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  • レスアンカーワンのss
  •  その3

レスアンカーワン @ ウィキ

 その3

最終更新:2023年02月05日 03:13

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だれでも歓迎! 編集

目次

  • 目次
    • Part11
      • その1(≫42~45)
      • その2(≫131)
      • その3(≫146~191、≫183~184、≫186)
    • Part12
      • その1(≫62~63)
      • その2(≫191)
    • Part13
      • その1(≫46~49)
      • その2(≫95~97)
      • その3(≫161~163、≫165~167)
    • Part14
      • その1(≫23~25)
      • その2(≫47~49、解説:≫53)
      • その3(≫176~178)
    • Part15
      • その1(≫176~178)
      • その2(≫156~161)
      • その3(≫171~173)

Part11

その1(≫42~45)

了船長22/04/30(土) 23:27:56

「イチ、ちょっといいだろうか。」
「うぅーん、どうしたの、オグリ。」
「今日の夕飯は、ぶり大根がいいんだ。」
「ぶり大根、ね。分かった。買い物行ってくるね。」
「本当か!分かった。楽しみにしている。」

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

「ただいま、オグリ。」
「おかえり、イチ!」
「お腹減らして待ってたんでしょ。」
「うん。夕飯が待ちきれないよ。」
「ん、ちょっと待っててね。すぐできるから。」

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

「……ダメだ、なんか、めんどくさい……」

「今日、そんなにハードなワケじゃなかったんだけどな……」

「味付け、めんどくさいな……」

「あー、いいや。めんつゆ入れちゃえ。」

「ごめん、オグリ。手抜きしちゃって、許して……」

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

「はい、お待たせ。テーブル整えてくれて、ありがと。」
「私の方こそ、朝にリクエストしてしまって。ありがとう。」
「ううん、大丈夫。」
「……おお、出来立てだ。」
「うん。熱いよ。気を付けて。」
「それじゃあ、いただきます。」
「召し上がれ。」

「おお、おいしい!」
「えっ。」
「うん、やっぱりイチの料理はおいしいな。」
「そ、そっか。」
「いつもの料理もとてもおいしいが、今までで一番おいしいかもしれない。」
「……ありがとう。ごめんね、オグリ。」
「ど、どうしたんだイチ、昼間、何かあったのか。」
「ううん、そういうわけじゃなくて。これでよかったんだな、って。」
「い、イチ?……ほら、イチ。」
「ちょっ、まだ、食べてるでしょ。」
「いいんだ。……大丈夫、大丈夫だ。今日もお疲れ様、イチ。」
「……お行儀、悪いよ。」
「今だけは、許してくれ。」

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

『たのしみは まれに魚烹て 児等みなが うましうましと いいて食ふ時』 橘曙覧

了

ページトップ

その2(≫131)

了船長22/05/13(金) 01:13:00

「ほな、集計や…… クリーク一着、ウチ二着、オグリとモニちゃんが同率で、イチちゃんはまたドベやんな」
「ふふ、また勝っちゃいました〜」
「もしかしたら、あの時木材を確保しておくべきだったのかもな……」
「イチ、貿易するの苦手すぎっしょ。交換レート相当酷かったじゃんかー」
「だってみんな、必要だって言うし。いつのまにか負けちゃってるんだもん」
「ありがとう、イチ。とても助かった」
「せやな、ホンマええお客さんになってくれたで、おおきにな」
「あー、いったん降参です! みんな小腹でも減ってない? 何か作るよ」
「ありゃ、そしたら休憩にしよか」
「イチ、私はサンドイッチが食べたい」
「あ、いいねそれ。伯爵じゃん」
「えぇー、パンあったかな。ありましたっけ」
「確か食パンしかありませんから、耳が残っちゃいますね〜」
「それでも大丈夫だ、よろしく頼む」
「わーい、イチのごはんにありつけるぞ〜」
「モニー、アンタの分、残らないと思うな」

ページトップ

その3(≫146~191、≫183~184、≫186)

了船長22/05/15(日) 01:26:45

これは、私の話じゃない。
私がそばでずっと見てきた、ファンの人たちみんなのアイドル、ジンクスを叩き割った葦毛のスーパー・ヒーロー、そして私たち一緒に走るウマ娘にとって、あまりに強い怪物の話。
だから、あんまり長くは思い返さない。

その日、東京レース場は、人々が作り出した局地的な地鳴りで、揺れに揺れていた。
多くの人が口をそろえて、同じ音を叫ぶ。
期待を込めて、信じる気持ちを込めて。
中には、裏切られたと思ったがゆえに、非難するようにも聞こえる声色もあった。
夢、期待、願い。様々な思いが幾重にも重なって、彼女に向けられていた。
オグリ、オグリ、と。
澄み切った師走の空気を切り裂いて、約36万の直接的な視線と、間違いなくもっと多くの間接的な視線の先にいるウマ娘は、もうこれで終わってもいいと言わんばかりの、最後の力比べに飛び込んでいた。
よく、私たちウマ娘の走りは、まるで空を飛ぶようだ、としばしば形容される。
でも、彼女の最後の走りは、間違いなく地を踏みしめ、大地を割って昇っていく、豪快で力強いものだった。
それはきっと、私の言葉と経験では言い表せない、誰の目にも見えない、とてもとても重く大きい何かをその背に乗せたまま、走っていたからかもしれない。
その重みを一つこぼさず全部背負って、さあ頑張るぞ、と決意を固めて走っていた。
いつも近くで――認めたくないけど――アイツが本当に苦しそうな顔をしていたのを、私は見てきた。
一時は誰の言葉も耳に入らないくらい追い詰められて、あんなにきれいな髪と尻尾が、何か真っ黒なものに呑まれてくすんでしまうんじゃないかと思ったこともあった。
私のご飯を食べた時のとろけるような笑顔は、私が思わず惚れこんでしまったあの表情は、二度と見れなくなってしまうんじゃないかって、本気で思ったこともあった。
もう、『おかわり』って、言ってくれなくなってしまうんじゃないかって。

それでも最後には、彼女は、アイツは、オグリキャップは、それらすべての期待に、真正面から答えてきた。

第4コーナーは涙でオグリの姿は見えなくなり、直線では世界から取り残されたように音も聞こえなくなって、祈ることしかできなかった。
それでも、ぼやけてはっきりしない世界の中でも、オグリキャップがゴール板を最初に駆け抜け、腕を挙げたところだけは、はっきりと見ることができた。
ああ、帰ってきた。オグリキャップは、やっぱりオグリキャップなんだ。
場内の人たち全員が一丸となって呼びかける波に、私は乗れなかった。内からこみ上げてくる気持ちで、立っているだけが精いっぱいだった。
この世の中に神様はいるのかもしれない。そう思った。
こんなこと、オグリには口が裂けても言えないけれど。

これは、私の話じゃない。
私が憧れた、オグリキャップの話。

傾きが低くなった太陽が、眩しい光を直接注ぎ込む夕方の教室。
オレンジ色の光が、焼けた教室の壁と、私の目を一緒に照らす。
私はよせばいいのに、寒さを感じさせずギラギラと輝くそれをぼんやりと、目を細めて見つめていた。

別館の最上階の、そのまた隅にある空き教室で、私はトレーナーさんを待っていた。
廊下の向こう側からは、階段をパタパタと素早く駆けのぼる足音がいくつか聞こえる。きっと、近くの神社が埋まってしまった子たちのものだろう。
いつ使われなくなってしまったのかも分からないけど、綺麗な街並みを見下ろせるこの秘密基地をとても気に入っている。
その日のトレーニングメニューが終わって、じん、と熱を持つ身体を感じながら、私は水筒に余った水を口に含んだ。

しばらくすると、ペタペタというスリッパの足音が近づいてきて、引き戸ががらりと開けられた。
「お待たせしてすみません、印刷機が並んでまして」
ここまで階段を上ってくるのがしんどかったのだろう、すこし肩を上下させているトレーナーさんが、紙を手に教室に入る。
「お疲れ様です」
「いいえ、とんでもない。今日もお疲れ様でした。次の出走表です」
トレーナーさんが、印刷されたばかりなのだろう、まだぼんやりと熱を帯びているホチキス留めのコピー紙を差し出している。
もうすっかり読み慣れた、決まりきったフォーマット。
紙に印字された文章を読み飛ばしながら、最も重要なところだけを探しに行く。
2枚ほど紙をめくって、表の何行目に自分の名前が書かれているのか、上から順番に眺めていく。
『レスアンカーワン』 という文字列は、3番目に見つけられた。
「内ですね」
「はい。正直なところ、有利かどうかは微妙です」
私はトレーナーさんの返事がよく理解できず、聞き返す。
「あれ、そうなんですか」
「はい。条件がイマイチで」
裏面に送ってしまった紙を元に戻して、条件の項目を探す。
『福島レース場 第8R 距離:2000m』 と記載があった。
「あ、内のバ場、もしかして荒れますか」
「それもありますが、福島はそもそも、内とか外の有利不利がデータとして表れにくいんです」
トレーナーさんが同じ出走表を眺めながら説明する。
「直線も短いコースです。四コーナーのあたりで三番手、最悪、五番手くらいにはいないと。枠の有利も薄いところですから、離されたら内にいても間に合わ>ないかもしれないレースです」
そういうと顔を上げて、それもありますが、という言葉と一緒に私の目を見つめてきた。
「大外の子の名前、見ましたか」
紙面に目を落とす。
大外枠の9番には、ずいぶん――もう2年くらいにわたって――見慣れた名前が書かれていた。
「……マジですか」
「大マジです。なんなら、お相手のトレーナーも同じタイミングで印刷したみたいで」
「向こうの人も驚いてましたか」
「ええ、本当に? って表情でした」
その反応を聞いて、少し安心する。少なくとも、私個人を先に対策されているというわけではなさそうだったからだ。
9番のところに書かれている名前を睨みつけるように見つめながら、その生徒のことを考える。
毎日顔を合わせること。寝る前にしゃべること。
私のすぐ後にトレーナーを見つけて、真面目にやり始めたこと。
消灯した後、スマホの光が割と眩しいこと。
二人ともレースに集中していなかったこと。お互いに一度ケンカしたこと。
私にもアイツにも、トレーナーがついたこと。
最近、二人とも同じようなペースでレースに出走してること。ひと月に2回は、相手が部屋にいないこと。
長いけれど意外と薄い内容が詰まった印象の過去が、私の脳裏をゆったりと流れていった。
あいつも同じことを考えてるんだろうか、と独りごちる。
レスアンカーワンさん、というトレーナーさんの声で、現実に引き戻される。
「その子の作戦とかは、良く知っていますか」
「いや、それがあんまり。レースについては話したことも無かったです」
「そうでしたか。そしたら、ちゃんと研究するしかありませんね」
トレーナーさんはそう言うと、残念、という素振りで、ちょっと苦笑してみせた。
「でも私、絶対負けないと思います」
私の言葉に、トレーナーさんが目を丸くした。
「それはまた、どうして」
「私のほうが、ずっと頑張ってきたので」
息を深く吸ってから発したその決意は、教室の壁に反響して、自分を奮い立たせる応援のようになって返ってきた。

「それでは、こういう流れで。最後に1ミリでも先にいれば勝ちですので」
パタン、と大きくて分厚い手帳を閉じる音が教室に響く。私たちの作戦会議が終わるいつもの合図だ。
私もペンを走らせる手を止めて、コースの概略図が書かれた紙をファイルにしまう。
「マークの子はスタミナを武器に逃げ切る作戦を立てているようです。吞まれないようなトレーニングを積んでいきましょう」
「分かりました。今までやったことない相手だから正直、不安です。」
「最近では逃げの作戦を取る子は少なくなりましたからね。私も経験が多くあるわけではないですが、任せて」
そう言うトレーナーさんは、自分の言葉を茶化したりすることなく、真っすぐな目をしていた。
「そうしたら、今日はひとまず、ゆっくり休んでください」
「お風呂も普通に入って大丈夫ですか」
「はい。今の体重なら食事規制もサウナの減量もいらないと思います」
すごいことですよ、と笑顔を向けてくれた。
「レスアンカーワンさんは無事是名ウマ娘の体現です。トレーナーとしても、ありがたいことです」
そんなことを言って、私に向かって深々と頭を下げた。
「でも、そんなに勝てていませんから」
「コンスタントに月に約2回、それを1年半以上続けているんです。中々できることではありません。地方トレセンの子と同じようなペースで走ってるわけですよ」
今まで褒められたことないところだったから、ありがとうございます、と言うところが思わず小声になってしまう。
「やっぱり、オグリさんの影響ですか」
「えっ」
オグリの名前が出て、ドキッとした。
実際のところ、私の気持ちをレースに向けさせたのは、どんなに口で否定したってオグリのおかげだ。
でも、それを素直に受け入れたり、ましてや本人に直接伝えることができるほど、私はまだ成長していない。
「別に、そりゃ、たまに話したりはしますけど」
「わかりますよ。でも、あなたの走りはオグリさんのいいところを、きちんと自分流に落とし込んだようなものだ。ただマネをしてるだけじゃない」
そう話すトレーナーさんは、スカウトしてくれた時と同じような、熱くて優しい表情をしていた。
「レスアンカーワンさんが個人的にオグリさんと仲がいいですから、併走トレーニングもしてもらえますし」
「その度に、ものすごい人の壁ができちゃいますけど」
引退した『スーパー・スター』が、どこぞの誰とも知れない生徒と併走トレをするものだから、前告知なしに始まったとしても生徒会や風紀委員が出張ってくるくらいの騒ぎになる。
遅めの時間にこっそり始めても、誰か一人が見かけたが最後、どんどん人が集まるのだ。
私としては、実際に私が走るレースよりも目線が集まる気がしてるから、ちょっと腹立たしくもある。
「GⅠウマ娘の併走というだけでもすごいのに、あんな引退レースを飾ったんですから仕方ないと言えば仕方ないでしょう。そんな生徒を引っ張ってこれるあなたがすごい、ということです」
彼女の名前も、レース名も示されていないのに、耳のどこか奥で、地鳴りのような歓声が聞こえてくる気がした。
思い出そうと思わなくても、どちらかを聞くだけで思い出してしまう”あの”レース。
きっとこれからも語られて、記憶と記録に残り、何度も見返されて、新しい人たちをも取り込めるだけの力を持った、物語のクライマックス。
その主語を飾る彼女が走るのだから、人が集まらないわけがない。それが分かっていても、ウマ娘の性なのか、少しだけ悔しい気持ちが湧きだしていた。
私の子供じみた、とても小さな嫉妬心から偶然生みおちたこの関係に感謝できるほど、私はまだ大人ではなかった。
ちらりとトレーナーさんの顔を見ると、私と同じようなことを思い出しているのか、少し遠い目をしていた。
「友達って言うか、たまたま、知り合いになっただけですから」
私とオグリの関係をどこまで知っているのか分からない表情をしながら、「そうですか」とトレーナーさんは言った。
「オグリキャップのトレーナーさんは、『オグリは教えるのがヘタだろう』って言ってましたよ」
トレーナーさんの大げさなモノマネと、真実を言い当てている言葉に、思わず少し息が漏れ出す。
「ふふ、そうですね。ホントにヘタです」
「『引退してもマスコミ対応とか進路相談もあるんだから、あんまり引っ張り出すなよ』とも言われちゃいました」
そういうトレーナーさんは、別段困っているような様子もなく、むしろ嬉しそうに頭の後ろをおさえている。
意識したわけでもないのにオグリの話を続けようとした私たちに横やりを入れるように、スピーカーから予鈴の音が鳴り出した。
私たちは慌てて、帰り支度を整える。いつもならこんなに話し込むことは無かったから、トレーナーさんも動きがぎこちなくなっている。
「ああ、いけない、もうこんな時間でしたか」
「すみません、つい」
「いや、私こそ。そしたらレースの日はこの時間に出発できるようお願いします」
はい、と返事しながら手早くレースの紙を受け取って、鞄を肩にかけた。
「お疲れ様でした」
施錠のために教室に残るトレーナーさんに挨拶して、私は教室を出た。
オグリのことを話そうと思ったわけじゃないのに、不思議と話題に上がってきて、私たちの時間を奪っていくみんなのアイドル。
地平線の向こうに隠れた太陽から漏れた光で少し薄暗くなった廊下を歩きながら、私は改めて、『オグリキャップ』の偉大さを実感した。

寮の部屋に戻ると、同室の子はまだ帰ってきていなかった。
あいつに限って居残り自主トレなんて珍しい、と思いながら、いつものルーチンをこなす。
サッと座学の復習をして、栄養過多にならないように食事を済ませ、今日のミーティング内容を思い返す。
メモで余白が埋まり、見にくくなったはずのレース表の中で、私はある一行――大外の枠に書かれた名前――のところだけを、じっと見つめていた。
何かを考えているようで、何も考えていない時間がしばらく経ったとき、ガチャリ、とやや乱暴にドアが開けられた。
別に悪いことはしていないけれど、その音でなんだかばつが悪くなってしまった私は、慌ててレース表を隠すように机の引き出しに放り込んだ。
引き出しの前に立ちはだかって後ろを振り返ると、ジャージ姿のルームメイトが前のめりにフラフラと部屋に入ってきた。
「あ、お帰り」
私の言葉が聞こえているのかいないのか、返事をしないまま床に膝をついて、顔をベッドに埋め込んでいる。
どさり、と鞄を下ろして5秒くらいした後、右手だけ挙げて何か言ったようだった。
「珍しいじゃん、自主トレ」
顔を埋めたまま返事をしたみたいだけど、音がマットレスに吸収されて何も聞こえない。
「汚れてるんだから、パッとお風呂入っちゃいなよ。私も今行くところだったし」
思わず、口からでまかせを言ってしまう。お風呂は先延ばしにするつもりだった。
おそらく意味のある言葉で返事はしていないのだろうけど、分かった、というように挙げた右手をヒラヒラさせている。
見られていないうちに準備しなくちゃ、と思った私はお風呂セットを引っ張り出した。
「先、行ってるよ。食堂もしまっちゃうから、早めに行きなね」
まだベッドに顔を埋めたまま姿勢を変えていないルームメイトに話しかけて、私は逃げるように浴場へ向かった。

シャワーで汗と汚れを落とした後、私はお風呂に浸かりながら、天井を見上げる。
モクモクと湯気が立ち込めて、伸ばした腕より先すら曇って見えにくい浴場の景色は、私だけを切り取って一人だけで居られるような心地がした。
オグリが二度目の毎日王冠を勝ったくらいの時期、私も自分のレースにより集中するようになった。
私が走るレースの日、都合の合う限り、オグリも見に来てくれる。
私はそれがイヤで、オグリの出るレース――大体はGⅠレースばかりで、私のと比べるとクラクラするくらい眩しいけど――の日程に被せて、自分の予定を組んでいた。
私のレース日程が近くなった時には、オグリも『私ばかりじゃなくて、イチにも頑張ってほしい』と言うので、朝の自主トレに混ぜてもらう。その時には、お弁当はナシ。
トレーナーさんにバレて、ほどほどにするよう注意を受けてからも、毎朝オグリに会う流れは崩せなくて、こっそり疲れの出ないくらいに二人でジョギングをする。
一緒に学園まで帰ってくると、いつも決まってオグリがパタパタと先にベンチまで走って行って、こちらを向いて座る。
その後、満足げな顔で手を振ってくる。
「何してんの」と聞くと、「イチの真似だ」と答える。
最初に聞いたときは『一度やってみたかったんだ』とも言っていた。
そんな日を繰り返して、彼女が昨年末に引退してからは、レースにもほぼ毎回見に来てくれている。
トレーナーさんの側で、良く似合うキャップと伊達メガネをして――いつか一緒に出掛けた時、私が選んだものだ――トレーナーさんの横で見ている。
入着したときには、ステージ上の光が反射してよく見えないけれど、この観客席のどこかで見てくれているんだろう、と思うと、気持ちがとても前向きになる。
オグリほど勝てているわけではないけれど、私の走りを見てくれる人がいる、という実感は、選手としての私を確実に支えてくれていた。
最初のミーティングから何回か回数を重ねたある日、トレーナーさんから、どのくらいレースに出走したいですか、と聞かれた。
どのレースを目指したいですか、とはトレーナーさんから聞かれなかった。デビューが遅れこんだのもあったし、G1路線はおろか、重賞なんかに手が届くような実力は持ち合わせていなかったからだと思う。
出遅れしていた私も、堅実に実績を積み上げられる道取りで走っていくことにしようと決めて、出られるだけ出たいです、と答えたのを覚えている。
トレーナーさんもまだ新人だったから、及び腰というか、自信がなかったのも理由の一つだろう。
『まるで、オグリキャップみたいだった』と言われて、我を忘れて食って掛かったことを思い出す。
思わず顔が熱くなる。これはきっと、お風呂に長く浸かっているからだ。
火照った頭で、その後の『オグリキャップに追いつける』という言葉も続けて思い出す。
言われた当時は、その言葉が無邪気に自信のもとになった。
けれど今思えば、「実力は足りないけれど、どこかでオグリキャップに並び立つことができるかもしれない」という意味の、事実ではあるが真実ではない、実に大人らしい言い回しだったのだろうな、と自覚した。
そんなトレーナーさんは、今では私以外にも新入生の子を何人か複数人担当するようになって、以前より忙しそうだけど嬉しそうな顔をしている。
自分が役に立ったのかな、なんて思ってちょっと誇らしい気持ちになる。
途端に、そんなことを考えている自分がなんだか急に恥ずかしくなって、口元まで身体をお湯の中に沈める。
一、二、三……と百まで数えてから上がろう、と子供に戻ったつもりで遊ぼうとしたら、あんまり熱くて五十を数えたところが限界だった。
大事なレース前に湯あたりして体調を崩しました、なんてとても言えたものじゃない。
大人らしくきっぱり諦めることにした私は、湯気で仕切られた個室のような空間を少し名残惜しく思いながら、浴場を出た。

尻尾までゆっくり乾かせて戻ってくると、すっかり部屋着に着替え終わったルームメイトが、ベッドの上で体育座りをしながらスマホを眺めていた。
「あれ、お風呂にいた?」
「いたよー」
「晩御飯はどうしたの」
「もう食べた」
せわしなく画面を触りながら、淡白な返事が返ってくる。
一体いつの間に、と思った私は、二つに折り畳まれ、ホチキスで留められた二つ折の紙が彼女のすぐ側にあるのを見逃さなかった。
どきり、と胸の奥が締まったような感覚がした。
やっぱり、見間違いでもなんでもなかったんだ、と現実逃避するように当たり前のことを思い直す。
そう考えると、スマホの上を滑る彼女の指も、本当に画面を操作しているのかどうか、怪しく思えてきた。
彼女を横目にお風呂セットを片付けて、向かい合うようにベッドに腰かける。
少し気まずい、緊張した空気が私たちの間に流れる。トレセン学園に入学して、初めて顔を合わせた時のような沈黙が、部屋の中を支配していた。
「ねえ」
モニーがスマホに目線を合わせたまま、声をあげる。
「イチ、今月の次のレースっていつなの」
いつもの砕けた感じとは違う、すこし芯の残るような硬い声だった。
「今週末だよ」
「ふーん」
相槌を最後に、モニーが口を閉じる。外で風に吹かれて窓に当たった小石が、カチン、と音を響かせた。
「イチの前走っていつだっけ」
モニーが先ほどよりは短い沈黙の後、普段なら絶対に部屋で話さない、レースの質問をしてくる。
「二週間前だけど」
思わず緊張してしまった私の声も、幾分か上ずってしまった。
「1600mのマイル戦だったよ」
返事をした後にモニーの指が素早く動いているのが見える。それから、目線が上から下へ、何回か行き来しているようだった。
「4着だったん?」
「いや、3着だよ」
私の答えに、モニーが「えっ?」と素っ頓狂な声を上げた。こちらに一度顔を向けて、すぐスマホを触り直す。
「ウソウソ、4着」
「は、なに、ウソついたってわけ?」
モニーが耳を少し後ろに絞った。どうやら、私の考えは当たっていたみたいだ。
「ゴメンって、えっ、怒ったの?」
私の名前でレース結果を検索していたのだろう。イタズラ心も手伝って、ひっかけクイズみたいなことをしてしまった。
そんなこと聞かなくても調べられそうなものだが、どうやらモニーもずいぶん緊張しているようだった。
「珍しいじゃん、レースの話するなんて」
「別にいいっしょ、たまには」
話を逸らすついで、私もモニーから情報を掘り出そうと、トレーニングの話を振ってみることにした。
「今日のトレーニングはキツかったの?」
「んー、いや、まあ。併走トレ」
「え、誰と?」
「誰でもいいでしょ」
「もしかして、タマモ先輩?」
モニーがタマモ先輩と仲がいいことは、オグリから教えてもらって知ったことだ。
私は幾ばくかの確証をもって、モニーに質問していた。
「なんだ、知ってんじゃん」
「タマモ先輩と併走なんて羨ましいよ」
「イチだって、オグリと走ってんでしょ」
そう切り返されて、私も黙り込む。
それからは、消灯を告げる放送が流れるまで、お互いにけん制を避けるように黙り込んでいた。
「じゃあ、おやすみ」
モニーはそう言うと、珍しくスマホを充電器に差してから、ベッドに入り込もうとしている。
「あれ、珍しいね」
「まあ、今日は疲れたし」
「タマモ先輩の併走って、やっぱキツイ?」
「うん、最後にはどうやっても差し切られるから」
そういった後、あっ、と声を上げる。自分が普段から逃げの作戦で走っていることをうっかりバラしてしまったかもしれない、と思っているのだろう。
その感じがなんだかおかしくなってしまい、少しだけ笑いが漏れてしまった。
「別に、モニーが逃げで走ってるのなんて知ってるって」
「イチはオグリみたいな控え方するよね」
「うん、まあね」
「やっぱり、元祖オグリギャルだし、直々に教えてもらってるってこと?」
「別に、そんなんじゃないし。モニーこそ、タマモ先輩は逃げるタイプじゃないから大変なんじゃないの」
「そうでもない。逆に、イチみたいな走りをする子のタイミング、知ってるから」
それに、と寝返りを打ったようなシーツの擦れる音を立てた後、はっきりした声で話してきた。
「イチは多分、タマモ先輩より速くないっしょ」
私は、モニーのストレートな挑発に、血液が全身に回ったのを感じた。
このタイミングでそんなことを言うのか。さっき私がひっかけたから、その仕返しのつもりだろうか。
自分でも信じられないくらい、激しい闘争心が身体の中を駆け巡っている。
そこそこに重たいシーツを少し持ち上げるほど、尻尾が動く。
今すぐ起きて運動着に着替えろ、勝負してやる――という言葉を飲み込んで、何とかモニーと正反対の方向に寝返りを打った。
乱暴に寝返りを打ってしまったのだろう、ベッドの軋む大きな音が、部屋の中に響いた。
「そうかもね」
どうしても震える声で、何とか言葉を音にする。
けれど、それ以上に何か返事を思いつくことができなかった。
何も言えなくなったのだろうと思ったのか、モニーが「おやすみ」ともう一度だけ言って、横になったようだった。
一度掘り起こされた熱はそう簡単に鎮まることなく一晩中続いて、私の眠気をすっかり吹き飛ばしてしまった。
目の冴えた私は、どんなに目を閉じても、その日は全く眠れなかった。
なんとか眠ろうと思えば思うほど、むしろ瞼の裏側は赤くなったように見えるし、聴覚は敏感になっていく。
私の背後から、ゴソゴソ、としきりに動く音が聞こえて、思わず身体を起こす。
窓から漏れてくる街頭の光と、暗闇に慣れた目が、どうやら眠れていないモニーの姿を映していた。
声をかけようかとも思ったが、そんな気分にはなれず、頭までシーツを被って横になる。
明日の朝、オグリに逃げる子の捕まえ方を教えてもらおう、そう思いながら一時間以上をかけて、なんとか眠ることができた。

レース当日の朝、いつもと同じ時間に目が覚めた。
やっと木や鳥が起き出したくらいで、まだ人も町も動き出していない時間。
身体を起こしてぐっ、と伸びを一つして、隣のベッドに顔を向ける。いつもどおり、モニーはぐっすり眠っていた。
あの日以来、私たちは普段通りを装いながら、水面下で鬼も逃げ出すほどの戦いを繰り広げていた……と思う。
モニーのほうはどう思っているかさっぱりわからないけれど、少なくとも私は「気合が入りすぎている」と注意を受けるくらいに燃えていた。
昨晩済ませておいたレース支度の鞄を持って、部屋を出る。
ラウンジを通り過ぎて、そこから玄関に通じる扉まで真っすぐ歩こうとしたとき、「イチちゃん」と声をかけられた。
びっくりして後ろを振り向くと、手ぬぐいに包んだお弁当箱だろうか、それを大事そうに両手で持つクリークさんが立っていた。
「おはようございます、イチちゃん」
「ああ、クリークさん。おはようございます」
「今日はイチちゃんの大事なレースだと聞いたんです」
大事なレース、という単語に、気持ちが引き締まる思いがした。
決して一つ一つのレースをないがしろにしてきたわけではないが、数をこなすことを第一にしてきた私にとって、『大事な』という言葉はとても新鮮に感じられた。
「そうですけど、クリークさんみたいにGⅠレースに出るわけじゃありませんから」
よせばいいのに、こんな時でも卑屈さが顔を出す自分の気質に嫌気がさす。
それがクリークさんにも伝わったのか、優しさの溢れる笑顔が、きゅっ、と真面目な表情を帯びる。
「イチちゃん、今日はモニーちゃんと走るんですよね」
「はい、そうですけど」
「私がオグリさんやタマモクロスさんと走るときは、レースの格なんて関係ありません」
そう言うと、クリークさんはキッチンで見たことが無いような、真剣な顔つきに変わった。
「ライバルのあの子に勝ちたい、一緒に走りたい、そのチャンスがやってきた。そうなったら、レース場でもトレーニングコースでも、私は勝つつもりで走ります」
私の空いている方の手を取って、その上に綺麗に結ばれたお弁当箱を置く。
「イチちゃん。私はモニーちゃんも一緒に応援しています。ですから、同じようにお弁当を渡します」
頑張ってきてくださいね、と言って、クリークさんは両手をお腹の前できれいに組みなおした。
クリークさんの言葉の意味をかみ砕いていた私は、しばらくその場に棒立ちになっていた。
しっかり飲み込んで、私の目を真っすぐ見据えるクリークさんに視線を合わせる。
「わかりました。ありがとうございます」
「行ってらっしゃい、イチちゃん。無事に帰ってきてくださいね」
「行ってきます」
お弁当を大事に抱えて、私はラウンジの扉を開けた。

下駄箱の上に鞄とお弁当を置いて、靴を履き替える。外に出て深呼吸を一つ。
3回繰り返したころ、またしても突然、後ろから声をかけられた。
「イチちゃん、頑張ってね」
ぎょっとして後ろを振り返ると、ナイトキャップを被った、幾分リラックスした服装のフジ寮長が立っていた。
「わ、はい、おはようございます」
「私の分も、しっかり走ってきてね」
「ありがとうございます」
「もう、あの時みたいに迷っていたポニーちゃんはいないみたいだね」
ニコニコした笑顔を崩さないまま、思い返したくない――主に子供じみた過去の自分が恥ずかしい、という意味で――記憶を突いてくる。
「はい。もう、誰にも八つ当たりはしません。自分の結果は自分で背負えます」
私は苦笑しながら答えた。
「うん、そうみたいだね。オグリからも、レスアンカーワンからも、大事なものを学んだみたいだ」
貼りつけたようなフジ寮長の笑顔が一瞬だけ変わるのを、私は見逃さなかった。
母親と言うより父親のような、厳しく叱ってしまった子供が真っすぐ成長してくれたのを安心するような、そんな表情だった。
「フジ寮長、どうかしましたか」
「いいや、大丈夫。ありがとう」
そう言うやいなや、手を素早く一度振った。顔の高さで止まった手にはトランプのカードが1枚挟まれている。
はい、と言われて差し出されたカードを受け取る。
「スペードの6、ですけど」
「そうだね」
「いつも思うんですけど、そういうの、どこで覚えるんですか」
「そうだな…… イチちゃんが勝ったら教えてあげるよ」
相変わらず、どうやっても敵わない人だな、と思わされた。
「それじゃあ、応援しているよ、イチちゃん」
ありがとうございます、と答えながらお辞儀をする。
顔を上げるころには、もうフジ寮長の姿は消えてしまっていた。

正門前でトレーナーさんと合流して、レース場に向かう電車に乗る。
2回乗り換えを挟んで、最後の駅からはバス。
住宅街の真ん中に突如現れる、巨大な建物にたどり着いた。
すでにお客さんで賑わっている入り口を横目に、関係者用の入り口に向かう。
そこで学生証やレース登録済みの用紙を確認してもらい、時間が来るまで控室で待機する。
控室は枠番が1~5番の子たちと、6~9番の子で部屋が分かれていた。
私はその前者に入り、先に着いていた競争相手に挨拶する。
他の子たちも聞いているけど、まずはトレーナーさんと最後の打ち合わせをする。
もう何度も経験して、すっかり慣れたと思ったレース前のこの時間が、今日は違った。まるでデビュー直後の一戦目の時みたいにドキドキしていた。
私の少し震える手を見たのか、トレーナーさんが「大丈夫ですか」 と声をかけてくれる。
「はい、なんとか」
「お気持ちは少しだけですが、分かります。緊張し過ぎずに」
緊張、という言葉に違和感を抱いた。
身体の外に動きが出てしまうくらいにドキドキしてはいるが、これは緊張ではない、と心の中で否定する。
初めて控室で体操服に腕を通し、ゼッケンをつけた自分を鏡で見た時、それはそれは恐ろしい気持ちが心の中で湧いていたことを思い出す。
自分は本当に勝てるのか、デビュー戦で勝てたのは実力ではなく、これから出走するすべてのレースに負けてしまうのではないか。それによって、学園を去ることになってしまうのではないか。
そんなことを考えていたこともあったが、案外自分は図太いほうなのか、五回も走れば落ち着くようになり、それ以降は神経が安定した状態になっていった。
それに比べて、自分が感じている今の震えは、明らかに何か性質の違うものだった。
ああ、分かった、と口の中でつぶやく。
「私、ワクワクしてるんだと思います」
トレーナーさんが目を丸くしてこちらを見る。
「ワクワク、ですか」
「はい。ドキドキしてるんですけど、なんだか今日はやれるって、そう思うんです。走るのがすごく、楽しみで」
私の言葉にトレーナーさんがゆっくり目を閉じ、しばらく何かを考えた後、書類をそろえて鞄の中にしまい始めた。
「あれ、作戦会議、終わりですか」
「はい。レスアンカーワンさんは作戦を忘れたことはありませんし」
それに、と言葉を続ける。
「今の様子なら、絶対に悪い結果にはならないと思いますから。どうかご無事に、頑張ってきてください」
そう言って、椅子から立ち上がった。
私も立って、お辞儀をする。
「ありがとうございます。そしたら、また後で」
顔を上げてトレーナーさんと目を合わせる。
「はい。次はウィナーズ・サークルで。」
他の子がいるのにも関わらず、ずいぶん大層な約束をトレーナーさんは取り付けてきた。
普段ならこんなことはしない人なのに、私の熱がきっと移ってしまったのかな、と思う。
扉の方に振り返り控室から出ていくまで、トレーナーさんがもう一度こちらを見ることは無かった。

パドックでのお披露目の時間になり、控室を出る。
長い地下バ道を通ってそこに着くまで、モニーとは一度も顔を合わせなかった。
順番に名前を呼ばれ、それぞれ全員が思い思いのポーズを取ったり、お辞儀をするだけだったり、個性のあるアピールをしている。
『2枠3番は、レスアンカーワン!』
アナウンサーの人が、場内に私の名前を高々と響かせる。何か派手にポーズを決めたりするのは恥ずかしいから、お辞儀だけ。
顔を上げると、何人かの人たちが私に向かって手を振ってくれたり、応援うちわを振ってくれる人、中には私そっくりの人形をこちらに掲げてくれる人を見つけた。
GⅠを走る子たちほどではないけど、とてもありがたい、応援してくれる人が私にもいる。そう実感すると、ますます自信が湧いて出てくる。
何人か挟んだ後、今日までずっとマークしている、あの名前が聞こえてきた。
『5枠9番、エイジセレモニー!』
そこで初めて、私はモニーの姿を見た。
今朝見た姿から一転して、軽く飛び跳ねた後に仰々しいお辞儀をしている。
睨みつけるというほどではないけど、私は彼女からしばらく、目が離せなかった。
モニーはレースを逃げることから、やはり一定のファンがいるみたいで、悔しいけれど私よりも少しファンの人が多く見えた。
向こうも私の姿は見ているはずだけれど、一度も言葉はおろか、目も合わせなかった。
きっと、私が挨拶しているときには、今の私と同じような目をしていたのだろう。
お披露目の時間が終わった後、やっぱりというべきか、私たちは言葉を交わさずにそれぞれの控室に戻っていった。
「それでは選手の皆さん、間もなく本バ場入場ですのでご準備ください」
係のウマ娘が扉を開け、合図が入る。
その声を聞き、部屋にいる全員が立ち上がった。
私の右の席に座っていた子は、トレーナーさんと最後まで入念にコースのチェック。
私の左の席に座っていた子は、トレーナーさんと何やら、願掛けのようなものをしている。
両隣の二人が立つまで、私は目を閉じてゆっくりと深呼吸を繰り返しながら、初めて感じる高揚感の良いところだけを、ゆっくりと抽出しようと試みていた。
皆が部屋から出たのを確認して、最後にもう一回深呼吸をする。
大丈夫、必ず勝てる。
ドアのすぐそばにある姿見でもう一度服装をチェックしてから、私は地下バ道に続く廊下を歩いて行った。

道の両側に取り付けられた蛍光管で照らされる地下バ道を歩く。
しばらく歩いて、とても長い登り坂に差し掛かる。外の光が差し込んで目がくらむその道の途中で、私は、思いもよらない人影を見つけた。
私よりも少し背の高い、綺麗な葦毛をなびかせて、ひし形の髪飾りをつけている女性。
その人の脚の間からは、ウマ娘であることが一目でわかる、やはり綺麗な葦毛をした尻尾の毛がのぞいていた。
相手もこちらに気付いたようで、こちらにゆっくりと歩み寄ってくる。
「オグリ!」
私が思わず名前を呼ぶと、そのウマ娘――オグリキャップは、手を胸の高さで振った。
「やあ、イチ」
「オグリ、どうしてここに」
「君のトレーナーが知らせてくれたんだ。今日はイチのとても大切なレースだって」
「帽子とか、変装は?」
「イチにはちゃんと姿を見せて会いたくてな。ちゃんと持ってきているぞ」
ふふん、という様子でオグリはそれらを鞄の中から取り出して見せた。
「忙しくないの」
「今日はちゃんと、予定を開けてきたんだ。どうしても応援したかったから」
そう言うと、オグリは私の手を取って力強く握り、胸元に寄せた。
「イチは絶対に大丈夫だ。私が一緒に走って練習したウマ娘なんだ。だから、必ず勝つ」
聞いたことないような、低くて、艶があって、力強い声。
私と雑談しているときのような柔らかさとは異なるけれど、この時初めて聞いたオグリの声は、私の中に自然と入って、じんわりと沁みた。
「うん、ありがとう」
「最後まで必ず見ている。だから、行ってらっしゃい」
「おお、オグリやないか」
私の後ろから、こちらも聞きなれた、快活な声が響いた。
驚いて後ろを振り返ると、目線の高さにいたのは――モニーだった。
「モニー」
名前を呼ぶ自分の声が、思わず硬くなっているのに気付く。
するとまた、ちょちょちょい!と声が響いた。
「もうちょい下や!ヒドいなぁ、もう」
声に従って下を向くと、そこにいたのはオグリと同じ、綺麗な葦毛をまとめ、赤と青の髪飾りをしたウマ娘だった。
「タマじゃないか」
オグリも驚いたように声を上げている。
「オグリもかい!なんや酷いなぁ。そこまで小さくはないやろ」
「すまない、わざとじゃないんだ」
「それがいっちゃん傷つくっちゅーねん!」
タマモ先輩とオグリが、まるで学園のラウンジや教室で話すくらい、リラックスした雰囲気を作り出している。
そんなやり取りを聞きながら、私は――多分モニーも――その雰囲気に入れていなかった。
私たちは目線を逸らすことなく、獲物の動きを絶対に見逃さない猟師のようにじっ、とお互いの顔を捉えていた。
オグリの声も、タマモ先輩の声も聞こえなくなって、私たちだけが地下バ道にいるような、そんな錯覚に陥った。
それは、そのうちに地下バ道から、煽り合ったあの日の夜の寮室にタイムスリップしたようなものに変わった。
手の内は明かしていない。それでもお互いにわかるところは調べつくして、色んな人の助けを得て、アンタに勝つために必死に今日まで努力した。
絶対に勝つのは私だ――実際のところはわからないけど、モニーも私と同じことを思っているに違いない、と確信した。
先に沈黙を破り、私たちを元の地下バ道に引き戻したのはモニーだった。
「何しに来てるの、『シンデレラの小間使い』さん」
モニーの言葉に、先に反応をしたのはオグリだった。
「なっ、モニー」
オグリは少し慌てたように、私とモニーを交互に見ながら間に立った。それに対して、タマモ先輩はケラケラと笑っている。
私はそれを聞いて、特に何を思うこともなかった、というのは嘘になるけれど、怒ったりとか、そういうような感情は何も湧いてこなかった。
ただ、これを言われっぱなしにするのは、私よりもオグリの方を貶めているように思えて、それが一番許せなかった。
うろたえるオグリの前に一歩出て、モニーの目をひるまずに見据えて、言葉を返す。
「こっちのセリフよ、『積乱雲のちぎれ雲』さん」
私の言葉を聞いて、モニーが表情を変えないまま、眉を片方だけピクッ、と動かした。
アンタにだけは絶対に負けない、たとえ試合に負けても、アンタとの勝負ははっきりつける。
相手の目の中に映る自分を見つめる。
そこには、自分でも恐ろしくなるような表情をした自分がいた。
モニーのことを見ているのか、それとも自分のことを見ているのか分からなくなってきたころ、良く響く笑い声が、私たちをまた現実に引き戻した。
「あっはっは! こりゃ敵わんなぁ」
距離が近い私たちの間に、タマモ先輩が笑いながら割って入る。
「なんやお二人さん、バッチバチやないか。知らんかったで。」
そう言いながら、タマモ先輩は音が立つくらいの強さでモニーの背中を叩いて、オグリを見上げた。
「ウチのモニちゃんは強いで、オグリ。怪物の娘さんなんか一撃や」
それを聞いたオグリは、私の手を強く取り、タマモ先輩を見返す。
「私のイチのほうがもっと速いぞ、タマ。それこそ、光よりもずっと」
うん、と二人は大きく一回頷いて、私たちの背中をレース場に向かって強く押した。
私もモニーも、いきなり押されたものだからよろけてしまって、びっくりした顔でそれぞれのパートナーを見つめた。
「ほな、あっちで決着、きっちりつけるんやで! モニちゃん、負けたら承知せんぞ!」
「君はレスアンカーワンなんだ、イチ。頑張ってきてくれ!」
二人の声に押されて、私たちは光が差す地下バ道の出口に向かって、脚を揃えて歩き出した。
「ねえモニー」
私は歩きながら、どうしても確認したいことがあって、モニーに話しかける。
「何、どうしたの」
「さっき言ってたの、本気?」
「割とね」
「そう。じゃあ、私も割と本気だから」
あともう一歩で外に出るということろで、私たちは示し合わせたように立ち止まって、お互いを見合わせた。
「私、絶対にモニーより前で踊るから」
「そ。そしたら、イチはレース中もライブ中も、私より前にいることは無いから」
そう言って、人の声が響くレース場に二人で足を踏み入れる。
その会話を最後に、私たちはゲート入場まで、一言も話さなかった。
「ねえモニー」
私は歩きながら、どうしても確認したいことがあって、モニーに話しかける。
「何、どうしたの」
「さっき言ってたの、本気?」
「割とね」
「そう。じゃあ、私も割と本気だから」
あともう一歩で外に出るということろで、私たちは示し合わせたように立ち止まって、お互いを見合わせた。
「私、絶対にモニーより前で踊るから」
「そ。そしたら、イチはレース中もライブ中も、私より前にいることは無いから」
そう言って、人の声が響くレース場に二人で足を踏み入れる。
その会話を最後に、私たちはゲート入場まで、一言も話さなかった。

遠くで小刻みにトランペットが鳴らされる。
その音を合図に私たちは準備ができた子から、順番にゲートに入る。
レース直前になって怯えてしまう子がいることもあるが、今回のメンバーは全員スムーズにゲートインした。
背中の方で、扉が閉まる音がする。
これまで数十回走ってきて、すっかり慣れたゲートの景色。
私はスタートの姿勢を取る前に、肩の力を抜いて真っすぐ立つ。それから、目を閉じて深呼吸を一回。
広いコースの真ん中でする深呼吸より、狭い空間でするそれのほうが、なんだか深く息が吸える気がする。
腰を落として、目を開く。脚は肩幅の広さに開き、手を前に出す。
後は、ゲートが開いて、この視界が明るくなるのを待つ。
私は金網上になっているところの隙間から、遠くの第二コーナーを見据えた。
さあ、早く。いつでも準備は大丈夫。
早く!
視界が明るくなって、ゲートが揺れる。
ガコン、という音が鳴ると同時に、私は芝を蹴り出した。
遠くを見つめていた視点を左右に振り、周りの状況を見る。
1、2番は私と同じスタートを切ったようだ。けど、2番の子が加速を失敗して後ろに下がっている。
サッと確認した後、より人数の多い左側に素早く視界を移す。
すると、9番ゼッケン――今回のマーク相手――が、最も先に出ているのを見つけた。
スタートが上手いのは情報通りだったけど、想像以上の集中力だったようだ。
そのまま右に重心を移して、内ラチ沿いに向かっていく。
それを見た6番が焦ったのか、9番に追いつこうと姿勢を低くしている。
9番に走らされているように見えた。これは追わなくてよい。
4番の子は6番に着いていくようなペース、5番の子は私の少し前。
7、8番の子はマイペースで進めることにしているのか、無理に内側に入ろうとせず、私のすぐ隣くらいで位置を決めたようだ。
長い直線を走る中、9番が一度だけ、ちらりと後ろを確認した。
6番が競り合おうとしているのを確かに見ると、スッ、と速度が上がる。
先頭だけは絶対に譲らない――そんなプライドが垣間見える走りだった。
第一コーナーに入って、9番が「14」のハロン棒を通り過ぎてから、自分がそこに到達するまでの時間を数える。
1、2、3。ともう少し。
大体、3.5バ身。
まだ、言うほど抜けているわけじゃない。大丈夫。
第一コーナーの中間点、一番膨らむところ。
オグリの走りを後ろで見て、その走りを無意識に真似してきたけれど、オグリのコーナーリングだけは今でも真似できない。
だから、トレーナーさんに言われてきた通り、コーナーでは失速しないことを意識して走る。
丁寧に、ラチのカーブの先端を見ながら、それに身体を沿わせていく。
この一瞬だけは、位置取りや周囲のことを一旦脇に避けて、身体の傾きと重心に神経を注ぐ。
吹っ飛んでしまいそうな遠心力を半身で感じながら、反対の脚でかろうじて踏ん張る。
芝から片方の足が離れるたびに、私はレース場の外からワイヤーで思い切り巻き取られるような感覚を覚えていた。
それに抗うために、もう片方の脚に、頼むからこらえてね、とお願いをする。
速くも、上手でもないけど、何とか周りきることに成功した。
向こう正面。多分、このレースの肝になるところ。
自分の周囲をすぐ確認する。コーナーに入る前と、そこまで全体的な位置取りは変わっていない。
もしかしたら、今回コーナーが特別に得意という子はいないのかもしれない、と分析した。
それなら、この直線で前に出る準備をしなければいけない。
バ郡の中で、少し位置をズラして9番を探る。
「10」のハロン棒を通過して、登り坂に入るところだった。
短いが確実に存在する坂を、9番は脚を細かく動かすことで素早く上りきっていった。
それを見て、良く知ってるじゃない、と思わず恨み言が漏れる。ピッチ走法を身に着けていることが分かってしまった。
このコースは最後の直線200mくらいから、また同じような坂がある。
短い直線の上り坂で速度を落としてくれないとなると、最後にはスタミナを中心に据えたスパート合戦になってしまう。
9番に逃げられるのは癪にさわるけど、やや長めになるスパートに備えて、一度息を入れなければいけない、と判断した。
私たちも遅れて、同じ坂に差し掛かる。
頑張れ、がんばれ、私。
自分を鼓舞しながら上り坂で無理やり加速して、バ群にもう一度再合流する。
後ろから足音がいくつか、私の左側から聞こえてくる。遅れていた2、7、8番が追い上げてきたようだ。
この3人に私は目をつけて、ここで息を入れよう、と潜伏することに決めた。
申し訳ないけど、この三人よりは後からでも絶対前に出られる。そんな自信があった。
隠れながら、二番手にいる6番をちらりと見る。
やっぱり9番に走らされていたようで、ずいぶん消耗しているようだった。
そう思っていた矢先、第三コーナーに差し掛かる手前で、9番がわずかに位置を上げたように見えた。
もう、コーナーに入るところで急ぎ足しなくてもいいじゃない。
「6」のハロン棒の脇を、9番が通過した。
私も慌てて加速する。「6」の数字が迫ってくる。
1、2、3、4秒。
まずい。差が開きすぎている。
素早く外に出る準備をしながら、私も第三コーナーに入った。
第一、第二コーナーとは違って比較的平坦とはいえ、苦手なのは変わらない。
けれど、そんな言い訳で間に合うような差じゃなかった。
早めにスパートをかけて、最後にハナ差で9番を差し切る。
差しのコツは、終盤となる前に好位につけることが大原則だ。今行かなければ、間に合わない。
ここまでの走りか、焦りを感じたからか、足先から鈍い痛みがこみ上がってくる。
歯を食いしばってそれに目をそむけて、コーナーで加速を試みる。
お願い、少しだけでもいい、アイツに届かせないといけない。
私の作戦を周りが感じ取ったのか、全員が私よりも前に行こうと速度を上げる。
9番に走らされていた6番の子に追いついてきて、距離が縮まってきた。
こんなところで垂れるわけには行かないの、お願い、ちょっとどいて!
6番と、私の後ろからやってきた7番の速度、自分の速さの加減を考慮して、早めに横移動を決めて外に抜け出す。
第四コーナーに差し掛かって、9番の通過した「4」のハロン棒の脇を、私は3秒弱の差で通り過ぎることができた。
先頭からマークの9番、速度の落ちた6番、私がいて、すぐ後ろ内目に7番。それ以外の子とはもう、勝負しなくていい。
6番の子は200mまでに追い抜けるだろう。
7番の子は息を入れていないから、私のほうがスパートの速度も距離も勝っている。抜かれない。
だから、後は9番、アンタだけ。
だからモニー、待て。
待って!

『さあ第四コーナーを回って一番手は9番エイジセレモニー、二番手には6番リボンオペレッタ、三番手には3番レスアンカーワン、四番手には7番アウトスタンドギグが上がってきました』

『差が詰まってきた、コーナーから直線コース、さあ先頭は9番エイジセレモニー、やや苦しいか、リードはまだ三バ身ほど、残り200mを切っています』

『6番リボンオペレッタも苦しいか、外、3番レスアンカーワン上がってくる、上がってくる、7番も負けていません』

『さあレスアンカーワン差し切れるか、差が詰まっています、後100mほど、三番手争いは6番と7番』

『しかし9番だ、9番のエイジセレモニー逃げ切りを計る、3番レスアンカーワン届くか』

『粘るか、届くか、9番速度を落としません、今ゴールイン!』

『勝ったのは9番エイジセレモニー、二着に3番レスアンカーワン、三着争いは接戦、7番アウトスタンドギグがやや優勢か!』

『好スタートから勝負強さを見せました、9番エイジセレモニー。迷いのない、見事な逃げ切り勝ちでした!』

第四コーナーまでは把握できていた周囲の風景が、たった400m弱の直線を走るだけで、何もわからなくなる。
真っ黒な視界に、歓声も拍手も聞こえない。酸素を求めて荒い呼吸を繰り返して、脚は立っているだけで精一杯だ。
そんな状態でも、ゴール板の前を横切るまでに、モニーが私よりも前にいたことだけは覚えていた。
あともう少しなのに、スピードは足りていたはずなのに、なぜか届かなかった、あと数cm。
その最後の瞬間だけが、繰り返し頭の中でチラついて止まらなかった。

レース係のウマ娘たちに支えられながら、ターフの上から移動する。
おおざっぱに汗と汚れを落としてもらって、ゼッケンを取る。
ここでゼッケンを取らないのは、勝った選手だけだ。
ゼッケンの数字が良く見えるように汚れを落とすモニーを横目で見る。モニーもこちらを見ていたようで、目が合った。
それまで疲れと痛みで何も思わなかった感情が、相手の顔を見た途端にこみあげてくる。
堰だけは切らないように、頭を振って地面に視線を落とす。
「歩けますか」と係の子が聞いてくれた。何とか帰れます、と答えて、うつむいたまま歩き出す。
モニーはそのままウィナーズ・サークルに戻って、私は地下バ道に続く道へ足を向けた。
壁に手をつきながら歩いていると、何もないはずの地下バ道で、何かに優しく受け止められるようにぶつかった。
「トレーナーさん、ですか」
「お疲れ様、イチ」
顔は上げなかったが、それは間違いなくオグリの声だった。
「よく頑張ったな」
そう言うと、背中と頭の後ろに温かい熱を感じた。
「ごめん、ごめん、オグリ」
「ううん、本当に接戦だった。格好良かったぞ」
レースで自分が感じたことのないとめどない悔しさを、オグリにぶつける。
負けても見えていないフリをしてきたこれまでの悔しさや至らなさが、モニーとのぶつかり合いですべて吐き出すような勢いで、オグリに泣きついた。
泣いても泣いても止まらない気持ちを、オグリはただ黙って、受け止めてくれた。
「とてもいいレースだった。レースの中身も、それまでも。二人が一生懸命積み上げてきたものが全部表れていた」
それに、と言葉を付け足す。
「私はイチが勝っても負けても、レースが終わってすぐのイチの側にいられて、とても嬉しい」
「バ鹿、それは違うでしょ」
「違わない。私はまだ走れないが、一緒にレースに参加できているようで嬉しいんだ」
オグリが手を離れて、屈みこんだ。
「ちょっと、今は見ないで」
「イチだって、私が負け込んでしまっているときに、いっぱい支えてくれた。今は、私の番と言うだけだ」
オグリがトレーナーさんを呼ぶ。
「本当に、とってもいいレースでした」
「トレーナーさん、あの」
ごめんなさい、と言いかける前に首を横に振っている。
「謝るのはナシです。レースに勝てるのは一人だけ、そういうものですから」
「さぁ、きちんと身体の汚れを落としたら、ウイニングライブですよ。2番手ですからよく見てもらえることでしょう」
トレーナーさんが私を勇気づけようとして、明るい声を出す。
「私もすごく楽しみにしているんだ。イチのレースに割り当てられた曲は、私のお気に入りでもあるから」
「でも、いわゆるお下がり曲だよ」
「そんなものは関係ない。私は、コースの上と、ライブの上で輝くイチが大好きだ」
ストレートな好意が、疲れてしまった身体に強烈に響いた。
「オグリ、そんな、何を言って」
「あっ、もちろん、料理を作る後ろ姿も、私を待ってくれる朝のイチも大好きだぞ」
「今、トレーナーさんもいるから」
思わずトレーナーさんの方を向くと、ちょっと困ったように、ただただニコニコした笑顔を浮かべていた。
「ふふふ、早く舞台監督さんと振付師さんとの打ち合わせに向けて、身体を休めましょう」
「笑わないでくださいよ」
「風のうわさには聞いていましたが、なるほどこれは、オグリギャルと呼ばれても仕方がないですね」
「トレーナー、その呼び方は少し、恥ずかしいぞ」
「えっ、なんでオグリが恥ずかしがるのよ」
私は、二人と話していて、自然と足が前に進んでいることに気が付いた。
また、もう一度モニーと走りたい。
それで今度こそ、私が勝つ。最後に前に出て、センターで踊る。
悔しさで苦くなっていた心境は、いつの間にかすっかり抜かれて、晴れやかで、甘くて刺激のあるような、前向きな気持ちに変化していた。

『友情激突』 
『根性の逃げ切り勝ち エイジセレモニー』

『先日福島レース場で行われた第6R、芝・2000mでは、ルームメイト同士のエイジセレモニーとレスアンカーワンが激突。』
『いずれの選手もデビュー時期こそ遅かったものの、今期では珍しい逃げ戦法とオグリキャップに似た走りでファンを魅了する二人。』
『1800mまでが得意なレスアンカーワンはスタミナが不安視されたが、レース中盤の潜伏作戦で最後までエイジセレモニーを追い詰めた。』
『結果こそスタミナに定評のあったエイジセレモニーに軍配が上がったが、一般戦らしからぬデッドヒート。割り当て曲だった「Never Looking Back」にふさわしいレース展開となった。』

『「二番手のレスアンカーワン選手に勝つために、何か特別なことはされましたか?」』
『「そうですね、やっぱり、煽りに煽ったことでしょうか」』
『「今のお気持ちを一言」』
『「今回私が勝ったのでもうやりたくないです、って言うのは嘘ですけど、もう一度やりたいです。応援、ありがとうございました』

了

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Part12

その1(≫62~63)

了船長22/05/24(火) 01:57:57

「……はッ!」

「はあ、はあ」

「……ふーっ。夢か」
「んん……」
「わっ、……ああ」
「ん…… どうしたんだ、イチ……」
「ごめん、うるさくして」
「いや、大丈夫だぞ…… もしかして、痛むのか」
「ううん、それは大丈夫」
「本当か? 強くしてしまっただろうか」
「平気だって。ありがとう、オグリ」
「痛んでしまっていたら、すまない」
「大丈夫だから、ちょっと、イヤな夢見ただけ」
「それはよくない。……ほら、イチ」
「わ、ちょっと」
「私といるのに、怖いものを見せてしまってすまない」
「何言ってんの」
「私はイチといると、とても幸せな気持ちになれる。だから、イチにもそうあって欲しいんだ」
「寝ぼけてるでしょ」
「そうかもしれない。でも、それもいいかもしれないと思うんだ」
「わっ」
「ふふ、イチのほっぺは、あったかくてきめ細やかだな」
「……ずるい」
「横になってくれ、イチ。手が届かないから」
「……なんか、ヤだ」
「それなら、イチが落ち着くまでこうしている」
「……許す」
「ありがとう」
「ほっぺさするの、飽きないの」
「イチは、ご飯を食べるのに飽きないだろう?」
「オグリほど食べたら飽きるわよ、たぶん」
「それと同じだ」
「どういう意味よ」

「……ね、ちょっと」
「うん」
「すこし、壁によって」
「ああ、わかった」
「えいっ」
「わッ、イチ?」
「押し付けてやるから」
「びっくりしたぞ。よいしょ」
「……オグリ、やっぱりおっきいね。右腕、痺れない?」
「大丈夫だ。……イチは、いい匂いだな」
「おんなじ匂いじゃん」
「それが違うんだ。私にしかわからないのかもしれないな」
「……えいっ」
「ふふっ。イチ、手を」
「……ありがと」
「ううん。おやすみ、イチ」
「おやすみ」

了

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その2(≫191)

了船長22/06/15(水) 23:54:52

えっ、何よオグリ。タマモ先輩も、ちょっと、もう少しゆっくり。
ここに座るんですか。
大丈夫って、何が大丈夫なのよ。いつも通りしゃべったらええって、何をしゃべるんですか。
声が綺麗だから大丈夫って、何言ってんの。
タマモ先輩も、バカなこと言わないでくださいよ。二人がメッセージを撮影した方がイイですって。私のことなんか、お二人より知ってる人、絶対少ないのに……
これを期にバーッとブレイクするって、重賞も出てないのに。
え、もうカメラ回してるんですか。
え~っと……

「皆さん、毎日お仕事やお勉強、お疲れ様です」

えっ、もう一言ですか?
うーんと……

「あと、いつも私たちを応援してくれて、ありがとうございます」
「私たちは、もしかしたら皆さんに名前を知られることなく、ある意味、生まれることもなかったかもしれません」
「二人みたいに特別な成績を残しているわけでもなく、それでも気にかけてもらえて」
「本当にありがとうございます」
「もしも今日がお誕生日だったり、良いことがあった人たち。おめでとうございます。何か、美味しいものを食べてくださいね」

これでいいですか。
オグリ、なんで涙ぐんでるの。タマモ先輩も、わざとらしく感心して……
もう、キッチン戻ってもいいですか! できたら二人にも分けてあげますから。
お、オグリ!すぐにお腹を鳴らさないの!

了

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Part13

その1(≫46~49)

了船長22/06/23(木) 01:33:22

「戻ったでー、お、なんかいい香りがするやんけ」
「お帰りー。そうでしょ」
「今日はモニちゃんの手料理かいな。珍しいやんなあ」
「そうそう。でもイチから自分で作るのは大変なんで、ケンタッキー買ってきちゃった」
「せやなあ、自分でそろえるんは大変……って、なんやとお! ケンタッキーを買ってきたァ!?」
「いいじゃないっすかタマさん。美味いっすよ」
「そら美味いにきまっとんねん! このバケツ一つでいくらしたんや、言うてみい!」
「えー、3000円くらい?」
「ちゃう! 10個なら2450円で、12個なら2940円や!」
「ちゃんと覚えてんの、すーご」
「こんなんクリスマスでもないと買われへん高級品やって言うのに……!」
「自分たちで稼いで生活してるんですから、もう誰も文句言いませんよ」
「せやけど、将来のために切り詰められるところは切り詰めんとあかん」
「たまーに贅沢したって、ウチらの稼ぎならヘーキですよ」
「こんな食事、家が2軒も3軒も建ってしまうで。せめて、クーポンとかは使ったんやろ」
「いや、帰り道でフラっと立ち寄ったんで、特に」
「な、なんてことや…… 家計の破滅や……」
「なんでそんなにショック受けてるんですかー」
「受けるやろこんなん! たった二人で、ケンタッキーのバケツ一つ分やぞ! 贅沢がすぎるっちゅーねん」
「バケツじゃなくてバレルっす、たまには贅沢もいいじゃないですか」
「こんな、鶏肉とちょっとのビスケットだけでお腹をいっぱいにしようなんて、おとん、おかん、チビ達、モニちゃんをどうか許してやってくれ。堪忍やで……」
「買っていってあげたらいいじゃないですか」
「そういうんとはちゃうねんモニちゃん」
「なにがですかー」
「ウチらはな、こういう立派なもの食べるときにはな、気後れしてしまうんや」
「そうですかー」
「分からんって感じやな」
「いや、分かんないすね。美味しく食べたらいいのに」
「こればっかりはな、そうもいかんのや」
「そうっすか……そしたら、これはどうですか」
「これ、って、刻み野菜やんけ」
「あ、それは付け合わせというか、これから一緒に食べる用。そうじゃなくて炊飯器のほう」
「なんや、ケンタッキーとごはんを一緒に食べようっちゅうんか」
「そういうことです、ほら」
「うわ! なんやこれ!」
「ふふふ、驚いたでしょう」
「な、なんでケンタッキーが、ごはんと一緒に炊かれとるねん」
「ケンタッキーの炊き込みご飯、です」
「な、なんて?」
「ケンタッキーの、炊き込みご飯」
「な、なんやってー! 炊き込みご飯やと?!」
「うーん、いいリアクション」
「な、なんで、炊いてしもうたんや」
「え、なんでって、そりゃ炊飯器ですけど」
「理由や!何を使ったかってことちゃうねん!」
「ああ、そういう。ご飯を普通に研いで、炊飯器にセットしてお水を張る。塩と胡椒を振って、上からまるっとチキンを載せちゃう」
「え、そのまんまでええんか」
「そーです。米研いで、水張って、チキンのせる。で、炊く」
「えええ、その結果がこれか」
「衣がイイ感じにふやけて、お肉と骨から出てきたエキスがご飯に染みわたり、味付けのスパイスがご飯とよく合うらしいんですよ」
「よく合うらしい……って、作ったことないんか」
「ええ。確か、身をほぐすようにチャッと混ぜて…… はい、お先に味見どうぞ」
「む、どれ…… うわ!」
「うまい?」
「うまい! むっちゃうまいでコレ!」
「おおー、どれどれ…… うわ、さすがアイツ、良く知ってんなー」
「なんて、なんて贅沢な炊き込みご飯なんや。一杯100万円は下らんで」
「ンなワケないじゃないですか。これだけだとさすがに身体に悪そうなんで、刻み野菜を混ぜてレタスと一緒に食べましょ」
「ウチのチビたちに作ってやったら、絶対に喜ぶやろなあ」
「あんまりチビって言うと、またキレられますよ? お家までアイサツに行きましたけど、チビって感じじゃあもうないっすよ」
「ウチにとっては、いつまでもチビなまんまや」
「そしたら、我が家のおチビさんも早く、手洗ってきてください」
「なんやとおー。しゃーない、洗ってきたる」
「柔軟剤のセット、忘れないでくださいよ」
「分かった。じゃあ、ウチも洗剤混ぜて……って、それは洗濯機やろ!」

了

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その2(≫95~97)

了船長22/07/04(月) 02:16:22

「待って、オグリ」
夕暮れの日差しが差す教室、二人きりのおしゃべりが終わって、教室を去ろうとするオグリの手を、私は引きとめた。
普段なら、私が自分からオグリの手を握ることなんてなかった。なにか、オグリに負けてしまったような、惚れてしまったような気がしてしまって嫌だからだ。
でも、燃えるような眩しい橙色の光に照らされた葦毛の後ろ姿を見たとき、今日だけは、なぜだかわからないけれど、オグリに触れていないと彼女がどこかに消えてなくなってしまうような、そんな恐怖にも似た感情が私を突き動かした。
オグリをこの手に引き留めて居なければ、あの教室の引き戸を一歩でも先に踏み出せば、途端に泉下の人になって、もう私のごはんも食べてくれなくなってしまって、煙を食べるだけになってしまうのではないか、と思わされた。
認めたくないとか、こっぱずかしいからとか、そんな普段の思いをすべて跳ねのけてしまうほど、強い気持ちが私の全身に宿っていた。
「どうしたんだ、イチ」
オグリが驚いたように目を丸くして、こちらに振り返る。透き通る葦毛と、同じように透き通った宝石のような目に私が映っている。
私はいつもの自分じゃ考えられないほど、今自分の目の前にいるオグリキャップを失いたくないと思った。
「オグリ」
「うん」
「今日は、一緒に帰ろ」
一秒だけでも長く、オグリの存在を確かめたいと思った。誰かに見られたら、またオグリギャルとかなんとかからかわれるだろうけど、それでも構わない。
私の提案に、オグリが顔をほころばせる。
「うん。一緒に帰ろう」
その返事に、私はひどく安心したような気持ちになった。
オグリが私の手を引いて、先に教室を出ようとしたところを、私はまた引き留めた。オグリが後ろにつんのめる。
「待って、私が先に教室出るから」
アンタが先に出て行っちゃダメだ。私がオグリの帰り道を先導して、寮まで連れて帰るんだ。そうじゃないと、どこかにふらっと消えてしまって、離れ離れになってしまうかもしれない。
混乱しているような表情のオグリの横を少しだけ足早に通り過ぎて、半分ほど開かれた引き戸の前に立つ。
私は緊張しながら、斜陽でどこか不気味に光る引き戸に手をかけて、すべて開け放った。
本来、誰もいないはずの教室に二人だけで残っていたから、廊下の照明は消されていて、教室の壁と夕日が作る影が底冷えするような暗闇を生み出していた。
暗闇の中に目をこらすと、もちろんそこには学園の壁があるだけなのだが、何かが見返してきて、こちらにおいで、と声をかけてきている気がした。
初夏には無いような――イマドキ、初夏なんてものもないくらい暑いけれど――不気味な寒さが、体の中から湧き上がってきた。
つないでいるオグリの手は、きっとまやかしだろうけれど、どういうわけか冷たく感じられた。その冷たさが末恐ろしくて、私の熱を、命を少しでも彼女に移すつもりで、強く握り直す。
「イチ、どうしたんだ」
引き戸を開けただけでしばらく歩きださない私を怪訝に思ったのか、オグリが後ろから声をかける。
「ううん、なんでもない」
「そんなに強く握らなくても、私は迷子にはならないぞ」
「ダメ、今のオグリは絶対にどこかに消えちゃうと思う」
普段なら、クラスメイトやタマモ先輩たちにからかわれているだけの言葉も、今の私には冗談に聞こえなかった。
「……そんなに言わなくてもいいじゃないか、イチ。なんだか様子が変だぞ」
オグリがむくれるように言って、握っている手を少し動かす。
後から思うと、私はあの時確かに、ちょっとおかしかったと思う。きっと誰に言っても分かってもらえないだろうけど、私は何かを思い込んで仕方なかった。
私は振り返って、オグリに向き直った。
「オグリ」
「うん」
「明日の朝も、オグリに会えるよね」
そう尋ねる私の口元は、きっと初めてのレースに出走する時くらい震えていたと思う。
「ああ、イチ。必ず会える」
オグリは何を疑うこともなく、そう答えてくれた。そのなんでもない答え方が、私を落ち着かせてくれた。
「イチのお弁当が楽しみだ。それで朝のトレーニングも頑張れる」
「また、お野菜ばかりでも食べてくれるよね」
「もちろんだ。カフェテリアでは食べれないようなものも入っているから、嬉しいぞ」
きっと私も、また朝早く起きて、クリークさんに挨拶しながらお弁当箱に料理を詰めるのだろう。
すっかりオグリの調子を上げるようなことになってしまって、当初の目論見からは完全に外れてしまっているけれど、それをどこかで楽しんでいる自分にもうすうす、気づいていた。
いつか差し入れの本当の目的を話さなければいけない時が来るだろうけど、それでもオグリはきっと、「気づかなかった」と言ってくれるのだろうとも思う。
「もうすぐ日も暮れてしまうぞ。……もしかして、帰り道が分からなくなってしまったのか?」
「そんなわけないでしょ。忘れ物がないか、ちょっと思い出してたの」
いくらなんでも明け透けなウソをついて誤魔化す。
私は手をつなぎ直して、前を向いた。ふう、と一つ呼吸をして、脚を暗闇にとられないように、床を踏みしめて教室を出る。一度出てしまえば、そこはなんてことのない、いつも通りの学園の廊下だった。
二人で昇降口に向かって歩く。私たちの足音が、誰もいない空間に響いて壁に吸われながら消えていく。
昇降口で靴を履き替えなければいけなくなって、手を離そうとオグリが力を抜いたとき、私はもう一度だけオグリを引き留めた。
「寮に帰るまで、側にいて」
「うん。分かった」
下駄箱の向こう側にオグリを見送った後、私も自分のローファーを取り出して上履きをしまう。この短い時間でも、オグリが消えてしまわないかという心配が頭をもたげていた。
急いで履き替えながら慌てて外に出ると、オグリは確かにそこにいた。
「良かった」
「約束したからな。今日はイチの側にいる」
オグリがこちらに手を伸ばして、私の手を取る。
「帰ろう、イチ。おなかがすいてしまった」
「うん。帰ろう」
寮までの短くない道のりを、地平線の向こうから照らす明かりを頼りにして、私たちはお互いに確かめ合うように、手をつないで帰った。

了

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その3(≫161~163、≫165~167)

了船長22/07/16(土) 21:15:15

「ヒマ」
「そうねえ」
「せっかくの中休みだって言うのに、どうして何もやることが無いのか」
「休みなんだからそれでもいいじゃない。お茶飲む?」
「飲む。いれて」
「ヤだ。お茶ぐらい自分でつぎなさいよ」
「んえ~、じゃあメンドい」
「なんなのよ、もう」
「トレーナーの指示を守って、じっと身体を休めなさい~~」
「その姿勢、首、痛くならないの」
「痛い。スマホも持ちにくい」
「せめてベッドに寝転ぶくらいにしときなさいよ」
「は~い」

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

「……あ」

「……ちょっと、欲しいな」

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

「ねえイチ、ゲーセン行かない?」
「何、藪から棒に」
「え、中学んときゲーセンとか行かなかった感じ?」
「行ったことあるけど、ずいぶん急だなって」
「じゃあいいじゃん、今から行こ。どうせ二人とも休みなんだし」
「このあたりにゲームセンターなんてあるの?」
「あるよ。本町のほう」
「そうなんだ。いつも府中駅の方に言ってたから知らなかった」
「『デュエルウノ』ってゲーセン知らない?」
「あー、CMで見たことあるかも」
「よし決まり。着替えよーっと」
「なんで急に行こうと思ったのよ」
「別に休みだし、あんまりヒマだから」
「そう」

⏱

「こっちのほう、来たことなかったな」
「マジ?」
「うん、行きなれてる所しか、なんだかあまり行きたくなくて」
「そんなんじゃ、イチの学生生活はキッチンとレース場でオシマイになっちゃうぞ?」
「……スーパーも行ってるし」
「本町駅から直通の通路とか、行ったことない感じ?」
「うん」
「へー。もったいない」
「何かあるの?」
「いや別に。フツーの通路」
「なんなの……」
「ほらほら、あれ」
「あ、ほんとだ。ボウリングのピン…… なんか、思ったよりデカくない?」
「ゲームだけじゃなくて他のも遊べるからね。よくトレーナーとデートしてる子もいるらしいよ」
「『お出かけ』でしょ」
「あんなの、誰がどう考えたってデートよ」
「まあ、それはそうだけど」
「この辺のアパートに、先生とか教官とか住んでるのかなー」
「さあ、どうだろうね」

⏱

「そんな学生と大人のカップルはよく、この辺のクレーンゲームを遊ぶんだとか……」
「だから、そういうのじゃないでしょって」
「だいたい、自分の担当だったり、憧れのウマ娘のぱかプチを取って喜ぶんだってさ」
「いいよね、自分のぱかプチ」
「え、イチは羨ましい感じ?」
「いや、ちょっと恥ずかしいけどさ、応援してもらえてる形があらわれてるみたいでいいじゃない」
「私はヤだなあ」
「そうなの?」
「なんか、特にそういうののために走ってるワケじゃないし」
「そう」
「勝ちたい相手がいて、そいつに勝つために頑張ってるから」
「何よその目。……次は、負けないから」
「こっちまでおいでよ、イチ」
「言われなくても、絶対に差し切ってやるわ」
「今日はそーゆーの、ナシにしよ。ふっかけたのは私だけどさ」
「分かった。ところで、遊ばないの?」
「いや、それが…… あ、あった」
「あ、タマモ先輩の。え、モニー、マジ?」
「いいでしょ別に」
「いや、なんかすごい意外。こういうの欲しがるタイプじゃないと思ってた」
「タマセンパイのは欲しくなったの。たまたま、スマホいじってたら見かけたし」
「ふーん。ま、秘密にしておいてあげますよ」
「マジでタマセンパイに言ったら引っ叩くから」
「言わない言わない」
「ぜったいウソ。絶対」
「言わないって。信用ないなあ」
「アンタはいいけど、うっかりオグリに話されたら絶対漏れる」
「わかったわかった、気を付ける」
「……今日、どのくらいお金ある」
「んー、出せて1000…… 1500円くらいまでかな」
「うし、私のと合わせて約3000円ね」
「頼むから自分の分だけで取ってよ」
「じゃ、タマセンパイの下にあるオグリのやつも取ってあげるよ」
「え、私のお金で?」
「いや、私の分で両方取れたらイチの出費はナシ。どう?」
「分かった。お願いだから、手抜かないでよ」
「任せときなさい、200円で取ってやるわ」

⏱

「モニー、頼むからこれで終わらせてよ」
「まあ、まあ」
「もうだいぶずらしたから、これで落とせるはず」
「信用できないわ」
「見てなって…… あっ、ああ」
「ちょっと、ホントに」
「お願い!」
「あっ!やった!」
「よっしゃー! 取れた」
「私の分まで使って、やっとタマモ先輩か」
「まーまー、もう300円くらいはあるでしょ。取ったげる」
「オグリのはいいよ、私は欲しかったわけじゃないし」
「いーや、こうなったらヤケ」
「他人のお金でヤケになるのはやめて。まあいいけど。はい」
「ありがっとう。それでは…… お、なんかいい感じじゃない?」
「確かに、取れちゃいそう」
「お、おお、行け、行け! やった!」
「ホントに100円で取れちゃった」
「ね、言ったでしょ。取れるんだって。はい、これ」
「ありがと」
「うーん、取れた取れた。楽しかったー。そんじゃ帰ろっか」
「え、このまま持って帰るの」
「そんなワケないでしょ。店員の人に言えば袋くれるよ」
「そうなんだ」
「そそ。すいませーん」

⏱

「サンキュー。楽しかった」
「出世払いで今日の分、返してよね」
「あー、もう忘れちゃった」
「これに関しては絶対逃がさないからね?」
「おお、こっわ」
「ふう。なんかお腹減っちゃった。帰ろっか」
「門限まではまだ時間あるし、プリでも取らない? 『@アオハルⅡ』ってのが楽しいのよ」
「うん、いいよ。私、あんまり絵描くのとか得意じゃないけど」
「ふふふ、イチ、ホントにゲーセン行ったことある?」
「あるってば。どうせこっちでしょ」
「あーお客さーん、プリクラは大体地下にあるんですよー」
「もう、先に行ってよ……」

了

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Part14

その1(≫23~25)

了船長22/07/23(土) 22:03:01

〇早朝。美浦寮キッチン。すでにキッチンの電気はつけられており、薄暗い廊下からそれが漏れ出している。
「ふぁ…… おはようございま、す?」(従来イチちゃん)
「あ、クリークさん、おはようございま……えっ」(高身長)
  トしばらく双方沈黙。そのうち、鍋が噴きこぼれる。
「あの、お鍋」
「え、わ、わあぁ」
  ト入り口から駆け寄って、素早くコンロの火を切る。
「すみません、ありがとうございます」
「いえ、なんだか驚かせてしまったみたいで」
「てっきり、クリークさんが先にいたのかと。背丈もよく似ていたし」
「私も、クリークさんが遅れて来たのかなって」
  ト双方顔を見合わせる。沈黙。
「あの、初めまして、ですよね」
「あっ、そうですね。初めまして」
「初めまして」
  トやや沈黙。切り出すように話す。
「あの、何か手伝いましょうか」
「あっ、ありがとうございます」
「もしかして、何か煮てましたか」
「ひじきです。昨日買ってきていたので」
「あ、本当ですか。私の分使ってもらって大丈夫ですよ」
「あれ、冷蔵庫には1袋しか…… すみません、使っちゃいました」
「あれっ、そしたら勘違いかも、大丈夫ですよ」
「今日、買ってきておきましょうか」
「いえ、他のメニューで用意するので」
  ト双方自分の作業をする。ややひと段落したところで、口を開く。
「朝ごはんですか?」
「いえ、お弁当です」
「お弁当、自分で作ってるんですか」
「はい。といっても、私のではないんですけど」
「えー。そうなんですね」
「はい。お昼はカフェテリアで食べてます」
「余った分は朝ごはんですよね」
「そうですそうです、意外と、そういう余ったところがおいしいんですよね」
「ふふ、わかります。私もよくお弁当作るので」
「本当ですか! キッチンにはクリークさんと同じくらい通ってると思っていたので、今まで会わなかったのが不思議です」
「確かに。でも、私は1週間ずっと通うこともありましたけど……」
「私も、1週間通い続けるときがありました」
  ト沈黙。しばらく視線を合わせながら、間をおいて口を開く。
「……まあ、偶然ですかね」
「そうですね…… 良かったら、朝ごはん、一緒にどうですか」
「え、いいんですか?」
「はい。と言っても、ひじきの煮物はほとんど使っちゃったし、他の料理も詰めちゃうので……」
「そしたら私、野菜の切れ端でお味噌汁作ろうと思うんですけど、どうでしょう」
「いいですね、私はお漬物切っちゃいます」
「ありがとうございます、嬉しいです」
「昨日、美浦寮の寮長さんからぬか漬けを貰ったんです」
「えっ、私も貰いました」
  トお互い見つめ合いながら沈黙。やや間をおいて、口を開く。
「……冷蔵庫」
  ト二人で手を止め、冷蔵庫に寄る。
「……やっぱり、一本しかないですね」
「うーん、貰ったと思ったんですけど……」
「いや、私も絶対に貰ったんですよね」
「……まあ、いいか。お腹減りましたし」
「そうですね。はやく食べちゃいましょう」
  ト二人で朝食をとる。レースの成績やお互いのルームメイトが似ていることの話で盛り上がる。
「ごちそうさまでした」
「ごちそうさまでした」
「いけない、もうこんな時間」
  ト時計を見ながら素早く立ち上がる。
「そしたら、私は少し時間あるので、洗っておきますよ」
「ホントですか。助かります」
「ひじきの煮物、とても美味しかったので、そのお礼です」
「ありがとうございます。嬉しいです」
「私も同じような味付けにするので、同じような人がいて安心しました」
「私こそ、お味噌汁、ありがとうございました」
「いや、あんなめちゃくちゃなお味噌汁で、すみません」
「ああいうお味噌汁、料理をするようになってから好きになったんです」
「えっ、私もなんですよ。作ってみると、意外と美味しいじゃん、って思って」
「そうそう。キュウリとかぼちゃを一緒に入れちゃったりして」
「分かります! そこにとき卵とか流しますよね」
「すごい! なんだか私たち、気が合いますね」
「また明日会いましょ、さっきの煮物のレシピ、もしかしたら同じかも」
「ふふ、そうですね」
「ありがとうございました、そしたらまた明日」
「はい、また明日」

  ト食器を水につけながら物思いにふけるイチと、お弁当を抱えながら走るイチ。
「「あの人、一体誰だったんだろう?」」
了

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その2(≫47~49、解説:≫53)

了船長22/07/27(水) 21:22:50

「オグリ、イチに食べ物クーイズ!」
「何よモニー、藪から棒に」
「おういあんあ」
「オグリは飲み込んでから喋りなさいよ!」
「うああい」
「はあ……」
「お食事中ですが問題です。これは何」
「えい」
「だから飲み込んでからにしなさいって」
「ルールは簡単、お二人で食材や料理の名前を答えてもらいます」
「簡単そうじゃない」
「答えていただきますが、同じ答え方は禁止とします」
「お味噌汁だったら、どっちかがおみおつけ、って言わなきゃいけないのね」
「そう!それじゃあ早速行きましょう」
「うん。よろしく頼む」
「飲み込むの早っ!」

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

「一問目。これは何」
「ネギだ」
「答えるのも早っ」
「オグリ正解! さあイチ選手、違う答えを出せるのか」
「えーと…… ひともじ」
「正解! では二問目。これは何」
「サツマイモだ」
「サッ……ちょっとオグリ、早いって」
「な、す、すまない……」
「オグリ正解! 対するイチ選手は?」
「え、えーと…… おさつ」
「おおー。では3問目。これは何」
「大根だ」
「だっ、は、早い……」
「イチ選手、出遅れ癖でしょうか。オグリ選手に遅れております」
「ぐっ…… えーと、なんだっけあれ」
「さあ、答えることはできるのか」
「えー、からもの!」
「んっふふ、正解です」
「どうしたんだ、モニー」
「何がおかしいのよっ」
「いや、なんでもない。なんでもない。さあ4問目、これは何」
「これはなんだ?」
「お味噌!」
「イチ、ブー。はずれです」
「えっ、どう見てもお味噌じゃない」
「ということは…… にんにく味噌だ!」
「オグリ、大正解! やるねえ」
「ちょっと、にんにく味噌なんて知らないわよ!」
「イチ、にんにく味噌を知らないのか?」
「それは知ってるけどっ」
「んっ、アッハッハッハ、耐えらんない」
「にんにく味噌はその言葉には無いじゃない」
「えー、じゃあ今作ってもらってもいいですよイチ選手」
「くっ…… にもじむし、でいいのね」
「あーダメだ、面白い」
「もう許さないからね!」
「わっ、怒った、逃げろっ」
「ちょっと待ちなさい、モニー!」
「あっ、イチ、モニー……」

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

「なぜイチはあんなに、顔を真っ赤にしていたんだろうか……」
「そうやなあ。クイズをやっとっただけっちゅーことやしなあ」
「モニーは多分、私に問題を寄せてくれていたとは思うんだが」
「寄せるというんは?」
「食材を使ったクイズだったんだ」
「ほう。何が答えやったん」
「確か、ネギ、サツマイモ、大根、にんにく味噌……」
「にんにく……? あー!」
「何かわかったのか、タマ!」
「……いや、なんもわからん!」
「な、タマ?」
「オグリが自分でわからんとあかんこっちゃな~」
「た、タマ! 教えてくれてもいいじゃないか」
「それはそれとして、モニちゃんはちょいととっちめんとあかんなあ」
「叱るのか?」
「ちょいと、おちょくりかたがやんちゃ過ぎな感じがするからな」
「ううん、また一人だけ、置いてけぼりになってしまっているような…… どういうことだったんだろうか?」

了

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

解説

ほのぼの日常SSのつもりで書いたら、なぜか謎解きみたいになってしまっていて申し訳ないです。そんな考えていただくほどのものではないのです(
ひともじ、おさつ、からもの…… これらはすべて、「女房言葉」と言われているものです。有名なところではおかか(鰹節)、おもちゃ(遊具。もともとは「もてあそび」から、「持ち遊び」となり、「もちゃそび」と訛って、今の形に)、浴衣(もともとは「湯帷子」(ゆかたびら))などです。
ひともじ(ネギ)と、にもじ(にんにく)は早押しクイズでも頻出問題なので有名かも。
にんにく味噌の女房言葉はないので、「にもじ」(大蒜、にんにく)と「むし」(お味噌)をくっつけて造語にしました。本当は無い言葉なので、イチちゃんが怒ってます。博識イチちゃんカワイイ!

自分の中では、「イチちゃん=左耳に飾り=牝馬」という図式がすっかり定着してしまっており、だからこそ元が牡馬のオグリとのカップリングに華を添えているなと思っているんですが、その要素を前面に押し出したらどうなるんだろうと考えた結果生まれたSSでした。
女房言葉をどこかで知ったイチちゃんと、全く知らずに素直に答える(牡馬)オグリキャップ、そしてそれを面白がるルームメイトのモニちゃん…… 最高。という場面だけあったので。

ちなみにタマモ先輩は年長の博識な方なので、モニちゃんはしっかり怒られます。南無。

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その3(≫176~178)

了船長22/08/18(木) 15:53:04

そのウマ娘はあの日、主役ではなかった。
何かに勝っている訳ではなかった。もっと正確に言えば、彼女は競技に参加すらしていなかった。
「フレーッ、フレーッ、トーレーセーン!」
左耳に髪飾りをつけているのに、学ラン姿。でもなぜか前ボタン全開でサラシを巻いて、ただ羽織っただけみたいな着こなしをしていて、同じような服を詰襟>まできちんと留めて着こんでいる風紀委員の人たちとはまるで見た目が違っていた。彼女の姿は、なぜか僕の目を捕まえて離さなかった。
彼女の姿が美しいと思った。格好いいと思った。主役の選手ウマ娘たちを差し置いて、広げた腕も、すっくと伸びた脚も、言葉は悪いけど、一昔前の不良ドラ>マに出てくるようなスタイルの学ラン姿も、とてもとても魅力的だった。
普段は朝夕に生徒たちを迎え入れ送り出している大きな校門は、きっと普段ではありえない熱気と人で満ち溢れていた。
その熱気に負けることなく、むしろ盛り立てるような勢いを持って、彼女は自分の声を空気とスピーカーに響かせていた。その声を受けてか知らずか、選手た>ちの勝ち気もお客さんたちのエールも盛り上がっていくようだった。
たくさんの主役たちがいる中で、やっぱり彼女は、僕の目をくぎ付けにして離さなかった。そして、僕の三つめの目になっていたカメラのレンズもまた、自然>と彼女に向けられて、シャッターを切っていた。
競技が終わった後、会場いっぱいのお客さんやウマ娘たちを何とかかき分けて、僕の脚は一人のウマ娘の所へ向いていた。
「あのっ、すみません」
僕は彼女に声をかける。快晴の太陽が校舎や屋台に反射して、彼女をひと際輝かせるためのスポットライトのようになっていた。ドキドキしたけれど勇気を出>して、彼女の顔を真っすぐ見上げる。
ウマ娘は皆、端正な顔立ちをしている。けれど彼女は、他の誰にも負けないくらいに美しく見えた。
どういうわけか、胸が高鳴る。これはきっと人の波を泳ぎ切って走ったからに違いない。ぜいぜいと息を切らす自分を見て、彼女が少し心配そうに返事をして>くれる。
「大丈夫ですか、ええと、あなた」
少しためらうように僕のことを呼ぶ。確かに、いきなり苦しそうにしてるお客さんから話しかけられたら、どうやって返事をすればいいか分からないだろうな>、と思った。
「はい、大丈夫です。ありがとうございます」
「汗凄いですけど、もしよければ、救護所まで案内しましょうか」
心配そうな表情で僕の顔を覗き込む。正直、案内されたいなと思った。けど、それでは案内されただけで終わってしまう。なんとか会話を続けないとダメだと>思い、質問を投げかける。
「あの、どうして学ラン姿なんですか」
「えっ?」
「いや、左耳飾りの子で学ラン姿なのはあなただけなので」
ああ、と納得したような顔をしている。コロコロと変わる表情が愛くるしく思えた。
「実はこの服を着るはずだった子が体調を崩してしまって。」
「えっ、そうだったんですか」
「本当はチアの団服だったんですけど、皆が『やれ、やれ』って」
「元々の方は大丈夫ですか」
「軽い熱中症みたいで。今日は一応休もうって」
事情が分かって、自分の中の謎も解けた。
「貴女は走らないんですか?」
「いいえ、私は今回は応援団ですから」
「あっ、そうではなくて、レースのことで」
彼女はそういうことか、というようにポンと手を打つ。その仕草がかわいらしく見えて、僕はまたドキリとした。その時の自分は、きっと彼女がどんなことをしてもいちいちドキドキしていたと思う。
「3週間後の福島レース場で走る予定です」
3週間後の福島レース場。茹だりきった僕の頭は、その言葉だけは必ず忘れないように深く深く記憶した。
「今度は僕が応援しに行きます。必ず行きます」
僕の声と顔が相当必死に見えたのだろう、彼女はふふ、と口元に手を当てて笑ったあと、僕の手を取った。
白手袋のすべすべとした触り心地と、布の上からでもわかる、彼女の手の柔らかさと熱、そして手を握ってくれたという事実が、僕のことを急激に襲う。
その瞬間、理由は分からないけれど、僕の意識はこの世ではないどこかに飛んで行ってしまった。
今でこそその理由ははっきりしている。なぜなら、今でも毎日彼女と顔を合わせて言葉を交わすたびに、この時ほどではないけれど、同じ気持ちになるからだ。
でも、当時の僕は――彼女も若かったから、その感情に言葉を当てはめることができなかった。ただ、果てしなく大きな熱だけが僕にはあった。
「ありがとうございます。応援団に入って、まさかそんなことを言ってくれる人がいるなんて」
「いや、えっと、その」
「必ず来てくださいね。待ってます」
そう言って、くしゃりと笑う。
その言葉のあと、僕は彼女と何を離したのかは何一つ覚えていない。
なぜなら、次に覚えのあるあの日の記憶は、クーラーで冷えた救護室の天井の景色だからだ。
枕の上で首を左右に傾けたときに見えた、サイドテーブルに置いてあった一枚の手書きのメモ。「体調は大丈夫ですか。福島レース場で待っています、私も頑張ります!」と書かれ、綺麗に折り込まれたノートの切れ端。
そのメモは、このヒミツの写真集の最初のページの左上に、彼女の学ラン姿の写真と一緒にしまってある。
これだけは、彼女はともかく、愛娘にもずっとナイショだ。

了

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Part15

その1(≫176~178)

了船長22/08/18(木) 15:53:04

「ねー、これなんかイチに良く似合わね?」
「まーじで? やりすぎっしょ。そこまで行かない行かない。ウチ的にはこっち」
「見して見して…… あー、たしかにイイね」
「目の付け所が違うんでね」
「アンタら、本人抜きで何の悪だくみよ」
「おお、ウワサをしたら」
「本人様的にはこの二つのうちならどっちが好き?」
「何が? えーと……」

『比べ越し 振分け髪も 肩過ぎぬ 君ならずして 誰かあぐべき』
『いかばかり 嬉からまし もろともに 恋らるる身も 苦しかりせば』

「一体何見てんのアンタたち」
「和歌」
「そのうちの短歌ね」
「二人ともスマホめちゃくちゃデコるようなヤツなのに、勉強とか知識が多いのなんかムカつくわ」
「かっちーん。傷ついた」
「ウケる、怒るのか傷つくのかどっちかにしとけって」
「で、イチはどっちが好き」
「うーん…… 二つ目かなあ」
「っし!」
「うわー、マジかー」
「恋って入ってるし、なんだか良さげ」
「イチがそんな女だったとはー」
「確かに、ヤな女ー」
「何、何、何なのよ。分かんないんだからしょうがないじゃない。ちょっと、ワザとらしくくっつかないでって!」

了

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その2(≫156~161)

了船長22/09/12(月) 01:18:04

半月切りにしたにんじん、輪切りのれんこん、ささがきにしたごぼうと、斜切りにしたねぎ。
柔らかくこねたつみれに、旨味を取るために少しだけ入れた豚バラ肉。食事調整をしてる子もいるだろうから、ほんとに少しだけ。
お出しはお醤油ベースで、濃い目に味付をする。小皿にとって、ちょっと味見。
うん、おいしい。しょっぱくて、あったまる。
お鍋の様子を見ながら、グリルの中を覗く。普段は自分用の焼き魚なんかを調理しているけど、今日は違う。銀に光って脂を照らす白身魚の切り身はそこにはいなくて、白身魚よりももっともっと真っ白な――でも同じ焼色で焦げ目をつけている、まんまるなお>餅たちと目があった。
お餅を焼く方法はたくさんあるけど、グリルで焼くときは注意が必要だ。ちょっと目を離したスキに、文字通り「燃える」。焼き餅を焼くなんてもんじゃなくて、本当に火がつく。特にスーパーで売ってる切り餅はあっという間に火がついて、その後すぐ炭にな>る。私も、夜食で食べようとして2回くらい燃やしてしまった。
グリルを引いて、お餅をひっくり返しながら、柔らかさを確かめる。うん、もうお鍋の中に入れてもいいかな。
そう思っていたら、お鍋の煮える音や換気扇の音、クリークさんがパタパタと盛り付けの準備をしてくれる音に混じって、ひときわ目立つきらきら星のメロディが聞こえてきた。
その音に反応して、私のお腹も少しだけぐぅ、となった気がする。ご飯が炊けたことを知らせる、しあわせな音だ。調理を始めてからもう1時間が経って、下ごしらえをいれたら2時間以上キッチンに立っていたことに気付かされた。
食器を用意していたクリークさんが、炊飯器に小走りで駆け寄って開閉ボタンに指を置く。こころなしか、クリークさんもワクワクしているような、浮足立っている様子だった。
パカッ、と蓋を開けると、素敵な白い蒸気が上って、それと一緒にクリークさんも「わぁ」と嬉しそうな声を上げる。キラキラした笑顔をこちらに向けて、私を呼ぶ。
「イチちゃん見てください、とっても美味しそうですよ」
お鍋とグリルの火を弱くして、クリークさんのもとまで近寄る。ふわり、としあわせなご飯の香りに混じって甘く香ばしい匂いをまとった蒸気が、私の鼻孔を駆け抜ける。
炊飯器を覗き込むと、そこには1時間以上前に私が思い描いていた通りの、小さい頃にたくさん食べた思い出そのままの栗ご飯が、たっぷりと、燦々と輝いていた。
「そしたら、もうよそっちゃってください。私もお吸い物盛り付けるので」
私は、思い通りに炊けていた喜びをクリークさんに悟られないように、あえて淡々と指示を出す。だって、なんだか恥ずかしいから。ニヤけているであろう表情も見られたくないから、コンロの火加減を直すふりをして顔も隠す。
キッチンの向こう側にいるお腹をすかせた寮生達にも栗ご飯の匂いが届いたのか、みんながドヤドヤと受け取りの列に押し寄せる音が聞こえてきた。
「えっ何クリークさん、今日の夜食マジ豪華じゃん!」
「そうなんです、イチちゃんが一生懸命作ってくれたんですよ」
豪華なんて言っても、そんな大したものじゃないですよ――とも返事はできなかった。恥ずかしい。ああもう、尻尾が動く。
火を扱っているから、と気を落ち着ける。一つ深呼吸して、気持ちをリセットさせる。キッチンで気を抜いて仕上げと盛り付けを間違えちゃ、お母さんに怒られちゃう。
きれいに焼き上げることができたお餅をグリルから取り出してお玉の上に載せ、静かにおつゆの中にくぐらせた。何人食べるかわからないけど、これだけ焼けば足りないことはないはず。
お玉にお餅がくっつかなくなったら、そのままお椀に静かに注ぐ。もう一回だけおつゆだけを注ぎ、それから具材をバランスよく盛り付ける。
ちらっと後ろを見ると、クリークさんがお茶碗に栗ご飯をよそってお盆の上にのせて、小皿を準備しているところだった。今日の小皿は、クリークさんお手製のポテトサラダ。小さい子でも食べられるようによく選んだ刺激の少ない具を、優しい味のマヨネーズで味付けした、いつまでも食べられる美味しいやつ。
私は出来立てで湯気を立ち上らせる大きなお椀を手に、夜食を待つみんなの方へ振り向いた。みんなの視線が私の手元に注がれて、待ち切れないという顔でじっと見つめている。不思議な緊張感が漂ったけど、その様子がなんだかおかしくて、少しだけ吹き出しそうになった。
私はわざと芝居めいて、ゆっくりとお椀を運ぶ。私の手の動きに合わせて、みんなの顔と視線が動く。お盆の前までたどり着いたら、今日の主菜をどん、と気合を入れて配膳した。その後、私はまるでウイニングライブの歌い出しのように深く息を吸って、今日の献立を発表した。

「栗ご飯とお月見汁、つけあわせにはクリークさんのポテトサラダです。お待たせしました」

レースで選手たちがゲートが開く瞬間を待ちわびるような、一瞬で永遠のような沈黙の後、一番前で待っていた子がお盆を手に取る。それはまるで本当にゲートを飛び出した最初の選手だったのだろう、彼女に追いつかねば、というような勢いで、後ろに並ぶ子>たちが一斉に、列を崩してキッチンに詰め寄る。
「お腹減った!」「待てない!」「おかわり!」「まだ食べてもないじゃん!」
それからは、一刻も早くみんなに食べてもらうために、私は一生懸命お月見汁を注いで、クリークさんは一生懸命ご飯とポテトサラダを盛り付けた。あれだけ焼いて煮込んだお餅とお月見汁も、たくさん炊いたはずの栗ご飯も、山盛りできていたポテトサラダも>、気が付けばもうあと一人分もないくらいの量になっていた。
みんなの反応と料理の反響を聞く間もなかったけれど、一番最初に食べ終わって食器を洗いに来てくれた子のキラキラな笑顔と「ごちそうさまでした」の言葉で、評判はきっと良かったんだろうな、と信じることができた。
いつもの夜食と様子が違ったのを察したイナリさんがやってきて、「私もいっぱいくれ!」と言って一口すすったあと、「こりゃたまんない味だねい!」って嬉しそうにしていたのも印象に残ってる。お醤油味だからかな。
私が小さい頃、毎年、中秋の名月の時期に家族みんなで食べたお月見汁と、栗ご飯。お母さんが作って、お父さんがキャンプで使うような折りたたみの机と椅子を組み立てて、私がみんなの分を家の外まで運んで机に置いた、思い出の料理。
どうして思い出したかというと、クリークさんに「明後日、イチちゃんにお夜食を作って欲しいんです」と一昨日の夜にお願いされたからだ。美浦寮では、夕飯を食べそこねた子達向けに、寮長さんが夜食を用意していることは聞いていた。栗東寮では、クリー>クさんがカレーをよく用意している。
今日、クリークさんは練習とメディア対応でどうしても遅くなってしまうから、いつも通り用意ができない。だから代わりに、と頼まれた。最初は大人数用のレシピなんて分からなかったけど、クリークさんの役に立ちたかったのと、挑戦してみたい気持ちもあ>って、頑張ってみようと引き受けた。
しょっぱくてあったかい、でも甘くてお腹いっぱい食べたくなる、特別な夕ご飯。覚えてる限りは思い出して、味付けはお母さんに教えてもらった。お鍋の要領で作れるから大人数向けだし、ご飯もお餅も食べるからお腹もいっぱいになるし、ちょうど良かった>。

少しだけ残ったお月見汁と栗ご飯を、クリークさんと二人で分ける。ひとくち食べて、クリークさんが目を丸くする。
「とってもおいしいです!」
「ありがと、お母さんの直伝レシピなの」
「お月見汁もご飯がすすむ味付けです」
「お父さんもその味付け好きなんだ」
「私も好きです。美味しいです〜」
漫画だったらお花の絵が描かれるんじゃないかと思うような素振りで、クリークさんがお箸をすすめている。お月見汁を食べながら、ふいに残念そうに口を開いた。
「お月様がいないのが残念ですね〜」
「きれいに売り切れてよかったけど、これじゃただのけんちん汁ね」
そう私が言うと、何かを思い出したような動きをしたクリークさんが、珍しく食事中なのに席を立ち、キッチンの保存棚を探り始めた。私があっけに取られていると、手に2つ切り餅を持ったクリークさんがこちらを向いた。
「実は、お餅があるんです」
「え、じゃあ焼いちゃいましょ」
「丸くはないですけど、お月見汁ですね」
ふふふ、と二人で笑いながら、コンロにお餅を入れ、火を点ける。浮かべるほどのおつゆはもうお椀に残っていなかったけれど、子供のときに食べたお母さんのお月見汁とおなじものが食べられそうで、胸の一番深いところから、静かな喜びがもちあがってくる>ような気がした。
二人でお餅が焼けるのを待っていると、聞き慣れた声がラウンジから聞こえてきた。
「イチ、クリーク、ご飯を食べているのか?」
オグリちゃん、とクリークさんが返事をする。
「今日のお夜食はイチちゃんが作ってくれたんですよ」
「そうなのか! それでクリークのカレーとはちがう、美味しい匂いが漂っていたんだな」
そう言うと、オグリのおなかからぐぅ、と声が鳴る。
「私も貰えるだろうか」
「残念だけど、もう売り切れちゃいました」
嬉しそうにしているオグリをくじくのが愉快で、わざといたずらっぽく答えてやる。すると、なっ、という声を上げて、オグリが肩を落とす。
「そうか……残念だ……」
「今日のメニューはお月見汁に栗ご飯、ポテトサラダでした」
追い打ちをかけるように、想像させてしまうように献立名まで教えてやる。
「お月見汁か、私も食べたかったな……」
「とーっても、おいしかったですよ」
「もうお餅しかないから、それなら焼いてあげられるよ」
頼む、とオグリが小さい声で言うので、クリークさんと同じところを探してまるごと一袋分の切り餅を運んできてやる。
「みんなやクリークはイチのお月見汁を食べられたのか……イチの夕飯を、私も食べたかった……」
個包装されたお餅を取り出しながら、みんなを羨ましがるオグリを見て、これがホントのヤキモチか、なんてことを考える。
オグリをやりこめた愉快な気持ちを胸に、私はグリルにのせたお餅用のトレイの上に、いっぱいに切り餅を並べて、グリルの火を着けた。

了

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その3(≫171~173)

了船長22/09/12(月) 23:22:23

☆イチちゃんママのおいしい栗ご飯レシピ☆

お母さん

ワンちゃんこんばんは、どうしたの?

いつもお月見のときに作ってくれた、栗ご飯の作り方教えて

あら! いいよ。どうしたの?

明日、寮の皆に作らなきゃいけなくて

そうなの。それは大問題ね。
ちょっと待ってて?

うん、ありがと

まず、買ってきた栗をさっと洗って、暖めたお湯に20分から25分付け込んでおく。

お湯につけるの?

皮を剥きやすくするためよ。待っている間に、お米をお水に浸しておきましょう。

ごはんを浸水させておくのは炊きやすくするため?

そう! さすがワンちゃんね。

お湯につけ終わったら栗を引き上げて、皮をむくの。

やったことないんだけど、剥き方のコツってある?

栗のお尻を切り落として、一番かたい皮を手で剥いた後、その下にある薄い皮を包丁で浮かせるとラクチン

栗って皮が2枚あるの知らなかった

鬼皮と渋皮って言うのよ。賢くなっちゃったわねえ
剝き身にした栗はすぐお水につけておいてね

アク抜き?

ワンちゃん、トレセン学園で超能力でも習った?

そんなわけないって
ごぼうとかでもやるから知ってるだけ

ワンちゃんすごいわ、なんでも知ってるのね
栗を浸している間にお米に塩を小さじ半分から1くらい振っておいて

炊き込みご飯みたいな感じ?

そう。おばあちゃんは小さじ1と半分くらい入れるんだけど、我が家ではお月見汁を一緒にいただくでしょ?
あれの味を濃いめにつけるから、少し減らしているの。パパもそろそろ健康に気をつけなきゃだし

あ、後でお月見汁も教えて!

分かった!

お塩を全体になじませたら、栗をかさばらないようにのせて、後は普通にご飯を炊くだけよ

炊飯コースって普通で大丈夫?

うん! ちゃんと浸水させてるから、1時間でもふっくら炊けるわ

そういえばさ、栗って切らなくていいの?

我が家には食いしんぼうさんが二人いるから、栗は切らずに炊いてたの。
もし食べやすいようにしたかったら、2回くらい包丁で切っておくとちょうどいいわ

分かった。ありがと

ワンちゃんちゃんとご飯食べてる? 必要なものがあったら言ってね

大丈夫。元気だしちゃんと朝昼晩食べてるから

レースを勉強しに行ったと思ったら、お料理スキルまで身に着けてるからお母さんびっくりしてるわ

それはたまたま、色々あっただけ

前に帰省してくれた時に言ってた意中の人とは最近どうなの?
ワンちゃん?

教えてくれてありがと!
おやすみ!

おやすみ、連絡くれて嬉しかったわ

了

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