苛立ちで忍耐力が持たん時が来ているのだ

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苛立ちで忍耐力が持たん時が来ているのだ  ◆KKid85tGwY



森の中を脇目も振らずに走り抜けていく。
周囲への警戒は怠らないが、最も優先すべきは速度を落とさないこと。
足が泥で汚れるのも、服が小枝で傷つくのも厭わない。
何しろ今のシャナは逃走しているのだから。

如何なる困難をも克服する『フレイムヘイズ』だったはずだ。
何者をも恐れぬ『炎髪灼眼の討ち手』だったはずだ。
それが今やたった一体の敵、後藤に為す術も無く敗走している。
そのことがシャナを苛んでいた。

扱い慣れた得物である贄殿遮那が在れば事情も違っていた。
しかし今のシャナが有する武器は、未だに慣れぬ長槍。
ダメージを負った状態で後藤を相手にするには、余りに不相応だった。

田村玲子から渡された、変身することがカードデッキも在るには在る。
シャナは森の中を逃げながら、共に渡された説明書を読んでいた。
強固な装甲。身体能力の向上。多彩な特殊能力。変身をすればそれだけの物を得られるそうだ。
あるいはそれを使えば、今からでも後藤を倒すことが可能かもしれない。
しかしあくまでそれは説明書に拠る知識。
実際にどれほどの効果を発揮するかは判断できない。
そんな不確かな物に頼って、後藤と戦うのはリスクが大き過ぎた。

(……そう言えば、あいつも同じようなカードデッキで変身していた)

思い出されるのは先刻に戦った城戸真司の姿。
確か真司も色違いだったが同じようなカードデッキを使って変身していた。
おそらく真司は只の人間に過ぎない。
それが変身に拠ってフレイムヘイズに匹敵するほどの力を得ていた。
しかし問題になるのは、それがライダーの力が“付加”されるのか、それともライダーの力へ“更新”されるのかだ。
シャナにライダーの力が“付加”されて上乗せされるのなら、これほど心強いことは無い。
しかしライダーの力へ“更新”されて上書きされるだけなら、シャナにとって利はほとんど存在しないと考えられる。
いずれにしろリスクが大きいことに変わりは無かった。

シャナはそこまで思考して、自分の計算の矮小さに嫌気が差す。
この世の全てを圧倒し、ありとあらゆる事象を解へと導く天下無敵の存在。
自分はそんな『炎髪灼眼の討ち手』ではなかったのか?
しかしそんな『炎髪灼眼の討ち手』は、実はどこにも居なかった。
居たのは存在の力すら使用できない只の生物にも敵わなかった『シャナ』。
『炎髪灼眼の討ち手』と比べて、なんと矮小な存在だろう。

(……………………参加者の減り方から見ても、後藤並に強い敵が他にも存在する可能性がある。
実戦でカードデッキの性能を試して、必要ならもっと強力な武器を調達する必要があるわね……)

しかしそれでシャナの何が変わる訳でもない。
使命を果たすため合理的に知恵を尽くし、その身体が動く限り力を尽くすように教育された『フレイムヘイズ』。
『炎髪灼眼の討ち手』としての自信を失った、
否、『炎髪灼眼の討ち手』としての自信など実は砂上の楼閣に過ぎなかったと思い知ったところで、
そうあるために教育されて、そうあるために生きてきた過去が無くなる訳でもない。
一刻も早く討滅の使命を果たすために力を尽くす。
それが変わらないシャナの在り方だ。

シャナは相変わらず力強く走り抜けていく。
その瞳に冷たい闇が宿る。
最早シャナの中に『炎髪灼眼の討ち手』の自負は無い。
それでも幼い頃から身に付けた使命だけで突き動く。
そんなシャナの赤々と灼に輝くはずの瞳には、機械のような冷たさが宿っていた。

(……市街部に出たわね)

フレイムヘイズの脚力で走っていたシャナは、いつの間にか建造物とコンクリートで囲まれた市街地にたどり着いていた。

ここまで来れば、後藤を撒けたと見て良いだろう。
速度を落として市街地を進むシャナ。
歩きながら自分の身体の調子を窺う。
フレイムヘイズは生物の常識を超えた回復力を持っている。
それは全力疾走中でも発揮され、後藤から受けたダメージは既に大方を回復していた。
元々衝撃が内臓まで届いていたため、ダメージとしては大きかったが、
回復が困難な負傷をしていた訳ではない。
これならば戦闘になっても、対応は可能だ。

それを確認すると同時にエンジン音が聞こえて来た。
無人の街にエンジン音が鳴っているのだから、音の主は当然殺し合いの参加者である。
しかし聞こえてくるのは、フレイムヘイズの聴覚にもやっと届くほどの遠距離から。
そう考えていたらエンジン音が急激に大きくなって来た。
接近して来る。
シャナがそう認識した時には、スクーターに跨った男が姿を現した。
シャナの意表をすら衝く、凄まじい速さで急接近して来たスクーターは、
目前でターンして急停止を行った。
ゲイボルグを握る手に僅かだが力を込める。
しかしスクーターの男は、シャナの威圧感や緊張感などお構いなしに、
にこやかな――しかしどこかぎこちない――笑顔を浮かべ話しかけて来た。

「オー! ジャマジャマー!」

シャナの重厚な沈黙と凍るような冷たい視線。
震え上がりそうなシャナの険を前に対して、それでもスクーターの男はにこやかな表情を崩さない。

「これ今、市街で流行ってるんですよ! つまらないですか? 寒いですか? 引きましたか? 痛かったですか?
おっと、申し遅れましたお嬢さん! 私の名前はストレイト・クーガー!! 最速の……」
「首輪の解除方法に心当たりは無い?」

畳み掛けるようなクーガーの言葉を、鋭い語気で早急に遮る。
クーガーの目的をシャナは掴みかねていた。
ただ、油断を誘っている可能性も在る。
警戒の念を緩めないまま、クーガーの調子に付き合わず、
自分の用件を端的に伝える。

「いやいや、つれないお嬢さんだなぁ。私は名乗ったんですから、まずお嬢さんの名前から教えていただきませんか?」
「シャナ」
「これは可愛らしいお嬢さんにぴったりな可愛らしい名前だ! いや、シャアさんがつれなくするのも仕方ないことかも知れません。
何しろ私とシャアさんでは些か年齢が離れている。お付き合いをするには勇気が出ないのも無理は無い。
しかし私は年齢・人種・国籍その他あらゆる個人情報の如何に関わらずあらゆる女性に対して紳士的に……」
「名前はシャナよ。早く質問に答えて」
「本当につれないなぁ……。残念ながら私の速さでも、首輪を外す方法にはまだ辿り着けていません。
しかーし!! それは俺の速さが足りないのか!? 俺がスロウリィなのか!!?
いいや、違うね! 私がそれを目的地と定めれば、地球上の誰より速くそこへ辿り着く!!
何故なら俺は最速の男…………おーっと、一人歩きは危ないですよシャアさん」
「うるさい!!」

独りで喋り続けるクーガーを放置して、シャナは立ち去ろうとする。
クーガーは尋常ではない俊足で、即座にシャナの隣まで追い縋った。
口うるさく、名前も間違えるクーガーのお陰で、シャナは後藤との敗戦のために忘れていた苛立ちがぶり返して来ていた。
それでも後藤との戦いの影響で精神的に消耗していたことと、
無闇に敵を作りたくないと言う思考から、クーガーになるべく構わないように心掛けていた。
そうでなければ、とっくに手を出していただろう。
しかしその忍耐は早くも限界を迎えた。
クーガーの顔面に裏拳を打ち出す。
しかし拳はあえなく空を切った。

「!?」
「ハッハッハ!! シャアさんは鋭いツッコミをするなぁ。でも私には構いませんが、他の方にする時は加減をした方が良い」

目標を外した。と、シャナが錯覚しそうな程の速さでクーガーが回避していた。
クーガーの異常な速度に驚きながらも、それを押し隠し、
冷たい視線とゲイボルグの切っ先をクーガーに向ける。

「……次に名前を間違えたら、殺すから」
「それは失礼。ところで今度はこちらから質問しますが、後藤とか言う化け物に心当たりはありませんか?」
「…………さっき会った所よ」

今度はクーガーの目が鋭く光る。

後藤と何か因縁が有ったのだろう。
あの後藤のことだから、誰から恨まれてもおかしくは無い。
「そいつは何処に居るんですか!?」と、ごちゃごちゃと口うるさく聞いて来るクーガーに目もくれず、
シャナは自分が来た方向、背後の北西を指した。
後藤に敗北した経緯にはなるべく触れたくは無かったので、無言で教えたのだ。

「それでは、名残惜しいですがここで失礼します! なぁに、寂しがることはありません!
俺の速さなら後藤を倒した後に幾らでもデートをする時間を作れます! それではまた、お会いしましょ……」
「後藤と戦うつもりなの?」
「話を最後まで聞かない人だ……」
「お前が余計な話が多いのよ。質問に答えて」
「…………あいつとは、付けなきゃならない決着があるんでね」

クーガーは柄にも無く神妙に語る。
そこからは、並ならぬ意思で後藤に立ち向かおうとしているのが伺えた。
クーガーはかなりの強さを持っているのも伺える。
それでも、後藤相手にどれだけ戦えるかというと些か心許ない。
何故ならクーガーは明らかに不調であった。

「お前は手負いみたいだけど」
「なるほど。確かにシャアさんの仰るとおり、俺は怪我をしている! それも一つや二つでは無い! 文字通り満身創痍といっていいでしょう!!
しかし、But、その代わり! それを補って余りある速さが有る!! 速さは万能!! 速さはいかなる不利も補って……」
「だからうるさい!!」

クーガーの言動や様子から察して、おそらく後藤の強さを知っている。
その上で後藤を語る時は余裕が見られなかったことからも、勝算が薄いと考えているのだろう。
このままクーガー一人に後藤と戦わせれば、返り討ちに遭う公算のほうが大きい。
シャナにとってはクーガーが死のうが構わない。
しかしシャナも共に戦えば、あるいは危険な存在である後藤を排除できるかも知れない。

(駄目だ。まだリスクが大きすぎる)

一瞬脳裏に浮かんだ戦術を、やはり否定する。
クーガーの戦力は未知数の部分が多い上に、そもそもそこまで信用に置けるかどうかも不明。
カードデッキの性能も試していない状態で後藤に挑むのは、やはりリスクが大き過ぎた。

しかし問題はクーガーが一人後藤に殺されれば、その首輪も支給品も回収できなくなる。
更に今の状況は考えように拠っては、今の状況はカードデッキの性能試験には最適と言えた。
ついでに言えば、クーガーは警告を無視して――

「名前を間違えたら殺す――そういった筈」

――故意にシャナの名前を間違えていた。

シャナの髪が炎のごとく紅く染まる。
瞳にも紅き炎が――そしてその奥には更に冷たい闇が――が宿る。
フレイムヘイズたるシャナが、クーガーを殺し首輪と支給品を回収するための戦闘態勢。

さすがのクーガーも、シャナの変化を前にして驚きを隠せない。
戦闘巧者であろうクーガーが僅かに見せた隙。
その間にシャナはデイパックからカードデッキを取り出そうとする。
しかしその手は聞き覚えの有る声に拠って止められた。
この地において、因縁の糸はシャナをも絡め取る。

「おめーはチビ人間!! こんな所に居やがったですか!」

シャナとクーガーはお互いを警戒しながら、声の方を見る。

そこには独りでに動く人形と、青年が居た。

「シャナ……」
翠星石と……ライダー」

人形はかつてシャナが殺そうとした翠星石。
青年はシャナにとって因縁の相手――城戸真司。

「シャナ、お前何をやっていたんだ!?」

睨み付ける翠星石と、威嚇するように詰問してくる真司。
新一は死んだと言うのに、どうやら二人とも相変わらずらしい。
ならばシャナの出方も当然変わらない。
シャナはあくまで合理的に行動している。
理屈が通じないのは真司や翠星石の方なのだ。

「首輪のサンプル」

いつか新一にしたのと同じ返答。
必要以上に険の有る語気になったのは、真司を見て苛立ちが更に増していたため。

「シャナ……お前はまだそんなことを言ってるのか」

怒り心頭かと思ったが、真司は意外なほど落ち着いた様子だ。
そして赤いカードデッキを取り出した。
どうやら、これまでの経緯から真司にも変化があったらしい。
だから下手に血気に逸ることも無いのだろう。
最も、それでシャナとの戦いを望まなくなった訳では無い。
むしろシャナに敵意を向けカードデッキを取り出した今の真司からは、
先ほどのクーガーのごとく強い決意を感じる。

シャナとしては真司が戦いを望むのなら、戦いを避ける手筈だった。
しかし今となっては、何故か真司を避ける気分にはなれなかった。
あるいは後藤から逃げ出したことが引っ掛かっていて、もうこれ以上敵前逃亡はしたくないのかも知れない。
真司を避けることは、恐怖から逃げ出すこととは事情が違う。
それでも、これ以上他者に影響を受けて自分の行動を左右されるのは厭だった。
特に真司を避けるのは。

シャナと真司の敵意がぶつかり合う。
人の命を路傍の石のごとく無碍にするフレイムヘイズと、
人の命を何よりも貴きとする仮面ライダーは、
互いに相容れぬ存在であると、最早何よりも互いが理解していた。

「おいおーい、人を無視するんじゃねぇー」
「お前は空気を呼んで黙ってやがれです!!」

そこへ忘れられた二人の声が割って入る。
特にクーガーにしてみれば、自分の方が先にシャナと接触したと言うのに、
後から現れた者に話を持っていかれた格好だ。
元々自己顕示欲の強いこの男が、気に入る筈もなかった。

「……あんた、もしかして劉鳳の知り合いか?」

真司はそんなクーガーを見て、酷く動揺しているようだった。
翠星石は真司のそんな様子と、劉鳳の名前が出てきたことを怪訝に思う。
しかしすぐに気付く。
クーガーの服装が、劉鳳のそれと同じだということを。

「……ああ、俺と劉鳳は同僚だ。で、お前は劉鳳を知ってるのか?」

真司の只ならぬ様子を察してか、クーガーも落ち着いた調子で対応する。
何かを逡巡しているように沈黙していた真司だが、やがて意を決するように口を開いた。

「…………俺が、殺したんだ」

場の空気が、先ほどまでとは違う意味で凍り付く。

真司もクーガーもその言葉で押し黙ってしまう。

「ななな、何を急に言いやがるですか!!?」

翠星石だけが驚きを素直に表す。
真司が殺人を告白すること自体を問題にするつもりは無い。
それは既に杉下右京に対して行っている。
しかし今は状況が不味い。
シャナが居るも関わらず、クーガーまで敵に回すかも知れなくなるからだ。

「……翠星石、ちょっと黙っててくれよ」

しかし真司としては、後回しにはしたくなかった。
絶影と共に、再び劉鳳の意志を継いだ。
その死を通じて、右京の意志も継いだ。
だからこそ、これ以上は自分の罪から逃れたくはなかった。
何しろシャナと戦えば、死ぬ可能性は充分ある。
だから先に自分の罪を告白したのだ。

クーガーは厳しい顔つきで真司を見つめていた。
周囲の道路に穴が開き、粒子がクーガーの足下に集まっていく。
物質を原子レベルで分解し再構成する能力『アルター』の発動を示すサイン。
やがて徐にクーガーが口を開く。

「……そうか、お前が劉鳳を殺したんだな」

突如、クーガーの足下が爆発を起こす。
それは凄まじい勢いの踏み込みによるものだった。
弾け飛ぶようにクーガーは真司に向けて走る。
余りの速さに、真司も翠星石も何の反応もできない。
そしてその勢いを利用したクーガーの蹴りが炸裂。
蹴りに拠って、市街地に甲高い金属音が鳴り響く。

「……なぜ、邪魔をする?」

真司へ向けて伸ばしていたゲイボルグをクーガーに蹴り飛ばされ、シャナは不審げに真意を問う。
クーガーに気を取られていた真司を、シャナはゲイボルグで攻撃しようとしていた。
それをクーガーが止めたのだ
取り落としたゲイボルグを拾い、シャナはクーガーと距離を取る。

「いやあ、これは失礼しましたシャアさん。でも、まだ話を聞き終わっていないんでねぇ……。
おい、俺はロストグラウンド治安維持武装警察組織『Hold』の対アルター能力者用特殊部隊『Holy』で劉鳳の同僚をしていたストレイト・クーガーだ。
お前、名前は?」
「真司……城戸真司」
「じゃあ、聞かせて貰おうか。何で劉鳳を殺すことになったかを。そしてシャアさんと何があったかもな。
シャアさんもそこで一緒に聞いていて貰いましょうか?」
「お前に命令をされる筋合いは無いわ。それとも、人の名前も覚えられない頭にはそんなことも分からない?」
「ご謙遜を。貴女はどうやら普通の“人”では無いでしょう?」

シャナはクーガーを前に動きが取れない状態になった。
話をする真司も、聞くクーガーもシャナへの注意を怠っていないことが分かる。
クーガーは尋常ならざる速さのみならず、洞察力にも優れている。
下手に手を出したら真司たちと同時に、クーガーまで敵に回しかねない。
元々はクーガーも殺す予定だったが、三人を同時に敵に回す形になると、
流石のシャナも分が悪かった。
あるいは『炎髪灼眼の討ち手』ならば怖じることもなかったかも知れないが、
今のシャナにその自負は無い。
さりとて、逃げると言う訳にも行かない。
クーガーの速さからは容易には逃げられないだろうし、
それどころか下手に真司に背を見せたら、それだけで命取りになりかねない。
シャナは進むことも退くこともできず、自らは何も状況を動かせず、
ただ、真司の愚劣な独白を聞きながら状況が好転するのを待つ。
益々苛立ちを募らせて。

そうしていく内に気付いたことがある。
苛立ちはある程度までなら、怒りのように内に溜まり落ち着かなくなるが、
ある臨界点を超えると、静かで落ち着いた、純粋な殺意に近い状態に変わると。
まるで炎が一定の温度を超えると、赤から青に変わるが如く。

真司は、殺し合いが始まってからこれまでの経緯、
殺し合いに乗ったこと、
劉鳳を殺したこと、
シャナとの対立、
必要の有無をも判別せず、シャドームーンとの戦いの中で劉鳳に再び出会うまでの、
自分の動向の全てを包み隠さず話した。
真司としては、話すことで少しでも気を楽にしたかったのかも知れない。
事実、黙って耳を傾けるクーガーに話すと、少し肩の荷が下りる心持ちがあった。
出会ったばかりで軽薄そうな雰囲気も有るが、こうしているとクーガーにはどこか懐の深い印象が有った。

「……これで、俺の話は終わりだ。…………聞いた通り、劉鳳は俺が殺した。…………俺の責任だ」
「そうだな。お前の話が本当なら……劉鳳の死はお前の責任だ」
「……!」

クーガーの言葉を聞いて、真司は思わず全身を震わせてクーガーを見る。
話を聞いて、もし償いを求められたなら応える覚悟はある。そう思っていた。
それでも動揺を抑え切れない。
刹那、真司を頭上から影が覆った。
それは美麗にして雄雄しい白鳥の影。
巨大な白鳥が、真司の背後に有る民家のガラス“面”から姿を現していた。
そして白鳥のくちばしが真司に襲い掛かる。

「ぼさっとすんなです!! このへっぽこぽこの助!!」

それより一瞬早く、翠星石が庭師の如雨露を振るう。
大地から急速に伸びた植物の蔦が、白鳥の攻撃を防いだ。

(このミラーモンスターは、あの時の!?)

真司はその巨大な白鳥=ブランウイングと、
そして、それを使役する仮面ライダー=ファムに覚えがあった。
即ちファムのデッキを持つ者がこの近くに居ると言うこと。
そこまで気付いて失念していたシャナに視線を戻す。
そこにはアドベントカードを左手に、ゲイボルグを右手に持ったシャナが、
翠星石へゲイボルグを向けて駆け出していた。

翠星石はブランウイングに意識を取られていて、シャナに対応できない。
真司が龍騎のデッキを使う間も無い。
刹那の判断が要求された状況で、真司が導き出した答えは一つ。
それは自分の身体をシャナと翠星石の間に割り込ませて盾になること。

一抹の躊躇も無く、真司はシャナと翠星石を結ぶ線上に飛び込んだ。
シャナは全く気にした様子も無く、ゲイボルグを構え真司に突貫して行く。
おそらく想定の範囲内だったのだろう。
シャナにとっては、以前に真司が翠星石を庇った状況を考慮して、
それを利用したのだろう。
敵ながら大した戦術眼だと、むしろ感心すら覚える。

(それでもな……シャナ。何もかもお前の思い通りにはならねえよ!)

翠星石を守る。劉鳳との約束を守るため。
それが唯一の方法なら、
自らの命を捨てる方法であろうと、
真司はそれを全うする。

胸を抉るような衝撃が走る。
衝撃は全身に波及して、身体ごとを交通事故を起こしたかのごとくに吹き飛ばした。

ブランウイングに気を取られていた翠星石は、ようやく事態を察知して振り返り、
信じ難い物を見るように、眼を見開いていた。

真司もまた事態を呑み込めず、呆然とした表情で、
吹き飛んだシャナと、蹴り飛ばしたクーガーを見つめる。

「……クーガー、なんで俺を守ったんだ? …………俺は劉鳳の仇じゃないのかよ!?」

クーガーは真司には目もくれず、蹴り飛ばしたシャナを睨み付けていた。

「別にお前を守ったわけじゃない。お前は確かに劉鳳を殺した。あいつとは特に仲が良かった訳じゃない。
糞真面目な奴で俺と話が合うってタイプじゃないしな。そもそも男と馴れ合うのは趣味じゃねぇな。それでも……あいつは俺の同僚だった」

それでも背中越しに、真司に返答する。

「だがな、生きた人間が死んだ人間に対してできることなんてのは、本当は何も無い。
弔いや復讐を否定するわけじゃない。文化的な秩序を守るためには、殺人を罰する法律も権力も必要だろう。
でも、それらは結局全て生きた人間のための物だ。俺は劉鳳の死に間に合わなかったんだ、今更あいつにしてやれることは無いさ……」
「……んなことはねーですぅ」

更にこれまで黙っていた翠星石も、彼女としては珍しく落ち着いた調子で語り出した。
人間は例え死んでも、そこで終わる存在ではないことを。
かつて蒼星石のマスターである柴崎元治とその妻柴崎マツは、息子一樹を亡くした。
そのためマツは昏睡状態に陥り、元治も精神状態に異常をきたしたのだ。
しかし死後も尚、マツの夢の中に留まっていた一樹の尽力により、
元治とマツは窮状より救われている。
そして死んだ筈の劉鳳もまた、自らのアルター能力『絶影』で真司を助けている。

「人は死んでも、心の樹によって繋がっているんですよ……」
「……なるほど。まあ、本当に絶影が力を貸したなら、劉鳳はお前を恨んではいないってことだ。
何よりお前は自分の生き方を見付けて、それで償いをしようとしている。今更、俺が落とし前を付ける道理はねぇな」
「なら、尚の事私の邪魔をされる道理は無いわ。劉鳳を殺したのはそいつ。それは本人が認めたことよ」
「おめーはまだ、そんなことを言ってやがりますか!!」

クーガーに蹴り飛ばされたシャナは、ゲイボルグをデイパックに直しながらゆっくりと起き上がる。
シャナもまた、自分でも意外なほどに落ち着いた心理状態だった。
あるいはそれは、落ち着いていると言うより、
苛立ちが臨界点を完全に超えて、感情が失せてしまったような心持だった。

「それでもねシャアさん……罪も無い女性を殺しておいて、そして俺の同僚を死なしておいて、
自分の罪を認識しながら反省どころか自覚も無いような奴には、例え女性であっても落とし前を付けなければならないでしょう」

真司の告白を聞き、その罪を認めながら、
尚もクーガーが劉鳳の死に対して落とし前を求めるのはシャナ。
こなたのような、平和に暮らしていたのに殺し合いに連れて来られた一般人なら、平和的な解決法も有り得ただろう。
それはかがみの望みでも有る。
しかしシャナは、一般人ではない。
恐らくはシャナは自らに使命を課し、相応しき力を持つ生粋の戦士。
それが事故でもなく、殺し合いに錯乱したわけでもなく、
自らの力を駆使して罪も無い女性を殺し、その結果劉鳳を死に追いやった。
例えシャナが女性であることを考慮しても、許し難いことだった。

それは理屈ではない。
只の感情論でもない。
あえて理由を求めるなら、クーガーの生き方が、
シャナを許せないと判断した。

「……話にならないわね」

真司。クーガー。翠星石。
自分に敵意を向ける三人を前にしても、シャナに一遍の動揺も無かった。
最早、苛立ちはとっくに通り越している。
後藤への敗北感すら消え失せていた。
只そこのあるのは純粋な殺意。
目前の理屈の通じない、救いようも無い愚者を殺すために。

真司がカードデッキを取り出して、背後の民家のガラスに映す。
同時にシャナもカードデッキを取り出して、共に取り出したガラス辺に映す。

龍騎に変身する真司に迷いは無い。
しかし懸念はあった。
真司は一度戦ったことが有るため、シャナの強さをよく知っている。
それ以上に、誰よりも仮面ライダーの脅威をよく知っている。
そしてその二つが合わさった時のどれほどの脅威となるかは、真司にも予想が付かなかった。

(それでも、翠星石だけは守り切ってやるぜ。約束だもんな、劉鳳)

シャナの全身を白い装甲が覆い、仮面ライダーファムへと姿を変える。
急激に力が湧き上がってくる。
シャナは賭けに勝った。
仮面ライダーへの変身は力の“付加”。
仮面ライダーへと変身を遂げた『フレイムヘイズ』。
今のシャナは、あるいは彼女の知る『炎髪灼眼の討ち手』以上の力を手にしていた。
その内にもまた、彼女も覚えのないほどの殺意を秘めて。

とっくに覚悟を決めていた筈の仮面ライダーとアルター能力者とローゼンメイデンに、かつてない緊張が襲う。
誰もが目前のシャナが、途轍もない怪物に変身を遂げたと予感していた。


【一日目夕方/F-8 市街地】
【シャナ@灼眼のシャナ】
[装備]:ブランバイザー
[支給品]:基本支給品(水を一本消費)、首輪(剣心)、カードキー、ゲイボルグ@真・女神転生if...、ビルテクター@仮面ライダーBLACK
[状態]:仮面ライダーファムに変身中、ダメージ(小)、力と運が上昇、強烈な殺意
[思考・行動]
0:真司と翠星石とクーガーを殺す。
1:首輪を解除できる人間とコキュートスを探す。首輪解除が無理なら殺し合いに乗る。
2:首輪解除の邪魔になるような危険人物には容赦しない。
3:主催者について知っている参加者がいれば情報を集める。

【ストレイト・クーガー@スクライド】
[装備]:葛西のサングラス@ひぐらしのなく頃に
[所持品]:基本支給品一式、不明支給品(確認済み)0~1
[状態]:身体中に鈍い痛み、両脚に激痛、疲労(中)
[思考・行動]
1:シャナを倒す。
2:こなたを正気に戻す。
3:かがみと詩音の知り合い(みなみ、レナ)を探す。
4:詩音が暴走した場合、最速で阻止する。
5:後藤を最速で倒す。約束は守る。
※総合病院にて情報交換をしました。
※ギアスとコードについて情報を得ました。ただし情報源がつかさなので、漠然としています。
※城戸真司のズーマーデラックス@仮面ライダー龍騎は付近に放置さてあります。

【翠星石@ローゼンメイデン(アニメ)】
[装備]庭師の如雨露@ローゼンメイデン、真紅と蒼星石のローザミスティカ@ローゼンメイデン
[支給品]支給品一式(朝食分を消費)、真紅のステッキ@ローゼンメイデン、情報が記されたメモ、確認済支給品(0~1)
[状態]疲労(小)
[思考・行動]
1:シャナを倒す
2:真司と同行し、殺し合いを止める。
3:真紅が最後に護り抜いた人間に会い、彼女の遺志を聞く。
4:水銀燈を含む危険人物を警戒。
5:桐山はカズマに任せる。
[備考]
※スイドリームが居ない事を疑問に思っています。
※真紅のローザミスティカを取り込んだことで、薔薇の花弁を繰り出す能力を会得しました。

【城戸真司@仮面ライダー龍騎(実写)】
[装備]無し
[所持品]支給品一式×3(朝食分を消費)、確認済み支給品(0~3) 、劉鳳の不明支給品(1~3)、発信機の受信機@DEATH NOTE
[状態]仮面ライダー龍騎に変身中、ダメージ(小)、疲労(中)、劉鳳を殺してしまったことに対する深い罪悪感
[思考・行動]
1:右京の言葉に強い共感。
2:翠星石と同行し、殺し合いを止める。
3:シャナを倒し、彼女の罪をわからせる。
※絶影を会得しました、使用条件などは後の書き手の方にお任せします。


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134:それぞれの行く先 城戸真司 148:緋色の空 -the sky of FLAME HAZE-(前編)
翠星石
140:寄り添い生きる獣たち シャナ
127:死せる者達の物語――I continue to fight ストレイト・クーガー



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