目次
Part10
1つ目(≫140~143、≫145)※嘔吐表現あり
>>140 二次元好きの匿名さん22/04/19(火) 17:00:30
食堂でご飯を食べて、モニー達とだべっていた時だった。
「イチ」
「…オグリ?」
泣きそうな音が耳に刺さる。
「…イチ」
「どうしたの?」
振り返ると、耳もしっぽも死んだように萎れているオグリキャップがいた。
「……イチィ…」
縋るように近づいてくる。
「な、なによ。どうしたのよ急に。」
いよいよ抱き着かれた。
胸に顔を擦り付けている。
「…い、イチ、イチィ……」
「なによ急に!」
オグリが顔を上げる。
端麗な顔は歪んでしまっていて、悲痛な叫びを秘めていた。
「う、うわあああぁぁぁ……!!」
「泣いた!?」
いきなり泣き出したため周りの注目を買ってしまう。
「ほ、ほら、場所変えるわよ!おぶってくわ!」
「うわあぁぁあ…!」
離れてくれたオグリを急いでおんぶ、自分の部屋に向かった。
「それで、どうしたのよ。」
「う、うぅ……」
一通り泣き終えて少し落ち着いたオグリに話を聞く。
「い、いや、迷惑かけ、たな。」
オグリがよろよろと立ち上がる。
「もうだ、大丈夫だ。失礼した…」
「バカッ!」
オグリの腕を掴んでベッドに座らせる。
「あんだけ大泣きして、大丈夫だって?ふざけんじゃないわよ!!」
はっ。
気づいた頃にはもう遅く、再びオグリが泣きそうになっている。
(しまった、メンタルやられてるヒトに捲し立てるのは逆効果!)
予想通りオグリが再び泣き出すが、飛び出た言葉は少し違っていた。
「い、イチは…優しいな……」
普段だったら飛び上がって「はあ!アタシが優しい!?」ってなる所だが、今はオグリを下手に刺激しないように否定しないでおく。
「…フン、少しはアタシを頼りなさいよ。」
(アンタを泣かしていいのはアタシだけなんだから)とは言えないので胸の奥にしまっておく。
「ぐす、さっきエアシャカールに会ったんだ。」
聞かされたのは、シャカールとアンダーテー〇の動画を見ていて、某兄骨が『セーブアンドロード』について言及するシーンを見たら、ある不安がよぎったらしい。
「……もし、この世界が明日にでもリセットされたら。」
「なんて、情けないよな…ひぐっ…」
何も言えずにただオグリを見つめる。
「タマやクリーク、セレモニー、そしてイチとの日々を忘れてしまうなんて、想像しただけで吐き戻してしまいそうだ……うぐっ」
「ちょっ!」
オグリが口に手を当てたのを見て慌ててゴミ袋を渡す。
ここから嘔吐表現なんだ◇
「う、うげええぇ!」
「ホントに吐いた!?」
ゴミ袋に黄色い流体が溜まっていく。
袋越しでも酸っぱい匂いが鼻を刺激する。
「お”え”ええぇ」
「あーもう!」
意を決して隣に座り、オグリの背中を叩く。
とん、とん、とん。
「全部吐いちゃいなさい。」
「げほっ、ゲボッ、げええぇえ」
近くにいった事で匂いがダイレクトに伝わってくる。
(こんなに吐いて…こっちも貰いゲロしちゃいそう……うっぷ)
青くなった自分の顔は、吐くのに忙しいオグリには見られなかった。
ここまで嘔吐表現なんだ◇
「……落ち着いた?」
「なんとか、ふぅ…ふぅ…」
それでも深呼吸している。オグリの隣に座ったイチはタオルで顔を拭いてあげた。
「……他に何か、あるんじゃないの?」
「えっ」
ぎくり
オグリの顔がそう言った気がした。
「…話して、いいだろうか。」
「この流れで誰が断るのよ。」
安心したようなオグリはぽつぽつと話始めた。
「私は…怖いんだ。」
「怖い?」
「本当に……私の走りが、カサマツの皆に笑顔を届けられているのか、が……」
「………」
手で続きを促すと、オグリは頷き、語り始める。
「え、エゴサーチを、したんだ。昨日。タマからはやらない方がいい、と言われていたが、好奇心に誘われてつい……そうして、掲示板と呼ばれるサイトを見たんだが…」
心無い誹謗中傷を目の当たりにしてしまった。のだろう。
「…はぁ」
「!…やはり迷惑だっただろうか…」
思わずため息が出てしまったので弁明。
「いや、英雄サマも、ちゃんとウマ娘らしい不安を持つんだなって。」
まったく、と、もひとつため息。
「確かに、自分の頑張りが他人からどう見えてるかなんて、簡単には分からないわよね。」
「あ、ああ…」
オグリの正面に立つ。
「でも、アンタにはいるじゃない。」
「誰が、だ…?」
ぎゅっ、とオグリに抱きつく。
綺麗な芦毛が顔をくすぐり、柔らかい匂いが鼻腔を満たす。
「アタシ達に決まっているじゃない。」
「…!」
オグリも抱き返してくる。
「アンタは頑張ってるわ、誰がなんと言おうと。アタシやタマモクロスさん、クリークさんが1番理解してる。」
「イチ…」
抱く力を強める。勝手に離れて行かないように。
「だから、1回休みなさい。アタシの胸なら、幾らでも貸してあげるわ。」
「うぅう、イチ…!」
オグリも力を強めてくる。
「ほら、もう大丈夫、何も怖くないわ…」
以上、オグリを慰めるイチでした。
ゲロシーンは個人的な趣味嗜好です。許して
読んでくれてありがとうなんだが?◇
2つ目(≫178~181)≫176、177より派生※嘔吐表現あり
≫176 二次元好きの匿名さん22/04/24(日) 16:38:15
イチちゃんモニちゃんの強さはどのくらいなのか
あまり盛るのもアレだし重賞レース出走できるかぐらいな予想
≫177 SS筆者22/04/24(日) 20:13:17
≫176
リアル競馬の事情を持ち込みたがる人間としては、重賞ウィナーにはしたくないなあ、という負の希望が先に来てしまいます
重賞に勝つということは、記録に未来永劫その名前が残るとともに、私たちの世界で本来勝つはずだった競走馬の存在を否定してしまうことになってしまいますので
ですので良くて400万下(おおむね1勝クラス)~準オープンくらいで20戦して、4勝くらいかな、と……
彼女たちの思いに背いてしまうところはわかっておりますが、将来は学園スタッフや誘導ウマ娘(?)などになっていそうだなと思ってます。妄想でした
ゲロの人◇22/04/24(日) 22:54:35
「はい、こっちですよー」
ウマ娘が次々とゲートに入っていく。
私は誘導ウマ娘のレスアンカーワン。
同僚や友達からはイチと呼ばれている。
今日はこの東京競馬場にて、ウマ娘達をゲートに誘導、最悪強制入場させるという仕事をしている。
「はい君ー、ゲート入るよ。」
声をかけられたウマ娘はプルプル震えている。この一大ステージに立ったのが怖くなったか。
「もう、ここまで来たんでしょ?あと1歩よ。」
「で、でも私、負けるのが怖くて……」
真っ青な顔からはそう放たれた。
その言葉に思わずチクリと心に刺さる。
まるで私の過去に重なるような気がして。
「……負けるかどうかなんて勝利の女神サマにしか分からないのよ。それに貴女にはGIに出れるくらい実力があるのよ。ほら、頑張りなさい!」
背中をポンと叩いてやる。
自分で発した言葉の一つ一つが過去の自分に突き刺さるような気がして気分が悪い。
全員がゲートに入り、私達誘導ウマ娘は芝から離れる。
皆期待と不安が入り交じった眼をしている。
昔私もゲートであんな眼をして、して…
していたか?
「…ウゥッ」
思わず口に手を当てる。
競技場の中のトイレに駆け込み、溜まっていたものを吐き出す。
「ッうげぼおおっ!」
ビチャッ!
「ゲボおああア!」
便器の中を黄色に染めていく。
自分の過去に残した後悔や留めるには毒が強すぎる醜い羨望も一緒に吐き出す。吐き出す。吐き出す。
「げほっ、げほっ…ふぅ……」
一通り吐き、落ち着いてきた。
「…今日はもう帰ろう。」
誘導ウマ娘としての仕事は終わらせた。
家に帰ろうか。
◇
「あっ!イチ!」
「へっ?」
聞きなれた声。
透き通った芯のある声。
振り返ると綺麗な芦毛が目に入る。
「オ…グリ?」
「久しぶりだな、イチ!」
感動の再開だ。
「オグリは今何してるんだっけ?」
帰りながら道を歩く。
「うん、社会人レースに出ながらカサマツで働いているぞ。」
社会人レース。読んで字のごとく既に学園から引退したウマ娘達が走る専用レース。
走りはピークを過ぎたため少し劣るがそれでもスターとして活躍したウマ娘が走る事が多いので観客は12分にいる。
「イチは?」
「誘導ウマ娘。キラキラしてるアンタとは違うのよ。」
オグリと自分を比べてしまって少しマイナスになってしまう。
「確かに違うな。」
「は!?」
そう言われてバカにされた気分になり、激昂してオグリに掴みかかる。
「違う違う!私が言いたかったのは、あの…そう!縁の下の力持ちだ!」
「?」
オグリから手を離す。
「確かに私は表舞台で走っている。だがそれは君のような影の立役者がいてこそなんだ。◇知らなかったのか?」
「いや、そう言われても…」
「イチ、君はよく頑張っている。これからも頑張ってくれ、程々にな。」
そんなことを言われたので顔が熱くなるのを感じる。
「~~~!フン!どうせアンタなんか一生テレビでチヤホヤされてればいいのよ!じゃあね!!」
「またな!」
早足でオグリと距離をとる。
家に帰って洗面台の鏡を見て初めて、私の頬が上がっている事に気づいたのだった。
Part11(≫115~118)
ゲロの人◇22/05/11(水) 19:51:46
ぐうぐうと腹の音が鳴っている。
視界は真っ暗で何も見えない。
足音が聞こえる。ひとつはクリーク、もうひとつはイチの分。
美味しそうな匂いが鼻腔を満たす。しかし匂いの元にありつく事は出来ない。
全ては私の責任だ……。
◇
話は数分前、私が寮で貸し出しているキッチンに辿り着いた所から始まる。
「それじゃあクリークさん、お願いします。」
「こちらこそ、お願いします〜。」
そんな声が聞こえてしまった。
すぐさま私の腹は怒号を上げる。
「ん?」
「あら?」
気づかれてしまった。
(これでは、私が2人の料理に釣られてやってきた卑しいやつみたいだ!)
そんなことを思ってしまった。
咄嗟に私は
「ぐう……」
寝たフリをした。
キッチンの中に入り、ドアの前で座り込んで狸寝入りをした。
「…って、オグリじゃない。なんで寝てるの?」
「トレーニングの疲れが溜まってたのでしょうか…」
「まぁ邪魔しないみたいだし、少し動かして料理しましょう。」
2人に引きずられて壁に背をもたれる。
「胡椒とってくれる?」
「はい、どうぞ〜。」
カチャカチャと、2人のハーモニーが奏でられる。
だんだん美味しそうな匂いが満たされていく。
(もしかして……この状況不味いのでは?)
オグリ、史上最強のミスをしてしまったのである。
◇
結果、≫115に至るというわけである。
(もっかい呼びかけられたら起きよう……)
なんて考えていた。
この考えが甘かった。
何時でも助け舟は出港する訳では無いのだよと教えられた。
「………オグリちゃん、寝ちゃたみたいですね。」
(なにっ!?クリーク!起こしてくれ!!)
そんな願いが叶うはずもなく、
「そう、それじゃあ食べちゃいましょう。」
「ですね。」
2人が食べ始めてしまった。
オグリは寝ているというていなのですぐに起きることは出来ない。
オグリは詰んでしまったのである。
◇
結局オグリが起きたのは、その数十分後で、料理は残り少なくなっていた。
「知ってるわよ寝たフリくらい…ププッ。」
「可愛かったのでイタズラしてしまいました〜。」
誰か私の顔を冷やしてくれ。
そう切に願う事しか出来ないオグリは無力なのだろうか。
ウマ娘で学ぶ昔話『児の空寝』
Part12
1つ目(≫81)
ゲロの人◇22/05/26(木) 21:06:32
原点回帰だ。なにかイタズラしてやろう、イチは考えた。
ということで再び大量のニンジンを送り付けてやろうと考えた。
まずはクリークさんにお願いした。
「イチさんは優しいんですね~」と言われた。イタズラなんだが......。
タマモさんにもお願いした。
「また惚気につきあわされるんか...」と呆れられた。好きではないんだが......。
モニーにもお願いした。
「ほらオグリギャル!オグリギャルしてるう!!」と言われた。ギャル......?
友達にもお願いした。
「やっぱりオグリギャルだ!」と囲まれた。だから違うっての......。
集まったのでオグリに渡した。
「ふふ、やはりイチは優しいな。」と言われた。全く、バカみたいだ......。
「でも、悪い気はしないわね。」とイチは微笑んだ。
2つ目(≫97)≫96より派生
≫96 二次元好きの匿名さん22/05/29(日) 17:34:37
ダービーのレコード更新されたな……
チヨちゃんはおらんのかね?イチヨも見たいのだが……
ゲロの人◇22/05/29(日) 18:18:06
≫96
犬みたいな人だった。
「初めまして、サクラチヨノオーです!」
オグリの友達、ということで紹介された彼女。
桃色の髪に謎のサイドの角、まるで犬の耳みたい。
「初めまして、レスアンカーワン……イチって呼んで。」
「分かりました、イチさん!」
聞こえた高い声には、確かに敬意の念が見て取れた。
「その手はなに?」
チヨノオーに料理を作っていたら、隣にチヨノオーが生えてきて手を自分の顔の前で握っていた。
「えーっと……これは、その……」
「……まあいいわ。座って待ってなさい。」
「っはい!」
そう言うと、らんらんと席に戻っていった。
(ほんとに犬ね……)
少し、かわいい。そう思ってしまった。
3つ目(≫131~133、≫143~148、≫157~158)≫129より派生
≫128 二次元好きの匿名さん22/06/04(土) 18:41:05
夏合宿で上級生と下級生の親睦を深めるという名目で寝室は寮も学年も入り混じりの大部屋になっているというご都合設定のうえ
イチオグタマモニクリークイナリデジタルで枕投げとか怪談とかやんねぇかな やってるよ ほんと?嬉しい
イチちゃんがめちゃくちゃ怪談得意でモニーがめちゃくちゃ苦手だったらよくない?
これを書いてくれる神が現れるのを待つ保守なんだ
ゲロの人◇(非ゲロ)22/06/04(土) 22:04:22
時は夏、いつもの御一行は合宿という名のバカンスを満喫していた。
「オグリ止まって……!!」
「離すんだ……!全部の屋台を攻略するんだ!」
「攻略っちゅうんは全部食い尽くすこととちゃうんや!」
ビーチサイドらしい屋台で腹を満たしたり。
「見てろい……本場江戸の銃捌き、見せつけたる!」
「なんの本場やねん……大井は江戸ちゃうで?」
「あぁっ!外れた!タマモのせいやー!」
「悔しかったら当ててみろーい!」
「ちょっと!?人は狙っちゃだめー!!」
射的などのアトラクションを楽しんだり。
「せっかく海に来たんだし、海に行こう!」
「?????」
「あら?あらあら?あらあらあらあら……」
「ってウワーッ!クリークさんが流されてる!?」
「……じゅるり……」
「こらそっち!食べようとしないで!」
海で目いっぱい泳いだりした。
「ぜー、はー……来るんじゃなかったわ……」
「ツッコミおつー」
「モニー……どっちかというとあんたもツッコミ側でしょ……」
「なんか大変そうだったし、いいかなーって。」
肩が酸欠を起こしてるイチを横目にモニーはアイスバーを頬張っていた。
二人は宿舎のホールで休んでいて、これから部屋に行くところだった。
「やっぱり部屋割りは寮のと同じなのかな?」
「そうなんじゃなーい?行ってみよーよ。」
行かないことには始まんないので、さっそくしおり通りに宿舎を歩いた。
「ついたね。」
「でっかいドア!」
しばらく歩いて、指定された部屋についた。
「お邪魔しまーす。」
「誰もいないでしょ……って」
ドアを開けると、そこにはこじんまりとした二人用の部屋ではなく、複数人が収容できそうなだだっ広い部屋があった。
「……広くね?」
「うん……」
「邪魔するなら帰ってやー」
「はいはい失礼しました……って違う!」
部屋の中にはタマモがいて、恒例のノリに乗っかってしまった。
「なんか、交流を深めるーとかいうて、大人数の部屋にしたらしいで?」
「へえー。」
「それじゃあ、ほかにも人が来る.……ってコト!?」
なんとなくワクワクしながら荷物を整理していると、
「失礼する。」
オグリキャップが入ってきた。
「邪魔するでぃ!」
イナリワンが入ってきた。
「お邪魔します~」
スーパークリークが入ってきた。
「失礼しましゅ~……って、ヒョエエエエエエエ!!!」
マナーモードで発狂してるアグネスデジタルが入ってきた。
「このメンバーで1晩過ごすのね。」
「なんであたしめなんかがこんな尊み空間ににににに」
「デジタルすぐ発狂するー」
人が集まったため、部屋の角にあった机を囲んで会話している。
「晩御飯の時間はいつだ?」
「オグリの食欲………あと2時間後よ。」
この2時間で荷物を開けたりしろ、ということだ。
「片付けは済んじゃいましたし、何をしましよう?」
「せやなー……怪談話とかどや?」
「怪談!いいねぇ、江戸っ子の血が騒ぐでい!」
怪談話のどこに江戸要素があるのかは分からないが、特に他に案がないのでそれで決定した。
◇
「それじゃあ私から行くぞ。」
トップバッターはオグリキャップ。
「この間、食堂でご飯を食べていたんだ。」
「うん。」
「食堂の奥の方で、かちゃん、と物音がしたんだ。」
「はい。」
「怖いな、と思いながら自分のトレイに目線を戻したら……」
「ごくり…」
「白米が消えてて、何故か私の口元に米粒が着いていたんだ!」
「…………それあなたが無意識に食べてただけじゃないの?」
「む、そうか。」
ズコー!!
場がシンクロした。
「夫婦漫才助かる(尊死)」
デジタルは死んでいた。
◇
セカンドバッターはタマモクロス。
「ウチが入学したばっかのことやったかなー、学校でっけーってなって、色々探検してたんよ。」
「はいはい。」
「保健室に調理室、実験室って探検してったら、ある部屋に着いたんよ。」
「部屋って?」
「それがな、あの、なになに部屋っちゅうプレートが付いてなかったんよ。」
「空き教室ですかね。」
「まあまあ。そいでその部屋、鍵が開いとったんよ。当選中入ったよな。」
「はい。」
「みょーに薄暗い部屋でな、暗いなー怖いなー言いながら中探ってたんよ。」
「おー。」
「したら部屋ん奥からくすくすって笑うような声が聞こえて来てな、誰かおるんかーって声ん方歩いてったんよ。」
「雰囲気出るー」
「ここら辺か?って1歩踏もうとしたら背後から何かに抱きつかれてな。まあフクキタルやったんやけど。」
「おぉ…」
「なんせフク曰く『この部屋にはウマ娘の怨念が大量に封印されてて、アナタは今その結界の中に入ろうとしてしまったんです!』って。」
「声マネ上手いね。」
「何とか事なきを得たんやけど、今でも覚えとる話やわー」
本格的な怪談だった。
ふと、イチがモニーの方を見てみると、妙に震えていたので、寒いのかと思った。
「寒いの?上着貸そうか?」
「い、いや、大丈夫だし?別に怖くて震えてる訳じゃないし?でも上着は貰うね?」
「う、うん。」
モニーがそそくさと上着を羽織り、暖かそうな見た目になった。
「イチモニてえてえ───────!!!!!」
デジタルは死んでいた。
◇
お次はクリークの番だ。
「えーっと、友達から聞いた話なんですけど、あの、切株あるじゃないですか。」
「あの、気持ちを思いっきり叫ぶ切株ね。」
「はい、その友達もレースに負けてしまった悔しさを発散しようと切株目掛けて叫んでたんです。」
「うん。」
「一通り叫び終わって、どこかに行こうとしたんですよ。そうしたら。」
「そしたら?」
「切株の中から、1字1句違わぬ声が聞こえてきたって。」
「おおー、怖ー。」
そんなこともあるんだな、とイチは関心していた。
モニーがまた震えていたので、イチは心配した。
「モニー風邪引いてる?」
「ひひひひひひ引いてねえし!」
「無理しないでよ?」
イチの心配は本物だった。
「あ〜イチモニおかわりありがてぇ〜」
デジタルは死んでいた
◇
今度はイチに番が回ってきた。
「うーん、それじゃあこんな話はどうかな?」
「なんや?」
「えーっとね、そう、これは私の話じゃないんだけど、A子とB子がいて、A子がベッドで寝っ転がってたのね。明日何しよっかーとか、そのコスメいいじゃん、とか話てたのね。」
「はいはい。」
「そしたらさ、B子がA子に言ったのね。『いいって言うまで目つぶってて』って。」
「なんやろな。」
「耳も閉じててって言われたから、ペタンって待ってたのね。でも10数秒経ってもなんもないんだよね。」
「おお……?」
「そしたら急にグイッ!って手を引かれてどこかに連れられてったんだよ。『なんかのサプライズかな?』ってA子はワクワクしてたの。」
「おう。」
「しばらく連れられてったら、足は痛いし風が寒いしって、なんだろって目を開けたら外だったのよ。んで、目の前にはB子がいたんだよね。なになにーってB子に言ったら、物凄い剣幕で、『今の人誰!?』って。」
「………?」
「『誰って…B子じゃないの?』『私さっき部屋に入ってきたばっかりだよ!私たちの部屋から私そっくりの人間が出てきたから、思わず隠れてやり過ごしたけど、今のほんとに誰!?』」
「……………」
「後日、ウマ娘を狙った凶悪な成りすまし犯が捕縛されたんだって。」
「………コワー……」
イチの迫真のセリフパートや話の構成にみんな圧倒され、怖気付いていた。
「当分疑り深くなりそうやなこれは。」
「……………怖い。」
オグリはクリークに抱きついていた。クリークは恐怖と興奮を同時に感じていた。
「………………………」
「モニー?」
モニーはあまりの恐怖に気絶していた。
「ここでまさかのクリオグ!?やべぇ!?」
デジタルは死んでいた。
◇
イチの豪速球のせいで、これより怖い話は続かなかった。
「もうご飯の時間だな!」
オグリがすっくと立ち上がり、いそいそと着替え始めた。
「そういや浴衣持参って書いてたわね。晩御飯の時に着るのね。」
みんなで浴衣に着替え、外に出た。
「ポニーちゃん達、集まってくれてありがとう。これから晩御飯を食べに行くよ。じゃあなんで浴衣に着替えてもらったかって?それは他でもない、夏祭りに行くからさ!」
◇
「うわぁ……!」
「ここが……!」
一行は、夏祭り会場に到着した。
「ちょうど開催時期と被ってね。なんとか調整出来たのさ。ちゃんとしたご飯が食べたいなら、あそこのテントに行ってね。今夜は自由行動としようか!じゃあね!」
フジキセキが立て板に水の如く話し、気づいたら去っていた。
「自由行動か……!ええな!」
「よっしゃい!屋台回ろか!」
タマとイナリが組んで行動した。
「それじゃ、行こうか。クリークさん」
「分かりました〜」
クリークとモニーがペアを作った。
「それじゃあデジたんは土になりますね…」
デジタルは風化し土と同化した。
「それじゃあ……行こっか。オグリ」
「分かった」
どうやらイチとオグリがコンビになるのは、最初から確定していたようだ。
「む、あれは焼き鳥か」
「アンタ、そんなに金持ってたんだ……」
オグリが食べても食べても止まらないので、沢山お金を持っていたようだ。
「フフフ……私の賞金を舐めないで欲しいんだが?」
「そういやそうだったわね………」
これも全てオグリの実力が成し得る技か、とイチは呆れた。
「おーい!」
「はいはい、1人じゃ持てないっしょ?」
「はい、イチの分だ」
と、焼き鳥を1パック分こちらに手渡してきた。
「あ………」
「まさか塩の方が良かったか!?」
オグリがシュババババと手を右往左往させて心配してくる。
「ありが、とう……」
「!………どういたしまして。」
イチの赤くなった顔は、闇夜に溶けて誰にも見られることはなかった。
Part21(≫34~36)※嘔吐表現あり
◆vMUy6dJHRM23/01/17(火) 22:36:41
イチが風邪をひいた、とは誰から聞いたか。
思い出す間もなく、私はイチにお粥を与えている。
「ほら、あーん。」
「あー……む。」
濡らしたタオルを頭に乗せて布団に入っているイチの隣で、ボウルとスプーンを持っている私。
イチのため、だと思えばこのお粥に食欲の矛先が向かうことも無くなったのは、可笑しいと思うべきか誇るべきか。
上気した頬と潤んだ目を向けてくるイチが、ただただ愛おしくて。
お粥を乗せたスプーンを差し出せば、素直に…何も考えずに口を開けてくれる。
腹の中で何かが疼くのが分かった。
「ん……少し席を外すぞ。いいか?」
最悪の万一を懸念して桶を取りに行こうと席を立つ。
すると、ぐいと裾を引っ張られた。
「……いっしょにいて…」
「……っ」
ああ、そんな可愛い顔をしないでくれ。
そんな可愛い声をしないでくれ。
また、君を…イチを好きになってしまう。
歪んだ笑みを隠すこともせず座ったが、イチには気づかれていなかったらしい。
桶はタマに持ってきて貰おうとLANEを開いた。
ここからゲロ描写なんだ
───────────────────
タマから桶とお粥のおかわりを受け取り、イチの看病を続ける。
何口か食べさせた後イチを寝かしつけていると、いきなりイチが上体を勢いよく起こした。
「ど、どうした?」
「桶、桶………っ」
想定していた万一が来たらしい。
急いで足元に置いていた桶を手渡す。
半ば奪い取るように、イチが急いで嘔吐の姿勢に入る。
「っ……」
咳き込んでから、胃の内容物を体外へ発散させる。
くぐもった音はこちらにまで吐き気を誘うが、そこはなんとか根気で抑える。
ビシャビシャと音を立て桶に吐瀉物が溜まっていく。
ツンとした匂いが鼻を突く。
少し経って、ようやく発散が収まったようだ。
「ごべ、んね……っ」
「いや、大丈夫だ。」
差し出された桶を受け取った。
その揺れで、内容物が波を立てる。
その波は、私の桶を握った右手親指に当たった。
ぴちゃり、とイチの体温が伝わる。
桶を自分の後ろに置く。
体をねじったまま、親指を自分の顔に近づける。
すえた臭い。でもイチのものだと思うと吐き気はしなかった。
むしろ………
ゲロはここまでなんだ
───────────────────
ぐぎゅるるるるる……
瞬間、異様な音が部屋に響く。
「………あ。」
それが私の腹から出た音だと気づくのにはそうかからなかった。
「……タマも呼ぼう。」
自分はここから動けない。
タマにご飯を持ってきてもらうのと、桶の事。
左手で、いつの間にか眠っていたイチの頭を撫でる。
髪を通じて伝わる体温が、いやに愛おしく感じた。