ドラフト会議を一般のファンも見学できるようになったらしい。
一高校生の進路を見世物にするとは何事かという声もあったようだが、ファンにとって球団の明日を担っていく人材が選出される場を生で拝見できるというのはまたとない経験となるのだろう。
一高校生の進路を見世物にするとは何事かという声もあったようだが、ファンにとって球団の明日を担っていく人材が選出される場を生で拝見できるというのはまたとない経験となるのだろう。
◇ ◇
プロ志望届けを高野連に提出したのは橘みずきが一番最初だった事は、彼女の性格からしてそうするべくしてそうなったのだろう。
事実として複数球団が獲得に動いているという報道はされていたし、実際聖タチバナ学園に球団関係者が挨拶に来たこともある。客寄せパンダとしてではなく、実力を買われての指名になることは間違いなかった。
一方で。
締め切り直前になってまるで大学の願書を友達も出してるし自分も出しておこうという勢いでプロ志望届けを提出した者がいた、聖タチバナ学園2番手投手の小波、その人だった。
マスコミによる過剰な女性バッテリーの報道の裏に隠れがちだが、小波は地方予選、本大会と計13試合66イニングを投げ防御率1.86を記録。先発の橘の後を継ぐ中継ぎとして存在感を示した。
が、当時過剰する報道は聖タチバナ学園が一つ駒を進めるたびにこぞって橘みずきと六道聖の女性バッテリーを取り上げ、しだいにはいくつかの特集番組も組まれるようになっていった。
勝手に盛り上がってくれる分には結構な事だが、それがやがて選手のプライベートにまで及び出した。
専ら標的に挙げられたのは小波だった。
事実として複数球団が獲得に動いているという報道はされていたし、実際聖タチバナ学園に球団関係者が挨拶に来たこともある。客寄せパンダとしてではなく、実力を買われての指名になることは間違いなかった。
一方で。
締め切り直前になってまるで大学の願書を友達も出してるし自分も出しておこうという勢いでプロ志望届けを提出した者がいた、聖タチバナ学園2番手投手の小波、その人だった。
マスコミによる過剰な女性バッテリーの報道の裏に隠れがちだが、小波は地方予選、本大会と計13試合66イニングを投げ防御率1.86を記録。先発の橘の後を継ぐ中継ぎとして存在感を示した。
が、当時過剰する報道は聖タチバナ学園が一つ駒を進めるたびにこぞって橘みずきと六道聖の女性バッテリーを取り上げ、しだいにはいくつかの特集番組も組まれるようになっていった。
勝手に盛り上がってくれる分には結構な事だが、それがやがて選手のプライベートにまで及び出した。
専ら標的に挙げられたのは小波だった。
女性との分業についてどう思うか?
自分より優れている女性をどう思うか?
女性の後に投げる気持ちは?
女性にマウンドを任せて不安ではないか?
自分より優れている女性をどう思うか?
女性の後に投げる気持ちは?
女性にマウンドを任せて不安ではないか?
練習の合間、学校から家への帰り道、就寝前にも関わらず鳴り止まない電話、インタビューという名の尋問。
聞かれる事と言えば「橘みずき」と「六道聖」の事ばかり。
まだ自分について尋ねられるならまだしも、聞かれるのは他人の事ばかり。
聞かれる事と言えば「橘みずき」と「六道聖」の事ばかり。
まだ自分について尋ねられるならまだしも、聞かれるのは他人の事ばかり。
──、ぶっちゃけ小波くん、どっちかと付き合ってるでしょ?
笑顔で否定。
野球とは関係ない質問にも声色一つ、顔色一つ変える事がなかったのは小波がキャプテンだったからか、はたまた二人の実力を認めていたからか、それとも……。
野球とは関係ない質問にも声色一つ、顔色一つ変える事がなかったのは小波がキャプテンだったからか、はたまた二人の実力を認めていたからか、それとも……。
「ふう」
ため息を一つつくくらいは許されるだろうか? 時計の針がぴたりと重なった。ああ、明日は筋肉痛だろうな。
「それにしても、えらい注目のされ方だな」
矢部くんあたりが余計な事を喋ってなければいいけど。
悪い予感は当たるとは、誰の台詞だっただろうか?
ため息を一つつくくらいは許されるだろうか? 時計の針がぴたりと重なった。ああ、明日は筋肉痛だろうな。
「それにしても、えらい注目のされ方だな」
矢部くんあたりが余計な事を喋ってなければいいけど。
悪い予感は当たるとは、誰の台詞だっただろうか?
「ねえねえ、小波くん。もうファーストキスは済ませたの?」
「どっちから告白したの? ねえねえ教えてよ」
「告白はやっぱりマウンドの上で?」
「付き合う馴れ初めを教えて欲しいなあ」
「校内では誰もが認めるカップルだそうだね! その話を聞かせてよ」
「どっちから告白したの? ねえねえ教えてよ」
「告白はやっぱりマウンドの上で?」
「付き合う馴れ初めを教えて欲しいなあ」
「校内では誰もが認めるカップルだそうだね! その話を聞かせてよ」
着替えを済ませてロッカーを出たらこの有様だから苦笑いさえも出なかった。
何事かと思い、矢部の方をチラリと伺うと「ビクッ」という擬音を残して去ってしまった。
わかりやすすぎるダイイングメッセージだと思う。いや、死ぬわけじゃないからこれはおかしいか。
とかくその場はマネージャーの三条院麗奈がうまく記者を追いやってくれたお陰で収まった。
だがそれも焼け石に水と言うべきか、新しい記事の種を見つけた彼らは小波から何か一言コメントをもぎ取るまでは諦めないだろう。
見上げたジャーナリズムである。
何事かと思い、矢部の方をチラリと伺うと「ビクッ」という擬音を残して去ってしまった。
わかりやすすぎるダイイングメッセージだと思う。いや、死ぬわけじゃないからこれはおかしいか。
とかくその場はマネージャーの三条院麗奈がうまく記者を追いやってくれたお陰で収まった。
だがそれも焼け石に水と言うべきか、新しい記事の種を見つけた彼らは小波から何か一言コメントをもぎ取るまでは諦めないだろう。
見上げたジャーナリズムである。
「何か聞かれたの?」
ぶずっとした表情で橘みずきが問う。
ブルペンで肩をつくりながら、
「別になんでもないよ、みずきちゃん」
ボールと一緒に笑顔を投げる。
六道聖は二人のウォームアップが完了するまでシートノックに混ざっていた。
「そう」
ならいいけど、いい加減あいつらしつこいわよね。
ボールと一緒にそっけない言葉と表情が帰ってきた。
地方大会決勝では行き詰る投手戦を勝ち抜いた、並んだゼロの数は両軍合わせて26にも及んだのは野球部の記憶に新しい。
もちろん勝ち抜いた事は聖タチバナ学園にとって自信になり、財産になったわけだが……苦しい台所事情、投手が二人しかいない現状では誰に負担がかかっているか明白だった。
だから、小波は言葉を選んだ。
何もないから、心配するな。
それ以上みずきは何も聞かなかったし、たとえ聞かれたとしても小波は何も答えなかっただろう。いまは野球にだけ集中できればそれでいい、それが二人の信頼関係だった。
ぶずっとした表情で橘みずきが問う。
ブルペンで肩をつくりながら、
「別になんでもないよ、みずきちゃん」
ボールと一緒に笑顔を投げる。
六道聖は二人のウォームアップが完了するまでシートノックに混ざっていた。
「そう」
ならいいけど、いい加減あいつらしつこいわよね。
ボールと一緒にそっけない言葉と表情が帰ってきた。
地方大会決勝では行き詰る投手戦を勝ち抜いた、並んだゼロの数は両軍合わせて26にも及んだのは野球部の記憶に新しい。
もちろん勝ち抜いた事は聖タチバナ学園にとって自信になり、財産になったわけだが……苦しい台所事情、投手が二人しかいない現状では誰に負担がかかっているか明白だった。
だから、小波は言葉を選んだ。
何もないから、心配するな。
それ以上みずきは何も聞かなかったし、たとえ聞かれたとしても小波は何も答えなかっただろう。いまは野球にだけ集中できればそれでいい、それが二人の信頼関係だった。
こんな質問を投げかけられたこともあった。
「どちらが投手として優れていると思うか?」
不毛な問いだと小波は考える、チームが勝てばそれでいい。自分はチームの勝利に必要とされる人材ならばそれでいい。
投げる順番がどうとか、エースだの背番号がどうだのは小波にとって二の次だった。一番は大好きな野球を目一杯プレーすることにあるからだ。
一つのボールを泥まみれになるまで追いかけて、手のマメを潰してバットを振って、ユニフォームが土でボロボロになって一日の練習が終わる。
そんな日常の中に実を置くことこそが小波が望んだ環境であり、手に入れたかったものでもある。
聖タチバナを選んだ理由はまさに「それ」だった。高校を選んでいた時に目にはいったグランドで、変な頭の生徒が投球練習らしきものをしていた。
一人で。
よく見れば小奇麗にグランドは整備され、待ち人来たれとばかりに声をあげている様だった。衝撃をうけた、ここしかない、直感だった。
ここなら、生活の全てを野球に費やせる。後の事は眼中になかった。そう、実は部員が足りていない事など。
「どちらが投手として優れていると思うか?」
不毛な問いだと小波は考える、チームが勝てばそれでいい。自分はチームの勝利に必要とされる人材ならばそれでいい。
投げる順番がどうとか、エースだの背番号がどうだのは小波にとって二の次だった。一番は大好きな野球を目一杯プレーすることにあるからだ。
一つのボールを泥まみれになるまで追いかけて、手のマメを潰してバットを振って、ユニフォームが土でボロボロになって一日の練習が終わる。
そんな日常の中に実を置くことこそが小波が望んだ環境であり、手に入れたかったものでもある。
聖タチバナを選んだ理由はまさに「それ」だった。高校を選んでいた時に目にはいったグランドで、変な頭の生徒が投球練習らしきものをしていた。
一人で。
よく見れば小奇麗にグランドは整備され、待ち人来たれとばかりに声をあげている様だった。衝撃をうけた、ここしかない、直感だった。
ここなら、生活の全てを野球に費やせる。後の事は眼中になかった。そう、実は部員が足りていない事など。
30球ばかりお互いが投げあった頃、聖が防具をつけてブルペンに走ってきた。
貴重な練習の時間を一秒でも増やそうという後輩の思いやりに小波ばかりでなくみずきも思うところがあった様子で、
「さあ! はじめるわよ! 止まってなんかいられないんだから!」
やる気まんまんといったご様子だ。
遅れて矢部も防具を付けて参上したわけだが、投球練習が終わった後にはまさに惨状という言葉がお似合いの表情をしていたのは誰も知らない事である。
貴重な練習の時間を一秒でも増やそうという後輩の思いやりに小波ばかりでなくみずきも思うところがあった様子で、
「さあ! はじめるわよ! 止まってなんかいられないんだから!」
やる気まんまんといったご様子だ。
遅れて矢部も防具を付けて参上したわけだが、投球練習が終わった後にはまさに惨状という言葉がお似合いの表情をしていたのは誰も知らない事である。
◇ ◇
さてさて、そんな二人が唯一くつろげる場所と言えば、部室であった。
小波はストッキングを片方だけ脱いで、落ちていた雑誌をひょいと拾い上げる。
パラパラとめくりながらある記事が目に留まった。
「分析! 甲子園出場高校のデータ集!」
なんともありがちな記事である。
下馬評など一部の高校野球マニアくらいしか見る者はいないだろうに、この手の記事がなくならないのはその高校野球マニアの多さに起因する。
この記事によると一応、自分達の評価は最低の「Dランク」らしい。
通常AからCまでで評価されるこのランクは、前年度優勝高校であったり、春の優勝高校であったりする場合のみSランク評価が付く場合があるらしい。
だがしかし、初出場ということもあるがDランク評価はいくらなんでもひどい、出場49高校中最下位だ。ちなみにDランクをもらったのは聖タチバナだけである。
原あたりは「なんで自分らがこんな低い評価やねん!」と怒っていたが。なるほど、これは正確に分析したものだと小波はむしろ感嘆した。
と、ここでそれまで読んでいた雑誌をみずきに取り上げられる。汗ばんだアンダーシャツが妙に色っぽい、目のやり場に困る。
「なに読んでるのよ? エロい記事?」
この橘みずき様の前でそんなの読むとはいい度胸してるわね、という言葉がセットで付いてきた。
「なんでそうなるんだよ」
小波はあきれた声で返す。
「溜まってんじゃないの? ヌいてく?」
「バカいうな」
冗談と分かっていながら、コツンとみずきの頭を叩く。
いったーいと言いながら甘噛み程度の反撃をくらった小波は座っていた椅子からズルりと落ちて尻餅をついた。
あはははと部室に笑い声が響く。なんだかなあと、小波は表情をしかめた。
こんな風にコロコロとわらう女の子がマウンドの上で130キロ後半のストレートを投げたり、バッターをキリキリ舞いさせる変化球を投げるもんだから世の中本当にわからない。
野球をやってなかったらきっと芸能人か、モデルをやっていたに違いない。そうでなかったら女優か……それに順ずる何か、何にしろそれくらいの魅力がある事くらいは小波にだってわかっていた。
そんな小波を尻目にみずきは記事に目を泳がせ、
「ええっと、なになに? 初出場の聖タチバナ学園のデータを分析……? なにあんた、こんな記事よんでたの?」
と言いつつも内容が気になるようで、ふんふん言いながら読み進めるみずきであった。
小波はストッキングを片方だけ脱いで、落ちていた雑誌をひょいと拾い上げる。
パラパラとめくりながらある記事が目に留まった。
「分析! 甲子園出場高校のデータ集!」
なんともありがちな記事である。
下馬評など一部の高校野球マニアくらいしか見る者はいないだろうに、この手の記事がなくならないのはその高校野球マニアの多さに起因する。
この記事によると一応、自分達の評価は最低の「Dランク」らしい。
通常AからCまでで評価されるこのランクは、前年度優勝高校であったり、春の優勝高校であったりする場合のみSランク評価が付く場合があるらしい。
だがしかし、初出場ということもあるがDランク評価はいくらなんでもひどい、出場49高校中最下位だ。ちなみにDランクをもらったのは聖タチバナだけである。
原あたりは「なんで自分らがこんな低い評価やねん!」と怒っていたが。なるほど、これは正確に分析したものだと小波はむしろ感嘆した。
と、ここでそれまで読んでいた雑誌をみずきに取り上げられる。汗ばんだアンダーシャツが妙に色っぽい、目のやり場に困る。
「なに読んでるのよ? エロい記事?」
この橘みずき様の前でそんなの読むとはいい度胸してるわね、という言葉がセットで付いてきた。
「なんでそうなるんだよ」
小波はあきれた声で返す。
「溜まってんじゃないの? ヌいてく?」
「バカいうな」
冗談と分かっていながら、コツンとみずきの頭を叩く。
いったーいと言いながら甘噛み程度の反撃をくらった小波は座っていた椅子からズルりと落ちて尻餅をついた。
あはははと部室に笑い声が響く。なんだかなあと、小波は表情をしかめた。
こんな風にコロコロとわらう女の子がマウンドの上で130キロ後半のストレートを投げたり、バッターをキリキリ舞いさせる変化球を投げるもんだから世の中本当にわからない。
野球をやってなかったらきっと芸能人か、モデルをやっていたに違いない。そうでなかったら女優か……それに順ずる何か、何にしろそれくらいの魅力がある事くらいは小波にだってわかっていた。
そんな小波を尻目にみずきは記事に目を泳がせ、
「ええっと、なになに? 初出場の聖タチバナ学園のデータを分析……? なにあんた、こんな記事よんでたの?」
と言いつつも内容が気になるようで、ふんふん言いながら読み進めるみずきであった。
いくらあの名門あかつき大付属を破ったといっても10戦すれば9回はあかつきが勝つ試合だった事は、誰よりも当の本人達が自覚していることである。
最後まで聖タチバナの前に立ちはだかった猪狩守という存在は、あまりにも大きすぎた。捕手の猪狩進さえ欠いていなければ……、という声は未だに根強い。
野球に「──たら」「──れば」はつきものなのだが……。一部の心無いファンから「聖タチバナ辞退しろ」との電話があったとかなかったとか言う話もある、これは小波以外の耳に入っていない事だが。
ともかく、投手が二枚しかない現状と。下位打線の貧弱さ、インサイドワークには一定の評価があるものの異常に低い盗塁阻止率などが指摘されてのDランク評価である。
これは正しい。
これは、正しい評価なんだ。
ひょっとしたら、この夏でもっとも正しい報道かもしれないと小波は思った。
自分達は高校生で、ちょっとテレビや新聞に載ったからといって舞いあがってばかりいたのは確かだ。
だがそれはいつも捻じ曲がっていたり、事実と違ったり誇張されたりで、どれもこれも嘘ではないが「オマケ」がたくさん付いていた、色目もあったことだろう。
テレビ局的には視聴率の為ならと「天才野球少女現る」だの「マウンドに舞い降りた天使」だのと過剰な報道を繰り返す毎日だった。
テレビに映る自分達は、自分達のようでいて、どこか違って見えた。
あれが自分なのか?
あのブラウン管にうつるちょっとはにかんだ男が自分?
はっ。
反吐が出る。
それは小波がついた初めての小さな小さな悪態だった。
最後まで聖タチバナの前に立ちはだかった猪狩守という存在は、あまりにも大きすぎた。捕手の猪狩進さえ欠いていなければ……、という声は未だに根強い。
野球に「──たら」「──れば」はつきものなのだが……。一部の心無いファンから「聖タチバナ辞退しろ」との電話があったとかなかったとか言う話もある、これは小波以外の耳に入っていない事だが。
ともかく、投手が二枚しかない現状と。下位打線の貧弱さ、インサイドワークには一定の評価があるものの異常に低い盗塁阻止率などが指摘されてのDランク評価である。
これは正しい。
これは、正しい評価なんだ。
ひょっとしたら、この夏でもっとも正しい報道かもしれないと小波は思った。
自分達は高校生で、ちょっとテレビや新聞に載ったからといって舞いあがってばかりいたのは確かだ。
だがそれはいつも捻じ曲がっていたり、事実と違ったり誇張されたりで、どれもこれも嘘ではないが「オマケ」がたくさん付いていた、色目もあったことだろう。
テレビ局的には視聴率の為ならと「天才野球少女現る」だの「マウンドに舞い降りた天使」だのと過剰な報道を繰り返す毎日だった。
テレビに映る自分達は、自分達のようでいて、どこか違って見えた。
あれが自分なのか?
あのブラウン管にうつるちょっとはにかんだ男が自分?
はっ。
反吐が出る。
それは小波がついた初めての小さな小さな悪態だった。
「何よこの記事! ぜんっぜんわかってない! わかってない!」
音速を超えたのではないかと思う程の速度で雑誌はゴミ箱へと吸い込まれた。
その投球をすれば全国制覇も夢ではないと思いながらも小波は、
「あまり気にしないほうがいいよ」
優しくみずきを嗜めた。
「なによ! あんたは悔しくないの!?」
が、憤怒は収まる気配がない。
ああ、これは地雷を踏んだなと思った小波であった。
「たしかにD評価は厳しいと思う、でもそれが俺たちを見る目だよ」
マスコミの過剰報道では一般人の見る目にも色メガネがつけられるだろうが、実際世間の評価はこんなもんだ。
そう、こんなもんなんだ。
「あたしは、あたしは悔しいわ……!」
「だけどさ、こんなの何度でも覆してやればいいだよ。他の人の目なんか気にしなくても……」
「他人なんか知らないわ! あたしが気にしてるのよ!」
怒り方が普段と違うなと気づかなかったのは、こうやって二人きり居る本当に久しぶりだったから。
と、言えばなんだかカップルっぽいだろうか?
わなわなと震えるみずきを嗜める為に言った言葉が、それ以上の怒声になって帰ってくる。
だがその矛先は自分というよりむしろ、
「あたしが気にしてるのは、あんたの事を悪く書かれてるからよ」
この記事に向かってだった。
音速を超えたのではないかと思う程の速度で雑誌はゴミ箱へと吸い込まれた。
その投球をすれば全国制覇も夢ではないと思いながらも小波は、
「あまり気にしないほうがいいよ」
優しくみずきを嗜めた。
「なによ! あんたは悔しくないの!?」
が、憤怒は収まる気配がない。
ああ、これは地雷を踏んだなと思った小波であった。
「たしかにD評価は厳しいと思う、でもそれが俺たちを見る目だよ」
マスコミの過剰報道では一般人の見る目にも色メガネがつけられるだろうが、実際世間の評価はこんなもんだ。
そう、こんなもんなんだ。
「あたしは、あたしは悔しいわ……!」
「だけどさ、こんなの何度でも覆してやればいいだよ。他の人の目なんか気にしなくても……」
「他人なんか知らないわ! あたしが気にしてるのよ!」
怒り方が普段と違うなと気づかなかったのは、こうやって二人きり居る本当に久しぶりだったから。
と、言えばなんだかカップルっぽいだろうか?
わなわなと震えるみずきを嗜める為に言った言葉が、それ以上の怒声になって帰ってくる。
だがその矛先は自分というよりむしろ、
「あたしが気にしてるのは、あんたの事を悪く書かれてるからよ」
この記事に向かってだった。
たしかに、Dランク評価というだけでも最低なのにさらに小波については記事で酷評されていた。
男のくせに体力のない~、ここ一番で手元が狂う~、エースになりきれない~、うんぬん。
聖タチバナの一番のウイークポイントとして挙げられていたのだ。
男のくせに体力のない~、ここ一番で手元が狂う~、エースになりきれない~、うんぬん。
聖タチバナの一番のウイークポイントとして挙げられていたのだ。
「気にしないって、こんなの」
「何いってんのよ! だいたいあんたには悔しいって気持ちはないの!?」
「悔しいよ、でも怒ったって仕方ないだろ?」
「おじいちゃんに頼んで今すぐこの記者黙らせるから」
「ちょ、ちょっと待ってよみずきちゃん。待ってったら」
「何いってんのよ! だいたいあんたには悔しいって気持ちはないの!?」
「悔しいよ、でも怒ったって仕方ないだろ?」
「おじいちゃんに頼んで今すぐこの記者黙らせるから」
「ちょ、ちょっと待ってよみずきちゃん。待ってったら」
みずきが怒ったのは、小波の事を悪くいわれたから。チームの評価よりも、自分の小波の事を悪く言われたから。
そこが着火点だったのだ、火を収めるべくしてみずきを嗜める発言を繰り返した小波だったが、ただ油に火を注いだだけの格好になってしまった。
でも、同時にそれが嬉しかった。
ぜぇ、ぜぇと肩で息をするみずきに、その肩を両の手で押さえる小波。
手は背に回り、二人の距離はゼロになる。
「なによ、わかってんの? あんたはあたしのものなの」
わかってるよ、みずきちゃん。
「ご主人様が悔しがってるんだから、あんたも悔しがりなさいよね」
わかってる、わかってるよ。
そこが着火点だったのだ、火を収めるべくしてみずきを嗜める発言を繰り返した小波だったが、ただ油に火を注いだだけの格好になってしまった。
でも、同時にそれが嬉しかった。
ぜぇ、ぜぇと肩で息をするみずきに、その肩を両の手で押さえる小波。
手は背に回り、二人の距離はゼロになる。
「なによ、わかってんの? あんたはあたしのものなの」
わかってるよ、みずきちゃん。
「ご主人様が悔しがってるんだから、あんたも悔しがりなさいよね」
わかってる、わかってるよ。
「ほんとにわかってるの? ……バカ」
背中から弱弱しく力が伝わってくる。
小波の腕の中に収まるみずきは、優しくて、か弱くて。普段見せるどの表情とも違っていた。
「ありがとう」
どこからでもなく感謝の念が沸き、二人の唇が合わさり、昇華された。
二つの体温が重なり、鼓動が一つになる。
みずきは、その大きな目に涙を浮かべて──
背中から弱弱しく力が伝わってくる。
小波の腕の中に収まるみずきは、優しくて、か弱くて。普段見せるどの表情とも違っていた。
「ありがとう」
どこからでもなく感謝の念が沸き、二人の唇が合わさり、昇華された。
二つの体温が重なり、鼓動が一つになる。
みずきは、その大きな目に涙を浮かべて──
◇ ◇
「あとの続きは、全国優勝してからよ!」
……こりゃ負けられないな、そう思う小波であった。
おしまいおしまい。