光を求めて影は

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光を求めて影は  ◆EboujAWlRA



蒼星石、という人形がある。
ローゼン伯爵なる謎に包まれた人物が作り上げた生きた人形だ。
ボーイッシュと言うべきか、短い髪と凛々しい顔つきをした少年のような少女。
ローゼン伯爵が完全な少女である『アリス』を目指し試行錯誤した結果か、彼女には七人の姉妹が居る。
蒼星石自身を含めた七人のローゼン伯爵の傑作である『ローゼンメイデン』。
人知を超える人形は、あらゆる意味で人を超えている。
耐久、知識、そして人が持たぬはずの異能。
その人形が、こうして息も絶え絶えに歩いていた。
彼女には深い焦りがある。

「真紅……橘くん……!」

一人は蒼星石の妹であり、姉妹の中でも最も思慮深いローゼンメイデンが第六ドール『真紅』。
一人は蒼星石がこの殺し合いの場で出会った優しく気高い青年『橘あすか』。
真紅は過激な一面もあるが、基本的には慈悲のある心を持った人形だ。
橘は自分の危機を助けた心優しい青年だ。
そして、その二人だけでなく自分を庇い死んでいった北条悟史もまた優しい少年だった。
友達と妹と出会いたくて使った拡声器は、最悪の結果を産んだ。
託された思いも、既に妹である北条沙都子は死んでいる。
さらに友人である園崎魅音も、死んでいる。
気高い心を持った真紅は死に、意志を貫ける強さを持った橘は死に、妹のために行動した北条悟史は死んだ。
生き残ったのは、その三人とは真逆の人物。
蛇のように気味が悪く、獣のように暴れまわる男だ。
やっていられない現実だが、救いもある。
橘と同じく蒼星石と共に行動をしていた少年、桐山和雄は生きているのだ。
何よりも心を共とする蒼星石の最愛の姉、翠星石の命も尽きてはいない。
だからまずは桐山と合流し、翠星石を始めとする信頼できる人物を探すべきだろう。
真紅や橘あすかや北条悟史を失った哀しみも確かにある。
だが、止まるわけにはいかないのだ。何よりも彼らのために。

「……?」

考えながら歩く一方で、蒼星石は何かが響く音を聞いた。
ズシン……と重いものが地面に打ち付けられる音。
彼女はその音を不信に思う。
もう一度、ズシン……と蒼星石の耳に響く。
これほどの轟音、そう簡単に出るものではない。
響く音と、今立つ山と、もたれ掛かるように手を添えた木を見てある考えが蒼星石の頭に一つの考えがよぎる。
まさか、と思うがそれ以外に考えが浮かばない。

(木を……倒している人が居るのか……?)

もう一度、ズシン……と音が響く。
三つ目、感覚が早すぎる。
あの仮面ライダーと同等の力を持った化け物が居るのだろう。
チェーンソーのような武器で切り落としてるのかもしれないが、ライダーと言う超常を見たあとではそちらの印象の方が強い。
蒼星石の武器は少なく、悟史の側に落ちていた人知を超える長さを持った一本の大太刀ぐらいなものだ。
持つことは出来るが、心得のない蒼星石では確実に手首を持っていかれるだろう。
コレを扱えるのはかなりの使い手ぐらいだ。
名は知らないが、かなりの業物であろう。
普通ならばここは迂回し避けるべきなのだろう。
だが、もしも唯一生存しており、志を共にする仲間である桐山和雄と戦っている人間だとすれば。
行くしかない、蒼星石自身見逃すわけにはいかない。

「おおおおぁああ!」

獣の咆哮が響く。
蒼星石は痛む身体と疲労を訴える頭に鞭を入れて、一歩だけ踏み出した。


   ◆   ◆   ◆


茶色に染まった髪を逆立てた青年、シェルブリットのカズマは朝焼けに赤く輝くある場所へと向かっていた。
ルパンと夜神月カズマに教えた、拡声器越しに伝わってきた話。
北条悟史なる少年が、ここから脱出するために集まってくれ、と呼びかけたらしい。
そこの近くに由詑かなみが居れば間違いなく近寄るだろう。
ならば、そこに行けばかなみと出会う可能性が高い。
居なくても、何かしらの情報を得ることが出来るかもしれない。
とにかく不利になるようなことは思い浮かばない、ならば持てる限りの速さで近寄るのが先決だ。

『おはよう、皆』

だからこそV.V.の放送が流れてもカズマ動き続けた。
途中で禁止エリアなる場所が流されたが、それも無視した。
カズマにとってはかなみとの合流は何よりも優先されるものだからだ。

だが、さすがに死人の発表となるとさすがのカズマも歩みを止める。
なんともいえない感情が胸に呼び起こされる。
万が一、万が一由詑かなみの名が呼ばれたら、そんな考えが頭によぎるのだ。
カズマは思い切り頭を振り、そんな弱い考えを追い出そうとする。
そんなわけがない。確かに確実に生きているなどと言う保証はないが、カズマにはそんな考えはない。
だからこそ、由詑かなみの名に警戒していたからこそ。

『橘あすか』

顔面を固めていたボクサーがボディに一撃を食らったように、カズマの頭に衝撃が走った。
橘あすかとカズマの間の交流は薄い、名すらはっきりと憶えていないほどに希薄だ。
精々が腹を割って殴り合った経験があるだけだ。
だが、それでもホーリーのアルター使いであった橘が簡単に死んでいるということは衝撃以外の何者でもない。
そして、その衝撃に追い打ちをかけるように。

『劉鳳』

まるで三本目の腕で顎を砕かれたかのような衝撃に。
カズマの頭から言葉が消えた。

嘘なのかもしれない、本当なのかもしれない。
抱いているものは怒りなのか、哀しみなのか。
そんなことはどうだって良い、ただ喪失感が胸へと広がっていくのだ。
カズマの胸から、無くなっていく。
いや、無くなると言うのは少し違う。
『刻んだ』その名が、過去のものになっていく。
今ある物が、過去のものになる。
目の前にある、高い高い見上げるほどの壁が、それでも気持ちの良い壁が。
目の前から、消えてなくなる。

震えた拳を固く握り締め、木々へと、一撃ぶつける。
背中から生えていたひねくれた二本の羽が、一本消える。
まるでカズマの手からこぼれ落ちていくように、羽は消えていく。

後ろにある木々すらなぎ倒すその拳、だがカズマはまだ拳を木へとぶつける。
背中の一本の羽が、消えてなくなる。
それに呼応してカズマの右腕に纏っていたアルター能力『シェルブリット』が消えていく。

砂のように溶けて、カズマの腕から抜け落ちて行く。

震える身体と血が出るほど握りしめた拳、そして無残に薙ぎ倒された木々。
カズマに残ったものは、それだけだ。

いや、まだ残っているものはある。
それは頭から離れようとしない、劉鳳が死んでしまったらしいという事実だけ。


「……おおおおぁああ!!」


心中に霧のように渦巻く感情を振りほどくように、言葉にならない雄叫びを上げる。
危険だとかかなみを探さなければいけないだとか、そのことを考えるよりも叫びを上げる。

肩で息をしながら、カズマは考える。
いや、考えると言うよりも感じている。
既に劉鳳は死んでしまったと、ブイツーとか言うガキは笑うように言い切った。
劉鳳の死のイメージは容易に浮かぶ。
カズマの側にいた人間は死んでいった。
君島邦彦も、寺田あやせも、どいつもこいつも、死んでいった。
それにカズマは抗ってきたつもりだった。
気に入らないことを押し通す拳で、人に寄り添うことをしながらも抗ってきた。

それがまた、何処かで消えていった。

その事実が胸を空っぽにしていく。

「……おらぁあ!」

舌打ちをして、生身の拳を気にもう一度ぶつける。
次は僅かに木の瑣末な枝を揺らしただけで、倒れはしない。
そのことに僅かに舌打ちをする。
零れ落ちた名に虚しさと、どうしようもできない怒りを浮かべつつ、それでもカズマは歩き出そうとする。
これ以上こぼさないために、由詑かなみを探すために動き出す。
そんな時だった、カズマの目の前にボロボロの少年が現れたのは。

「……」

カズマは何も言わずに少年をチラリと一瞥する。
少年は濃い青を基調とした軽そうな服だ。
息も絶え絶えに、けれども死は感じさせない力強さを持ってカズマを伺うように見ている。

「僕は蒼星石。君は……誰だい?」

一向に口を開く様子のないカズマに、少年――――蒼星石が尋ねる。
傷は負っているが会話に問題はないらしい。
胸にもやもやとした物を抱いたままカズマは短く答える。

「カズマ、シェルブリットのカズマだ。お前、かなみを……」
「カズマ……って、ひょっとして橘くんの知り合いの!?」

蒼星石は喜びのを示した声をカズマの言葉に被せる。
そのことに苛立ったように顔を歪めた後に、橘と言う名前に反応する。

「おい、アイツのこと知ってんのか」

妙に気取っていて鼻持ちならない男だが、カズマが刻んだ男だ。
反応をするには十分すぎる名前だった。
蒼星石は喜びと、哀しみを入り混ざった声色で話しだした。

「橘くんとは一緒に行動していました、短い間でしたけど」

そこで蒼星石は聞かれていないことすらしゃべり始める。

橘とあった後、水銀燈なる少年と敵対する人物と会ったこと。
そこで襲われていた桐山と言う少年と出会い、橘を含めた三人で殺し合いの脱出を目論んでいたこと。
そして、北条悟史なる少年が拡声器を使った呼び掛けに応えたこと。
そこでヘビ柄の服を着た男による襲撃を受け、多大なダメージを負い気を失ってしまったこと。
そして、先程の放送で北条悟史と橘あすかが死んでしまったことを知ったこと。
恐らく下手人は蒼星石と交戦していたヘビ柄の服の男、もしくは水銀燈と水銀燈に寄り添っていた少年の二人組であろうということ。

蒼星石は今までの行動を大きく省略して、それでいて相手に伝わりやすいようにと必死に喋った。

「……そうか。で、お前はかなみって女の子を見なかった」

蒼星石の言葉にカズマは簡素な言葉で返した。
と言うよりも、乾いた言葉しか出なかったのだ。
蒼星石も僅かに顔をしかめたが、人の死が関わっているため普段の状況ではあり得ない感情の起伏があるのだろうと割り切る。
つまり、カズマは表面上何でもないように装っているのだろう、と思ったのだ。

「かなみちゃん……ですか。すみません、分かりません」
「そうか、じゃあな」
「ちょ、ちょっと!」

そう言ってカズマは蒼星石に背中を見せて立ち去ろうとし、何かを思い出したように足を止める。

「お前も、その桐山とか言う奴と一緒に警察署に行きな。
 Lってのと杉下って奴、あとみなみってのが来るはずだ。
 ああ、そういやルパンと月ってあの二人には……まあ、とにかく警察署に行け。
 そこに行けば悪いようにはならねえからよ」

それは蒼星石の整った顔立ちと高い声にかなみが重なったからの言葉だったのかもしれない。
蒼星石の言葉に嘘がなければ、最終的な目標を共にする人間となる。
とにかくそのことを言った以上、既にカズマに蒼星石に話すことはなかった。
かなみを探さなければいけない気持ちと、どうしようもない気持ちが絶妙に絡み合っている。

今はかなみを探し出して、その後に考える。
それが一先ずの方針。
言ってしまえば先送りにする、ということになる。
そう考えると何かどうしようもないものを感じて歯軋りをしてしまう。

そのカズマの歯軋りに乗じるように、倒された木を踏む音が響く。
カズマと蒼星石が音に反応して振り返ると、『ヘビ柄の服』を着た男が立っていた。

「あん……祭りに乗り遅れた間抜けか」

そこで男は嘲るようにカズマに声を投げかける。
この木々が薙ぎ倒された空間がカズマによって作られたと察したのだろう。
そしてカズマの顔色を見て、ふん、と鼻を鳴らす。

「誰か死んだか」

その言葉にぴくりとカズマの拳が揺れ、それを目ざとく見つけたヘビ柄の服の男が笑う。

「図星か」

ヘビ柄の男は値踏みするような目を向けたまま、ふん、と鼻で笑う。

喧嘩を売られている、カズマはそれが直ぐに分かった。
元より売られた喧嘩を流せるほどカズマは出来た人間ではない。
ポキリ、と指を鳴らして、ちょうど先程なぎ倒した木々を分解する。
カズマのアルター能力、シェルブリットを構築しヘビ柄の服の男へと歩き出す。

「はっ!」

楽しそうにヘビ柄の服の男は笑う。
まどろっこしい話は苦手だ、と言わんばかりに大股でカズマへと向かって歩き出す。
お互いのリーチが届くまでに近づいたその瞬間。

カズマの拳が振り上げられた。


   ◆   ◆   ◆


学生服を肩にかけ、特徴的なオールバックの髪型をした桐山和雄は西に向かっていた。
僅かに火の手をあげる山を見ながら桐山は判断する。
この殺し合いは桐山が参加し、そして残り四名の時点で敗退した殺し合いよりもいささか『派手』である。
この時間制限など使い勝手に難がある『ライダーデッキ』により変身した身に纏う強化スーツがその最たるものだ。
個人が扱える銃器よりも明らかに火力が上であり、防弾チョッキとは比べ物にならない耐久力を持っている。
さらに桐山がこの殺し合いにて最初に出会った水銀燈なる少女は自由に空を舞い、鋭さの残した羽を飛ばしてきた。
殺傷力は銃器に劣るが、音が全く立たないことは殺し合いにおいてはかなり有利だ。
そして、橘あすかなる青年が扱った緑色に輝く宝玉。
『アルター』と称していたが詳細は不明、しかし応用性に優れている上にやはり無音。
正面からの襲撃に多大な効果をもたらすライダーデッキと、不意打ちに優れた二人の武器。
繰り返すが、桐山にこれらの詳細を察することはできない。
あるいはそれなりの材料があれば、その真意を探ることも出来るかもしれないが。
しかし桐山にとってそれはどうでもいいことだ。
たった今桐山の目の前で殴り合いを始めようとする二人の能力値を測ることこそが、重要なのだ。

「おらあ!」

叫びを上げながら髪を逆立てた男、カズマが装飾の施された右腕を振るう。
それを笑いながらヘビ柄の服の男、浅倉威が紙一重ながらも確かに避ける。
桐山が木々の倒れる音と、その直後に響いた雄叫びに導かれこの場所に辿りついたときには二人は殴り合いを始めていた。
この木々の影から撃ち殺してしまおうかと構えたときに、側に蒼星石の姿を見つけた。
蒼星石は疲労を抱えているようで安全だと判断した場所から動こうとしない。
カズマの後ろに倒れこむように座り込んでいる蒼星石、という位置関係から二人は友好関係を築いているのだろうと当たりを付ける。

戦況は髪を逆立てた男が明らかに押している。
浅倉は木々を利用してカズマの振るう拳を避けているが、逆に言ってしまえばそれだけだ。
不用意に近づいてしまい被弾することを嫌っている。
カズマの攻撃は突撃性に優れているが、逆に言えばこの木々が生い茂った場所では動きづらそうではある。
それに加えて浅倉の顔に張り付いた笑みに逆上している風に見える。
とは言え、カズマの優勢は変りない。
動きづらいと言うのは浅倉にも言えることだ。
攻撃の回避に務めているからこそ戦えているようだが、攻撃を仕掛ければその分だけ隙も生まれる。
ならば、カズマの木々を打ち砕く攻撃に被弾する恐れが高まるだろう。
このままでは浅倉の不利はゆるがない、そしてそれを浅倉も承知しているはずだ。
勝てないと判断したのなら逃げてしまえば良いのに、浅倉はそんな素振りも見せない。
つまりこの状況を打破出来うる何かを持っていると言うことだろう。
可能性としてはライダーデッキだが、使えるのなら既に使っているだろう。
だからもっと単純なもの、それでいて戦況を逆転もしくは決めれることが出来る物だ。

「ミラーモンスター、か」

桐山はかろうじて自分だけが聞き取れる程度の声量で呟く。
つかず離れずの位置を確保しつつ、カズマの攻撃を避けている。
カズマは逆上しているのか大振りが多い。
このことから浅倉はミラーモンスターでの逆転を狙っている、と言ったところか。
ミラーモンスターは鏡面を通じてカードを示すことで出入りが出来る。
ペットボトルを使い、そこにカードを移すことでミラーモンスターを出させるつもりなのだろう。
ミラーモンスターの膂力を不意打ちに使えばカズマも倒せるはずだ。

桐山は、ならばどうすればいいかと考える。
浅倉がミラーモンスターを利用した攻撃を狙っているとは言え、その前にカズマの攻撃が決まり勝負が終わってしまう可能性もある。
ここで手を出さずに、勝負が終わった後にさも今現れたかのように
優勝を目指す以上、ここで浅倉が二人を殺してしまうのを容認するのもまたありだ。
二人を殺して息をついたときに後ろから殺せば良い。
だが、その場合は浅倉を取りのがす可能性もある。
そして、今ここで殺しておくべき、という優先順位が最も高いのは浅倉だろう。
カズマは蒼星石と何かしらの交流を結んでいる可能性が高く、そして蒼星石は桐山を仲間だと思っている。
つまりこの二人は背後からの攻撃によって何時でも殺すことが出来る。

瞬時にそこまでを考え、桐山はコルトパイソンを構える。
障害物が多いが問題はないだろう。
まずは重さを確かめるように目の前へと持って行き、ゆっくりと両手で拳銃を前へと突き出す。
その瞬間だった、にやついた笑みを貼り付けた浅倉と目があってしまったのは。
恐らく目があったのはただの偶然だろう。
間が悪かったと言うか、浅倉の悪運が強かったと言うか。
とにかく、桐山の存在が浅倉に知れたのだ。
桐山はその瞬間にトリガーを引く、だが浅倉は僅かに顔を引くことでかろうじて避ける。
不恰好に転げる形になるが浅倉は確かに避けたのだ。
そして、桐山の方を見ながら懐に隠していたらしい拳銃を抜き取る。

「お前……あの時のか」

銃弾により命を奪われかけた後だというのに、鼻を鳴らし唇を僅かに上げて浅倉は笑う。
そして銃を持った手とは逆の手でライダーデッキをチラチラと振りながら見せつけるが、桐山は顔色ひとつ変えずに銃を構えている。
浅倉はそのつれない態度にふぅっとため息をつきながら位置取りを変えて、桐山たちへと向かって声をあげる。

「デザートだ……」
「あん?」
「北岡食った後に、お前らを食う」

その時にまた遊ぼうぜ、と軽薄な笑みを浮かべながら浅倉は森の奥へと消えていく。
桐山は追撃はせずに、一先ずは見送る。
ライダーデッキ、あれは鏡面があればどんなことでも出来る道具だ。
深追いをして手酷くやられるのは避けたいところだ。
それにまだ利用価値のある蒼星石と合流する道もある。

浅倉が立ち去ったのを見て、桐山はカズマと蒼星石へと向き直る。
蒼星石は身体が痛むのが顔をしかめており、カズマはまた別の理由で顔をしかめている。

「……」
「……」
「和雄くん!」

桐山は蝋で塗り固められたように表情を変えず、カズマは何かにイラつくように、蒼星石は素直に再開を喜ぶように。
僅かに嫌な雰囲気を感じつつも、蒼星石が桐山へと話しかける。

「えっと、和雄くん。この人は……」
「カズマだ」

カズマは蒼星石の言葉を区切り、苛立った様子を隠そうともせずにぶっきらぼうに言葉を返す。
桐山には知る由もないが、彼の心中はひどく複雑だった。
売られた喧嘩を買わなければいけない、だが下手に深追いをすればかなみの捜索時間も食う。
どちらも重要で、どちらもないがしろには出来ない。
ただ今この場では桐山がこちらを値踏みするように見ていることと、同じく桐山が追走経路を塞ぐように立っているため追わなかっただけだ。
逆に言えばそれ以上の理由はないし、向こうからこちらに再び喧嘩を仕掛けるつもりな以上追う理由もなくなったということだが。

「お前、かなみを知ってるか。これぐらいの小さい女の子なんだが」
「……知らないな」

カズマは一も二もなくかなみなる少女のことを尋ねる。
桐山は当然そのような少女を知らない。
嘘をつく必要もないし出し渋る必要もない、正直に知らないと首を振った。

「ちっ……そうかよ、じゃあな」

隠す様子もなくカズマは舌打ちをして背中を見せる。
無用心に見えるが、逆に自信があると言うことなのだろう。

「かなみを探したら警察署でも会おうぜ」
「待て」

手を上げて軽く立ち去っていこうとするカズマを桐山は一言で止める。
年の割には威圧感のある声だ、カズマは苛立ったように顔を歪める。

「一つ、言っておくことがある。
 キタオカ、恐らく北岡秀一という人間だろう、そいつが橘あすかと北条悟史を大火力の銃撃で殺した。
 特徴は銃を持った仮面ライダー、全身を覆う緑色のスーツを着た男だ」
「なっ……!?」

早口に、端々を省略した桐山の言葉を聞き、蒼星石は驚いたような声を発しカズマは僅かに顔をしかめる。
桐山は嘘は言っていない。
言葉の並びから北岡秀一という人間を断定しているようにも見えるが、桐山はあくまで緑色のライダーが襲う瞬間を目撃しただけだ。
そして、浅倉が『キタオカ』という個人名を上げたことから、その下手人は北岡秀一であろうと推測しているだけ。
このライダーデッキは特別な人間しか装着出来ないわけではない。
だから、下手人は北岡ではなく別の人間である可能性も僅かにとは言え確かに存在する。
それをあえて言わなかったのは、あわよくばカズマが何かしらの火種となることを期待してのことだ。

「橘を……か。とりあえずありがとよ、気をつけてはおく。
 こっちとして言うことは、とにかく警察署に行きなってことだけだ。
 俺も後で行く、お前らが仲間を探してるってんならそれが一番だ」

カズマはそう言い切り、もう一度背を向ける。
桐山はまだ情報が絞りとれてないと足を踏み出そうとするが、蒼星石がそれを妨げるように口を開く。
蒼星石もカズマの早急な態度をそのガキ、つまり蒼星石から聞け、という風に受け取ったのだ。
警察署に向かう、蒼星石の言葉を聞きながら桐山は情報を整理する。
カズマとは橘あすかの知り合いで、殺し合いに乗るつもりはない。
そして、カズマは『杉下右京』、『L』、『岩崎みなみ』なる三人組と警察署での合流を約束しているらしい。
それに蒼星石と桐山を足し、カズマとカズマが探している由詑かなみを加えれば七人という大人数となる。
つまり、警察署に行けば殺し合いに乗っていない集団が出来上がる、ということだ。

桐山は考える。
この殺し合いに乗っていて、なおかつ単純な殺しの能力に優れた人間は多い。
例えばライダーデッキを持った浅倉や、他のライダーが同時に襲ってくれば三つ巴になりかなりの激戦になるはずだ。
そこに乗じて他の人間を後ろから殺してしまうのも、またありだろう。
他人を利用するという方針を立てた桐山としては、利用できるであろう人間が増えるのは幸いだ。
ならばここでカズマを追いかけて妙に関係をこじらせるのは愚策。
そう判断して、蒼星石とともに桐山はカズマを見送りつつ一歩踏み出す。

桐山に情報を与えてしまった、目の前の出来事に頭が精一杯なカズマは知らなかった。
目の前の生きた人形よりも表情を固めた少年が、明確な悪意を持って行動していることに。
カズマは知らなかったのだ。


【一日目朝/D-6】
【浅倉威@仮面ライダー龍騎】
[装備]なし
[所持品]支給品一式×2(浅倉とルルーシュ)、王蛇のデッキ@仮面ライダー龍騎、
    FNブローニング・ハイパワーのマガジン×1(13発)、不明支給品(未確認)2~3
[状態]疲労(大)、全身打撲、イライラ(中)
[思考・行動]
0:ゾルダを追う。
1:北岡秀一を殺す。
2:大剣の男(五ェ門)、茶髪の男(カズマ)、学生服の男(桐山)を後で殺す。
3:全員を殺す。
[備考]
※ゾルダの正体を北岡だと思っています。
※ライダーデッキに何らかの制限が掛けられているのに気付きました。

【一日目朝/D-6】
【カズマ@スクライド(アニメ)】
[装備]シェルブリット第一形態、暗視ゴーグル
[支給品]支給品一式、タバサの杖@ゼロの使い魔、おはぎ@ひぐらしのなく頃に、Lのメモ
[状態]健康
[思考・行動]
1:何が何でもかなみを見つけ出す。
2:『他』は……後で考える。
[備考]
※Lのメモには右京、みなみの知り合いの名前と簡単な特徴が書いてあります。夜神月について記述された部分は破られました。
※蒼星石とはほとんど情報を交換していません。

【一日目朝/D-6】
【桐山和雄@バトルロワイアル】
[装備]コルトパイソン(5/6)@バトルロワイアル
[所持品]支給品一式、コルトパイソンの弾薬(22/24)、不明支給品0~1(確認済み)
     オルタナティブゼロのデッキ@仮面ライダー龍騎
[状態]疲労(中)、右上腕に刺し傷
[思考・行動]
1:遭遇した参加者から情報を聞き出した後、利用出来るなら利用、出来ないなら殺害する。
2:蒼星石と共に警察署を一先ず目指す。
3:水銀燈、紫の戦士(浅倉)、騎士服の男(スザク)は次に出会えば殺す。
[備考]
※蒼星石、あすかとはお互いの知り合いの情報しか交換していません。
 ただし能力(アルター、ローゼンメイデンの能力)に関しては話していません。
※ゾルダの正体を北岡という人物だと思っています。

【蒼星石@ローゼンメイデン(アニメ)】
[装備]防弾チョッキ@バトルロワイアル
[所持品]支給品一式、ランダム支給品(確認済み)0~2、贄殿遮那@灼眼のシャナ
[状態]疲労(中)、胸部に打撲
[思考・行動]
1:ここから離れる。
2:自分とあすかの仲間(カズマ、クーガー、かなみ、翠星石)を集めて脱出する。
  千草、三村、稲田は保留。騎士服の男(スザク)、水銀燈は警戒。
3:襲ってくる相手は容赦しない。
[備考]
※nのフィールドにいけない事に気づいていません。
※あすかと情報交換をしました。
※桐山とはお互いの知り合いの情報しか交換していません。
 ただし能力(アルター、ローゼンメイデンの能力)に関しては話していません。
※カズマとはほとんど情報を交換していません。


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069:BATTLE ROYALE 世界の終わりまで戦い続ける者たち(後編) 浅倉威 100:癒えない傷
桐山和雄 117:本日は晴天なり
蒼星石
062:接触 カズマ 098:あやまちは恐れずに進むあなたを



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