─1─

リリが見た王宮の様子は決して穏やかなものではなかった。
王宮の誇る数々の騎士団のうちの一つが姿を消してしまったからだ。
当然王宮は厳戒態勢で、たとえ騎士団長の娘という名目が有っても宮廷内部に入ることはままならなかった。
そんな中リリが唯一話を聞くことができた人物『ルース』種族はバンギラス。
彼女はリリの父の部下であり、彼が不在の今は代わりに第一師団を指揮している。
「あら、リリ様! 立派なデンリュウになったのね」
リリがルースと最後に会ったのは今から三年前、時期的にはデンリュウに進化する直前だ。
「ソルトさん、お久しぶりです」
「うんうん元気でよかったわ。わたし思わず涙出ちゃいそう」
リリがその言葉に返そうとした時、ルースが若干強めの口調で言った。
「ええクァス団長の話ね、わたし分かっているんだから」
「本当!?」
「でもごめんなさいね、誰一人戻ってきていないから手がかりも足取りも何もつかめていないの」
「そう……」
王宮に来ても何一つ手がかりがつかめなかったリリ。
愕然とするリリはとあることを思い出した。
『本当に困ったときは氷焔に来てくれ、しばらくは王都南西の宿屋に滞在しているからな』
それはノアの言葉だった。
彼女に残された最後の手段、それは氷焔に依頼を出す事だった……


─2─

ノアの残した言葉、それに導かれるかのようにリリは宿屋を訪れた。
宿屋の食堂に目をやると、そこにはノアが誰かを待つように腕の葉を手入れしていた。
灰色の鳥打帽に細目が特徴な顔、上半身をまとう白い服に両腕や腰を固定するベルト、間違いなくそれはリリを介抱したジュカインだ。
「ノアさん」
「リリじゃないか、ここに来るって事は……」
ノアはそこまで言うと困り顔をしているリリを見つめた。
「そうか、親御さんには会えなかったか」
「ええ、そこで氷焔に依頼を出そうと思って」
リリがそう言うと食堂にいる複数のポケモンの視線が彼女に集まった。
「ひっ……」
「ああ驚かせてしまったな、仕事に敏感な人が多いんだ、気にせずに続けてくれ」
「え、ええ……」
リリは深呼吸し、息を整えると再び話し始めた。
彼女が王宮での出来事を話すと、大柄な体格を持つ一人のバシャーモが近づいてきた。
「そいつは難儀な話だな、俺でよければ力になろうか?」
「……あなたは?」
「おっと名乗りを忘れたな、俺はバーンだ」
バーンは笑いながら自己紹介をした。
「……私はリリ」
リリは不機嫌そうに自己紹介をし、そこに軽い口調でバーンが返す。
「そう怖い顔するなって、せっかくの可愛い顔が台無しだろう? ほらもっと笑顔に、ごふっ!」
どこから現れたのか、一人のグレイシアが氷の大剣の柄でバーンの腹部を突いた。
あたりに鈍い音とバーンのうめき声が響き渡る。
「バーンが悪いことしたね、アタシはフブキさ」
「ええ、こちらこそよろしく!」
この滑稽なやり取りにリリはいつの間にか笑顔になっていた。
今までに名乗った二人は、実は氷焔のリーダー的存在である。
しかし二人とも大雑把な性格なため、自分の肩書きまでは名乗ろうとしない。
もっとも周囲からの人望の厚さを見れば一目瞭然なのだが。
「さて、そろそろ集会を始めるよ」
フブキの言葉にリリはあたりを見回す。
すると先ほどとは比べ物にならないくらい人が増えていた。
左耳に包帯を巻いたピカチュウ、深緑のバンダナをかぶったルカリオ、金属製の刃でできた左耳を持つイーブイ。
ざっと見回しただけでも印象に残るポケモン達が集まっていた。
「バーン、いつまで寝てるんだい!」

─3─

「静かに!」
フブキの言葉で騒然としていた空気が一瞬で静寂なものへと変わる。
「皆、忙しいところ集まってくれてすまない」
「今回俺たちが集合かけたのは竜鳥の星の対策を練るという理由だ」
「彼奴らは略奪を繰り返す極悪な集団だ、現に氷焔にも被害者が数名いるんだ」
「竜鳥の星と対峙したメンバーも少なくないだろう、だが奴等に決定打を与えられた者はまだいないのだ」
フブキとバーンが交互に状況を説明する。
リリにも竜鳥の星の名は聞き覚えがあった。
彼女は今までに数々の依頼を見てきたが、その中で竜鳥の星に属するお尋ね者に関わる依頼も少なくなかったのだ。
改めて氷焔のメンバーを見回してみると、それぞれに数々の戦いをこなしてきた猛者という印象が見受けられる。
そんな彼らをもってしても成敗できない竜鳥の星の恐ろしさが垣間見える内容だった。
フブキとバーンが話し終えると、再び静寂が訪れる。
誰一人対抗策が見当たらないのだろうか。
しばらく沈黙が続いたが、それをフブキが破った。
「もし氷焔に舞い込んだ依頼をこなすならば、たとえ簡単な物であろうと必ずグループ行動を取ってくれ」
フブキの言葉に辺りが騒がしくなる。
「静かに! 恐らく竜鳥の星は依頼をこなすことを妨害するべく行動してくる事もあるはずだ、そこを狙われたら非常に危険だ」
「竜鳥の星に私怨がある者もいるだろう、だがここはその気持ちを抑えてくれ」
フブキに続いてバーンも口を開いた。
「私怨、か」
ノアがうつむき、小声で呟く。
「ノアさん……?」
「いや、何でもないんだ」
ノアは顔を上げ、フブキとバーンを見つめる。
「これで話は終わりだよ、それでは解散!」


─4─

「どうしたリリ、まだそこにいたのか」
ノアがリリに声をかける。
解散した瞬間ほとんどの人が食堂からいなくなった。
残っているのは五名程度だろう。
「……ええ」
「竜鳥の星のことは気にするな、それより親御さん探すほうが大切だろう?」
「そうだった! 私、氷焔に依頼を出そうと思って」
「それでさっきの話が出たんだね」
リリがはっとここに来た目的を思い出した時、フブキが話しかけてきた。
「騎士団の失踪事件について調べるためにシリウスで集合かけたんだが、アンタの話ではどうやら無駄足だったようだねぇ」
フブキは少し困った顔で話す。
この様子では氷焔でも父の手がかりは得られそうにない。
彼女はまたもや落胆しようとしたときフブキが語りかけてくる。
「で、アンタはこれからどうするんだい?」
「え?」
そういえば何も考えていなかった。
手がかりがないのは勿論、この先行く当てもない。
リリが困った顔をしていると横からバーンが話しかけてきた。
「だったら氷焔に入るがいい、何、俺が一から手取り足取り教えてやるさ、ぐほっ」
「どうせリリに手を出そうという魂胆なのだろう?」
フブキの強烈な膝蹴りがバーンの腹部に決まる。
バーンのうめき声とともに巨体が倒れこむ音が響き渡った。
「あの、フブキさん」
「どうしたんだい?」
倒れたバーンを無視しリリがフブキに問いかける。
「もし誤解だったらすみません、このギルドは報酬で仕事をしている人の集まりなのでしょうか?」
「確かにそういう人もいる、でもアタシ達は本当に困っている人を守るためにこの氷焔を立ち上げたんだ」
その言葉を聞いてリリは安堵の笑みを浮かべた。
少なくともフブキとバーンはリリと同じ信念の下に活動しているのだから。
「フブキさん、私を氷焔にいれてください!」
リリは勇気を振り絞ってフブキに言った。
しかし、その返事は決してリリの望むものではなかった。
「リリ、アンタ背伸びしてるんじゃないかい?」
「えっ」
「確かに人の役に立ちたい気持ちは分かる、ただそれ以上に父を探したいという気持ちが強いんじゃないか?」
「それは……」
「その状態で氷焔には入団させられないねぇ」
リリは自分の本心を見抜かれて、そして入団を拒絶されてショック状態に陥っていた。
「リリ、氷焔にはアンタのように心にわだかまりを持ってる人も多いんだよ」
「……」
「でも彼らはそれらに揺さぶられない、自分の為だけに動くという事は決してしないんだ」
「……私は」
「氷焔に入団したいのなら条件がある」
「条件?」
「手がかりがつかめるまで父の事を忘れることだ」
リリはその条件の意味を瞬時に理解した。
しかし、それは過酷な条件でもあった……
「分かりました、私、やります!」
リリは再び勇気を振り絞って言う。
その言葉にフブキはそっけない返事を返した。
「本当かねぇ、まぁ父が見つかるまで仮入団という形でも構わないんだけどさ」
「仮入団?」
「そう、その揺れ動く心の中でどれだけの働きができるか見せてもらおうじゃないか」
「ええ、望むところよ!」
リリはフブキの挑発的な言葉に返した。

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最終更新:2010年08月13日 19:20