「エノラちゃんって、レースいつ出るの?」
ランニングをしていたら、カラレスがそんなことを聞いてくる。
ウマ娘としてトレセンに所属しているからには、レースに出て戦績を残さないといけない。
「デビュー戦は入学してすぐ済ませたし…後で開催予定表見ようか。」
「私も行くー」
心做しか、エノラの歩幅が少し大きくなった気がした。
部室に戻って、壁に貼られたレース開催予定表を眺める。
たくさん赤色が円を描いているそれは、私たちの道標となるだろう。
「………新潟ジュニアステークス、これとか良さそう。」
「いきなりGIIだよ?いくらエノラちゃんが強くても、通用するかは……」
カラレスの心配を中断するようにエノラが言う。
「通用しなきゃ、この先やってけない。通用しなきゃ、三冠は狙えない。」
エノラはそのまま続ける。
「私はすでに、たくさんの先輩と戦っているから、ちょっとは強いはず。だから。」
「………うん、わかった。エノラちゃん。」
その覚悟の前に、最早言葉は不要だ。
カラレスはエノラに赤ペンを手渡す。
受け取ってキャップを開け、新潟ジュニアステークスの開催日に丸を付けた。
キュッキュッと、音を聞きつけて誰か入ってきた。
「絵でも描いてるの?ミーも混ぜてよ。」
モノクルを付けたウマ娘、アルケミーだ。
「って、レースに出るのかい?」
「うん、新潟ジュニアステークスに。」
エノラは毅然として語る。
「…ふーん、楽しみにしてるね。」
「ありがとう……絶対、失望させないから。」
「!……キミ、面白いね。」
やり取りを見てたカラレスは置いてけぼりにされてたが、ぎこちなくペンをとって丸を描き始めた。
「ひゃっほーい!」
背中から声が聞こえる。
エノラは夏合宿で、モーターボートを乗り回していた……カラレスを乗せて。
時は夕方なので、西日が海面を紫に照らしていた。
「あはは!もっと速くしてよ!」
「無理。これ以上は危険。」
流石にギリギリの速度で飛ばしている。十分カラレスにとっては楽しいらしいが。
「エノラちゃんも凄いカッコだよね。ウェットスーツに、ヘルメットまで。」
「お金貰ってるんだから、ちゃんとしないと。」
思わぬ収入にカラレスが驚く。
「お金貰ってたの!?」
「ボランティアのつもりで始めたんだけど、気づいたら海の家の人達からお小遣いを貰ってて……」
どうやらフクザツなジジョーがあるらしい。足を海面に突っ込ませ、その音で声を中断させる。
「………いよいよ、だね。」
「…そう、だね。」
新潟ジュニアステークスが着実に近づいてきている。
夏合宿と被っているので、ウマ娘達はあまり出たがらないレースでもある。
やはりみんな1日でも楽しみたいのだろう。
「……ねえ、エノラちゃん。」
「なに?」
「あなたは……なんでレースに出るの?」
「………………」
カラレスの問は、モーターが水を切る音で掻き消されたのかもしれない……………
結局、エノラは答えなかったから。
ランニングをしていたら、カラレスがそんなことを聞いてくる。
ウマ娘としてトレセンに所属しているからには、レースに出て戦績を残さないといけない。
「デビュー戦は入学してすぐ済ませたし…後で開催予定表見ようか。」
「私も行くー」
心做しか、エノラの歩幅が少し大きくなった気がした。
部室に戻って、壁に貼られたレース開催予定表を眺める。
たくさん赤色が円を描いているそれは、私たちの道標となるだろう。
「………新潟ジュニアステークス、これとか良さそう。」
「いきなりGIIだよ?いくらエノラちゃんが強くても、通用するかは……」
カラレスの心配を中断するようにエノラが言う。
「通用しなきゃ、この先やってけない。通用しなきゃ、三冠は狙えない。」
エノラはそのまま続ける。
「私はすでに、たくさんの先輩と戦っているから、ちょっとは強いはず。だから。」
「………うん、わかった。エノラちゃん。」
その覚悟の前に、最早言葉は不要だ。
カラレスはエノラに赤ペンを手渡す。
受け取ってキャップを開け、新潟ジュニアステークスの開催日に丸を付けた。
キュッキュッと、音を聞きつけて誰か入ってきた。
「絵でも描いてるの?ミーも混ぜてよ。」
モノクルを付けたウマ娘、アルケミーだ。
「って、レースに出るのかい?」
「うん、新潟ジュニアステークスに。」
エノラは毅然として語る。
「…ふーん、楽しみにしてるね。」
「ありがとう……絶対、失望させないから。」
「!……キミ、面白いね。」
やり取りを見てたカラレスは置いてけぼりにされてたが、ぎこちなくペンをとって丸を描き始めた。
「ひゃっほーい!」
背中から声が聞こえる。
エノラは夏合宿で、モーターボートを乗り回していた……カラレスを乗せて。
時は夕方なので、西日が海面を紫に照らしていた。
「あはは!もっと速くしてよ!」
「無理。これ以上は危険。」
流石にギリギリの速度で飛ばしている。十分カラレスにとっては楽しいらしいが。
「エノラちゃんも凄いカッコだよね。ウェットスーツに、ヘルメットまで。」
「お金貰ってるんだから、ちゃんとしないと。」
思わぬ収入にカラレスが驚く。
「お金貰ってたの!?」
「ボランティアのつもりで始めたんだけど、気づいたら海の家の人達からお小遣いを貰ってて……」
どうやらフクザツなジジョーがあるらしい。足を海面に突っ込ませ、その音で声を中断させる。
「………いよいよ、だね。」
「…そう、だね。」
新潟ジュニアステークスが着実に近づいてきている。
夏合宿と被っているので、ウマ娘達はあまり出たがらないレースでもある。
やはりみんな1日でも楽しみたいのだろう。
「……ねえ、エノラちゃん。」
「なに?」
「あなたは……なんでレースに出るの?」
「………………」
カラレスの問は、モーターが水を切る音で掻き消されたのかもしれない……………
結局、エノラは答えなかったから。
場所は変わってレース場。エノラが新潟ジュニアステークスに出走する日だ。
チームメイトの晴れ舞台ということで、チームカオスの面々が見える。
「ラピッドさんに、フラワーさんと、えーっと……」
パドックから名前を思い出すが、1人、初めて見た顔が混ざっていた。
「彼女は………」
時間なのでとりあえずパドックから降り、控え室へ向かった。
チームメイトの晴れ舞台ということで、チームカオスの面々が見える。
「ラピッドさんに、フラワーさんと、えーっと……」
パドックから名前を思い出すが、1人、初めて見た顔が混ざっていた。
「彼女は………」
時間なのでとりあえずパドックから降り、控え室へ向かった。
「ふう……柄になく緊張するな。」
筋肉が締め付けられて、精神がキリキリするのを感じる。
ガチャ、とドアが開いた。
「カラレス、ラピッド先輩に、フラワー先輩!」
「やあ、元気そうだね!」
「元気なことは、いい事ですからね。」
「ボクも忘れないでくれたまえ!」
薄緑色のショートヘアをしたウマ娘が表れる。
「あなたは?」
「ボクの名前はミントクラウン、いずれキミを倒す者!」
また昂然としたヤツが表れたもんだ。
時計を見ると、もう出走の時間だ。早く行こう。
「それじゃ、勝ってくるね。カラレス。」
「うん、行ってらっしゃい。エノラ。」
初陣が幕を開ける。
筋肉が締め付けられて、精神がキリキリするのを感じる。
ガチャ、とドアが開いた。
「カラレス、ラピッド先輩に、フラワー先輩!」
「やあ、元気そうだね!」
「元気なことは、いい事ですからね。」
「ボクも忘れないでくれたまえ!」
薄緑色のショートヘアをしたウマ娘が表れる。
「あなたは?」
「ボクの名前はミントクラウン、いずれキミを倒す者!」
また昂然としたヤツが表れたもんだ。
時計を見ると、もう出走の時間だ。早く行こう。
「それじゃ、勝ってくるね。カラレス。」
「うん、行ってらっしゃい。エノラ。」
初陣が幕を開ける。
着慣れた体操服が、観客席からの視線を一手に担う。
『続いて、3枠5番、エノラ。』
ゲートに入り、スタートダッシュの体勢になる。
少し周りを見ると、隣の6番、どうやら気性が荒いようだ。少し気を付けよう。
『続いて、3枠5番、エノラ。』
ゲートに入り、スタートダッシュの体勢になる。
少し周りを見ると、隣の6番、どうやら気性が荒いようだ。少し気を付けよう。
ガコン!!
ゲートが開き、レースが始まった。
エノラはいつも通り後方に位置し、機を窺う。
気性が荒っぽそうなウマ娘は先行策の位置についたようだ。
エノラは気にせず、自分のペースで走っている。
ゲートが開き、レースが始まった。
エノラはいつも通り後方に位置し、機を窺う。
気性が荒っぽそうなウマ娘は先行策の位置についたようだ。
エノラは気にせず、自分のペースで走っている。
観客席席にて、遅れてやって来たオウカムーン含む部員が冷や汗を流している。
比較的新しく入ってきたミントクラウンだけは展開を楽しんで観ていた。
「みんな、どうしてそんなに緊張してるんだい?」
我慢できなくなったクラウンがみんなに聞いてみる。
「あの、芦毛の6番黒ゼッケン見える?」
「ああ、あの目つきが悪いウマ娘だろう?はっきり見えているよ。」
代表してオウカムーンが答える。
「彼女はレンザフト。『デビュー狩り』の悪名高いウマ娘なんだけど……よりによってGIIに現れるとはね…」
「『デビュー狩り』!?」
レンザフトは徹底的なラフプレーによって初心者を叩き潰し、自分が成り上がることを目的にしているウマ娘だ。
オウカムーンの解説にクラウンは震え上がった。
「今どきそんな外道がいるとは……」
「盛り上がってるとこ悪いけど、そろそろ第3コーナーだよ。エノラが動き始める。」
アルケミーが会話の流れを中断し、注目をエノラに集めた。
「頑張れ…エノラちゃん…」
カラレスの祈りがエノラに届いたかは、分からない。
比較的新しく入ってきたミントクラウンだけは展開を楽しんで観ていた。
「みんな、どうしてそんなに緊張してるんだい?」
我慢できなくなったクラウンがみんなに聞いてみる。
「あの、芦毛の6番黒ゼッケン見える?」
「ああ、あの目つきが悪いウマ娘だろう?はっきり見えているよ。」
代表してオウカムーンが答える。
「彼女はレンザフト。『デビュー狩り』の悪名高いウマ娘なんだけど……よりによってGIIに現れるとはね…」
「『デビュー狩り』!?」
レンザフトは徹底的なラフプレーによって初心者を叩き潰し、自分が成り上がることを目的にしているウマ娘だ。
オウカムーンの解説にクラウンは震え上がった。
「今どきそんな外道がいるとは……」
「盛り上がってるとこ悪いけど、そろそろ第3コーナーだよ。エノラが動き始める。」
アルケミーが会話の流れを中断し、注目をエノラに集めた。
「頑張れ…エノラちゃん…」
カラレスの祈りがエノラに届いたかは、分からない。
(そろそろ動きかなきゃ……)
試合展開を後ろから眺めていたエノラは、脳内で構築した抜け道を辿るように動き始めた。
「……ハアッ!」
スパートを掛け、一気に前に出る。
グングンと他のウマ娘を抜き去り前方に飛び出た。
突然、右半身に衝撃が走る。
「ぐあっ…!?」
右を見ると、あの芦毛のウマ娘が並んでいた。
「あなたは…!」
「悪ぃけど、オマエはここで脱落なんだわ。」
そう言うや否や、再びタックルを仕掛けてきた。
「くっ…」
合わせるようにエノラもタックルし衝撃を相殺するが、ラフプレーができない性分なので力が入らず、着実にダメージは溜まっていく。
試合展開を後ろから眺めていたエノラは、脳内で構築した抜け道を辿るように動き始めた。
「……ハアッ!」
スパートを掛け、一気に前に出る。
グングンと他のウマ娘を抜き去り前方に飛び出た。
突然、右半身に衝撃が走る。
「ぐあっ…!?」
右を見ると、あの芦毛のウマ娘が並んでいた。
「あなたは…!」
「悪ぃけど、オマエはここで脱落なんだわ。」
そう言うや否や、再びタックルを仕掛けてきた。
「くっ…」
合わせるようにエノラもタックルし衝撃を相殺するが、ラフプレーができない性分なので力が入らず、着実にダメージは溜まっていく。
「ああっ!」
顛末を観ていたクラウンが、耐えきれず悲鳴を上げた。
「エノラも頑張ってるみたいだけど、あのままじゃ……」
「エノラちゃんならきっと大丈夫だよ!」
アルケミーの声をカラレスが遮る。
「ほら、あの目はまだ諦めてない目だよ。」
エノラの白んだ視界は、まだ決意を残していた。
顛末を観ていたクラウンが、耐えきれず悲鳴を上げた。
「エノラも頑張ってるみたいだけど、あのままじゃ……」
「エノラちゃんならきっと大丈夫だよ!」
アルケミーの声をカラレスが遮る。
「ほら、あの目はまだ諦めてない目だよ。」
エノラの白んだ視界は、まだ決意を残していた。
「そんなっ、もう…!」
思わぬ消費により視野狭窄のペースが早まっていく。
「おっ?チャンス!」
レンザフトは容赦なく妨害をしてくる。
「楽しいの!?そんな事を!」
「勝つためにはどんな事も厭わないんだぜ!」
エノラもそろそろ限界か。体がブレ始めてきている。
(そろそろ決めなきゃマズイ!)
「遊びでやってんじゃ無いんだよオオォ!!!」
タックルに合わせて落とし穴にでも落ちたかのように体を思いっきり下げ、回避する。
そのままラストスパート。
「んなっ…」
レンザフトをそのまま置いてけぼりにして、エノラが先頭に立った。
「このままッ!!」
足を衰えさせることなくゴール。
エノラは、勝利した。
「はあっ…はあっ……ぐっ……」
寝っ転がって息を整えていたエノラに頭痛が走る。
「ラピッドの時の……っ」
あの時の頭痛に酷似した痛みに、エノラは左目を抑えた。
ヨロヨロと立ち上がり、レンザフトの元へと歩く。
「オレが……負けた………」
「そう、オマエは負けたのよ。」
言うと、胸ぐらを掴みかかってきた。
「このっ…!!」
「ほら、殴ってみなさい?大衆の前で、私を思いっきり。」
エノラの挑発で頭が冷えたレンザフトは、手を離していそいそと控え室に戻って行った。
「勝ったのね……私…」
ボンヤリとそんな事を考え、観客席を見渡した。
歓声、笑顔、振られる手。その全てがエノラのものだ。
「これは……確かに、走りたくなる訳ね。」
溢れ出る感情のままに、ただ1回手を振り返した。
思わぬ消費により視野狭窄のペースが早まっていく。
「おっ?チャンス!」
レンザフトは容赦なく妨害をしてくる。
「楽しいの!?そんな事を!」
「勝つためにはどんな事も厭わないんだぜ!」
エノラもそろそろ限界か。体がブレ始めてきている。
(そろそろ決めなきゃマズイ!)
「遊びでやってんじゃ無いんだよオオォ!!!」
タックルに合わせて落とし穴にでも落ちたかのように体を思いっきり下げ、回避する。
そのままラストスパート。
「んなっ…」
レンザフトをそのまま置いてけぼりにして、エノラが先頭に立った。
「このままッ!!」
足を衰えさせることなくゴール。
エノラは、勝利した。
「はあっ…はあっ……ぐっ……」
寝っ転がって息を整えていたエノラに頭痛が走る。
「ラピッドの時の……っ」
あの時の頭痛に酷似した痛みに、エノラは左目を抑えた。
ヨロヨロと立ち上がり、レンザフトの元へと歩く。
「オレが……負けた………」
「そう、オマエは負けたのよ。」
言うと、胸ぐらを掴みかかってきた。
「このっ…!!」
「ほら、殴ってみなさい?大衆の前で、私を思いっきり。」
エノラの挑発で頭が冷えたレンザフトは、手を離していそいそと控え室に戻って行った。
「勝ったのね……私…」
ボンヤリとそんな事を考え、観客席を見渡した。
歓声、笑顔、振られる手。その全てがエノラのものだ。
「これは……確かに、走りたくなる訳ね。」
溢れ出る感情のままに、ただ1回手を振り返した。
控え室でクールダウンしていると、ドアがノックされた。
「入って。」
バン!と勢いよくドアが開いて、部員が押し寄せてくる。
「おめでとー!」
「おめでとう、エノラ!」
「よく頑張ったね。」
チームのみんなの賛辞に、胸が暖かくなるのを感じる。
「おめでとう、エノラちゃん。」
「カラレス……」
そっと親友に抱きしめられる。
「凄かったよ、あの走り。」
「ありがとう、カラレス。」
エノラも抱き返す。
今はただ、2人の空間を守るように、他の部員は静まっていた。
「入って。」
バン!と勢いよくドアが開いて、部員が押し寄せてくる。
「おめでとー!」
「おめでとう、エノラ!」
「よく頑張ったね。」
チームのみんなの賛辞に、胸が暖かくなるのを感じる。
「おめでとう、エノラちゃん。」
「カラレス……」
そっと親友に抱きしめられる。
「凄かったよ、あの走り。」
「ありがとう、カラレス。」
エノラも抱き返す。
今はただ、2人の空間を守るように、他の部員は静まっていた。