妖怪の山の春水晶を獲得してから、数日が経った朝。
フランはいつも通り壁を破壊して寺子屋へと向かう。
日傘をさして空を飛び、霧の湖と魔法の森を越えて人里に下りる。
「よっす!」
町中を歩くと、ナランチャと合流した。
「おはようナランチャ」
フランとナランチャは挨拶を交わし、並んで歩く。
寺子屋へ向かう道の途中、空から紙が降ってきた。
「ん? 何だこりゃ」
ナランチャは宙を舞う紙の一枚を掴みとる。
紙は、『文々。新聞』だった。
2人は新聞を広げて、一面を見る。
―――――
“幻想郷春一番争奪戦、ついに最終局面へ”
先日、幻想郷春一番争奪戦において『博霊神社』が『白玉楼』に勝利。
また、『紅魔館』も『妖怪の山』に勝利しており、近いうちに『紅魔館』と『博霊神社』の対決が始まると予想される。
「賭け予想表」
紅魔館 2.5倍
博霊神社 1.8倍
―――――
2人は新聞をこの部分まで読んで投げ捨てた。
「いよいよ、だな」
ナランチャはフランと顔を見合わせた。
「うん」
フランは策士の笑みを浮かべる。
寺子屋の正門前でチルノと合流し、運動場の桜を眺める。
まだ春が訪れていない桜は、蕾を付けて春の訪れを待っている。
「ふっふっふ……私たちの計画は、ついに最終段階へと入ったわ……」
蕾を膨らませた桜を前ににやけ顔を隠せないフラン。
「あたい達のコンビネーションを見せつける時ね」
チルノもにやにやと桜を見つめている。
ナランチャも桜を見つめて、これから自分たちがやる事を思いうけべてにやにやする。
そんな三人の背後に立つ男が一人。
「3人とも、こんな所で何やってるんだ? 遅刻するぞ?」
「「「うおう!」」」」
突然話しかけられた三人はびっくりして振り返った。
寺子屋で先生をしているフーゴだった。
「ああ、三人とも桜を眺めてたのか。僕もナランチャも桜を見るのは初めてだな。咲くのが待ち遠しいよ。さ、早く校舎に入らないと叱られるぞ」
フーゴは蕾が付いた桜を一通り眺めると、フランたちを校舎に入るように急かす。
「桜……ね」
フランたちの背中を見送ると、フーゴは再び桜の蕾に視線を向けた。
寺子屋のベルが鳴り、放課後が始まる。
窓を開けて、フラン、チルノ、ナランチャは空へと飛び出した。
「こらー! ちゃんと玄関からでなさーい!」
慧音の怒鳴り声に振り返らない3人。
雲を切り、風を裂いて3人は紅魔館へと向かう。
途中の霧の湖で大妖精を誘い、紅魔館の正門前に降りる。
「ただいまー」
「お帰りなさいませ、フラン様」
門の前ではいつも通り美鈴が立って門番をしている。
「「「「おじゃましまーす!」」」
フランに続いてチルノ、ナランチャ、大妖精は紅魔館の中へと入っていく。
玄関から入って、地下へ続く階段を駆け下りる。
“走るな”と張り紙が貼ってある廊下を走って通り過ぎ、図書館からフランの部屋に入る。
全員が部屋に入ると、フランは急いでカギをかけた。
「今夜には戦いが始まるって姉様が言ってたわ。作戦のおさらいをするわよ」
3人は鞄からノートとペンを取り出す。
大妖精だけはノートを持っていなかったのでチルノのノートを見せてもらうことにする。
「まずは今夜、戦いが始まったらナランチャとチルノは交戦を行わず、紅魔館にある3つの『春水晶』を持って霧の湖の対岸にある『博霊神社』側の本陣を避ける形で人里に向かうわ」
フランは壁に紅魔館周辺の地図を張り出す。
紅魔館の前には霧の湖。湖を挟む形で紅魔館と『博霊神社本陣』は向かい合い、『本陣』の奥に人里が位置している。
――――
“紅魔館――湖――『博霊神社本陣』――人里”
――――
「つまり、こういう形で移動することになるわね」
フランはペンで地図にチルノとナランチャの通るルートを書き足す。
――――
“紅魔館――湖――『博麗神社本陣』――人里”
↓ ↑
→―――逃走経路(森)―――――――→↑
――――
「森って言っても『魔法の森』じゃないから、危険は少ないと思うわ」
フランの解説を聞いて、チルノとナランチャの2人はメモを取る。
「俺たちが人里へ向かうとして、『博霊神社』側の『春水晶』はどうすんだ?」
ペンを走らせながら、ナランチャはフランに質問した。
「『博霊神社』側の『春水晶』は、破壊するわ。このことについて疑問は?」
フランの答えに、異論を唱える者はいなかった。
もし『博霊神社』側の『春水晶』を『紅魔館』側に渡ったら、『リリーホワイト』が『人里』ではなく『紅魔館』へ向かう可能性があるからだ。
そのことはチルノでもわかっている。
「他には、香霖堂で買った通信機を持っていないとね」
フランそう言ってポケットから通信機を取り出す。
チルノも、ナランチャもポケットから通信機を出して見せた。
「電池は十分だな」
ナランチャは通信機のボタンを押して通信機の具合を確かめる。
「故障もしてねーみたいだし、大丈夫みたいだな」
ガラス細工の時計は7時を指している。
「そろそろ夕食ね。ナランチャはフーゴ先生に夜遅くなるって話した?」
時計を見たフランはナランチャに質問する。
ナランチャはうなづいた。
「でも最近夜に外出してばっかりだからフーゴの奴心配してんだよなぁ~」
「まあまあ。夜に外出するのは今夜が最後になるから。張り切っていこー!」
咲夜が部屋に来て作戦がばれる前に、フランは扉を開いた。
チルノとナランチャは春水晶をポケットにおさめて部屋から出る。
図書館に乱立する本の谷を抜けて、図書館の扉を開く。
ろうそくが並ぶ廊下を歩いて、階段を上ってエントランスホールへ出る。
「あら? フラン様にご友人方。どちらに行かれるのですか?」
エントランスホールに出ると、料理を載せた台車を押している咲夜がいた。
「もうそろそろ会食の時間だからたまには咲夜が呼びに来る前に来てみようかな~って」
フランは微笑んで答えた。
「それでしたら食堂の方ではなく、お庭の方にお越しください。今夜はそこで会食をしようかと思います」
咲夜も微笑んで答え、エントランスのドアを開く。
「もうそろそろ会食が始まりますよ。メインディッシュはロールキャベツでございます。ご友人の分もご用意していますので、ゆっくりしていってください」
フランたちは、ドアから庭へと出て行った。
咲夜も台車を押して後に続く。
「ロールキャベツか……作ってもあんまり美味しくできないんだよなぁ……」
ナランチャは咲夜の押している台車を見つめている。
台車の上にはきれいなロールキャベツが並んでいる。
「知ってますか?」
突然、咲夜の周囲の空気が変わった。
今にもベートーベンの第九が聞こえてきそうな迫力が出てきている。正確に言うと第二楽章の。(ttp://www.youtube.com/watch?v=fnxOOFgjqq8)
「ロールキャベツを美味しく作るコツは、キャベツの外側から8枚目までの葉を使うのですよ。キャベツならではの歯ごたえと甘さを楽しめるのはそこまでなのです。それより内側の葉や芯はコールスローサラダやスープに使うといいでしょう」
「そ……そうなのかー」
突然の咲夜の変貌にナランチャは驚きを隠しつつさっきのことを忘れないように、持ってきたノートを開いてメモを取った。
会食の後、紅魔館の庭に勢ぞろいしている紅魔館メンバーは正門の前に広がる霧の湖を見つめている。
――否、霧の湖の対岸に陣を構えている博麗神社勢力を。
「いよいよ決戦ね」
庭に設けられたテーブルの主賓席に座るレミリアが、食後の紅茶のカップを置いた。
「博霊神社側は湖の向こうに本陣を構えているみたいだな。改めて相手側の調査報告を行おう」
琢馬は立ち上がって、全員に何枚かの紙を配る。
フランは配られた紙に目を通した。
一枚目には霊夢、紫、魔理沙の似顔絵が描かれている。
二枚目には青い服を着た緑色の長い髪の女性の似顔絵。見たことも無い人だ。
三枚目にはバンダナを付けた細身の男の似顔絵が描かれている。フランは彼を知っている。一度竹林のネズミ騒ぎの際に会った。しかし名前は聞いていない。
「リストには神社勢力の中で特に力の強い者をピックアップしてみた。まずは一枚目の連中について解説する」
琢馬はホワイトボードを持ってきて、霊夢の似顔絵を磁石で張り付ける。
「まずは神社の巫女、博霊霊夢からだ。恐らく彼女は八雲紫と共に本陣にある春水晶の護衛につくだろう」
琢馬は霊夢の似顔絵の横に、紫の似顔絵を張り付ける。
すると、卓についているナランチャが手を挙げた。
「なあ、何で本陣に春水晶を持ってくるんだ? 普通に神社に置いとけばいいだろ?」
「簡単な答えだ。主力がいなくなる神社に置いておくより、主力が集まる本陣に春水晶を置いた方がそれを守りやすい」
ナランチャの質問に琢馬は淡々と答える。
「次に、霧雨魔理沙。機動力があり、尚且つ火力を持っている彼女は先陣を切ってくるだろう。彼女の相手は……僕がやる」
琢馬は魔理沙の似顔絵をホワイトボードに張り付けた。
続いて、緑色の紙の女性の似顔絵をホワイトボードに張り付ける。
「二枚目の紙に写っている奴がいるだろう? こいつこそが今回最大のイレギュラーだ。なんせ容姿以外の情報が無い」
琢馬の解説に、周囲が唸った。
「一番のイレギュラーね……多分、一番警戒すべきは霊夢でも紫でもなくてそいつでしょうね。彼女の対策は美鈴に任せるわ」
レミリアは、美鈴を指差した。
指差された美鈴ははい、と短い返事をしてうなづく。
レミリアのチョイスに、場のみんなが納得した。
美鈴は万能型で死角も少なく、これといった弱点もない。
ゆえに、あらゆる状況に対処できる。
「そして三枚目の紙に写された男だ。彼の名は岸部露伴。外の世界で漫画家をやっている人間だ。だが何でこんな所に彼がいるのかが不可解だ。注意したい」
琢馬の言葉を聞いて、フランは再び竹林で出会った彼を思い浮かべた。そうか。彼の名前は岸部露伴っていうんだ。
「相手の主力の説明が終わったところで、布陣の説明をしたいところだが……」
「今までに無い強大な力が近づいているわ! 12時の方向よ!」
琢馬の声を遮るかのようにパチュリ―の叫び声が上がった。
全員は正門の方を見る。
何か、光のようなものが見える
それを見たとたん、“危険”という言葉が全員の頭に浮かび上がった。
フラン、レミリア、咲夜、美鈴、チルノ、パチュリ―、小悪魔はすぐに飛び上がった。
琢馬は、すぐに『The・Book』の『億安に引き寄せられる記憶』で空中に飛び上がる。
ディアボロは『キング・クリムゾン』のラッシュで地面に穴を掘り、ナランチャと一緒にそこに隠れる。
そして――紅魔館は消滅した。
巨大にも程がある光線によって。こんな光線、巨人でもない限り出すことはできないだろう。
「おや……? これでやったと思ったんだがねぇ。やっぱり気配を感じる生き物と気配を感じない建物じゃ結果は違うか」
消し飛んで地下図書館が野ざらしになった紅魔館を見て戦慄する全員の背後に、誰かがいる。
振り返りたくない。今ここですぐに逃げるべきだ。全員が――そう、レミリアを含めた全員がそう感じた。
だが、振り返らなくてはならない。敵に背を向け続けるなんて愚の骨頂なのだから。
そして暫くの静寂。
皆が白い息を吐く音だけが夜のしじまにしみ込んでいく。
最初に振り返ったのは、フランだった。
フランの視界に入ってきたのは、緑色の髪の女性。
身にまとう服は青く、太陽が描かれた帽子をかぶり、先端に月の意匠を付けた杖を持っている。
久遠の夢に運命を任せる精神――魅魔だ。
ディスクブレイカー☆フラン『Revengeful Ghost』 EDテーマ 怒首領蜂大復活ブラックレーベル『Desperado』
ttp://www.youtube.com/watch?v=L-ckJ5us0UM
フランはいつも通り壁を破壊して寺子屋へと向かう。
日傘をさして空を飛び、霧の湖と魔法の森を越えて人里に下りる。
「よっす!」
町中を歩くと、ナランチャと合流した。
「おはようナランチャ」
フランとナランチャは挨拶を交わし、並んで歩く。
寺子屋へ向かう道の途中、空から紙が降ってきた。
「ん? 何だこりゃ」
ナランチャは宙を舞う紙の一枚を掴みとる。
紙は、『文々。新聞』だった。
2人は新聞を広げて、一面を見る。
―――――
“幻想郷春一番争奪戦、ついに最終局面へ”
先日、幻想郷春一番争奪戦において『博霊神社』が『白玉楼』に勝利。
また、『紅魔館』も『妖怪の山』に勝利しており、近いうちに『紅魔館』と『博霊神社』の対決が始まると予想される。
「賭け予想表」
紅魔館 2.5倍
博霊神社 1.8倍
―――――
2人は新聞をこの部分まで読んで投げ捨てた。
「いよいよ、だな」
ナランチャはフランと顔を見合わせた。
「うん」
フランは策士の笑みを浮かべる。
寺子屋の正門前でチルノと合流し、運動場の桜を眺める。
まだ春が訪れていない桜は、蕾を付けて春の訪れを待っている。
「ふっふっふ……私たちの計画は、ついに最終段階へと入ったわ……」
蕾を膨らませた桜を前ににやけ顔を隠せないフラン。
「あたい達のコンビネーションを見せつける時ね」
チルノもにやにやと桜を見つめている。
ナランチャも桜を見つめて、これから自分たちがやる事を思いうけべてにやにやする。
そんな三人の背後に立つ男が一人。
「3人とも、こんな所で何やってるんだ? 遅刻するぞ?」
「「「うおう!」」」」
突然話しかけられた三人はびっくりして振り返った。
寺子屋で先生をしているフーゴだった。
「ああ、三人とも桜を眺めてたのか。僕もナランチャも桜を見るのは初めてだな。咲くのが待ち遠しいよ。さ、早く校舎に入らないと叱られるぞ」
フーゴは蕾が付いた桜を一通り眺めると、フランたちを校舎に入るように急かす。
「桜……ね」
フランたちの背中を見送ると、フーゴは再び桜の蕾に視線を向けた。
寺子屋のベルが鳴り、放課後が始まる。
窓を開けて、フラン、チルノ、ナランチャは空へと飛び出した。
「こらー! ちゃんと玄関からでなさーい!」
慧音の怒鳴り声に振り返らない3人。
雲を切り、風を裂いて3人は紅魔館へと向かう。
途中の霧の湖で大妖精を誘い、紅魔館の正門前に降りる。
「ただいまー」
「お帰りなさいませ、フラン様」
門の前ではいつも通り美鈴が立って門番をしている。
「「「「おじゃましまーす!」」」
フランに続いてチルノ、ナランチャ、大妖精は紅魔館の中へと入っていく。
玄関から入って、地下へ続く階段を駆け下りる。
“走るな”と張り紙が貼ってある廊下を走って通り過ぎ、図書館からフランの部屋に入る。
全員が部屋に入ると、フランは急いでカギをかけた。
「今夜には戦いが始まるって姉様が言ってたわ。作戦のおさらいをするわよ」
3人は鞄からノートとペンを取り出す。
大妖精だけはノートを持っていなかったのでチルノのノートを見せてもらうことにする。
「まずは今夜、戦いが始まったらナランチャとチルノは交戦を行わず、紅魔館にある3つの『春水晶』を持って霧の湖の対岸にある『博霊神社』側の本陣を避ける形で人里に向かうわ」
フランは壁に紅魔館周辺の地図を張り出す。
紅魔館の前には霧の湖。湖を挟む形で紅魔館と『博霊神社本陣』は向かい合い、『本陣』の奥に人里が位置している。
――――
“紅魔館――湖――『博霊神社本陣』――人里”
――――
「つまり、こういう形で移動することになるわね」
フランはペンで地図にチルノとナランチャの通るルートを書き足す。
――――
“紅魔館――湖――『博麗神社本陣』――人里”
↓ ↑
→―――逃走経路(森)―――――――→↑
――――
「森って言っても『魔法の森』じゃないから、危険は少ないと思うわ」
フランの解説を聞いて、チルノとナランチャの2人はメモを取る。
「俺たちが人里へ向かうとして、『博霊神社』側の『春水晶』はどうすんだ?」
ペンを走らせながら、ナランチャはフランに質問した。
「『博霊神社』側の『春水晶』は、破壊するわ。このことについて疑問は?」
フランの答えに、異論を唱える者はいなかった。
もし『博霊神社』側の『春水晶』を『紅魔館』側に渡ったら、『リリーホワイト』が『人里』ではなく『紅魔館』へ向かう可能性があるからだ。
そのことはチルノでもわかっている。
「他には、香霖堂で買った通信機を持っていないとね」
フランそう言ってポケットから通信機を取り出す。
チルノも、ナランチャもポケットから通信機を出して見せた。
「電池は十分だな」
ナランチャは通信機のボタンを押して通信機の具合を確かめる。
「故障もしてねーみたいだし、大丈夫みたいだな」
ガラス細工の時計は7時を指している。
「そろそろ夕食ね。ナランチャはフーゴ先生に夜遅くなるって話した?」
時計を見たフランはナランチャに質問する。
ナランチャはうなづいた。
「でも最近夜に外出してばっかりだからフーゴの奴心配してんだよなぁ~」
「まあまあ。夜に外出するのは今夜が最後になるから。張り切っていこー!」
咲夜が部屋に来て作戦がばれる前に、フランは扉を開いた。
チルノとナランチャは春水晶をポケットにおさめて部屋から出る。
図書館に乱立する本の谷を抜けて、図書館の扉を開く。
ろうそくが並ぶ廊下を歩いて、階段を上ってエントランスホールへ出る。
「あら? フラン様にご友人方。どちらに行かれるのですか?」
エントランスホールに出ると、料理を載せた台車を押している咲夜がいた。
「もうそろそろ会食の時間だからたまには咲夜が呼びに来る前に来てみようかな~って」
フランは微笑んで答えた。
「それでしたら食堂の方ではなく、お庭の方にお越しください。今夜はそこで会食をしようかと思います」
咲夜も微笑んで答え、エントランスのドアを開く。
「もうそろそろ会食が始まりますよ。メインディッシュはロールキャベツでございます。ご友人の分もご用意していますので、ゆっくりしていってください」
フランたちは、ドアから庭へと出て行った。
咲夜も台車を押して後に続く。
「ロールキャベツか……作ってもあんまり美味しくできないんだよなぁ……」
ナランチャは咲夜の押している台車を見つめている。
台車の上にはきれいなロールキャベツが並んでいる。
「知ってますか?」
突然、咲夜の周囲の空気が変わった。
今にもベートーベンの第九が聞こえてきそうな迫力が出てきている。正確に言うと第二楽章の。(ttp://www.youtube.com/watch?v=fnxOOFgjqq8)
「ロールキャベツを美味しく作るコツは、キャベツの外側から8枚目までの葉を使うのですよ。キャベツならではの歯ごたえと甘さを楽しめるのはそこまでなのです。それより内側の葉や芯はコールスローサラダやスープに使うといいでしょう」
「そ……そうなのかー」
突然の咲夜の変貌にナランチャは驚きを隠しつつさっきのことを忘れないように、持ってきたノートを開いてメモを取った。
会食の後、紅魔館の庭に勢ぞろいしている紅魔館メンバーは正門の前に広がる霧の湖を見つめている。
――否、霧の湖の対岸に陣を構えている博麗神社勢力を。
「いよいよ決戦ね」
庭に設けられたテーブルの主賓席に座るレミリアが、食後の紅茶のカップを置いた。
「博霊神社側は湖の向こうに本陣を構えているみたいだな。改めて相手側の調査報告を行おう」
琢馬は立ち上がって、全員に何枚かの紙を配る。
フランは配られた紙に目を通した。
一枚目には霊夢、紫、魔理沙の似顔絵が描かれている。
二枚目には青い服を着た緑色の長い髪の女性の似顔絵。見たことも無い人だ。
三枚目にはバンダナを付けた細身の男の似顔絵が描かれている。フランは彼を知っている。一度竹林のネズミ騒ぎの際に会った。しかし名前は聞いていない。
「リストには神社勢力の中で特に力の強い者をピックアップしてみた。まずは一枚目の連中について解説する」
琢馬はホワイトボードを持ってきて、霊夢の似顔絵を磁石で張り付ける。
「まずは神社の巫女、博霊霊夢からだ。恐らく彼女は八雲紫と共に本陣にある春水晶の護衛につくだろう」
琢馬は霊夢の似顔絵の横に、紫の似顔絵を張り付ける。
すると、卓についているナランチャが手を挙げた。
「なあ、何で本陣に春水晶を持ってくるんだ? 普通に神社に置いとけばいいだろ?」
「簡単な答えだ。主力がいなくなる神社に置いておくより、主力が集まる本陣に春水晶を置いた方がそれを守りやすい」
ナランチャの質問に琢馬は淡々と答える。
「次に、霧雨魔理沙。機動力があり、尚且つ火力を持っている彼女は先陣を切ってくるだろう。彼女の相手は……僕がやる」
琢馬は魔理沙の似顔絵をホワイトボードに張り付けた。
続いて、緑色の紙の女性の似顔絵をホワイトボードに張り付ける。
「二枚目の紙に写っている奴がいるだろう? こいつこそが今回最大のイレギュラーだ。なんせ容姿以外の情報が無い」
琢馬の解説に、周囲が唸った。
「一番のイレギュラーね……多分、一番警戒すべきは霊夢でも紫でもなくてそいつでしょうね。彼女の対策は美鈴に任せるわ」
レミリアは、美鈴を指差した。
指差された美鈴ははい、と短い返事をしてうなづく。
レミリアのチョイスに、場のみんなが納得した。
美鈴は万能型で死角も少なく、これといった弱点もない。
ゆえに、あらゆる状況に対処できる。
「そして三枚目の紙に写された男だ。彼の名は岸部露伴。外の世界で漫画家をやっている人間だ。だが何でこんな所に彼がいるのかが不可解だ。注意したい」
琢馬の言葉を聞いて、フランは再び竹林で出会った彼を思い浮かべた。そうか。彼の名前は岸部露伴っていうんだ。
「相手の主力の説明が終わったところで、布陣の説明をしたいところだが……」
「今までに無い強大な力が近づいているわ! 12時の方向よ!」
琢馬の声を遮るかのようにパチュリ―の叫び声が上がった。
全員は正門の方を見る。
何か、光のようなものが見える
それを見たとたん、“危険”という言葉が全員の頭に浮かび上がった。
フラン、レミリア、咲夜、美鈴、チルノ、パチュリ―、小悪魔はすぐに飛び上がった。
琢馬は、すぐに『The・Book』の『億安に引き寄せられる記憶』で空中に飛び上がる。
ディアボロは『キング・クリムゾン』のラッシュで地面に穴を掘り、ナランチャと一緒にそこに隠れる。
そして――紅魔館は消滅した。
巨大にも程がある光線によって。こんな光線、巨人でもない限り出すことはできないだろう。
「おや……? これでやったと思ったんだがねぇ。やっぱり気配を感じる生き物と気配を感じない建物じゃ結果は違うか」
消し飛んで地下図書館が野ざらしになった紅魔館を見て戦慄する全員の背後に、誰かがいる。
振り返りたくない。今ここですぐに逃げるべきだ。全員が――そう、レミリアを含めた全員がそう感じた。
だが、振り返らなくてはならない。敵に背を向け続けるなんて愚の骨頂なのだから。
そして暫くの静寂。
皆が白い息を吐く音だけが夜のしじまにしみ込んでいく。
最初に振り返ったのは、フランだった。
フランの視界に入ってきたのは、緑色の髪の女性。
身にまとう服は青く、太陽が描かれた帽子をかぶり、先端に月の意匠を付けた杖を持っている。
久遠の夢に運命を任せる精神――魅魔だ。
ディスクブレイカー☆フラン『Revengeful Ghost』 EDテーマ 怒首領蜂大復活ブラックレーベル『Desperado』
ttp://www.youtube.com/watch?v=L-ckJ5us0UM