ミラージュ・ムアの理想の相手
ミラージュ・ムアにはいくつもの幻に関する噂がある。
蜃気楼の巨大な都市が見えた、空中にこの世の物とも思えないほど見事な庭園が浮かんでいた、自分そっくりの影に出会ったら死ぬ、などがあるが、最も有名なのはこの伝説であろう。
蜃気楼の巨大な都市が見えた、空中にこの世の物とも思えないほど見事な庭園が浮かんでいた、自分そっくりの影に出会ったら死ぬ、などがあるが、最も有名なのはこの伝説であろう。
星のみが密やかに天に輝く新月の夜にミラージュ・ムアをさすらう者は、理想の相手に出会えるという。
''' そして、“理想の相手”に出会ってしまった者は、いずれまたミラージュ・ムアに足を運ばずにはいられなくなる。'''
''' そして、“理想の相手”に出会ってしまった者は、いずれまたミラージュ・ムアに足を運ばずにはいられなくなる。'''
もっともよく知られた話は、戦争のずっと前にさかのぼる。
さる貴族の令嬢と貧乏な画家の青年が身分違いの恋をして、やがて深い仲になった。
しかし、当然のことながら娘の家族はその恋を認めようとはしない。
駆け落ちも辞さない覚悟の娘に手を焼いたか、長い話し合いの末に一つの条件が出た。青年の画才を証明せよ。宮廷画家になりうるほどの逸材であれば一族に加わっても良いとの条件が。
それから青年の苦労が始まった。題材さえも見つからず思い悩む日が続き、思いあまった青年はミラージュ・ムアへと向かった。幻を題材に誰もが認めるような絵を描いて、己の価値を示そうと。怪物や死の噂をものともせずに。
そして青年は出会った。闇の中にほのかに浮かび上がる、求めても得られぬ絵の題材に。ミラージュ・ムアから戻った青年は食事も睡眠もほとんど取らず、物に憑かれたように絵筆をふるった。
出来上がった絵を目にしたもので彼の才能を讃えない者はいなかったという。青年を蛇蝎のように憎んでいたはずの娘の父すら息を止めて見入り、娘との婚約も許された。誰の口からも宮廷画家は当然という評価が出るなど、二人の将来になんの不安もないかに見えた。
しかし、しばらくして娘は訴えた。彼の様子が前と違うと。
来る日も来る日も憑かれたように一つの題材を書いていると。彼女ではない他の娘の姿を。青年が描いた絵は一つとして非凡なものであったが、青年は命を懸けて得たはずの恋人ではなくミラージュ・ムアで出会った相手のみを描き続けた。
そしてある日、どこかに姿を消したという。周囲の者はムアへ呼ばれたのだと噂しあった。
残された娘は青年の残した絵を悉く焼き捨てて、ミラージュ・ムアと彼の心を奪った幻を呪い続けて死んだという。
さる貴族の令嬢と貧乏な画家の青年が身分違いの恋をして、やがて深い仲になった。
しかし、当然のことながら娘の家族はその恋を認めようとはしない。
駆け落ちも辞さない覚悟の娘に手を焼いたか、長い話し合いの末に一つの条件が出た。青年の画才を証明せよ。宮廷画家になりうるほどの逸材であれば一族に加わっても良いとの条件が。
それから青年の苦労が始まった。題材さえも見つからず思い悩む日が続き、思いあまった青年はミラージュ・ムアへと向かった。幻を題材に誰もが認めるような絵を描いて、己の価値を示そうと。怪物や死の噂をものともせずに。
そして青年は出会った。闇の中にほのかに浮かび上がる、求めても得られぬ絵の題材に。ミラージュ・ムアから戻った青年は食事も睡眠もほとんど取らず、物に憑かれたように絵筆をふるった。
出来上がった絵を目にしたもので彼の才能を讃えない者はいなかったという。青年を蛇蝎のように憎んでいたはずの娘の父すら息を止めて見入り、娘との婚約も許された。誰の口からも宮廷画家は当然という評価が出るなど、二人の将来になんの不安もないかに見えた。
しかし、しばらくして娘は訴えた。彼の様子が前と違うと。
来る日も来る日も憑かれたように一つの題材を書いていると。彼女ではない他の娘の姿を。青年が描いた絵は一つとして非凡なものであったが、青年は命を懸けて得たはずの恋人ではなくミラージュ・ムアで出会った相手のみを描き続けた。
そしてある日、どこかに姿を消したという。周囲の者はムアへ呼ばれたのだと噂しあった。
残された娘は青年の残した絵を悉く焼き捨てて、ミラージュ・ムアと彼の心を奪った幻を呪い続けて死んだという。
ある賢者は語る。“ミラージュ・ムアの理想の相手”に出会った者は、相手と精神的に合一することによって完全な精神への階梯を上ることができるのだと。そして、戻ってこなかった人々の中の幸運な幾人かは肉体を捨てて精神の高みに登ったのだという。
一方、理想の相手と合一することで両性具有の存在になるのだとまことしやかに語る人もおり、セレスチャルと関連づけて語る者や、フィーンドやドラゴンなどと関連づけて語る者もいる。また、見事理想の相手を娶ってミラージュ・ムアから意気揚々と戻ってきた女性の話もある。しかし、いずれもその後の行方を誰も知らない。
一方、理想の相手と合一することで両性具有の存在になるのだとまことしやかに語る人もおり、セレスチャルと関連づけて語る者や、フィーンドやドラゴンなどと関連づけて語る者もいる。また、見事理想の相手を娶ってミラージュ・ムアから意気揚々と戻ってきた女性の話もある。しかし、いずれもその後の行方を誰も知らない。
はっきりしているのは、この地方で“ミラージュ・ムアに相手を探しに行く”という表現が、身の程知らずの夢を追い求めることや無謀な挑戦、あるいは愚かな行為などを指して使われているという事実だけである。
また、女性に縁がない男性をからかうときにもこの表現は頻繁に使われる。
また、女性に縁がない男性をからかうときにもこの表現は頻繁に使われる。
「またフラれたのかよ、そろそろムアにでも行ったらどうだ?」
「無理無理、例えムアに行ってもお前じゃ相手は見つからねえよ」
「無理無理、例えムアに行ってもお前じゃ相手は見つからねえよ」
| + | [シナリオ・フック] |
(苦楽)