☆
恐怖を克服せよ。
☆
フ ギ ャ ア ア ア ァ
猛獣の叫びが空に木霊する。
異様に発達した両腕。
逞しい胸筋。
臀部までびっしりと生えた黒色の体毛。
ゴリラ。
霊長類最強のその動物が、地面に仰向きに倒れ泣き叫んでいた。
ゴリラは温厚な生物だ。圧倒的な攻撃力と頑強さを持ちながら、終生その腕力を振るうことが無いという。
故に、この殺し合いという異様な環境に、ゴリラは恐怖したというのか。
いや、違う。
ゴリラは殺し合いに恐怖を抱いているのではない。
彼に泣き叫ぶほどの恐怖を植え付けたのは、悪魔を超えた悪魔と呼ばれた男ーーーその遺伝子を受け継ぎ、『悪魔王子』と名乗る青年だ。
彼の放った『幻魔拳』は肉体ではなく精神に放たれる打撃。筋肉と骨という鎧に包まれていない精神は打撃による破壊の影響をモロに受け、常に激痛や身体の変容を感じながら暮らし続けることになる。悪魔王子は幻魔を解除せずゴリラの前から去った。つまり、ゴリラはずっと幻魔に苛まれ続けていた。
無論、この殺し合いに呼び出される際に、幻魔は取り除かれているがーーーゴリラは未だに苦しんでいる。ただでさえ温厚で愚鈍なゴリラは、早急な変化への対処は間に合わず、幻魔にかかっていないのに幻魔を己で生み出し苛まれているのだ。
痛い。苦しい。怖い。
そんな負の感情がゴリラから引き摺り出されている。
己1人ではもうどうすることもできない。
だが、ゴリラの言葉を解する者がいない以上、彼を癒すことができるものは...
異様に発達した両腕。
逞しい胸筋。
臀部までびっしりと生えた黒色の体毛。
ゴリラ。
霊長類最強のその動物が、地面に仰向きに倒れ泣き叫んでいた。
ゴリラは温厚な生物だ。圧倒的な攻撃力と頑強さを持ちながら、終生その腕力を振るうことが無いという。
故に、この殺し合いという異様な環境に、ゴリラは恐怖したというのか。
いや、違う。
ゴリラは殺し合いに恐怖を抱いているのではない。
彼に泣き叫ぶほどの恐怖を植え付けたのは、悪魔を超えた悪魔と呼ばれた男ーーーその遺伝子を受け継ぎ、『悪魔王子』と名乗る青年だ。
彼の放った『幻魔拳』は肉体ではなく精神に放たれる打撃。筋肉と骨という鎧に包まれていない精神は打撃による破壊の影響をモロに受け、常に激痛や身体の変容を感じながら暮らし続けることになる。悪魔王子は幻魔を解除せずゴリラの前から去った。つまり、ゴリラはずっと幻魔に苛まれ続けていた。
無論、この殺し合いに呼び出される際に、幻魔は取り除かれているがーーーゴリラは未だに苦しんでいる。ただでさえ温厚で愚鈍なゴリラは、早急な変化への対処は間に合わず、幻魔にかかっていないのに幻魔を己で生み出し苛まれているのだ。
痛い。苦しい。怖い。
そんな負の感情がゴリラから引き摺り出されている。
己1人ではもうどうすることもできない。
だが、ゴリラの言葉を解する者がいない以上、彼を癒すことができるものは...
「大丈夫。落ち着いて」
否。ここにいる。
「貴方はいま怯えているだけ。頭はなんともなっていませんよ」
ゴリラよりも遥かに小さく細い手が頭に添えられ、優しく撫でられる。
人だ。それも女ーーーその手が撫でたのだ。
ゴリラにとって不思議な感覚だった。
彼にとっての人間とは己を世話するものか見せ物として観に来る者しかいない。
所詮は違う生物だと見下していると言ってもいい。
だが、いま己を撫でる女は確かに自分を救おうとしている。気遣っている。
なにより。
人だ。それも女ーーーその手が撫でたのだ。
ゴリラにとって不思議な感覚だった。
彼にとっての人間とは己を世話するものか見せ物として観に来る者しかいない。
所詮は違う生物だと見下していると言ってもいい。
だが、いま己を撫でる女は確かに自分を救おうとしている。気遣っている。
なにより。
「私が救ってあげますよーーーだから落ち着いて」
その声を聞いているだけで、気持ちが安らいでいくのがわかる。
まるで本能からそうするべきだと理解しているかのように。
気がつけば、幻魔の幻影までもが消えていた、否。消えていることにようやくきづくことが出来た。
まるで本能からそうするべきだと理解しているかのように。
気がつけば、幻魔の幻影までもが消えていた、否。消えていることにようやくきづくことが出来た。
「ホ...」
ゴリラが落ち着きを取り戻すと、女は後光が差すような微笑みを浮かべた。
「申し遅れましたね。私の名はエデン・ワイス。この腐敗した世の救世主です」
☆
ヒトに己の正確な意思が伝わるなど初めてだった。
初めての体験にゴリラは感動するかのように捲し立てた。
いつも通りに動物園で過ごしていたら、妙な男に蹴りを入れられたこと。
その男と"遊んで"いたら、新たな男が乱入し、その男に殴られてから常に頭が破裂しているかのような激痛と幻覚に襲われていたこと。
ゴリラの言葉を、エデンはただ相槌と共に聞いていた。
初めての体験にゴリラは感動するかのように捲し立てた。
いつも通りに動物園で過ごしていたら、妙な男に蹴りを入れられたこと。
その男と"遊んで"いたら、新たな男が乱入し、その男に殴られてから常に頭が破裂しているかのような激痛と幻覚に襲われていたこと。
ゴリラの言葉を、エデンはただ相槌と共に聞いていた。
話し終えるとゴリラはブルル、と大きく息を吐く。慣れないことをしたからだろう、今まで感じたことのない疲労感が彼を襲った。
「...辛かったですね」
エデンはゴリラに寄り添い、労わるようにその大きな頭を撫でた。愛撫にも似たその手つきにゴリラは目を細める。
心地良い温もりに、ゴリラは完膚なきまでに屈する。
重ねていうが、ゴリラは温厚な生き物だ。出会い頭に蹴撃を浴びせるような愚かな真似をしなければ、よほどのことがない限り危害を加えようとはしない。故に、ゴリラが己を理解してくれるエデンに懐くのも無理はなかった。
心地良い温もりに、ゴリラは完膚なきまでに屈する。
重ねていうが、ゴリラは温厚な生き物だ。出会い頭に蹴撃を浴びせるような愚かな真似をしなければ、よほどのことがない限り危害を加えようとはしない。故に、ゴリラが己を理解してくれるエデンに懐くのも無理はなかった。
「ゴリラさん。私は貴方を救いたい...ですが、貴方を危険から遠ざけることはできても、刻まれた恐怖を取り除くことはできません」
ホ?と思わず聞き返すゴリラにも、エデンは微笑みを崩さず言葉を紡ぐ。
「恐怖とは克服すべきもの。ゴリラさん。貴方の恐怖を払拭するには、その手で禊を行う必要があります」
禊。ゴリラはその言葉に首を傾げる。
自分は何をすればいいのだ? 彼女は自分に何を求めているのだ?
そんな疑問が頭をよぎるが、エデンの優しい眼差しと声に思考は中断される。
自分は何をすればいいのだ? 彼女は自分に何を求めているのだ?
そんな疑問が頭をよぎるが、エデンの優しい眼差しと声に思考は中断される。
「簡単なことです。ヒトは愚かにも貴方に暴力を振い恐怖を植え付けた...ならば、貴方も同じことを返してやればいい」
自分が、ヒトに暴力を?
「ゴリラさんの力はヒトには強すぎる。その拳を振るえばきっと相手を破壊してしまうでしょう。ですが、貴方が"遊んで"いた時、どんな気持ちになりましたか?」
ドクン、と鼓動が高鳴るのを感じる。
そうだ。あの蹴りを放ってきた男の腕をへし折り、地面に何度も叩きつけた時。なぜ自分は攻撃を止めなかった。相手が死ぬとわかっていても破壊し続けた。
そうだ。自分は興奮していたのだ。初めて感じた破壊衝動に酔っていたのだ!
そうだ。自分は興奮していたのだ。初めて感じた破壊衝動に酔っていたのだ!
「ええ。ええ。大丈夫。貴方のソレは否定されるべきものではない。私たちの領域を穢す者を排除するのは自然のルールなのですから」
自然のルールーーー即ち、弱肉強食。ゴリラは悪魔王子に弱者の烙印という名の恐怖を植え付けられた。ならば、その恐怖を克服するにはーーー言うまでもない。
ホ ギ ャ ア ア ア ァ ァ ァ
ゴリラの雄々しい雄叫びが響き渡る。ソレは恐怖を克服せん、これより自分に襲いかかる者全てを破壊するという闘争の意思。
『死ぬ気で戦ってみろ』、悪魔王子に問われたそのアンサー。
『死ぬ気で戦ってみろ』、悪魔王子に問われたそのアンサー。
ゴリラの雄叫びを聞いたエデンは、微笑みを崩さず告げた。
「ゴリラさん。どうか貴方に加護があらんことを」
☆
エデン・ワイスは真祖である。
人智を超えた異形『吸血鬼(ヴァンパイア)』。その中でも王に選ばれ、優れた力を有した真祖。
例え人類の叡智である戦車を操ろうが、彼女の前ではブリキ細工に等しい。それほどまでに真祖の力とは強大である。
故に、この殺し合いにおいても勝ち残る自信はあった。
自分を脅かしうる他の真祖は既に全滅し、王(ゴア)でもない限り並び得る者はいないのだから当然だ。
人智を超えた異形『吸血鬼(ヴァンパイア)』。その中でも王に選ばれ、優れた力を有した真祖。
例え人類の叡智である戦車を操ろうが、彼女の前ではブリキ細工に等しい。それほどまでに真祖の力とは強大である。
故に、この殺し合いにおいても勝ち残る自信はあった。
自分を脅かしうる他の真祖は既に全滅し、王(ゴア)でもない限り並び得る者はいないのだから当然だ。
しかし、エデンは敢えてゴリラと共に行動することにした。
何故か。エデンの中で燻り続ける女ーーードミノ・サザーランドならば、1人で優勝を狙うことはしないとわかっているからだ。
何故か。エデンの中で燻り続ける女ーーードミノ・サザーランドならば、1人で優勝を狙うことはしないとわかっているからだ。
尊敬しているわけではない。敬愛しているわけでもない。ただ、あの女を超えた証を打ち立てたい。その一心だった。
エデンの方針は、ここに連れてこられる前と変わらない。
救世救民。
ただし、彼女にとっての『世界』と『民』はヒトの為に非ず。
救世救民。
ただし、彼女にとっての『世界』と『民』はヒトの為に非ず。
彼女はかつて動物に育てられ、『ヒト』に全てを奪われた。家族も、住処もだ。
拾われた先でも安寧などなく。金のために芸を仕込まれ、媚びを売らされ続けてきた。そんな彼女にヒトへの愛着などカケラもあるはずがない。
拾われた先でも安寧などなく。金のために芸を仕込まれ、媚びを売らされ続けてきた。そんな彼女にヒトへの愛着などカケラもあるはずがない。
彼女にとっての救世救民とは、彼女に付き従う『獣』たちのためのモノ。故に、彼女が救う優先順位はまず第一に動物達。その後に自分にとって価値のある人間達だ。その理念に従い、エデンは最初に出会えたゴリラを救うと決めたのだ。
「ホ?」
「...大丈夫。大丈夫ですから。ね?」
「...大丈夫。大丈夫ですから。ね?」
心配気に覗き込んできたゴリラを撫でつつ、エデンは思いを馳せる。
(ドミノ。きっと貴女ならこんな状況でも誰も彼もを救おうとするのでしょうね)
いくら態度で悪を気取っていても、結局、自分が関わった者たちを見捨てることが出来ない。それがドミノ・サザーランドという女だ。
(ドミノよ。せいぜい見ていなさい。私がこの灰色の世界で一筋の光となる瞬間をーーーアナタを見下ろす場所にまで昇りつめるその光景を)
(そして認めなさい。私こそが、女王様だと!)
☆
一線を超えろ。
常識を変えろ。
失われた尊厳と誇りを取り戻すために、さあもう一度立ちあがろう
☆
【エデン・ワイス@血と灰の女王】
状態:健康
服装:いつもの服装
装備:無し
令呪:残り三画
道具:ランダムアイテム×1~3
思考
基本:殺し合いに生き残りドミノを超える。
01:動物には愛情を。人には恐怖を与えて支配する。
02:あくまでも脱出派だが手段は問わない。逆らう者は動物以外は処刑。
参戦時期:少なくとも160話以降
状態:健康
服装:いつもの服装
装備:無し
令呪:残り三画
道具:ランダムアイテム×1~3
思考
基本:殺し合いに生き残りドミノを超える。
01:動物には愛情を。人には恐怖を与えて支配する。
02:あくまでも脱出派だが手段は問わない。逆らう者は動物以外は処刑。
参戦時期:少なくとも160話以降
【ゴリラ@TOUGHー龍を継ぐ男ー】
状態:健康
服装:無し
装備:無し
令呪:残り三画
道具:ランダムアイテム×1~3
思考
基本:恐怖を乗り越える。エデンに従う。
01:エデンに従う。
02:全力でヒトをぶち壊したい。悪魔王子に刻まれた恐怖を克服したい。
参戦時期:悪魔王子に幻魔拳を打ち込まれた後。
備考
※主催の手によって幻魔は解除されていますが、トラウマは残っています。
状態:健康
服装:無し
装備:無し
令呪:残り三画
道具:ランダムアイテム×1~3
思考
基本:恐怖を乗り越える。エデンに従う。
01:エデンに従う。
02:全力でヒトをぶち壊したい。悪魔王子に刻まれた恐怖を克服したい。
参戦時期:悪魔王子に幻魔拳を打ち込まれた後。
備考
※主催の手によって幻魔は解除されていますが、トラウマは残っています。