「…で?話ってなんですか?」
束の間の快適な春も終わり、豪雨もピークを迎える五月下旬。
東京優駿にて勝利を収めた私は、普段通りのトレーニングの後、チームのサブトレーナーに呼び出されていた。
「単刀直入に聞くよ。ホープフルステークスでの炎上で何かあった?」
…思わぬ言葉に耳をぴくりと震わせる。確かに彼の時間軸で考えれば、私はホープフルステークスが終わってから一晩でトゥインクルシリーズ百年分の経験を得ているわけだ。逆に何故今回まで聞かれなかったのか、ということの方が疑問である。
「…逆に聞きますけど、なんでそんなことを聞くんですか?」
「目だよ」
目の話ならこれまでの周回でもさんざ報告してきた。何故今回は態々個室に二人きりで聞いてきたのか。
そして目よりももっとおかしいところがあったのではないか?タイムについてとか。
「あぁ、目の色が紫になってる件なら大丈夫です。諸々ひっくるめてレースへの支障は」
「違う」
東京優駿にて勝利を収めた私は、普段通りのトレーニングの後、チームのサブトレーナーに呼び出されていた。
「単刀直入に聞くよ。ホープフルステークスでの炎上で何かあった?」
…思わぬ言葉に耳をぴくりと震わせる。確かに彼の時間軸で考えれば、私はホープフルステークスが終わってから一晩でトゥインクルシリーズ百年分の経験を得ているわけだ。逆に何故今回まで聞かれなかったのか、ということの方が疑問である。
「…逆に聞きますけど、なんでそんなことを聞くんですか?」
「目だよ」
目の話ならこれまでの周回でもさんざ報告してきた。何故今回は態々個室に二人きりで聞いてきたのか。
そして目よりももっとおかしいところがあったのではないか?タイムについてとか。
「あぁ、目の色が紫になってる件なら大丈夫です。諸々ひっくるめてレースへの支障は」
「違う」
「目が濁ってるんだ」
「…何を言って」
「初めて顔を合わせた面接の日に君が見せた目は、今よりもっと、君が語った夢に向かって真っ直ぐだった」
驚愕と軽蔑と、そしてある種の尊敬の眼差しで固まる。
あんた凄えよ。私じゃその根拠でそんなに自信持てない。
…訳がわからない。わからないのだが…妙に引っかかる。
「…別に何もありませんでしたけど」
「どんなに小さなことでも良いから話して欲しい。当たり前だけど、絶対に馬鹿にしたりはしないから」
「すみませんけど本当になにもないですから」
彼は尚も私に問いかけ続ける。死人のように口を閉ざした私に、ずっと。
…何もないというのは嘘である。多分。
確かに言われてみれば、近頃の私の行動には違和感を感じる。勝ち続けているそれ自体には問題がないが、まるで「初めからここにいましたよ」とでも言わんばかりのすまし顔をしている何かが私の身体に入り込んでいるような。
だがそれを彼に共有する義理はない。それに考えるなら一人で静かに整理したい。
「…すみません一人にして下さい」
「とりあえず訳くらいは話してくれたってーー」
「初めて顔を合わせた面接の日に君が見せた目は、今よりもっと、君が語った夢に向かって真っ直ぐだった」
驚愕と軽蔑と、そしてある種の尊敬の眼差しで固まる。
あんた凄えよ。私じゃその根拠でそんなに自信持てない。
…訳がわからない。わからないのだが…妙に引っかかる。
「…別に何もありませんでしたけど」
「どんなに小さなことでも良いから話して欲しい。当たり前だけど、絶対に馬鹿にしたりはしないから」
「すみませんけど本当になにもないですから」
彼は尚も私に問いかけ続ける。死人のように口を閉ざした私に、ずっと。
…何もないというのは嘘である。多分。
確かに言われてみれば、近頃の私の行動には違和感を感じる。勝ち続けているそれ自体には問題がないが、まるで「初めからここにいましたよ」とでも言わんばかりのすまし顔をしている何かが私の身体に入り込んでいるような。
だがそれを彼に共有する義理はない。それに考えるなら一人で静かに整理したい。
「…すみません一人にして下さい」
「とりあえず訳くらいは話してくれたってーー」
「出てけって言ってんだろうが!!!」
…あー。こいつまた感情を制御できずブチギレてやんの。ウマ娘たるもの自己を制御できなかったら何が起こるかくらい小学生でもわかるのに。急にキレるんじゃねえよ気色が悪い。
やーいお前の思考回路幼児レベルー。やーいやーい。
………はぁ。
やーいお前の思考回路幼児レベルー。やーいやーい。
………はぁ。
「…三十分…あれば終わらせます。自傷行為等しないことは約束します。…だからお願いします、一人にしてください…」
「…すまなかった」
「…すまなかった」
そう言ってトレーナーは部屋を去った。
…居た堪れない。申し訳ない。
だがそんなことを考えている場合ではない。出て行かせたのだからせめて宣言したように精神状態を把握せねば。
…居た堪れない。申し訳ない。
だがそんなことを考えている場合ではない。出て行かせたのだからせめて宣言したように精神状態を把握せねば。
…なんでこんなに勝つだけの周回をしてたんだ?
…思い出せ、思い出せよこのボケカスウマ娘…
………………勝ちたい。勝ちたいから勝ってる。
何故勝ちたい?…そりゃあ誰だって勝ちたい。勝者に与えられる賞金だとか名誉だとかが欲しいに決まってる。
…思い出せ、思い出せよこのボケカスウマ娘…
………………勝ちたい。勝ちたいから勝ってる。
何故勝ちたい?…そりゃあ誰だって勝ちたい。勝者に与えられる賞金だとか名誉だとかが欲しいに決まってる。
…"勝者としての名誉"?そんなものは要らない筈だ。
だが確かに今、私は"勝者としての名誉が欲しい"と言った。何を言っている?
あぁ?夢?夢があったな私には。確かに語った、あの形式上仕方なく行った面接で。なんだ?憧れ?私には勝ちたいレースがあったか?
…想起すれば、雑多な"憧れ"ーーただし、その全てが矛盾しているーーが私に溢れる。コーラのボトルに入ったソレがめんつゆの原液であることに気づく。金銭など要らない。名誉など要らない。何も、何も要らない。脳髄がグツグツと泡を立てて拒絶反応を起こし、思い出すなと泣き叫ぶ。構わない。何故ならお前は私じゃない!!そうだ勝利すら要らなかった筈だ、なら勝ち続けるのは何か"必要性"があった!!何がしたかった!?正気だった私は何をしようとしていた?思い出せ!!頭蓋をかち割って二度と戻せなくなるほど漁ってでも思いだっ
だが確かに今、私は"勝者としての名誉が欲しい"と言った。何を言っている?
あぁ?夢?夢があったな私には。確かに語った、あの形式上仕方なく行った面接で。なんだ?憧れ?私には勝ちたいレースがあったか?
…想起すれば、雑多な"憧れ"ーーただし、その全てが矛盾しているーーが私に溢れる。コーラのボトルに入ったソレがめんつゆの原液であることに気づく。金銭など要らない。名誉など要らない。何も、何も要らない。脳髄がグツグツと泡を立てて拒絶反応を起こし、思い出すなと泣き叫ぶ。構わない。何故ならお前は私じゃない!!そうだ勝利すら要らなかった筈だ、なら勝ち続けるのは何か"必要性"があった!!何がしたかった!?正気だった私は何をしようとしていた?思い出せ!!頭蓋をかち割って二度と戻せなくなるほど漁ってでも思いだっ
「…………ああ、そういえばそうだった」
全ッッッ部思い出した。
多分だけどさっきまでの私は黒い手とかその辺に信念を乗っ取られてたと思われる。勝ちたいだとかちやほやされたいだなんて私の頭に浮かぶ筈が無いんだからもっと早く気づくべきだった。気づかせてくれたトレーナーには本当に感謝である。きちんと謝っておかなければ。
多分だけどさっきまでの私は黒い手とかその辺に信念を乗っ取られてたと思われる。勝ちたいだとかちやほやされたいだなんて私の頭に浮かぶ筈が無いんだからもっと早く気づくべきだった。気づかせてくれたトレーナーには本当に感謝である。きちんと謝っておかなければ。
…まだ周回を続けるなら、再び奴らに呑まれるかもしれない。そしてまた復活できるとは限らない。
今回で終わりにする、という覚悟を決めた。
…ちなみにこの後、トレーナーへの謝罪等諸々を忘れて直帰した。