元教師とメイドさん

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元教師とメイドさん  ◆6tU9OIbT/c



「……ハァ……ハァ…」

森の中を異常な速度で走り抜けるメイド。
傍から見ても異様な光景ながら彼女は必死だった。
先刻の戦いは彼女にとって完全に誤算だった。
そもそも彼女にとってみれば能動的にこの殺し合いに乗るつもりはまったく無かった。
なのに自身が襲撃者と被害者との図式を見間違えた為に、
いや、そもそもあれはどちらかが襲われていたというものですらなかったのだが。

自ら殺しあう者達の場にのこのこと飛び込んだ挙句が、この手痛い教訓である。
争っていたもの達の内の一人は私と似たような姿に変わっていた者の業火を纏った飛び蹴りを
急に飛び出してきた少女を庇うように正面からまともに受けていた。
…多分、あれでは助からない。
だけど、私には今更如何する事も出来はしないし、私自身彼らを殺すつもりで挑んでいた。
飛び出してきた少女の目的と安否ももう一人の赤い鎧を纏っていた男が傍にいる以上は
本来なら気遣われることなのだけれど、その為に自身の目的を見失ってしまっては本末転倒でしかない。
まずは私はルルーシュ様の無事を確認しなければいけないのだ。
忍びにとっての最上の使命とは主君の為の滅私奉公。
その為であれば少数の犠牲は切り捨てる。
あの少女には悪いけれど自分で切り抜けてもらうしかないのである。
半刻ほどは走り抜いている追跡されている気配も無い以上、どうやら逃れることは出来たようだ。

近くの木に身体を持たれ掛けて、少し息をつく。
緊張が解けた瞬間、全身にズキリと痛みが走る。
あの戦いは何もかもが異常だった。
自身も経験した事だがこのカードデッキは生身の人間を量産型KMFに匹敵する程に強化する。
そのような身体能力を確保していた者に対して互角異常に戦い抜いていた緑髪の男が
操っていた怪奇な生物(なのかもよく分からないが)から受けた肉体の負傷は生易しいものではない。
突然、ミサイルを何処かから取り出して撃つなんて馬鹿げた現象を誰が想像できようか。

「何処かで…少し休まないと」

いくら自分が他の人より優れた体術を持っていようと、所詮は人間。
傷が放っておいても治るというものではない。
デイバッグの中から地図を取り出して、周辺の施設を確認する。
西側に行くのは持ってのほか、一番近いのは北側の美術館。
あまり身を隠せそうな場所でもないので気は進まないが、
傷を負ったまま森の中で過ごしては身体を壊しかねない。
取りあえずは負傷した部位を洗い流す位のことをしなくては、
ただ止血をしてもあまり意味をなさない。
取りあえずはそちらに向かうしかない。
出来れば危険な人物がいないといいのだけれど。
行動方針が決まった以上、すぐに行動するのが忍びなのだけれど、
その動きは北側に向かってすぐに止められてしまった。
誰かがこちらに向かってきているのである。
自身の夜目と双眼鏡で確認したのは二十代後半位の見た目の長髪の女性の姿。
その人物は全く警戒した気配など無く、
ゆったりと先程自分達が争っていた方に向かって歩いている。
このままで行けばいずれあの男と鉢合うことになるだろうが、
さて如何したものだろうか?
先程自分は少女を切り捨てたばかりだ。
なのにこの女性に「危険だから」と止めるべきなのだろうか?
本来なら彼女の事など放っておくのが忍びとして正しいのだろうが、
あの時とは自分の置かれている状況も違う。
結局の所は自分は甘い性分なのかもしれない。
助けられるのなら助けておきたいのである。
但し、同じ轍を二度と踏む気も無い。
見た所では彼女は手ぶらであるが、少しでも怪しい動きをとったのなら
即座に逃れられるくらいの距離を確保しておく。
後は声を掛けたときの反応を見て、乗る気の人物なのかを判断するしかない。
女性は相変わらずゆったりと歩いている。
こちらにはまだ気づいてはいないようだ。

身を乗り出し、女性に向かって私は声を掛けた。

☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

「其処の方、お止まりください!」

不意に森の方からこちらに声を掛けられた。
血に塗れた服を処分した事と変わりの着替えが入っていた事は好都合だった。
特異な行動でもとらない限り私達は人間と区別はつかない。
だからこそ、こうして声を掛けられる。
足を止め、声の主を確認する。
確かメイド服という日本では特異な場所でしか
見かける事の少ない衣類を纏った人間の女が其処に立っていた。

「まず質問をします、あなたはこの殺し合いに乗る気のある方ですか?」

実に単刀直入で的を得ている質問だな。
この質問に対して嘘をつくのは実に簡単である。
だが、この人間はこちらの返答の内容自体よりも、
その際の些細な機微を読む為にこの質問を敢えてしたのだろう。
人間というのは嘘をつく為には何らかの動きをとってしまう。

が、そもそも私には殺し合いに乗るつもりは無い。

「その質問の答えは“いいえ”よ」

私の返答に対してあの女は暫しの沈黙で答えたが、
私が嘘をついていないと判断したのであろう、
ほんの少しだがこちらへの警戒を解いた。

「分かりました、でしたら貴女に警告いたします。
 この先にはこの殺し合いに乗ったと思われる危険人物がいます」

女の言葉に対して私は大いに興味が湧いた。
予想はしていたが、思っていた以上に早くそのような人間が発生していたか。

「それで、その人物の特徴はどのようなもの?」

「…外見は二十代の茶髪の青年です」

警戒を緩めた為か、先程よりも女の外見をよく見ることが出来た。
全身に何らかの負傷を負っている。

「成る程、よく分かったわ。
 その傷もその青年が原因と判断すればいいのね?」

私の質問に対して女は少しだけ逡巡した後、「はい」とだけ答えた。

「…そう」

それだけ聞ければまずは充分だろう。
再び歩き始めた私に女が慌てて声を掛けてきた。

「お待ちください、貴女は私の話しを理解しているのですか!?」

態々慌てて止める程、人間の中には他者の行動に介入したがる者がいるが
この女もそちらの部類か。
構わずに置けばいいものを私に声をかけてきた時点で
この女も泉新一と似たような所謂、変わり者なのだろう。

「よく理解しているわ。 だから、その男の姿を“よく見てみたい”」

そう、実に興味深い。
出来れば何故殺し合いに乗ったのか等の理由を聞くことも出来れば
尚更に都合がいいのだが流石にあまり現実的ではないだろう。
ある程度の場所さえ分かれば安全な手段を講じて対象を観察するのは
我々の能力を使えば容易い。
だから、今はその人間の姿を視認しておきたい。
其処にどのような感情を持っているのか。
それを知る事は我々が何故本能的に人間を食い尽くそうとするのかにも
繋がるかもしれない。
純粋な闘争本能という後藤と同じ上での理由は願い下げだが。

…そういえば、

☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

この女性の考えている事が全く理解できない。
普通、一般的な人間なら「この先に危険な人物がいる」と聞けば、
慌てるか、問い質すかのどちらかである。
だが、この女性は私から相手の容姿と怪我の理由を尋ねて一言、

「…そう」

と、答えたきり再び先程危険だと忠告したばかりの場所に向かって歩き出したのである。

流石に私もこの行動は予想がつかなかった。
彼女は殺し合いには乗っていないと私に明言している。
嘘をついている様子は全く見られなかった。
ならば何故わざわざ危険な場所に赴こうとしているのか?
慌てて引き止めた私に対して彼女は、

「その男の姿を“よく見てみたい”」

と言ってのけた。

それはまるで交番の前の指名手配の写真を見に行くようなノリでだ。
無論、相手は写真ではなく生身の人間であるのにも関わらず。

それと声を掛けてから気づいた事が一つだけあるが、
この女性から無駄な行動が一切見られないのだ。
それは表情も同じで感情というものが全く見られない。
凄く冷静というか事務的とも取れるほどに淡々としているのである。
この手のタイプの人間がいないと言う訳でもないが
彼女の場合は他の人と比べても突き抜けている。
まるで、機械か何かを相手にしているようにすら感じてしまうほどに。

開いた口が塞がらないとはこの事なのだろう。
絶句している私を無視して彼女は再び歩き出そうとしていたが
不意に足を止めてこちらに振り返った。

「そういえばあなた、さっき私に嘘をついたでしょう?」

ぎくりとした。
確かに私は彼女に少しだけ嘘をついた。
あの場所にいたのはあの茶髪の青年だけでなく緑髪の青年もいた。
だけど、あの傷では生きている筈が無いからこそ敢えて黙っていた。

「そうね…例えばもう一人誰かがあなた達と居たわね?
 ほんの少しだったけどあなたは私の質問に答えるまでに間があったわ。
 相手が一人だけであったのなら即答できるはずよ?」

鋭い。

私としてはそれほどの間を持ったつもりは無かったが
彼女はそれだけの情報であっさりと見抜いてしまった。
まるでルルーシュ様並みの回転の速さである。 

「…確かにその通りです、ですが到底助かるとは思えない負傷を負っていましたので
 失礼ですが敢えて伏せていました。
 余計な混乱を招くものだと思いましたので」

見抜かれている以上、隠し立てをしても意味が無い。
余計な不信感を煽らない様に真実を伝えるだけである。
彼女はその間も表情を変える事無くこちらをただ見つめているだけだった。

「そうね、そういう理由なら気にしなくてもいいわ。
 ところでもう一つあなたに言いたい事があるのだけど」

まだ何かあるのだろうか?
ここにきて私は彼女に対して声を掛けてしまった事を後悔し始めている。
別にいくら探りを入れられようと私は困る事は無い。
もっと、本質的で部分で私は彼女に対して異様な感覚を抱いている。
この女性は“何”?
これは何か根拠がある事ではないのは分かっている。
忍びとしての経験が何か他の人間とは違う“何か”を感じている。
異様なまでの表情の無さと頭脳を持ち合わせる人間など可能性的には
ギアス関係の者しか考えられない。
だったとしたら非常に厄介な事になったかもしれない。
自分の気づかぬ間に彼女に“何か”を仕込まれたかもしれないのだから。

「何でしょう?」

当たり障りの無い返事を私は返す。
今ならまだこの場から去る事は可能だが、
私の考えがただの懸念であり逆に彼女に怪しい人物として吹聴して廻られても厄介である。
つまり、完全に八方塞だ。
取りあえずは彼女が納得する形でしかこの場を去る事は難しくなっているのである。
なのに、その彼女は先程までは私に興味が無さそうだったのに
今は何故かこちらにその興味を向けている。
結局、付き合うしかないのだ。

☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

殺し合いに乗った者にも非常に興味があるが、
新たに興味が湧いた事がもう一つ出てきた。
最初はこの女の事はその危険人物ほどにはあまり興味が無かったが、
それを知る上では大事な事だ。

そろそろ放送の時刻である事を思い出した。

この女はそれを聴いた時どのような反応をするのだろうか?
誰かが死んで絶望するだろうか?
誰かが生きている事で歓喜するのだろうか?
それとも別の何か?
その反応を知る事は人間を知る事に繋がるかもしれない。

その為に、この女をこの場に引き止める事にした。
先程、この女は私に僅かながら嘘をついた可能性があったから鎌をかけたが
如何やら図星だったらしい。
これで完全に主導権はこちらに移っている。
相手は私から離れる事も容易いだろうが、
慎重そうな態度から私に不本意な情報を他者に吹聴される事を考慮している可能性がある。
となれば、取る手段は黙って私に付き合うか、私を抹殺しようとするかのどちら。
我々の側だったら迷わず後者を選ぶのだろうが人間には
中々難しい判断であるから可能性は低いだろう。
まぁ、後者を選んだ所で既に後頭部側でのみ変形を済ませている。
充分な距離を取っているつもりだろうが射程距離内である。
何かを取り出そうとする前にあの女の首が地面を転がる事になるだろう。
出来れば、避けたい事態だが自衛の為ならば仕方が無い。

さて、この女はどのような反応を見せてくれるのだろうか?

「そろそろ放送の時間よ?」


【一日目早朝/B-3 森手前】
田村玲子寄生獣
[装備]なし
[支給品]支給品一式×2、白衣@現実、しんせい(煙草)@ルパン三世、手錠@相棒、不明支給品(0~2)
[状態]健康
[思考・行動]
0:この女(咲世子)の放送を聞いた時の反応を観察する。
1:茶髪の男(真司)を実際に観察してみたい。
2:人間を、バトルロワイアルを観察する。
3:泉新一を危険視。
4:今は満腹。
5:腹が減れば食事をする。

【篠崎咲世子@コードギアス 反逆のルルーシュ(アニメ)】
[装備]無し
[支給品]支給品一式 双眼鏡@現実、ファムのデッキ@仮面ライダー龍騎、確認済支給品(0~1)
[状態]ダメージ(中)、疲労(中)
[思考・行動]
0:この女性(玲子)から離れたい。
1:ルルーシュと合流する。
2:ルルーシュが殺し合いから脱出する方法を探す。
[備考]
※赤髪の少女(シャナ)、茶髪の男(真司)を危険人物だと思ってます。


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054:真実の果てに 篠崎咲世子 082:人間考察
052:異邦人 田村玲子



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