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レスアンカーワン @ ウィキ

エスコンの人(Trigger)

最終更新:2023年11月06日 03:25

resanchorone

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だれでも歓迎! 編集

目次

  • 目次
    • part19(29~30)導入
    • part19(82~86) ブラッキーエール
    • part20(56~61) ヤエノムテキ
    • part21(18~24) シリウスシンボリ
    • part22(16~19) タマモクロス
    • part22(83~86) スーパークリーク
    • part23(109~115) イナリワン
    • part24(28~39)interludes
      • 【interlude スーパークリーク】
      • 【interlude ブラッキーエール】
      • 【interlude ヤエノムテキ】
      • 【interlude シリウスシンボリ】
      • 【interlude イナリワン】
      • 【interlude タマモクロス】
    • part24(43~54) オグリキャップ
    • Epilogue
    • オグイチZERO Side Res Anchor One part31(138)

part19(29~30)導入


──あの二人のことか、よう知っとるで

──話せば長くなるなあ、そうかなり昔のことやからな

──知っとるか? ヒーローは3つに分けられる。
誰かに勇気や希望をあたえる奴、誰よりも強い奴、常に誰かに支えて貰える奴。
この3つや。

あいつは……、いや、あの二人は──。

私は今や誰にとってもヒーローとなった『怪物』、そして常にその側にいてヒーローを支え続けた『彼女』を追っている。

特に『彼女』には謎が多い。誰もが彼女の存在については知ってはいたが、誰もがその詳細については一致していない。

ただ一つ共通している単語がある。

『オグリギャル』だ。

彼女がそう呼ばれ始めたのはこの時期、とある一人の芦毛の少女が中央に移籍してきた時だ。

詳細な時期については不明だが、彼女が芦毛の少女と共にいる姿が頻繁に見かけられるようになる。

私は『オグリギャル』と呼ばれた彼女や、『芦毛の怪物』と会う前、とある関係者たちと接触を図っていた。

当時、いずれも最強を誇っていたウマ娘たち。

私は、件の二人の足跡を追いトレセン学園の門をくぐった。

彼らから見た彼女たちと、我々がよく知る彼女たちの存在。

当事者たちの声、そのすべてを残そうと思う。
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part19(82~86) ブラッキーエール



ブラッキーエール



生涯戦績24戦5勝

主な勝鞍 シンザン記念(G3)

通称“黒い闘士”

中央に来たばかりの“芦毛の怪物”の初戦となったペガサスSで直接対決を繰り広げたウマ娘。

現在は現役を退き、トレセン学園で教官補佐を務めている。

あのころの話か。今でもよく覚えてるよ。
あの時のアタシは乗り乗ってた。そう絶好調だったんだ。2勝目を上げてから連戦連勝、バイオレットSでは後ろのやつを3馬身以上も離してぶっちぎりの圧勝。
怖いもんなんて何一つなかった。
このままクラシックでも勝ち続けてやる。
そう思いながら目をギラつかせていてさ。
トレセン学園自体、あたしたちの中じゃ上澄みの連中が集まる場所。その中でもトゥインクルシリーズなんざ、死にものぐるいの努力をしたその果てで、栄光を手にできたやつだけが立てる場所。そんな場所だった。
だからこそさ、砂遊びの田舎であってないような勝利を重ねてきただけで、持て囃されたあいつを見たとき、思ったんだ。
こんなぽっと出のやつが何を偉そうにしてやがるって。
心底ムカついたね。
だから言ってやった。「尻尾巻いて田舎に帰れ」ってな。
もっとも、考えが甘かったのは私だったんだがな。

ん? ああ、“あいつ”についてか?
別に特に意識はしてなかったよ。それまではな。
中央にいて未だに勝ちを挙げられずトレーナーもついてなかったやつのことなんて、当時は眼中にもなかったさ。
あいつのことを初めて意識したのは、朝の自主練の最中。例の芦毛と一緒にいるところを見かけたときからか。
その時もまあたいした感想は持たなかったけどな。
ただ、雑魚同士がつるんでる。その程度さ。
それから度々見かけるようになったよ。
そのときもあれだ。おなじみの“お弁当”を振る舞ってたさ。
もらった弁当を心底嬉しそうに頬張ってたよオグリは。おかず一つ一つ手にするたんび目をキラキラ輝かせて。
その時の印象? まあ、少し苛ついたな。
未勝利の野郎が人気だけの田舎もんにすり寄ってやがる。
『みっともねえ』なってな。
雑魚が必死こいて藁にすがりついているようにしか見えなかったさ、当時はな。
今じゃ、口が裂けてもこんなことは言えねえよ。
色々と世話になっちまってるからなぁ、あいつには。
新人たちの食事のサポートについて色々教えてもらってんだ。栄養バランスとか、効率よく栄養補給するにはどうしたらいいのか、とかな。
頭があがらないよ、ほんとに。

と、悪いな話が脱線しちまった。

まあ、とにかくだ。
あのころ二人に対していい感情を持ってなかったのは事実だ。
ペガサスSの直前、廊下であいつらにばったりと出くわした。
思い返せばひでーことを言ったもんだ。特にイチにはひでーことを言ったよ。

雑魚ねずみ共が仲良さそうで結構なことだな。
人気もんにすり寄っておこぼれもらおうなんざセコい手つかいやがって。そんなんだから未だ1勝も挙げることのできない雑魚なんだ。
中央にテメエらの居場所は1ミリも無ぇ。
雑魚同士とっとと消えちまえ。

……んな顔しないでくれ。アタシだって後悔してんだから。
未だにこのことで突かれてんだよ。
ほんと考えなしに物言うのはやめといたほうがいいなって心底思い知ったよ。

その時のイチの表情は忘れらんねえよ。今でも思い出せる。
顔を真っ青にして俯いててよ。肩を震わせながら、血の気の引くぐらい拳握りしめててさ。
思い出すたんび気の毒になる。

『身の程知らずがザマーみろ』って思った瞬間、すげえ力に引っ張られてな。
背中から身体中にすげえ衝撃が走ったんだ。
ドンッ!!ってな。
壁に叩きつけられたって気づくのにそう時間はかからなかったよ。

我に返ったときには目の前にあいつの顔があった。
正しく言えば、あいつの“目”か。
恐ろしく冷たくて、そんでいて激しく燃え盛った炎みたいな印象の目だった。
私のことを睨みつけながら言った言葉。今でも覚えてるよ。
「私のことを侮辱するのは構わない。だが、イチを侮辱するのは絶対に許さない。私の友人を馬鹿にするな!」

トラの尾を踏むなんて可愛いもんじゃない。
怪物の逆鱗に触れちまったんだ私は。
本当に馬鹿なことをしたもんだよ、あのころのアタシは。
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part20(56~61) ヤエノムテキ



ヤエノムテキ

生涯戦績23戦8勝
主な勝鞍 皐月賞(G1)

     天皇賞秋(G1)

“無敵の舞、剛毅木訥の武道少女”

“怪物”を筆頭に“永世三強”ら同世代の強豪たちと死闘を繰り広げたウマ娘。

オグリキャップとは毎日杯にて対峙。

 オグリさんと走った毎日杯。
 それに向けて当時の私は鍛錬に勤しんでいました。
 かたや移籍直後に重賞を圧勝したウマ娘。かたや、無敗で2勝を挙げ実力を示したウマ娘。
 世間の注目を受けたこの一戦、まして皐月賞への前哨戦でもあるのですから。絶対に落とすわけにはいかないと。
 そう強く意識していたのを今でも覚えています。
 そんなときでしたか、彼女──イチさんに出会ったのは。
 練習も終わり、身支度を整えて寮へ戻ろうとした際に、校門に佇む彼女の後ろ姿を見かけたんです。
 もっとも、当時は彼女のことはよく知らず、ただ人伝てにオグリさんと仲の良いウマ娘と聞いていただけでしたが。
 私自身も朝練の帰りにお二人の姿を見かける程度でした。
 お互い接点のないもの同士でしたがその時の私は“しめた”と思いました。
 オグリさんと走るにあたって古風にも果たし状をしたためたのですが、なかなか渡すことができていなかったものですから。オグリさんに受け取ってもらえないなら彼女から渡していただければ幸いと。
 そう思って声をかけました。
 振り返った彼女の顔を見て思わず驚いてしまいました。
 ──夕日に照らされた彼女の頬に一筋の涙が流れていたのですから。

 とてもじゃないですが果たし状など渡せる雰囲気ではなかったですね。なんとも魔の悪いときに声をかけたものです。
 とりあえず声をかけておきながら放っておける状況でもなかったので道の脇にあるベンチに座るよう促して話を聞くことにしました。
 彼女は少しの間、俯いたまま沈黙を保っていましたがそのうちにぽつりぽつりと訳を話してくれました。

 彼女曰く、

“仲の良かった友人がレースで結果を残せなかったために学園を去っていった”

“これまでに幾人も同様にして見送っていった”

“自分も未だに一勝も挙げられていないため他人事だとは思えない”

“もうこれ以上友人がいなくなるのは辛くて耐えられない”

“明日は我が身だと思うと身が震える”

 彼女の言うような出来事は“ここ”ではそう珍しいことでもありませんから。
 全国にいるウマ娘の内、トレセン学園に入れるのはわずかに一握りほど。その中でレースを勝ち抜けられる者はさらに一握りほど。
 力及ばずに現実という壁に跳ね返され、学園を去っていったウマ娘のなんと多いことか。
 しかし、当時の私はそれを当たり前のことだと思っていました。実力のない者はただ去りゆくのみ。
 幸いにも当時の私は勝ち続けることができていた。“負け”というものを知らなかった。
 だからこそ、負けた者の気持ちを、勝利を得られない無力感や悔しさを知らなかった。

 だからこそ、あの頃の私はイチさんに何もすることができなかった。
 そう“何も”です。
 彼女に──彼女の気持ちに寄り添うことができなかった。
 彼女に対して何の激励も慰めもできなかったんです。

 私が彼女の話を聞いて言葉に窮しているのを察したのか、彼女は話を打ち切り早々に立ち上がるとお礼を一つ残して去っていきました。
 ──涙も乾かぬまま痛々しい笑顔をしながらね。

 レース以外の出来事であのときほど無力感を覚えたのは後にも先にもあのときだけでした。
 あのとき握りしめた拳の痛み、忘れることはないでしょうね。

 それから間もなく毎日杯の日がやってきました。
 ゲートの前、ターフに立つオグリさんはいつもと何かが違っていました。
 普段の様子とは一味違う──そう揺るぎない何かを目に宿していた。
 ですが、だからといって私がやることは変わらない。全身全霊を持って迎え撃つのみ。
 相手がどう変わろうと自分の最高の走りをするだけ。そう強く思いレースへと望みました。

 結果はみなさんの御存知の通りです。
 完敗でしたよ。
 一番の懸念であったオグリさんをマークし常に彼女の右斜前に位置し続け、絶対に最短距離を走らせない。彼女のスタミナを消耗させ、最後の直線で勝負をかける。
 理想の形、理想のレースができていた。
『これで勝てる。これで私はクラシックレースも制してみせる』

 そのはずだったのに。

 視界から消えたと思えば、次にその姿を見せたときには彼女の背ははるか先にあった。

 彼女は最後の直線で難なくわたしを追い越していきました。

 ゴール板を駆け抜けた後。何が足りなかったのか、なぜ負けたのか、私の頭の中で疑問が絶えず渦巻いていました。

 『理想のレースを、完璧なレースを演じられていたはずだ。それなのに何故』とね。

 ふと、顔を上げた時、答えはすぐそこにありました。

 満面の笑みを浮かべ大きく手を振るオグリさん。
 その視線の先にはイチさんがいたんです。

 その時の彼女の表情は先日とは全く別のもの。
 憂いを帯び、今にも壊れてしまいそうな儚い表情などではなく、苦笑しながらもその目には希望と力強さをもった火が灯っていました。

 その時に気づいたんです。

『ああ、これか。これが私と彼女の差なのか』と。

 今の私には無くて彼女にあったそれは。
 誰かの心に火を灯せる力。
 心折れかけた誰かの支えとなる力。
 自分自身と重ね合わせ『自分も彼女に負けないくらい頑張ろう』と人々を再起させるような力が。

 ──そういえばその頃でしたか。イチさんが未勝利戦を突破して、みなさんがよく仰っている“オグリギャル”と呼ばれるようになったのは。
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part21(18~24) シリウスシンボリ



シリウスシンボリ
生涯戦績26戦4勝(海外14戦0勝)
主な勝鞍 日本ダービー(GⅠ)
“天狼、唯我独尊の開拓者”
ずば抜けたカリスマと気宇壮大な野心を胸に世界を翔け抜けたウマ娘。
毎日王冠にて“芦毛の怪物”と対決。
次走の天皇賞秋では“白い稲妻”とも対決した。

現在はドリームトロフィーリーグに参加する傍ら、複雑な事情を持つウマ娘達の指導のみならず学園運営者に向けて彼女たちの救済を訴え、日々活動をしている。

ダービーを勝った後、すぐに欧州に向かった。不測の事態とやらで皇帝様の欧州行きが御破算になって私一人で走ることになった。まあ、望むところではあったけどな。
いつまでも人の上に君臨し続けてるアイツの鼻っ面を圧し折って、私こそが天辺に君臨し輝く一等星になるつもりだった。──ま、そう上手くはいかなかったんだけどよ。
当時の欧州は文字通り化け物の巣窟だった。特に凱旋門賞。後先見てもあれだけ桁違いな怪物揃いのレースは早々拝めないだろうさ。

日本に帰って二戦目、毎日王冠。初戦の函館記念こそ落としたが芝の違いに足取られた結果だ。十二分に足も慣らして万全のコンディションだった。まして、欧州ほどの化け物なんざこの国でいえばあの皇帝様やスーパーカークラスかそれ以上の存在だ。そんなもんそうそういない。そう思っていた。あのときやけに注目を集めていたあの芦毛のアイツも含めてな。

あの時の毎日王冠も国内の強者揃いだったのは間違えねえ。伊達に“スーパーGⅡ”なんて呼ばれちゃいねえってこった。だがな、そんな強者の誰しもがただ一人を徹底的にマークしてやがった。他でもねえアイツだ。
レーススタートしてから全体的にスローペース。誰も前に行こうとしねえ。じっと後ろの一人に夢中になってやがる。
大きく状況が動いたのは大欅を越えたあたりだ。アイツが仕掛けた瞬間、他の連中が一気に動き出しやがった。
全員がヤツの進路を塞ぐ形で壁になったのさ。あれは一言で言えば檻だ。あの場のやつと私を抜いた9人全員がアイツを閉じ込めて消耗させて仕留めようって腹積もりだったんだろうさ、偶然とはいえな。巻き込まれたこっちとしちゃいい迷惑だ。
内も外も完全に塞がれて身動き取れないアイツを見て、誰もが終わったと思った。隣で走る私を含めて。
あとは自分たちのレースだ。そう思った時だ。
アイツは大外をそれも最大外を走りやがった。檻を簡単に抜け出しやがったんだ。すかさず私も後を追ったさ。勝負を仕掛けるならここしかない。
ずっと9人にマークされ続けてたんだ。その上、最大外からのラストスパート。
『こいつはもう体力は残っていない』
この勝負は勝った──そう思ったんだがな。
アイツはそんな常識を遥かに上回ってゴール板を翔け抜けやがった──私よりも先にな。
レースにはたまにああいうやつが現れる。特異体、時代のキーパーソンってやつだ。

GⅠ級。全員がアイツより経験も豊富な百戦錬磨。そんな連中相手に後方から大外廻って差し切って勝つ。
なんてことはねえ。噂通りの“怪物”。ただそれだったわけだ

その後の天皇賞秋も終わってふと思っちまった。
『私らの時代は終わっちまったんだ』ってな。

◇

──あん? まだ何か聞きたいことがあるのか?
“レスアンカーワン”? 誰だそいつ?
──ああ、あの面白え女のことか!
ああ、よーく知ってるさ。あんなに嗤ったのはそう何度もないからな。
そうだな……、今私はえらく舌と喉が乾いてるんだ。長々と“芦毛のアイツ”のことを話してたせいでな。飲み物の一杯でも奢ってくれりゃ口の滑りも良くなるんだがなあ……。
──いいこだ。

それで? あの女のことだったか?
アイツと初めて会ったのは毎日王冠の前だったか。
毎日王冠に向けて調整に向かおうとした時、どっかから聞き覚えのある声が聞こえてきた。
校舎裏の方からな。
覗いてみりゃ私が面倒を見てやってる後輩だった。
その後輩が3人ばかし集まって誰かを囲い込んでた。壁に追い込んでな。
陰で話を聞いてみればくだらねえ話しさ。

「最近、勝ててきてるからって調子に乗ってる」
「オグリギャルと呼ばれて有名になってるのが気に入らない」
「オグリキャップの名声の“おこぼれ”をもらって目立てているだけ」

なんてことはねえただの嫉妬ややっかみだ。
別に珍しいもんでもない。出る杭を忌々しく思うやつもいる。自分より眩しく輝くやつを妬ましく思うやつもいる。自分にとって目障りに思うやつをどうにかしようとするなんざ“ここ”だけじゃなく何処にでもあるこったろ? 本当にくだらねえ話しさ。

だが、そのくだらねえ話を聞いて囲まれてる相手が誰か分かった。
芦毛のアイツと一緒によくいるあの女。そう、レスアンカーワンだ。
様子を見て思わず感嘆の声が出ちまったよ。後輩たちが凄んで見せているのに睨み返してたんだよアイツ。ただ、体は震えてたから虚勢を張ってただけかもしれねえけどな。
ただ、あの力強い意志が宿った目だけはなかなか見ねえ。
それが気に入らなかったのか後輩の一人がな、こう言いやがった。
あの芦毛は運が良かっただけだ。ぽっと出のやつが“たまたま”連勝を続けてきただけだ

──本物と走ることになればあんな田舎者、惨めに負けるに決まってる。

その瞬間だ。空気が変わりやがった。
あの女が後輩に詰め寄って言ったんだ。

『運が良かった? ふざけんな!! 運が良かっただけでレースに勝てるわけない!!』
『あいつは誰よりも練習に打ち込んで、誰よりも勝つための努力を惜しまない』
『お気楽で、能天気で、大飯食らいで、鈍感だけど、いつだって誰かのために走り続けることができるウマ娘だ』
『自分のことすら満足に努力できないやつが、あいつのことをよく知らないやつが勝手にあいつを馬鹿にすんな!!』

それで思わず嗤っちまった。
なんせさっきまで精一杯虚勢張って怯えてたやつが、急に堂々として褒めてんのか馬鹿にしてんのかわからねえことを吠えてみせたんだからそりゃ嗤っちまうだろ。
ただな、その時のあの女は威勢と振る舞いだけは“本物”だった。

もう少し見ていようかとも思ったが、私はすぐに止めに入った。
──アイツを助けたのかって? んなわけねーだろ。そんな義理もねーよ。
私はただ後輩共のくだらねえ真似が気に入らなかっただけだ。そんな無駄なことに時間を費やすくらいならその時間を走り込みに使ったほうが有意義だと思っただけさ。まして、私が面倒を見てやってるやつなら尚更な。

──その後? 別に大したことはねえよ
何を勘違いしたのか芦毛のアイツが駆けつけて、私に突っかかってきたり、皇帝様がやってきてひと悶着あったり、散々だ。
おもしれーもんが見れた代わりにホントひでー目にあった。
それだけさ。

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part22(16~19) タマモクロス



タマモクロス

生涯戦績 18戦9勝

主な勝ち鞍 春秋天皇賞制覇(GⅠ)、宝塚記念(GⅠ)

“白い稲妻”

序盤こそなかなか勝利に恵まれてこなかったが、鳴尾記念(GⅢ)勝利を皮切りに破竹の連勝を重ね、“日本一のウマ娘”、“最強”の称号を手にした。

秋シニアにおけるオグリキャップとの3番勝負は“最強の芦毛対決”として今なお語り継がれるほどの名勝負であり、名実ともに“芦毛の怪物”とって最初にして最強のライバルである。

オグリはうちが今まで見てきたウマ娘の中でもトップクラスに強いやつやった。
それこそ、なんかの気まぐれに笠松でチラッとレースを覗いた時から他のやつとは一味も二味も違っとった。
まあ、ウチも最初はおもろいヤツがおるな、くらいにしか思ってなかったんやけどな。

せやけどそこからや。中央にきてレースを走るたんびにあいつの強さが目についた。とにかくべらぼうに強いんや。どんなレースであろうと全身全霊を尽くして走っとった。まさにレースの申し子。“怪物”なんてお上品なもんやない。本気もんの“化け物”やった。

そんな化け物ウマ娘のそばにはいつもあの子がおった。
そう、イチちゃんや。いつも怒ったり、笑ったり、顔赤うしたり、とにかく賑やかにな。
気がつけば色んな奴が二人のことを見とった。レースを終える度、見守る視線が増えとったなあ。担当トレーナーもライバルもクラスメイトも、先輩後輩も問わず、挙句には食堂のおばちゃんや用務員のおっちゃんや二人のファンまでもや。

みんな二人の漫才じみたやりとりや全力で走っとる姿を目に焼き付けようとしてた。
ウチも──もう少し見ていたかったんやけどなあ……。

──知っとるか? ヒーローは3つに分けられる。

誰かに勇気や希望をあたえる奴、誰よりも強い奴、常に誰かに支えてもらえる奴。
この3つや。

あいつは……、いや、あの二人は両方ともその資格を持っとる。

オグリは言わずもがなやな。
ひたすらに強くてその実力はトップクラス、いつも誰かがオグリに自分を重ねて応援しとる。それにイチちゃんをはじめに笠松>の人たちや学園の連中、ファン達がいつだってあいつを支えてくれとる。あいつに声援を送っとる。
文句なしでヒーローや。

一方でイチちゃんの方は、常に誰かに支えてもらえる点では当てはまる。でも、残り2つはどうか?

お世辞にもオグリみたいに輝かしい戦績も持ち合わせとらんし、一目見て圧倒させられる程の走りも持ってない。
でもな、イチちゃんの強さはそれじゃない。

イチちゃんはな、とにかく我慢強いんや。根性を持っとる、それも生半可な根性やないド根性や。
他のみんなが嫌になって投げ出してまうような状況でも、あの子は背負って前へ進む。
たとえ100回、1000回転んでも、代わりに101回、1001回起き上がってまた走り出す子や。
──何度も何度も転んで倒れてそれでも立ち上がって走るんや。
度肝抜かれたでホンマ。

心も体もボロボロになってなあ……。
でも、そんな目に遭ってまで頑張り続ける姿がいつからかみんなの心の支えになっていったんや。
みんながあの子みたいに頑張ろう、あの子に負けないように頑張ろうって。
気がつけばみんな、あの子を応援しつつあの子に希望を見出してたんや。
──ウチも含めて、な。

ここまで聞けばもう納得したやろ?
あの子は文句なしでヒーローや。
おまけにあの二人はお互いがお互いにとってのヒーローや、ホンマお似合いな二人やで。

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part22(83~86) スーパークリーク



スーパークリーク

生涯戦績 16戦8勝

主な勝ち鞍 菊花賞(GⅠ)

      天皇賞秋(GⅠ)

      天皇賞春(GⅠ)


“遅咲きの天才”

無尽蔵なスタミナを武器にターフを駆け抜けた高速ステイヤー。

オグリキャップ、イナリワンと共に“永世三強”と称されたウマ娘。

デビュー直後から脚部不安に悩まされ思うような結果を得られなかったが、菊花賞を皮切りにGⅠを制覇するほどにまでその実力の示した。

また、長距離レースにスピードが要求される時代を築いたウマ娘としても有名。

現在はドリームレースにて“永世三強”をはじめとした強敵達と日々競い合っている。

オグリちゃんは目を離すとすぐどこか別の場所に行ってしまう子でして、特に初めての場所になると手を繋いでいないと迷子になってしまうような子なんです。
レースの時だって、気がつけば遥か先へと駆けていて……。
いつの間にかどこか遠くへといなくなってしまいそうな、そんな危うい子。

でも、まるでエンジンの動かなくなった船のみたいにふらふらとどこかへ流れていってしまうようなそんなあやふやなあの子を寄る辺となって繋ぎ止めていたのはイチちゃんだったのかもしれませんね。
オグリちゃんとイチちゃん、お互いのいる場所が不思議とよく分かるんです。
それでいつも一緒にいて本当に仲がいいんですよ。見ているこっちが嬉しくなっちゃうくらいに。

イチちゃんは本当にすごい子なんです。本人はいつも否定するんですけど。
オグリちゃんがお腹を空かせないように毎朝早起きしてお弁当を作ったり、付き合いの長い私達でさえ気がつかない様な些細なことに気がついてオグリちゃんが困っていればすぐに飛んでいって助けてあげたり。
いつも優しくて誰かのために一生懸命になって本当にいい子なんです。

それにとても強い子なんですよ。
──とても心が強い子。
レースで負けて落ち込んでもすぐに次のことを考えられる。
なにか失敗しちゃった事があっても一息入れてどうにかしようと思える。
練習のときだってへとへとに疲れているのにいつも瞳に炎を灯しながら『まだだ、まだやれる』ってトレーニングを>続けちゃうような子なんです。
そんなところもオグリちゃんとそっくりで──。

でも、ときどきその一生懸命さが仇になることもあるんです。
ボロボロになっても平気な顔をして前に進もうとする。何度も何度でも。
自分が傷ついてもそれを押し隠してしまう。
私が心配して声をかけても、こっちに心配をかけないさせないように曖昧な笑顔で強がりを言って誤魔化して。
いつだったかそのせいで大変なことになってしまったこともありました。
本当に無理や無茶を平気でしてしまうそんな子なんです。

だからでしょうか、時折思うんです。この子、私が支えてあげなきゃどうなっちゃうんだろう。この子、私が支えてあげなきゃ誰が支えてくれるんだろう、って。
私だけじゃありません。タマチャンもイナリちゃんも、もちろんオグリちゃんもきっと同じことを思っているんでしょうね。
彼女と関わった人たちが──もちろん、皆が皆とは言いませんけど、あの子をほっておけないって思ってしまう。そんな危うい子なんですよイチちゃんは。

でも、そんな危ういイチちゃんだからこそ誰かに希望を与えられてるんだと思います。
辛いことがあっても、悲しいことがあっても、本人の知らないうちに誰かの心の支えになれる。
「あの子が頑張ってるんだ負けてられない」そう思わせてくれる。
イチちゃんはそんなすごい子なんですよ。

──本人は「そんなことないですよ。あまり持ち上げないでください」って否定するんですけどね。

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part23(109~115) イナリワン



イナリワン

生涯戦績 25戦12勝
主な勝ち鞍 天皇賞・春 (GⅠ)
      宝塚記念 (GⅠ)
      有馬記念 (GⅠ)

“大井から来た天下人”、“天下を遍く照らす大花火”
“怪物”と同じく地方から中央へ移籍したウマ娘。移籍後2戦目でGⅠ天皇賞・春を優勝、そのままGⅠ宝塚記念を勝ち上がる。秋シーズンでは天皇賞・秋、ジャパンカップと苦戦を余儀なくされたが、シーズン最後のグランプリ 有馬記念を優勝するなど多大な功績を残し、“怪物”、“天才”と並び“永世三強”として高い評価を受けている。
現在では他の“永世三強”と共にドリームトロフィーリーグに参加。古今東西の強敵達を相手に鎬を削っている。

大井で初めて旦那──ああ、トレーナーのことな、トレーナーに声をかけられて中央に見学に来た時、そのレベルの高さに驚いたぜ。
まだ、デビューしてねえっていうのにどいつもこいつも一戦級の実力を持ってやがる。

──これが中央のウマ娘かって、思わず武者震いしちまった。

そんな中、二頭抜きんでたウマ娘が二人いた。
他と比べても頭ひとつふたつと飛び抜けてやがる。
その走りを見て思わず息を呑んじまった。

『ありゃ、タダ者じゃねえ。天下を狙える走りをしてやがる』

あえて言うまでもねえな。
そう、その二人ってのが“オグリキャップ”と“スーパークリーク”────他でもねえアタシの大切な親友で一歩も前を譲りたくねえライバルさ。
そんときゃ、とにかく血が騒いで仕方なかった。
『こいつらと走りてえ! こいつらと競ってみてえ!』ってよ。

そうしてアタシは地元大井のトレセンから中央へ移籍したってわけよ。

そん時だったかな。移籍して間もない時にイチのやつを見かけたのは。

移籍してから周囲ではオグリの話題で持ちきりだった。
地方から移籍して早々大活躍。そりゃ、話で持ちきりになるわな。
あっちでもこっちでもオグリオグリオグリときたもんだ。

だからよ、トレーニング場でイチを見かけた時も大した印象は持たなかったんだ。
なんだ、またミーハーなやつがいやがるってなもんでな。
だってよ、走ってる時の姿勢がどう見てもオグリキャップのモノマネだったからよ。

真似してできるもんでもねえだろうに、あいつは必死にその姿勢で走ってやがった。
何度も何度もコケたりヨロけたり、終いには転んじまって。
慌てて駆け寄ったさ。怪我でもしてたら一大事だろい?

幸い大きな怪我はしてなかったものの膝を擦りむいちまったみたいでな。
そこからは無理矢理練習を切り上げさせて傷の手当てよ。
それからお節介とは知っていたが構わず叱りつけてやった。

『慣れねえフォームで走って大怪我でもしたらどうする!!』
『下手すりゃ二度と走れなくなるかもしれねえだろ!! 』
ってな。

──その時のイチの様子かい?

じっと足下見つめてだんまりさ。
自覚はあったんだろうな。
でも、それでもそうまでしてやらなきゃならない事情がアイツにはあった。
だから、今度はなるべく声色優しくして聞いてみた。

『 なんでオグリキャップの真似なんかしてんだい?』って。

しばらくしてあいつがわけを話してくれたよ。
まあ、正直予想はついてたんだけどな。

いなくなる同期、先に進む友人、いつの間にか自分一人だけが取り残されてるっていう恐怖。
色んなもんに責め立てられて、それから逃げるみてえに必死に走ってたわけさ。

だから、オグリの真似して走ってたんだとこっちは一人で勝手に納得してた。
せめて縋れるものがあるとしたらあの“地方からやって来たシンデレラストーリー爆走中の怪物”。
“アイドルウマ娘様”は伊達じゃねえな、なんてこと思ったりしてな。

でも、実際はその真逆だった。
イチはそんなやわなことは考えてなかった。

『ぽっと出に負けたくなかった』

『私達だってやれるって証明したかった』

『才能なんてそんなちっぽけな言葉で私の────私達の努力を否定させたくなかった』

『それが馬鹿馬鹿しいくらい滑稽に見えたとしても、私たちだって走れるって──私たちの頑張りは決して無駄じゃなかったって証明してみせたかった。』

今思えばアタシはとんだ勘違いをしていたもんさ。
この子はとんでもなく豪胆でリスクなんて屁でもない無鉄砲なやつだ。
勢いと目ん玉に宿ってるギラツキは誰にも負けてねえ。

そう、大井の連中にそっくりだった。

中央の連中に負けるもんか、隣を走ってるやつに負けるもんか。
誰にも負けるもんか。
負けず嫌いで闘争心をまるで隠そうともしない地方の連中によ。

ほんと中央に来てからトーンとくることが多くて困るぜい。
こんなに胸を高鳴らせる奴らがいるとは思わなかった。
まったく、大したとこだよ中央は。

ま、イチとの出会いはこんなところかね。

──何だ? 他に印象に残ってることだ?

そうは言われてもなあ……。
あとはまあ、最近感じてることでいやあ……。

──あの二人は祭りみてえなもんだわな。

……抽象的すぎてぴんと来ねえだあ?
てやんでい!! そんくらい心で感じなあ! 
いちいち聞くのは無粋ってもんだぜ!

──わかった、わかったよ! そんな目で見るなって。

別に説明すんのが面倒になったとかそんなんじゃねえって。
見たまんまの感想だよ!
あとにかく人を引きつけて止まねえんだ。
オグリはもちろん、イチもな。

例えるなら、オグリは夜に花開く四尺玉の大花火よ。
一度、天辺高く打ち上がりゃみんなの目ん玉釘付けにしちまう。

んでもって、イチは言っちまえば祭囃子だ。
その音聴いちまえばみんな、ふらりふらりと足を向けて寄ってくる。

そんな二人が揃っちまえばあとはお祭りよ。
あの二人のすっかりおなじみな夫婦漫才を当てにいつもアタシらは集まってるんだ。
アタシもタマもクリークもモニーも、それ以外のみんなも気がつきゃ、あの輪っかの中に入ってる。 一緒になって馬鹿やってる。

──何でかって?

そうやって馬鹿やってるのが途方もなく面白えからよ。

踊る阿呆に見る阿呆、同じ阿呆なら踊らにゃ損損ってな。
そうやって阿呆になってるのが最高に面白えんだ。

本当に中央にきてよかった。そう思えるぜ、全くよ。

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part24(28~39)interludes


【interlude スーパークリーク】


あの時のオグリちゃんの姿ほど痛ましいものはありませんでした。
アメリカ遠征が決まってまもない頃の宝塚記念でまさかの敗北。
それでも、アメリカを目指して直向きに頑張っていたのに──目前に控えてときに足の故障。
あの時がある意味悪夢の始まり──いえ、みんなの夢が覚め始めたとき、魔法が解け始めたのかもしれませんね。
前みたいな調子を取り戻すことができなくなって……。
万全だった頃の走りを取り戻そうともがけばもがくほど自らを縛る鎖のような何かが締まっていった。
そして何よりの異変は、オグリちゃんがご飯を受け付けなくなったこと。
あのオグリちゃんがですよ?

出されたご飯を美味しそうに頬張って幸せそうな顔をして……。
ご飯を何度もおかわりして、その度に嬉しそうな顔をしていたのに。
無理矢理食べようとして戻してしまったこともありました。
極め付けはイチちゃんのお弁当すら受け付けなくなってしまったこと。
よっぽどショックだったんでしょうね。
二人とも誰かに見られないよう顔を隠しながら涙ぐむ様子を何度も見かけました。
今でも鮮明に思い出せますよ。
あの痛々しい表情。
あの寂しげな後ろ姿。
声は聞こえなくてもわかるほどに悲しげな泣き声。
見ているこちらの心が締め付けられるようでした。
あのときは本当に──本当に辛かった。

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【interlude ブラッキーエール】


あん時のオグリは見ちゃいられなかった。
何つーか……まるでアタシみたいだった。
──いや、別に自惚れてなんかねえぞ!? ただ似てたんだよ!! あの時のアタシに!
知ってんだろ? オグリとやり合った後、今までの絶好調が嘘みてえに絶不調になって連敗続き……。
──くそっ! なんか自分で言ってて悲しくなってきた。
まあ、とにかくなそういう風に見えちまったってわけだ。
アタシも今そういう奴らの面倒見てるから分かるんだ。
今まで勝てて来たのにたった一度の負けをきっかけに何もかんも上手くいかなくなっちまう。
順調に山を登ってきてようやく山頂が見えてきて、あと一歩だっていう時に足を踏み外しちまう。
一度転がっちまったらどこまでもそのまま落ちちまう。
そんな連中がここに来るんだ。
──あの時のあいつも、オグリキャップもそうだったな。

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【interlude ヤエノムテキ】


“英雄”

まさにオグリさんはそうでした。
地方のウマ娘にとって、中央で勝ち上がれないウマ娘にとって──苦しく辛いときを生きるすべての人達にとって。

誰もがオグリさんの走りを見て自分を奮い立たせ、先の見えない暗闇の中に希望を見出し、オグリさんの“走り”その一つ一つに意味を生み出そうとしていました。

そうオグリさんそのものが彼らにとって“夢”そのものだったんでしょうね。
オグリさんはそれらすべてを自らの背に背負いレースに臨んだ。
決して真似できるようなことではありません。

──ですが、“英雄”とは必ずしも恵まれた存在ではありません。
そう悲劇も生まれてしまうものです。

誰もが際限なく夢や希望を預けてしまう。
最初こそ、それは些細なものだったかもしれません。
ですが、それは時を経るごとに大きくなっていく。
いいことも悪いことも。
やがてそれは枷になり、重しになる。

あの時のオグリさんは“英雄”としてではなく、まるで

──“人身御供”のそれでした。

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【interlude シリウスシンボリ】


──憧れ? 
ハンッ。そりゃ抱くだろうよ。
なにせあれだけの大活躍だ。憧れるなっていうほうが無理ってもんだろ?
どいつもこいつもみんな「ああなりたい!」って思って、望んで、願って、その背を追いかけちまう。
それがどれほど険しいものなのかも知らずにな。
でもまぁ、それ自体は悪いことじゃねえさ。

──最も最悪なことってのはな。
“憧れ”と“理解”とは似て非なることってことさ。
“理解”はいい。
それ自体は難しいことだが、それができればそいつそのものをちゃんと見ていることになるからな。
等身大のそいつ、その本質をな。
だが、“憧れ”はそうじゃない。
“憧れ”ってのは一種の病気みたいなもんだ。
「そうありたい」から「そうあるべき」に変わっちまう。

──僕のオグリキャップ。
──私のオグリキャップ。

一人ひとりのその記号、イメージがだんだん大衆全体のものになっちまう。
まるで病にかかったみたいにな。
そうしてそいつらが全員“そいつ”そのものじゃなく自分の中にある記号化されたそれを押し付けるようになるってわけさ。
みんなのオグリが一人歩きを始めちまい終いには、等身大のそいつを見れなくなる。

そして、それの何が悲劇的かっていうと、それを押し付けられるやつがいい子ちゃんであればあるほど──愚直にその期待に応えようとすればするほどドツボにハマっちまうってところさ。
あの“怪物”も“皇帝様”もそれにハマっちまった。
馬鹿正直にな。

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【interlude イナリワン】


ボロボロでも賢明に走るオグリ。
必死に走ってはいるが、いつもの調子が感じられねえ。

あの時、ひょっとしたらみんな気がついてたのかもしれねえな。
“祭り”がもう終わりに近づいてきているってことに。
宝塚記念での惜敗、アメリカ遠征の中止、天皇賞秋の敗北、ジャパンカップでの惨敗。
一戦、また一戦と過ぎるうちによ、あれだけ高揚感に酔いしれて熱に浮かされてた連中がみんな素面に戻ってく。
「ああ、もう馬鹿騒ぎもお仕舞えなんだ」って。

花火がよ? バンバン夜空に打ち上げられてるうちはみんな夢中になって騒ぎ立てるもんだ。
満点の空に映る大輪を見るのが楽しくて仕方がねえって具合にな。

──だからこそ、締めの大輪が打ち終わったあと、ひどく物悲しくなるってもんよ。

“オグリキャップ”っていう祭りが終わっちまう以上、みんな帰らなきゃいけねえだろ。
非日常から日常に。
それがどんなに後ろ髪を惹かれるようなもんだとしても。
ジタバタしたって終わっちまうんだから。
終わりのねえもんなんてねえ。
何にだっていつかは終わりが来ちまうんだ。

──あのときもそうだったなぁ。

アタシもクリークもあいつより先に上がっちまって、そしていよいよ最後の一人だ。
これでアタシらの時代も終わりか。
アタシらの馬鹿騒ぎも終わっちまうんだ。
そう思ったらひどく寂しくなっちまった。

──心の中に隙間風が通っちまった気がしてよ。

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【interlude タマモクロス】


思えば、満たされきってたんやろなあの頃のオグリは。
本人は否定するやろうけどな。
そらそうや、あいつは誰よりも走ることに喜びを感じとる。
最初こそ足が悪うて走れなかったってのは本人の話や。
だからこそ、ただ走れるだけでもそれはもう嬉しくてしゃあないもんや。
いつもいつも走りたくてしゃあないって目で訴えとったで。

──でもな、あのときのオグリはそれがなかったんや。

ウチな? 常々思う取ることがあんねん。
「ウチらのウマ娘にもっとも必要なもんて何やろか?」って。
まあ、人それぞれやろうけどな。
でもな? 一個だけ──これだけは絶対みんな必要だと思うとるって確信があんねん。

──“飢え”や。
ウチらウマ娘が走る上で一番大事なもんはそれやとウチは思うとるんよ。

“欲求”、“渇望”──まあ、呼び方はなんだってええがな。

あのときのオグリにはそれが感じられへんかった。
体がボロボロになってたからとも思うけどな。
でも、前と比べて──少なくともウチとやりあったときにはあった“それ”がな。

食い物にしてもそう、走りにしてもそう。
「まだや、もっと欲しい。もっとくれ!」っていう心からの叫びが聞こえなくなってた。

それでも走り続けてたけどなあいつは。
思えばあの秋のレースは藻掻いとったんとちゃうかな、オグリなりに。
せやけど、現実はそう甘くはない。
期待通りの結果は残せず仕舞い。

そのうちに、ウチら含めて周りも──そして、当人すらも心のどっかで「ああ、もうこれで終わりか」って思い始めてしまったんや。

でもな? 
ただ一人──そう、ただ一人それを認めずに諦めへんかったやつがおった。
言わんでもわかるやろ?

他でもないイチちゃんや。
あの子は最後まで諦めへんかった。
本人すら匙投げてんで?
それでも「知った事か、そんなこと」って言わんばかりにな。
どんなときもずっと側におって支え続けてた。
最後のレースまでな。

どんな手品使ったか知らんけどな。
ただ一つ言えるのはオグリは復活した。
せやから、最後のあのレースで勝てたんや。
ホンマ、大したもんやで。

さっきも言ったやろ? 
ヒーローの条件。
オグリはもちろんのこと、イチちゃんもヒーローやったわけや。
他でもないオグリにとってのな。

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part24(43~54) オグリキャップ



オグリキャップ

生涯戦績 32戦22勝(内、地方 12戦10勝)


主な勝鞍 有馬記念(GⅠ) 2回

     マイルCS(GⅠ)

     安田記念(GⅠ)


“芦毛の怪物”、“稀代のアイドルウマ娘”


もはや説明不要のシンデレラウマ娘。笠松時代に12戦10勝という驚異の戦績を叩き出した後、鳴り物入りで中央へ移籍。破竹の重賞6連勝を遂げ一躍トィンクルシリーズの最前線に躍り出た。

その後も“白い稲妻”、“永世三強”をはじめ数多の強敵たちと文字通り身を削るほどの名勝負を演じてみせ、迎えたラストラン──彼女は伝説になった。

現在は、ドリームトロフィーリーグの傍らURAの広報活動にも従事している。



──誰よりも“彼女”の側にいて、“彼女”のことをよく知るウマ娘。

──オグリキャップだ。よろしく頼む。

それで、イチの話だったか?

話せば長くなる。

イチと初めて出会ったのは中央へ移籍して間もない頃だった。
なかなかたどり着けないカフェテリアに向かおうとしているうちにお腹が空いてしまって。
中庭で途方にくれていたよ。

ベンチに腰をかけて自分のお腹の音を聞きながら、「ああ、私はここまでなのか」なんて思いながら。

そんなときに出会ったんだ。

初対面の私に食べ物をくれただけじゃなく、カフェテリアまで案内してくれたんだ。

なんて優しい子なんだろう。
不思議と胸が暖かくなったのを覚えている。

それがきっかけでイチとよく会うようになったんだ。
廊下で会って軽く挨拶を躱したり、イチのクラスまでお礼を言いに行ったり──あの時、一番嬉しかったのはイチが私にプレゼントをくれたことかな。

──段ボール箱いっぱいに詰め込まれた人参。
あれは本当に嬉しかった。
昔、クリスマスにサンタさんからもらった人参を思い出してしまって。

誰かから聞いたわけじゃないだろうし、本当にすごい偶然だったんだろう。
だけど、私はそれが嬉しくてたまらなかった。
部屋に戻ってから夢中で食べていたのをよく覚えているよ。
食べすぎて少し太り気味になってしまって、タマに叱られたっけな。
でも、それくらい美味しかったんだ、あの人参は。

それから何度も話すようになった。
校内にある中庭で。
いつも他愛のないことを話していた。

ある日、朝練終わりのときだったか。
話している最中にお腹が空いてしまったんだ。
あれはすごく恥ずかしかった。
でも、その姿を見てイチが言ってくれたんだ。
「よければお弁当を作ってきましょうか?」って
嬉しかった、思わず飛びついてしまうくらいに。
いつもお腹を空かしながら授業に向かわなきゃいけなかったからすごく苦しかったんだ。
だから、あの時のイチの提案は本当に嬉しかったんだ。

──それからイチと毎朝お弁当のやり取りが始まったんだ。

イチのお弁当はすごいんだ!! 
毎朝、早い時間に起きて作ってくれて、ひと目見て本当に美味しそうだし、実際美味しいんだ。栄養バランスもきちんと考えてくれたり、その日の私の体調に合わせたメニューを──

【以下中略】

──だから、イチのお弁当には本当に感謝している。
お陰で毎日の朝が楽しみになったんだ。
ああ、明日のお弁当のメニューのことを考えるだけで今からお腹が空いてしまうくらいに。

……お弁当の話はもういい?
すっ、すまない。イチのお弁当の話になるとつい……。
それで他に聞きたいことはあるか?

──イチとのやりとりで一番印象に残っていること、か……。

うーん、難しいな。
イチと過ごした日々はどれも忘れられないくらい、いい思い出ばかりだからな。
出会った頃や人参をもらった話はもちろん、夏合宿、レースのとき、どれも私にとってかけがえのないものばかりだからな。

ただ、その中で一番印象に残っていることといえば……。
そうだな、3回目の有馬記念のころだろうか。
──ああ、そうだ。
私の“最後のレース”だ。

あの時は本当に苦しかった。
みんなの夢を背負って臨んだ宝塚記念では2着に敗れて、それでもと望まれて挑もうとしたアメリカ遠征は二度目の怪我で中止になってしまった。
思えばあの時の私は泥沼の中で必死に藻掻いていたんだろうな。

『みんなの期待に答えなきゃいけない』

『みんなの夢を叶えなくてはいけない』

そんな使命感だけが私を支配していた。
走れることだけが奇跡だった私はどこか遠くに行ってしまっていたんだ。

だけど、その思いとは裏腹に結果はついてきてくれなかった。
秋の天皇賞ではヤエノに敗れ、その次のジャパンカップでは掲示板外に。
前みたいに走れなかったんだ。
あれだけ走れていたのに夏を超えてその走りを思い出すことが出来なかった。
それでも、どうにか抜け出そうと藻掻けば藻掻くほど体は泥沼に沈んでいった。

そんな時、ふとファンの誰かに言われたんだ。
「今までお疲れ様でした」って。
最初は何を言われているのか分からなかった。
だけど、周囲の様子を見ているうちに理解してしまったんだ。

たまたま立ち寄ったコンビ二に並んでる雑誌の表紙に書いてあったよ。
【オグリキャップの時代は終わった。来る新時代のヒーローは誰だ!】

その文字を見て思わず思ってしまった。

──ああ、私もついに終わってしまったんだな。

藻掻くことをやめた途端、体が泥沼に沈んでいくのがわかった。
抜け出そうとするのは苦しかったのに。
沈むのは後もあっさりなのかって。

力が入らなくなるんだ。
走ろうという気持ちも消えてしまって。
気がつけばお腹も減らなくなってしまっていた。

そういえば私がイチのお弁当を残したのはあの時だったな。
初めてだったんだ、イチのお弁当を残したのは。
その時のイチの顔は忘れられない。
本当にショックで悲しくて、泣きながら怒られたっけな。

「そんなの私の知ってるオグリじゃない」って。

言われて当然だと思った。
私自身、やるせない気持ちになって何に対してもやる気が起こらなくなって、呆然としていたから。
ただ、悲しかったな……。
イチに怒られたことじゃない。
イチのお弁当を無駄にしてしまったこと。
イチを悲しませてしまったことに。

その時ぽつりと思ってしまった。
「そうか、私はもう一番近くに居てくれたイチの期待すら裏切ってしまったんだ」と。
私の中で最後まで残っていた何かがプツリと切れた音が聞こえた気がした。
そうして私自身もすっかり諦めてしまったんだ。

─だけど、イチは違った。

泥沼に沈みきった私にただ一人手を差し伸べてくれた。
あれだけ情けない姿をしていた私の側に最後まで居てくれた。
期待を裏切ってしまった私に最後まで声を掛け続けてくれた
諦めていた私のことを最後まで諦めなかった。

私が弱音を吐いてしまうたびにイチは言ってくれたよ。
「アンタならできる。アンタならやれる」
何度も、そう何度も。

最後の有馬記念もそうだった。
いつものような気合も入らない。
武者震いもしていない。
そんな私の顔を両手で包んで言ってくれた。

「しっかりなさい! アンタはオグリキャップなのよ!」
「巷の人が好き勝手言ってる“芦毛の怪物”でも“稀代のアイドルウマ娘”でもなんでもない」
「ちょっと抜けてて、致命的なくらい方向音痴で、大飯食らいで、そして何よりも走るのが大好きなウマ娘なんだから」

そのときに思わず聞いてしまったんだ。

「なんでそこまで言い切れるんだ?」
「なんでそこまで私のことを信じてくれるんだ?」って。


私の目をじっと見つめたままイチは言ってくれたよ。

「そんなこと決まってるでしょ」
「私は心底楽しそうに走るアンタが好きなの」
「あなたの無邪気な走りをみてこっちは勝手に勇気をもらってるの」
「だから、最後まで好きに走っておいで」

「アンタは私の──私達の“ヒーロー”なんだから!」

そう言いながら私に“おまじない”までしてくれたんだ。

その瞬間、胸が熱くなった。
燻っていた心に火が灯った。
早くターフに立ちたい。
早くゲートに入りたい。
早く走りたい。

イチのお陰で私は思い出したんだ。
私自身が壮大な何かを抱く必要もない。
私自身が高い志を持つ必要もない。
私はただ走ればいいんだ。
思いっきり楽しんで。
そんな私の走りがみんなに希望と勇気を与えるんだって。

イチは私のことをヒーローだといったけど。
私にとってのヒーローは紛れもなくイチだ。
間違いなく、な。

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Epilogue


──すまない、この映像はイチも見るのか?

……そうか、なら少し話してもいいだろうか?

直接伝えられないことも今なら伝えられそうなんだ。

──ありがとう。

イチ、君にはいつも助けられてばかりだな。お弁当も応援も本当に助けになった。

私の走りが好きだと言ってくれたときは本当に嬉しかった。

だから最後のレースで私は勝つことが出来たんだと思う。

今度は私の番だ。

私が君を支えたい。

君が思い切り楽しんで走るのを手助けしたい、というか……。

えーと、その、つまり何が言いたいかと言うと……。

──君の走る姿が大好きだ。

ありがとう、親友。

これからもよろしく。

◇

“オグリギャル”

誰よりも“芦毛の怪物”の側で支え続け、嫉妬と羨望の間で走り続けたウマ娘。

今回、彼女自身には話を聞くことは出来なかった。

彼女曰く、「まだ自分は走っている途中だから」とのことだ。

ただ、『彼女』──いや、『彼女達』の話をするとき、皆 少し嬉しそうな顔をしていた。

彼女は今日もターフを駆け抜けている。

まだ見ぬ“自分だけのゴール”を目指して。

Fin.
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オグイチZERO Side Res Anchor One part31(138)

──今日はお時間をとっていただいてありがとうございます。

「いえ、こちらこそ私なんかを取材してくださって……。でも、いいんですか?」

──いいんですか? とは?

「あ、いえ、その、私なんてそこまで目立った戦績も上げてないし、それに確かに巷じゃ一部で話題になってるかもしれませんけど、>それもあいつ合ってのものでしょうし……」

──構いません。むしろ、私は──、いえ、わたしたちはあなたの物語を聞きたいんです。オグリキャップの側にいたただのウマ娘としてのあなたではなく、トゥインクルシリーズを駆け抜けた”レスアンカーワン”としてのあなたの物語を。

「……。わかりました。そういうことでしたら喜んで協力させていただきます」

「私の──レスアンカーワンとしての物語をお話します」

 某日、私は中央トレセン学園に再びやって来た。女神像前の通りに植えられている桜には淡い桃色の花に混じって青々しい葉が繁っていた。ここを訪れるのは”芦毛の怪物”、そして”オグリギャル”について取材した時以来だ。
 あれからどれほどの時が経ったのだろうか。実際にはそれほど遠くの出来事ではないと頭では理解ってはいる。だが、それでも当時のことを思い返せばまるで遠くの景色を眺めるような気持ちになるのは、きっとそれだけ濃密な出来事があったからだろう。
 かつては限られた者だけが知るのみだった彼女も一躍話題のウマ娘になっていた。
 当時、私は彼女に接触し取材を申し込んだのだが残念ながら断られてしまっていた。彼女曰く「自分はまだ走っている途中だから」という理由だった。それでも、引退後なら取材を受けても良いといわれたのは幸いだったのだろう。
 かの芦毛の伝説が幕を下ろしてから一年と数ヶ月。彼女の物語も無事に大団円を迎えていた。ついに話を聞くことができる。ほかの誰かを介して見た彼女の物語でなく、彼女自身の口から語られる紛れもなく彼女自身の物語を。
 そう意識してからというもの、私は周囲に鳴り響いてるのではないかというくらい五月蝿く跳ねる心臓を抱えながらついにこの日を迎えたわけだ。
 逸る気持ちを抑えながら私は守衛の方に取材の用件を伝えると、彼は受話器を手に取って何処かに(おそらくは事務だろう)掛けた。
 二、三つほど言葉を交わすと暫く待つように言われる。言われるがまま待っていれば、校舎の方から見覚えのある緑のシルエットが目に入ってきた。トレセン学園理事長秘書を務める駿川たづな女史だった。彼女には以前こちらに取材させていただいた折にもお世話になった。
 私達は挨拶もそこそこに済ませるとさっそく彼女の元へと向かった。

 校舎の脇を抜けグラウンドへ向かう途中、新入生だろうか初々しさの残る幾人かの生徒たちとすれ違った。私は一歩前を歩く駿川女史に今の生徒たちのことを尋ねてみた。すると、彼女は笑みを浮かべて肯定する。
 そうかもうそんな時期だったか。彼女たちもまた己の才能とありったけの夢を糧にしてトゥインクルシリーズに挑むのだろう。かつての彼女と同じように。
 どうかその行く先が満足のいくものになりますように。私はひそかに胸の内で祈った。
 そうこうしているうちに視界が開け青々としたターフが目に入ってきた。
 観客席からグラウンドを見下ろしてみれば、授業の最中だったらしく幾つかのグループに分かれた生徒たちが教官たちに見守られながらそれぞれトレーニングに勤しんでいた。
 おそらく彼女たちもまた先ほどの娘たちと同じく今年入学してきた生徒たちだろう。真剣に走るその表情にあどけなさとわずかばかり緊張の色が浮かんでいた。
 それでもその走りはなかなかのものだ。さすが中央の生徒と思わずにはいられない力強さがあった。ふと、脇に視線を移せば早くから素質のある娘を見つけようとトレーナーたちが彼女たちの走りを見守っていた。すでに競争は始まっているのか。思わず舌を巻かずにはいられない。
 少しして、それぞれのグループが教官の号令を合図にコースの脇に整列した。生徒たちが去ったターフの上には二つのゲートが教官たちの手によって設置される。
 一体何が始まるのかとそのグループを注視していると教官の側に控えていた二人のウマ娘が教官と短く言葉を交わしたあとターフへと向かう。
 その姿を見て私は思わず息を漏らした。
 ――彼女だ。

 何度も追いかけた姿だ目を凝らさずともその姿を一目見て分かる。引退してからもあの頃と何ら変わらない何度も瞳に収めたあの姿だった。
 しかし、なぜ彼女がここに。そんな疑問を抱いていると、察してくれたのか隣に並んでいた駿川女史が彼女は引退後サポート科に編入したと説明してくれた。
 その話を聞いて私は納得した。確かに彼女にはうってつけの道だ。以前の取材の中にも彼女の周囲に対する気配りは私自身見事なものだと感じたし、実際サポートを受けたことのある周囲の評判も非常に高いものばかりだった。
 走ることこそ己の道と豪語してならなかった彼女も引退した後、新しい夢を見つけたということだろう。そのことが不思議と誇らしく感じる自分がいた。彼女ならサポート科においても十二分にその実力を発揮できることだろう。
 やがて彼女がゲートの前に立つ。私はかたわらの駿川女史と固唾を飲んでその光景を見守る。
 彼女の隣に並んで立つウマ娘。たしかブラッキーエールだったか。彼女もまた私にとって覚えのあるウマ娘だった。幾つかの重症を勝利し中央移籍直後の芦毛の怪物と対戦したこともある。彼女もまた私の取材に快く応じてくれたウマ娘だった。
 二人は僅かに言葉を交わすとゲート内へと進んでいく。

 ――ゲートイン完了。
 周囲に緊張が走る。新入生たちの強ばる様子が目に映る。その気持は私にも痛いほど分かる。ゲートが開かれるまでのこの僅かな時間に私はこれまでにどれ程の祈りを捧げてきたことか。自分が走るわけでもないというのにこの瞬間に立ち会った度、胃袋鷲掴みにされるような錯覚を覚える。眼下に並ぶ新入生諸君もきっと同じ思いを抱いていることだろう。
 静まり返るグラウンド。ターフを撫でる風の音だけが響く。
 今か今かとその時を待っていれば――機械的な音とともに二つの影がゲートから深緑の舞台へ飛び出した。
 湧き上がる黄色い歓声。

 正面を抜け第一コーナーにまず飛び込んだのはブラッキーエール。その背中を彼女が追いかける。差は1馬身以内といったところか。
 第二コーナーを抜け向正面に入ると状況は大きく動きを見せる。ブラッキーエールがテンポを上げてリードを拡げにかかった。一バ身、二バ身と拡がる差。
 こんなに差を拡げられてはたして平気なのか。心配になり私は思わず彼女の顔を伺ってしまった。
 そして安堵した。そこには平静さを保ったまま冷静に自分の走りをする彼女がいたからだ。
 相手がどんな走りをしようとも決して自らの走りを乱さず己の走りを貫く。それこそが彼女なのだから。
 以前、レース後のインタビューで彼女が言っていたことを思い出す。
「自分は誰かと競い合うほど緻密な作戦は組み立てることはできないし、単純な能力の競り合いも満足にできない。だから、ただひたすら自分の走りを貫くだけだ」と。
 まさしく、その通りの走りを――現役時代と変わらない彼女走りだった。
 やがて、彼女が最終コーナーの半ばに入る。前方のブラッキーエールとは四バ身の差。おまけに相手は既に最終直線に突入していた。

 ――間に合うのか。誰もが息を飲む。
 そして、彼女がもう間もなく最終直線に入ろうとしたその瞬間だった。
 ――彼女の体が前のめりに深く沈み込んだ。
 観客席からはどよめきが、ターフの新入生たちの間からは鋭く悲鳴が上がる。
 ――転倒か。
 彼女を知らない者が見たらそう思うのも無理はない。だが違う。
 彼女をよく知るものはきっと同じ思いを胸に抱いただろう。
 ――ああ、これだ。これこそが彼女の走りだ。
 最終コーナーを抜けるところで見せるこの姿。誰よりも怪物の側にいてその走りを見続けた。そして、誰しもが怪物と自分とは違うから――オグリキャップは特別だからと諦める中、ただ一人それをものにしてみせようとひたむきに挑み続けた。何度、理想と現実の板挟みになろうと決して諦めず自分なりの走りとして昇華させたその走り。
 これこそが彼女――”レスアンカーワン”の走りなのだ。
 ターフを強く蹴りながら大きなストライドで前へ前へと突き進む。
 理想とする”それ”とは程遠くともその力強さとスピードには目を見張るものがあった。
 残り400mの標識はとうに過ぎ去り残り300mに達したころ、四バ身あった彼女たちの差は今や二バ身にまで縮まっていた。
 残り200m。さらに縮まる差。歯をむき出しにして疾走る二人。
 残り100m。差は一バ身。
 ――あと少し。あと少しだ。
 自然、爪が手のひらに食い込むほどに握りしめる。

 そして、半バ身を切ったその瞬間――先頭を駆けていたブラッキーエールがゴールラインを駆け抜けた。
 ――負けた。
 その事実を突きつけられた瞬間、ふっと全身に漲っていた力が霧散していった。わずかに届かなかった。
 精一杯力を尽くしたのに負けてしまった。あくまでレースを見守っていた立場だとしてもこの光景だけは何度味わっても慣れないものだ。
 二人が駆け抜けた後、見学していた生徒たちの間から歓声が上がった。もちろん、二人の健闘を称えたものだ。
 ――彼女は大丈夫だろうか。
 そんな不安が胸を過り、私の視線を敗北した彼女へと向けさせた。
 だが、そんな心配は無用のものだとすぐに分かった。
 私の目に映ったのは晴れ渡るような笑顔を浮かべた彼女だった。全てを出し切ったかのような清々しさ。
 かつて、敗北に、自らの拙い走りに苦悩し顔を歪ませていた頃の彼女はもういなかった。
 そこにいたのは――ただ全身全霊でレースを楽しむウマ娘だった。
 自然、私は自分でも意識せず拍手を送っていた。
 何についてのものかは言うまでもないだろう。

 軽快なジャズが店内を彩る。ピアニストが鍵盤を叩く度に音がスピーカーから飛び出してあちらこちらを飛び回る。トレセン学園の近所にあったのに今まで立ち寄ったことがなかった喫茶店。たまたま目に入ったので利用してみたがなかなかいいお店だ。店長さんの曲選も悪くない。暖色の光が降り注ぐなか手元のカップに注がれたコーヒーから立ち上った湯気がすぐ上の景色を歪ませていた。
 近くの柱に吊るされた日めくりカレンダーが今日は9月4日だと告げる。暦で言えばもう秋口。私が幼かった頃ならそろそろ過ごしやすい気温になってもいい頃なのだが、昨今はそういうわけにもいかず相も変わらぬ蒸し暑さに毎日苦しめられていた。
 何気なく窓から外を見れば、帰宅途中の道行くサラリーマンがうんざりとした表情をぶら下げて忙しなく汗を拭っている様子が映る。そんな人達を脇目にクーラーの効いた室内で温かいコーヒーを飲むというのはちょっと乙なもん、というのは少々意地の悪い感想かもしれない。胸の内で反省しながらコーヒーを啜っていれば目の前の同僚が口を開いた。
「――てなわけで、案の定宿題に追われるやつが続出。最後の三日間はものの見事に勉強合宿ってなもんよ」
「やっぱり、この時期はどこもそうなるのね」
「あんだけ口酸っぱく宿題は早めに片付けるか、計画的にやっとけよって言ったんだがな」
「ま、あの年頃の娘には無理もないんじゃない? 青春真っ盛りなあの時期の夏なんて遊んでなんぼなとこあるでしょ」
「だからって遊びやらトレーニングにばっかり身を入れられても困るだろ? それで結局宿題に時間を費やしてちゃ元も子もないっつの」
「流石、現役時代にその地獄を味わった方のお言葉ね。説得力が違うわ」
「ぐっ!」
 言葉につまらせるとコーヒーを啜る彼女――ブラッキーエールの表情は苦々しい表情を浮かべている。

 お互いすでに現役を退いて長く、今となってはそれぞれチームのサブトレーナーと教官補佐として活躍していた。現役時代にはとある芦毛も交えてひと悶着あったものだがそれも過去のこと。現在では良き友人として互いに相談したり手助けしたり。まあ、持ちつ持たれつWin-Winの関係に落ち着いていた。
「そんなことは別にいいんだよ! それよりも最近どうなんだ?」
「……どうって?」
「決まってんだろ! あの田舎もんのお姫様とのこったよ!」
「――ああ、キャップのこと? って、なんであんたに話さなきゃいけないのよ」
「いいじゃねーか! 別に減るもんじゃなし」
「減るわよ!」
「何が?」
「主に私の羞恥心が」
 そこまで言って自分が失言をしたことに気がついた。顔を上げて相手を見れば、やっぱり嫌らしい笑みを浮かべていた。
「さっきのキャップ呼びと言い、相変わらずよろしくやってんのな。いや、お熱いことで」
「うっさい‼」
 ニヤニヤと勝ち誇った笑みを浮かべるブラッキーエールを他所に今度はこっちがコーヒーを啜った。苦々しい表情を浮かべていたのは言うまでもない。

それからいくつか会話を交わした後、お茶会はお開きとなった。ブラッキーに「送っていこうか?」と聞かれたけど、お互い明日明後日はせっかくの休みなんだから申し訳ないと思って断った。
 その帰り道。夕飯の買い出しをしようと近所のスーパーに向かっていると、ポケットの携帯が短く震えた。
 画面を見てみればアイツからだった。若干の期待を胸にLANEを開いてみれば『すまない。今日も遅くなる。夕飯は食べてくるから先に寝ててくれ』という短いメッセージ。
 ある程度わかっていた内容。開く前からなんとなく予想がついていたことだった。それでも僅かとはいえ今日こそはと期待していた分、落胆も大きかった。
 私は道の端に避けると大きく息を吐いて返事を送る。通りがかる何人かの視線を感じたけど気にしない。
『了解! 帰り道気をつけてね』
『本当にすまない』
 思わず苦笑してしまった。耳を垂らしながら泣きそうな顔で打ってるのが目に浮かぶ。私はもう一度大きく息を吐くと『大丈夫だって、それよりお仕事頑張ってね』と激励のメッセージを送ってやった。
 しかし、そうなると今日もまた夕飯は一人か。だったら今日はちょっと遅くなっちゃったし簡単なものでいいかもしれない。たまにはお惣菜で済ませてしまうのも悪くない。
 そう思ってスーパーに辿り着くなりお惣菜コーナーに向かうと、いくつか揚げ物やらカットサラダを手に取って籠に入れた。
 他に何か必要なものはなかったか。フラフラと店内の棚を物色しているとき“それ”が目に入った――いや、入ってしまった。

 誰もいない自宅に帰る。当然のことながら中は真っ暗だ。
 明かりをつけてダイニングテーブルに買い物した物を置くと手洗いうがいと着替えを済ませて椅子に腰を下ろした。
 そして袋の中から惣菜と“それ”を取り出した。
 何を隠そう“それ”とはすなわち“酒”である。
 完全に魔が差したとしか言いようがない。たまたま目に入った瞬間、最近失恋した同僚が『心に隙間風が吹いてるときはお酒で穴を塞ぐのよ』と声高に力説していたのを思い出してしまった。気がつけば缶チューハイを2本ほど籠に入れ、あれよあれよとレジを通していた。
 まあ、現状のところ絶賛隙間風が吹きまくってる訳ですし? 少しでも気持ちがマシになるなら酔っ払うのも悪くないんじゃないかしら?
 などと誰に対してでもなく言い訳を並べて、この余計な買い物を納得させると棚から皿を取り出して惣菜を盛り付けていく。
 ま、たまにはいいでしょ? こんなのも。
 温められてホカホカの惣菜を目の前にカシュっという軽快な音がひとりぼっちの食卓に鳴り響いた。

 結論から言えばお酒を飲んだのは大失敗だった。頭がふわふわするし、瞼は重いし、意識はぼやける。詰まるところ酔いに酔酔いどれ、すっかり酔っ払ってしまった。
 思えば1本目を飲んで平気だったのが罠だった。少しはお酒に強くなったと勘違いして2本目を開けてみればこの始末だ。
 視界はやけに揺れてるし、身体は浮かんでるみたいにふわふわと軽い。極めつけは頭の重さだ。まるで重しを括りつけられたみたいにずっしりとした感覚を覚える。おかげで姿勢を保つことができず右へ左へ体が揺れる。
 ふいに頭がかくんと前へ倒れた。
 ――あっ、これはマズイ。
 そう思うのも束の間私の身体は机に倒れ込んだ。幸い食器は片付けたあとだったから良かった。コトリという音とともに横になる視界。身体を起こそうとしてみたけどまるで縫いつけられたみたいに持ち上がりもしない。
 ――あー……。久しく飲んでなかったから忘れてたわ……。私、酒弱いんだった。
 他人事のように独りごちていると、不意に幕が降りてくるように視界が狭まってくる。
 ボーっとする頭で降りてきたのが瞼だと気づく。
 いけない……。まだ、食器も洗ってないし、風呂にも入ってない……。それに寝るならベッドに……。
 もう一度身体を起こそうとするけどやっぱり身体は持ち上がらない。
 机にもたれかかる身体に睡魔が覆い被さってゆくのを感じながら瞼が降り切る直前、アルコールに浸かりきった頭に浮かんだの照れたような笑みを浮かべた芦毛のあいつ。
 ――オグリに会いたいな。
 そうして、暗闇に沈み込むように私は意識を手放した。

 夢を見た。
 それも随分懐かしい夢だった。
 と言っても、わりかし最近の出来事だ。
 冬の季節。トレセン学園。すでにサブトレーナーになっていた私はその日の仕事を終わらせると、お馴染みの“あの中庭”にいた。冷え込む空気の中、辛抱強く誰かを待っていた。
 白い息を吐きながら冷える手を擦り合わせて待っていると、ようやくソイツはやってきた。
 月明かりを受けて輝く葦毛。他でもないムカつくアイツだ。
『すまない! 遅くなってしまった』
 息を切らせてやってきて、白い息混じりに謝ってくる。
『ホントよ! もう! こんな寒い日にこんなとこで待たせるなんて!』
「今来たとこ」なんてお約束は言ってやらない。少なくともあの時の私はアイツに妙な気遣いなんかしたくなかった。
 そのまま何度も謝ってくるオグリの手を引いて隣に座らせると、すっかりボサボサに乱れた髪を整えてやる。
 ちょこんと萎れる耳と正反対に手で梳かしてもらったのがそんなに嬉しいのか忙しなく暴れる尻尾。
『ほらマシになったわよ』
 そう言って手持ちの鏡で姿を見せてやれば心底嬉しそうに笑ってお礼を言ってくる。そして、お礼とばかりに缶コーヒーを奢ってくれる。
 そのまま、私たちは缶コーヒーで暖をとりながら並んで座った。
 他愛のない話が続いた。お互いの近況だったり、見所のある新人の話だったり、広報で出向いた先のご飯の話だったり。
 話しながら笑ったり、拗ねたり、慌てたり。

 しばらくして私が思い出しように口にした。
『そういえば話ってなんなの?』
 そう聞いてみればオグリは分かりやすくその身を固まらせてしまった。
 不審に思っていればぎこちなく『ああ、うん』だの『えっとその』だの要領を得ない。視線と一緒に話の内容まで明後日に飛んでいくし。
 いつまで経っても答えないオグリに業を煮やした私は両手でオグリの顔をガッチリ掴むと目を合わせて早く答えるよう促した。
 当のオグリはほっぺたを潰されてなんとも滑稽な顔になっていたが、視線を合わせていれば驚愕の色はすぐに消え決意がその目に浮かんできた。
 踏ん切りがついたのか自分の手を私の手に重ねて顔から剥がしたかと思えばそのまま私の手を優しく覆う。
『大事な話があるんだ』
 いつになく真剣な表情なオグリに思わず胸が高鳴りを覚えた。視線も動かすことができない。だから気づけた。オグリの目にわずかばかり動揺の色や恐れが見えた。
 こんな状況で相手のこんな仕草を見て、ある一つのことが頭に浮かぶ。
 いや、オグリだぞ。そんなことあるか。と、否定してみるが頭の片隅にそれはしぶとく居座り続けた。
 頭の中でけたたましく警報が鳴り響くなか、オグリが大きく深呼吸する。
『受け取ってもらいたい物がある』
 そう言って重ねていた片手を上着のポケットから何かを取り出して私の手のひらに置いた。

 その時の感触は今でも覚えている。冷気の中にあったからか少し冷たくてギザギザした物が手のひららに当たっていた。
 恐る恐る覗き込んでみれば、そこに会ったのは一つの鍵。
『――これは?』
 短く尋ねてみると視線を泳がせすっかり朱に染まった頬をかきながらオグリが言った。
『アパートの部屋の鍵だ』
 オグリが言うにはトレセン学園から近く通いやすいところのものらしい。
『でも、なんで?』
 正直言ってこの問は我ながら意地悪だとおもう。だって答えはもう分かりきっているんだから。
 ――それでもやっぱり聞きたい。
 ――オグリの口から直接言って欲しい。
 そんな思いが自然私を意地悪にした。
 言われた本人はまた口篭らせたり視線を泳がせたり。
 でも、すぐに呼吸を整えると急に現役時代を思い出す武者震い。おまけに中庭中に響くほど強く自分のほっぺを張った。
 ――痛さで少し蹲ってたけど。
 向き直ってオグリは言う。揺らぎのない真剣な眼差しで。
『イチ』
『はい』
『――私と一緒に暮らしてほしい』

 言った。言ってくれた。胸のうちから喜びと興奮が吹き出してくる。
 ――それなのに。私はそれを表に出すことができない。
 それどころか視線を逸しそっぽを向いて言う。
『……いいの? 私なんかで』
 せっかくオグリが勇気を出してくれたのに。なんで私は素直になれないのか。胸中で自らを苛んだ。
 オグリは黙ったままじっと私の言葉を聞いていた。
『私なんかと一緒にいたら一生憎まれ口が絶えないわよ?』
『いいさ。だから、私は背筋が伸びる』
『私、あんたの思っている以上に重い女よ?』
『だから、私はその場に踏み止まれるんだ』
『あんたが情けないところ見せるたびに蹴飛ばすかもよ?』
『おかげでこれまで何度も前に進んでいけた』
 いつの間にか私はオグリの顔を見ていた。怯えも、焦りも、苛立ちもない。私の言葉を一つ一つ受け止めてくれる。優しく微笑んで私を見てくれる。
 ――私好きなオグリがそこにいた。
『――いいの? 私があんたの隣りにいて』
『ああ、イチじゃなきゃ嫌だ』
 言い切った。そして再び私の手を取って言う。
『イチと一緒にいたいんだ!』
 頬が濡れる。雨なんか降っていないのに。心なしか温かい。
 顔が暑くなる。周囲は遅い時間にもなってかなり冷え込んでるはずなのに。
 顔が動かせなくなる。ほんとはこんな情けない姿をこいつに一番見せたくないのに。
『ほんと……、ほんとにバカなんだから……』
 意識する間もなく、私は涙で顔をぐしゃぐしゃにしたままオグリの胸に飛び込んでいた。

 一連のシーンが終わって唐突に周囲が真っ暗になった。一歩先すら見えぬ闇の中。目が覚めたのかと一瞬思ったがすぐにこれはまだ夢の途中だと気がついた。
 なにせこんな闇の中だというのに自分の身体だけははっきりと見えていたからだ。
 あらためて周囲を見る。やはりなにも見えない。それだけじゃない。なにも聞こえない。ひとりぼっち。
 不意に寒気が襲ってきた。寒い。酷く寒い。
 胸の内は孤独ということを認識してしまったからか、寂寥感と恐怖が湧き上がってくる。思わず胸を胸を抑える。
 さっきまで暖かな夢を見ていた反動なのか、それらの感情は波のように何度も押し寄せてくるし、大雪のように容赦なく降り積もる。
 ひとりぼっちの恐ろしさに耐えかねて辺りを見渡す。
 今一番いて欲しい人がいない。
 一番側についていて欲しい人がいない。

「オグリ……」
 絞り出すようにその名を呟く。しかし、その声は暗闇に吸い込まれる。たまらずにもう一度震える声色で呟く。
「オグリ……!」
 胸の痛みは増していき耐えきれずに蹲る。
 知らなかった。自分がこんなに弱かったなんて。
 改めて思い知った。自分にとってオグリがこれほど大きな存在だったなんて。
 そして、初めて知った。当たり前のように一緒にいた人がわずかばかり会えなくなるだけでこんなに痛みを覚えるものだったなんて。
 ギュッと目をつぶって痛む胸を強く抑えながらこぼれ出たのは――。
「会いたいよ……」
 心からの言葉だった。

『――イチ』
 オグリに会いたいと一心に思い続けていたせいか、ついに幻聴まで聞こえてきた。
『――イチ』
 まただ。また、聞こえた。今度はやけに鮮明に。
『イチ』
 三度目の声が聞こえたとき、プカリと身体が浮かぶ感覚を覚えた。
 身体はそのまま上へ上へと上がっていく。まるでシャボン玉か水面へと向かう水泡のように。
 不意に目の前に小さな光が見えた。
 その光に向かって身体は進んでいく。進んでいくたびにその光は近づいて大きさを増す。
 不意に私は気づいた。
 ――ああ、夢から覚めるんだ。
 視界が真っ白な光に包まれた。

「イチ」
 目が覚めたとき真っ先に見えたのは私の顔を覗き込んでいるオグリだった。
 微睡のなかぼやける頭でようやく思い出す。そうだ、お酒飲んで私寝ちゃったんだ。目の前には横倒しになった空き缶とすっかり緩くなった缶チューハイが鎮座していた。
「こんなところで寝ていたら風邪ひいてしまう――って、イチ!? お酒飲んだのか!?」
 オグリが机に並んだアルコール類を見て驚愕の声を上げる。
 普段、家でもなかなか飲まないんだからさぞかし驚いてることだろう。
「……何か嫌なことでもあったのか?」
 オグリに不安気な顔で尋ねられて思いを巡らせていくうちに頭にかかった靄が少しずつ薄れていく。
 そして、靄が薄れるうちに私は朧げながらも夢の内容を思い出した。
「私でよければ話を聞こ――」
 私は有無を言わせずオグリの胸元に飛び込んでいた。

「うわっ!? い、イチ!?」
 急に飛びつかれたせいで尻餅をつくオグリ。
 抱きついて顔を埋めているせいでオグリの表情は見えない。
 声色から驚きと慌てていることだけわかる。
「急にこんなことしてくるなんて酔っ払ってるのか!?」
 だけど、それもすぐに怪訝そうな声に変わる。「イチ?」と恐る恐る聞いてくるけど私は顔を上げない。体を震わせているだけ。
 ああ、もう最悪。こんな情けない姿晒すなんて。さらに何が情けないって涙まで流してんだもん。
 酔いから覚めた僅かばかりの理性が今の自分を呆れまじりに非難する。情けない。でも、体と心はそれを無視した。

「――みしかった……」
「え?」
「寂しかった」
 オグリが息を呑んだ。言葉は出ない。
 私の口からはなおも言葉が溢れてしまう。
「やっと……、やっと一緒になれたのに……。なかなか一緒に居られなくて……。ご飯だって一緒に食べられなくて……。私……私――」
 涙が止まらない。じわりじわりと滲み出るように顔を押し付けたオグリの胸元を濡らしていく。
 もはや取り繕うことすらしない。私は幼子みたいに体の震えを抑えることもせず、ただただ啜り泣いた。
 そんな私の手にじわりと暖かな感触が触れる。オグリの両手だった。
「すまない」
 違う。違うの。オグリに謝らせたかったんじゃないのに。罪悪感を募らせる私の背を優しく撫でながらオグリは言った。

「イチ、明日は休みか?」
 私は顔を上げた。そこには優しい笑みを湛えたオグリ。
「ようやく山場を乗り越えて私も休めることになったんだ。しばらくはゆっくりできると思う。だから――」
 オグリが指で私の涙を拭った。
「明日は二人で過ごさないか? 久しぶりにゆっくり話がしたい。イチと一緒に」
 そう言ってニッコリと優しく微笑むオグリ。それは紛れもなくあの夢で見た――私が大好きなオグリの表情だった。
 ずるい。本当にこいつはずるいやつだ。
 いつも天然で抜けたところがあってドジばっかするくせに、こっちが本当に欲しいときに欲しい言葉を投げかけてくれる。して欲しいことをしてくれる。
 私は返事をするかわりにオグリの首元に抱きついた。

 窓から暖かな光が降り注ぐ。小鳥達が朝食を求めてけたたましく飛び回る朝。私は絶賛身の丈に合わぬ振る舞いの報いを受けていた。二日酔いである。
 頭は締めつける痛さと内側から打ち破ろうとノックするような痛みが絶えないし、胃袋では中に何かが忙しなくぐるぐるぐるぐる動き回る。おまけに目が乾いて仕方がない。
 しかも何が最悪かって私が酔っ払っても記憶はしっかりと残るタイプだったってことだ。
 昨日の醜態だけでも赤面ものなのに、それに加えてオグリの親切に甘えて歯磨きも手伝ってもらったし、一緒にお風呂にも入った。終いには久しぶりにオグリに抱きついて寝て――。
 そこまで思いまして私は頭を抱えて天を仰ぎ、思いっきり叫びたい衝動に駆られた。
 まあ、実際には天を仰いだあたりで頭痛が勢いよく襲いかかってきてそのまま枕に向かって仰向けに倒れたわけだが。
 それでも、天井を仰ぎながら昨日のオグリの言葉を反芻する。忙しくなっても、すれ違う日々が続いてもオグリは変わらなかった。その事実で頬が緩む。
 ――嬉しい。
 そんな言葉がすんなり胸に抱けるくらいには胸のつっかえは取れていた。
 いかんいかん。絆されすぎだぞ。慌てて緩んだ頬を揉んで表情を直していれば、何やら馴染み深い落ち着く香りが鼻腔をくすぐった。
 これは――お味噌の香りだ。
 しかし、窓は閉まってるし、私はこの通りだし一体誰が……。思考を巡らせていると扉を叩く音が聞こえる。

「イチ。起きてるか」
 オグリの声だった。オグリが休みの日にこんな早起きするなんて珍しい。普段は寝ぼけ眼のオグリを引っ張ってダイニングに連れていくのが常だったのに。
 といっても、それも最近すっかりご無沙汰だったわけだが。
 ともあれ、オグリに起こしてもらえるという新鮮な出来事に少し胸を>ときめかせながら返事をする。
「う、うん。どうにか起きてる……」
 ひどい声だった。まるで弱りきったカエル。声を出して自分が二日酔いに苦しんでいたことを思い出し、再び頭痛に苛まれる。
 ギュッ目を瞑ってこめかみを抑えていると、扉を開けてオグリが入ってくる。
 ――見慣れぬエプロン姿でだ。
 思わず呆気に取られ頭痛のこともすっかり頭から抜け落ちる私の鼻腔をまたも味噌の風味がくすぐった。今度はかなり強めに。
 自然、視線を味噌の香りの漂う方へと追っていってその出処に気がつく。オグリが手にしたお盆の上に出来立てだと言わんばかりに湯気を立ち上らせたお味噌汁があった。
「やっぱりまだ辛そうだな」
 苦笑しながら扉を閉め、味噌汁を落とさないよう慎重にベッドへ寄ってくる。
 そのままベッドに腰をかけると「食欲はあるか?」と聞きながら私に味噌汁を差し出した。

「しじみの味噌汁だ。クリークに二日酔いに効く料理はないかと聞いたらこれを教えてくれてな」
 楽しげに話すオグリをよそに味噌汁を手に取る。
 私の醜態がクリークさんにまで伝わったのかとかオグリが料理したことへの驚きとかそういったことはすっかりどうでもよくて、オグリが私に朝食を振る舞ってくれたことがすごく嬉しくて、私は湯気の立つ味噌汁を見つめていた。
 わずかに時間が過ぎたころ、おずおずとオグリが心配そうな声で「あの……、イチ……?」とこちらを伺ってきた。
 ぼんやりとオグリの顔を見れば緊張した面持ちで「その、口に合えばいいんだが」と心細そうにつぶやく。
 そんな仕草に思わず笑みを零して味噌汁を一口すする。
 おいしい……。お出しのコクとお味噌のやさしい塩加減が喉を通って体中に染み渡っていく。心なしか寒気を感じていた体が温まる。
「おいしい」
 私は思ってたことを素直に口にした。本当にそれ以外思い浮かばないほど美味しかった。
 それを聞いたオグリといえば「本当か!」と喜色満面になり耳や尻尾がうるさいくらいに揺れていた。その仕草に、どれほど心配していたかが伺えてわたしは思わず笑ってしまった。
 やがて、私が味噌汁を平らげるのを見届けるとオグリが「起きれるか?」と聞いてきたので「大丈夫」と短く答えてオグリの手を借りてまだ気怠さの残る体を起き上がらせた。

 オグリに支えられてたどり着いたダイニングで私が目にしたものは、テーブルの上に置かれた料理だった。
 形の歪んだおにぎり、少し焦げの目立つ卵焼き、盛大に破裂したウインナー。
 チラリと横目にオグリを見ると、恥ずかしそうに頬をかきながらそっぽを向いていた。
「すまない。料理はできる方なんだが、その……。しばらくやってなかったせいか色々失敗してしまって……」
 私は思わず声を上げて笑ってしまった。心底申し訳なさそうに耳が垂れているのが可笑しくて。
「むっ。そんなに笑うことはないじゃないか」
「ごめんごめん。ほら、早く席に着きましょ! もう、お腹減っちゃった」
 2人でテーブルを囲う。目の前には温かな朝食。そして、大好きなオグリ。
 ――ああ、帰ってきた。何気ない日常が。
「オグリ」
「ん?」
「ありがとね」
「――どういたしまして!」
 秋口のいくらか弱った日差しが照らすダイニング。
 2人分の「いただきます」が響き渡った。

~Fin~
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