文字の系統(もじのけいとう) 英genealogy of writing
『言語学大辞典術語』
文字の系統は,言語の系統に比べると単純である.現在,世界中に行なわれている文字の大多数は,漢字(Chinese character)とアルファベット(alphabet)の2つの系統に属するものである.漢字の系統に属するものは,現在,中国,韓国および日本に用いられている漢字と,日本の仮名だけで,他の国の文字は,すべてアルファベット系統の文字であるといえる.朝鮮のハングルは,そのどちらにも属さない独特のものにみえるが,アルファベットの一派のモンゴルの文字(パスパ文字)がその形成原理にあずかっていることは明らかであるから,やはりアルファベットの系統につながるものである.
文字の系統は,言語の系統に比べると単純である.現在,世界中に行なわれている文字の大多数は,漢字(Chinese character)とアルファベット(alphabet)の2つの系統に属するものである.漢字の系統に属するものは,現在,中国,韓国および日本に用いられている漢字と,日本の仮名だけで,他の国の文字は,すべてアルファベット系統の文字であるといえる.朝鮮のハングルは,そのどちらにも属さない独特のものにみえるが,アルファベットの一派のモンゴルの文字(パスパ文字)がその形成原理にあずかっていることは明らかであるから,やはりアルファベットの系統につながるものである.
[字形と形成原理]
文字の系統を考える場合,2つの観点が浮かび上がる.一つは,字の形の変化をみるもので,たとえば,日本の仮名は,平仮名にせよ,片仮名にせよ,漢字の変形あるいは略体から発生したもので,明らかに形の関係がある.これに対して,上述の朝鮮のハングルは,形の上ではそれに先行するモンゴルの文字(パスパ文字)とはまったく関係がない.ハングルの子音字は,中国の音韻学の体系に基づいて,発音の部位または仕方を象徴的に図形化したもので,その意味ではまったく独創的である.しかし,この文字の形成原理は,上述のごとく,モンゴルおよびチベットまで東漸してきたアルファベット型の表音文字である.したがって,形成原理という点からは,アルファベットの系統に属しているのである.
文字の系統を考える場合,2つの観点が浮かび上がる.一つは,字の形の変化をみるもので,たとえば,日本の仮名は,平仮名にせよ,片仮名にせよ,漢字の変形あるいは略体から発生したもので,明らかに形の関係がある.これに対して,上述の朝鮮のハングルは,形の上ではそれに先行するモンゴルの文字(パスパ文字)とはまったく関係がない.ハングルの子音字は,中国の音韻学の体系に基づいて,発音の部位または仕方を象徴的に図形化したもので,その意味ではまったく独創的である.しかし,この文字の形成原理は,上述のごとく,モンゴルおよびチベットまで東漸してきたアルファベット型の表音文字である.したがって,形成原理という点からは,アルファベットの系統に属しているのである.
同じアルファベット系統の文字でも,形の上では起源を異にするものがある.たとえば,エジプトのコプトの文字は,原則的にはギリシア系のアルファベット文字によったものであって,古代エジプトの聖刻文字の発展ではない.ただ, fの字は,聖刻文字のfを受け継いでいる.
一方,日本の仮名は,漢字から派生した文字であることは明らかであるが,文字の形成原理からいえば,漢字は表語文字であるのに対し,仮名は表音文字の音節文字である.同じく漢字文化圏の中にありながら,独特の文字を考案した西夏の文字は,字形の輪郭は漢字に似せつつも,漢字とは形の繋がりはない.しかし,形成原理は漢字のそれに依拠し,かつそれを発展させている.
このように,文字の系統を考えるには,字形の踏襲と形成原理の適用の2つの点を考慮に入れなければならない.そして,ある文字が他の文字から派生するとき,多くの場合,この2つの要因がともに働くが,必ずしも常にそうなるとは限らない.上述のごとく,仮名が漢字から派生したとき,字形の踏襲はなされたが,形成原理に変革が起こった.すなわち,表語文字から音節文字が発生した.面白いことに,表語文字から表音文字が発生したところでは,その表音文字は音節文字であることが多い.楔形文字(cuneiform)の場合も,シュメールの表語文字からその表音的使用に際して,音節単位で表音化している. この表語文字の音節文字的使用は, アッカド語に適用する場合にも,ヒッタイト語に適用する場合にも,そしてまた,古代ペルシア語を表わす場合にもみられる.
ただ,エジプトの聖刻文字(ヒエログリフ,hieroglyph)から派生したと思われる原始的なセム人のアルファベットだけは,単子音指向の原理をとった.これは,エジプトの聖刻文字の中に,すでに単子音指向の表音文字を含んでいたからである.すなわち,いわゆる「エジプトのアルファベット(Egyptian alphabet)」がそれである.単子音指向といっても,本当のアルファベットのように単子音を抽出して,それを記号化したというのではないらしい.3子音または2子音を骨格として語を造るセム語を表わすかぎり,それらの子音を髣髴させただけで十分,語を表わすことができる.現在でも,アラビア語を表わすには,この単子音指向の方式をとっている.母音の表示は,特別の場合,たとえば,聖典コーランの読みなどの場合に,補足的な符号を加えることによってなされる.セム語のアルファベットの系統を引く多くの文字,たとえば,インド系の諸文字でも,子音字が根幹をなし,母音字が二義的な記号であることは,それらがセム語のアルファベットの特徴を継承していることを示すものである.
このようなアルファベットが真の意味の単音文字になったのは,ギリシア人がセム族の一派であるフェニキア人から文字をとり入れてからである.ギリシア人は,セム人に等閑視された母音字を,子音字を改造して子音字と同等の資格をもつものとしてつくり出した.
以上述べた漢字とアルファベットの系統以外にも,いくつかの別系統の文字が知られている.新大陸の中米のマヤの文字,アステカの文字がそうである.また,中国雲南省に住む少数民族ロロの文字,モソの文字などもそうであり,これらはおそらく漢字の刺激で作られたものと思われるが,その実相は不明である.
以上述べた漢字とアルファベットの系統以外にも,いくつかの別系統の文字が知られている.新大陸の中米のマヤの文字,アステカの文字がそうである.また,中国雲南省に住む少数民族ロロの文字,モソの文字などもそうであり,これらはおそらく漢字の刺激で作られたものと思われるが,その実相は不明である.
[アルファベット単源論]
アルファベットは,1つの起源から発するといわれる.このアルファベット単源論(the monogenesis of the alphabet)は,その形成原理,すなわち,1つの字をもって1つの音を表わすという原理からいえば,あるいは正しいといえるかもしれない.もっとも,上に述べたように,はじめは子音しか表わさなかったが,のちには字として,あるいは補助記号として母音をも表わすことになって,真の単音文字となっていったのであるが,この単音文字の原理は,古代のシリア・パレスティナのセム族の間に始まり,西は,セム族の一派フェニキア人を経てギリシアからヨーロッパ全土に及び,東は,セム族のアラム文字からインドに渡り,インドのさまざまな文字を作り出し,南は今のスリランカのシンハラ文字,さらには,ビルマ(現ミャンマー),タイ,カンボジアの文字を生み,また北はチベットの文字も,インド系文字の一つである.アラム文字の一派のシリア文字は,中央アジアのソグド,ウイグルを経てモンゴル文字に及び,満州文字はウイグル系のモンゴル文字を改造したものである.モンゴルでは,ウイグル文字のほか,チベット文字をもとにしたパスパ文字がつくられ,このモンゴル文字が朝鮮に知られ,朝鮮のハングルはその形成原理をこのモンゴル文字に負っている.このセム族に発したアルファベットの東西への伝播は,いちいちの文字の形の関係よりも,単音文字という形成原理の伝播であって,アルファベット単源論は,要するに,単音文字の原理の起源とそれからの発展をたどるものである.
アルファベットは,1つの起源から発するといわれる.このアルファベット単源論(the monogenesis of the alphabet)は,その形成原理,すなわち,1つの字をもって1つの音を表わすという原理からいえば,あるいは正しいといえるかもしれない.もっとも,上に述べたように,はじめは子音しか表わさなかったが,のちには字として,あるいは補助記号として母音をも表わすことになって,真の単音文字となっていったのであるが,この単音文字の原理は,古代のシリア・パレスティナのセム族の間に始まり,西は,セム族の一派フェニキア人を経てギリシアからヨーロッパ全土に及び,東は,セム族のアラム文字からインドに渡り,インドのさまざまな文字を作り出し,南は今のスリランカのシンハラ文字,さらには,ビルマ(現ミャンマー),タイ,カンボジアの文字を生み,また北はチベットの文字も,インド系文字の一つである.アラム文字の一派のシリア文字は,中央アジアのソグド,ウイグルを経てモンゴル文字に及び,満州文字はウイグル系のモンゴル文字を改造したものである.モンゴルでは,ウイグル文字のほか,チベット文字をもとにしたパスパ文字がつくられ,このモンゴル文字が朝鮮に知られ,朝鮮のハングルはその形成原理をこのモンゴル文字に負っている.このセム族に発したアルファベットの東西への伝播は,いちいちの文字の形の関係よりも,単音文字という形成原理の伝播であって,アルファベット単源論は,要するに,単音文字の原理の起源とそれからの発展をたどるものである.