BATTLE ROYALE 世界の終わりまで戦い続ける者たち(後編)

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BATTLE ROYALE 世界の終わりまで戦い続ける者たち(後編)   ◆U1w5FvVRgk.



 時間は少し遡る。

 三人が走り去ってから、桐山和雄は木陰から姿を現した。
 結局、蒼星石たちとはここに来るまでの間に大した話はできなかった。
 話せたのは出会うまでの出来事と、お互いの知り合いに関しての情報だけ。
 といっても、知り合いについては外見情報と殺し合いでどのように動くかという予想だけだ。
 アルターとかいう能力についてなどは聞けていない。
 なので、まだ二人を切り捨てる時ではないと桐山は判断し、彼女たちを追いかけることにした。

 ちなみに、桐山は自分のクラスメートに関しては『誰とも親しくないのでよく分からない』とだけ答えた。
 まず千草とは話したことも無いので本当にどう動くか分からない。
 三村、織田、稲田は桐山が一度殺した相手だ。
 三村と稲田は利用できる可能性は低いが、情報を持っている可能性はある。
 だから無闇に危険人物と言わず、分からないとだけ答えた。
 残りの織田だが、桐山からすればどうでもいい相手でしかない。
 どうやら既に蒼星石と遭遇したらしい。
 それから時間もあまり経過してないので、何かしらの情報を持っている可能性は低い。
 利用もできそうにないので、次に見かけたら殺すだけの存在とだけ認識した。

「あの」

 桐山が行動を起こそうとした矢先、唐突に背後から声を掛けられた。
 振り向くと金色の髪のおとなしそうな少年――北条悟史が立ちすくんでいた。
 両手には刀を握り、刃先を桐山に向けている。
 警戒されていると判断し、桐山はまず自分の立場を明かすことにした。
 まだ情報を聞き出していないので、彼を殺すかどうかの判別が付いていないというのもある。

「……俺は桐山和雄。あの二人の同行者だ」
「そ、そうなんですか? よかったぁ」

 桐山がそう言うと、悟史はあからさまにホッとした表情になり刀を下げた。
 その顔はまだ青い。
 あの大蛇のような化け物を目にすれば無理も無いだろう。
 敬語を使っているのは、桐山を年上だと思っているのか。
 確かに中学三年生に見えないほど、桐山は大人びて見える。
 来ている学生服から高校生と思われても仕方ないだろう。
 可能ならば今すぐ悟史と情報交換をしたいが、今は蒼星石たちを追う方を優先すべきだ。
 悟史に気遣いの言葉も言わず、桐山は歩き出す。

「あの、桐山さん。どこに行くんですか?」
「……二人を追いかけて、浅倉を殺す」
「え、そんな、どうやって」

 戸惑いがちな悟史の問いはもっともだ。
 あんな超常の戦いを目にすれば、とても介入する気は起きない。
 流石の桐山でも、生身では勝てないだろう。そう、生身では。
 桐山は答えずにデイパックからランタンと、黒地に金色の円が描かれたカードケースを取り出す。
 付属の説明書を読み終えるとそれを投げ捨て、ランタンのガラス部にカードデッキを反射させた。

「変身」

 抑揚の無い声で呟き、カードケースを腰に出現したベルト――Vバックルのくぼみにセットした。
 左右から鏡像が重なり粒子が弾けると、そこには銀色の篭手を右手に装備した漆黒のライダーが立っていた。
 オルタナティブ・ゼロ。
 香川英行が神崎士郎に対抗する為に生み出した擬似ライダーである。
 後ろで悟史が驚いている気配がするが構わず、桐山はベルトから取り出したカードを右腕の篭手に通す。

『WHEEL VENT』

 女性型の機械音声が鳴ると、ランタンからメタリックな人型の怪物が飛び出し、その身を変形させる。
 両腕が前輪に、一つに揃えた両足からは後輪が現れ、体は車体になっていく。
 完成したのは一台のバイク――サイコローダー。
 桐山はシートに座ると、一連の出来事に唖然としていた悟史の方を向いた。

「後ろに乗れ」
「え? 僕も?」
「あの二人もお前も、置いていって死なれたら面倒だ」

 情報交換まではという意味だったのだが、悟史は仲間と自分の身を案じてくれたと思ったらしい。
 感じ入った様子で躊躇なくサイコローダーに乗ると、桐山にしがみついた。
 心なしか顔色も良くなってるように見えた。

「行きましょう」
「ああ」

 アクセルを吹かし、豪快なエンジン音を轟かせながらサイコローダーが発進した。

 桐山たちが蒼星石たちに追いつくのに差して時間は掛からなかった。
 タイミングが良かったのか、蒼星石に危機が迫っていたのでそのままの速度で体当たり攻撃を慣行。
 赤紫色のエイを吹き飛ばし、こうして浅倉威との戦いに赴くことになった。

 ■  ■  ■

「フハハハハハハハハッ! もう一人ライダーが居たとはな! 嬉しいぜェ!」

『SWING VENT』

 エビルダイバーの尾の形をした鞭を手にすると、浅倉は新たなライダーに突貫していく。
 対する桐山は動じることなく、カードを右手のバイザーに通す。

『SOWRD VENT』

 カードが青白い炎を上げながら燃えると、桐山の右手に刃がノコギリ状の剣が現れる。
 風を切りながら迫る鞭を剣で絡め取ってから引き寄せる。
 浅倉がつんのめりながら近づいてくると、その顔面に左の拳をお見舞いした。
 くぐもった声を上げて浅倉が数歩下がると、剣に絡まった鞭を解いて左手で振るう。
 今度は火花を散らしながら蹈鞴を踏んだところに、追撃とばかりに剣による突き。
 再び火花が起きるなか浅倉は突き飛ばされ、地面に仰向けに倒れた。
 止めを刺そうと桐山が走り寄ろうとすると、側面から放たれた黄色の液体に阻まれた。
 桐山の前方の地面がジュウと音を上げて溶けていく。
 主人の危機を救おうと駆けつけたベノスネーカーの一撃である。
 その隙に浅倉はゆっくりと立ち上がっていた。

「強いなぁ。もっと楽しもうぜ……あ?」

 浅倉が立ち上がったところで異変が起こる。
 その体から粒子状の物質が湧き上がり始めたのだ。
 時間切れが近いことを知らせる合図である。

「チッ……もう終わりか」

 不満を露にして浅倉が毒づいた。
 浅倉からすれば、漸くメインディッシュが来たと思ったら少ししか食べられない気分だろう。
 それでも退く素振りを見せず、カードを引き抜く。
 桐山も鞭を捨てると、合わせるようにカードを抜く。
 互いに手にしたのは【FINAL VENT】のカード。
 次で決着を付けるという意思表示だった。


「すごい……」

 あすかは感嘆の声を上げた。桐山の近くで戦いを眺めている悟史も似たような様子だ。
 浅倉が桐山に向かっていったときは援護しようかとも思ったが、その必要は無かった。
 あれだけ苦戦していた浅倉を、桐山はあっさりと地に倒したのだ。
 やはり人間が纏った方がライダーの性能が発揮されるのか、それとも桐山の実力か。
 あすかにはどちらかは分からなかったが、とにかく感心するしかなかった。

(いや、感心してる場合じゃない。敵は浅倉だけじゃないんですから)

 あすかの気を引き締めなおすかのように、その耳に銃声が飛び込み、銃弾が宝玉の障壁に阻まれた。
 あすかは周囲に目を配る。
 大蛇が浅倉の加勢に向かったので、水銀燈たちの狙いはあすかに移っていた。
 エタニティ・エイトの障壁はそう簡単に破れはしないという自信はあるが、二対一ではどうなるか。
 上空には水銀燈、前からは銃を携えた少年。
 どうにか桐山が加勢に来るまで持ち堪えねばと、あすかは決意した。


 水銀燈は玉使いと悟史のどちらを攻撃すべきか迷っていた。
 手っ取り早いのは悟史だ。
 気絶してる蒼星石もろとも殺すのは容易いだろう。
 かといって何か強力な支給品を持っている可能性もあるので油断できない。
 桐山が近くに居るのもよくない。

(時の石版みたいなのがあったら厄介よねぇ。やっぱりスザクと協力して玉使いから確実に仕留めた方がいいわね)

 狙いを玉使いの少年に定め、水銀燈は黒羽を向けた。



 その時、ベノスネーカーが出現したときに匹敵する地響きと、猛獣を思わせる咆哮が轟き、
 辺りの木々をざわめかせた。
 気絶している蒼星石を除く六人がそちらに目を向けた。いや、向けざるを得なかった。
 目にしたのは50メートルほど先に3メートルはある鋼の巨人が堂々と屹立している光景。
 咄嗟にスザクはナイトメアフレームを、あすかは劉鳳の絶影のような操作型アルターを思い浮かべた。
 水銀燈、桐山、悟史は黙って注視していた。
 浅倉は、

「北岡ああああああああ!!」

 吠えていた。
 北岡。その名が他の五人の耳に届いた瞬間、彼らは巨人の背後に誰かが立っていると気がついた。
 しかし、確かめている暇は無い。
 経験の賜物か、六人の直感はいずれも訴えていた。

――――あれはヤバい、逃げろという最上級の危険信号を。

 直感に従い、各々はそれぞれに動き出す。

 あすかが宝玉を飛ばす。
 悟史が蒼星石を抱えたまま走り出す。
 水銀燈がこの場を離れようと飛ぶ。
 スザクの瞳が輝く。
 桐山と浅倉がカードをセットする。
 ミラーモンスターたちは水溜りに向かう。



 五秒ほどの間を置き、巨人からは破壊の渦が発射された。

 ■  ■  ■

 運が良かったのだろう。
 無用心にも放送を行った少年のもとにレイが辿り着いたとき、そこには戦闘の跡だけが残されていた。
 抉れた地面や木に、所々南に向けて薙ぎ倒されている木々。
 近づく間にも響いていた音からしても、ここで激しい戦闘があったのは間違いない。
 この有り様を見れば銃が無いレイでは傍観に徹して、隙を見て漁夫の利を狙うしかなかっただろう。
 この先に行けばまだ参加者が居るかもしれないが、乱戦に巻き込まれるのは好ましくない。
 戦力不足は分かっていた事だが、どうにも不愉快な気分になりながらレイが引き返そうとしたときだ。
 足元に捨てられていた【オルタナティブゼロのデッキの説明書】に気付いたのは。

 桐山和雄は一つだけミスを犯していた。
 説明書が付属していない支給品の可能性を考えていなかったのだ。

 説明書を読み終えると、レイにデッキの使用を躊躇する気持ちは無くなっていた。
 自分の持つカードデッキを鉈に反射させて変身。
 正式な名称こそ分からないが、レイの肉体は仮面ライダーというスーツに無事包まれた。
 緑色の下地に上半身の殆どを覆う銀色の装甲。
 スーツよりも鎧と言った方が相応しい外見だった。
 ベルトから何枚かのカードを引き出してみると、どれも大砲などの絵が描かれていた。
 どうやら、この仮面ライダーは遠距離からの攻撃を得意にしているらしい。
 好都合だ。ならば、レイの取る戦法は決まっている。
 最大火力【FINAL VENT】に拠る一撃でこの先に居る参加者を一網打尽にする。
 それがレイの選んだ合理的な方法だった。


「北岡ああああああああ!!」

 誰かがこちらに向けて叫んでいる。
 声からして山小屋に居た男のものだろう。
 どうやらレイを北岡という人物と勘違いしているようだ。
 その名前に心当たりは無いが、もしかしたらこのデッキを持っていた男のことかもしれない。
 どちらにしろ、レイにはどうでもいいことだ。
 この先に居る連中の殆どとは二度と会うことは無いのだから。
 目の前に出現した鋼の巨人。
 色こそ赤銅色と緑色で違うものの、その重厚さはレイに愛器であるヴォルケインを思い起こさせた。
 渇いた心に僅かな感傷が湧くが、次の瞬間には蒸発させて巨人の背中に銃をセットする。
 巨人の両腕が上がり、右手のバズーカと左手のバルカン砲が標的に向けられた。
 次いで脚部の大砲、胸部の装甲が開いて無数のミサイルが露になっていく。
 最後に頭部、両腕、両脚の砲に光が収束していき、準備は完了した。

                エンド・オブ・ワールド
 そうして、レイは躊躇なく世界の終わりの引き金を引いた。


 轟音と共にビーム砲、バズーカ、バルカン砲、レーザーが連射され始め、全てのミサイルが迸る。
 一瞬の間を置いて着弾を知らせる爆音が轟き、爆風と爆炎が巻き起こった。
 レイのもとにも炎と風が向かってくるが、それらは眼前に立つ巨人が盾となり防ぐ。
 それでも、この業火が人を焼き尽くすには余りあるものだとは解った。
 やがて砲撃と衝撃が治まると、レイは巨人から銃を抜き、後方に駆け出した。
 戦果は確認しなくとも予想が付く。
 爆心地には何も残っておらず、生存者も絶望的だ。
 レイと同じく変身している者たちは分からないが、それでも制限時間的に追っては来れまい。
 予想以上の性能と威力。
 レイの仮面ライダーへの評価はそれに尽きた。
 今も体は生身の時より数段上の速度で走っている。
 まだ薄暗い森もバイザー越しに見ればはっきりと視認できる。
 身体能力の向上と、レイに適した圧倒的な破壊力を持つ砲撃武器の数々。
 説明書に拠ると一度使えばしばらく間を置かねばならないようだが、あの威力を考えれば納得の制限だ。
 条件付きとはいえ圧倒的な力を得たわけだが、レイの心には慢心も昂りも無い。
 そんな感情などカギ爪の男への憎悪以外は捨て去っている。
 走りながらも、レイの心中は相変わらず合理的に物事を考えていた。

(確かにこれは強力だが、制限がある以上は使い時を見極めねばいけないな。
 使用できない間に使える銃も必要だ。
 それまでは今まで通り仕留められる相手だけ殺すのが手堅いか……)

 先ほど始末した連中の持ち物に銃ぐらいあっただろうが、纏めて葬るチャンスだったから仕方ないと諦めた。
 復讐鬼が常時使える武器を手にするのは、まだまだ先になりそうだ。


【一日目/早朝/C-7 中央部】
レイ・ラングレン@ガン×ソード】
[装備]ゾルダのカードデッキ@仮面ライダー龍騎
[所持品]支給品一式×2、鉈@バトルロワイアル、不明支給品0~2(確認済み)
[状態]健康、ゾルダに変身中(FINAL VENTを使用済み)
[思考・行動]
0:この場を離れる。
1:優勝を目指す。
2:デッキの力はいざという時に使う。銃が手に入るまで無理はしない。
3:願いを叶える権利が本当なら、カギ爪の男を連れて来させる。

[備考]
参戦時期は5話終了時。
※デルフリンガーが喋ることに気付いていません。
※カードデッキの使い方を理解しました。
※レイがどこに向かうかは次の書き手にお任せします。

 ■  ■  ■

「ハァ……ハァ……北岡ぁ!」

 狂気だけで構成された咆哮が荒い息と共に吐き出される。
 時間切れにより変身は解けているが、浅倉威は生きていた。
 エンド・オブ・ワールドが発射される間際、彼はメタルゲラスの【FINAL VENT】を使用。
 現れたメタルゲラスと共に森に向かって突撃し、間一髪爆心地から逃れ、生を掴み取ったのだ。
 だが、彼にしてみればそんなことはどうでもよかった。
 北岡だ。一時間程前に遭遇した北岡が、今度はゾルダに変身して現れたのだ。
 浅倉の体内に湧き起こる感情は歓喜と激怒。
 今度こそ宿敵を仕留められるという喜びと、戦いの邪魔をされた怒り。
 それらをない交ぜとしたものが浅倉を滾らせる。
 一刻も早く、北岡を追わねば。
 デイパックからペットボトルを取り出し、月明かりを反射させる
 それにカードデッキをかざすと浅倉の腰にVバックルが――現れない。

「あぁ?」

 訝しげに唸りながら、浅倉は二度三度と同じ動作を繰り返すがやはり何も起こらない。

「そうか。しばらく使えないんだったな」

 一時間前に北岡と遭遇した後、変身が解けたので浅倉は再変身しようとした。
 が、カードデッキは何の反応も示さなかったのである。
 さっきは使えたことから、一度使った後は時間を置けばまた使えると浅倉は理解した。
 しかし、分かっていても腹が立つのは人の性だ。
 苛立ち混じりに東へと目を向ければ、白み始めた空を夜に戻すかのように黒い猛煙が昇っていた。
 浅倉の背中にある古傷が疼いた。
 醜く焼け爛れた火傷の跡。
 今の浅倉を形作る原点の光景が思い出された。

「ハハハッ……最高だったな、あれは」

 浅倉にとって火事とは特別なものだ。
 何しろ自分の家に放火して、両親を焼き殺したのが彼の最初の殺人なのだから。
 燃え盛る我が家を眺めたとき、浅倉のイライラは人生で最も解消された。
 次点は実の弟である暁をベノスネーカーの餌としたときだろうか。
 北岡を殺せば、それらに匹敵するほどイライラを解消させてくれるだろう。
 自分のデッキが使えないなら、北岡のデッキも一度使えばしばらくは使えないはずだ。
 生身の北岡なら殺すのは容易い。
 問題はライダー状態で逃げた北岡に追いつけるかどうかだが。

「いいぜ、次はお前と鬼ごっこだ。待ってろよ北岡」

 狂気に彩られた笑みを浮かべながら、浅倉は駆け出した。
 追っているのが別人だと分かったとき、彼のイライラがどうなるのかは定かではない。


【一日目/早朝/D-7 西部】
【浅倉威@仮面ライダー龍騎】
[装備]なし
[所持品]支給品一式×2(浅倉とルルーシュ)、王蛇のデッキ@仮面ライダー龍騎(二時間変身不可)、
    FNブローニング・ハイパワーのマガジン×1(13発)、不明支給品(未確認)2~3
[状態]疲労(大)、全身打撲、イライラ(中)
[思考・行動]
0:ゾルダを追う。
1:北岡秀一を殺す。
2:大剣の男(五ェ門)を殺す。
3:全員を殺す。

[備考]
※ゾルダの正体を北岡だと思っています。
※ライダーデッキに何らかの制限が掛けられているのに気付きました。

 ■  ■  ■

(僕は……壊れたのかな?)

 蒼星石が意識を取り戻して最初に思ったのがそれだった。
 彼女が最後に憶えているのは、自分が赤紫色のエイに体当たりを喰らった場面だ。
 それから先は何が起こったのかは分からない。
 もしかしたら、既に自分の体は砕けてしまったのでは? とまで考えていた。
 そんな状態の彼女が最初に知覚したのは、鼻腔に届いた焦げ臭い臭い。
 次は肌に感じた僅かな熱気。
 うっすらと開けた目が最初に捉えたのは――

「悟史君?」

 顔を苦しげに歪め、虫の息で呻き声を上げる北条悟史の姿だった。
 いきなりの事態に蒼星石は混乱を禁じ得ないが、何とかざわめく心を落ち着かせて状況把握を行う。
 今の蒼星石は横になってる悟史に抱き締められているようだ。
 どうにか悟史の腕から抜け出し、悟史の状態を確認しようと浮遊した。

「……酷い」

 そんな陳腐な言葉しか出なかった。
 悟史の背中は全面が焼け爛れ、顔面にもいくつか火傷が出来ていた。
 背中の一部は炭化しており、焼け溶けたデイパックとシャツが肌に張り付いている。
 いくつも水脹れが出来ており、血液の蒸発する鉄臭い臭いまでして、蒼星石は思わず吐き気を催した。
 どうしてこんなことに、と思案したところで遠目に上がる煙と炎に気付く。

(多分、あそこは僕たちが浅倉と戦っていた場所だ。でも、何でC-7に残してきた悟史君があそこに?
 まさか、和雄君と一緒に追いかけてきたのか!?)

 それなら桐山も巻き込まれている可能性がある。
 いや、桐山だけでなくあすかもこのようになっているかもしれない。
 慌てて周囲を見渡すが、倒れた桐山やあすかの姿は発見できなかった。
 探しに行きたいが、悟史をこのままにしてもおけない。
 恐らく彼は蒼星石を守ってこうなったのだ。

(なら、彼がこうなっている原因は僕にもある)

 罪悪感に悩まされ始めた蒼星石の耳に、再び悟史の呻き声が届いた。

「うぅ……沙都、子……」

 こんな状態でも妹の身を案じていた。
 蒼星石に悟史を助ける手段は……無い。
 つまり、悟史は妹と再開できないままここで死ぬ。
 それが蒼星石にはとても悲しかった。
 悟史の妹は兄の死を悲しむだろう。
 蒼星石ももし姉である翠星石が死んだらと思うと、胸が締め付けられるのだから。
 地に下りた蒼星石は、そっと悟史の右手を握り締める。

「しっかりするんだ! 君は妹を守るって言ってたじゃないか。なら、こんな所で死んだら駄目だ!」

 無力だった。
 こうして手を握りながら呼びかけるしかない蒼星石は、ただただ己の無力を痛感するしかなかった。
 悟史からの返答はない。それでも、蒼星石は声を掛けるのを止めなかった。
 そして、数分が経過して。

「むぅ……」
「……あっ」

 苦悶に歪んでいた悟史の顔が、急に緩んだ。
 同時に蒼星石が握る手から、スッと力が抜けた。
 眼前の少年の命が失われたと分かり、蒼星石は思わずギュッと悟史の手に力を込めた。

(お礼すら言えなかった……)

 悲しみに打ちひしがれる蒼星石は気付かない。
 彼女の背後の木陰に、デイパックが焼かれる際にこぼれた贄殿遮那が突き立っている事に気付かない。
 宝具とまで呼ばれる大太刀の存在に、蒼星石が気付くかどうか。それはまだ分からない。


【北条悟史@ひぐらしのなく頃に 死亡】


【一日目早朝/D-7 南西部】
【蒼星石@ローゼンメイデン(アニメ)】
[装備]防弾チョッキ@バトルロワイアル、
[所持品]支給品一式、ランダム支給品(確認済み)0~2
[状態]疲労(中)、胸部に打撲
[思考・行動]
1:ここから離れる。
2:自分とあすかの仲間(カズマ、劉鳳、クーガー、かなみ、真紅、翠星石)を集めて脱出する。
  千草、三村、稲田は保留。織田、騎士服の男(スザク)、水銀燈は警戒。
3:あすかと桐山が心配。生きてるなら合流したい。
4:襲ってくる相手は容赦しない。

[備考]
※nのフィールドにいけない事に気づいていません。
※あすかと情報交換をしました。
※桐山とはお互いの知り合いの情報しか交換していません。
 ただし能力(アルター、ローゼンメイデンの能力)に関しては話していません。
※蒼星石の背後に贄殿遮那@灼眼のシャナが突き立っています。
 悟史のデイパックと拡声器@現実、ハリセン@現実は燃え尽きました。

 ■  ■  ■

「まったく。とんでもない威力ね」

 衣服や体に付いた汚れを掃いながら、水銀燈は呟いた。
 空に退避こそ出来たものの、爆風の余波を受けてここまで吹き飛ばされたのだ。
 荒れ狂う爆風の中を墜落しないように飛ぶのは一苦労だった。
 スザクは無事だろうかと思考し、死んでいたらそれはそれで仕方ないと一瞬で切り替えた。
 彼女にとって、スザクは道具に過ぎない。
 壊れたら惜しいとは思うが、悲しくはなる理由などありはしない。
 それよりも水銀燈には気になる事があった。
 蒼星石の安否だ。
 別に心配している訳ではない。
 ローゼンメイデンが壊れれば核となるローザミスティカが現れる。
 水銀燈が心配しているのはこっちだ。
 だが、あの火の勢いを見る限り回収は絶望的だ。

「あれじゃあ蒼星石も粉々のジャンクになってるわ……ねぇ、貴方もそう思うでしょ?」

 そう言いながら、水銀燈は傍らに横たわる存在へと目を向けた。
 うつ伏せに倒れている橘あすかに。
 全身に土や泥が纏わり付いており、出血も足を始め至るところから出ている。
 火傷も数え切れないほどに見受けられた。
 どう見ても致命傷。いや、もう息絶えているのだろう。
 水銀燈も死体に用は無い。
 とりあえず、彼が背負っているデイパックだけでも頂こうと近づく。
 その時、突然あすかの傍の土が緑色の宝玉となり、水銀燈の額に取り付いた。

「なっ……!?」
「……かかりましたね」

 顔がぎこちなく上がる。擦れた声だった。
 擦り傷や火傷を作り、顔の半分を血で染めているのに、その顔は薄っすらと笑っていた。
 橘あすかは生きていた。


(蒼星石は……桐山や北条さんは無事でしょうか……)

 ぼんやりとした意識であすかは考える。
 あの時、あすかは六つの宝玉を蒼星石を抱えた悟史に放ち、遠くに運ばせたのだ。
 上手く逃がせたかは分からない。とにかく時間が無かった。
 結果的に彼は逃げ遅れ、爆発の直撃を受けた。
 宝玉の残り二つを障壁代わりにしたが、そんなものは紙の盾も同然だった。
 体が爆発と爆風に翻弄され焼かれながらも、アルターの操作を止めなかったのは執念か。
 結果は見ての通りで、全身余す所なく負傷した彼は死人も同然の状態になった。
 もし傍に水銀燈が現れなければ、このまま力尽きていただろう。
 だが、彼は今一度奮起した。
 目の前に立つ敵を倒すために。

 手が震える。目がよく見えない。足の感覚が無い。とても寒い。息がうまくできない。
 先ほどからあすかの脳裏に恋人であるキャミィと今までの人生の端々が浮かぶ。
 走馬灯というものだとあすかは思った。
 自分でも判っていた。橘あすかはもう助からないと。
 なら、どうしてまだ足掻こうとするのか。
 このまま死出の眠りに就くことも出来たのに、なぜ水銀燈にエタニティエイトを向けているのか。
 あすかにもよく分からない。
 だが、カズマなら、劉鳳なら、クーガーなら、最期の瞬間まで足掻くと思ったのだ。
 あすかの知る三人は例え死ぬとしても最後まで抗うような者たちであり、それだけの力を持っていた。
 あすかにはカズマの拳は無い、劉鳳のような絶対の信念も無い、クーガーの速さも持っていない。
 だから、これは橘あすかという一人の男が持つ意地だ。
 それだけでも彼らに負けたくはないと、意地を張っているだけだ。
 敵とはいえ、死の旅路に女の子を道連れにするなど褒められる所業ではないだろう。
 それでも、これで仲間たちに危険が及ぶ可能性が減らせるのなら構わなかった。

「離、しなさい!」
「お断り……します」

 抵抗する水銀燈に負けないよう、あすかも集中する。
 全身とは言わない、相手の右手だけ操れればよかった。
 徐々に、徐々にだが水銀燈の右手が本人の意思に逆らい持ち上がっていく。
 その細い指先を自らの右目に向けて。
 水銀燈の頬が引きつった。

「あんた、まさか……死に損ないがふざけないでよ!」

 あすかの思惑に気付いたのか、水銀燈も抵抗を一層強める。
 しかし、右手は止まらない。
 自分の手が命令を利かず、自分の目から体を貫こうと迫ってくる。
 それはどんな気分だろうか。確実なのは間違いなく恐怖を感じるという事だ。
 外道な行いだなと、あすかは殆ど働かなくなった頭で思った。

「本当に、馬鹿じゃないの! どうせ、蒼星石たちはもう死んでるわよ! なのに……どうして頑張るのよ!」
「ええ……僕は、ただの馬鹿です。だから……皆が生きてると信じます」

 止めとばかりにもう一つ宝玉を作って飛ばし、残された全ての力を込める。
 それで限界だった。
 視界が暗くなり、全身が弛緩していく感覚を味わう。
 そんな状態のあすかが最後に耳にしたのは陶器が割れるような音と、

「うああああああああああああああああッ!!」

 死に行く身にもはっきりと聞こえる少女の絶叫だった。
 決して誇れるものではないが意地は貫いた。
 安堵こそ感じるが、やはり女の子の叫び声など気分の良いものではない。
 最後にそんな事を思いながら、橘あすかの意識は永遠に途絶えた。

【橘あすか@スクライド 死亡】

※あすかの遺体の背中にデイパック(支給品一式、不明支給品0~2)があります。

「あぁぁぁあぁあああ!!」

 服が汚れる事もいとわず、右目を左手で押さえながらその場に膝を付く。
 耐え難い痛みと喪失感が全身を駆け巡る。
 認めたくない。認められるはずがない。
 左目で右手を見てみれば、そこには半分に割れた球体だったもの。
 水銀燈の右目だったものが乗っていた。
 パーツの欠けた人形に存在価値など無い。
 最早それはただのジャンクでしかないのだ。
 怖かった。ジャンクになるのが水銀燈には耐えられなかった。

「嫌よ……そんなの嫌よぉぉぉぉぉぉ!!」

 己の体を掻き抱く。
 残った左眼から止め処ない涙が溢れ、次々と地面に落ちていく。
 傷物にされた人形の未来は、彼女の右目に出来た空洞と同じくひたすらに真っ暗だった。


【一日目早朝/D-7 東部】
【水銀燈@ローゼンメイデン(アニメ)】
[装備]無し
[所持品]支給品一式×3、メロンパン×5@灼眼のシャナ、
     農作業用の鎌@バトルロワイアル、不明支給品0~3(確認済み、武器では無い)
[状態]疲労(中)、両腕に軽症、右目喪失、深い悲しみ
[思考・行動]
1:???

[備考]
※参戦時期は蒼星石のローザミスティカを取り込む前です。
※スザクと情報交換をしました。
※ゾルダの正体を北岡という人物だと思っています。

 ■  ■  ■

「……う…………うぅ……」

 呻き声を上げて、織田敏憲は目覚めた。
 体の感覚からして、自分がうつ伏せに地面に倒れているのだと分かる。
 何が起こったのかと身を起こそうとして、脇腹に走った激痛が全てを強制的に思い出させた。

(そうだ、俺はあの下品な暴力奴僕の奴に……)

 銃弾を回避された後の事は分からないが、とにかく自分は気絶させられたらしい。
 背中に手を回してみるがデイパックは無かった。どうやら奪われたようだ。
 高貴な自分の荷物に手を出した奴に織田は怒りを覚えるが、一つの疑問が怒りをひとまず抑えた。

(どうして、オレは生きているんだ?)

 あの状況で生き延びれる可能性は低いはずだ。
 少なくとも自分ならさっさと殺しておくと考えて――織田の脳裏に一つの閃きが迸った。

「イヒッ、イヒヒッ、イヒヒヒヒヒッ」

 耳に障る笑い声だった。
 ニキビ面を醜悪に歪め、織田は哄笑を上げ続ける。
 今回生き延びた事で織田は確信した。
 これは天の意思だと。天が自分を生かそうとしているのだと。

「やはり、高貴なる神は高貴なオレの生存を望んでいる!
 あの状況から助かるだなんて正に運命、神の思し召し!
 そう、生き延びるべきなのは高貴なオレだァ!!」

 膝をついた体勢ながら、織田は天に両腕を突き上げ勝ち鬨を挙げた。
 腹の底から湧き起こるありったけの叫びに――――天は答えてくれた。
 唐突に織田の背後から足音が聞こえてくる。
 ピタリと、織田の動きが停止した。
 喜悦に溢れていた顔に今度は不安を湛えながら、ゆっくりと首だけを背後に向ける。
 十メートルほど先に居たのは黒い鎧のようなものを纏った誰か。
 体から細かい粒子を上げながら、織田に向けて歩みを進めている。
 どう見ても友好的には思えない上に、織田の全身に何故か怖気が走り、冷や汗まで掻き始めていた。
 自分はあれを知らないはずなのにどうしようもなく怖かった。
 本能か直感かは解らないが、体のいたるところが危険信号を発していた。

 織田は反射的に逃げ出そうと慌てて片膝を立てて――それを認識した黒い戦士は一足飛びに近づく。
 続いて立ち上がろうと体を起こして――黒い戦士は瞬時に織田の背後に立つと、彼の首に手を伸ばし。
 首に圧迫感を感じた次の瞬間、織田は首からブチッという音を聞いた――動脈ごと首の肉を引き千切った。
 首元から液体が噴出する感覚がした途端、織田の体が弛緩した――噴き出す血液が鎧に黒と赤の斑を作る。
 織田は三度地面に倒れ伏した――その時、鎧がガラスの割れるような音と共に砕け散る。
 急速に湧き上がる眠気に呑みこまれながら、織田は目だけを横に向けて――悠然と桐山和雄が佇んでいた。
 恐怖の象徴を認識した瞬間、織田は口と目を限界まで見開いて意識を手放した――桐山は黙って見ていた。

 織田には知りようがないことだが、桐山は幼少時に卓越した才能から“神の子”と呼ばれていた。
 その桐山が止めを刺しに来たのが、思い上がった織田に対する天の思し召しだったのかもしれない。

【織田敏憲@バトルロワイアル 死亡】

 同じ人間を二度殺すという希有な経験をしても、桐山には何の感慨も湧かなかった。
 ただ織田からは何の情報も得られない可能性が高く、利用もできそうにない。
 だから即座に殺したに過ぎない。
 南西の方角を向けば、今も炎と煙が濛々と立ち込めている。
 肉体を超加速させる【ACCELE VENT】で離脱していなければ、彼でも重症を負うのは免れなかっただろう。
 あの爆発を受けて蒼星石たちが生きている可能性は低い。
 だが、死んでいたとしても桐山は何も思わない。
 唯一、もし生きていれば再度利用できる存在と認識しただけだ。
 氷のような無表情を崩さないまま、桐山はコルトパイソンのシリンダーに弾薬を込め始める。
 コイントスがもたらした行動方針にのみ従う殺戮マシーンの次なる行動は――――


【一日目早朝/Cー7 南東部】
【桐山和雄@バトルロワイアル】
[装備]コルトパイソン(6/6)@バトルロワイアル
[所持品]支給品一式、コルトパイソンの弾薬(22/24)、不明支給品0~1(確認済み)
     オルタナティブゼロのデッキ@仮面ライダー龍騎(一時間変身不可)
[状態]疲労(中)、右上腕に刺し傷
[思考・行動]
1:遭遇した参加者から情報を聞き出した後、利用出来るなら利用、出来ないなら殺害する。
2:これからどう動くか思考中。
3:蒼星石、橘あすか、北条悟史が生きていれば利用する。
4:水銀燈、紫の戦士(浅倉)、騎士服の男(スザク)は次に出会えば殺す。

[備考]
※蒼星石、あすかとはお互いの知り合いの情報しか交換していません。
 ただし能力(アルター、ローゼンメイデンの能力)に関しては話していません。
※ゾルダの正体を北岡という人物だと思っています。

 ■  ■  ■

「くそっ! 俺は、俺はまた……」

 スザクは手近な木の幹に拳を打ち付けた。
 爆撃が始まろうとした瞬間、彼に掛けられたギアスが発動。
 その場から全速力で走り出し、気が付けばこの場所に辿り着いていた。
 そう、彼は【最愛の存在】を置いて一人で逃げてきてしまったのだ。
 ギアスに命を救われた訳だが、同時に耐え難い苦しみまで与えられてしまった。
 やはり、この力は自分にとって呪いでしかないのだとスザクはうなだれる。

「水銀燈……すまない、すまない……」

 苦悶の表情を浮かべ、何度も謝罪を述べる彼の姿は、傍から見れば哀れみを誘うには十分だ。




 その格好が和風の鎧を纏い、髪型が金髪横ロールでなかったらの話だが。

 何故、彼はこのような滑稽極まりない姿になっているのか。
 理由を語るには、スザクの装備品について説明しなければならない。
 まず、彼が纏っている鎧は日輪の鎧と呼ばれる物だ。
 和風の鎧だが一式揃っているのではなく、中央に日輪を描いた胴部分しかない。
 これは元々織田敏憲に支給された内の一つだ。
 ギアスが発動したスザクは、ミサイルやレーザーが発射される間際にこれを装着した。
 さっさと逃げずに鎧を着けた理由は、日輪の鎧には火を吸収して装着者を回復させる効果があるからだ。
 要するに自らの生存を最優先としたギアスが選んだ防護服である。
 この鎧のおかげでスザクは爆発に何度も吹き飛ばされるが、同時に爆炎を吸収しながら突き進めた。
 結果、服こそこげたりしたものの、彼はほぼ無傷で爆心地からの離脱に成功したのだ。

 次にスザクの髪型が金髪横ロールになっている理由だが、一言で表せばカツラを被っているだけだ。
 もちろん、ただのカツラではない。
 このカツラはKフロストヅーラ。
 ジャックフロストの頂点に立つキングフロストが被っている一品だ。
 高い防御力に加え、衝撃を和らげる効果と頭が良くなる効果まで付いている優れものである。
 これも織田に支給されていたのだが、彼がこれらを装備しなかった理由は言うまでもない。
 このカツラと鎧があまりにも目立ち過ぎるからだ。
 髪型が金髪横ロールで和風の鎧を着た人物が歩いている様を想像してほしい。
 いくら防御力に優れていようと、それではただの怪しい人だ。
 もっとも、生存を最優先とするギアスにすれば外見など関係ないのだろうが。

 一通り悔やんだ後、スザクはおもむろに前を見据える。
 いつまでも悩んでいても事態は好転しない。
 ならば行動するまでと思い直したようだ。
 まだ水銀燈が死んだとは限らない。
 もしかしたら、自分の助けを待っているかもしれない。
 その目には強い意志を表す強い光が備わっていた。

(待っていてくれ。俺が……僕が必ず助けてみせるから。そうだ、ユフィのように失う訳には……ユフィ?)

 自分の元主君であるユーフェミアを思ったとき、スザクの心は得体の知れない引っ掛かりを覚えた。
 スザクはユーフェミアを主君としてはもちろん、一人の女性としても愛していた。
 だが、それはもはや過去の話だ。

 今ではスザクの忠誠も愛も【最愛の存在】である水銀燈に捧げられている。
 ユーフェミアの事は吹っ切れたはずなのだ。
 事実、彼女を殺したルルーシュに対する憎悪も薄れていた。
 それなら、どうして今さら気にかかるのか。
 スザクはしばらく考えてみるものの答えは出ない。

(……考えるだけ無駄だな。それに今はそんなことで悩んでいる場合じゃない。
 一刻も早く、彼女の所に向かわないと)

 軽く頭を振ると、スザクは疑問を打ち消すかのように走り出した。






 鎧とカツラを装着したままで。
 当然だが彼は至って真面目である。
 装備の有能性に加え、周囲にまだ敵が居る可能性を考慮すれば付けたままでもおかしくはない。
 だが、真面目だからこそたちが悪いのかもしれない。
 薔薇乙女のマリオネットとなった騎士は、とうとう外見まで道化のようになってしまった。


【一日目早朝/D-7 中央部】
枢木スザク@コードギアス 反逆のルルーシュ(アニメ)】
[装備]ワルサーP-38(3/9)@ルパン三世、日輪の鎧@真・女神転生if...、
   Kフロストヅーラ@真・女神転生if...
[所持品]支給品一式、ゼロの銃(弾丸を一発消費)@コードギアス 反逆のルルーシュ、
    ワルサーP-38の弾薬(11/20)@ルパン三世
[状態]健康、知力上昇中、服が所々こげている、『生きろ』ギアスの効果継続中、惚れ薬の効果継続中
[思考・行動]
0:水銀燈を探す。
1:水銀燈に従う。

※水銀燈と情報交換をしました。
※ゾルダの正体を北岡という人物だと思っています。

 ■  ■  ■

 きっかけとなった少年は人形を守り死んだ。
 守られた人形は少年に自責と感謝を感じた。
 復讐鬼は新たな力に満たされながら走る。
 狂人は偽りの宿敵を追う。
 アルター使いはもう一体の人形相手に意地を貫いて力尽きた。
 傷物となった人形は自らの存在意義の危機に苦しむ。
 人形に操られる騎士は薬の効果に翻弄され続ける。
 プライドの高い中学生は同じ相手に二度目の死を与えられた。
 感情を失った男はただ一つの目的に向けて進む。

 集まった者たちは散り散りに去り、祭りの終わりを告げる猛煙が上がる。
 殺し合いの会場では遊園地に続き二度目の事態。
 それを見て、他の参加者が何を感じるのかは分からない。
 恐怖か、絶望か、あるいは興味か。
 もうすぐ島を照らす太陽が昇り、放送が始まる。

※Dー7 北部にて火災が発生しました。このままだと燃え広がる可能性があります


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069:BATTLE ROYALE 世界の終わりまで戦い続ける者たち(前編) 浅倉威 081:光を求めて影は
桐山和雄
蒼星石
織田敏憲 GAME OVER
橘あすか
北条悟史
水銀燈 081:今後ともよろしく
枢木スザク
043:Be Cool! レイ・ラングレン 088:Avenger



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