Reiner Rubin

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Reiner Rubin  ◆ew5bR2RQj.



シャナとの交戦が終了してから二時間。
真司、翠星石、新一の三人は、森を抜けてDー1にある橋の上を歩いていた。
山岳方面ではなく、こちらを選んだのには二つの理由がある。
一つは彼らが連戦の末に体力を消耗していたこと。
今後のことを考えても、登山するのは御免被りたかった。
そしてもう一つは、シャナやメイド服の女の危険を大勢の人間に知らせたかったこと。
障害物の多い山岳地帯は、奇襲を受ける可能性も大いにある。
悔しい話だが、今の彼らには彼女等を撃退する余力はない。
ならばせめて一人でも多くの人間に、彼女等の危険を伝えておきたい。
そう考えて、彼らは山岳方面よりも人の多いこの道を選んだのだ。

『なんだあれは?』

橋を渡り終える直前、最初にそれに気付いたのはミギーであった。
ミギーが指差す先にあったのは小さな光。
幾重もの輪に取り囲まれ、今にも掻き消えてしまいそうな淡い光。
それでも見るものを魅了させるような美しい――――紅色の光だった。

「よく分かんないけど、とりあえず行ってみよう!」
「待ってください城戸さん、罠かもしれません」
「大丈夫だって、あんな小さな光でなにができるんだよ」
「でも――――」
『ここは行ってみよう、シンイチ』

ミギーが右腕から伸び、二人の間に割り込む。

『この橋は一本道だ、もし戻るなら引き返すしかない。罠かどうかも分からないものに怯えて来た道を戻るのは非効率的じゃあないか?』

ミギーの言葉に、新一は閉口する。
シャナとの交戦を終えてからここに到るまで、歩いた距離は相当のものだ。
それを警戒しながら歩いたため、体力以上に精神力を消費している。
その努力が全て無に帰するとなると、新一は口が裂けても戻ろうとは言えなかった。

『……それにあの光、どうやら我々に近づいてきているみたいだ』
「えっ!?」

真司と新一が同時に振り向く。
ミギーの言う通り、ほんの少しではあるが光がゆっくり近づいてきているように見えた。

「分かったよミギー、俺も覚悟を決める」

自ら罠に踏み込むというのは、どうもいい気持ちはしない。
しかし退路がない以上、前進するしかなかった。

「翠星石は俺の後ろに隠れて」

もしあれが罠であった場合、一番危険なのは抵抗手段を持たない翠星石だ。
真司は翠星石を護り抜くと劉鳳に誓った。
だから彼女の盾になるため、真司は移動を促す。

「翠星石?」

しかし彼女からの返事はなかった。
よくよく考えてみれば、あの光を発見して以来一度も彼女は喋っていない。
まさか既に罠が作動して翠星石に危険が及んだのでは、と真司の内側を疑念が渦巻き始める。
恐る恐るといった様子で、真司は彼女の顔色を窺う。
そうして見た彼女の表情は、彼の予想外のものであった。

泣いていた。

翠星石はオッドアイの瞳を濡らし、涙を流していた。

「…………」

そして無言のまま、一歩一歩と光に近づいていく翠星石。

「お、おい! 翠星石!」

光に飛び込んでいこうとする彼女を止めようと、真司は腕を伸ばす。
だが彼女はその制止を無視し、さらに歩を進めた。

「……大丈夫です、これは……罠なんかじゃないです」

彼女が言葉を紡ぐたび、涙は溢れていく。
その姿に気圧されてか、それ以上の言葉を掛けることのできない真司。
一歩、また一歩と歩き始める翠星石。
彼女に呼応するように、ゆっくりと近づく光。

「やっぱりなんかヤバい気がする、止めないと!」
『いや、止めなくていい』
「なんでだよミギー、もしあれが爆発でもしたらどうすんだ!?」
『彼女はあの光についてなにか知っているようだ、それにあの光は今「我々」ではなく「彼女」に近付いている』

ハッと空を仰ぐと、光は地上に向かって下降してきている。
もう新一や真司のことなど眼中にないかのだろうか。
あのまま行けば、もうすぐにでも彼女のもとに辿り着くだろう。
二人の男と一匹の寄生生物が見守る中、やがて彼女と光は邂逅する。
その刹那、光は破裂するように煌々と輝きを増し、彼女の身体を包み込んだ。

「翠星石!」

翠星石に駆け寄る真司だが、あまりの眩しさに立ち竦んでしまう。
同様に新一とミギーも視界を確保できず、その場から動くことができない。
二人の男が固唾を呑む中、少女は愛おしそうにその光を抱き締める。
そうして時間と共に光はだんだんと小さくなっていき、やがて完全に消え去った。

「…………」

目を閉じ、手を合わせたまま動かない翠星石。
一抹の不安が二人の男を支配し始める。

「翠星石……大丈夫なのか?」
「……大丈夫です」

心配する真司に対して、翠星石は素っ気ない返事を寄越す。
普段の彼ならば文句の一つくらいは言っていただろうが、今は無事でいてくれたことがただ嬉しかった。

「ったく、心配させやがって」

緊張の糸が切れたのか、胸に手を当て深い溜息を吐く新一。
しかし当の本人である翠星石は黙ったまま。
顔を汚した涙を拭くこともせず、ただその場に立ち尽くしている。

『翠星石、無事だったならあれの正体を説明してくれないか? 君はあれを知っているのだろう?』

このままだと誰も触れないと判断したのか、疑問を投げかけるミギー。
いずれは聞き出す必要があるのは新一も分かっていたが、今の翠星石は様子がおかしい。

故に今は聞き出すべきではないと判断していた。
にも関わらず、ミギーはその気遣いを無視してずけずけと質問をしたのだ。

「ミギー! お前は空気を読むってことを知らないのか!?」
『なんだ? 今、彼女の話を聞かないと先に進めないだろう、それに――――』
「それに、なんだよ?」
『あの光は最後に翠星石の身体に吸い込まれたように、私には見えたのだがな』
「ッ!」

ミギーの言葉に驚愕し、新一と真司は同時に翠星石へと振り向く。
すると彼女は居心地の悪さを感じたのか、観念したように溜め息を吐いた。

「分かったです、分かったですよ、説明するです
 だから大の男が二人揃って、レディーを睨みつけるんじゃねーです」

翠星石は露骨に肩をすくめ、やれやれと言った様子で言葉を紡ぎ始める。

「あれは……あの光は真紅です」
「真紅って……!」

移動中に三者は情報交換を行ったため、互いの事情や知り合いなどは大方理解している。

真紅というのは、翠星石と同じローゼンメイデンの一人。
少々生意気なところはあるが、しっかり者の少女だという話を聞いていた。

「……その真紅です」
「でも真紅は放送で名前を呼ばれたはずじゃ……」

問題はそこだ。
死亡したはずの者が何故ここにいるのか。
そもそも真紅は翠星石と同じ人形なのではないか。
説明が少なすぎて、新一と真司は現状を理解することができない。

『その光……ローザミスティカか?』

だがミギーは違った。
得た情報を冷静に分析し、残酷なくらい素早く正答を導き出す。
ローザミスティカ。
アリスゲームに敗退した少女はこれを失い、ローゼンメイデンからただの人形に戻る。

彼女たちにとっては、魂にも等しい物だった。

「……そうです」
「じゃあこれは……」

そう、宙に浮いていたのは真紅のローザミスティカであった。


「こんなことって……」
「……くそっ!」

真紅のローザミスティカがここにあるということは、彼女の死が決定的になったということだ。
最初から覚悟はしていたが、いざ直面するとやはり違う。
もしかしたら生きているかもしれない。
そんな僅かな希望さえ、呆気無く打ち砕かれたのだ。
真司は唇を噛み締め、新一は地団駄を踏む。
大切な人間の死を体験しているからこそ、翠星石が感じている痛みを理解することができる。
それをたった数時間の間に、何度も味わわされたのだ。
憤慨するのも当然の話である。

「な、な~にを立ち止まってるですかぁ!」

そんな二人を叱咤したのは、他ならぬ翠星石自身であった。

「こんなところで立ち止まってて、もしさっきのチビ人間が来たらどうするですぅ!?」

「で、でも……」
「とにかく進むですよ、今はただ進むです」

そう言い切り、足早に歩き始める翠星石。
その背中は、あまりにも小さい。

「翠星石……」
『彼女は必死で堪えているのだ、今はその意思を酌んでやろう』

翠星石の表情は見えない。
だが顔を見なくとも、彼女が無理をしているのは分かる。
あと少しの衝撃で崩れ落ちてしまいそうなほど、今の彼女は弱々しく見えた。

「……分かったよ」

それでも彼女は強がっているのだ。
泣き崩れてしまいそうなところを、必死で踏み止まっている。
そこで自分が立ち止まってしまえば、彼女の意思を踏み躙ったことと同義だ。
彼女の意思を酌み、今はただひたすら前進する。
それがおそらく今すべきことなのだろう。

「新一……俺、やっぱり戦いを止めたい、バトルロワイアルなんて絶対間違ってる」

歩き続ける翠星石を見ながら真司は呟く。

「大事な人を失うなんて、こんなことあっちゃいけないんだ……」

そう言って思い出すのは、自らが殺してしまった劉鳳の顔。
彼にも大切な人はいただろうし、彼のことを大切に思う人はいるのだろう。
それを自分は引き裂いてしまった。
謝っても許されることではないし、一生を賭けても償いきれない。
ならばせめて、これ以上悲しい思いをする人を出さないようにする。
戦うことの空しさを訴え、戦う術を持たない者を護る。
劉鳳ならば絶対にそうしただろう。

「だから行こう、こんなとこで立ち止まってなんかいられないんだ」
「……ああ」

二人の男は唇を噛み締め、前へと歩き出した。


   ☆ ☆ ☆


(真紅……)

目尻に涙を浮かべながら、ひたすら前進する翠星石。
彼女が強引に突き進んだのは、悲しみに押し潰されないよう自らを鼓舞させるためだ。
しかし一番の理由は別にある。

「真、紅……」

袖がびしょびしょになるまで拭いても、涙は止まってくれない。
ポロポロと瞳から溢れ、頬を伝っていく。
この顔を新一や真司に見られたくなかった。
だから彼女は彼らに背中を向け、誰よりも早く歩き出したのだ。

(こんなんじゃ、ダメです……)

真紅のステッキが最初に支給された。
たった今、真紅のローザミスティカも受け継いだ。
ならば真紅の魂や心意気までも、一緒に受け継ぐ必要があるのではないだろうか。
ローザミスティカを取り込んだことで、朧気ではあるが真紅の最期を感じ取ることができた。

(やっぱり真紅は真紅のままでしたね……)

他人を最後まで護り抜き、そして散る。
おせっかい焼きな彼女らしい最期だ。
いつ命を失うかも分からない世界でも、最期まで真紅は真紅であった。
彼女の気高く美しい誇りは、少しも穢れてはいない。
砂漠でも懸命に咲く一輪の薔薇のように、その力強さを示していた。

(全く、真紅は……)

不意に笑みが溢れる。
涙は止まらないのに、不思議と心は暖かい。
すぐ傍に真紅がいるからだろうか、絶望的な状況なのに勇気が湧いてくる。
またシャナやメイド服の女のように、殺し合いに乗った人間が襲いかかってくるかもしれない。
それでも真紅ならば、悠然と立ち向かうのだろう。
ならば自分も立ち向かわなければならない。
それが真紅の武器と誇りを受け継いだ自分の義務なのだ。

「……やってやるです」

溢れてくる涙をびしょびしょの袖で拭き取る。
真紅だったらもうとっくに泣き止んでいるだろうし、そもそも彼女は人前で涙を見せたりしないだろう。
だったらせめて真司や新一に泣き顔を見られないよう、今はただ前へと進む。
何故なら――――

「レディーは人前で涙を見せない、そうですよね、真紅?」



【一日目 午前/D-1 最南端】
【翠星石@ローゼンメイデン(アニメ)】
[装備]真紅のステッキ@ローゼンメイデン、真紅のローザミスティカ@ローゼンメイデン
[支給品]支給品一式(朝食分を消費)、確認済支給品(0~2)
[状態]健康
[思考・行動]
0:泣き顔を見られないようにひたすら歩く。
1:殺し合いから脱出。
2:蒼星石、クーガー、かなみと合流する。
3:真紅が最後に護り抜いた人間に会い、彼女の遺志を聞く。
4:水銀燈を含む危険人物を警戒。
5:真司と新一と協力。ミギーのことは内緒にする。
※スイドリームが居ない事を疑問に思っています。
※真紅のローザミスティカを取り込んだことで、薔薇の花弁を繰り出す能力を会得しました。

城戸真司@仮面ライダー龍騎(実写)】
[装備]無し
[所持品]支給品一式×3(朝食分を消費)、龍騎のデッキ@仮面ライダー龍騎、確認済み支給品(1~4) 、劉鳳の不明支給品(1~3)
[状態]ダメージ(中)
[思考・行動]
0:多くの人に危険人物の情報を伝える。
1:やっぱり戦いを止めたい。
2:劉鳳を殺してしまったことに対する深い罪悪感。
3:翠星石のことは守り抜きたい。
4:シャナを倒し、彼女の罪をわからせる。
5:翠星石、新一と協力。ミギーのことは内緒にする。

泉新一寄生獣(漫画)】
[装備]無し
[所持品]基本支給品(水一本と朝食分を消費)、拡声器@現実、イングラムM10(32/32)@バトルロワイアル、傷薬×4@真・女神転生if...
[状態]ダメージ(中)、疲労(少) 、背中に火傷(処置済み)
[新一の思考・行動]
0:ひたすら前へ進む。
1:シャナを倒す、殺さない。
2:生き残る。
3:ミギーの行動や言動の変化に疑問。
4:真司、翠星石と行動する。
[ミギーの思考・行動]
1:シャナを倒す。
2:出来る限り周りに存在を知られないようにする。
3:生き残る。
4:感謝されると嬉しい……?

※チーム全体で情報交換を行ったため、三者は互いの事情についてある程度は理解しました。
※全員が浅倉威、水銀燈、後藤、シャナ、和服の青年(宗次郎)、メイド服の女(咲世子)を危険人物の認識しています。
また東條悟田村玲子に関しても警戒するに越したことはないと判断しました。


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083:真実を惑わせる鏡なんて割ればいい 泉新一 119:杉下右京の正義
城戸真司
翠星石



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