果てしない炎の中へ(前編) ◆KKid85tGwY
その森の中は不規則に隆起する地面に、自生した木草が鬱蒼と生い茂っている。
あきらかに人の手が入っていない、夜の未開の森の中。
そこに生々しい破壊の跡があった。
地面はえぐれ、木は倒されている。無秩序で大規模な破壊痕の散乱。
すなわち強大な力による、戦闘の痕。
そこで男が嘆いていた。
殺し合いの中だというのにもかかわらず、慟哭を響き渡らせている。
男の前には腹部に背中まで貫通した、無残な遺体があった。
あまりに凄惨で、そして異様な光景。
しかし慟哭している当人、城戸真司には自分の体面を気にする余裕はない。
あきらかに人の手が入っていない、夜の未開の森の中。
そこに生々しい破壊の跡があった。
地面はえぐれ、木は倒されている。無秩序で大規模な破壊痕の散乱。
すなわち強大な力による、戦闘の痕。
そこで男が嘆いていた。
殺し合いの中だというのにもかかわらず、慟哭を響き渡らせている。
男の前には腹部に背中まで貫通した、無残な遺体があった。
あまりに凄惨で、そして異様な光景。
しかし慟哭している当人、城戸真司には自分の体面を気にする余裕はない。
ただ目の前の劉鳳の死が哀しいだけではない。
自分が劉鳳をライダーと勘違いしなければ、自分がもっと上手く立ち回っていればという後悔。
そして何より劉鳳を殺したのは――――真司自身なのだ。
自分が劉鳳をライダーと勘違いしなければ、自分がもっと上手く立ち回っていればという後悔。
そして何より劉鳳を殺したのは――――真司自身なのだ。
他のライダーを倒す、つまり殺す覚悟を決めたはずだった。
しかし殺したのは、ライダーだったのかどうも定かではない劉鳳。
少女を庇っていたことからも、決して悪人ではなかったのだろう。
こんな所で死んでいい人ではなかった。
それが自分の不明で殺してしまった。
覚悟を間違った相手に向け、死という取り返しのつかない結果を生んでしまった。
真司が慙愧の念を幾ら嘆きとして吐き出しても、目の前の骸と化した劉鳳は何も答えない。
だからそこには、真司が自身を責めつづける慟哭が響きつづける。
しかし殺したのは、ライダーだったのかどうも定かではない劉鳳。
少女を庇っていたことからも、決して悪人ではなかったのだろう。
こんな所で死んでいい人ではなかった。
それが自分の不明で殺してしまった。
覚悟を間違った相手に向け、死という取り返しのつかない結果を生んでしまった。
真司が慙愧の念を幾ら嘆きとして吐き出しても、目の前の骸と化した劉鳳は何も答えない。
だからそこには、真司が自身を責めつづける慟哭が響きつづける。
いつまで、そうしていただろうか。
相変わらず失意のうちに立ち上がれない真司に誰かの声が聞こえる。
本当はつい先刻、戦っていた相手。でも、今は懐かしい相手。
相変わらず失意のうちに立ち上がれない真司に誰かの声が聞こえる。
本当はつい先刻、戦っていた相手。でも、今は懐かしい相手。
お前なのか、蓮?
――フッ、いい様だな城戸。
なんだよ蓮。そんなこと言いにきたのかよ。
――お前も一応、ライダーの1人だからな。だがその腑抜けた様子じゃ、どうやらここでお前は脱落らしい。
……もう、俺のことはほっといてくれよ。
――放っておけ? 当たり前だ。ライダーの戦いに脱落した奴に用は無い。俺にとっては、敵が1人減るだけだ。
……………………
――どうせ、お前はもうここで死ぬんだ。……自分の果たすべきも果たさないままな。
……お、俺の果たすべきって、一体なんなんだよ!? …………これ以上、優衣ちゃんのために戦えってのかよ!?
――そんなことも分からないのか。馬鹿だとは知っていたが、ここまでとはな。これじゃ、お前に後を託した劉鳳とやらもざまぁないってところか。
…………劉……鳳…………。
――もっとも、もうお前には関係ないことか?
……………………そうだ! 俺、劉鳳さんに頼まれたんだ! …………翠星石を護ってやってくれって!!
――……城戸、お前がどうなろうが俺の知ったことじゃない。だがな……………………。
…………なんだよ蓮?
――死ぬなら…………俺に借金を返してからにしろ。
……………………プッ、ハハハハハ!! 何だそれ!!
――何がおかしい。お前の借金は15万もあるんだぞ。
なっ、3万だろ! 3万!
――…………それに優衣も心配する。
……そうか、そうだよな。…………蓮。
――……何だ?
ありがとう。……またな。
いつの間にか蓮の声は聞こえなくなっていた。
しかし意識は、先ほどまでより鮮明になっている。
それと共に、蓮がこの場に居るはずがないことも思い出す。
しかし意識は、先ほどまでより鮮明になっている。
それと共に、蓮がこの場に居るはずがないことも思い出す。
(夢…………だったんだ)
どうやら泣きつかれて、眠っていたらしい。
不自然な体勢で寝ていたために、身体の節々に痛みはあるが
立ち上がるのに問題はない。体力は回復したようだ。
目の前には変わらず劉鳳の亡骸がある。
いつまでも野晒しにはしておけない。
不自然な体勢で寝ていたために、身体の節々に痛みはあるが
立ち上がるのに問題はない。体力は回復したようだ。
目の前には変わらず劉鳳の亡骸がある。
いつまでも野晒しにはしておけない。
(劉鳳さん…………埋葬しないと)
劉鳳の亡骸の近くには、ちょうど成人男性が収まるほどの大きさで地面にできた穴があった。
真司は劉鳳の亡骸を抱きかかえる形で持ち上げる。
命亡き人の身体の重みが、両手にかかった。
己の罪の重さ。真司はそれを受け止める。
穴の中に劉鳳を横たえる。
そして先が割れた木片を見つけると
それをスコップ代わりにして、劉鳳の亡骸に土をかけ始めた。
真司は劉鳳の亡骸を抱きかかえる形で持ち上げる。
命亡き人の身体の重みが、両手にかかった。
己の罪の重さ。真司はそれを受け止める。
穴の中に劉鳳を横たえる。
そして先が割れた木片を見つけると
それをスコップ代わりにして、劉鳳の亡骸に土をかけ始めた。
劉鳳を埋葬し、スコップ代わりの木片を地面に突き立てる。
一応墓代わりのつもりだ。
もう少しちゃんとした埋葬法と墓が欲しかったが、あいにく現状ではそれを用意できそうにない。
何より真司には、あまり時間がないのだ。
真司は劉鳳の墓前で手を合わせ、黙祷する。
一応墓代わりのつもりだ。
もう少しちゃんとした埋葬法と墓が欲しかったが、あいにく現状ではそれを用意できそうにない。
何より真司には、あまり時間がないのだ。
真司は劉鳳の墓前で手を合わせ、黙祷する。
(劉鳳さん……俺、どう償っていいかなんて分からないけど…………せめて劉鳳さんに頼まれたことはやり遂げようと思います。
…………翠星石は、俺が護ります)
…………翠星石は、俺が護ります)
真司は劉鳳に翠星石を護ると誓う。
そこで真司は肝心の翠星石がどうしているか、把握していないことに気づいた。
慌てて周囲を見回し、翠星石を捜す。
そこで真司は肝心の翠星石がどうしているか、把握していないことに気づいた。
慌てて周囲を見回し、翠星石を捜す。
「……翠星石!」
地に倒れ付している翠星石の姿を発見。
慌てて駆け寄り、状態を確認する。
どうやら先ほどまでの真司同様に、泣き疲れて眠っているだけらしい。
翠星石の安全を確認し真司は安堵する。
ややあって翠星石が、おもむろに眼を覚ましだした。
慌てて駆け寄り、状態を確認する。
どうやら先ほどまでの真司同様に、泣き疲れて眠っているだけらしい。
翠星石の安全を確認し真司は安堵する。
ややあって翠星石が、おもむろに眼を覚ましだした。
「翠星石! 大丈夫か?」
真司が翠星石を気遣い声を掛ける。
それを受けて翠星石は意識が完全に戻ったのか、はっきり眼を覚まし
そしてその表情は驚愕と――恐怖に染まった。
それを受けて翠星石は意識が完全に戻ったのか、はっきり眼を覚まし
そしてその表情は驚愕と――恐怖に染まった。
「ひ、ひいいいぃぃぃっ!!!」
「ど、どうしたんだよ!?」
「お前は劉鳳を殺した人間!!」
「――――!」
「ど、どうしたんだよ!?」
「お前は劉鳳を殺した人間!!」
「――――!」
翠星石の明らかに拒絶の意を含んだ悲鳴。
覚悟を決めていたはずの真司が、思わず動揺する。
翠星石は両肩に置かれていた真司の手を振り払って、飛び退いた。
覚悟を決めていたはずの真司が、思わず動揺する。
翠星石は両肩に置かれていた真司の手を振り払って、飛び退いた。
「待ってくれ、俺は君の敵じゃない!! って言うか、君を護るように言われたんだよ!」
「そ、そんな見え透いた嘘に騙される翆星石じゃねーですぅ!」
「いや、劉鳳さんが俺に頼んだの、君も聞いてただろ!?」
「そう言って油断したところを殺すつもりですね!」
「そ、そんな見え透いた嘘に騙される翆星石じゃねーですぅ!」
「いや、劉鳳さんが俺に頼んだの、君も聞いてただろ!?」
「そう言って油断したところを殺すつもりですね!」
真司の説得も、翠星石は耳を貸さない。
翠星石がもう少し冷静ならば、自分が寝ているあいだに手を出さなかった時点で
少なくとも真司が単純に、翠星石を殺すつもりは無いことは分かったはずだ。
しかし翠星石は、ただでさえ――アリスゲームより凄惨な色が濃い――殺し合いの空気に当てられ
死の恐怖や姉妹の死の不安に、本人も知らないうちに憔悴していた。
その上殺し合いの最初に出会った人物で、以来心の底では頼りにしていた劉鳳が殺されたのだ。
今の翠星石は平静に状況を把握できる状態にない。
心中に巻き起こる恐怖も悲しみも、全て歪んだ認識となって真司にぶつけていた。
翠星石がもう少し冷静ならば、自分が寝ているあいだに手を出さなかった時点で
少なくとも真司が単純に、翠星石を殺すつもりは無いことは分かったはずだ。
しかし翠星石は、ただでさえ――アリスゲームより凄惨な色が濃い――殺し合いの空気に当てられ
死の恐怖や姉妹の死の不安に、本人も知らないうちに憔悴していた。
その上殺し合いの最初に出会った人物で、以来心の底では頼りにしていた劉鳳が殺されたのだ。
今の翠星石は平静に状況を把握できる状態にない。
心中に巻き起こる恐怖も悲しみも、全て歪んだ認識となって真司にぶつけていた。
「待てよ、1人になったら危ないって!」
「いやあっ!!! あっちへ行きやがれですぅ!! 寄らば、今度こそぶん殴るですぅっ!!!」
「いやあっ!!! あっちへ行きやがれですぅ!! 寄らば、今度こそぶん殴るですぅっ!!!」
寄りすがる真司を振り切って、翠星石は逃げ出した。
しかしただでさえ動転している上、足下が整備もされていない森の中では
足取りもおぼつかず、何度も転びそうになっている。
真司はその翠星石を追って、背後から掴まえようとする。
しかしただでさえ動転している上、足下が整備もされていない森の中では
足取りもおぼつかず、何度も転びそうになっている。
真司はその翠星石を追って、背後から掴まえようとする。
「あんた、何やってんだ!」
そこに男の声が掛かる。
茂みから、まだ学生と思しき男が飛び出してきた。
真司はまずいタイミングを目撃されたと動揺する。
しかしそれ以上に驚いたのは、現れた男の容姿だった。
茂みから、まだ学生と思しき男が飛び出してきた。
真司はまずいタイミングを目撃されたと動揺する。
しかしそれ以上に驚いたのは、現れた男の容姿だった。
突如現れた男。
一見すると普通の学生に見える。
だが男の右腕は、得体の知れない異形の怪物だったのだ。
一見すると普通の学生に見える。
だが男の右腕は、得体の知れない異形の怪物だったのだ。
◇
ホテルの1階は、フロントからロビーそして外壁まで無残に破壊されていた。
そこから泉新一は、粉々に割れたガラス製の自動ドアを身を低くして潜り抜け外に出る。
心なしか夜の闇が薄まっていた。
そうは言っても森に囲まれた周囲の景色は暗く、とても見通しがいいとはいえない。
これではとても、逃亡した男の足取りを追うことはできない。
そこから泉新一は、粉々に割れたガラス製の自動ドアを身を低くして潜り抜け外に出る。
心なしか夜の闇が薄まっていた。
そうは言っても森に囲まれた周囲の景色は暗く、とても見通しがいいとはいえない。
これではとても、逃亡した男の足取りを追うことはできない。
「どうやら、完全に見失ったな……」
「当たり前よ。罠でも張っていない限り、逃げた人間がいつまでも姿を見せているはずがない」
「当たり前よ。罠でも張っていない限り、逃げた人間がいつまでも姿を見せているはずがない」
新一の後から、長い黒髪のセーラー服を着込んだ少女が現れる。
いや、それは少女と表現するには不適当かもしれない。何しろ普通に年をとる人間ではない。
紅世に身を置く討ち手、フレイムヘイズなのだ。
こちらも身を低くして潜り抜けているが、そんな挙動ですら力強さからか威厳さえ漂っている。
その凛とした声と幼女の姿からは想像もできない造作なく放たれる存在感に、さしもの新一も気圧される。
いや、それは少女と表現するには不適当かもしれない。何しろ普通に年をとる人間ではない。
紅世に身を置く討ち手、フレイムヘイズなのだ。
こちらも身を低くして潜り抜けているが、そんな挙動ですら力強さからか威厳さえ漂っている。
その凛とした声と幼女の姿からは想像もできない造作なく放たれる存在感に、さしもの新一も気圧される。
「でも、それじゃあこれからどこへ行くんだ?」
「あいつの逃げた方角は分からないけど、予測することはできるわ。北と西は地図の端。そして南は平地が広がっている。
消去法でいけば、身を隠しやすい森のある東の可能性が高い」
消去法でいけば、身を隠しやすい森のある東の可能性が高い」
シャナが流麗に説明の言葉をつむぐ。
あまりに言葉が滑らかで、抑揚も少ないため
新一は思わず聞き流しそうになり、内容を反芻するのに間があった。
あまりに言葉が滑らかで、抑揚も少ないため
新一は思わず聞き流しそうになり、内容を反芻するのに間があった。
「…………まあ、他に当ても無いし、とりあえずそれでいいか」
「じゃ、行くわよ。付いて来れないなら、置いていくから」
「って、ちょっと待てよ!」
「じゃ、行くわよ。付いて来れないなら、置いていくから」
「って、ちょっと待てよ!」
新一が喋り終わるか終わらないかのうちに、シャナは東へ向けて駆け出した。
慌てて新一もそれを追う。
一体何をそんなに焦っているのかと、心中で零しながら。
慌てて新一もそれを追う。
一体何をそんなに焦っているのかと、心中で零しながら。
実際のところシャナに焦燥はなくとも、急ぐ理由はあった。
まず前提として、シャナはこの事態を解決して早急にフレイムヘイズ任務へ戻らなければならない。
そのためには
首輪の解除。
現在位置の特定と帰還方法の割り出し。
抑制された能力『封絶』を再び使用可能にする。
など、やらなければならない課題は多い。
そしてこの殺し合いの中で、他の参加者に支給されたと思われるコキュートスも探す必要がある。
おまけに、ただ殺し合いから脱出すればいい訳ではない。
主催者のV.V.を放置したら、また同じことをされる。
V.V.はここで確実に殺す。
要するにやらなければならないことが山積みなのだ。
さらに言えば、あれだけ大規模な爆発を起こしたホテルでいつまでものんびりしていてはまた襲撃されかねない。
まず前提として、シャナはこの事態を解決して早急にフレイムヘイズ任務へ戻らなければならない。
そのためには
首輪の解除。
現在位置の特定と帰還方法の割り出し。
抑制された能力『封絶』を再び使用可能にする。
など、やらなければならない課題は多い。
そしてこの殺し合いの中で、他の参加者に支給されたと思われるコキュートスも探す必要がある。
おまけに、ただ殺し合いから脱出すればいい訳ではない。
主催者のV.V.を放置したら、また同じことをされる。
V.V.はここで確実に殺す。
要するにやらなければならないことが山積みなのだ。
さらに言えば、あれだけ大規模な爆発を起こしたホテルでいつまでものんびりしていてはまた襲撃されかねない。
だから、必要な交渉もホテルを離れてから行うことにしたのだ。
『シンイチ、今の内に聞いておきたいことがあるんだ』
ホテルを出発して森を走り始めた新一に、声が掛かる。シャナのものではない。
新一の服の下で細長い触手が伸び、その先が口を形作り耳元で喋る。
それは新一の右腕から伸びていた。
新一の右腕と言ってもそれは位置的な意味だ。
その右腕は新一とは独立した意思を持ち、不定形に動く。
ミギー。それが新一の右腕部分に寄生している生物の名だ。
シャナは新一より先を走っている。小声なら会話も聞かれないだろう。
新一の服の下で細長い触手が伸び、その先が口を形作り耳元で喋る。
それは新一の右腕から伸びていた。
新一の右腕と言ってもそれは位置的な意味だ。
その右腕は新一とは独立した意思を持ち、不定形に動く。
ミギー。それが新一の右腕部分に寄生している生物の名だ。
シャナは新一より先を走っている。小声なら会話も聞かれないだろう。
「なんだミギー?」
『わたしが眠っている間何があったかを、できるだけ詳しく教えてくれ』
「それって今必要?」
『必要』
「やれやれ……」
『わたしが眠っている間何があったかを、できるだけ詳しく教えてくれ』
「それって今必要?」
『必要』
「やれやれ……」
前を走るシャナは、鬱蒼とした森の中を苦も無く走り抜けていく。
新一はこちらに振り返ることもなく走る、シャナの隙のない後姿を見ながら
ミギーにホテルでの顛末を説明し出した。
新一はこちらに振り返ることもなく走る、シャナの隙のない後姿を見ながら
ミギーにホテルでの顛末を説明し出した。
「泉新一、話がある」
しばらくの後、シャナは走りながらそう切り出してきた。
後から追走する新一はすでにミギーとの話を終えていたが、それでも僅かに動揺する。
何とかそれを押し隠し、返事を返した。
後から追走する新一はすでにミギーとの話を終えていたが、それでも僅かに動揺する。
何とかそれを押し隠し、返事を返した。
「ハッハッ……し、新一でいいよ。…………それより……話すなら休もう」
新一の様子は息も絶え絶えで、体力的に限界が近いことが容易に見て取れる。
森の中の少し開けた空間に出る。
新一はとうとうそこで足を止めて、倒れていた木の上に座り込んだ。
瞬発力には並外れている新一だが、持久力は比較的低いのだ。
フレイムへイズとしての力を発揮せずとも、鍛え抜かれたシャナとは競争にならない。
それにミギーと会話しながらもあって、慣れぬ山道ではここまでシャナに付いて行くのが精一杯だった。
シャナはそんな新一に冷淡な視線を送りながらも、立ち止まる。
森の中の少し開けた空間に出る。
新一はとうとうそこで足を止めて、倒れていた木の上に座り込んだ。
瞬発力には並外れている新一だが、持久力は比較的低いのだ。
フレイムへイズとしての力を発揮せずとも、鍛え抜かれたシャナとは競争にならない。
それにミギーと会話しながらもあって、慣れぬ山道ではここまでシャナに付いて行くのが精一杯だった。
シャナはそんな新一に冷淡な視線を送りながらも、立ち止まる。
「……新一、支給品を交換して」
息を整える新一に構わず、シャナは単刀直入に切り出す。
新一としてはもう少しこっちに気を使って欲しいとは思うが、どうやらシャナは対人関係に無理解と言っていいほど疎いらしい。
おまけにあの冷静さと貫録だ。はっきり言ってミギーより付き合いづらい。
それでも自分から同行を言い出したのだ。こっちが大人になるしかないだろう。
今更ながら、なんであんなことを言ったのかと心中で嘆息をつく。
新一としてはもう少しこっちに気を使って欲しいとは思うが、どうやらシャナは対人関係に無理解と言っていいほど疎いらしい。
おまけにあの冷静さと貫録だ。はっきり言ってミギーより付き合いづらい。
それでも自分から同行を言い出したのだ。こっちが大人になるしかないだろう。
今更ながら、なんであんなことを言ったのかと心中で嘆息をつく。
「ふぅ…………交換? ……何と何を?」
「傷薬が後4つある。それと盾を交換して」
「傷薬が後4つある。それと盾を交換して」
ホテルで新一の治療に使われた傷薬のことだろう。
傷薬と言えば普通は傷口の消毒などにより、傷の自然治癒を間接的に補助する物でしかない。
しかしあの傷薬は傷口の治癒はおろか、塗られただけで若干の体力の回復まで為された。
市販されているような傷薬ではない。もっと効果の高い物だ。
そして盾、ビルテクターはシャナが捨てた物を新一が拾ってデイパックに入れていた。
これは非常に頑強な代物だが、所詮は防具に過ぎない。
イングラムならともかく、これならシャナの手に渡っても危険は薄いだろう。
それならばシャナの手にあった方が都合がいいかもしれない。自分にはミギーが居ることだし。
傷薬と言えば普通は傷口の消毒などにより、傷の自然治癒を間接的に補助する物でしかない。
しかしあの傷薬は傷口の治癒はおろか、塗られただけで若干の体力の回復まで為された。
市販されているような傷薬ではない。もっと効果の高い物だ。
そして盾、ビルテクターはシャナが捨てた物を新一が拾ってデイパックに入れていた。
これは非常に頑強な代物だが、所詮は防具に過ぎない。
イングラムならともかく、これならシャナの手に渡っても危険は薄いだろう。
それならばシャナの手にあった方が都合がいいかもしれない。自分にはミギーが居ることだし。
「ああ、いいぜ」
新一は盾を手渡し、短い円柱状のケースに入った薬を受け取る。
『シンイチ、今の交換は割りに合わないんじゃないか?』
傷薬をデイパックに直し終え、1息ついてぺットボトルの水を軽く口に含んだ新一に、
襟元からミギーが再び話し掛けた。
シャナの様子を見ると盾の使い勝手と、もう片方の手での槍――ゲイボルグを扱い方を試しているようだ。
シャナは槍も盾も、今初めて使う。しかしそうと知らぬ新一は使用に熟達していると錯覚するほど、扱いが様になっていた。
新一はシャナに聞こえないように、小声で答える。
襟元からミギーが再び話し掛けた。
シャナの様子を見ると盾の使い勝手と、もう片方の手での槍――ゲイボルグを扱い方を試しているようだ。
シャナは槍も盾も、今初めて使う。しかしそうと知らぬ新一は使用に熟達していると錯覚するほど、扱いが様になっていた。
新一はシャナに聞こえないように、小声で答える。
「そんなことないって。この傷薬は普通のより、効果が高いし
盾もあの子が持ってた方が、身を守るのに都合がいい」
『その言い方だと、きみは自分よりシャナの身の安全を優先しているように聞こえるが?』
「……ああ、そうかもな」
『……』
「ミギー、おまえが納得のいかないのは分かる……」
『納得どころか理解すらしていないよ。それより確認しておきたい。
きみは今危険人物を殺害するため、追跡しているんだな?』
「殺す気は無いよ。話を聞いて、場合によっては止めるだけだ」
『シャナの方は殺すつもりみたいだが』
「……そ、それも止めて見せるさ」
『で、今度こそ危険人物の男かシャナに殺されるつもりか?
ホテルできみは危うくシャナに殺されるところだった。次生き残れる保証も無い』
「それは……今度はミギー、おまえも最初から起きてるんだ。上手くいくさ」
『わたしが協力すればだろ』
「ミギー……………………」
盾もあの子が持ってた方が、身を守るのに都合がいい」
『その言い方だと、きみは自分よりシャナの身の安全を優先しているように聞こえるが?』
「……ああ、そうかもな」
『……』
「ミギー、おまえが納得のいかないのは分かる……」
『納得どころか理解すらしていないよ。それより確認しておきたい。
きみは今危険人物を殺害するため、追跡しているんだな?』
「殺す気は無いよ。話を聞いて、場合によっては止めるだけだ」
『シャナの方は殺すつもりみたいだが』
「……そ、それも止めて見せるさ」
『で、今度こそ危険人物の男かシャナに殺されるつもりか?
ホテルできみは危うくシャナに殺されるところだった。次生き残れる保証も無い』
「それは……今度はミギー、おまえも最初から起きてるんだ。上手くいくさ」
『わたしが協力すればだろ』
「ミギー……………………」
新一にはミギーの懸念も分かる。
男にもシャナ相手にも、ろくに説得材料がない以上
下手をすれば、いや高い確率でその両方を敵にまわす。
無論、勝算などない。
考えれば考えるほど、自分が引き合わないことをしていると実感する。
自分の命はミギーの命でもある。無為に危険に晒せば怒るのもある意味当然だろう。
しばらくして、重い沈黙を破りミギーが口を開いた。
男にもシャナ相手にも、ろくに説得材料がない以上
下手をすれば、いや高い確率でその両方を敵にまわす。
無論、勝算などない。
考えれば考えるほど、自分が引き合わないことをしていると実感する。
自分の命はミギーの命でもある。無為に危険に晒せば怒るのもある意味当然だろう。
しばらくして、重い沈黙を破りミギーが口を開いた。
『シンイチ、もう幾つか確認したい。きみは男とシャナの殺人を止めるために行動してるんだな』
「ああ。けどこんな状況じゃ、それも難しいかもな……」
『ふむ。シャナはたしか人間では無いんだな?』
「……うん、本人もそう言っていたし間違いないと思う。でも何でそんなことを……」
『シンイチ、後で話そう』
「ああ。けどこんな状況じゃ、それも難しいかもな……」
『ふむ。シャナはたしか人間では無いんだな?』
「……うん、本人もそう言っていたし間違いないと思う。でも何でそんなことを……」
『シンイチ、後で話そう』
唐突にミギーが話を打ち切る。
ふと顔を上げてシャナの方を見ると、槍と盾の練習を終えていた。
シャナの艶やかな長髪は、炎のごとき赤に染まっている。
そうして静謐な森の中を凛として佇むシャナの様は、幻想的な美しささえたたえていた。
そしてシャナはゆっくりと新一に近づいていき
ふと顔を上げてシャナの方を見ると、槍と盾の練習を終えていた。
シャナの艶やかな長髪は、炎のごとき赤に染まっている。
そうして静謐な森の中を凛として佇むシャナの様は、幻想的な美しささえたたえていた。
そしてシャナはゆっくりと新一に近づいていき
手にした槍の刃先を、新一の眼前に突きつけた。
「な、何の真似だ!?」
思わず新一の声が上ずる。
槍は新一の目と鼻の先に突きつけられている。
そしてそれ以上にシャナ自身の放つ威圧感は、刺すような鋭さすら帯びていてる。
これは冗談でも虚勢でもない。ことによっては殺すと言外に告げていた。
槍は新一の目と鼻の先に突きつけられている。
そしてそれ以上にシャナ自身の放つ威圧感は、刺すような鋭さすら帯びていてる。
これは冗談でも虚勢でもない。ことによっては殺すと言外に告げていた。
「ホテルでの借りは傷薬で返した。もう、おまえに容赦する理由はない。
……おまえは何? その右手はどうなっている?」
……おまえは何? その右手はどうなっている?」
シャナはその険と裏腹に、相変わらずの事務的な口調で質問する。
しかしその淡々とした態度が、より新一に圧力を与えていた。
言外に黙秘や虚偽があれば殺すと言っている。
場合によれば、この平静な調子のまま新一を殺すのだろう。
しかしその淡々とした態度が、より新一に圧力を与えていた。
言外に黙秘や虚偽があれば殺すと言っている。
場合によれば、この平静な調子のまま新一を殺すのだろう。
その上先ほどと同じ核心を付いた質問。
あわよくばミギーの存在はうやむやにしたかったが、流石にそれは調子がよかったか。
シャナのこの様子では下手に誤魔化すこともできない。
しかし果たしてそのまま話していいものか。
逡巡する新一の右手が、突如目と口を開き
異形に変形する。
あわよくばミギーの存在はうやむやにしたかったが、流石にそれは調子がよかったか。
シャナのこの様子では下手に誤魔化すこともできない。
しかし果たしてそのまま話していいものか。
逡巡する新一の右手が、突如目と口を開き
異形に変形する。
『先手を打たれたか』
「い、いいのかミギー!?」
『ホテルですでに正体を見られたんだ。やはりごまかすのは無理がある。まさか本気で隠し通す気だったのか?』
「い、いいのかミギー!?」
『ホテルですでに正体を見られたんだ。やはりごまかすのは無理がある。まさか本気で隠し通す気だったのか?』
ミギーに指摘され、新一は自分の短慮を恥じ入る。
何れにしろミギーが正体を表した以上、もう余計な隠しごとは必要なくなった。
何れにしろミギーが正体を表した以上、もう余計な隠しごとは必要なくなった。
『それにわたしからもシャナに話がある』
ミギーがシャナに話?
疑問はあるが、この場はミギーに任せよう。
ミギーは自分よりずっと頭がいい。この場も上手く切り抜けるだろう。
新一がそう考えていると、ミギーが触手を上方へ伸ばし始めた。
疑問はあるが、この場はミギーに任せよう。
ミギーは自分よりずっと頭がいい。この場も上手く切り抜けるだろう。
新一がそう考えていると、ミギーが触手を上方へ伸ばし始めた。
『わたしが何なのかは、口で説明するよりこれを見せた方が早い』
ミギーの高さは軽く3mに達する。
新一はミギーの意図が分からず、怪訝な表情で見上げる。
シャナも目で天に伸びていくミギーを目で追った。
ミギーは更に伸びた先から、裂けるように2股に分かれ
その両方の先で口が開き、同時に喋り始める。
新一はミギーの意図が分からず、怪訝な表情で見上げる。
シャナも目で天に伸びていくミギーを目で追った。
ミギーは更に伸びた先から、裂けるように2股に分かれ
その両方の先で口が開き、同時に喋り始める。
『『これはきみには理解しにくいだろうが、我々の安全にも関わる……』』
そこまで喋った瞬間、ミギーの付け根の部分から
先が刃と化した触手が、シャナの首へ伸びた。
先が刃と化した触手が、シャナの首へ伸びた。
「……!?」
不意を衝かれ、迎撃も新一への攻撃も間に合わなかったシャナは
何とかサイドステップしながら上体を捻り、触手を避ける。
ミギーの陽動に不意を衝かれたのではない。
どれほど巧みに意識を誘導されても、警戒を解くシャナではない。
そのシャナの不意を衝いたのは、ミギーの速さ。
最短距離を、銃弾のごとき速度で衝いて来るのに加え
不定形ゆえ余剰な動作のない高速の変形は、攻撃の起こりを予測できない。
それゆえミギーの攻撃は、シャナの警戒をすら上回った。
何とかサイドステップしながら上体を捻り、触手を避ける。
ミギーの陽動に不意を衝かれたのではない。
どれほど巧みに意識を誘導されても、警戒を解くシャナではない。
そのシャナの不意を衝いたのは、ミギーの速さ。
最短距離を、銃弾のごとき速度で衝いて来るのに加え
不定形ゆえ余剰な動作のない高速の変形は、攻撃の起こりを予測できない。
それゆえミギーの攻撃は、シャナの警戒をすら上回った。
シャナの体勢が崩れたところに、上に伸びていたミギーが
その身を刃に変え、シャナへ振り落ちる。
これも自由落下では有り得ない速さ。
体勢を立て直す暇もなく、シャナは地面に転がり込んで避ける。
その身を刃に変え、シャナへ振り落ちる。
これも自由落下では有り得ない速さ。
体勢を立て直す暇もなく、シャナは地面に転がり込んで避ける。
「おい、ミギー!! 何をしてるんだ!?」
『決まってるだろう! シャナを殺す!』
『決まってるだろう! シャナを殺す!』
展開にやっと頭が追いついた新一は、半ば制止する気勢でミギーを問い詰める。
しかしミギーの攻撃は止まらない。
2本の触手がシャナを追う。
シャナは脚力だけで、身体を起こして避ける。
さらに触手を伸ばそうとするミギーの根元の部分を、新一が身体で留めようとしていた。
しかしミギーの攻撃は止まらない。
2本の触手がシャナを追う。
シャナは脚力だけで、身体を起こして避ける。
さらに触手を伸ばそうとするミギーの根元の部分を、新一が身体で留めようとしていた。
『シンイチ、じゃまするな!!』
「おまえこそ何やってんだ! なんでシャナを殺さなきゃいけないんだ!」
『”危険人物を排除する”ためだ。話を聞く限り、爆弾の男よりシャナの方が危険だ。早急に排除する必要がある』
「だからって、いきなり人を殺そうとすんな!!」
『シャナは人では無かったんじゃないのか?』
「……そ、それは……とにかく殺したらだめだ!」
「おまえこそ何やってんだ! なんでシャナを殺さなきゃいけないんだ!」
『”危険人物を排除する”ためだ。話を聞く限り、爆弾の男よりシャナの方が危険だ。早急に排除する必要がある』
「だからって、いきなり人を殺そうとすんな!!」
『シャナは人では無かったんじゃないのか?』
「……そ、それは……とにかく殺したらだめだ!」
新一とミギーが何やら口論をしている。
とにかく今が、反撃の好機だ。
もう殺すのを躊躇する理由も、力を温存する理由もない。
そう、シャナは今までの戦いにおいて戦力を極力温存していた。
フレイムヘイズとしての長い訓練を受けてきたシャナは、自分の能力に対する内省に長ける。
さらにこの場では封絶が使えない。
シャナは殺し合いが始まってすぐ封絶を試みたが、何故かできなかった。
もっとも可能性の高い原因は、おそらく主催者による能力の抑制。
封絶が使えればそもそも殺し合いにならないので、当然の措置といえる。
そして封絶が抑制されている以上、他の能力にも制限がされている可能性がある。
事実自分の能力は全般的に落ちていた。
殺し合いでは不測の長期戦を強いられる可能性もある。だからシャナは極力戦闘では、力の消耗を抑えようとしていた。
だがこれまでの戦いで、制限の度合いは把握できた。
持久力に関してはほとんど心配は要らないらしい。
ならば全力で敵を排除しにかかる。
とにかく今が、反撃の好機だ。
もう殺すのを躊躇する理由も、力を温存する理由もない。
そう、シャナは今までの戦いにおいて戦力を極力温存していた。
フレイムヘイズとしての長い訓練を受けてきたシャナは、自分の能力に対する内省に長ける。
さらにこの場では封絶が使えない。
シャナは殺し合いが始まってすぐ封絶を試みたが、何故かできなかった。
もっとも可能性の高い原因は、おそらく主催者による能力の抑制。
封絶が使えればそもそも殺し合いにならないので、当然の措置といえる。
そして封絶が抑制されている以上、他の能力にも制限がされている可能性がある。
事実自分の能力は全般的に落ちていた。
殺し合いでは不測の長期戦を強いられる可能性もある。だからシャナは極力戦闘では、力の消耗を抑えようとしていた。
だがこれまでの戦いで、制限の度合いは把握できた。
持久力に関してはほとんど心配は要らないらしい。
ならば全力で敵を排除しにかかる。
制止する新一をかわして、襲い来るミギーの触手。
しかしシャナは、それを悠々と盾で防ぎ
更なる高速の動きで槍を横薙ぎに振るい、触手を切り落とす。
しかしシャナは、それを悠々と盾で防ぎ
更なる高速の動きで槍を横薙ぎに振るい、触手を切り落とす。
「なっ……!」
シャナの技量に驚いたらしい新一が、驚嘆の声を上げる。
ホテルで見せた戦力が上限だと思っていたらしい。
その反応から新一には、隠している戦力はないことが伺える。
驚く新一とは裏腹に、ミギーは先ほどまでと変わらない調子で追撃の触手を伸ばしてきた。
盾で払い落としながら、シャナは敵戦力の考察を進める。
どうやら触手を切り落としただけでは、ダメージにはならないらしい。
これまで見てきた限りでは、新一とミギーは別動体だ。
そしてミギーは恐らく不定形で、物理的に損傷を与えられないと考えられる。
しかしミギーの生死は、新一のそれに依存しているのだろう。
でなければ、新一にだけ首輪を付けて済むはずがない。
ならば狙うべきはミギーではなく、本体の新一だ。
ホテルで見せた戦力が上限だと思っていたらしい。
その反応から新一には、隠している戦力はないことが伺える。
驚く新一とは裏腹に、ミギーは先ほどまでと変わらない調子で追撃の触手を伸ばしてきた。
盾で払い落としながら、シャナは敵戦力の考察を進める。
どうやら触手を切り落としただけでは、ダメージにはならないらしい。
これまで見てきた限りでは、新一とミギーは別動体だ。
そしてミギーは恐らく不定形で、物理的に損傷を与えられないと考えられる。
しかしミギーの生死は、新一のそれに依存しているのだろう。
でなければ、新一にだけ首輪を付けて済むはずがない。
ならば狙うべきはミギーではなく、本体の新一だ。
ミギーの触手を上手く往なし、シャナは腰だめに槍を構える。
そして隙を見せた新一の胸に目掛け、槍を突いた。
新一はまるで反応できていない。
これで新一とミギーを殺した。
予断が過ぎった瞬間、背中から胸に衝撃が来る。
自分の背中から何かが刺さった。
そう認識した刹那、瞬時に刺さったそれをつかむ。
抜き取りながら、それが何かを確認する。
それは切り落としたはずの”ミギー”が変形した刃。
そして隙を見せた新一の胸に目掛け、槍を突いた。
新一はまるで反応できていない。
これで新一とミギーを殺した。
予断が過ぎった瞬間、背中から胸に衝撃が来る。
自分の背中から何かが刺さった。
そう認識した刹那、瞬時に刺さったそれをつかむ。
抜き取りながら、それが何かを確認する。
それは切り落としたはずの”ミギー”が変形した刃。
(切断されても、独立して行動できたの!?)
油断を自覚し、シャナは歯噛みする。
傷は心臓まで達している。
が、動けないわけではない。
ミギーが軟体化して手中から抜け出し、再度刃と化してシャナに向かう。
シャナはそれを槍で殴り飛ばした。
その槍が新一に掴まれる。
傷は心臓まで達している。
が、動けないわけではない。
ミギーが軟体化して手中から抜け出し、再度刃と化してシャナに向かう。
シャナはそれを槍で殴り飛ばした。
その槍が新一に掴まれる。
「もう止めろ、俺は君と戦うつもりはない! ミギーもこれ以上、シャナに手を出すな! ……って、だから止めろよ!!」
新一の右腕のミギーが触手を伸ばし来る。新一はともかくミギーは戦意を持ったままだ。
シャナは槍を、掴んでいる新一ごと片手で持ち上げる。
そのまま大きく槍を振り回した。
新一は触手を伸ばしていたミギーごと藪に投げ込まれた。
そしてシャナはその勢いに体勢を崩し、膝をつく。
どうやら胸に受けた負傷の影響は、思いの他大きいらしい。
ミギーの切れ端がなおも飛び掛ってくるが、盾で払い落とす。
切れ端は飛び跳ねながら、新一のもとに行った。
敵からの追撃の気配はない。
それならこちらから追撃する場面ではあるのだが、深手を負ったシャナも追撃できる状態ではなかった。
負傷の回復が遅い。これも制限の影響か。
無論、新一を見逃すつもりもない。
シャナは追撃のための回復を待つ。
シャナは槍を、掴んでいる新一ごと片手で持ち上げる。
そのまま大きく槍を振り回した。
新一は触手を伸ばしていたミギーごと藪に投げ込まれた。
そしてシャナはその勢いに体勢を崩し、膝をつく。
どうやら胸に受けた負傷の影響は、思いの他大きいらしい。
ミギーの切れ端がなおも飛び掛ってくるが、盾で払い落とす。
切れ端は飛び跳ねながら、新一のもとに行った。
敵からの追撃の気配はない。
それならこちらから追撃する場面ではあるのだが、深手を負ったシャナも追撃できる状態ではなかった。
負傷の回復が遅い。これも制限の影響か。
無論、新一を見逃すつもりもない。
シャナは追撃のための回復を待つ。
投げ込まれた場所が藪だったため、新一の受けたダメージは予想より小さかった。
立ち上がり、シャナの追撃に備える。
しかしシャナの能力が新一より遥かに上回るのは、先ほどの交戦で痛感した。
ミギーも戦う気になっている以上、平和的に事を収めるのは至難だ。
それどころかホテルの時より、遥かに強い。あの時は本気ではなかったということか。
その上シャナは、ホテルで受けた消耗や負傷ですら回復しているらしい。
しかも明らかに心臓まで傷を受けたにもかかわらず、新一は投げ飛ばされた。
どうやらシャナは、後藤にも比肩し得る怪物であるようだ。
つまりまともに戦っては、確実に殺されるということだ。
切れ落ちたミギーが、新一の腕に戻る。
立ち上がり、シャナの追撃に備える。
しかしシャナの能力が新一より遥かに上回るのは、先ほどの交戦で痛感した。
ミギーも戦う気になっている以上、平和的に事を収めるのは至難だ。
それどころかホテルの時より、遥かに強い。あの時は本気ではなかったということか。
その上シャナは、ホテルで受けた消耗や負傷ですら回復しているらしい。
しかも明らかに心臓まで傷を受けたにもかかわらず、新一は投げ飛ばされた。
どうやらシャナは、後藤にも比肩し得る怪物であるようだ。
つまりまともに戦っては、確実に殺されるということだ。
切れ落ちたミギーが、新一の腕に戻る。
「ミギー、もうこれ以上……」
『逃げるぞ、新一』
「え……?」
『シャナはもう君を見逃すつもりはない。奇襲が失敗した今勝ち目はない。議論は後にして、今は逃げよう』
「……おまえは本当に、勝手なことばっかり…………!」
『逃げるぞ、新一』
「え……?」
『シャナはもう君を見逃すつもりはない。奇襲が失敗した今勝ち目はない。議論は後にして、今は逃げよう』
「……おまえは本当に、勝手なことばっかり…………!」
ミギーの話は納得がいくはずもないが
たしかにここは、シャナから逃げるほか選択肢はないだろう。
新一はシャナに背を向けて走り出した。
それでもミギーとは話を突けなければならない。
木々の立ち並ぶ森を駆け抜けながら、新一はミギーに話しかける。
たしかにここは、シャナから逃げるほか選択肢はないだろう。
新一はシャナに背を向けて走り出した。
それでもミギーとは話を突けなければならない。
木々の立ち並ぶ森を駆け抜けながら、新一はミギーに話しかける。
「ミギー、いくらシャナが危険だからってこっちから殺しに掛かってどうする!」
『シンイチ、人を殺したのはシャナの方が先だったはずだぞ』
「……………………」
『シャナと行動を共にするということは、邪魔や不要だと判断されれば、いつ後から殺されるか分からないということだ。
きみの命はわたしの命でもある。無断でそんな危険を冒されては困る。
だが人間ではないシャナを殺すのに、きみがあれほど拒否反応を示すとなるとな……』
『シンイチ、人を殺したのはシャナの方が先だったはずだぞ』
「……………………」
『シャナと行動を共にするということは、邪魔や不要だと判断されれば、いつ後から殺されるか分からないということだ。
きみの命はわたしの命でもある。無断でそんな危険を冒されては困る。
だが人間ではないシャナを殺すのに、きみがあれほど拒否反応を示すとなるとな……』
ミギーの指摘に新一は答えることができない。
シャナが咎もない人間を殺したことを忘れていたわけじゃない。
だから何とかシャナに同行して、これ以上の殺人が起きないようにしようと思っていた
しかし現実はこれだ。今の自分は、当のシャナから逃げている始末だ。
こんな中途半端なことでどうする。
シャナは人を殺したことに反省もしていない。
そのことを有耶無耶にしたまま、馴れ合いを続けるつもりだったのか?
シャナは危険人物だ。それは間違いない。
一体どんな態度で接するかはっきり決めないと、いけなかったのかも知れない。
シャナが咎もない人間を殺したことを忘れていたわけじゃない。
だから何とかシャナに同行して、これ以上の殺人が起きないようにしようと思っていた
しかし現実はこれだ。今の自分は、当のシャナから逃げている始末だ。
こんな中途半端なことでどうする。
シャナは人を殺したことに反省もしていない。
そのことを有耶無耶にしたまま、馴れ合いを続けるつもりだったのか?
シャナは危険人物だ。それは間違いない。
一体どんな態度で接するかはっきり決めないと、いけなかったのかも知れない。
「…………くそっ! やっぱり追ってきたか!」
後方はるか遠くから、足音がする。
森の中だというのに規則的で、凄まじい速さの足。
シャナが追ってきている。
新一は表情に焦りを見せる。
シャナとの持久力の差は明白。このままでは追いつかれるのは時間の問題だ。
森の中だというのに規則的で、凄まじい速さの足。
シャナが追ってきている。
新一は表情に焦りを見せる。
シャナとの持久力の差は明白。このままでは追いつかれるのは時間の問題だ。
『よくこの森の中で分かるな。以前から思っていたが、わたしの細胞が混ざって
きみがわたし以上の知覚能力を得たというのは面白い』
「んなこと言ってる場合か!」
『まったくだ。シャナがこれほどの力を持っていたとは。しかも実際戦ってみるまで、まったく力が分からなかった。
どうやら一見して強弱を見抜けるその辺の動物と違って、普通の力を持っている訳ではないようだ。
何れにしろ、まともに戦って勝てる相手じゃない。何か対策を講じなければ……』
「……しっ!」
『どうしたシンイチ?』
きみがわたし以上の知覚能力を得たというのは面白い』
「んなこと言ってる場合か!」
『まったくだ。シャナがこれほどの力を持っていたとは。しかも実際戦ってみるまで、まったく力が分からなかった。
どうやら一見して強弱を見抜けるその辺の動物と違って、普通の力を持っている訳ではないようだ。
何れにしろ、まともに戦って勝てる相手じゃない。何か対策を講じなければ……』
「……しっ!」
『どうしたシンイチ?』
走りながらのミギーの話を制止して、耳を済ませる。
微かだが、確かに聞こえたのだ。
少女の叫び声のようなものが。
微かだが、確かに聞こえたのだ。
少女の叫び声のようなものが。
「お前は劉鳳を殺した人間!!」
今度ははっきり聞こえる。
事情はよく分からないが、どうやら少女の身に何かが起きているらしい。
あれこれ考えるより先に、新一は声の方に向かい出した。
事情はよく分からないが、どうやら少女の身に何かが起きているらしい。
あれこれ考えるより先に、新一は声の方に向かい出した。
『シンイチ、何があった?』
ミギーの疑問の言葉も新一の耳には入らない。
少女が男と口論するような声に、完全に意識をとられている。
どうやら事態は相当、切迫しているようだ。
茂みの向こうに、暗いながらも少女の姿が見える。
茶髪の男が、その少女に手をかけようとしていた。
少女が男と口論するような声に、完全に意識をとられている。
どうやら事態は相当、切迫しているようだ。
茂みの向こうに、暗いながらも少女の姿が見える。
茶髪の男が、その少女に手をかけようとしていた。
「あんた、何やってんだ!」
そう叫びながら、新一は茂みから飛び出した。
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