二人の秘め事

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二人の秘め事  ◆Wott.eaRjU



犬とは何とも愛嬌があり、賢い存在だと思う。
例えば、彼らは尻の先に生やした尻尾の振り方で他の動物に意思を知らせる。
小刻みに振れば機嫌がいい。大きく振れば相手を威嚇している。
そして尻尾を股に挟んでいれば怯えている様子という風に。
あまりにも当然過ぎる事だが、彼らも今や地球を我が物顔に蹂躙している人間と同じように生きているのだから。
そこには何らかの手段が必要となってくるのは言うまでもない。
彼らが生活の上で感じた想い――感情を伝えるために。
その事は今、この場に居る“彼”にも同じ事が言える。
彼は尻尾を小刻みに振り続け、ご機嫌な様子で一人の少女――人形に自分と遊んでくれるように願っていた。

悪意はない。
只、本来の飼い主である岩崎みなみと接するようにじゃれているだけ。
だが、彼は見落としている。
それはとても単純な事であり、且つかなり重要な事と言える。
唾液に塗れた桃色の下を縦横無尽に動かすのに夢中な彼は一向に気づかない。
何故なら、いつも遊んでもらえたみなみの身長は高く、その点での心配は要らなかったから。
そう。彼が奇しくも押し倒す形になっており、今も彼の下でもがいている少女、いや人形には――


決定的に身長が足りなかったからだ。


「ちょっとやめなさい! そ、そこは……ん、あ…………」


真紅の色で統一されたワンピース、ヘッドレス、ケープコートを纏った人形が形容しがたい喘ぎを洩らす。
顔立ちは綺麗に整えられ、蒼く煌めく両の瞳はどことなく西欧の雰囲気を漂わせる。
彼女の名は真紅。
服装の色彩が現すものと同じ名を持つローゼンメイデン第五ドール。
そして彼女こそアリスゲームと呼ばれる宿命の決めごとで、闘い続ける事を運命づけられた一体の人形。
だが、生憎今の彼女はそれどころではなかった。
頭を左右に振る度に同じように揺れた金髪のツインテールが必死さを窺わせている。
浮かべる表情は真剣そのもの。
兎に角、真紅は無礼にも自分の上に圧し掛かっている犬を――チェリーという犬をどけようと悪戦苦闘していた。

「この……いい加減に――」

その場に流れていた空気が変わり、真紅が低い声で唸るように口を開く。
両目に映るものはまさに怒りの炎が渦巻いているといった感じだ。
あまり温厚とはいえず、気に入らない事があれば手を出す事は珍しくない。
右の拳を握り、軽く腕を引いた様子から察するに忍耐の限界が既にきたのだろう。
何が楽しくて見ず知らずの犬に押し倒され、身体中を舐め回さなければならないのか。
幾ら犬が真紅にとって高貴な生き物であっても、流石にここまでやられて黙っているわけにもいかない。

(そうなのだわ、ここで時間を使うわけにはいかない。
一刻も早くこの状況の把握を……そして水銀燈の名前が何故名簿に載っていたのかを突き止めないと……)

以前、自分が倒した筈の水銀燈がこの場に居るかもしれないという謎。
水銀燈の身体を燃やしつくした事のショックからは既には立ち直っているが、それでも無視は出来ない。
今さら言える立場ではないかもしれないが、水銀燈に一言……ジャンクと言ってしまった事への詫びくらいはと真紅は考えていた。
そのため、一秒でも早くこの状況から脱しなければならないのは明白。
名探偵くんくん――真紅が憧れてやまない人形劇の主役――に押し倒されるなら悪くもない気がするが、それは所詮仮定の話にしか過ぎない。
意を決し、チェリーの大きな腹に一発、拳を喰らわせようと真紅は右の拳を振り上げようと力を込めるが――

「ひっ! っ……あ、ああ…………」

再び気が抜けたような叫びを上げ、真紅の全身から力が抜けていく。
そう。チェリーの舌が際どい箇所に滑り込み、真紅は沈黙を余儀なくされた。
服には其処等じゅうにねっとりとした液体が纏わりつき、それらは確かな不快感を催して
いる。
しかし、苦悶の声に何故か少しずつ微妙な感情が混じり溶けたような喘ぎが見え始めた。
そして心なしか真紅の両の頬がほんのりと桃色に染まってゆく。

(悔しいのだわ……! この真紅が何も出来ないなんて……)

それはまさに真紅のローゼンメイデンとして、いや淑女としてのプライドが音を立てて崩れさる瞬間。
抵抗しようにも全身を走る奇妙な感覚がその思考を中断させ、真紅は碌な行動を取れはしない。
だが、このまま大人しくしているわけにもいかないのも事実。
この状況で殺し合いとやらに乗った人物に襲われては一巻の終わりだろう。
何か打開策はないかと考え、真紅は助けを求めるように辺りを見渡す。
その時、何処からか聞き覚えのない音が響いた。

パシャ!

音と共に白色の閃光が生まれ、
思わず音がした方向へ頭をぐるりと回す真紅。
自分達が立てた音を聞きつけて誰かがやってきたのかもしれない。
害がないか、それとも危害を齎す存在か。
それを確認するために真紅は大きく両目を見開き――そして固まった。


「はううう~~~~~かぁいいいいいいいいいい~~~~~~~~~~!」


フラッシュをたく度に少女の顔が深夜に浮かび上がるのを真紅はしっかりとその目に焼き付ける。
とてつもなく恍惚な表情を浮かべて、カメラのシャッターを何度もきる少女。
彼女こそ真紅とチェリーの戯れを一心不乱に撮影し続けていた。

そう。其処には竜宮レナがカメラを構えながら立っていた。

◇     ◇     ◇





「殺し合いだなんて……信じられない」

少し遡った話をしよう。
一人の少女の最期を見届ける羽目になり、いきなり殺し合いに放り込まれたレナが思い立った事は一つ。
それは先ずは仲間達と合流しようという事。
最初の場でレナは自分の友達を何人か見かけた。
彼等はレナにとって掛け替えのない仲間であり、親友と呼ぶに相応しい関係にある。

「取り敢えず、圭一君達と会おう。それしかないよ……」

雛見沢と呼ばれる小さな田舎村に一つだけ存在する学校。
全校生徒数は少なく、小学生と中学生もごちゃ混ぜになってクラスが形成されている。
そんないかにも田舎らしい学校に一つの“部活”があった。
そう。サッカー部や野球部といったような何処の中学校、高校にもあるあの部活だ。
但し、雛見沢の学校にたった一つだけあるその部活は一味違う。
部員数は少なく、10人以下。勿論、教師に部活設立の届け出など面倒な事はすっ飛ばし。
テニス部ならテニスというように普通は一つの事をするものだが、生憎一つに決まっていない。
ある時はトランプ、またある時は近所の山で探検の真似事、またまたある時はデザートの早食い競争といったように多種多様である。
更にその敗者には罰ゲームという名目の一種の決まり事があって、内容は割と濃い。
猫耳メイドや、スクール水着を着用する事などが日常的であり、その事から恥じらいを覚えるものは多く逃げ出したくなるかもしれない。
だが、その部活に在籍するレナは罰ゲームの過酷さから部活を辞めたいと思った事はなかった。

「絶対に壊させないよ。皆との楽しい思い出……これからもレナは一杯作ってみせるんだから」

理由は単純にして明快。
何故ならレナは楽しかったから。
笑えたから。大好きな仲間達と部活で遊び、心の底から笑いあえたから。
その両手で持ち切れない嬉しさと罰ゲームでちょっぴり恥ずかしい目に遭う事を比べて、一体どちらがレナにとって重要なのか。
言うまでもない、部活で仲間達と面白可笑しく馬鹿騒ぎをする方が何十倍も良い。
だからレナの決断が早かったのは必定の定理といえたのだろう。

果たして自分がこの殺し合いに生き残れるか、どこまでやれるかはわからない。
しかし、仲間達と協力すればこの異常な事態をどうにか出来るかもしれないとレナは思った。
所詮、レナ達は田舎暮らしのため少し体力があるだけの只の学生。
なんとか出来ると思うのは儚い希望だと言われても仕方ない。
だが、それでもレナは信じる事にした……部活メンバーの結束の力を。

「それにこの名簿を信用する限り、悟史君も居るみたい……あの日、急に居なくなった悟史君……絶対に捜さなきゃ。
沙都子ちゃんもきっと捜してるハズ……」

そしてレナが特に気を掛けた人物、それは北条悟史という少年。
部活メンバーの一人である北条沙都子の実兄であり、数年前に突然行方知れずになった友達。
そんな悟史が何故こんな場所に居るかはわからない。
だが、この機会を逃すわけにはいかず、レナは悟史との合流を特に優先するべきだと考えた。
行方不明になる数日前に悟史に相談を持ちかけられたが、当時のレナは結果として力にはなれなかった。
あの時出来なかった事――悟史の助けになる事を固く心に誓い、レナは歩き出した。
悟史を含む部活の仲間達、そしてこの殺し合いに異を唱える者と接触するために。


「う~ん、誰も居ないな……」


数分歩いたところで誰にも出会えず、レナは路頭に迷った。
手に持ったものは支給されたインスタントカメラと、護身用のサタンサーベルという赤い刀身の一本の剣。
フラッシュでもたいて、誰かに自分の位置を知らせようかと思い始めた矢先、レナは声を聞いた。
何かと何かが身体を擦りつけ合い、互いに息絶え絶えに喘いでいるような声。
その声の主が気になり、レナはその方向へ駆け出し――両目を見開いた。
其処にはまるでバックに無数の薔薇の花弁が舞っているような扇情的な光景が広がっていた。
金髪の、とても可愛らしい洋服を着こんだ少女が顔を赤らめながら、これまた可愛らしい――ちなみにレナ主観――犬と楽しそうに触れ合っている。
勿論、こんな場所で不謹慎な!と思う気持ちはレナにはあった。
だが、咎める思いよりも目の前の少女の愛くるしさにレナの思考は一旦停止。

何よりも可愛いものを好むレナがやるべき事は一つ。
レナは素早く手に持っていたカメラを構え、被写体をレンズに収めた。
カメラを操るレナの挙動には一切の無駄はなく、抽象的な言い方をすればまさに神速の域に達している。
この場に部活の仲間が、特に前原圭一が居たなら「凄いぜ、レナ!もっとだ!もっと取れええええええ!」と称賛してくれただろう。
そして考える暇も惜しみ、フラッシュをたいて、シャッターをきりまくった。
只、もう二度とお目にかかれないかもしれない、目の前で繰り広げられる天国。
それを思い出の一枚、いや一枚どころか数十枚程に留めておきたい。
そう思い立ち、レナは鬼気迫る勢いでシャッターをきっていた。


「はううう~~~~~かぁいいいいいいいいいい~~~~~~~~~~!」


自分を驚いたような眼で見つめてくる少女の視線に気づかない様子で――

レナは只、雄叫びをあげるかのように声を張り上げ、喜びを見せていた。

◇     ◇     ◇



「ちょっと! そこの人間! 見てないでなんとかしなさい!!」

そして再び時間は巻き戻る。
数メートル離れた場所から自分をカメラで写真撮影していたレナを見て、言葉を失った真紅。
こんな情けない姿を他人に見られるなんて……流石の真紅も恥ずかしさでより一層頬の赤みが増した。
だが、転んでも只では起きない性格の持ち主である真紅がこのまま引っ込むわけにもいかない。
直ぐにさも当然の如く名前も知らないレナに向かって、真紅は自分を助けるように言葉を飛ばす。

「う~~~良い写真取れたかなぁ、楽しみ――」
「さっさとしなさい!!」
「え!? う、うんわかった!」

カメラをまるで宝物のように頬ずりするレナは真紅の言葉に気づいていない。
その態度を見て既に我慢の限界を突き抜けた真紅は、更に大声で叫ぶ。
ようやく我に返ったのだろう。
驚きのあまり思わずカメラを取り落としそうになるレナだが、なんとか死守し、少し反射的に返事をする。
睨み殺さんとばかりの形相を向けてくる真紅の気迫に飲まれる形となり、レナは取り敢えず駈け出した。
真紅一人ではどける事は出来なかったチェリーも、レナの力が加われば話は変わってくる。
傷つけないようにレナは丁寧な手つきでチェリーの身体を抱えて、どけてやった。
また、当のチェリーもそろそろ真紅への興味が尽きたのだろう。
レナによって真紅の身体から引き離された後、何処かへ歩き出し、夜の草原地帯へ消えていってしまった。

「ふぅ……礼を言っておくのだわ」

そして、ようやく一息つけた真紅が倒れていた身体を半分程起こす。
発する言葉の旨はレナへの感謝の意を含むもの。
多少ぶしつけな要求をする事にはなったが、レナに対して感謝の気持ちが全くないわけではない。
まあ、そっちのけでシャッターをきったなど少々気に入らない行動はあったのは確かだが、取り敢えず危機は去った。
そう考え、真紅は立ち上がって改めてレナと話をしようと身体を起こそうとするが――


真紅は未だ脅威が去っていない事に気づいていなかった。





最早、真紅からの印象では魔犬と称するに相応しいチェリーは何処かへ歩いて行ったため、此処には居ない。
ならば、一体何があるというのか。もしや、今度こそ殺し合いに乗った人物が現れたというのだろうか。
否。そうではない。既にその脅威は真紅の目の前に迫っている。
そう。チェリーの所業により衣服が乱れてしまった真紅の直ぐ近くに――


「か、かぁいいい~~~! お持ち帰りいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!」


顔を輝かせながら真紅に抱きつく影が一つ。
言うまでもない、勿論レナだ。
真紅が人間にしては異様に小さい事にも特に気にしている様子もない。
重要なのは真紅一点のみ。
チェリーによって隠されていた真紅の姿はレナにかつてない衝撃を齎す。
可愛らしいドレス風未な服装を纏った小さな少女が尻もちをつき、此方を見上げている。
そんな光景を見て、レナは衝動的に飛びかかっていたという訳だ。
可愛いものに目がないレナが黙って見ているわけもある筈がない。

「ち、ちょっと! 離れな――――あ、熱っ!!」

再び身体の自由を奪われた真紅。
先程のように身体中を舐められるのではなく、今度はレナが自らの頬を擦りつけてきている。
そして、そのままレナは真紅の柔肌を楽しみかのように全力で頬ずりを開始。
ローゼンメイデン第二ドール、金糸雀のマスターの愛情表現、通称“まさちゅーせっちゅ”に酷似した動きを見せる。
嬉しさで緩み切った表情を浮かべながら、真紅の小さな身体を満喫する。
やがて何度も何度もレナと真紅の頬が擦れ合い、やがてほんの少しだが摩擦熱を帯びる程までにもなった。
頬に走る熱を感知し、真紅は思わず声を上げるがレナは一向に止まらない。

「レナ、感激だよ! こんなに可愛い女の子が居たなんて……うううーやっぱりかぁいいいいいいいいい~~~~~!!」

寧ろ更に速度が増したような気配さえ見受けられるレナ。
そんなレナを見かねて、真紅の目つきが変わり始める。
その目つきはまさしく、怒りが最高潮まで上り詰めた証。
強引に首を回し、真紅の髪の毛がフワリと揺れて――

「いい加減にしなさい!」

強烈なしなりを経て、真紅のツインテールの片方がまるで鞭のようにレナの頬を殴りつける。
そう。それこそが真紅の奥の手であり、同じローゼンメイデンの仲間から恐れられている打撃技。
ある一人の姉妹は何やら日夜進化していると踏んでいるがこの場では関係ない事なので省略する。
兎に角、巻き毛を応用した反撃により、レナの身体はいとも容易く横へ吹っ飛ばされた。
その時、衝撃により飛んで行ったレナは何故か恍惚な表情を浮かべていた。
恐らく、直撃の瞬間まで気づいていなかったのだろう。
笑顔を浮かべながらレナの身体はほんの数秒間宙を舞い……そして、ドサっという音を立てて地面に身体を打ちつけた。


「……先行きが不安なのだわ」


倒れ伏したレナを見て、真紅は憔悴しきった様子で重苦しい声を洩らす。
一方レナの方は見た目よりは衝撃は軽かったらしく、直ぐにでも起き上がれそうな様子だ。
そう。この数分間で起きた出来事の一部始終こそが出会い。
真紅にとっては最悪な、レナにとっては最高な――

二人の出会いだった。


【一日目深夜/E-10 道端の草むら】
【真紅@ローゼンメイデン(アニメ)】
[装備]なし
[所持品]支給品一式、ランダム支給品0~1、手鏡@現実、
[状態] 疲労 不機嫌
[思考・行動]
基本思考:元の世界に帰る。
1:取り敢えずレナと話をする
2:V.V.の元に辿り着く手掛かりを探す。
3:翠星石蒼星石との合流。水銀燈には謝りたい。
[備考]
※チェリーは何処かへ行きました。


【竜宮レナ@ひぐらしのなく頃に(ゲーム)】
[装備]インスタントカメラ@現実 サタンサーベル@仮面ライダーBLACK
[所持品]支給品一式、ランダム支給品0~1
[状態] 健康 ご機嫌
[思考・行動]
基本思考:元の世界に帰る。
1:真紅と話す。
2:圭一、魅音、詩音、沙都子、悟史と合流する。
[備考]
※参加時期は未定です。


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019:深夜の狂気 真紅 055:少女と獣
GAME START 竜宮レナ



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