水田わさび

登録日:2025/04/15 Tue 14:03:00
更新日:2025/04/28 Mon 10:10:14
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水田 わさび(みずた - 、1974年8月4日 - )は、日本の声優、舞台女優。
劇団員時代は劇団すごろく、演劇部隊チャッターギャングに所属していた。ぷろだくしょんバオバブ、賢プロダクションを経て、現在は青二プロダクション所属。

アニメ『ドラえもん』(テレビ朝日系第2期)の主人公・ドラえもんの声優で広く知られている。




【来歴】

三重県名賀郡青山町(現・伊賀市)出身。

小学生の頃は『忍者ハットリくん』『オバケのQ太郎』などの藤子作品を中心としたアニメに親しんでいた。
そんな水田が声優を志したきっかけは、中学生時代に流行していた『ドラゴンボール』だった。
野沢雅子*1ら声優陣の演技に感銘を受け、さらに男の子ではなく女性が少年役を演じている事に驚いた水田は、この時期から「声優」という仕事の素晴らしさに魅了されていく。

声優を目指すことに対して両親から猛反発を受けたものの、横浜に住む叔父の力添えや「4年以内に開花しなければ諦める」という親との約束で上京を果たす。
高校卒業後、緒方賢一が当時座長を務めていた劇団すごろくに入団。

劇団ではしばらくの間は裏方を勤めていたが、やがて女優として舞台にも立つようになった。
そんな中、偶然彼女の舞台を見に来ていたたてかべ和也から声を掛けられ、アニメのオーディションを受けることに。
1996年公開の劇場アニメ『トイレの花子さん』の上岡山大介役で声優デビューを果たした。
この作品にオバケ大王役で出演していた師匠・緒方とも共演しており、初アフレコで緊張していた上に右も左もわからずにいた水田は、彼から声による演技などあらゆる指導を受けたとのこと。

以降、舞台役者から声優業へ活躍の場をシフトし、高音の声質を活かした様々なキャラクターを演じるようになる。


【ドラえもん】

2005年4月15日、アニメ『ドラえもん』のリニューアルにより、26年もの間主人公の3代目ドラえもんを演じてきた大山のぶ代からバトンを受け継いだ。以降、現在までドラえもんの声を演じている。

水田はテレビアニメ第2作第1期時代からドラえもんでモブ役を中心に何度か出演しており、この頃から大山らと同じ現場で収録していたため既に面識はあった。
ちなみに、当時新人だった水田にとって大御所の面々がメインを張るドラえもんのアフレコは緊張の連続であり、特にマイクの前で声を当てる大山の姿からは、『ドラえもん』という作品を牽引するリーダーさながらの底力を感じたと後年語っている。

◆オーディション

そんな中、ドラえもんのキャスト・スタッフ一新が決まる。オーディションに応募したきっかけは、かつて水田に声優デビューの機会を与えてくれた2代目ジャイアン役のたてかべの推薦だった。

ある時1人だけスタジオに呼ばれ、スタッフから『ドラえもん』の台本のコピーを渡されセリフを読むように言われ、この時は何かあった時の代役を決めるぐらいの感覚で読み上げていた。
このようにオーディション自体は抜き打ちのような形で行われ、後日それがドラえもん新声優の1次選考だったと知らされた時には「もっとちゃんとやれば良かった」と後悔したぐらいには本気で気が付かなかったという。

次のオーディションもスタッフの気配がなく、ボイスサンプルの収録よりも質素な雰囲気で執り行われていた。しかし、そのオーディションとはかけ離れた雰囲気が却って彼女にリラックスを与えたのか、大山演じるドラえもんのモノマネではなく、自分らしい声で演じることができたと述懐している。

その後もオーディションは何度か受けることになった。同じテレビ朝系アニメで準レギュラー出演していた『あたしンち』の収録日に、いつもより早めにスタジオ入りするよう連絡が入る。それがドラえもん役・2次オーディションの実施であった。

その後水田は着々と選考を勝ち進んでいく。
無事に最終オーディションまで終え待合室で待機していたところ、突然オーディション会場の扉が開き、「あなたです!」の第一声が。声の主は「ドラえもん新声優決定」の瞬間を報じるレポーターで、当日夕方のニュースでも放映された。
このテレビ局が用意したサプライズ演出にはさすがに驚きを隠せず、内定を知った時には感極まって号泣したとのこと。

ドラえもん役に決まった当初はそれほどのプレッシャーを感じていなかった。
しかしながら、内定直後は役作りや取材に備えて作品の世界を勉強せねばならなかった他、声優一新に伴うドラえもん関連の玩具・CMの新録など放送開始前から多忙を極めており、本人にとってはプレッシャーを感じる余裕すらなかったという認識の方が近いようだ。

◆「わさドラ」の開始

水田にとって「ドラえもん」という大役を受け継いだことの喜びは、そんな緊張や不安を退けてしまうほど大きいものだったことが窺える。
だが、その一方で彼女を苦しめたのは、新しい声に対する戸惑いや強い抵抗を感じた一部視聴者からの相次ぐバッシングだった。

大山版から大きく生まれ変わった「新しいドラえもん」に対する反響は、キャラクターデザインや作風、シナリオ等様々な要素の変化に対するものが主だったが、特に個々のキャラクターを印象付ける要の一つと言える「声」に対する意見は放送当初より多く挙がっていた。
晴れて国民的アニメの主演となった水田は、「番組の顔」としてキャスティングを取り巻く批評を集中的に受けるという苦しい境遇を味わうことになる。

水田の声質は低音のハスキーボイスだった先代である大山の声とは全く異なるハイトーンな声質で、長年大山版に馴染んでいた視聴者からすれば似ても似つかぬものであり、
放送当初は「声が違う」「似ていない」*2との意見が殺到。挙げ句の果てには藤子・F・不二雄の大ファンである水田の夫ですらが「お前には務まらない。やめるなら今だぞ」*3とアドバイスする始末だったという。

1年目は「クビになるのではないか?」という不安が常に付き纏い、「半年続けばいい。続かなければ初めから向いていなかったんだ」と自身に言い聞かせる状態にあったが、テレビアニメ第2作第2期の映画第1作『のび太の恐竜2006』の制作決定を耳にした時にはドラえもんを続けさせてもらえることに安堵と自信を与えられたという。その経験から、「最も思い出に残っているドラえもん映画」に「恐竜2006」を挙げている。

レギュラー共演者の大原めぐみ、かかずゆみ関智一木村昴とは、リニューアル当初から「たくさん叩かれるだろうけど、半年続けられるように頑張ろう」と互いに励まし合う関係だった。現場で散々泣かされるほどの苦渋を味わってきた経験から、5人は強い絆で結ばれているという。
表向きでは水田が5人を取りまとめる「座長」という扱いだが、5人の中で最も役者としてのキャリアが長い関から演技面で助言をもらってきたという理由で水田本人は「真の座長は関さん」と語っている。

テレビアニメ第2作第2期10周年にあたる2015年、『のび太の宇宙英雄記』公開を記念した「ドラえもん映画祭2015」のスペシャルトークに、のび太役の大原と共に出席。
長らく激しいバッシングに悩んでいたことを打ち明けたところ、サプライズゲストとして呼ばれた2代目のび太役の小原乃梨子、2代目静香役の野村道子から「新しいものをやる時は必ずそういった洗礼を受ける」「10年続けたら本物」など温かいエールを受けた。
「作品を次の世代へ残していけるあなたたちは素晴らしい力を持っている」という小原の励ましに水田と大原は涙。「皆さまに恥じないように頑張っていきたい」と気持ちを新たにした。
また、この日出席できなかった大山のぶ代からは手紙が寄せられ(小原が代読)、水田をはじめ現声優陣への労いの言葉が綴られていた。


2024年9月29日、3代目ドラえもん役の大山が死去。
水田は事務所を通じて
「大山さんがマイクの前に立つ背中を今でも思い出す」
「その背中に届くよう、これからものび太君たちと冒険していく」とコメントを発表。
後日、自身のブログで「彼女にしかわからない『ドラえもん』という役を演じる上での様々な気持ちや苦難、何よりも楽しさを日々感じている」「渡されたバトンをしっかりと次の世代へ渡せるよう、大山さんのように素敵な笑顔で楽しみたい」と改めて彼女への思いを綴った。

2025年4月15日、水田ら声優陣が演じる『ドラえもん』が放送20周年を迎えた。


【その他のエピソード】

  • 本名は非公表。「わさび」という芸名は、劇団すごろくの座長だった緒方賢一が名付けたもので、三重の実家の庭に自生していたワサビにちなんで命名された。緒方とは先述した水田デビュー作『トイレの花子さん』の他、現在も『忍たま乱太郎』や『あたしンち』などで共演する機会が多い。

  • 水田ら声優陣が演じるドラえもん(テレビアニメ第2作第2期)は、彼女の芸名「わさび」にちなんで「わさドラ」と呼ばれることが多い。当初はファンの間での通称だったが、現在はテレ朝サイドもこの名称を使用することがあり半ば公式化している。

  • 二児の母。自身のブログでは夫を「わさ夫さん」、長女を「子わさ」、次女を「わさ子」と呼んでいる。

  • 次女はドラえもんを演じ始めて3年後に誕生。入院時、陣痛でナースコールをした際には、苦しさからくる力んだ叫び声だったことも手伝って意図せず声や口調がドラえもん風になってしまい、ナースステーションにいた看護師一同を爆笑させてしまった。

  • 広島出身の父からの影響を受けたこともあり、広島東洋カープの大ファン。中高生時代はソフトボール部に所属していた。2015年・オールスターゲーム・第2戦ではスペシャルゲストとしてマツダスタジアムに招待され、国歌を独唱した。


【主な出演作品】

◆アニメ・ゲーム


◆吹き替え


◆ナレーション



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最終更新:2025年04月28日 10:10

*1 因みに、その野沢雅子氏もテレビアニメ第1作の第14話から2代目ドラえもんを演じている。

*2 一応ドラえもんはマンガのキャラなので「元の声」は存在しない上に大山のぶ代氏は3代目ドラえもんである。それに大山のぶ代版ドラえもんは26年間で声質も演技も別人の様に変化していったので、大山のぶ代版ドラえもん自身も初期と末期で声が似ていない。

*3 「ドラえもんを演じるだけの実力がない」と言っているわけではなく、国民的キャラクターであるドラえもんの声を務めるとなれば否が応でも世間の注目が集まり、特に大山ドラの声は長年親しまれてきたことから必ず違和感や拒否感を覚える人が出てきてあれこれ言われるから大変だぞ、という妻を慮った気持ちから出てきた言葉。