概要
戦闘に至るまでの背景
▲3329年前後の勢力図
絶望的な
アーズ国ではあるが、僅かながら希望を探すとすれば、4艦隊集結とはいえ、あまり戦力の空洞化を作るわけにはいかず、
ガザデルーや
ポルスは艦隊の半数を留守部隊として任地に残していること。
フレイミスト国軍は、
アトレティア国軍に鞍替えして間もなかった為、信頼されずに戦力に入れられず、また
ロザンド艦隊は出兵命令に対して、
セロナバルス国がいまだ落ち着いていない事を理由に出陣を拒否し、今回の
リゼルバ攻略において最高指揮官を預かった
ガザデルーが描いた本来の戦力より、現実は少なかったこと。そして、
リゼルバが自然の要害を最大限に利用した難攻不落の大要塞だということを、かつて支配していた
アトレティア国軍自身がよく知っているという点であった。
両軍の戦力
戦闘経緯
アトレティア国軍は、「数で劣る
アーズ国軍はリゼルバの要害に立てこもる」と考えていた。
リゼルバが難攻不落を誇ったのは、艦隊でも越せれない山脈や、守りやすい山岳地帯が何段階にも入り込み、自然の要塞となっていたためである。
その上中央部のリゼルバ要塞の付近には、完全とはいかないまでも、ある程度自給自足が可能な農耕可能地帯も存在し、長期戦にも構えることができる。
今回
アトレティア国軍が侵攻してくるルートとなる
リゼルバ北方地帯は、山岳地帯が多い入り組んだ地形となっていた。
アーズ国軍は、
サルファーと
サウラがそれぞれ少数の艦隊を預かり、この山岳地帯に艦を伏せさせていた。
そして、守りを固めているだろうと信じ込んでいる
ガザデルー艦隊、
ガジャ艦隊の通過を確認してから、一気に艦隊を上昇させ背後から一斉射を浴びせる。
アトレティア国軍にも名将は数多く存在し、決して
アーズ国をあまくみていた訳ではなく寧ろ警戒をしていたが、それでも大軍がもたらす安心感と、
サルファーが何度も作戦案に修正を重ねた上で発見した伏兵にもっとも適した地点が重なり、この奇襲成功へと結びつけた。
艦隊同士の戦いは、撃墜された艦が地上に落ちると敵味方関係なく地上部隊を巻き込む。そのため、艦隊は艦隊同士地上部隊とは離れた場所で戦うのが暗黙の了解となっていたが、まだ地上部隊を展開していないこの山岳地帯では、誰に遠慮することもなく
アーズ国軍奇襲艦隊は
アトレティア国艦隊を背後から打ち落とす。
この初戦の戦いにおいて、
アトレティア国軍は
ガジャ艦隊の旗艦
ローディに
サウラの突撃を許し、艦内の白兵戦によって
サウラが
ガジャに勝利、降伏を勧める
サウラの手を振り払って、
ガジャは旗艦
ローディから飛び降り戦死した。
この時、敵の艦に自分の艦を体当たりさせ、そのまま艦内に乗り込み白兵戦をするという、従来は考えられなかった戦法(空中で体当たりを仕掛けた時点で、多くの場合共に墜落する)を
サウラは生み出し、以後自分の得意戦法とした。
こうして、
ガジャ艦隊への奇襲は成功したが、
ガザデルー艦隊の数は多く、
サルファーの伏兵部隊は奇襲によりある程度の損害を与えたものの、
ガザデルーの旗艦にまでは届かず、反転を終えた
ガザデルー艦隊によって猛反撃を受ける。
サルファーは、目標が達成できなかった事から
ガザデルーとの戦いに固執せず、戦力を温存させるためすばやく撤退命令を下した。
しかし、相手は敵の総旗艦艦隊であり、逃げに徹してもその追撃はすさまじく、
サルファーの乗艦も撃墜され、
シャラの地上部隊が残敵掃討を行い、
サルファー自身も消息不明となり
アーズ国軍に衝撃が走った。
だが、決戦を前にいつまでも
サルファーの安否に関心を持ち続ける事はできず、両軍はにらみ合いとなり、軍議を重ねた結果、4日目に
アトレティア国軍地上部隊が本格的に
リゼルバへ進軍を開始し、両軍入り乱れての戦いがはじまる。
シゴラと
ガルはこの時はじめて刃を交え、以後ライバル関係となる。
そんな中、生死不明だった
サルファーが無事帰還、
アーズ国軍の士気は一気に上昇する。
戦いは数日にわたって続き、両軍共に牙を向き合った獣の様に血を流した。
ゲルジュは、かつての遺恨を晴らすべく
ジェルダーを討ち取るが、別の戦域では
ラシャが
マリミアに討ち取られる。
戦いの基本は、堅固な要害を要する
アーズ国軍が
アトレティア国軍を圧倒し損害を与えるが、それでも
アトレティア国軍の圧倒的兵力差を抑えきれることは出来ず、ある程度の損害を出したら陣地をひとつ後退させる。
これを各地で繰り返す事となる。
この篭城戦は実に6日間続き、
アトレティア国軍は徐々に
リゼルバ中央部へ進軍するが、損害も大きく、また陣地を後退させることで、
アーズ国軍は徐々に兵力が結集され、連絡路も密度を増していくという
リゼルバ要塞の長所を最大限に生かす。
戦いの中で何度も軍議が開かれ、そのたびに
アトレティア国軍、
アーズ国軍は共に作戦を微調整し、それに相手側はすばやく対応し、激戦の舞台を移していく。
その最中、
セルカティーナは自身の艦隊を別働隊として、背後に回りこませることを進言する。
この作戦は、
ガジャも進言していたが、序盤の奇襲によって
ガジャ自身が戦死したため実行されなかった。
ガザデルーは自分の派閥である
ガジャが戦功を上げる分には問題なかったが、
セルカティーナが
リゼルバ攻略の最大の功労者になることは不服であった為、理由をつけてこの作戦の実行を許可しなかった。
アスハは、命令違反を侵し、独断で艦隊を出撃させ
セルカティーナの作戦を実行しようとするが、少数ではどうすることもできず、
トウマの艦隊の防衛を突破できず、反撃を受けて次々と海へと墜ち、ついに力尽きた
アスハは、炎上していく艦と共にその身を海へと沈めていった。
もし、
セルカティーナの作戦を正式採用して実行していれば、
リゼルバは迂回部隊から受けた損害から戦線が崩れ、そこに呼応して一斉攻撃を仕掛けられ、やがて防衛陣が崩壊していたと推測する戦史家は多い。
だが、採用されなかった策に幻想を抱きたくなるのも人の性である。また、
ガザデルーが
セルカティーナに手柄を上げさせたくない為にこの策を却下したと言われているが、彼は実力第一世界である
アトレティア国軍で、
ジルダーに次ぐ地位を手に入れた非常に優れた将である。本当に彼の経験と勘が「
セルカティーナの策に成功なし」とみて却下した可能性も否定できず、結局は戦いの結果に変化がなかったのではと指摘する者も少なくはない。
そして、歴史にもしもは存在せず、現実には、
セルカティーナが幼い頃から行動を共にし、姉の様に思っていた一人の将軍が戦場に散ったという事実のみが残った。
篭城軍と攻撃軍、双方共に安眠とは無縁な12日目を向かえ、戦局も一進一退、というより
アトレティアの一進と
アーズの一退が繰り返されていた。
もっとも、それは最初から予定されていた流れなので、
アーズ国軍にそれほどの悲壮感は漂っていなかった。
また、彼らの防壁陣が一箇所でも崩れれば、そこから全てが崩壊する危険もあり、悲壮感はなくとも緊張感は限りなく高く、極限状態から来る連帯感により、士気は
アーズ国軍の方が若干高かった。
だからといって
アトレティア軍の士気が低いわけでもなく、上は
アトレティア国軍に取り入り地位すら狙う将軍から下は恩賞と狙う兵卒まで、自らの立場に見合った「戦後手に入るもの」に野心を抱いて、この戦いに挑んでいた。
アトレティア軍は、中央要塞を内部から破壊しようとする工作部隊を次々と送り出すが、
アーズ国軍はそれらを撃退しつつ、最前線での戦いにも奔走させられていた。
そんな中、
サウラは
アリンの艦を借りると、自らが編み出した戦法を駆使して、それぞれの分隊の指揮をとっている艦に艦をぶつけて乗り込み、白兵戦で次々と撃墜していく。
戦術というより、殴りこみに近い無謀で無茶な突撃の繰り返しであったが、彼個人の突出した格闘能力と、その格闘戦で手に入れた
サウラ独特の能力、「進むか退くかを動物的勘で的確に読み取る天性の判断力」によりこれをかろうじて成功させ、ついに
セルカティーナの艦にも乗り込み、両者は激しい一騎討ちを繰り広げる。
各地で因縁を含んだ激戦が続くリゼルバの戦いは、膠着状態となったまま15日目も夕日が沈もうとしていた。
だが、突如
ガザデルーが全軍に撤退命令を伝令、全軍は決着がつく寸前に納得のいかないまま引き上げることとなった。
戦いの結末
リゼルバの戦いは、誰もが思わなかった形で終結した。
この作戦の総指揮官であった
ガザデルーが、突如全軍に撤退命令を下したのだ。
アーズ国軍は
アトレティア国軍を追撃しなかった。というより、
アーズ国軍にしても予期せぬ出来事であり、篭城軍を誘い出すだけの罠と警戒して動かなかったのだが、実際そんな見え透いた罠を実行するとも思えず、相手の真意が掴めずにいるうちに撤退を許した形となる。
実際、
アトレティア国軍の損害は大きかったが、戦いはまだどちらが勝つか全く予測がつかないほど拮抗した状態であり、
リゼルバ攻略は不可能と判断して全軍撤退を命令する段階ではなかった。
にも関わらず突如として発せられた撤退命令。その真意は、数日後になって明らかにされることとなる。
ガザデルーにとっては、内乱が起きてしまえば、陥落させたところで防衛に兵力を割かねばならず、維持の大変な
リゼルバをこのまま攻略するより、まずは
アトレティア内乱を制して権力を手に入れることのほうが魅力的に感じたのである。
最終更新:2024年07月02日 14:34