永遠のライバルであると同時に歴戦の戦友でもあるリュウとケン。今回はパートナーとして一つの事件に巻き込まれていた。シャドルーや三島財閥といった自分たちとは縁のない社会の裏からの刺客。各々の目的はあれど、立ち塞がるものは闘いをもってして倒す。サイコパワーから野生のクマまで相手にすることとなった今回の事件に、二人は動揺しながらも興奮していた。まだ見ぬ強敵、そしてそれを退ける自分たち。自身とそれを培う闘いに二人は静かな高揚を持って今日も土を踏みしめる。
襲いかかってきた刺客たちが目指していた場所がどんなものなのか、二人は知らない。ただそこに引き寄せられるように強者が集う。当てもなく歩いていても強いやつに出会える、そんな確信があった。そして今日も二人は新たな強者二人組と対峙する。
襲いかかってきた刺客たちが目指していた場所がどんなものなのか、二人は知らない。ただそこに引き寄せられるように強者が集う。当てもなく歩いていても強いやつに出会える、そんな確信があった。そして今日も二人は新たな強者二人組と対峙する。
「悪党みたいなやつらはあらかた片づけたと思ったが、次に遭うのがおじょうちゃんたちとはな」
激しい戦いが続いたここ数日の緊張が解けてしまうのも無理はなかった。特に口の軽いケンはついつい態度にも出てしまう。今日出くわした二人組は大阪から来た女子高生と、その女子高生と歳を同じくする外人の令嬢という組み合わせだ。風間飛鳥とリリ。リリが一方的に飛鳥をライバル視してはいるものの、仲の良い格闘仲間で、連日闘った豪傑たちにはないあどけなさと気負いのなさがあった。そして緊張感もまた同様になかった。
「おじょうちゃんたちは何しに来たんだ?もうこの辺には何もないし、誰もいないぜ」
きょろきょろと辺りを見回すもそこにあるのは廃屋と岩ばかり。辺境の一歩手前といったところで、人の気配も皆無だった。四人は本当にただはち合わせただけに過ぎなかった。それを察した飛鳥はここまでやってきたことが無駄骨だと知り、落胆する。
「歩き疲れただけやんか...だからこっちに行くのは反対やったんや。あんたが根拠もなしにこっちの方角やいうから...」
目的地が何処だったのかは知る由もないが、飛鳥とリリも当てもなく、いや迷った末に仕方なくさまよっていたようだった。リリの無根拠な決定により、足を酷使しただけという現実。そこで出会ったのは何も持たない胴着の男二人だけとあっては、飛鳥のやる気は底をついていた。しかしリリは違った。
「いえ、このような機会に巡り合えたことは充分な収穫ですわ」
「はぁ?」
へたりこんだ飛鳥が首をかしげる。リュウとケンも同様にリリの収穫とやらに興味を引かれた。
「噂に名高い格闘家二人がこうして目の前にいる...それだけで心が躍りませんこと?」
リリは格闘に目覚めてから、世界中の著名な格闘家とも闘ってきた。父親を悩ませている三島財閥を成敗すべく、勝手に出場した世界トーナメント、そしてその途中で出会った飛鳥といった強者に常に心躍らされてきた。そして今、格闘家の間では知らぬものはいないという「胴着の二人」がいる。相手の肉を打ち、骨を砕きあう格闘に魅せられた者としては夢のようなシチュエーションだ。
リリは格闘に目覚めてから、世界中の著名な格闘家とも闘ってきた。父親を悩ませている三島財閥を成敗すべく、勝手に出場した世界トーナメント、そしてその途中で出会った飛鳥といった強者に常に心躍らされてきた。そして今、格闘家の間では知らぬものはいないという「胴着の二人」がいる。相手の肉を打ち、骨を砕きあう格闘に魅せられた者としては夢のようなシチュエーションだ。
「やりたそうな顔してるね」
ケンはリリの昂りを察した。
「ええ、ケン・マスターズ。富豪としてのあなたには興味はありませんが、格闘家としてのあなたには大いにあります。是非お手合わせ願いたいものですわ」
二人の気は合うようだった。ケンもリリもお互いを見据えたまま、動かない。
「やるなら勝手にしーや。あたしは帰るで...」
やる気のない飛鳥と気乗りのしないリュウ。こちらも気は合うようだった。
「一人で帰れますの?それにこんな貴重な機会を私が独り占めしてよろしいのかしら?リュウさんの方も私がいただいてしまいますわよ?」
ケンはリリの昂りを察した。
「ええ、ケン・マスターズ。富豪としてのあなたには興味はありませんが、格闘家としてのあなたには大いにあります。是非お手合わせ願いたいものですわ」
二人の気は合うようだった。ケンもリリもお互いを見据えたまま、動かない。
「やるなら勝手にしーや。あたしは帰るで...」
やる気のない飛鳥と気乗りのしないリュウ。こちらも気は合うようだった。
「一人で帰れますの?それにこんな貴重な機会を私が独り占めしてよろしいのかしら?リュウさんの方も私がいただいてしまいますわよ?」
尊大な態度から出される言葉にリュウとケンの調子が狂った。まるで一人で二人を下せるかのような自信。
「言うね、おじょうちゃん。でも...確かにせっかく二人組が出来るんだ。リュウ、やろうぜ」
「む...言っても聞かないか...そこの君さえよければ」
丁寧に飛鳥に視線を配る。
「む...言っても聞かないか...そこの君さえよければ」
丁寧に飛鳥に視線を配る。
「あ~もう、どいつもこいつもケンカ好きすぎやろ...理由なくどつき合う気分ちゃうのに」
成り行きはどうであれ、ここにタッグ戦が実現する。飛鳥とリリ、リュウとケン。歳も肉体も一回り違うスケールの闘いである。
拳を持つ二人の闘いが始まる。
拳を持つ二人の闘いが始まる。
「おじょうちゃんから攻めてきていいぜ」
ケンの余裕は先手を譲る形で表れた。
「あら、ジェントルマンですのね...あくまでフェアでよろしいのですよ」
ケンは無言で指を曲げ、かかってくるように合図した。軽くもんでやる程度のつもりだ。今まで闘ってきた相手とは強さも凄みも欠ける・・・だからこうしてハンデを設けては闘いを自分で盛り上げるしかない。そう決め付けていた。
ケンの余裕は先手を譲る形で表れた。
「あら、ジェントルマンですのね...あくまでフェアでよろしいのですよ」
ケンは無言で指を曲げ、かかってくるように合図した。軽くもんでやる程度のつもりだ。今まで闘ってきた相手とは強さも凄みも欠ける・・・だからこうしてハンデを設けては闘いを自分で盛り上げるしかない。そう決め付けていた。
その刹那。
ケンの顎の数ミリ手前にまでリリの左足が移動していた。ハイキックの寸止め。目にもとまらぬ白の鞭。
ケンは絶句した。息も一瞬止まった。確かに目の前の少女からは目を離さなかった。
ケンは絶句した。息も一瞬止まった。確かに目の前の少女からは目を離さなかった。
「どういうことか、おわかりになって?」
微笑みを浮かべリリは足を戻した。
ケンの表情から余裕は消えた。
「ああ。ちょっとだけマジになったかな」
「ああ。ちょっとだけマジになったかな」
「楽しんでいただけたら幸いですわ」
そういってリリは跳んだ。富豪VS令嬢がここに開戦した。
ケンが真っ先に理解したのはスピードだった。リリの足さばきと身のこなし。ふわりと攻撃を避けてはしなやかに足がケンに向かって放たれる。ガードすることでもわずかに響くほどには重い蹴り。それでいて隙が生まれない。かつて闘った春麗の足技をこの歳で既に凌駕していた。
「おじょうちゃん、やるね!」
内心焦りを抱いたが、ケンはこの逆境の予兆にこそ燃える男だった。
「光栄ですわ」
余裕の笑みをこぼし、リリは足をしならせる。そして放たれる狙撃のような正確な一撃。
ケンの膝を揺さぶるローキック。
「ぐっ」
痛みよりもバランスを奪うことが危険だった。耐えきれず姿勢を崩すケン。
「召し上がれ♪」
「おじょうちゃん、やるね!」
内心焦りを抱いたが、ケンはこの逆境の予兆にこそ燃える男だった。
「光栄ですわ」
余裕の笑みをこぼし、リリは足をしならせる。そして放たれる狙撃のような正確な一撃。
ケンの膝を揺さぶるローキック。
「ぐっ」
痛みよりもバランスを奪うことが危険だった。耐えきれず姿勢を崩すケン。
「召し上がれ♪」
もう片方の足が突き上げられ、ケンの鳩尾に食い込む。メリメリと音を立て、しなやかな弾丸がケンに打ちこまれた。
「ふぐっ・・・う」
正確に貫かれた一撃は巨漢の拳に殴られるというよりは、内部から破壊されるような陰湿な痛みを伴う。
「ふぐっ・・・う」
正確に貫かれた一撃は巨漢の拳に殴られるというよりは、内部から破壊されるような陰湿な痛みを伴う。
半歩下がり、接戦から抜け出す。超常的な力が関わらない、正統派の実力派。高飛車であるがその実力は本物だ。ケンは即座に理解した。
顎を指をあて、リリはくすくすと笑う。
「挨拶のつもりでしたが少々きつかったかしら?」
「挨拶のつもりでしたが少々きつかったかしら?」
挑発もあるが、ほとんどが天然の感想だ。リリにとってはささいな挨拶に過ぎない一撃だった。
「まさか!」
足を踏み込み、ケンは突っ込んでいった。勢いで押す。流麗な動きを豪快な動きを持って制す。そう判断しての突撃だった。
足を踏み込み、ケンは突っ込んでいった。勢いで押す。流麗な動きを豪快な動きを持って制す。そう判断しての突撃だった。
「単純ですのね...」
あまりにチープな戦法に少々あきれたのか、リリに失望の色が見えた。次の瞬間、数発の蹴りがケンを正面から襲う。ガードするも一撃一撃の重みが重なることで、ケンは失速を余儀なくされる。
「っ重いっ・・・そして、速ぇっ」
「っ重いっ・・・そして、速ぇっ」
蹴り、蹴り、蹴り。蹴りの雨。手を使わずしてこの圧倒。リリにとって相手の肉を打つことは快感であり、足をもって足手を封じ込めることは絶対的優位の象徴であり更に快感であった。
「これはいかが?」
くるりと身をよじり、遠心力が加わったソバット。ケンのわき腹を容赦なく抉る。
「ぐぶっ」
胃液の逆流。踏みとどまり、腹に喝を入れ、騒ぎ立てる胃を鎮める。
「これはいかが?」
くるりと身をよじり、遠心力が加わったソバット。ケンのわき腹を容赦なく抉る。
「ぐぶっ」
胃液の逆流。踏みとどまり、腹に喝を入れ、騒ぎ立てる胃を鎮める。
「我慢がお好きなのね」
言うやいなや、叩きこまれる砲弾。腹筋を踏み荒らすかのごとく、腹に狙いを絞っていく。
そしてケンがガードを下げ、腹へ集中したその刹那。
言うやいなや、叩きこまれる砲弾。腹筋を踏み荒らすかのごとく、腹に狙いを絞っていく。
そしてケンがガードを下げ、腹へ集中したその刹那。
「本当に単純ですこと・・・」
ケンの視界に白い円が見えた。その瞬間、視界は黒に染まる。
顔面に叩きこまれるリリの足。ぶじゅる、と鼻の中で何かが混ざり合い、はじける音がする。
「ぶはぁっ!」
たまらず吹き飛ばされるケン。リリは相変わらず腕を組んだままで、足をしなやかに振っては、余裕を見せたままだ。
すぐ横で圧倒的な闘いを見せつけられているリュウは開いた口がふさがらないといったところだった。飛鳥は退屈な試合だと言わんばかりにあくびをしている。
「もー、はよ終わらせたげーや」
ケンの視界に白い円が見えた。その瞬間、視界は黒に染まる。
顔面に叩きこまれるリリの足。ぶじゅる、と鼻の中で何かが混ざり合い、はじける音がする。
「ぶはぁっ!」
たまらず吹き飛ばされるケン。リリは相変わらず腕を組んだままで、足をしなやかに振っては、余裕を見せたままだ。
すぐ横で圧倒的な闘いを見せつけられているリュウは開いた口がふさがらないといったところだった。飛鳥は退屈な試合だと言わんばかりにあくびをしている。
「もー、はよ終わらせたげーや」
「世界的な強者を玩具にする・・・こんな経験が他にあって?まだまだ遊ばせていただきますわ」
リリが軽く跳んだかと思うと、蹴りの雨がケンの顔から膝まで満遍なく襲った。
「あ、あ、あがあああっ!!!」
サンドバッグと化すことを拒み、タックルを試みるケン。
しかし頬骨を抉る蹴りでその猛進はすぐさま阻まれた。無様に倒れ込み、歯と血を地面に垂らす。
すぐ目の前にまでリリは歩み寄っていた。膝に手を置き、子犬に話しかけるかのように中腰になり、男を見下ろす。リリの恍惚の一時だった。相手が強ければ強いほど、それは性的な快感に結び付く。
「う、ぐ、」
立ちあがろうにも立ち上がれない。今立てばあの雨にさらされる。ケンの体には恐怖が染み込んでいた。
「まだまだ踊っていただかないと・・・」
サンドバッグと化すことを拒み、タックルを試みるケン。
しかし頬骨を抉る蹴りでその猛進はすぐさま阻まれた。無様に倒れ込み、歯と血を地面に垂らす。
すぐ目の前にまでリリは歩み寄っていた。膝に手を置き、子犬に話しかけるかのように中腰になり、男を見下ろす。リリの恍惚の一時だった。相手が強ければ強いほど、それは性的な快感に結び付く。
「う、ぐ、」
立ちあがろうにも立ち上がれない。今立てばあの雨にさらされる。ケンの体には恐怖が染み込んでいた。
「まだまだ踊っていただかないと・・・」
ケンの顎を蹴りあげ、無理矢理起こす。そして倒れることを許さぬ蹴りの舞踏が始まり、ケンの肉体に痛みの刻印が彫られていく。鈍いへこみ、それがリリの蹴りの紋章だった。
「あ・・・ひぃ・・・が・・・」
膝から崩れ落ちるところにリリの膝が腹に差し込まれる。
ずむぅっ・・・
「あ・・・ひぃ・・・が・・・」
膝から崩れ落ちるところにリリの膝が腹に差し込まれる。
ずむぅっ・・・
鈍い音にケンの胃はついに服従した。
逆流する胃液は鼻と口から溢れ、痙攣をも誘発した。
逆流する胃液は鼻と口から溢れ、痙攣をも誘発した。
「あははははははははっ!!!」
リリの高笑いと共に振り下ろされる死神の鎌。ケンの鳩尾を貫き、そのまま地面へと打ちつける。さながら杭のような働きをしなやかな脚が見せる。
メキメキと音を立て、地面へと沈んでいくケンの体。
リリの高笑いと共に振り下ろされる死神の鎌。ケンの鳩尾を貫き、そのまま地面へと打ちつける。さながら杭のような働きをしなやかな脚が見せる。
メキメキと音を立て、地面へと沈んでいくケンの体。
「ご覧になって?感じて?これが現実ですわ。先ほどまで鼻で笑っていたあなたは今、このように汗もかかぬワタクシに封殺されていますの」
ケンの鳩尾の上にリリの両足が差しこまれる。腰に手を当て、顔面が変形した世界的な格闘家を見下す。また一つ、自分が人の上に立った。リリの支配欲がここでまた満たされた。
「これ以上のイジメはみっともないから切り上げさせていただきますわ。では、おやすみなさい」
両足に力を込め、鳩尾を破壊しつつ高く跳び上がる。足が鳩尾から抜かれた時、胃液がごぽりと音を立て、溢れだしたが、流れ出る先の鼻と口は顔面ごとリリの足でふさがれた。流麗なフットスタンプがケンの顔面を襲ったのだ。ぐしゃりと音を立て、ケンの顔は地面数センチ深く沈んだ。海老反りになり、電気が流れたかのように痙攣するケンの肉体。そこにはもう生気はなかった。
小刻みに震える以外はケンは死んだも同然だった。
両足に力を込め、鳩尾を破壊しつつ高く跳び上がる。足が鳩尾から抜かれた時、胃液がごぽりと音を立て、溢れだしたが、流れ出る先の鼻と口は顔面ごとリリの足でふさがれた。流麗なフットスタンプがケンの顔面を襲ったのだ。ぐしゃりと音を立て、ケンの顔は地面数センチ深く沈んだ。海老反りになり、電気が流れたかのように痙攣するケンの肉体。そこにはもう生気はなかった。
小刻みに震える以外はケンは死んだも同然だった。
「つまらなかったのは本音ですが、まあ良しとしましょうか」
顎に指をあて、自分を納得させるリリ。
「さ、次は風間飛鳥。あなたの番ですわ」
「さ、次は風間飛鳥。あなたの番ですわ」
リュウと飛鳥。重く、静かな拳を持つ二人の闘いが始まる。