「Natural」

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「Natural」 ◆4EDMfWv86Q


 地上に星が散らばっている。
 時刻は深夜。闇に落ちた空は暗く沈んでいる。
 家やビルなどには明かりが点っておらず、さながら深海の底のようだ。
 だが、海の底には自ら発光する生命がひしめいてるように、この街にも光が存在した。
 海にたゆたう海月。
 空を踊る蛍。
 電気による人工的なイルミネーションが、地上に点在する星々を模していた。
 その星のひとつ―――名称で示すならC-5、遊園地のベンチに彼はいた。

 人の、生命の気配が限りなく希薄な、静寂のセカイ。
 それでいて、家やビルといった人々の生活の足跡が残っている矛盾。
 未だ知る者は少ないだろうが、異なる時空より集められた人間という錯綜。
 神々が見捨てたディストピアで行われるのは、生存の闘争。
 一人のみが生きることを許された殺し合い。
 充満する敵意。
 たちこめる殺意。
 取り巻く雰囲気だけでなく、セカイそのものもまた歪んでいる。
 ここに閉じ込め、殺し合わせるためだけに創造されたような、ひどく曖昧な空間。
 そんな、何もかも狂っているセカイにいてもなお。
 その青年は、それに呑まれぬ異質さを放っていた。

 鮮やかな緑の長髪を束ね、キャップをかぶる姿。
 ハイライトのない目はしかし、ただひとつの目的を見据えた決意が宿っている。
 例え、世界を分け隔て越えた異界の住人であることを参加者が知らなくとも。
 ひと目で「違う世界に生きている」と思わせる、格の違いがあった。

 その名はN(エヌ)。
 全てのトモダチ―――ポケモンを解放に導くプラズマ団の王である。


 □ □ □ □



「……は、いないようだね」

 呟いた声にあるのは、安心か、それとも残念なのか。
 考えてもそれの答えは定まらないまま、『プレイヤー』の名前が記された名簿を読み終える。
 道具の確認もし終え、近くに人がいる気配もなし。今しばらくは危険がないだろう。
 そこで漸く、ベンチに腰かけボクは己の記憶を追想する。

 モンスターボールで拘束し、戦いを強要するトレーナーの手からポケモンを解き放つための力を求めて流れた旅路。
 至った答えは一つ、イッシュ地方を創り出した伝説のポケモンをパートナーにし、英雄になること。
 経過は最終段階へと入っていた。イッシュ地方を創造した伝説の竜―――
 彼に認められ、その力を手にし自分は英雄足る資格を得る。
 あとはポケモンリーグのチャンピオンを倒し、最も強きトレーナーとして人々からポケモンを手放すよう宣言する。
 そうすることで、人とポケモンは分かたれ、それぞれの道を歩める。
 人はヒトの世界、ポケモンはポケモンの世界、あるべきところへと還る。

 理想の成就まであと一歩。
 ベストなメンバーで臨むべく共に戦うトモダチを選んでいた矢先に―――この事態だ。



「………………」

 手にした紅白の球体を忌々しげに掴む。
 モンスターボール。ポケモンを捕まえ所有者の意のままに操る道具。
 スイッチを押し、おもむろに放り投げる。
 ボールが開き、トモダチが解放される。

「ピーカー! …………チュウ?」

「ピカチュウか……」

 黄の体色に電気袋、ぎざぎざ尻尾の可愛らしいトモダチがあらわれた。
 イッシュ地方には生息していないポケモンだ。遠いカントーという島のみにいるらしい。
 その地方で伝説と謳われるチャンピオンのパートナーであり、それ以降人気が爆発的に増えたと聞いた覚えがある。
 体のいいプロパガンダだな。そう心中で毒づきながらも手を伸ばす。

「怖がらなくていい。ボクはキミの味方だ」

「ピカ?」

「ボクと……トモダチになっておくれ」

 トモダチは、初めて見る顔に警戒をしている。
 両頬の電気袋から電流が走る。でんきタイプの特徴のひとつだ。
 目の前にあった指が痺れるが、なんの問題もない。敵意によるものでないと分かるからだ。
 狼狽えることなく、己のラブを彼に示す。
 そして彼は戸惑いつつも、やがてその指を受け入れてくれた。
 いい毛並みだ。ケアが行き届いてる。トレーナーの愛情が肌から伝わってくる。
 かなり鍛えられてるようだ。長い間旅をしてきたろうにかかわらず体に傷はない。
 喉をさすってあげる。気持ちよさそうな表情だ。伝わる感情も心地よい。

「ボクの名前はN。キミ達ポケモンを救う者だ」

「チュウ? ……ピカピ! ピカピチュウ?」

「サトシ―――それが君のトレーナーの名前か」

「ピカッ!」

 両手で抱き上げ、彼の話に耳を傾ける。
 ポケモンは正直だ。ピュアな心でありのままを教えてくれる。
 そうやってボクはさまざまなポケモンと話をしてきた。
 今回も、どんな状況でもそれは変わらない。
 トモダチを通して、彼のトレーナーの姿を見通す。

「ピカピー、ピカピカチュウ、チューピカア、ピッピカチュウ! チュー……ピカッチュウ!」

「………………そうか、キミはトレーナーにとても愛されてるんだね」

“ああ―――まただ”

「チュウ……?」

 このポケモンは、自身のトレーナーに絶対の信頼を抱いている。
 トレーナーもまた、彼に惜しみない愛情を注いでいる。
 そして、トレーナーと共に旅をし、戦うことを心の底から喜んでいる。
 ヒトとポケモンの理想の関係、彼らの間には確かにそれが築かれていた。
 ―――と同じように。
 ボクの部屋には、ヒトに傷付けられ、ヒトを恨むポケモンしかいなかったというのに。

「チュウ……?」

「―――ああ、なんでもないよ。分かってる、一緒に君のトレーナーを探してあげるよ」

「ピカー!」

 ベンチに降りて人懐っこく擦り寄ってくる。
 探してくれるのがよほど嬉しいらしい。
 サトシ……その名はこの会場にいるという名簿に記されている。
 つまりはこの儀式のプレイヤー、いつ襲われるともしれないということだ。
 トモダチに悲しい思いをさせるわけにはいかない。出来るだけ早くに会わせてあげたい。
 目的をひとつ定めながら、擦り寄るトモダチを優しく撫でてあげた。




 ■ ■ ■ ■



「世界を大きく変える不確定要素……しかし、これは数式ですらない。
 ひたすら無意味にカオスを生み出すだけの暴論だ。
 方式を崩し、ただの数字の羅列に変えてしまうこの行為、ボクは受け入れられないな」

 カオスと称するに相応しいこの空間。
 Nというひとつの要素は何の役割を果たすべきか。何を成すべきか。



 まず第一に、Nは争いを好まない。
 また、人間を憎んでるわけでも蔑んでるわけでも、滅ぼしたいと思ったこともない。
 彼はただ、虐げられているポケモン達を救いたいと願っているだけだ。
 レベル上げと称し経験値の高いポケモンを追い回す。
 薬物投与で強制的に肉体を増強させる。
 種族の個体値を厳選すべく無意味に繁殖を繰り返させる。
 そんな負の連鎖を断ち切るためだけに己は立ち上がったのだ。
 ましてや、トモダチであるポケモンを戦いの道具に使うなど言語道断だ。
 力で押さえつける支配は、必ず反発を生む。
 そして、人同士での争いに真っ先に道具として使われるのは罪なきポケモンだ。
 自分の手にもポケモンが与えられてある。ならば他のプレイヤーにも同じ処置が与えられているだろう。
 アカギと名乗る男に恐れおののいた人々は心を乱され、保身に走り、ポケモンで他の人を襲わせてしまうだろう。
 その未来を、Nは何より憂う。
 故に、『儀式に賛同し殺し合いに乗る』という選択肢は切り捨てる。



 第二、自らが知るプレイヤーについて。
 名簿の中にはNが知る名前がいくつかある。直接顔を知るのはゲーチスひとりだ。
 プラズマ団の七賢人の頭角。自分の―――少なくとも形式上の―――父親。
 同士のひとりとして助けないわけにはいかない。彼なら得意の弁舌で上手く乗り切ってくれてるかもしれないが。
 オーキド。ポケモン研究者の第一人者でポケモン博士の仇名を持つ、ポケモン図鑑の開発者。
 図鑑の存在は認めがたいものがあるが、本人そのものは非力な老人だ。
 積極的に探す気はないが、会えるものなら一度話がしてみたい。
 シロナ……シンオウ地方でのポケモンリーグのチャンピオンであるトレーナー。
 全大陸にわたってポケモン解放を呼びかけるなら、彼女との対決も避けられない。
 しかるべき段階に、鉾を交えることになるだろう。
 数年前に解散した、ポケモンを使って悪事を行うロケット団のリーダー・サカキの名もそこにあった。
 それだけでも憤るには十分だが、トレーナーの模範たるべきジムリーダーだったという事実がなお許せない。
 人とポケモンが交わる、灰色の混沌たる世界。その極地たる男だ。

 並び立ててみたが、それぞれの人物に興味はあれど、何よりも優先すべき事項とも思えない。
 ならば、やはりあれについて考えてみよう。
 ここに送られる前より、さらに言うなら灰色の怪物に変身した男が吹き飛ばされた出来事を。

(人からポケモンのような姿になった人も気になるけど……それ以上にボクの心を打つものがあった。
 あの時何があったかはボクには見えなかった。見えたのは彼が吹き飛ばされたことだけ。
 けれど確かに聞こえていた。二匹のポケモンの悲しみ、苦しみ、助けを求める声が……)

 ポケモンの声を聞くという、稀有な力を持って生まれた落し子。
 だからこそポケモンの感情を誰よりも正確に知ることができる。
 あの瞬間Nの心に飛び込んできたのは、重く、鋭く、悲痛なイメージ。
 ほんの一瞬しか伝わらなかったが、その時の思いは今でも胸に突き刺さるように残っている。

「アカギに、ギンガ団……」

 儀式の主催者として現れた男。その顔と組織の名前にも覚えがあった。
 宇宙エネルギー開発の団体だが真の目的は、伝説のポケモン使った『新しい宇宙』を創造するためだという。
 そのポケモンの名は、ディアルガ、パルキア。
 シンオウ神話に伝わる時と空間を支配する神だ。
 その言い伝えが真実であり、彼らを自在に操ることができるのなら、これだけの空間を創り出すのも不可能ではないだろう。

「ならボクは、彼らを救わなければならない」

 己の目的のためだけに、無理強いさせてポケモンを道具のように使う。
 それはNが最も忌み嫌う所業だ。捨て置く道理はない。
 全てのポケモンの英雄になるためにも。
 そして自分自身がポケモンを救いたいと願う故に。



 方針は決まった。
 殺し合いには乗らない。アカギからトモダチを解放する。
 両立するのは一見、いや実際難しい。
 しかし、これは可能性の問題ではない。
 Nというパーソナル、その存在の維持のためにはこれ以外取りようがないのだ。

「解答は既に明らかになっている。ならあとは、それを満たす数値と符号を入力すればいい。
 答えとイコールで結ばれる、世界に散りばめられた計算式……必ずあるはずだ。」

 世界とは、いわば無数の数式の集合体だ。
 風の流れ、水のせせらぎ、草の成長、全ては計算により成り立っている。
 この造られた歪な世界でも、それは変わらない。
 そこから必要な値を抜き出し式に当てはめれば、答えは自ずと導かれる。

 アカギは言った。殺し合いをよしとしない者もいるだろう、そのための呪印だと。
 そう、自分と同じくこれに反抗する者は少なからずいる。
 力を持つ者、技を持つ者、知恵を持つ者、心を宿す者。
 つまりは、共に進む仲間が必要ということだ。
 数は力だ。多いというだけでそこには大きな力が宿る。プラズマ団もそうやって隆盛した。
 名前の他に知るものはない、まさに不確定のブラックボックス。
 その中で、世界の真実を示す方程式を明らかにする。
 ただ一人になるまで戦うことなく、アカギの元へと辿り着く手段を見つけ出す。
 それこそが、この場でのNの使命。英雄になる条件だ。

「ん……?」

 近くで、光が点滅しているのが分かる。
 今いる場所は遊園地、人が楽しむアトラクション施設の集まりだ。
 ジェットコースター、メリーゴーラウンド、おばけやしき、エトセトラ。
 トランプやスロットゲームのコーナーもある。
 観客ひとり、乗客ひとりいないというのに、明かりは健気に来場者を誘い続けている。
 何かありそうではあるが、生憎遊びに興じる暇は今のNにはない。
 このまま通り過ぎるのが筋だが…しかしNは足を止めてしまう。

「観覧車か……」

「ピカ?」

 視線の先には、巨大な車輪に吊るされた無数のゴンドラ、観覧車と呼ばれるアトラクション。
 Nがイッシュを旅してきた中で、最も興味を引かれたもののひとつだ。

「ボクは観覧車が大好きなんだ。
 あの円運動、力学の賜物、美しい数式の集まり……惚れ惚れする」

「ピカー……?」

「フフッ。分からないかい? それじゃあ一緒に乗るとしよう。
 上から見れば、キミのトレーナーも見つかるかもしれないよ」

 実際、上から辺りの景色を眺めればそれなりに状況を把握できるだろう。
 もうひとつのアイテムに双眼鏡があるのも都合がいい。

「ピカッチュ!」

 足からよじ登り、肩に乗ったピカチュウを連れて歩き出す。
 サトシというトレーナーもこうして連れ歩いてきたのだろうか。
 全てのトレーナーがこうやってポケモンと触れ合えたら、こんなに嬉しいことはないのに。

(……もし、ボクを襲う者が現れた時、ボクは彼をどうしてしまうのだろう)

 ふと、そんなことを考えた。
 第六感はぼんやりと警鐘を鳴らしており、計算でもそうなる確率は高いと出ている。
 N自身は身体能力に秀でてるというわけではない。いざ戦いとなれば、この小さなトモダチを前に出すことになってしまうだろう。
 ポケモン同士の勝負なら、まだいい。
 それもまた苦しい争いだが、チャンピオンになるために乗り越える覚悟はできている。
 しかし、相手がただの人間であった場合には、それすら許されない。
 死ぬつもりはない。自分には残した使命がある。追い求める理想がある。
 だが、それでトモダチを傷つけさせてはロケット団と同じだ。目的のためにポケモンを利用する悪しき行為だ。

「ピカピカチュ……ピーカチュウ」

 そんな心の機敏をみぬいたのか、ピカチュウが声をかけてきた。
 ハートの奥に届いた思いは、澱みなき意思。
 キミを守るという、親愛の表明だった。

「ボクを……守ってくれるのかい?」

 その言葉は、何ものにも耐え難い力強い応援だ。
 当然、安易に戦わせることなどしない。
 けれど、その言葉があれば、自分を見失うことなく強く在り続けられると思えた。

(もう何も恐くない。ボクにはずっと、トモダチが付いているのだから)

 未来は暗礁に立ち上げ、望む結末はひとつとして見えない。
 けれど、一人ではない。傍らには、生まれた時からのトモダチが一緒にいてくれる。
 それだけで力が湧いてくる。体が軽くなり、不可能なことがないかのような気分になる。
 恐れず、驕らず、自然ありのままに歩を進める。

 王の旅路が、始まった。






【C-5/遊園地/一日目-深夜】
【N@ポケットモンスター(ゲーム)】
[状態]:健康
[装備]:サトシのピカチュウ(体力:満タン)@ポケットモンスター(アニメ)
[道具]:基本支給品、カイザポインター@仮面ライダー555
[思考・状況]
基本:アカギに捕らわれてるポケモンを救い出し、トモダチになる
1:観覧車に乗ろう、話はそれからだ
2:世界の秘密を解くための仲間を集める
3:ピカチュウのトレーナー(サトシ)を探してあげたい
4:人を傷付けはしない。なるべくポケモンを戦わせたくはない
5:シロナ、オーキド、サカキとは会って話がしてみたいな。ゲーチスも探しておこう
[備考]
※原作での主人公が男性/女性なのか、手にした伝説のポケモンがゼクロム/レシラムなのかはぼかしてあります。
※アカギおよびギンガ団についてある程度のことを知っています。
※アカギの背後にいた存在(ポケモン)の声を聞きました。Nはディアルガとパルキアと予測しています。
※ピカチュウとトモダチになりました。モンスターボールから出したままです。

【サトシのピカチュウ@ポケットモンスター(アニメ)】
サトシが最初に手にしたポケモン。でんきタイプ。ギザギザしっぽがトレードマーク。
マサラタウンから片時も離れず冒険しているのでレベルはかなり高い。
いまやすっかりポケモンメーカーのマスコットキャラである。

【カイザポインター@仮面ライダー555】
仮面ライダーカイザの専用ツール。デジタル双眼鏡型ポインティングマーカーデバイス。
カイザの右足に装着しライダーキック「ゴルドスマッシュ」を放つ。
通常の双眼鏡としても使用可能。


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初登場 N 「No Name」


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