目次
Part54
一つ目
イチちゃんもモニちゃんも想い人にだらしない格好は見せたくないからね
必死こいてダイエットに勤しむんだ
で、無理なダイエットして想い人に心配かけて叱られるまでがセットなんだ
でも一番二人の心に堪えたのはクリークのお叱り
やっぱりママに叱られるのが一番心にくるんだよね
涙ながらに怒られて正座しながらシュンとする二人が目に浮かぶんだ
二つ目
梅干し入りのおにぎりを頬張るオグリ そして次から次へと握っていくイチ 通りがかったモニが一つご相伴に預かる
まじまじと頬張った梅おにぎりを眺めていればトレセン学園に受験したときのことが頭に浮かんだ
親に反発しながら受験したトレセン学園 当然勉強量が半端じゃなかった
お腹がくうくうなるのも無視して頭に詰め込まなきゃ間に合わない そうして空腹に悩まされながら机に向かっていると扉をたたく音
扉を開けてみると部屋の前にお盆に乗った梅おにぎりと麦茶 なんだかんだ応援してくれていた両親からの差し入れだった。
──なんて受験当時の苦労を思い出しながら親友が作ってくれたおにぎりを頬張るのだった
三つ目
「も、モニちゃん!! はよ起きてや!!」
「やー あと五分~……」
「いや、首キまってんねん!!!! 五分もあったら腕ん中のか弱い命が失われんねん!!」
「……」
「モニちゃん?」
「……zzz」
「あかんて!!?? 起きなアカンて!! 誰かあああああ!!」
「モニー 起きてる~?」
「い、イチちゃん いいとこに来てくれたな!! 悪いんやけどこの娘どうにかしてくれ!!」
「……」
「い、イチちゃん?」
「あー、うん。ごゆっくりどうぞ~」
「イチちゃん!!?? イチちゃああああん!!??」
四つ目
寒い日にはおでんがいい そう思いたったらイチちゃんはおでんを作る準備に取り掛かる
具材は何がいいかしら 定番のこんにゃく 食べ応えのあるちくわぶ 煮卵もいいな 少しクセのある昆布も美味しい
ひとしきり考えたあと折角ならみんなの好きなものを入れようとみんなに聞きにいく
そしたらあれよあれよと皆が皆好き勝手に具材を入れるもんだからおでんを通り越してすっかり闇鍋状態に
頭を抱えてふと横に目を向ければ目を輝かせて待てに努めるオグリの姿
一つため息を吐くと箸を手に取りみんなで鍋を楽しんだとさ
五つ目
この季節といったら温泉がいい
といっても気軽に地方の旅館に行けるわけもないので近所のスーパー銭湯
サウナに入ってのぼせるベリちゃん
電気風呂に表情を目まぐるしく変化させるグリちゃん
寝風呂に浸かっていたけど途中で寒くなって湯船に浸かりなおすモニちゃん
体重計が目に入って試しに乗るも表示された数値を見て固まるイチちゃん
それを後ろから見て「大丈夫だ どんなイチも可愛いぞ」とズレたことを言って怒られるオグリ
なお満更でもなかった模様
六つ目
ベリ「そうですわ!! 節分ならあの骨ウマ娘に吠え面をかかせられますわね!! ふふふ、そうと決まればどうやって彼女に鬼の格好をさせましょうか──」
グリ「はい、ベリ。これ被って」
ベリ「むぎゅッ! ちょっと!? 人が一生懸命考え事してるのに邪魔しないくださる!? というかいったい何を被せて……って角?」
グリ「みんなー! ベリが鬼役やってくれるってー!!」
ベリ「は、はあッ!!??」
クラスメイト1「まじで!?」
クラスメイト2「よーし! そうと決まれば」
ベリ「ちょちょちょ、ちょっと皆さん!!??」
「「鬼はー外ー!!!!」」
ベリ「みぎゃあああああああああぁぁぁ!?」
みたいな?
七つ目
すっかり日が隠れたトレセン学園 時計の針は八時を指している
もうとっくに夕飯を済ませていてもおかしくない時間だが今日はそうもいかない
今日は急なことだがなんと食堂がお休みなのだ
今日ばっかりは外に外食しにいく娘も多い
そんな中、私といえば自室でスマホをいじっているうちにすっかりこんな時間になってしまった
今更、外に食べに出るわけにもいかないし何なら弁当を買いに出るのもすっかり億劫だ
それでも何かを食べなければさっきから喧しくなり続けている腹の虫が収まらない
ああ、こんな時に彼女がいてくれれば……
そのな頼みの綱な同室の娘はこれまた今日に限っていないのだ
仕方なくスマホをポケットに収めると寮のダイニングへ向かった
ダイニングにたどり着いてなにか食べるものがないかと冷蔵庫を開けてみたが時すでに遅し
私と同じような娘が他にもいたようで中はすっかり伽藍洞 こういうときのための作りおきは根こそぎ持ってかれていた
それでも何かないかと探ってみればまともにあったのは無駄に種類豊富な調味料と使いかけの野菜類、賞味期限が切れかかった豆腐がせいぜいだった
天井を眺めてしばらく声にもならない声でうめいていたがここまできたらええいままよ
決意を固めた私は冷蔵庫からキャベツと味噌と豆腐に玉ねぎを取り出してキッチンに向き直った
まずは野菜を軽く水洗いしてキャベツは細めに短冊切り、半分残っていた玉ねぎは根っこと芽の部分を切り落として輪切りにした
お鍋に水を張って火にかける 少し煮立ったくらいで和風だしを入れてキャベツと玉ねぎを投入
グツグツ煮込む姿はまるで魔女の鍋 しんなりしてきたあたりで豆腐を手に取り手のひらを切らないように慎重に刃をいれる
……何度やってもこの工程だけは怖くて仕方がない 同室のあの娘はよくもまあ手早くできるもんだ 感心する
無事に一口大に等分できたらそのまま鍋に入れて火を強める
激しく沸騰させたら火を止めて味を確かめながら味噌を溶く
お好みの味が出たら火を止めて御椀によそってはい完成
あまりもんのズボラ味噌汁の出来上がり
ついでにご飯と漬物を添えてテーブルに運ぶとスマホでパシャリ
遠出している親友に送ってやった
我ながら良く出来てるじゃないか、なんて感想を抱いていれば震えるスマホ
画面に浮かんだあいつからの返事
『もうちょっと彩りとか栄養とか考えなさいよ!!』
画面を眺める私の口端からくすりと苦笑が漏れたとさ
Part55
一つ目
そういえば今年の恵方巻きはかなり値上がりしてるみたいね
モニ「恵方巻き高っか……。自分で作った方が安いじゃん」
そう思って自分で作ろうとは思ったが中に入れる具材で思い悩む
悩みに悩み抜いて──面倒だから胡瓜だけでいいか
イチ「アンタそれじゃただのカッパ巻きじゃないッ!!」
モニ「いやでも、こうでもしないとタマ先輩遠慮して食べないし」
イチ「ぐっ、叱り辛いこと言いおってからに……」
オグリ「そうなのか? タマ」
タマ「いや、確かにあんま豪華なのは遠慮するけど延々と胡瓜はうちかて辛いわ」
二つ目
クリーク「あら~ これは立派な鬼さんですね」
ベリ「GYAO!! ワルイコハタベチャウゾ!!」
イナリ「……そりゃナマハゲじゃないかい?」
クリーク「ま、まあ似たようなものですし……」
イチ「? どしたのモニー?」
モニ「いや、あたしもあんな感じにしとけばよかったんじゃって今更羞恥心が……」
イチ「あー 去年のはだいぶ攻めてたものねえ……」
三つ目
料理なんて非効率的 とりあえず空腹感満たせりゃいいじゃん なんであんな手間かけんのよ
そんなふうに思ってた
でも今は──
「あんがとなモニちゃん!! 今日も最高に美味かったで!!」
あの笑顔を見れるなら多少の手間も悪くない
みたいな?
Part56
一つ目
いつも通りお弁当やら夜食の材料を買いにスーパーに来たイチちゃん
入り口入って目についたのは目の前に時期が迫ったバレンタインフェアといささか気が早い気がするお雛様コーナー
お雛様と聞いて自分の家に飾ったお雛様を思い出し懐かしさを覚えた
かと思っていたらイチママからSNSで画像が送られてきた
開いてみるとそこには記憶よりは少し古ぼけているが昔と変わらぬお雛様の姿があった
少し暖かい気持ちになったイチちゃんだった
二つ目
喫茶マンハッタンでお茶するタマモニイナリ
テレビに映ったひな祭り特集 数万体のお雛様が飾られていた
モニ「はあー……。ご当地ものも含めてよくまあこんなに集めたなあ……」
イナリ「みんなが寝静まった夜中に動き出したりしてな」
タマ「やめーや! んな物騒なこと言うなやお化け苦手のくせに」
イナリ「な、なにおう!? お前さんだって怖がりじゃねえか!!」
モニ「あーもう、よしましょうよ。みっともない」
カフェ「……? どうしたの? ──え? 何体か本物がいる……?」
三つ目
まだ肌寒い今日このごろ 府中の河川敷 土手を歩けば北風が匂いを運んでくる
冷たさを思わせる川の香り 生命力を感じさせる青臭い草の香り どこか香ばしさと瑞々しさを感じさせる土の香り
ふと目についた小さな黄色 道端にしゃがみ込んでその姿を見る 5つの花弁を精一杯に広げるカタバミだった
こんな冬のさなかでも小さくとも花は咲く そのことが何故か知らないが無性に嬉しくかった
笑顔を浮かべながら見守っていればどこから甘くて香ばしい香り
醤油を垂らした人参焼きの屋台が見えた
お腹が派手に鳴る 口の中によだれがジワリ
おサイフを握りしめてたまらず駆け出すグリちゃんだった
四つ目
【イチちゃんのちょっと悲しい思い出】
子供の頃、両親に連れられてちょっとした料亭に行った幼いイチちゃん
入口入ってすぐに目についたのは大きな水槽とその中を我が物顔で泳ぐ一匹の名も知らぬ魚
席につき注文を一通りして暫く待つとテーブルに出された白身魚のお刺身
これがあまりに美味しくて目を輝かせる 美味しさのあまり声が出せないくらいだ
そのときふと水槽に目が行った いや行ってしまったのだ
目に映ったのは空っぽになった水槽 チューブから虚しく泡が漂うばかり
──まさかいま口にしたのは……
悲しい気もちになってしまったイチちゃんなのでした
(最近、実際にあってすごくわびしい気持ちになった)
五つ目
ああ、神様 あたしという人間はどこに行けばいい
そんなどうしようもないポエムな感情を抱いて糸切れ風船の如く私は宙に浮かんでは右へ左へ流された
両親からは才能があるからとあれこれと様々な習い事をさせられた
でも、当の本人たるあたしからすればそれは檻だった
一人を際限なく閉じ込める檻
そんなのが嫌で実家を飛び出したどり着いたのがトレセン学園
初めて顔を合わせる他の娘たちと曖昧な挨拶を交わしながら私は自室へ向かう
正直、今となってはどんな挨拶を交わしたか覚えてない
なんなら当時の寮長の言葉はおろかその顔さえおぼろげだ
でも、一つ確かなのはその日私は運命にであった
自室の扉を開いたその日、あの娘に出会った
「は、はじめまして! 私、レスアンカーワンって言います!! これからよろしくお願いします!!」
私の中で時計の針が進む音がした
Part57
一つ目
喉に痛みを覚えるイチちゃん
喉風邪を患ってしまい声を出すのも辛い
周囲の人が気を使って何か頼まれごとを引き受けようとするもの声が出せないために上手くいかない
ただ、オグリだけはイチちゃんが何か言おうとする前にしたいことをしてくれる
周囲がなんでそんなにわかるの?と聞くと イチのことならなんでも知ってるからと胸を張って自慢するオグリさん
すぐそばで生温かい視線を浴びながら真っ赤に茹で上がるイチちゃんなのでした
二つ目
まだイチちゃんがオグリと出会ってそれほど経っていない頃のお話
夏合宿の夜温泉に浸かるオグリとイチちゃん
謎にオグリに対抗意識を向けていたイチちゃんは気持ちよく湯船に浸かるオグリと我慢比べに興じる
イチちゃんが顔に赤みが差した頃
オグリさん 依然極楽
イチちゃんの顔が真っ赤になった頃
オグリさん 未だ夢心地 ついにはイチちゃんに楽しげに声をかける
イチちゃんがもう限界と頭によぎった頃
オグリさん イチちゃんが流石に心配になる
結局 最後はすっかりのぼせたイチちゃんを冷や汗かいたオグリが慌ててかついで外に連れ出したとさ
Part58
一つ目
普段カロリーメイトとかで食事を済ませていたモニちゃん
流石にイチちゃんに叱られる
しかしそんな手の込んだ料理とか面倒っちくてエンガチョなモニちゃん
そこで思いついたのが野菜スティック きゅうりや人参、パプリカにキャベツ 色とりどりな野菜を自分好みのディップソースにつけて食べる
これが意外と上手くいった 小腹が空いたときに最適なのだ
これなら文句ないでしょ? とイチちゃんに言えばやれやれと言わんばかりに認めるイチちゃん
数日後、野菜をわざわざカットするのが面倒になり人参を丸かじりしてるモニちゃんの姿が
Part59
一つ目
最近イチちゃんの手が綺麗になったという噂がチラホラたった
実際モニーがイチちゃんの手をふざけて触って驚き思わず撫でてしまったほどである
真相は結局聞き出せなかったが、夕飯も済んだ頃、夜な夜なイチちゃんが寮のキッチンに足繁く通っているらしい
美肌に興味が尽きないウマ娘たちがコソコソ後をつけて覗き込めば、アキュばあばと楽しそうに談笑しながらぬか床を掻き回すイチちゃんの姿があったとさ
それからしばらくトレセン生の間で糠漬けブームが起きたとか起きなかったとか