現代4コマ(げんだいよんこま)は、従来の4コマ漫画の文法にとらわれず、4つの枠=「4コマ」という形式自体を素材とし、現代アート的・コンセプチュアルな表現へと再構築した新しい表現ジャンルである。2023年にいととと(@itototo1010)によって提唱され、X(旧Twitter)を主な舞台としてインターネット上で発展した。
単なる漫画ジャンルの拡張ではなく、「4コマ」という形式そのものにメタ的・構造的な意識を向け、ミニマルアート、詩、視覚芸術、記号論などと交差する点において、美術・サブカルチャー・インターネット美学を横断する新たなカルチャー現象として注目されている。
概要
現代4コマは、4コマ漫画の枠組みを再解釈することから始まる。伝統的な4コマ漫画においては、キャラクターが登場し、物語が起承転結の構造で語られるのが通例である。しかし現代4コマは、登場人物も物語も必須ではなく、そもそも漫画的である必要もない。コマの数やレイアウト、余白、記号、図像、テキスト、色面などあらゆる要素を自由に扱い、「これは4コマだ」と名乗ることで成立する、極めて観念的・実験的な表現形式となっている。
作品の中には、まったく同じ空白が4つ並ぶだけのものや、コマ枠を活かして心電図を表現し、時間の流れを可視化したもの、街中の4つ並んだポスターや側溝のフタを「4コマ」として提示する写真作品なども含まれる。これらはしばしば「これ、4コマか?」と見る者に問いを投げかけることから、現代4コマ公式アカウントのキャッチコピーも同様の表現を採用している。
歴史と展開
現代4コマは、2023年に創始者・いとととによって提唱された概念である。SNS上での投稿活動を起点に、次第にフォロワーや参加者が増加し、ジャンルとしての自律的発展を見せるようになった。2024年には公立美術館や大学祭での展示も行われ、インターネット発のムーブメントがリアルな文化・芸術空間へと進出する一例としても注目を集めた。
この現代4コマを契機として、単なるジャンルを超えた一連の創作活動や思想群を総称する言葉として「Nカルチャー」という概念が提唱された。この名称は、現代4コマ公式Xアカウント運営のリーダーである人生(@unagi_mp4)によって名付けられたもので、「New(新しい)」「Next(次の)」「Net(インターネット)」など、複数の意味が重ねられている。
また、いとととはNカルチャーについて「現代4コマを始めとするNカルチャーは、根本的な創作の精神を育むためのものではないかと考えている」と語っている。その根底には、「自由に創作していいという精神」「一見よく分からないものを、自分の視点で楽しむ姿勢」「他者の評価に縛られず、お気に入りを見つける感覚」を大切にするという思想がある。Nカルチャーは、こうした創作に向き合う姿勢を育てる場として機能しているとされる。
SNSと創作戦略
現代4コマは、SNS時代における創作戦略の新モデルともされる。
フォロワー数やバズに依存せず、「少数でも熱量の高い参加者が多数の作品を生み出すことでジャンルを形成する」という構造を持ち、実際にいとととの呼びかけにより開催されたグループ展などもその実例である。
フォロワー数やバズに依存せず、「少数でも熱量の高い参加者が多数の作品を生み出すことでジャンルを形成する」という構造を持ち、実際にいとととの呼びかけにより開催されたグループ展などもその実例である。
主なイベント・展示
現代4コマはオンラインのみならず、以下のようにリアルな展示・イベントでも展開されている。
- いとととの現代4コマ展(2023年、東京)
提唱者・いとととによる初個展。
- 現代4コマ展in湘南(2023年、東海大学)
学生主催による学園祭展示。
- 現代4コマ空間(2024年、清須市はるひ美術館)
現代4コマが公立美術館に展示された初の例。
- 現代4コマオールスター展2024(2024年、原宿)
20名以上の作家による合同展。
- 東京大学現代4コマ研究会による展示・頒布(2024年~)
大学公認のサークルによる同人誌・展示活動。
- 繭玉4コマ (2025年、東京)
Fou_主催の謎解きイベント
これらの活動は単なる展示にとどまらず、来場者による創作体験や即売・配布による読者参加型の展開も含まれ、現代4コマが創作・批評・共有を同時に行う文化装置として機能していることを示している。
表現の特徴
非物語性・構造主義的表現
現代4コマでは、物語的文脈を排し、構造や配置、視覚的連続性そのものを表現の中心に据える作品が多い。例えば、コマの縦横比を伸縮させて音楽のリズムを視覚化した『ベートーヴェンの4コマ』や、心電図を通じて生と死を描く『心電図』などが代表的である。
概念芸術との接続
「これは4コマである」と提示すること自体がコンセプトになる作品も多く、これはマルセル・デュシャンの「泉」に通じる姿勢である。実際に、4つ並んだポスターや側溝のフタの写真を「4コマ」として紹介する作品群は、既製物をアートと呼ぶレディメイド的アプローチとも共振している。
ミニマリズムと空白主義
コマの中身を描かない、あるいは同一の要素を反復することで意味や差異を浮かび上がらせるミニマル表現も広く見られる。カラーチャートを使った4コマや、タイトルだけで意味が生まれる空白作品などがそれにあたる。
音楽的表現との融合
現代4コマは、音楽表現との融合を積極的に行っており、いくつかのサブジャンルが生まれている:
音を取り入れた4コマ作品。
音を直接出すのではなく、視覚情報によって音を感じさせるという、現代音楽的な実験ジャンル。
網膜音楽のボーカロイド版。ボカロ曲を視覚のみで想起させる手法。
このジャンルは、従来の「音楽とは何か?」という問いに対する視覚的な挑戦でもあり、視覚と聴覚を融合させた新しい表現領域を切り拓いている。
タイポグラフィ・記号・詩性
美学的・文化的意義
現代4コマは、インターネット美学(ネットエスティティクス)と強く結びついている。特にVaporwaveやDreamcoreといったインターネット上で育まれた審美的ムーブメントと同様、既存のフォーマットを再利用・再配置し、新たな感覚・違和感・郷愁を引き起こす点で共通している。
4コマ漫画という大衆文化の最小単位を、ポストインターネット的視点で再構築する現代4コマは、単なるジャンルではなく、メディアアートの最前線であり、批評とユーモアが混在する表現文化としての広がりを見せている。
こうした美学的な実験にとどまらず、現代4コマを核とする創作活動は、Nカルチャーと呼ばれる新たな文化潮流としても位置づけられている。これはインターネット発の自由でボーダーレスな表現行為を受け入れる場として機能し、個人の感覚や好奇心を軸とした創作姿勢を育む文化的環境そのものを意味している。
批評とコミュニティ
現代4コマは一過性のバズではなく、批評文化とコミュニティが育つ場でもある。フリーペーパー『現四通信』では、毎月選出された作品の批評や新たな概念の紹介が行われており、理論的にも支持される土壌が形成されている。
また、東京大学現代4コマ研究会や現代4コマ公式アカウントによる運営体制が確立しており、X上の投稿企画やコンテスト、展示イベントを通じて活発な創作の連鎖が続いている。
メディアと関連団体
現代4コマは、その柔軟な構造と拡張性により、さまざまな分野での展開が可能な表現フォーマットとして、多くの創作者による独立プロジェクトや団体を生み出してきた。以下はその主な例である。
- 現代4コマ(@gendai4koma)
現代4コマ公式X(旧Twitter)アカウント。日々の投稿作品紹介をはじめ、展示情報の発信やジャンルの拡張活動など、中核的存在として機能している。
- 現四通信
フリーペーパー形式で発行される批評・特集誌。毎号、現代4コマに関する作品レビュー、概念紹介、論考などを掲載し、批評文化の醸成を担っている。
- 東京大学現代4コマ研究会
学内公認サークル。大学祭での展示や冊子頒布などを通じて、現代4コマの学術的・実験的な側面を追求している。
- Fou_
謎解き団体。現代4コマと連携し、「繭玉4コマ」などジャンル横断的なイベントを主催している。
- 朝までそれ4コマ
ユーザー投稿を中心としたオープン参加型アカウント。ハッシュタグを通じた企画開催や、自由な実験的企画を行っている。
- COMA TAXI
YouTubeで公開されているNカルチャー関係者によるトーク番組。
表現の拡張性と影響力
現代4コマは、視覚芸術、ポップカルチャー、メディアアート、音楽、ゲーム、謎解き、アンビグラムなど、ジャンルやメディアを問わず幅広い領域へと拡張可能なプラットフォームとして機能しており、実際に参加者がそれぞれの関心や得意分野に基づいて、独自のメディア展開や企画立案を行っている。
参加者は、自身の関心領域に応じて、独自のメディア展開やプロジェクト立案を行っており、個人または小規模なチームによる活動が連鎖的に誕生している。このように現代4コマは、一つの中心から無数の方向へと派生していく分散的で有機的な創造エコシステムを形成している。
こうした性質により、現代4コマはジャンルという枠を超え、現代インターネット時代における創造のハブとして、持続的な拡張と影響を生み出している。
特に、アマチュアとプロフェッショナルの区別を問わず、多様な創作者が参加可能である点、SNSでの共有を前提とした再帰的な性質、そしてユーモアと批評が共存するスタンスは、ポストインターネット世代の新たな芸術言語といえるだろう。
外部リンク
現代4コマ公式X(@gendai4koma)
現四通信公式X(@gen4_tsushin)
現四通信公式X(@gen4_tsushin)
- 主な作家一覧
- 現代4コマ - ニコニコ大百科
- 4つのコマで大喜利だ!? 「現代4コマ」作品を分類しつつ紹介する試み - 4コママンガのススメWeb
- 現代4コマという新しいジャンルについて - note
- 【いととと個展】現代4コマ展 - 美術紫水
- 現代4コマ展 - 視力