愛している、ヘレン

発言者:只人の少年・皇悠也
対象者:最愛の妻・ヘレン


ミサキルート、目覚めた神祖天敵地母神を、知恵の神し、大国主へと迫る。

何度も何度も操縦機兵(アメノクラト)造り出したがそれもついに限界を迎える。迫り来る竜人を前に……

「諦められるか。それでも僕はッ────!」

先に散った二柱を超える神天地(アースガルド)への渇望、いや使命感(・・・)が彼を無謀と知りながらも最後の突撃に踏み切らせる。

「大切な約束があるのは、おまえ達だけじゃないんだよ!」

世界を変えてしまった者としての責任をとるという一念、そして愛する伴侶へ誓った愛のために───絆のために。

ならば、いいだろう――この瞬間だけ、ラグナ・スカイフィールドは九条榛士として告げる。

「今でもそれを、相手が変わらず望んでいるか。ちゃんと確かめて来い、悠也!」

炸裂する終焉兵装(フィンブルヴェトル)。少年神の身体と不死の権能を粉微塵に吹き飛ばし、無慈悲な敗北を刻み込んだ。


+ 悔恨の果てに不可避の滅びへ墜落し―――

「―――また会えましたね、ユウヤさん」

草木の薫る青空の下、晴れ渡る視界に予期せぬ少女(・・)を見た。喉は枯れ、意識が凍る。耳をくすぐる最愛の声に息をのみながら少女の名を呟く。

「―――――ヘレン」

遥か昔に看取った最愛の妻を前に数多の臣民を支配してきた少年神は呆然と佇む。見渡す景色は恐ろしいほど二人が出会ったあの日のまま。
初代の使徒(エドワード)の叛逆に心折れ、何もかもから逃げ出した片田舎で出会った記憶が堰を切って溢れ出す。

――――訳が分からない、何だこれは?自分は必殺の神殺し(フィンブルヴェトル)を受けたのではなかったのか?

目の前に起きている現象(・・)が何なのか、それがどんな理屈(・・)で引き起こされたのか、冷静に動かそうとする思考さえままならない。いいや――――。

「―――ええ、もういいのです。あなたは立派にやりました。」

「―――わたしが先に逝った後もたくさん失って、たくさん傷ついて、それでも涙をぬぐっては立ち上がってきたのでしょう?」

「―――あんな強がりが上手くなるまで駆け抜けて……本当に、真面目で素直な人なんですから。」

「―――大丈夫、そんなあなたをわたしはすべて受け止めますよ。功も罪もあるのでしょうが、そんなの別に構いません。」

「―――たとえ世界のあらゆる人が小さな神を嫌っても、わたしだけはあなたの歩んだ足跡を一つ残らず抱き締めるわ。」

「―――だから、よく頑張りましたねユウヤさん。ここまで必死に駆け抜けたあなたの妻であることを、ヘレンは誇りに思っていますよ。」

「―――もうそろそろ、自分を許してあげてください。わたしの大好きな男の人を、ちゃんと認めてあげてください。ただそれだけを、わたしは我儘に願います。」

「―――そして願わくばもう一度……花のようにほがらかな優しい笑顔を見せてちょうだい。」

「―――愛しているわ、あなた」

「うぅ、うぅぅ……ああぁあぁぁっ!!!」

囁く想いがあまりに、あまりに優しくて、もうそれで完全に駄目だった。

涙が止め処なく溢れ出し、心の堤防が決壊する。手に触れた温もりへ許しを請う罪人のように神祖スメラギは瞬く間に息絶えた。

代わりに残る皇悠也というちっぽけな少年は訪れた再会の奇跡にもはや立ち上がることすらできない。

心が、思い出が、魂が、目の前の少女こそ紛れもなくかつて自分を蘇らせてくれた最愛の女性だと叫んでいた。如何なる理屈や原理で、という無粋な疑問など頭の端にも浮かばない。いや、そんな真実を暴いた瞬間に目の前の妻が消えてしまう想像の方が何兆倍も耐えられなかった。

「どうして、僕は……君と一緒に死ねなかったんだろう。こんな不死身(からだ)になった後で、出会ってしまったんだろう。」

「同じ様に歳を重ねて生きたかった。背丈が伸びて、大人になって、小さな苦楽を共にして……そしていつか、君の隣で皺くちゃのお爺さんになれていたら……ッ」

「それだけで皇悠也は良かったのに!世界で一番、誰より幸せだったのに!」

震える喉が、ずっと溜め込んでいた悔恨を滲ませていく。誰にも言えずひた隠しにしていた本音が罅の入った我慢の器からあふれ出した。

穏やかな百年ぽっちの人生を、すべてとすることが出来ていたなら、このささやかな愛と生死を共にできていたらそれだけで良かったのだ。

なのに、不滅の神祖?ふざけるな、こんな呪縛(しゅくふく)いったい誰が要るという。

終わらないから前を向いて進む以外に道がなく、彼女が愛した少年の笑顔を過去に置き去りにして、そして気づけば合理と秩序の無慈悲な象徴(イコン)になり果てていたなんて……。

「ごめん、ごめんようヘレン……!こんな神様にならなくちゃ、歩くことさえ出来なくて!人間のままでいられなくて!君が信じてくれた僕を忘れて……ごめんなさい、ごめんなさい!」

後悔に滂沱の涙を流すどこにでもいる小さな迷子(ヒト)を慈愛の抱擁が包み込む。

「―――愛している、ヘレン」

積み重ねた決意や懊悩も功罪も、一人の少女に受け入れられ許されて、少年は愛する妻と強く抱き合って蒼天の光に誘われたのだった。





  • 「やっぱり現実の快感じゃ、仮想遊戯には勝てないのよぉッ」 -- この時のイザナ (2020-07-05 19:05:02)
  • 心が折れたマイナス10ポイント -- 名無しさん (2020-07-05 19:21:46)
  • 塵どもがヘレン君いじめてて笑える -- 名無しさん (2020-07-05 19:28:47)
  • ↑生やすな -- 名無しさん (2020-07-05 19:29:55)
  • ヴァルゼライド閣下なら乗り越えたぞ? -- 名無しさん (2020-07-05 19:34:02)
  • ↑救世主「愛する者の声で立ち止まれること、そして己の所業を悔いることができるということ。それが不要だと?貴様ら、どこまで恥知らずなのだ?愚かしい、度し難いぞ」 -- 名無しさん (2020-07-05 19:37:04)
  • ↑やはり....素晴らしい故にその輝きに報いるために極楽浄土は必要なのだ!!! -- 名無しさん (2020-07-05 19:47:00)
  • なぁ本気で愛してたならなんで自殺の方法を本気で考えなかったんだ?舐めてんじゃねぇぞ人の可能性を -- 名無しさん (2020-07-05 19:53:54)
  • これも過去に振りむいて気付くことってゼファーの勝利に近いもんだな -- 名無しさん (2020-07-05 20:00:01)
  • ↑でもこの人の場合振り向いたらもう歩き出せないレベルなんだよな -- 名無しさん (2020-07-05 20:04:30)
  • ↑それな。振り向いちゃったら進めなくなるから、前だけを見て前進して擦切れきって、こんな形でしか振り向けなくなった可哀想な人。 -- 名無しさん (2020-07-05 20:10:13)
  • リチャードも思うところはあったらしいが所詮光の奴隷ってことで未来大好き!だったらしい -- 名無しさん (2020-07-05 20:14:54)
  • リチャードじゃねぇわエドワードだわこれだったらジェイス必要ねぇ -- 名無しさん (2020-07-05 20:24:44)
  • 女どもと悠也くんで末路のカラーが違いすぎる… -- 名無しさん (2020-07-05 20:26:12)
  • 来世があるなら今度こそ100年程度の人生を二人で全うしてほしいな…… -- 名無しさん (2020-07-05 20:30:35)
  • ↑「私がみんなを抱き締めるから」 -- 名無しさん (2020-07-05 20:37:28)
  • 要らぬ糞だぞ -- 名無しさん (2020-07-05 20:40:48)
  • ↑2 貴女様は自衛力が低いからうんこマン撃退出来てもいずれ誰かに滅ぼされるじゃないですかヤダー。 -- 名無しさん (2020-07-05 20:42:05)
  • ヘレンは待っててくれるだろうけど千年の罪を償うまでにどのくらいかかることやら -- 名無しさん (2020-07-05 20:45:43)
  • ↑2相手が真っ当なら、その有用性で生き残れるから・・・真っ当な覇道神はいない?そうだね()神祖なら神天地創造まで利用した後、第二太陽のようにポイ捨てしそう -- 名無しさん (2020-07-05 20:59:23)
  • (∴)はぁ?1000年も孤独に耐えられん糞など使えんなぁ -- 名無しさん (2020-07-05 21:02:14)
  • ↑3「償う?その必要ないほど功績をあげてるではないか?(極楽浄土目線)」 -- 名無しさん (2020-07-05 21:03:55)
  • ↑結局目標達成できずに被害だけは数多出したから多分極大なマイナス背負ってスタートだぞ -- 名無しさん (2020-07-05 21:06:50)
  • ↑ 被害だけ出して何の功績もあげてないとか糞眼鏡もこれは苦言を呈す。まぁ永遠を司る神祖は命を燃やして何かを成し遂げる光狂いとは相性悪いか。 -- 名無しさん (2020-07-05 21:14:54)
  • 別の目的があったとはいえ、一応その過程で国の秩序・発展には多大な貢献もしてきてたしね -- 名無しさん (2020-07-05 21:18:11)
  • エリュシオンは秩序維持やなんかはあんまり考慮しないみたいだからどうなんだろ。ルーファス君も切り捨てられるらしいし国の統治者やったとて新西暦の発端であるマイナスも含めるとプラマイ0ぐらいか? -- 名無しさん (2020-07-05 21:22:35)
  • なお学パロ時空だと肉食系なヘレンさん -- 名無しさん (2020-07-05 21:32:59)
  • ↑肉食系(イザナ・フォンザブレイブ) -- 名無しさん (2020-07-05 21:35:37)
  • ↑肉棒系の間違いでは? -- 名無しさん (2020-07-05 21:37:11)
  • ↑3夫を愛し続けて死後も思い続けた真性だぞ。肉食系以外思い付かないよ -- 名無しさん (2020-07-05 22:11:44)
  • ↑続き。ナギサちゃんに迫る愛情グラビティ女子って言うイメージだね -- 名無しさん (2020-07-05 22:13:46)
  • どこで読める?その肉食系へレンちゃんと生肉系悠也君 -- 名無しさん (2020-07-05 22:22:26)
  • しかしこれってどういう理屈なんだろうな。本当に本人なら科学で死後概念すら解析できたって事だし、悠也の心の中のヘレンだったならあのエロゲ神と同じ目に合ってるってことだし -- 名無しさん (2020-07-06 00:39:15)
  • いや、単純に第二太陽からヘレンとその時代のパーソナルデータ抽出して仮想空間にポイしただけだと思うぞ。 -- 名無しさん (2020-07-06 00:48:33)
  • つまるところ。Hero,sのアメノクラトの仮想空間をやっているのと同じじゃないか? -- 名無しさん (2020-07-06 00:50:23)
  • シルヴァリオシリーズって何をもって同一人物とするのか曖昧ってのはある。総統とヘリオスすら同一としちゃう奴らすらいるし -- 名無しさん (2020-07-06 01:45:18)
  • やっぱり現実の快感じゃ、仮想遊戯には勝てないのよぉッ!ってことだろ。ヴァーチャルの精密再現と星の記憶に負けたのだ -- 名無しさん (2020-07-06 08:33:43)
  • ヘレンのシルエットがミリィを幼くした感じにみえて、想像した性格がそれに近くなるな -- 名無しさん (2020-07-06 08:45:34)
  • 下手したら、悠也とヘレンとの子供の子孫がブランシェ一家ということもありうるかもよ。 -- 名無しさん (2020-07-06 10:02:48)
  • 悠也に子供はいなかったみたいだから、ヘレンの家族関係かもね。ミリィの才能も異常だからスメラギとかアマツの血を継いででも不思議じゃないけど -- 名無しさん (2020-07-06 10:19:37)
  • アカシックレコードにでも接続したんじゃね? -- 名無しさん (2020-07-06 17:09:08)
  • 女共が苦笑いするしかないような最期を迎えた後、スメラギの決死の突撃から涙腺が緩みだして「同じ年を重ねて生きたかった」って所で涙腺が崩壊して涙が止まらなくなった。これ解ってくれる人いるだろうか -- 名無しさん (2020-07-20 10:35:09)
  • ここはガチの涙腺崩壊ポイント。なお前の二人 -- 名無しさん (2020-07-20 11:37:59)
  • 落差を生み出す高等テクニックやぞ -- 名無しさん (2020-07-20 11:48:31)
  • 逆に考えろ。この後にエロゲ神と研究中毒者こられたら色んな意味で精神的にもたんわ! -- 名無しさん (2020-07-30 19:13:56)
  • 研究中毒→純愛→エロゲ神の順番もジェットコースターばりのアップダウンを味わえる可能性も -- 名無しさん (2020-07-30 19:51:22)
  • どこに出しても恥ずかしくないジャンキーのイザナさんまじパネェ -- 名無しさん (2020-07-30 20:39:49)
  • そもそも存在自体が恥ずかしい -- 名無しさん (2020-07-30 20:45:33)
  • 「榛士」との決別を誓ったラグナが一時的に「榛士」として語りかけてあげたあたり思うところがあったんだろうか… -- 名無しさん (2020-07-31 06:59:57)
  • 決めたからこそ -- 名無しさん (2020-08-17 00:33:01)
  • ↑11,12 ヘレンの姉妹や親戚関係から続いたのがブランシェ一族としたら、たとえば欧州にいて難を逃れた研究者のひとりで、新西暦序盤の研究のいくつか(星辰力の性質の解明など)に関わってたのかも。 -- 名無しさん (2020-12-25 13:48:37)
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最終更新:2020年12月25日 13:48