sister(後編) ◆LKgHrWJock
岩陰に腰を下ろし、天を仰ぐと、星空が視界を圧倒する。
無数の砂をちりばめた紺色の闇に心までもが吸い込まれていくような気がした。
「ねえ
カトリ、あなたが持ってるその石はなあに?」
「これは私の支給品……<火竜石>っていうの……」
「あなたのお友達のドラゴンゾンビって、その石の力で動かしているの?」
「ううん、これは違うの。この石はね……、なんだかとても懐かしい感じがするの」
「それって、どういうこと?」
「なんだか似てるの。子供の頃からずっと持っていた私のたった一つの宝物に。
この石を握り締めると、腕輪から感じる不思議な波動によく似た力が伝わってくるの」
「ねえカトリ、それ、私にも触らせて?」
「う……」
カトリは思わず身構える。しかしそれも一瞬のこと。
アルマの気分を害したのではないかと申し訳なくなってきて、カトリはゆっくりと緊張を解いた。
だが、アルマはそんなそぶりも見せず、カトリににこりと笑いかける。
「ごめんなさい、大切なものなのよね。無理強いするつもりはないの」
「いいの。見せてあげる、これ……」
カトリが<火竜石>を差し出すと、珍しい玩具を見るような顔でアルマはそれを受け取った。
月にかざしながらしげしげと眺め、カトリを真似て石を両手で包み込む。
「……変わった石ね。でも、カトリの言う“波動”っていうのはよく分からないわ。
これでも私、魔法は結構得意なんだけどな。なのに何も感じないの」
「そう……なんだ……」
「カトリ、今、『やっぱり返して』って思ってるでしょ?」
「う……」
「駄目よ。波動の感じ方を教えてくれなきゃ返さないわ」
「どうしてそんな意地悪言うのかな……」
「ふふっ、冗談よ。そんな顔しないで。ちゃんと返してあげるわ。その代わり……」
まだあるんだ。今度は何だろう。意地悪な要求だったらどうしよう。
カトリはまた身構える。アルマのことはよく分からない。本心を笑顔で覆い隠しているようで。
しかし当のアルマはカトリの不安などどこ吹く風、邪気のない声で言葉を続ける。
「カトリのことを知りたいの。どうして子供の頃からそんな不思議な腕輪を持っていたの?」
「私、孤児だったの……」
「あ、分かった。その腕輪だけがご両親との繋がりだったってわけね?」
「うん、私を育ててくださった司祭様はとても優しい方だったけど、たまにとても寂しくなって……
そんなとき、腕輪を抱き締めると安心したの。暖かい波動に包まれているみたいで……」
「カトリは神様の近くで育ったのね。なんだか親近感を感じちゃう。
私、生まれてすぐ修道院に入れられたの。だから……」
「アルマ、それって……」
草原を渡る夜の風がカトリの胸の奥底を吹き抜け、
目には見えないかすり傷をひどく乱暴にひりつかせる。
そうなのだ、自分だけでなくアルマもまた、肉親のぬくもりを知らずに育ったのだ。
アルマの笑顔、違和感を覚えるほど楽しそうなそれは、寂しさを隠すためなのかも知れない。
しかしアルマはカトリの内心を見透かすように屈託なく笑い、口を開いた。
「そんな顔しないで。寂しくなんてなかったわ。似たような境遇のお友達が沢山いたもの。
ここに来たときだって、そう。最初は怖かったけど、もう大丈夫よ。
だってカトリと知り合えたんだもの。ありがとう、コレ。大切なものを見せてくれて」
アルマはカトリの両手を握り、<火竜石>をその手に返す。
「私、カトリに出会えてホントに良かった」
「アルマ……」
「ふふっ、やっと笑ってくれたのね」
「すごく悲しかったの。
オイゲンさんも
リチャードも
ティーエもみんな死んじゃって、
その上、ランスロットさんまで……」
「ティーエ……?」
アルマの声色が変わった。少し低く、それでいて宙を舞うような声。
その変化に不吉なものを感じたが、それでも問わずにはいられなかった。
「アルマ、ティーエのこと、知ってるの?」
「ううん、そう名乗った人はいなかったわ。ただ、放送で呼ばれた女の人の名前でしょ?
もしかしてあのときの人なのかなって……、ねえカトリ、ティーエってどんな人?」
「とても強くて、綺麗な人……」
「もっと具体的に言ってくれなきゃ分からないわ。あの人の名前がティーエなら、そうね……
あなたに伝えなきゃいけないとても大事な話があるの……」
言いながら、アルマはゆっくりと立ち上がり、カトリの正面に回り込む。
唇の両端をにっと釣り上げるアルマ、しかしその目はまったく笑っていなかった。
どう考えても“大事な話”をするときの顔には見えない。
それでもカトリは言葉を尽くし、ティーエの外見的特徴をアルマに伝えた。
悪い予感がする。今すぐここから立ち去れと本能がけたたましく警鐘を鳴らす。
しかしそれでもティーエ、共に過ごした時間は僅かだが新たな時代を勝ち取った仲間、
元いた世界の一国を担う要人について知らねばならない義務が自分にはあると思ったのだ。
カトリの話を聞き終えたアルマはくすくすと笑う。
いつの間に取り出したのか、その手には小ぶりの斧。
月明かりを受けて鈍く光る厚い刃が、確かな殺傷力を物語る。
「そう……、あなたはあの女の仲間だったのね……」
「アルマ、何をするつもりなの!?」
「気が変わっちゃった。やっぱり私、あなたを殺すことにしたわ。ティーエのようにね……」
「それ……、どういうこと? ねえ、アルマ、それってどういうことなの?」
答えは既に分かっている。しかし問わずにはいられなかった。
アルマは楽しげに笑いながら、まるで風と戯れるように手斧で軽く空を切る。
「ティーエを殺したのはね、ふふっ、私なの」
「そんな……嘘でしょ……」
「嘘なんかじゃないわ。何なら今から一緒に死体を見に行ってもいいのよ?
でも残念、体は連れて行ってあげられないわ。連れて行けるのは、首だけね」
「どうして……どうしてそんな酷いことを……」
「
ラムザ兄さんを優勝させるためよ。
……ふふっ、そんな顔しないで。それって幸せなことなのよ。
だってティーエは死ぬことによってラムザ兄さんに貢献できたんだもの。カトリだって、そう。
死ねば、ラムザ兄さんをここから救い出してあげられるの。それってとても素敵なことだわ」
「アルマ……、お兄さんが……いたんだ……」
狂気としか言いようのないほど純粋だったアルマの笑顔がふと、人間的な翳りを帯びた。
その変化でカトリは気付く。アルマは兄を愛している。一見すると異常だが、しかし――
カトリとて、その愛が禁忌であることは知っている。
しかしその一方で、そうならざるを得ない人々や環境が存在することもまた、知っている。
セネトとネイファ。実の兄妹でありながら、二人はしばしば恋人同士のような親密さを見せた。
しかしそれは彼らが倫理に反したことを好む人間だったからではない、むしろ真逆だ、
セネトは真面目で誠実で正義感が強く、ネイファは清廉で大人しく心優しかった、ただ、
幼くして両親と離別し、特殊な環境で育った二人には、お互い以外に頼れる者がいなかったのだ。
選択肢が一つしかないのなら、そこにかかる愛は過大になり、依存性を帯びるのは当然のこと。
禁忌ではあるが、異常ではない。その原理、それ自体は。
自らの境遇について「寂しくなんてなかったわ」とアルマは笑顔で口にした。
でも、明るくて友達にも恵まれていたものと思われるアルマが心から頼ることが出来たのは、
きっと兄のラムザだけだったのだろう。
「優しい人なのね、アルマのお兄さん……」
「カトリは知らないでしょ、ラムザ兄さんのことなんて、何も……」
「うん……でも、アルマがそこまでするんだもの、きっと優しい人なんだと思う」
アルマは手斧を握り締めたまま、寂しな顔で視線を落とす。
「……ラムザ兄さんは、命がけで私を助けにきてくれたの。
私の心身が聖天使に乗っ取られても、それでも私に話し掛けてくれた。
私が私に戻れるまで、ラムザ兄さんはずっと……」
「ラムザさんは……お兄さんはあなたのことを本当に愛しているのね」
「家族の中で信じられるのは私だけだって言っていたわ……」
「なのにどうして……どうしてアルマはこんなことをするの……?」
「え……?」
「アルマがお兄さんのために殺し合いに乗ったのは、お兄さんの愛を疑ってるからでしょ?
お兄さんに愛されているって信じることが出来ないから、だから、こんな……
お兄さんはアルマのことを本当に、本当に大切に思っているのに……」
アルマの手から滑り落ちた手斧が、足元でくぐもった音を立てた。
呆然と立ち尽くすアルマ、その陶磁器のような頬を一筋の涙が流れ落ちる。
空になったアルマの手をカトリはそっと握り締めた。
「ねえアルマ、私と一緒に戻りましょう」
「無理よ。言ったでしょ、私はもう人を殺しているの。あなたの仲間だって殺したわ」
「無理だって思うのは、悪いことしたって分かってるからじゃないのかな。
罪悪感があるのなら、償いは出来るわ。きっと……」
「でも……」
「
ホームズと
マグナが待ってるわ。二人とも、ラムザさんに会ったことがあるの」
まるで何かに弾かれたようにアルマがぱっと顔を上げる。
海に落ちた者がとっさに空気を求めるように、アルマはカトリに問い掛ける。
「ラムザ兄さんに……? ラムザ兄さんは……ラムザ兄さんは無事なの……?」
「うん、無事だと思う……二人が会ったときは無事だったから……。
今は別々に行動してるけど、いずれ合流するつもりよ。そしてみんなでここから脱出するの。
だからアルマ、あなたも一緒に来て。何か言ってくる人がいたら、私が守ってあげるから」
「……私、ラムザ兄さんに守ってもらってばかりだった。
一緒に戦いたかったのに……女なんかに生まれなきゃ良かったって思ってた。
でも、まさか、騎士でも戦士でもない女の子のカトリにまで守ってもらうなんて……」
そうだったんだ――カトリはようやく得心する。
だからアルマは自分がお兄さんに愛されていると信じることが出来なかったんだ。
カトリはゆっくりと腰を上げ、向き合って立つアルマに微笑みかけた。
「アルマにだってお兄さんを守れるわ。マグナは今、すごく落ち込んでるの。
合流したときにマグナが落ち込んだままだったら、あなたのお兄さんだってきっと困るわ。
でも、アルマみたいな明るくて度胸のある人が来てくれたら、きっと元気になれると思う。
それに、ホームズだって……口は悪いけど、すごく繊細な人だから……」
ホームズのことを口にした途端、声が軽く震え、消え入りそうになるのが分かる。
カトリの心に気付いたのか、アルマがくすりと忍び笑いを漏らした。
途端に気恥ずかしくなってしまい、カトリは思わず視線を落とした。
「ホームズって、もしかしてカトリの……」
「うん、私の恋人なの……すごく大切な人……」
アルマがそれに答えるよりも早く、男の声が割り込んだ。
「……しかしその恋人は、こんなとき君のそばにいてくれないのだね」
初めて耳にする低い声。いつからそこにいたのだろう。隻眼の男が立っていた。
生粋の戦士に相応しい頑強な体躯。暗く癖のある長い髪がゆっくりと風に揺れている。
この男は、まさか――しかし、人相は伝え聞いたとおりだが、何かが違うような気がする。
こんな話に横槍を入れることを好む男だったのか。男の表情は夜に紛れ、
真意を窺うことは出来ないが、その言葉はカトリに深い悲しみを思い出させた。
「ホームズはそんな人じゃないわ!」
「カトリ!」
アルマの鋭い声がカトリを制した。
アルマは男に視線を据えたまま、慎重に腰を屈め、足元に転がる手斧を拾う。
そして半歩だけ身体を動かし、カトリと男を遮るように立つ。
「私たち、今、女の子同士で大事な話をしているの。おじさんなんかに用はないわ」
「ほう、君は無抵抗の少女をなぶり殺しにすることを“話をする”と呼んでいるのかね?」
「女の子同士の内緒話を立ち聞きして、しかも口を挟んでくるなんて、
随分とお行儀の悪いおじさんね」
少女の侮辱に男は半ば呆れたように、しかし冷ややかに言い放つ。
「……ラムザ・ベオルブは実に見上げた男だった。
和やかな会談の席であっても、身を盾にして仲間を守る覚悟を忘れず、
不審者に遭遇した際も、相手が無実である可能性を考慮し、気分を害さぬよう配慮する。
しかしその妹は、戦士としての誇りを棄てた享楽的な殺人者だったとは」
「あなた、ラムザ兄さんを知っているのね!? ラムザ兄さんは今、何処にいるの?」
「仮に知っていたとしても、君を彼の元に連れて行くのは無理だ。
あの有能かつ誠実な青年をいたずらに傷つけるつもりはないのでね」
「私を脅迫するつもり?」
「アルマ、駄目。この人に乗せられては……」
カトリはアルマの腕を掴み、ローブの袖を引っ張った。
この男は自分たち二人を仲間の元に返すつもりなどないのと確信しながら。
もし帰ることが出来たとしても、それは彼の手駒として。
意に添わないことをすればラムザやホームズを傷つける、そんな暗黙の了解のもとで。
かといって、逃げ出すことも出来なかった。
相手は見るからに身体能力が高く、すぐに追いつかれてしまうだろう。
しかも剣を携えているのだ。ドラゴンゾンビをけしかけたところで、時間稼ぎにしかならないだろう。
よしんば村まで逃げおおせたとしても、ホームズとマグナを危険に曝すことになりかねない。
二人は今、精神的に疲弊しきっており、しかも丸腰同然なのだ。
とはいえ、竜化しようとまでは思わなかった。
それはあくまでも最後の手段、たとえこの男が悪人でも無益な殺生は控えたい。
それに相手は狡猾だ。殺すつもりでないのなら、竜化能力を知られるのはかえって危険。
そもそも相手は剣を抜かず、第三者の非難を退ける穏当な態度を崩していないのだ。
しかし、だからといって、大人しくこの男の手駒に成り下がるつもりはなかった。
こちらとて、相手の正体を知らないわけではないのだから。
悔しげな顔でこちらを振り返るアルマを勇気付けるべく視線を送り、カトリはまっすぐ男を見た。
「あなたは――」
「ランスロット・タルタロスだな?」
カトリがその名を口にするより早く、聞き覚えのある声が割って入った。
視線を転じると、夜に溶け込むような黒衣の男、
この世界に放り出されて最初に出会った黒騎士が、厳しい面持ちでそこにいた。
「
ルヴァイドさん!」
「カトリ、おまえはここから離れろ」
「でも……」
カトリは躊躇する。自分が去れば、アルマは一体どうなるのだろう。
心を入れ替え罪を償う意思を示せばアルマは助かるかも知れないが、しかし、
そのためには自分が彼女のそばにいなければと思う。重い罪を背負うルヴァイドは、
その重さを知るがゆえにアルマを決して許さないかも知れないのだ。
一歩たりとも動こうとしないカトリに、尚も何事かを命じようとするルヴァイド、
彼の言葉を遮ろうとするかのように
タルタロスがルヴァイドに答えた。
「いかにも。私がランスロット・タルタロスだが?」
「首輪探知機に反応した首輪の数……
死者の首輪を携えているのは、おまえと、そこの娘か……」
「ほう、そのような支給品が存在するとは」
「殺し合いに乗った者には死んでもらう。その首輪、どこで手にした?」
なんだ、そんなことか。そう言わんばかりの平静さをもって、タルタロスは答えた。
「……正気を失った青年に襲われたのだ。
彼は既に人を殺しており、野放しにすれば犠牲者が増え続けることは明白だった。
命まで奪うつもりはなかったが、夕刻の森ゆえ視界が悪く、手加減が出来なかった。
首輪は解析目的で回収した。脱出を試みるならば、誰かが手を汚さねばならぬこと」
タルタロスの口元がほんの僅かだが、歪んだ。
ルヴァイドの内心を見透かすように、その言動を牽制するように。
ややあって、ルヴァイドが口を開く。その声は、先程のようには切迫していなかった。
「そのような状況、そのような相手であれば、俺も同じ判断を下しただろう。
しかし、その茶髪の青年には、どの辺りの森で襲われたのだ?」
タルタロスは事も無げに答える。E-2エリアの城の南に広がる森林だったと。
カトリは気付いた。タルタロスは、青年の髪の色については一切言及しなかった。
しかしルヴァイドは“茶髪の青年”と言った。そしてタルタロスはそれを訂正しなかった。
むしろ当たり前のように受け入れていた。つまりタルタロスの殺害した相手は、
“正気を失いE-2の城付近を彷徨っていた、茶髪の青年”ということになる。
では何故ルヴァイドは見ず知らずの被害者の髪の色を茶と断じたのだろうか。
それは、殺害された青年に心当たりがあったからだ。
心当たりがあり、真偽を確かめる必要性があった、だからカマをかけたのだ。
それはつまり、殺した相手が誰であるかによって、対処を変えねばならないということ。
たとえタルタロスがゲームに乗っていなくとも、排除せねばならない場合があるということ。
ここから導き出される結論は、ただひとつ――
「ランスロット・タルタロス、あなたは
リュナンを……リュナンを殺したのね……」
カトリは<火竜石>を両手で握り、タルタロスをねめつけた。
……タルタロスによるリュナン殺害と、アルマによるティーエ殺害。
二人の加害者は目の前におり、二人の被害者は思い出の中にいる。
しかし、この二つの殺人には大きな違いがある。正当防衛か故意か、ではない。
問題となるのはホームズ、そしてマグナ。彼らの存在が死の意味を変える。
ホームズはタルタロスを危険視し、内通の嫌疑までかけている。
タルタロスによって親友リュナンが殺害されたことを知れば、彼は一体どうするか。
ホームズはタルタロスとの対決を望むだろう。しかしタルタロスを信じているマグナ、
彼との信頼関係が回復しない限り、ホームズは不利な状況で戦わざるを得なくなる。
最悪の場合、マグナ共々殺害されることだって起こり得るのだ。
タルタロスがリュナンを殺害した、この事実が判明した時点で
タルタロスとホームズの対決は避けられないものとなる。
危険にさらされるのはホームズ本人や相棒のマグナだけではない。
そのとき二人のそばにいた者は皆、巻き添えになりかねないのだ。
彼らの代わりに剣を振うこと、それがルヴァイドが自らに課した贖罪だった。
だから、タルタロスの殺した相手がリュナンであったと判明した時点で、
ルヴァイドはタルタロス殺害を決断するだろう。そう、ホームズの名代として。
しかしカトリにはルヴァイド一人に危険を背負わせるなど出来なかった。
ルヴァイドには恩がある。たった半日の間だったが、彼はカトリを守ってくれた。
怪我一つなくホームズとの再会を果たせたのは、間違いなくルヴァイドのお陰といえる。
それにホームズの代わりに誰かが戦わなければならないなら、それは自分の役目なのだ。
何故なら自分にはそれを成せるだけの力があり、そして何より、彼を愛しているのだから。
「ホームズ、許して……私は……ああ……」
赤くまばゆく<火竜石>が輝き、カトリの意識は混沌に呑まれた。
◇ ◆ ◇
カトリの身体が光を放ち、私の身体は爆風によろめく。
次の刹那、濁流のような混沌が<竜玉石>から流れ込み、私の脳裏を圧倒した。
狂気と呼ぶにはあまりにも荒々しく精気に満ちたその思念は言語化不可能、
支離滅裂で思考の体を成さず、もはや感情ですらなかった。
情報過多であるがゆえに全てが無価値で無意味になる圧倒的な混沌に
心の内側を曝されていると、自分が消え失せ濁流になったかのような錯覚を覚える。
それでも私は<竜玉石>を手放さなかった。手放すなんて、出来なかった。
……あのとき、ティーエの殺害をカトリに告白したとき。
私はカトリに期待した。ラムザ兄さんを侮辱するような奇麗事を言ってほしいと。
そうすれば私は凶暴になれた。あのときのように、迷いのない殺人者になれた。
でも、実際にカトリが口にしたのは、予想もしなかった言葉だった。
カトリの指摘は、多分正しい。そう、私はラムザ兄さんの愛を疑っている。
肉親としては愛してくれているけれど、私の求める愛は決して得られないと思っている。
何故なら、ラムザ兄さんは、私を助けに来てくれたから。
ラムザ兄さんは決して個人的な理由では戦わない人。
弱者のため、他人のため、正義のために戦う人。ベオルブ家に相応しい人間として戦う人。
ラムザ兄さんは私に対する個人的な感情で剣を取るような人じゃない。
決して、私一人のためなんかに戦ったりしない。
つまり、私を愛していなかったからこそ、私を助けに来れたんじゃないかってこと。
だって、ラムザ兄さんは、個人的な感情で戦ったりする人なんかじゃないもの。
ううん、それが不満なわけじゃない。
そういう人だからこそ、最後まで諦めず、私に語りかけてくれたんだし。
そういう人だからこそ、私を救うことが出来たんだし。
そういう人だからこそ、私はラムザ兄さんのことを愛せるんだし。
それに何より、大好きなラムザ兄さんのしてくれたことだから。だから、不満なんかない。
ただ、私を助けてくれたのはみんなのため、ベオルブ家のため、正義のためなんだって、
私はちゃんと知ってるだけ。それが少し、ほんの少し寂しいだけ。
そうだったんだ。だから私はあの女のことが許せなかったんだ。
「あなたのために人を殺す人なんていないのに、どうしてそんなことをするの?」って。
「そんなことをしているのは、自分が愛されていないことに気付いているからでしょ?」って。
そんな風に言われたような気がしたから。
ラムザ兄さんの愛を得られない私の寂しさを見透かされたような気がしたから。
だからあの女の顔を徹底的に破壊しなきゃ気が済まなかったんだ。二度と甦って来ないように。
だって私は望んでないもの。ラムザ兄さんに、私自身の望む形で、愛されることを。
愛されることを望んでないのに寂しいなんて思うのはおかしなことだから、私はこれでいいんだ。
ラムザ兄さんを愛してしまった自分の全てを血で汚してこの世界に沈めて消して、
ラムザ兄さんを陽の当たる世界に送り出す、それしかもう、望んでなんか――
<竜玉石>から流れ込む濁流のような混沌が自分の全てを消してくれることを望んだ。
しかしそれを望んだ途端、流れ込む思念は穏やかになる。私はそっと目を開いた。
突如現れた狂える竜、巨大な竜と化したカトリとの交信に成功したようだ。
いや、交信というよりもこれは制御、或いは支配の類いだろうか。
苦しげだったはずの自分の顔が自然な笑顔に変わっていくのが分かる。
カトリを殺さなくて本当に良かった。カトリにこんなすごい力があったなんて。
石を見せてもらったときにちゃんと聞いておけばよかった。ちょっと失敗しちゃったわ。
でも、これからは私、カトリを絶対に手放さない。
カトリがいれば――この力があれば、ラムザ兄さんを光の中に還してあげられるもの。
カトリがいれば――あの優しさがあれば、寂しさを忘れなきゃいけないってことを忘れられるもの。
だからカトリを手放さない。だけど、そのためにはまず、あのルヴァイドって人を殺さなきゃ。
“ゲーム”に乗った人を殺して回るような危険人物、生かしておくわけにはいかないわ。
勿論、殺すのはカトリよ。仲間のところに戻れないように、罪悪感を植え付けなきゃ。
でも、ルヴァイドって名前の人が仲間にいるなんて聞いてなかったわ。どういう間柄なんだろう。
髪の色が似てるから、生き別れの兄妹だったりするのかしら。そういうのは駄目ね。
私だってラムザ兄さんと一緒になんかいられないんだから、カトリもお兄さんとお別れしなきゃ。
そして次はランスロット・タルタロスっておじさんだけど……、彼はすぐには殺さない。
だって、カトリが竜になったのは、このタルタロスって人を殺すためでしょ?
私のことを赦そうとしたカトリがそんな決断をするなんて、余程のことだわ。
カトリの態度を見る限り、リュナンのことは好きだけどティーエのことは嫌いだから
私を赦してタルタロスを赦さなかったってわけではないみたいだし……、
きっとあのタルタロスっておじさん、
ヴォルマルフみたいなろくでもない大人なんだわ。
さっきはラムザ兄さんを盾に取られて悔しい思いをしたけれど、
相手が私以上の外道なら、引け目を感じる必要なんてないわよね。
むしろ、ああいう偉そうなおじさんにはお仕置きが必要なんじゃないかしら。
私はカトリに命令を下すべく<竜玉石>に意識を傾けた。
【D-3/平原/初日・夜中】
【アルマ@FFT】
[状態]:健康、身体の疲労(中)、常軌を逸する狂気と信念
マバリア効果中(リレイズ&リジェネ&プロテス&シェル&ヘイスト)。
[装備]:手斧@紋章の謎
死霊の指輪@TO
希望のローブ@サモンナイト2 竜玉石@タクティクスオウガ
[道具]:支給品一式、食料一式×4、水×3人分
折れ曲がったレイピア@紋章の謎、ガストラフェテス@FFT、
ガストラフェテスの矢(残り2本)、
アメルの首輪
筆記用具、ヒーリングプラス @タクティクスオウガ
キャンディ詰め合わせ(袋つき)@サモンナイトシリーズ
(メロンキャンディ×1、パインキャンディ×1 モカキャンディ×1、ミルクキャンディ×1)
[思考]0:ラムザ兄さん、もしくは自身の優勝。
1:利用できるものは何でも利用する(他者の犠牲は勿論の事、己のいかなる犠牲すら問わない)。
2:ラムザ兄さんが生きていることを確認したい。
3:竜化したカトリにルヴァイドを殺害させる。
4:タルタロスと情報交換。カトリを手元に置くため、彼女とは仲良くする。
5:
アルガスや
ウィーグラフを発見すれば、殺害してクリスタルを回収したい。
(
アグリアスは利用価値なしと判断したら殺害してクリスタルを奪う。)
[備考]:竜玉石の力により、竜化したカトリとカトリの召喚したドラゴンゾンビを
支配下に置いています。
【カトリ@ティアリングサーガ】
[状態]:竜化中(暴走、アルマの支配下)
[装備]:火竜石@紋章の謎、おまもり@ティアリングサーガ
[道具]:
ゾンビの杖@ティアリングサーガ、支給品一式(食料を一食分消費)
[思考] 0:みんなで生還
1:竜化/暴走中につき思考不可。
[備考]:「火竜石」の力で竜化しました。一定時間経過後、自動的に人間に戻ります。
暴走状態ですが、アルマの支配下にある限り、無差別に人を襲うことはありません。
尚、火竜石は本来はマムクート専用であり、カトリの心身に多大な負担をかけます。
竜化すれば暴走する可能性が極めて高く、使用するたびに心身にダメージを受け、
いずれは廃人になるでしょう。
:カトリの変身した竜がネウロンか火竜かは次の書き手の方にお任せします。
:ホームズの不明支給品「おまもり@ティアリングサーガ」を受け取りました。
一度だけ死亡確定ダメージを無効化することが出来ます。
装備しているだけで自動的に効果が発動するアイテムです。
:召喚したドラゴンゾンビが付近にいます。こちらもアルマの支配下にあります。
:
ハミルトンからブリュンヒルドとタルタロスに関する情報を得ました。
:マグナとルヴァイドからレイム・メルギドス、
キュラー、
ガレアノ、
ビーニャに関する情報とサモン世界の基礎知識を得ました。
【ルヴァイド@サモンナイト2】
[状態]:健康
[装備]:バルダーソード@タクティクスオウガ
[道具]:首輪探知機、支給品一式(食料を一食分消費)
[思考] 0:主催者の打倒
1:ゲームに乗った者の抹殺・排除。
2:タルタロスはたとえゲームに乗っていなくても抹殺する。
3:基本的には単独行動。
4:カトリの保護。竜化したカトリを巻き込まないようにする。
[備考]:ハミルトンからブリュンヒルドとタルタロスに関する情報を得ました。
【ランスロット・タルタロス@タクティクスオウガ】
[状態]:健康、マグナに対する底無しの悪意。
[装備]:ロンバルディア@TO、サモナイト石(ダークレギオン)
[道具]:支給品一式(食料を1食分消費しています) ドラゴンアイズ@TO外伝 、リュナンの首輪
[思考]1:生存を最優先
2:
ネスティ、または
カーチスとの接触を第一目的とする。
3:抜剣者と接触し、ディエルゴの打倒に使えるか判断する。
抜剣者もまた利用できないと判断した場合は、優勝を目指す。
4:ラムザとホームズに対するカードとして、アルマとカトリを支配下に置く。
5:いかなる立場を取る場合においても、マグナだけは必ず後悔と絶望の中で殺害する。
最終更新:2011年01月28日 13:50