Seven=forTress@BUrnIng

S=F オープニング

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kissling

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旅立ち(:サヤ)

さわやかな朝。
いつも通り、渡りの床を拭き、玄関の塵を掃く。
私一人には広すぎる道場を、この2年間してきたように、最後まで丹念に。
朝の掃除がすめば、今度は黙想の時間。

目を閉じれば、父とかつてはいた門下生達の真剣な仕合の息遣いが聞こえてくるようです。これも雑念なのでしょうか。

つくづく修行が足りませんね。
私は一人苦笑し、正面に飾り立ててある一振りの刀を見つめる。
名刀「研鑽」。
父が愛し、そして残してくれたもの。
そして、これから私の手に残る唯一の絆となるもの。

父が、帰って来なければ死んだものと思ってくれ。と言い残したときは、常に真剣な仕合の前や、命のかかるほどに重要なお勤めのとき。
それでも、帰ってこなかった事はありませんでした。

しかし、そう言い残して姿を消し、はや2年。個別に父の足跡を追った者や、我が道場に諦めた者。ついにはここに残るのも私だけとなりました。

もう、待っているわけにはいきません。
ちょうど2年がたった今日。わたしは道場を閉じることにしました。
私がいなくなれば、廃屋となったここは荒れるでしょうか、と思えば申し訳ないような気もしますが、私は行かなくてはなりません。
そう想いを固め、私は父の墓へと移ります。

そこに父が居ないのはわかっているのですが、私は誓いました。お父様。私はお父様の愛した一条抜刀流を絶やさぬため、一度この道をめざした以上は、外の世界を巡り、研鑽を重ねる覚悟を固めました。

私が道を見失わぬよう。進んでいけるように、どこかで見守っていてください。

つい物思いにふけり、一心に手を合わせていたら、私の後ろにどなたかが居るのに気づくのが遅れました。

クリタ…ではなくて、クリステル・モンローさんでした。
私の注意がなっていないことを指摘され、恥ずかしい思いでしたが、どうやら道場を閉めた事に気がつき、心配してくださったようです。

クリスさんは、父の武術仲間のようなもので、その、ドゥドゥッピ道という風変わりな技の道を進んでおられる方です。
一条抜刀流は、ただ正確に素早く、鋭くを追及した、単純な技の鍛錬ですが、クリスさんは男性と女性の特徴を合わせることで、優れた力を生み出すという少々複雑なものだそうです。

ですから、女性のお召し物をしているのも、武の道を極めんとするがゆえ。と、父は言っておりました。武の道は本当に奥が深いものです。

私が旅に出る、と言いますと、クリスさんも探し人があるようで同道を申し出てくださいました。
おそらくは未熟な私の身を気遣ってくれたのでしょう。こう見えて、クリスさんは出来た人なのです。


地獄からの生還(:ウォルフ)

「この戦い、勝ったな」

また1人、敵兵を切り倒して呟いた。
俺の属すリーン軍は、シェローティア軍との小競り合いに勝利しつつある。
勝ちに乗じた追撃命令を受け、俺たち傭兵は敵の殿に突撃を開始した。
殿の兵は手ごわい。多くの場合、彼らは生還を諦めている。
死兵と刃を合わせると知りながら、しかし、俺の心は静かだった。

戦場では心が落ち着く。精神が研ぎ澄まされる、と言い替えてもいい。
ただ他者の生命を切り取ることに専心すればいいのだから。

こんなことは冗談にも口にできない。
周囲の者はオレを温和で実直、信頼に足る男だと評価している。
まさか人を殺しながら、そこを居心地良く思っているとは考えまい。

そう想いを巡らせ、自分を哂った瞬間だ。
あの剣士が、影ほどの気配も感じさせずに俺の眼前に現れたのは。
俺は戦場では一瞬も気を抜くことはない。接近するものがあれば風や音、光が必ずそれを知らせてくれる。
にも関わらず、フルフェイスで顔を覆ったこの剣士は、”いつのまにか”俺の間合いの、そのギリギリ外に立っているではないか。

「お前が『大剣のウォルフ』だな」

動揺を隠せた自信はない。
仮にできたとしても、これほどの剣士。看破していて何の不思議があろう。

「そうだが。…お前は何者だ?」

後半の質問はただの時間稼ぎだ。
視界を狭めてまで顔を隠している者が名乗るはずがない。
ただ、心が静まるまでの時が欲しい。
そんな俺の計算を見越したかのように、剣士が返答にかけた時間は不自然に長かった。

「剣の極みを目指す者」

俺は少し笑ったかもしれない。
無言を返答に代えるかと予想したが、期待以上の答えは得られた。
しかし、殺しながら安らぎを得る俺と、殺し方に無限を見るこの敵と、どちらがマシなのか。
俺は大剣の柄を握り直した。無意味な思考だ。戦いに集中しろ。
戦場では精神が明敏になるが、代わりに余計なことにまで思考が及んでしまう。
いつか、このことが俺の生命を奪うかもしれない。

先に仕掛けたのは俺だった。手を抜くことはない。
初手からの渾身の横薙ぎに、剣士は得物を立てて受け流そうとする。
構わず大剣を振り抜いた。
火花が散り、衝撃が腕を伝わる。
剣士は堪らず2歩退がった。当然だ。この重い一撃を捌けるわけがない。
だが、同時に俺は密かに舌を巻いていた。
正面から受け止めて凌がれるとは思っていなかったのだ。
しっかりしろ。自身を叱咤する。ここまでは予測の内だ。
ほとんど無意識の動作で、身体が追撃のための大剣を振り上げている。

「……!」

なぜその大剣を急遽正面に戻したのか、それは俺にもわからない。
戦士の勘、としか説明は不可能だ。
恐るべき速さで崩れた体勢を立て直し、剣士は攻撃に移っていた。
戻った大剣に叩きつけられた一撃に、俺は戦慄した。
よろめきこそしなかったが、その一撃は先ほどの俺のそれに匹敵していたのだ。
大剣で受けなければ俺の身体は鳩尾辺りで両断されていたに違いない。

いや、それだけではない。背筋が凍った理由は別にある。
気のせいか? 俺は目を凝らした。
剣士の描いた太刀筋は、俺の最初の一撃と同じではなかったのか。

考えている暇はない。
剣士は得物を振り上げ、先程俺が考えた通りの追撃をかけようとしている。
面白い。気力を奮い起こした。

この戦い、最初の数合を交えた段階では俺は勝てると思っていた。
力は俺のほうが勝っていたし、この剣士の刃では俺の鎧を貫けない。
だが、その後の数合で剣士は俺の攻撃に順応し始めた。
そしてさらに数合。攻守は逆転していた。
打ち合わせるごとに鋭く、速くなる斬撃に俺は恐怖を覚えつつあった。

次第に身体を捉え始めた剣士の刃を感じ、予感でしかなかった敗北が俺の中で確信に変わった。
これまで多くの生命を奪ってきた。同じ戦場で俺が斃れるのは当然ではないのか。

思考が集中を途切らせた。
左腕を肘から斬り飛ばされたことに気づいたのは、一緒に持っていかれた大剣が背後の地面に突き刺さった音を聞いてからだ。

「…見事だ。名を、聞かせて欲しい」

もう一度訊いたのは、自分を殺す者の名前ぐらいは知っておきたかったからだ。
しかし、剣士は刃を鞘に収めると踵を返した。

「クリシュ」

と一言残して。

オスカルの乱(:クリステル=モンロー愛の日記 第24節 1章)

私はクリステル=モンロー。冥府ドゥドゥッピ道を極めんと、修行を続ける乙女、もとい乙menよ。
 ドゥドッピ道は陰陽を、清濁を、男の強さと女のしなやかさを併せ持つ武術。その為、男として生まれたものは女の、女として生まれたものは男の姿で、その異なる性別の動きを身につける。その結果、人間として完璧な動きが可能となるの。
 でもそんな我が流派に異変が!兄弟子オスカル=アサミが、師匠との組手で奥義モンパリを繰り出し、師匠の武術を封印し、そのまま道場を出て行ってしまったの。オスカル兄さんは「私だってやりたいことがあるのよ、と言い残して。
 オスカル兄さんのやりたいことが何なのか、私にはわからないけど、この振る舞いを見逃すわけには行かないわ。私はオスカル兄さんを師匠の前に連れ戻して、二人の仲をもう一度もとに戻すため、オスカル兄さんを追って旅に出たわ。
 師匠、もう老い先も短いけど、待っていてください。必ずオスカル兄さんを連れ戻します。

回想(:サリオン=ペレット)

随分と久しぶりにこの日記を手に取る。
もう二度と触れることはないかもしれないと思っていたが……。
これから起きようとしていることは書き残す必要があるだろう。

その前にこの長い空白を埋めておかなければならない。
始まりであるあの日のことは今でも忘れはしない。同時に思い出したくもない記憶だ。
あのとき、私はすべてを失ったのだから。


かつての私は、神と正義を信じ、弱者を助け世を良くするという理想に燃えていた神官だった。
今思えば青いことこの上ないが、これも若さゆえの過ちというものだろう。
ともあれ当時は、そのためならば血の滲むような努力も厭わず、一心に勉学と修練に励んだものだ。

その甲斐あって、ついに二十代の若さにして幹部登用の試練に挑むことを許された。
それに合格すれば理想に向けて本格的に第一歩を踏み出せる。
共に試練に挑むのは、長年の親友であり私と理想を同じくする同志でもある男、ハーヴェイ。
私とハーヴェイは力を合わせて必ずや一緒に試練を突破しようと誓い合った。だが……。

当日のハーヴェイは明らかに様子がおかしかった。
いつもなら来るはずの援護が、ない。
本人は魔力が切れたのだと言っていたが、彼の実力を知る私からしてみればどうにも不可解だった。
私は調子が悪いのだろうと判断し、彼を庇いながらなんとか突破することを目指した。
その時の私にハーヴェイの翻意を疑う気持ちは微塵もなかったのだ。
しかし一人では力及ばず、私は道半ばで意識を失うこととなる。
薄れゆく私の視界の中に映ったのは、倒れた私を捨て置いて先へ向かう親友の背中だった。

……結果は言うまでもない。
一人無事に試練をくぐり抜けたハーヴェイには輝かしいまでの昇進が約束され、その若さでの快挙に惜しげない称賛が寄せられた。
対する私は、プレインという片田舎の領主。
領主という肩書きこそあるものの、出世街道からは完璧に外れている。言わば左遷と同義だ。
同時にエリオラ様から餞別代りなのか魔法の本を賜ったが、動揺していた私には何の感慨もなかった。

私はハーヴェイを問い詰めに言った。
自分でも何を口走ったかはっきりと覚えていないが、「何か事情があったのだろう、正直に話して欲しい」というようなことを尋ねた気がする。
この期に及んでも私はハーヴェイのことを信じていた、いや、信じたかったのだろうと思う。
……だが、ハーヴェイからははぐらかすような返答しか戻ってこなかった。
私は席を立ち、一度も彼と目を合わせることなく部屋を退出した。
もしハーヴェイの瞳に私を嘲るような光が浮かんでいたら、私はきっと自制できずに彼に殴りかかっていただろうから。

それから私は、抜け殻のようにこの地で数ヶ月を過ごした。その間のことは特に記す必要はないだろう。
それを揺るがす事件が起きたのは、年が明けて間もない紋章暦06年2月のことである――。


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