SCP-3519

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&font(#6495ED){登録日}: 2017/07/11 Thu 22:40:24 &font(#6495ED){更新日}:&update(format=Y/m/d D H:i:s) &new3(time=24,show=NEW!,color=red) &font(#6495ED){所要時間}:約 11 分で読めます ---- &link_anchor(メニュー){▽}タグ一覧 &tags() ---- #center(){&bold(){疑う者のいない嘘こそが一番の真実である。}} SCP-3519はシェアード・ワールド『[[SCP Foundation]]』に登場する[[オブジェクト>オブジェクト(SCP Foundation)]] (SCiP) 。 [[オブジェクトクラス>オブジェクトクラス(SCP Foundation)]]は&font(#f00,b){Keter}。 *特別収容プロトコル 先に言っておくが、財団はコイツを収容することはついに出来ず仕舞いだった。 [[SCP-8900-EX]](青い、青い空)と似たようなケースだが、確認が出来ていないためKeterのままになっている。しかし、実際には既にNeutralizedとなっているのだろう、と推測されている。 それはなぜか? 特別収容プロトコルの一部を抜粋する。 >&bold(){SCP-3519への感受性を有する人物が生き残っていないことから、これ以上の収容は必要とされません。感染は無力化したと見做されます。} そう、&bold(){感染した・感染しうる人間が&font(#f00){全滅}してしまったのだ。} 青い、青い空よりもなお悪い、「止められなかった[[XK-クラスシナリオ>K-クラスシナリオ(SCP Foundation)]]」である。 *概要 こんな大惨事を引き起こしたSCP-3519が何かというと、印刷物、視覚・聴覚の各メディアの複数の媒介によって感染する致死性の[[ミーム>ミーム(SCP Foundation)]]災害である。 ミームの内容は、 -&u(){「2019年3月5日に世界の終わりが来る」} -&u(){&bold(){「それが訪れる前に[[自殺]]するのが望ましい結果である」}} というものだが、これの強制力が尋常ではなく強い。 そしてその感染条件も非常にゆるく、その情報媒体が「差し迫った終末論を報じている」、これだけである。 これに曝露すると、口頭による伝達、メディアによる認識、いずれの場合でも証拠を必要とせず硬く信じ込み、積極的に受け入れることになる。 ただし、具体的にどうやって世界が終わるのか、という部分は曝露者によってまちまちであり、「救世主の出現によるアセンション」「天文学的事象による破滅」「自然の壊滅による滅亡」「技術的な特異点の発生」「現実不全による認識崩壊」など様々である。 こんなミームが出てきた以上、財団はK-クラスシナリオの発生を疑った。 ところが、該当日時にK-クラスシナリオが実現する可能性を計算したところ、弾きだされた数字は0.015%。 財団は「2019年3月5日に世界の終わりが来る」というのはありえないと判断したと言っていいだろう。 …そんな真っ当な思考で静まらないのが終末論でありSCPであり、だからこそKeterなわけだが。 曝露者は初期感染の段階で「天啓を受けた」ことを主張する、「千年王国説を信じ始める」、自殺念慮を見せ始めるなどの反応を見せる。 そのいずれのケースにおいても、最終的には&bold(){「自殺するのがもっとも有効であり、望ましい手段なのだ」}と確信して、実行する。 相当数の症例においてこれは発生しているが、曝露から自殺に至るまでの期間は統計が取れておらず不明。 しかし、観測された限りでは40日以上生存した事例は皆無らしい。 *事例 実際に感染媒介となったメディアの引用がある。 まずは2018年12月のトーク番組における終末予言の話題。 >&bold(){コンウェイ}:ホワイトハウスとしては、これは非常に信頼性のあるものと考えています。&u(){信用できる情報源が複数、世界が3月5日に終わりを迎えるかもしれないと語っています。} > >&bold(){カレラ大司教}:我々は最近、アステカ司祭の秘密結社が現代社会においてマヤの予言に取り組み続けていたという証拠を明らかにしました。それらの予言は、終末を来年の3月5日に再計算したという事でした。我々はこれが聖ヨハネの予言と一致しているのではないかと感じているのです。 > >&bold(){コンウェイ}:そうです、教会も我々の情報ソースの一つでした。[[テノチティトラン亡命政府>SCP-2155]]の特使も同様でして、貴方も今朝のTwitterでご覧になったように、大統領と連絡を取り合っています。 ここでコンウェイ氏が提示したのは、その日の大統領のツイート「アステカの特使から3/5に世界が終わると聞かされた。何と怖ろしい!」という内容。 しれっと飛び出した「テノチティトラン亡命政府」というワードはSCP-2155「アステカ亡命政府」((SCP-2155はミーム的認識災害。感染したものは「1500年代、スペインに侵略されたアステカ帝国の生き残りがまだ生き残っていて、ゲリラ戦を繰り広げている」と思い込み信奉するようになる。そこから情報発信することで影響が拡大していく。&br()影響者の書いた文書によるとヨーロッパの国々や果ては財団まで『侵略者』と見なしているらしい。))によるもの。 ちなみに氏はどうやらSCP-2155にも曝露していた模様。 次は、2019年2月12日の日付が記された、自殺パーティへの招待状。 >地球最後のバレンタインを一緒に祝おう。ホームバーと生演奏アリ! 仮装してきてもいいです。飲み食いしたい物は何でも持って来て。コンドームが嫌なら捨てちゃえ、これでお終いなんだから、ハハッ。バレンタインの後にチェックアウト予定なら、零時には帰る事を考えておいてね。午前1時になったら高圧電線を落としてヴァルハラ逝きの電撃をブチかますのでプールに集合だ。それとウチは30階建てだからクスリがお好みなら寝る場所は沢山あるよ(真夜中過ぎまで待ってネ)。 死ぬ前の乱痴気騒ぎということのようだが、財団世界でもこういうのは同じであるようだ。 最後は、同じ年の2月20日づけのEメール。 >現実世界がシミュレーションであるというニック・ボストロムの仮説について話した時のことを覚えているかい? 仮に、生命がシミュレーションであるという彼の主張の確率が1であるとしよう。たった今この世界で何が起こっているかを見てほしい、5日を過ぎても生き延び続ける確率は間違いなく1なんかじゃない、急速に0へと減少している。仮に生き延びたとしても、その先にどんな人生が待っているって言うんだ? > >世界中の誰もが世界は全く同じ日に終わると、そして生存本能その他全てに反して、その日が来る前に自殺しなければならないと決断する確率はどうだろう? ありそうにないことだが、それは実際に起きている。 > >スイッチをオフにされる直前のシミュレーションは、内側からはどんな風に見えるだろうか? > >僕らが新しいプログラムに移行するとき、外の彼らは僕らをオフラインにする必要があるのかもしれない。 > >君を愛している、リンナ。すぐにまた会おう。 このように、感染媒介は報道だけではなく、終末論に関する全ての情報である。 つまり、終末論についての話題であるならば、メディアによる報道、インターネット上のツイートや掲示板の荒らし行為、動画のコメント、手紙、日常の会話、&bold(){その全てがSCP-3519の感染媒介となるのである。} さらに、終末論=世界が終わるということを信じる余地を持っているほどに抵抗力は弱くなり、その妥当性に対する信念により対策は取られなくなり、自殺者が増えるという事態は世界終末を想起させミームの伝播を引き起こす。 そんなもの、いくら財団でも収容できるはずがなかった。 そして、報告書の最後には補遺が存在する。 SCP-3519に対処した財団の、タイムラインである。 まずは最初、Xデーまで残り86日と迫った2018/12/05。 >MTF ψ-10によるメディアの定期監視が、ジョージア州ボガートから発信されているAMラジオ放送 “フィフティ・デイズ”に最初のSCP-3519実例を検知する。 >当初、これは一般的な黙示録の信念、並びに福音派の宗教放送における終末論的な予言との類似性によって無視された。 この時点では、単なる宗教的なプロパガンダの一種だと見られていたようだ。ちなみにこのラジオ番組、「第五教会」との関連性から、SCP-1425「星のシグナル」を発端とする対第五教会計画「オペレーション・スターゲイザー」のターゲットとして警戒されていた。 続けて、一気に飛んで2018/12/24。 >ボガートにあるアンドロメダ座教会の信徒17名が、フェノバルビタールの過剰摂取で死亡しているのが発見される。 ミーム感染によって自殺してしまったようだ。 Xデーまで、残り67日。 翌日、2018/12/25。 >ボガートでの死者のニュース報道は、国際的なメディアを通じて取り上げられている。財団のミーム分析は、類似するカルト宗教団体の自殺に関する報告と比較して異常なほど同情的な報道に着目する。 この時点で財団は、この自殺騒ぎがある種のミーマチックエフェクトであると推論を立てたらしい。 しかし、このミームの感染媒体は終末論に関する話題そのもの。 であれば、それが国際的メディアで取り上げられたということは……。 この後、幾ばくかの事例報告を経て、2019/1/2。 >&U(){関連する自殺は&bold(){17ヶ国で2600人以上}に拡散している。}感染がSCP-3519に指定される。ワタナベ・ノリ博士が主任研究員に着任。 財団もいよいよこの騒ぎを無視できなくなり、このミーム感染にナンバーを振って収容に乗り出した。 翌日にはプロトコルが策定され、当初はこのようなものだった。 >機動部隊プサイ-10(“マズローの動機付け”)に、SCP-3519に感染した人口の特定任務が割り当てられます。特定された人口は機動部隊イータ-10(“シー・ノー・イーヴル”)および機動部隊イータ-11(“獰猛な獣たち”)によって確保されます。前記3つの機動部隊の全てにSCP-3519媒介メディアの確保・抑制任務が割り当てられます。 機動部隊を派遣して報道を押さえろ、というものである。 しかし、事態は悪化の一途をたどった。 2019/1/11。 >MTF η-10の日報がSCP-3519の兆候を示す。機動部隊司令部はMTF η-10の隊員らの任務を解き、Eクラス隔離下に置くよう指示した。 財団の一部隊が感染してしまったらしい。 さらに15日には、別の部隊の司令官から検疫が失敗に終わったという報告が入った。 財団が悪戦苦闘している間にもミーム感染は続き、2019/1/17にプロトコルが改定。 >機動部隊プサイ-10(“マズローの動機付け”)に、SCP-3519感染の拡散マッピング任務が割り当てられます。機動部隊ウプシロン-4(“シュガー・ピル”)は、最重要緊急案件として対抗ミーム治療の開発に取り組みます。対抗策が開発された場合は即時配備し、以下の優先順位で配布を行います。 > >1.MTF U-4の隊員 >2.重要ミーム学部門の職員 >3.O5評議会 >4.[[世界オカルト連合>世界オカルト連合(SCP Foundation)]] >5.世界保健機関(WHO) >6.残りの重要な財団職員 >7.一般人口 つまり、対抗策を立てるのが先決=出来ることが情報の把握以外にない、ということの裏返しである。 2019/1/17、この時点で自殺率は世界人口の1%に到達。普通に考えて危機的な事態だが、ミーム感染が広がり過ぎたために危機であるという認識が広まっていなかった。 さらに28日には自殺率が30%増加。多くの宗教の信者の間に亜種ミームの存在が確認されていた。 大抵の宗教は「死後救済」を唱えているわけだから、終末論との相性がいいのは当然と言えば当然である。 29日にはミーム部門から対抗ミームのプロトタイプが上げられ、対策は進んでいた。 ところが翌30日、時のローマ法王が自殺に対する教皇特免の付与を計画していたことが発覚。これは実行寸前に財団エージェントによって阻止され、プロトコルが二度目の改定。 >機動部隊プサイ-10(“マズローの動機付け”)に、SCP-3519感染の拡散マッピング任務が割り当てられます。機動部隊ウプシロン-4(“シュガー・ピル”)は、最重要緊急案件として対抗ミーム治療の開発に取り組みます。対抗策が開発された場合は即時配備し、以下の優先順位で配布を行います。 > >1.MTF U-4の隊員 >2.残りの重要な財団職員 >3.一般人口 &bold(){対抗ミームの配布対象からO5とミーム部門が消滅。} 財団もうダメだろコレ。 追い打ちをかけるように、感染者となった世界オカルト連合の工作員が、教皇特免の情報を報道陣にリークするという暴挙に出る。 これが引き金となったのか自殺率が一気に増加し、2月1日の時点で世界人口の2%に到達。 さらに、関連して子供の関わる殺人事件が多発。加えて大量死の影響により、公衆衛生とインフラに問題が出始め、6日の時点で1億人が疾病または必須サービスの欠如により死亡したことが確認された。 病気になっても怪我をしても病院が機能していない、介護が必要なのにスタッフが死んでいる。これではどうしようもない。はっきり言ってもはや社会が機能していない。 それでも財団は諦めず収容を試みていたが、世界中に広まったミーム、しかも自殺を誘発する問題児の収容は、繰り返すようだが不可能だった。SCP-8900-EXと異なり、記憶処理でどうにかなるレベルではない上にそれを実行する余裕もない。 何しろ、この時点で財団職員の1割が自殺してしまっていた。 SCP財団はオブジェクトと日々格闘しているわけだが、その中には将来的にどうあがいてもK-クラスシナリオを誘引するものがある。それの存在を知っているなら、「いつか来る終わり=終末論」への精神的防壁が薄いのは当然だった。 そして、特別収容プロトコルはまたも改定。 >機動部隊ウプシロン-4(“シュガー・ピル”)に、SCP-3519対抗ミームの継続的な緊急配備任務が割り当てられます。グリーフ・カウンセリングおよび自殺の予防を、全ての生き残っている財団職員が利用できる状態にしなければいけません。 ついに一般社会への対処を切り捨て、財団を組織として機能させることに余力が振り向けられることになった。 そうしている間にも社会の崩壊は続き、2月19日。 >1000 UTC頃、イスラエルとイランの間で限定的な核兵器の撃ち合いが勃発。加えてイスラエルの兵器は幾つかの他の湾岸諸国も標的とした。死者の総計は不明。国連の緊急措置によって世界的核戦争は回避され、GOC関係者は結果を確実にするために異常な強制手段を用いたと伝えられる。 &bold(){まさかの核戦争勃発。}世界全土への波及は世界オカルト連合の介入で食い止められたようだが、ここまで来るとだからどうしたというレベルである。 そして、20日。 >ワタナベ博士の死に続き、マリレッツ・カーク博士がSCP-3519プロジェクト主任に昇進する。 >対抗ミームは一体どこで何をしてるんだ? 研究主任だったワタナベ博士が曝露し、自殺してしまった。 報告書を執筆した職員は、「シュガー・ピル」が開発しているはずの対抗ミームに関する続報が上がってこないことにいら立っていたが、23日になってRAISAから返答。 >なんでも“現場で適切な媒介メディアに挿入することが不可能と判明”したそうだ。u-4は兵器化版のミームに取り掛かっているはずだが、私たちのメールに返事をよこさない。彼らには急いでもらわないと、適切な媒介メディアが残らなくなってしまう。 この対抗ミームは、SCP-3519の感染媒介である主要メディアに乗せて拡散することが予定されていたのだが、それが不可能であることが土壇場で判明するという最悪の事態が発生。 というか冷静に考えれば、土壇場でそれが判明するということ自体あり得ない。恐らくウプシロン-4もまた曝露したのだろう。 そして、収容プロトコルはまたしても改定された。 >グリーフ・カウンセリングおよび自殺の予防を、全ての生き残っている財団職員が利用できる状態にしなければいけません。自殺用カプセルを要請に応じて利用可能にします。可能であれば、全ての生存しているKeterクラス異常存在の無力化命令が実行に移されます。財団施設は、所属スタッフ数が30%を切った時点で、もしくは施設管理官の裁量で、施設放棄プロトコルに個々に従ってください。 SCP-3519の収容はついに放棄され、SCP財団はその機能を失いつつあった。 プロトコルにも、自殺防止と自殺手段の提供、という矛盾が生まれてきている。 2019/2/26。 >世界的メディアの大部分が沈黙している。財団サイトからの報告は矛盾している。エリア-055の職員数名は、自殺遺書でSCP-3519に感染してないと主張し、進行中のK-クラスシナリオを自己実現型の預言だとしている。収容下の知的[[アノマリー>オブジェクト(SCP Foundation)]]が何匹か自殺していると噂されている。SCP-3519割当の者は誰一人、これを確証・否定するクリアランスを持っていない。 世界人口の減少により、メディアを発信する人員もいなくなってしまったらしい。 おまけに、収容されていた知性のあるオブジェクトすらも曝露・自殺してしまったという。これらは全て噂だったが、恐らくはこの報告書を執筆した職員の属する、SCP-3519の収容担当チームはこれを確定することも、反論することも出来なかった。 全てが思い込み、と片づけるには状況が悪すぎた。実際に世界中で人が死んでいるのは確かなのだ。 さらに27日、状況の悪化が止められなくなったチームは隔離施設へ移動。 28日、次席研究員のローリー・ジョーンズ博士がSCP-3519の担当主任に昇進。マリレッツ博士も自殺してしまった。 3月1日には、主任になったばかりのジョーンズ博士がO5-6に昇進。……どうやらO5評議会もまともに機能していないようだ。 3月4日、Xデー前日。 >サイト-42のデサイ博士とのコンタクトが途絶。他には誰も応答しない。 &bold(){SCP財団、消滅。} もはや無意味となった特別収容プロトコルは、ここで最後の改定を受けた。 >SCP-3519への感受性を有する人物が生き残っていないことから、これ以上の収容は必要とされません。感染は無力化したと見做されます。世界的メディアのかなりの割合が感染を媒介すると思われ、その収容は現時点の財団に可能な域を越えています。しかしながら、感染した記録媒体の ― 全てではないにせよ ― 大部分は更なる伝達が起こる前に劣化してゆくことが予想されます。 確認が取れないためオブジェクトクラスはそのままだが、実質的にSCP-3519は無力化した。 もう、世界に人類はいない。次の知性が発生する前に、感染したメディアは全て朽ちていくことになる。 そして、Xデーとされる3月5日。 > タイムラインには何も書かれていない。 ただ一言、Xデーの翌日である3月6日。メッセージはただ一言。 >&bold(){いい天気だ。} SCP-3519は、「3月5日に世界が終わるから、その前に自殺しよう」というミームである。 裏を返せば、3月5日を何事もなく生き延びれば、その時点でこのミームは無力化される。特定の日付を過ぎれば、終末論はただの妄想に変わるからだ。 ローリー・ジョーンズ博士は生き残ったのだろう。 ―――博士は、これからどうするのだろうか? 財団も、[[要注意団体>要注意団体(SCP Foundation)]]も、一般社会すら消えたこの世界で。 それは、誰も知らない。ただ一つ、わかっていることがある。 この先に待っているのは……。 #center(){&sizex(7){&bold(){SCP-3519}}} #center(){&sizex(7){&bold(){&ruby(静かなる日々){These Quiet Days}}}} ―――生きていくのだろう。その命が終わるまで。 **関連オブジェクト ・SCP-3445「墓石は知っている」 オブジェクトクラスはSafeを経てUncontained(未収容)。 ピーク共同墓地にある大きな墓石で、十字架の交差部分に円をあしらっている。この円の部分で作られた開口部4つのうち、いずれかにお金を置くと、同じところに直近の死亡事例が「終焉の理由」「演出」「講評」の三項目で綴られたメモが出現する。 順番に、その事例における死亡理由の比喩、追悼または葬儀の比喩、関連する死者増加に関する社会的風潮について、となる。 2018/12/24以降これがガラリと変わり、「講評」部分が読者に関連するものになった。 そして2019/2/19のメッセージは、前二つの項目が空欄、「講評」は「ああ、もうすぐ廃業になりそうだよ」となっていた。 ちなみにこれに関する報告書の更新は、同年の3/13にO5-6が行っている。 勘付いただろうが、この記事はSCP-3519と同じヘッドカノンを共有しており、3519による自殺者増加により財団が機能停止、収容担当者がいなくなったのである。 ここでいうO5-6とはローリー・ジョーンズ博士である。現在彼は財団の自動化サーバーから情報を受け取り、全てのオブジェクトクラスを「未収容」、現状を「不明」と更新している。 ・[[SCP-2000-JP]]「伝書使」 オブジェクトクラスはAnomalous、Safeを経てThaumiel。 SCP-2000-JPはコンピュータ/ネットワーク上で活動する情報知性体で、セキュリティホールを「掘る」ことで突破する能力を有している。 ただし、携持した情報を「噛んでしまう」ことによる情報内容の破損が高頻度で発生するため、集められた情報および与えられた指示の遂行は信頼性に欠ける。 この記事に登場する五條研究員は偶然が重なり3月5日まで生き残ってしまった。 そこで、[[あるオブジェクト>SCP-2000]]を起動しようとするが、既に施設は封鎖されていて、プロトコルを発動できなくなっていた。 五條研究員は[[とある博士>クレフ博士(SCP Foundation)]]の助言を受けてAnomalous収容ユニットから引っ張り出した「伝書使」に財団最強の強度を誇るセキュリティーの突破を託し……。 //単独記事があるので、追記ついでにネタバレ部分を若干省略しました。 追記・修正は明日に希望を持ってお願いします。 ---- #right(){SCP-3519 - These Quiet Days by sirpudding http://www.scp-wiki.net/scp-3519 http://ja.scp-wiki.net/scp-3519 この項目の内容は『[[クリエイティブ・コモンズ 表示 - 継承3.0ライセンス>https://creativecommons.org/licenses/by-sa/3.0/deed.ja]]』に従います。 } #include(テンプレ2) #right(){この項目が面白かったなら……\ポチッと/ #vote3(time=600,100) } #include(テンプレ3) #openclose(show=▷ コメント欄){ #lsd() #comment_num2(num=30) }
&font(#6495ED){登録日}: 2017/07/11 Thu 22:40:24 &font(#6495ED){更新日}:&update(format=Y/m/d D H:i:s) &new3(time=24,show=NEW!,color=red) &font(#6495ED){所要時間}:約 11 分で読めます ---- &link_anchor(メニュー){▽}タグ一覧 &tags() ---- #center(){&bold(){疑う者のいない嘘こそが一番の真実である。}} SCP-3519はシェアード・ワールド『[[SCP Foundation]]』に登場する[[オブジェクト>オブジェクト(SCP Foundation)]] (SCiP) 。 [[オブジェクトクラス>オブジェクトクラス(SCP Foundation)]]は&font(#f00,b){Keter}。 *特別収容プロトコル 先に言っておくが、財団はコイツを収容することはついに出来ず仕舞いだった。 [[SCP-8900-EX]](青い、青い空)と似たようなケースだが、確認が出来ていないためKeterのままになっている。しかし、実際には既にNeutralizedとなっているのだろう、と推測されている。 それはなぜか? 特別収容プロトコルの一部を抜粋する。 >&bold(){SCP-3519への感受性を有する人物が生き残っていないことから、これ以上の収容は必要とされません。感染は無力化したと見做されます。} そう、&bold(){感染した・感染しうる人間が&font(#f00){全滅}してしまったのだ。} 青い、青い空よりもなお悪い、「止められなかった[[XK-クラスシナリオ>K-クラスシナリオ(SCP Foundation)]]」である。 *概要 こんな大惨事を引き起こしたSCP-3519が何かというと、印刷物、視覚・聴覚の各メディアの複数の媒介によって感染する致死性の[[ミーム>ミーム(SCP Foundation)]]災害である。 ミームの内容は、 -&u(){「2019年3月5日に世界の終わりが来る」} -&u(){&bold(){「それが訪れる前に[[自殺]]するのが望ましい結果である」}} というものだが、これの強制力が尋常ではなく強い。 そしてその感染条件も非常にゆるく、その情報媒体が「差し迫った終末論を報じている」、これだけである。 これに曝露すると、口頭による伝達、メディアによる認識、いずれの場合でも証拠を必要とせず硬く信じ込み、積極的に受け入れることになる。 ただし、具体的にどうやって世界が終わるのか、という部分は曝露者によってまちまちであり、「救世主の出現によるアセンション」「天文学的事象による破滅」「自然の壊滅による滅亡」「技術的な特異点の発生」「現実不全による認識崩壊」など様々である。 こんなミームが出てきた以上、財団はK-クラスシナリオの発生を疑った。 ところが、該当日時にK-クラスシナリオが実現する可能性を計算したところ、弾きだされた数字は0.015%。 財団は「2019年3月5日に世界の終わりが来る」というのはありえないと判断したと言っていいだろう。 …そんな真っ当な思考で静まらないのが終末論でありSCPであり、だからこそKeterなわけだが。 曝露者は初期感染の段階で「天啓を受けた」ことを主張する、「千年王国説を信じ始める」、自殺念慮を見せ始めるなどの反応を見せる。 そのいずれのケースにおいても、最終的には&bold(){「自殺するのがもっとも有効であり、望ましい手段なのだ」}と確信して、実行する。 相当数の症例においてこれは発生しているが、曝露から自殺に至るまでの期間は統計が取れておらず不明。 しかし、観測された限りでは40日以上生存した事例は皆無らしい。 *事例 実際に感染媒介となったメディアの引用がある。 まずは2018年12月のトーク番組における終末予言の話題。 >&bold(){コンウェイ}:ホワイトハウスとしては、これは非常に信頼性のあるものと考えています。&u(){信用できる情報源が複数、世界が3月5日に終わりを迎えるかもしれないと語っています。} > >&bold(){カレラ大司教}:我々は最近、アステカ司祭の秘密結社が現代社会においてマヤの予言に取り組み続けていたという証拠を明らかにしました。それらの予言は、終末を来年の3月5日に再計算したという事でした。我々はこれが聖ヨハネの予言と一致しているのではないかと感じているのです。 > >&bold(){コンウェイ}:そうです、教会も我々の情報ソースの一つでした。[[テノチティトラン亡命政府>SCP-2155]]の特使も同様でして、貴方も今朝のTwitterでご覧になったように、大統領と連絡を取り合っています。 ここでコンウェイ氏が提示したのは、その日の大統領のツイート「アステカの特使から3/5に世界が終わると聞かされた。何と怖ろしい!」という内容。 しれっと飛び出した「テノチティトラン亡命政府」というワードはSCP-2155「アステカ亡命政府」((SCP-2155はミーム的認識災害。感染したものは「1500年代、スペインに侵略されたアステカ帝国の生き残りがまだ生き残っていて、ゲリラ戦を繰り広げている」と思い込み信奉するようになる。そこから情報発信することで影響が拡大していく。&br()影響者の書いた文書によるとヨーロッパの国々や果ては財団まで『侵略者』と見なしているらしい。))によるもの。 ちなみに氏はどうやらSCP-2155にも曝露していた模様。 次は、2019年2月12日の日付が記された、自殺パーティへの招待状。 >地球最後のバレンタインを一緒に祝おう。ホームバーと生演奏アリ! 仮装してきてもいいです。飲み食いしたい物は何でも持って来て。コンドームが嫌なら捨てちゃえ、これでお終いなんだから、ハハッ。バレンタインの後にチェックアウト予定なら、零時には帰る事を考えておいてね。午前1時になったら高圧電線を落としてヴァルハラ逝きの電撃をブチかますのでプールに集合だ。それとウチは30階建てだからクスリがお好みなら寝る場所は沢山あるよ(真夜中過ぎまで待ってネ)。 死ぬ前の乱痴気騒ぎということのようだが、財団世界でもこういうのは同じであるようだ。 最後は、同じ年の2月20日づけのEメール。 >現実世界がシミュレーションであるというニック・ボストロムの仮説について話した時のことを覚えているかい? 仮に、生命がシミュレーションであるという彼の主張の確率が1であるとしよう。たった今この世界で何が起こっているかを見てほしい、5日を過ぎても生き延び続ける確率は間違いなく1なんかじゃない、急速に0へと減少している。仮に生き延びたとしても、その先にどんな人生が待っているって言うんだ? > >世界中の誰もが世界は全く同じ日に終わると、そして生存本能その他全てに反して、その日が来る前に自殺しなければならないと決断する確率はどうだろう? ありそうにないことだが、それは実際に起きている。 > >スイッチをオフにされる直前のシミュレーションは、内側からはどんな風に見えるだろうか? > >僕らが新しいプログラムに移行するとき、外の彼らは僕らをオフラインにする必要があるのかもしれない。 > >君を愛している、リンナ。すぐにまた会おう。 このように、感染媒介は報道だけではなく、終末論に関する全ての情報である。 つまり、終末論についての話題であるならば、メディアによる報道、インターネット上のツイートや掲示板の荒らし行為、動画のコメント、手紙、日常の会話、&bold(){その全てがSCP-3519の感染媒介となるのである。} さらに、終末論=世界が終わるということを信じる余地を持っているほどに抵抗力は弱くなり、その妥当性に対する信念により対策は取られなくなり、自殺者が増えるという事態は世界終末を想起させミームの伝播を引き起こす。 そんなもの、いくら財団でも収容できるはずがなかった。 そして、報告書の最後には補遺が存在する。 SCP-3519に対処した財団の、タイムラインである。 まずは最初、Xデーまで残り86日と迫った2018/12/05。 >MTF ψ-10によるメディアの定期監視が、ジョージア州ボガートから発信されているAMラジオ放送 “フィフティ・デイズ”に最初のSCP-3519実例を検知する。 >当初、これは一般的な黙示録の信念、並びに福音派の宗教放送における終末論的な予言との類似性によって無視された。 この時点では、単なる宗教的なプロパガンダの一種だと見られていたようだ。ちなみにこのラジオ番組、「第五教会」との関連性から、SCP-1425「星のシグナル」を発端とする対第五教会計画「オペレーション・スターゲイザー」のターゲットとして警戒されていた。 続けて、一気に飛んで2018/12/24。 >ボガートにあるアンドロメダ座教会の信徒17名が、フェノバルビタールの過剰摂取で死亡しているのが発見される。 ミーム感染によって自殺してしまったようだ。 Xデーまで、残り67日。 翌日、2018/12/25。 >ボガートでの死者のニュース報道は、国際的なメディアを通じて取り上げられている。財団のミーム分析は、類似するカルト宗教団体の自殺に関する報告と比較して異常なほど同情的な報道に着目する。 この時点で財団は、この自殺騒ぎがある種のミーマチックエフェクトであると推論を立てたらしい。 しかし、このミームの感染媒体は終末論に関する話題そのもの。 であれば、それが国際的メディアで取り上げられたということは……。 この後、幾ばくかの事例報告を経て、2019/1/2。 >&U(){関連する自殺は&bold(){17ヶ国で2600人以上}に拡散している。}感染がSCP-3519に指定される。ワタナベ・ノリ博士が主任研究員に着任。 財団もいよいよこの騒ぎを無視できなくなり、このミーム感染にナンバーを振って収容に乗り出した。 翌日にはプロトコルが策定され、当初はこのようなものだった。 >機動部隊プサイ-10(“マズローの動機付け”)に、SCP-3519に感染した人口の特定任務が割り当てられます。特定された人口は機動部隊イータ-10(“シー・ノー・イーヴル”)および機動部隊イータ-11(“獰猛な獣たち”)によって確保されます。前記3つの機動部隊の全てにSCP-3519媒介メディアの確保・抑制任務が割り当てられます。 機動部隊を派遣して報道を押さえろ、というものである。 しかし、事態は悪化の一途をたどった。 2019/1/11。 >MTF η-10の日報がSCP-3519の兆候を示す。機動部隊司令部はMTF η-10の隊員らの任務を解き、Eクラス隔離下に置くよう指示した。 財団の一部隊が感染してしまったらしい。 さらに15日には、別の部隊の司令官から検疫が失敗に終わったという報告が入った。 財団が悪戦苦闘している間にもミーム感染は続き、2019/1/17にプロトコルが改定。 >機動部隊プサイ-10(“マズローの動機付け”)に、SCP-3519感染の拡散マッピング任務が割り当てられます。機動部隊ウプシロン-4(“シュガー・ピル”)は、最重要緊急案件として対抗ミーム治療の開発に取り組みます。対抗策が開発された場合は即時配備し、以下の優先順位で配布を行います。 > >1.MTF U-4の隊員 >2.重要ミーム学部門の職員 >3.O5評議会 >4.[[世界オカルト連合>世界オカルト連合(SCP Foundation)]] >5.世界保健機関(WHO) >6.残りの重要な財団職員 >7.一般人口 つまり、対抗策を立てるのが先決=出来ることが情報の把握以外にない、ということの裏返しである。 2019/1/17、この時点で自殺率は世界人口の1%に到達。普通に考えて危機的な事態だが、ミーム感染が広がり過ぎたために危機であるという認識が広まっていなかった。 さらに28日には自殺率が30%増加。多くの宗教の信者の間に亜種ミームの存在が確認されていた。 大抵の宗教は「死後救済」を唱えているわけだから、終末論との相性がいいのは当然と言えば当然である。 29日にはミーム部門から対抗ミームのプロトタイプが上げられ、対策は進んでいた。 ところが翌30日、時のローマ法王が自殺に対する教皇特免の付与を計画していたことが発覚。これは実行寸前に財団エージェントによって阻止され、プロトコルが二度目の改定。 >機動部隊プサイ-10(“マズローの動機付け”)に、SCP-3519感染の拡散マッピング任務が割り当てられます。機動部隊ウプシロン-4(“シュガー・ピル”)は、最重要緊急案件として対抗ミーム治療の開発に取り組みます。対抗策が開発された場合は即時配備し、以下の優先順位で配布を行います。 > >1.MTF U-4の隊員 >2.残りの重要な財団職員 >3.一般人口 &bold(){対抗ミームの配布対象からO5とミーム部門が消滅。} 財団もうダメだろコレ。 追い打ちをかけるように、感染者となった世界オカルト連合の工作員が、教皇特免の情報を報道陣にリークするという暴挙に出る。 これが引き金となったのか自殺率が一気に増加し、2月1日の時点で世界人口の2%に到達。 さらに、関連して子供の関わる殺人事件が多発。加えて大量死の影響により、公衆衛生とインフラに問題が出始め、6日の時点で1億人が疾病または必須サービスの欠如により死亡したことが確認された。 病気になっても怪我をしても病院が機能していない、介護が必要なのにスタッフが死んでいる。これではどうしようもない。はっきり言ってもはや社会が機能していない。 それでも財団は諦めず収容を試みていたが、世界中に広まったミーム、しかも自殺を誘発する問題児の収容は、繰り返すようだが不可能だった。SCP-8900-EXと異なり、記憶処理でどうにかなるレベルではない上にそれを実行する余裕もない。 何しろ、この時点で財団職員の1割が自殺してしまっていた。 SCP財団はオブジェクトと日々格闘しているわけだが、その中には将来的にどうあがいてもK-クラスシナリオを誘引するものがある。それの存在を知っているなら、「いつか来る終わり=終末論」への精神的防壁が薄いのは当然だった。 そして、特別収容プロトコルはまたも改定。 >機動部隊ウプシロン-4(“シュガー・ピル”)に、SCP-3519対抗ミームの継続的な緊急配備任務が割り当てられます。グリーフ・カウンセリングおよび自殺の予防を、全ての生き残っている財団職員が利用できる状態にしなければいけません。 ついに一般社会への対処を切り捨て、財団を組織として機能させることに余力が振り向けられることになった。 そうしている間にも社会の崩壊は続き、2月19日。 >1000 UTC頃、イスラエルとイランの間で限定的な核兵器の撃ち合いが勃発。加えてイスラエルの兵器は幾つかの他の湾岸諸国も標的とした。死者の総計は不明。国連の緊急措置によって世界的核戦争は回避され、GOC関係者は結果を確実にするために異常な強制手段を用いたと伝えられる。 &bold(){まさかの核戦争勃発。}世界全土への波及は世界オカルト連合の介入で食い止められたようだが、ここまで来るとだからどうしたというレベルである。 そして、20日。 >ワタナベ博士の死に続き、マリレッツ・カーク博士がSCP-3519プロジェクト主任に昇進する。 >対抗ミームは一体どこで何をしてるんだ? 研究主任だったワタナベ博士が曝露し、自殺してしまった。 報告書を執筆した職員は、「シュガー・ピル」が開発しているはずの対抗ミームに関する続報が上がってこないことにいら立っていたが、23日になってRAISAから返答。 >なんでも“現場で適切な媒介メディアに挿入することが不可能と判明”したそうだ。u-4は兵器化版のミームに取り掛かっているはずだが、私たちのメールに返事をよこさない。彼らには急いでもらわないと、適切な媒介メディアが残らなくなってしまう。 この対抗ミームは、SCP-3519の感染媒介である主要メディアに乗せて拡散することが予定されていたのだが、それが不可能であることが土壇場で判明するという最悪の事態が発生。 というか冷静に考えれば、土壇場でそれが判明するということ自体あり得ない。恐らくウプシロン-4もまた曝露したのだろう。 そして、収容プロトコルはまたしても改定された。 >グリーフ・カウンセリングおよび自殺の予防を、全ての生き残っている財団職員が利用できる状態にしなければいけません。自殺用カプセルを要請に応じて利用可能にします。可能であれば、全ての生存しているKeterクラス異常存在の無力化命令が実行に移されます。財団施設は、所属スタッフ数が30%を切った時点で、もしくは施設管理官の裁量で、施設放棄プロトコルに個々に従ってください。 SCP-3519の収容はついに放棄され、SCP財団はその機能を失いつつあった。 プロトコルにも、自殺防止と自殺手段の提供、という矛盾が生まれてきている。 2019/2/26。 >世界的メディアの大部分が沈黙している。財団サイトからの報告は矛盾している。エリア-055の職員数名は、自殺遺書でSCP-3519に感染してないと主張し、進行中のK-クラスシナリオを自己実現型の預言だとしている。収容下の知的[[アノマリー>オブジェクト(SCP Foundation)]]が何匹か自殺していると噂されている。SCP-3519割当の者は誰一人、これを確証・否定するクリアランスを持っていない。 世界人口の減少により、メディアを発信する人員もいなくなってしまったらしい。 おまけに、収容されていた知性のあるオブジェクトすらも曝露・自殺してしまったという。これらは全て噂だったが、恐らくはこの報告書を執筆した職員の属する、SCP-3519の収容担当チームはこれを確定することも、反論することも出来なかった。 全てが思い込み、と片づけるには状況が悪すぎた。実際に世界中で人が死んでいるのは確かなのだ。 さらに27日、状況の悪化が止められなくなったチームは隔離施設へ移動。 28日、次席研究員のローリー・ジョーンズ博士がSCP-3519の担当主任に昇進。マリレッツ博士も自殺してしまった。 3月1日には、主任になったばかりのジョーンズ博士がO5-6に昇進。……どうやらO5評議会もまともに機能していないようだ。 3月4日、Xデー前日。 >サイト-42のデサイ博士とのコンタクトが途絶。他には誰も応答しない。 &bold(){SCP財団、消滅。} もはや無意味となった特別収容プロトコルは、ここで最後の改定を受けた。 >SCP-3519への感受性を有する人物が生き残っていないことから、これ以上の収容は必要とされません。感染は無力化したと見做されます。世界的メディアのかなりの割合が感染を媒介すると思われ、その収容は現時点の財団に可能な域を越えています。しかしながら、感染した記録媒体の ― 全てではないにせよ ― 大部分は更なる伝達が起こる前に劣化してゆくことが予想されます。 確認が取れないためオブジェクトクラスはそのままだが、実質的にSCP-3519は無力化した。 もう、世界に人類はいない。次の知性が発生する前に、感染したメディアは全て朽ちていくことになる。 そして、Xデーとされる3月5日。 > タイムラインには何も書かれていない。 ただ一言、Xデーの翌日である3月6日。メッセージはただ一言。 >&bold(){いい天気だ。} SCP-3519は、「3月5日に世界が終わるから、その前に自殺しよう」というミームである。 裏を返せば、3月5日を何事もなく生き延びれば、その時点でこのミームは無力化される。特定の日付を過ぎれば、終末論はただの妄想に変わるからだ。 ローリー・ジョーンズ博士は生き残ったのだろう。 ―――博士は、これからどうするのだろうか? 財団も、[[要注意団体>要注意団体(SCP Foundation)]]も、一般社会すら消えたこの世界で。 それは、誰も知らない。ただ一つ、わかっていることがある。 この先に待っているのは……。 #center(){&sizex(7){&bold(){SCP-3519}}} #center(){&sizex(7){&bold(){&ruby(静かなる日々){These Quiet Days}}}} ―――生きていくのだろう。その命が終わるまで。 **関連オブジェクト ・SCP-3445「墓石は知っている」 オブジェクトクラスはSafeを経てUncontained(未収容)。 ピーク共同墓地にある大きな墓石で、十字架の交差部分に円をあしらっている。この円の部分で作られた開口部4つのうち、いずれかにお金を置くと、同じところに直近の死亡事例が「終焉の理由」「演出」「講評」の三項目で綴られたメモが出現する。 順番に、その事例における死亡理由の比喩、追悼または葬儀の比喩、関連する死者増加に関する社会的風潮について、となる。 2018/12/24以降これがガラリと変わり、「講評」部分が読者に関連するものになった。 そして2019/2/19のメッセージは、前二つの項目が空欄、「講評」は「ああ、もうすぐ廃業になりそうだよ」となっていた。 ちなみにこれに関する報告書の更新は、同年の3/13にO5-6が行っている。 勘付いただろうが、この記事はSCP-3519と同じヘッドカノンを共有しており、3519による自殺者増加により財団が機能停止、収容担当者がいなくなったのである。 ここでいうO5-6とはローリー・ジョーンズ博士である。現在彼は財団の自動化サーバーから情報を受け取り、全てのオブジェクトクラスを「未収容」、現状を「不明」と更新している。 ・[[SCP-2000-JP]]「伝書使」 オブジェクトクラスはAnomalous、Safeを経てThaumiel。 SCP-2000-JPはコンピュータ/ネットワーク上で活動する情報知性体で、セキュリティホールを「掘る」ことで突破する能力を有している。 ただし、携持した情報を「噛んでしまう」ことによる情報内容の破損が高頻度で発生するため、集められた情報および与えられた指示の遂行は信頼性に欠ける。 この記事に登場する五條研究員は偶然が重なり3月5日まで生き残ってしまった。 そこで、[[あるオブジェクト>SCP-2000]]を起動しようとするが、既に施設は封鎖されていて、プロトコルを発動できなくなっていた。 五條研究員は[[とある博士>クレフ博士(SCP Foundation)]]の助言を受けてAnomalous収容ユニットから引っ張り出した「伝書使」に財団最強の強度を誇るセキュリティーの突破を託し……。 //単独記事があるので、追記ついでにネタバレ部分を若干省略しました。 追記・修正は明日に希望を持ってお願いします。 ---- #right(){SCP-3519 - These Quiet Days by sirpudding http://www.scp-wiki.net/scp-3519 http://ja.scp-wiki.net/scp-3519 この項目の内容は『[[クリエイティブ・コモンズ 表示 - 継承3.0ライセンス>https://creativecommons.org/licenses/by-sa/3.0/deed.ja]]』に従います。 } #include(テンプレ2) #right(){この項目が面白かったなら……\ポチッと/ #vote3(time=600,101) } #include(テンプレ3) #openclose(show=▷ コメント欄){ #lsd() #comment_num2(num=30) }

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