送り仮名(おくりがな)
『言語学大辞典術語』
日本語で,「送り仮名」「送る仮名」のように活用語尾を示したり,「後ろ」のように,他の読みかたの可能性を排除したり,「然し」や「蓋し」のように,読み取りを容易にしたりするために,漢字のあとに添える仮名.なお,活用語以外に必要に応じて添える仮名は,かつて,捨て仮名とよばれていた.「昔シ」「自(みづから)」【※自の上にルビ「ミ」】「自(おのづから)」【※自の上にルビ「オ」】などが典型的な例.「後ろ」などは,その応用である.
日本語で,「送り仮名」「送る仮名」のように活用語尾を示したり,「後ろ」のように,他の読みかたの可能性を排除したり,「然し」や「蓋し」のように,読み取りを容易にしたりするために,漢字のあとに添える仮名.なお,活用語以外に必要に応じて添える仮名は,かつて,捨て仮名とよばれていた.「昔シ」「自(みづから)」【※自の上にルビ「ミ」】「自(おのづから)」【※自の上にルビ「オ」】などが典型的な例.「後ろ」などは,その応用である.
教科書などの基準は,内閣告示の「送り仮名の付け方」であるが,その「通則」には「本則」があって「例外」や「許容」があり,複合語にはさらに別の規定があるから,一般性に乏しい.「(謝意を)表わす」なら読みが確定できるが,「表す」では,〈アラワス〉か〈ヒョウス〉か不明であるし,「後ろ」は規定されていても「その後」は,「のち」「あと」「ご」のいずれにも読めるとか,「伴」の訓が「とも」であるという知識があると,「伴う」という送り仮名に抵抗を感じるとか,問題は限りがない.
送り仮名は漢字の訓読に起源する.中国古典文では同一の漢字が名詞にも動詞にもなる.動詞として訓読すれば活用語尾が添えられ,文脈によって特定の活用語尾になる.逆にいえば,活用語尾の種類が構文の指標になる.したがって,訓読文献では,ヲコト点や片仮名を用いて,活用語尾がしばしば特定されている.助詞を添えるのも原理は同じである.テキストによって精粗の差は大きいが,文脈の明示が目的であるから,送り仮名を添えるかどうかは可択的である.
上代の宣命は日本語の構文に基づいているが,助詞や助動詞,活用語尾などを特定しないと正確には復元できないので,いわゆる万葉仮名を小さく右に寄せてそれらが書き添えられている.片仮名文が発達すると,書き添えの部分は片仮名で記されるようになる.『今昔物語集』に代表されるような片仮名宣命体の書記様式がそれである.訓読文献などに比して書き添えが豊富になっているが,可択的である点では変わりがない.活用語尾を必ず送ることが規則化されたのは近年のことに属するが,自然に形成された制約的慣習との調和が困難であるために例外の多い複雑な規定になり,矛盾を解消するのが困難な状態にある.日本語の場合は,それぞれの語の綴りを個別に定めなくても,一定の規則を適用して書いたり読んだりできるという基本的な考え方に起因する混乱の一つである.
[参考文献] 「送り仮名の付け方」(内閣告示・昭和48年6月18 日;一部改訂・昭和56年10月1日)