュウツーにも衝撃を届けた。

「ぐ…」

後退しつつも、バーサーカーに対してサイコパワーを向ける。
サイコキネシスのように念力を直接向けるのではなく衝撃波としてぶつける攻撃。
サイコブレイク。現時点で彼が持っている最大威力の攻撃。

それはバーサーカーの進撃を止め、体へと衝撃を伝えその身を破壊する。
はずだった。


「――――――■■■■■■■■■■■!!!」

バーサーカーは咆哮と同時に衝撃波を弾き飛ばした。
その体にはサイコブレイクによる傷は一つとしてついていない。

「な…、バカな、先ほどは確かに通用したはず―――」

つい数時間前は、サイコブレイクの一撃は確かにその体を削り取っていたはずだ。
しかし、今目の前にいる狂戦士には全くダメージが与えられていない。

(何かあの時よりも強化されたのか、それとも攻撃そのものに耐性をつけたのか…)

いずれにしろ、自らが持つ最大威力の攻撃を防がれたのだ。
サイコキネシスでは抑えきれず、物理的な攻撃手段に移ってもあの頑丈な体には大きな影響を及ぼしはしない。



再度、暴風のごとき勢いで剣を振りかぶる狂戦士。
二重のバリアでそれを受け止めるも、一枚は軽々と砕け散りもう一枚も少しずつひび割れていく。
さらにもう一重作り出すも、それでは受け止めきれない。

バーサーカーの押し込みはミュウツーの体を通して地面に衝撃を与え、コンクリート製の足場をも少しずつ砕いている。
このままバリアが砕ければ、この岩剣によってサイコパワーに支えられた体は砕かれることとなるだろう。

押し返すことは難くない。だが、それだけではこの狂戦士に勝つことはできない。
己のエスパー技でも抑えきれぬほどの圧倒的な力を相手に、どうするべきなのか。

ふと脳裏に、この巨人に立ち向かって散っていった一人と一匹の姿がよぎる。
状況に余裕があったわけではない。ただ急に思い浮かんできただけだ。

彼らはどうやってこいつと戦ったのか。
圧倒的な力を前に、それでもトレーナーの言葉に答えるように吠え、新たな力を手にしたあのポケモンは。

(…ぬ?)

そうしてあの光と咆哮を思い返したその時。
ふと、体に違和感を感じた。

それは破壊の遺伝子を、もう一つの自分を受け入れた時に感じた違和感。
体の中で何かが変質しようとするかのような、湧き上がる力。

(今の私なら、アレに届く――――?)

その時思ったアレがあの時のガブリアスを指したのかそれともバーサーカーを指したのかは自分にも分からない。

だが、超能力のみに頼り、その状況が打破できないままで最強のポケモンを名乗るなどは烏滸がましいものだと。
そんなこれまで考えたことのない思考が脳裏を占めたその時。



「ぬぅ――――――――!!」」

剣を受け止めるバリアを支えた両手のうち片方を、思い切り振りかぶってバーサーカーの体に叩きつけていた。

格闘の経験などない。
移動すらもほとんど超能力任せだったこの身が、自分の力だけで殴りかかったところでその威力はタカが知れている。

そのはずだったのに。
拳を打ち付けられた黒き巨体は轟音と衝撃と共に後ろに吹き飛んだ。

瓦礫の山を破壊しながら後ろに倒れこんだバーサーカー。
その前で、ミュウツーは小さく熱を帯び始める己の拳を見つめていた。

「これは……」

熱はやがて眩き閃光となり、拳から腕に、そして全身を輝きで覆う。
その光はミュウツーの体へと取り込まれていき、その肉体に変化を及ぼす。

細くスラっとしていた体は一回り太く変化し、背から肩にかけて盛り上がり紫色に変色する。
脚部にも同じような変化が及び、それまで地に付かず浮いていたために細かった足にも肉が付き、開いた指が直立する体を支える。

まるでそれまで足りなかった、念力に頼らぬ戦闘力を補うがごとく起きた肉体の変異。
最も驚いていたのはミュウツー本人。
しかしその理由に思い至るにも時間は掛からなかった。

(…なるほど。感謝するぞ、もう一つの私よ)

ミュウツーと破壊の遺伝子。
本来であれば出会うはずのない二つの物質。
破壊の遺伝子はミュウツーの体から摂取されたものであるその体の一部であるが、しかしその大元は今ここにいるミュウツーのものではない。

しかし、限りなく同一に近い二つのミュウツーの力はそれら本体の意思も関わった故か反発することもなく取り込まれその一部となった。

そのままの状態で完全であったミュウツーの体に、さらに加えられた自身の一部。
それはミュウツーの肉体そのものに大きな変化を及ぼした。

言うなれば、あの時ガブリアスがメガシンカした時にも近い肉体変化。

強靭な体と超能力を併せ持った、見方によってはXを示すようにも見えるその姿こそが、今ミュウツーに与えられた新たな力だった。



そんな体の変化を驚きつつも受け入れ、地を踏みしめ拳を構える。
ミュウツーにとっては初めて取る、戦いにおける構え、それをこれまでに戦った格闘ポケモンのものを真似るように。



「■■■■■■■■――――!!!」

吹き飛ばされたバーサーカーは、しかしそんなことに痛みを感じていないかのように起き上がり咆哮する。
そして、怒りをぶつけるがごとくミュウツーへと突貫、振り上げた岩剣を叩きつける。

対するミュウツーは、その場から動くこともなく振り下ろされた剣に向けて手をかざす。
その瞬間、バーサーカーの体を強力なサイコキネシスが包み、その動きを封じ込める。

先はそれで精一杯だった。しかし今ならその先にいける。
その進撃を止めたバーサーカーの脚部を横殴りに思い切り蹴り飛ばす。

グラリと揺れた巨体は、バランスを失い轟音を立てながら地面へと倒れ。

「―――!」

しかしすぐさま地に手を付き、倒れそうな勢いに任せて回し蹴りを放つと同時、その勢いを支えに態勢を立て直す。
咄嗟に腕を組みその蹴りを防ぐが、受け止めた腕に強い痺れがダメージとして残る。

「■■■■■■■■――――!!」

バーサーカーの追撃は止まらない。
そのまま、暴風の如き風を伴いながら幾度も振り下ろされる岩剣。

ミュウツーはその直撃だけは何としても避けるように、避け、防ぎ、受け止める。
見た目からは想像もできないほどに素早い連撃にはサイコキネシスを使う暇もない。

大振りの一撃を、懐に潜り込んでかわしたミュウツーは、その手に念力をもって作り上げた刃を生成。
そのまますれ違う瞬間、バーサーカーの脇腹をその刃で切り裂かんと腕を振るう。

鮮血が舞い、狂戦士の体に一筋の赤い線が走る。
浅い一撃ではない。アレに適用できる話かは分からないが、人間ならば内蔵まで届いているだろうほどの深さを切り裂いたはず。

だというのに。

振り向いたミュウツーに襲いかかったのは頭上から振り下ろされる影。
痛みに怯むこともなく、バーサーカーは反撃へと転じていた。

その手にまだ残っていたサイコカッターで受け止めるも、その全力の一撃には強度が足りず砕け散り霧散する。
剣の間合いから抜け出すために尾で地を叩き、飛んで距離をつける。
が、離れようとした瞬間、その尻尾をバーサーカーの手が掴み取る。

そのまま、流れるように腕を振るい尻尾からミュウツーの体を持ち上げ。
その膨大な筋力をもって地に叩きつけようと振り下ろした。


が、地につくかつかないかというところでミュウツーの体がバーサーカーの手の内から消滅する。

テレポート。自身や他者、あるいは物体を他の場所に瞬時に移動させる技。
その技を以ってミュウツーはバーサーカーのすぐ横に抜け出した。
そしてすかさず、目の前にあるそのバーサーカーの大木のような足を蹴り飛ばし。
バランスを崩して倒れこんだバーサーカーの顔面に、思い切り拳を叩きつけた。

受け身を取ることもできずに倒れこむバーサーカー。


「はぁ…はぁ……」

テレポートは可能な限り封じておきたかった技だ。
これまで様々な技を幾度も使用してきたが、この場においてはテレポートは妙に疲労が溜まる。
連発していては行動そのものに支障が出かねないだろう。

そんな、いわば奥の手に近い不意打ちを使ったこの攻撃。
しかし、それを受けてなおもバーサーカーは立ち上がった。

体を打ち付けられ、殴り飛ばされ、斬りつけられようとも、怯むことなくこちらへと向かってくる。
その顔や体は元々変色し素顔も認識できないほどの禍々しい色を放っていたが、今はその上に幾度となく殴られたことにより腫れ上がり変形してしまった部位も多く見られる。
脇腹にはサイコカッターによる、浅くない傷が残っており出血は止まっていない。

しかし、それでも痛みに呻くことも退くこともなく立ち上がる。
その姿は、まさに不屈の戦士とでも呼ぶにふさわしいものだろう。

もしそこにあるのが、ただ闘争本能の塊だけでさえなければ、ミュウツーとて称賛するに値したかもしれない。

「―――何故だ」

だからこそ、ミュウツーは問う。
それだけの力と、それを支えるだけの強い意思がありながら。
何故戦うことしかできないのか。
何が、この存在をそこまで戦いに駆り立てるのか。


「■■■■■■■■――――!!」

暴走する大型トラックのごとき勢いで突撃するバーサーカー。
そのまま振り下ろされた一撃を、バリアーとサイコキネシス、そして持ち前の筋力をもって受け止める。

力が拮抗し互いに動きが取れなくなった状態で、ミュウツーは問いかける。

「貴様は、何故戦っている!
 それだけの不屈の精神を持っていながら、何故そんな獣のように暴れることしかできない!」

問いかけに意味があるとはミュウツー自身思っていない。
きっと、こんなことを問うたとしてもこの狂戦士には聞こえていないだろうし、答えもしないだろう。

それでもミュウツーは聞かずにはいられなかった。

どこかで認めたくなかったのかもしれない。
一度は自分を撤退まで追い込み、そしてクロエ・フォン・アインツベルンとガブリアスにも打ち勝った存在が、ただ戦うことしかできない、強いだけでしかない者だということを。
それは、かつての自分の姿にも重なって見えていたから。

「――――答えろ!!」

そして、その剣を受け止めたその状態で。
ミュウツーはバーサーカーの目を真っ直ぐ見据え。

その奥にあるはずの、狂戦士の思考の中へと、意識を潜り込ませた。
他者を操ることすらも可能なテレパシー能力を持って。




大気すらも真っ白に覆い尽くすほどの吹雪が舞う雪の中。
全てが停滞したかのような、冷気しか感じぬ土地。
もし人間がそこにいれば、よほどの備えがなければ凍え死ぬのが当然だろうというような空気の中。

そこに、その巨体はあった。

全身を鮮血に染めたその巨人の視線の先にあったのは、同じように体を真っ赤に染めた小さな、雪のように真っ白な少女。
一瞬それが巨人が少女を襲ったが故のものかとも思った。
しかし周囲に転がっているのは、灰色の獰猛な獣達の死骸。
おそらくは巨人が少女を守ったことで、その返り血が巨人の肉体を濡らしたのだろう。

そして何より。

『―――バーサーカーは強いね』

少女が口にしたその言葉が、その想像を消し去っていた。
その言葉の中にあったのは、強い安心感、そして信頼だった。
少女が呟いた、おそらくは何気ない一言。その中には凍えそうな大気の中でも確かに感じ取れる温かみを、巨人は感じていた。





視界が切り替わる。



『――――■■■■■■■■■■■!!!』
『ダメ、戻って!バーサーカー!!』

そこは薄暗い森の中。
先の吹雪の中とは違う、木々が鬱蒼と生い茂った場所。

そこに立つ戦士は、少女の静止も聞かずに戦い続けていた。
その体は黒い何かが覆い尽くし、体の自由を奪っていく。
そして、その動けぬ隙をついてその身を斬りつける漆黒の騎士。

勝てる戦いではない。
サーヴァントを喰らう者と、最強とも言えるサーヴァント。
その二つを前にして、勝てるはずなどない。

ならばどうするのか?諦めて退くのか?

退けば、今後ろにいる少女はどうなる?


『――――■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!!』

そうだ、元より選択肢などない。
それが彼女に害を及ぼす存在だというのであれば、この身が裂けようと守りぬく。

身動きが取れぬならば、その身を覆う泥を肉ごと剥ぎ取って全身しよう。
例えこの身がどうなろうとも。

『――――――――■■■■■■■■■■■■■■■!!!』

彼女だけは何があっても守りぬく――――――


『―――――――約束された勝利の剣(エクスカリバー)』





そうして黒い閃光が体を包んだのが、最後にはっきりと認識できた光景だった。

その後はひたすらに、視界に度々現れる黒き騎士を滅するために戦うだけ。
しかし、いくら倒しても倒しても、それは消えることはない。
幾度も視界に現れ、主である少女を狙う。

だが、ある時かつてないほどに大きな存在を打ち倒した。
それはかつて打ち倒した12の試練にあった怪物にも劣らぬほどの、まさに騎士王に相応しい力を持った存在。

あれを倒せば、主を狙う存在は一つ消える。

だから、その命を3つ削り取られようとも屈せずに、それに抗い。
そして打ち勝った。

そのはずなのに。


―――強いわね、バーサーカー

もはや聴覚も機能していないはずなのに、その言葉が脳裏に響いた。
声も彼女とは違う、誰ともしれない者の声だったはずなのに。
その声を聞いた瞬間、記憶の中にあった唯一の声が遠ざかっていくような感覚に陥っていた。


ただ一つの、戦う理由であったはずの声が霧散していったその時。
戦う理由を見失い、傷を癒やすために蹲っていることしかできなかった。


だが、そんな時にまたあの騎士王の姿が見えた。


『――――――――■■■■■■■■■■■■■■■!!!』

ならば、倒さなければならない。
幾度も現れる騎士王が何なのか、何故何度も現れるのか。
そんなことは些細なものだ。

例え戦う理由がなくとも。

あの騎士王だけは打ち倒さねばならないのだから―――――――







「―――――――!!」


意識を戻したミュウツーは、腕、肩、腰、腹、足、全ての筋力をかけてバーサーカーの体を押し返す。
体を押し出されたことで足が一瞬地から離れた瞬間、サイコキネシスを繰りバーサーカーの体を一気に吹き飛ばした。

しかし地に体が迫ったその瞬間、サイコキネシスを破り、腕をつきながらも着地を成功させる。



(…今のは、やつの記憶の断片……?)

思わずテレパシーでバーサーカーの思考を読み取った。
そこには、もしかするとこの狂戦士が何を思い戦っているのかの欠片だけでも存在するのではないかと、そう思ったから。

そして、確かに見えた。

雪のように真っ白な肌をした、かつて自分も見たことのある顔によく似た小さな少女の姿を。


(―――こいつは、戦闘本能に任せて暴れるだけの獣ではない)

ミュウツーは悟った。
目の前の存在は、この圧倒的な力と不屈の精神を持った巨人は。
守るべきものと戦う理由を備えた、れっきとした戦士なのだと。

そして、彼自身が今何を思い戦っているのかも。

記憶に見えた白い少女。
その姿が、ほんの一時共に行動した、赤い外套を纏った少女の顔と被って見えた。

つまりは、ヤツはクロを殺した事実に苦しんでいるのではないか。
自分の守らなければならない者と似た存在を殺したことに。


思考するミュウツー、しかしバーサーカーはそんな彼を待ちはしない。
ただただ一直線に、こちらへと攻めこんでくる。

「ならば――――――」

その愚直なほどに真っ直ぐで、しかし力強い踏み込みを見ながら。
ミュウツーは再度、バーサーカーの思念にテレパシーを念じる。


「――――思い出せ、貴様が戦う理由を!」

ミュウツーは問いたかった。
そこまで傷つき戦う戦士が守りたいものの、その中にある想いを。

だから、思い出させようと自分が今見たバーサーカーの記憶を、念力でその思考に送り込んだ。

走るバーサーカーの足が、目の前に辿り着いた辺りで止まる。
振り下ろされかけた剣から、力が抜ける。

(―――うまくいったか?)

その成否を確かめるため、再度話しかけようとしたミュウツー。
が、しかし。

次の瞬間、その体は浮遊感と共に宙を舞い、地面へと叩きつけられていた。


ミュウツーが読み取ったバーサーカーの記憶、それはあくまでもバーサーカーの持つ記憶のみにすぎなかった。
加えて、クロと情報交換を行った時もバーサーカーという存在について入り込んだことは聞いていなかった。

だからこそ、勘違いしてしまった。
狂戦士を戦いに駆り立てる狂気が、ポケモン達でいう混乱の上位にあるようなものではないか、と。
戦う理由さえ思い出せば狂戦士は止まるのではないか、と。

しかしヘラクレスに植え付けられた狂気、それはバーサーカーというクラスに当てはめられたことで、言語による会話すらもままならないほどに狂化させられたもの。
例え、戦う意義や理由を思い出したところで狂気は解けはしない。

加えて、今のバーサーカーは泥に取り込まれたことで感覚のほとんどを失っている。
全身を蝕む痛みに耐えながら戦っているそんな状態は、狂化中に僅かにでも残っていた戦略的な眼すらも失わせている。
イリヤを守るためにセイバーを倒す。それ以上の思考など存在していなかった。


そんな彼が、戦う理由の思念をはっきりとぶつけられたらどうなるだろうか。



狂戦士は走る。

撤退するわけではない、ましてや逃げるわけでもない。
ただ、ほんの少しだが思い出したのだ。

あの脳裏に奔ったノイズの奥にあった、大切なものを。
何よりも守らねばならないものを。

それを認識した時、戦うこと以上にやらねばならぬことの存在に気付いてしまった。

だからこそ、狂戦士は走る。
ほんの僅かに残った痕跡を確信にして、彼女を探すために。




「ぐっ…」

咄嗟の事でまともに反応することができなかった。
尻尾を捕まれ地面に叩きつけられる瞬間、バリアを全身に張ることで衝撃を和らげることがせいぜいだった。

周囲を見回すが、バーサーカーの姿はない。
しかしここから離れるように走る足音が爆音となって聞こえる。

体を起こしたミュウツーは、一旦体から力を抜く。
するとその身を覆っていた筋肉は元のすらっとした体へと戻った。
体に感じていた疲労が若干軽減された気がする。あの形態でいることは体に負荷がかかるようだ。

今は戦いではなく、バーサーカーを追うために行動しなければならない。
速度自体はそう変わらないように感じた以上、今あの姿でいるメリットは薄いのだ。

「奴は、一体どこへ向かっている―――?」

思考に費やす時間も惜しいほどの速度で移動を続けるバーサーカー。
それを追って、ミュウツーは空へと向けて飛翔した。


バーサーカーが向かう先。
それが偶然なのか、それとも何かに引き寄せられて向かっているのかは分からない。

ただ確かなことがあるとすれば。
その進行方向には間桐邸が、イリヤスフィール・フォン・アインツベルンが確かに留まっている施設があるという、その事実だけ。


【E-4南西部/市街地/一日目 午後】

【バーサーカー@Fate/stay night】
[状態]:黒化、十二の試練(ゴッド・ハンド)残り1、全身に殴傷、脇腹に切り傷
[装備]:バーサーカーの岩剣(刃渡りが半分くらいの長さまで消滅)@Fate/stay night
[道具]:なし
[思考・状況]
0:■■■■■■
[備考]
※バーサーカーの五感は機能していません。直感および気配のみで他者を認識しています
※灰化、逆光剣フラガラック、ザ・ゼロ、サイコブレイク、ドラゴンダイブへの耐性を得ました
※走行中です。進行方向には間桐邸があります
※放送は聞き逃しました。というよりそもそも放送を認識できていません

【ミュウツー@ポケットモンスター(アニメ)】
[状態]:ダメージ(中)、疲労(大)、全身に打撲
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、クラスカード(アーチャー)@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ、不明支給品0~1(確認済み)
[思考・状況]
基本:己の居場所を見つけるために、できることをする
1:バーサーカーを止める
2:プラズマ団の言葉と、Nという少年のことが少し引っかかってる。
3:できれば海堂、ルヴィア、アリスとほむらとはもう一度会いたいが……
4:プラズマ団はどこか引っかかる。
5:サカキには要注意
[備考]
※映画『ミュウツーの逆襲』以降、『ミュウツー! 我ハココニ在リ』より前の時期に参加
※藤村大河から士郎、桜、セイバー、凛の名を聞きました。 出会えば隠し事についても聞くつもり
※桜とマオとスザク以外の学園に居たメンバーの事を大体把握しました(あくまで本人目線)
※破壊の遺伝子を受け入れた影響でフォルムチェンジが可能になりました。能力、姿はメガミュウツーXに酷似したものです。
※テレパシーを通じて、バーサーカーの思念を読み取りました。

120:この醜く残酷で、美しく優しい世界(後編) 投下順に読む 122:マドルチェプリンセスの憂鬱
時系列順に読む 123:永遠フレンズ
103:HORIZON-金色の奇跡 バーサーカー 127:少女よ立ち向かえ―進撃の狂戦士
113:我ハココニ在リ ミュウツー


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