コンペロリショタバトルロワイアル@ ウィキ

きみにできるあらゆること

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だれでも歓迎! 編集
「へぇ~…しおはさとちゃんって奴と一緒に暮らしてたんか」
「うん、毎日一緒にご飯食べて、お風呂入って、遊んだあと眠るの!
さとちゃん、優しくて、暖かくて…甘い毎日だった……とっても」
「そっか!そのさとちゃんって奴もしおの事探してるだろうし、さっさと帰らねぇとな」
「…うん」


背後でそんなやりとりを聞きながら。
孫悟空と神戸しおの前を先行するキャプテン・ネモは考えていた。
周囲への警戒を怠らぬまま、背後の同行者神戸しおについて、思考を回していた。


(……少し引っかかるな。しおがここに来る前に身を置いていた環境のこと)


しおの立ち振る舞いや格好からして、普通の少女であることは間違いない。
殺し合いに乗っていた精神性は兎も角、少なくとも肉体面では。
となれば大人の庇護下にいなければ生活すらままならない存在である筈だった。
また格好から言っても、もう学校に通っている年齢であるはずである。
だが、彼女の話からは両親の話が一切出てこない。
と言うより、“さとちゃん“なる人物以外の話が一切出てこないのだ。
そしてそのさとちゃんとの関係を尋ねてみると、少しの間を置いてから姉の様な、大切な人という返事が返ってきた。
深くは踏み込まなかったが、その微妙な間からさとちゃんという人物としおが血縁関係でないのは伺えた。


(……まぁ、僕も現代日本で生活したことがある訳ではないし、血縁関係が無くても一緒に暮らすのはそうおかしな話ではないか。
少なくとも、さとちゃんという人物がしおに害意を持って接していたとは思えないし)


ネモ自身、現代での生活経験はない。
彼が英霊として初代マスターに召喚された時には、既に人類は白紙化と言う未曽有の危機に瀕していたのだから。
故に、彼の現代の知識は召喚の際聖杯からインストールされた知識がほぼ全てとなる。
だから、多少の違和感こそ覚えたものの、しおをそれ以上追及することは無かった。
そんな彼の疑念もどこ吹く風で、背後で悟空としおの会話は続く。


「そう言えば、悟空お爺ちゃんは何歳なの?私とかわんない年に見えるけど……」
「え?えーっと…何歳だったかな。オラ、チチと違ってあんまり年とか気にした事無いからなぁ。確か50は超えてたと思うけんど……」
「ふーん、昔から私と変わらない背だったの?」
「いんや、そんな事はねぇぞ。ちょっと前にドラゴ───」


齢五十を超える悟空が何故子供の姿なのかはネモは既に知っていた。
ファミレスで二人で食事をした際に、彼に聞かされていたからだ。
何でも、ドラゴンボールと言う願望器の力で少年化してしまったらしい。
常識で考えればどう考えても眉唾な話であったが、ネモの霊基に刻まれた情報の中に、
人理保証の旅路の最中にそう言った事件が起きた例は幾つか存在している。
故にそう言うモノかと納得していたし、既に聞いていた話であるため聞き流していた。
だが、異変が起きたのは、その直後の事だった。


───禁止事項に接触しています。直ちに行為を停止しなければ首輪を爆破します。


ピーッという電子音と共に。
無機質な機械音声が、悟空の首輪から響き渡った。


「おわ~ちゃちゃちゃちゃ!?なっ何だぁっ!?」


ネモと悟空の血の気が引いた。
突如降って湧いた生命の危機に、悟空は狼狽して転げまわる。
そんな彼の様を見て、ネモは冷静に何故首輪が鳴ったかに思考を巡らせる。
瞬間移動を行おうとした?否、彼は今この瞬間までしおと会話していた、ありえない。
となれば、次に当たりをつけるのは会話内容しかない。
まさか、とネモは一つの思い当たる点を口にする。


「──もしかして、ドラゴンぼー…」


そこまで言いかけた時だった。
まるで口封じをするかのように、ネモの首輪もまた、無機質な電子音が鳴る。
それを受けて、彼は即座に己の分身であるネモ・マリーンを複数体出現させた。


「マリーンズ!しおの護衛と歩哨につけ!……悟空、ちょっとこっちに来てくれ」
「お、おいおい、ネモ~?」


しおと悟空の返事を待たず、有無を言わせない態度でネモは悟空の袖を掴み、しおに声の届かぬ場所まで引っ張っていく。
そして、周囲の警戒を行った後、話を切り出した。


「悟空、気づいたかい?」
「……あぁ、多分首輪(コレ)が反応したのは──」


ドラゴンボールの事を口したからだろう。
それが、二人の辿り着いた答えだった。


「考えてみれば当然の話だね。優勝賞品に万能の願望器を与える触れ込みで殺し合いをさせているのに、
ただ球を七つ集めるだけで願いを叶える願望器の噂を流布されればサンゴの死滅の様に殺し合いの優勝賞品自体が陳腐化してしまう」
「……その前に乃亜が手を打ったっちゅう訳か。まぁ他に思い当たる事も無いしな。
あれ?でもオラたちは今こうしてドラゴンボールの話をできてるよな?」


悟空は、単純であったが要点を既に捉えていた。
その上で、なぜ今の自分達がドラゴンボールの話ができているかに会話は移行する。
ネモは掌を顎に当てて考える素振りを見せた後、指を二本立てて推論を提示した。


「…真っ先に考えられるのは二つ。乃亜がつい今しがたドラゴンボールという願望器の情報を流布される危険性に気づいた」
「お…おいおい。そりゃ幾ら何でもマヌケすぎねぇか?」
「あぁ、だから僕もこっちの線は薄いと思う。となれば後残るのは───」
「…しおが、ドラゴンボールの事を話されちゃ困る奴だったから……って事か」


ネモは悟空のその言葉に無言で頷いた。
首輪の警告音が鳴ったタイミング的に、そう考えるのが最も辻褄が合うためだ。


「分かんねぇな。しおは此処にいる奴らを皆殺しにしてでも叶えたい願いがあんのか?」
「断定はできない。しおに聞いても知らないというしかないだろうし……
下手をすれば魔女狩りになりかねない。乃亜はそっちを狙ってる可能性もある」
「なるほど…で、どうすりゃいい?」
「……取り合えず彼女にはこれまで通り接して、時々それとなく探る程度でいいと思う。
ただ、ドラゴンボールの事はこれから出会う参加者には話せないだろうね。リスクが高すぎる」
「そっか~…悟飯の奴も大丈夫かな。いきなり爆破されてねぇといいけど」


今回は話すことを辞めたため警告は直ぐに止んだが。
これからもそうである保証はない。
最悪の場合、次はいきなり首輪を爆破される恐れすらある。


(ドラゴンボールの話は、これから出会ったマーダーに交渉材料になっただろうけど…)


無論の事、ネモも実際にドラゴンボールの事は話を聞いただけなので信じ切った訳では無い物の。
それでも、殺し合いに優勝せずとも願いを叶える事ができるかもしれないというのは、対主催にとって無視できないカードになるはずだった。
結果は、乃亜に先回りして潰されてしまったが。




───分かるだろう?
───君たち問題児二人も、僕にとっては所詮操り人形(マリオネット)でしかないんだ。



そんな、乃亜の声が聞こえてくるようだった。
これから更に、自分達の立場は難しい物になるだろう。
しおは幸いにして殺し合いに乗っていても無力な少女であったため、こうして連れまわす事もできるが。
もし、最初に出会った天使の少女の様なマーダーが複数いたら?
例え対処できたとしても、しおの様に連れまわそうと思えば早々に悟空と自分が見張っておけるキャパシティを超える。
見張って置く事ができたとしても、其方に行動のリソースを割かれて脱出に向けての行動が遅々として進まなくなるのは想像に難くない。

事実、しおがいなければ、とっくに当初の予定であった教会に着いていた筈なのだ。
怪我をしていて、最も無力であるしおに合わせたため、行動のペースが明らかに落ちている。
乃亜がもしこれを狙ってしおを近くに配置したのだとすれば、これ以上なく効果を発揮したと言えるだろう。


(海馬乃亜……どこまで君の描いた絵図だ?)


しお達の元へと戻りつつ、ネモの脳裏には、ほくそ笑む乃亜の顔を想起していた。






「傷は大丈夫ですか?」


二人がしおの元へ戻ってから再び教会へと歩みを進め。
辿り着いた一行が教会で出会ったのは金の髪の、紅いロリータファッションの少女だった。
まるでクリスマスのイルミネーションの様な翼を背に生やした少女が人でないことは、ネモと悟空には直ぐに分かった。


「…ありがと、私フラン。フランドール・スカーレット」


教会に備えつけられた帯を巻かれ、ネモの分身体の一人であるネモ・ナースの治療を受けながら、吸血鬼の少女は短く返礼を述べた。
フランドールは、悟空たちが出会った時には酷い有様だった。
ステンドグラスを突き破って落下してきた様子の彼女の片腕は、肉を破り骨が見えるほどの粉砕骨折していた。
それだけでなく、半身そのものに酷い損傷が見られ、常人であれば危篤になってもおかしくない程の傷を負っていたのだ。
だが、ネモは彼女の状態を検証する事によって、ある一つの気づきを得た。

即ち、彼女が吸血鬼である。と言う事実を。
そうなれば早かった。
意識が朦朧としている様子の彼女の口元に切り傷を作った自らの腕を運んで。
そして、サーヴァントの血を取り込ませた。
そうする事が最適解である事を、霊基の奥底に刻まれた初代マスターとの記憶で彼は知っていたのだ。
その中途で悟空も自らの気を分け与え、結果的に驚異的と呼べるスピードでフランドールの負った外傷は治癒するに至ったのである。


「……何があったか、聞かせてもらえるかい?」


フランが再び行動可能になったタイミングを見計らって、ネモは尋ねた。
何故彼女がこんなことになっているかは検証しておく必要があった。


「……私のお友達のしんちゃんって子と、映画館に行って………」


僅かな沈黙のあと、フランドールはぽつりぽつりと語り出す。
彼女の初めての友の存在の出会いと、その死の顛末を。
だが、途中まで話したところで、違和感に気づく。


「……?あれ、なんで……!?」


野原しんのすけを殺した憎き下手人の事が、何も話せない。
容姿や背丈はおろか、性別すら浮かんでこない。
そこだけ虫食いになっているかのように、記憶が欠落している。
側頭部を抑えて、必死に記憶を振り絞ろうとするフランドール。
そんな彼女を見ながら、悟空とネモは小声で協議した。


「……おい、ネモ。どう思う?」
「嘘は言ってないと思う。それにここに招かれているのが皆子供だと言うなら…
彼女に今起きてる現象には心当たりがある。知識としてだけどね」


ネモの脳裏に想起されているのは一人の英霊が持つ能力だった。
情報抹消、戦闘終了後に相手の記憶から自身に纏わる情報の一切を消去する証拠隠滅能力。
そして、それを持っている子供の英霊となれば一人しかいない。



「ジャック・ザ・リッパー…もしボクの様に彼女が此処にいるのなら……
殺し合いに乗っていても不思議じゃない」


今、この会場に存在しているネモは厳密に言えばかつてカルデアで人理保証に協力したネモのコピーの様な存在だ。
厳密に言えば、本人ではない。
だが、英霊ネモと言うサーヴァントは、本来人理保証の功績が無ければ英霊として登録されていなかったであろう特異な英雄でもある。
それ故に、知識としてある程度カルデアに登録されていたサーヴァントの情報を索引することが可能だった。
その記録/記憶から、かつてカルデアにて交流のあったジャックの外見的容姿をフランに伝えてみる。


「銀の髪に、黒いコート…手術痕……そんな、風だったかも……」


何とも歯切れの悪い返事だったが、無理も無いだろう。
むしろ、ここまで完璧な記憶処理であれば、ネモの知るジャックである可能性はさらに高まったと言える。
そして、カルデアでこそそう言った面は抑えられていたものの。
ジャック・ザ・リッパーという英霊は本来非常に危険な反英雄である事を、ネモは知っていた。


「……映画館か。何ならオラたち、今から向かっても───」
「無駄よ。もう…あそこに助けを求めてる子なんて一人もいないもん」


凍えそうになる程、冷たい声色だった。
ネモは、話を聞いた瞬間から無論の事考えは及んでいた。
もし本当にジャックに狙われたとすれば、普通の五歳児が生きていられる筈もない。
映画館に要救助者は、もういないだろう。
しおを除くこの場の全員が認識して、僅かな間、沈黙の帳が降りる。


「…フラン、念のため聞いておきたい。……僕たちと、一緒に来るつもりはない?」


そう、もうフランにとっても、映画館での顛末は既に過ぎ去った過去の事でしかなかった。
大事なのは、きっとこれからで。彼女は、岐路に立たされていた。
だから、ネモは静かに自分達と一緒に来ないかと、誘った。
それが一番彼女の為になると、そう思ったから。
返答は、また僅かな間を置いて返された。




「────そう、君はやっぱり。そうするんだね」



返答は、無言のままに放たれた殺意を纏った拳で。
冷厳な瞳に、僅かな哀切の彩を映して。
さっきまで立っていた場所に作られたクレーターと、その中心に立つフランドールの姿をネモは見つめた。



「うん、私は優勝して──しんちゃんを生き返らせるの」



冷たい声色で語るフランドールの瞳は、駄駄をこねる子供の様であり。
例え恩のある者でも、目的のためならば壊すと決めている怪物の瞳でもあった。
今の彼女はきっと、言葉では止める事はできない。
相対するネモと悟空、二者が確信を抱く。


「……馬鹿な真似はやめろっつっても、聞くつもりはねぇみてぇだな」


悟空が一言そう呟いて、しおを庇うように前へと進み出る。
その表情は既に先ほどまでの子供然とした無邪気なものではなく。
これまで幾度となく地球の危機を救った戦士の表情をしていた。
きっと、彼に任せればこの場を収める事は容易だろう。
ネモはその事を疑っていなかった。しかし、だからこそ。


「悟空、すまない。ここは僕に任せて欲しい」


腰のホルスターから454.カスールオートカスタムを抜いて。
静かにネモは、悟空の隣に進み出る。
そんな彼に対して、悟空は怪訝な顔を浮かべた。
だって、そうだろう。
目の前のフランドールは確かに普通の人間よりはずっとずっと強いけれど。
でも、自分なら問題なく制圧できる。それが悟空の見立てだった。
それはネモの方も理解しているだろうと思っていたが故に、彼の意図が見えなかった。


「大丈夫、僕に考えがある。彼女を何とか説得して見せるよ」


フランの事を見据えたまま、短く揺るぎない意志を秘めた声で、ネモは言う。
力で上から押さえつけて、この場で言う事を聞かせるのは簡単だ。
でも、マーダーを見張る事ができるリソースが限られている以上、後々必ず限界が来る。
もし来なくとも、乃亜は殺し合いを硬直させる真似を許さないだろう。
ゲームの性質上、直接介入は控えて出来る限り参加者間の争いを煽る方向で動くだろうが、
それでも自分達二人の首輪を飛ばす方がより円滑に殺し合いが進むと判断されれば、次の瞬間首輪が吹き飛んでいてもおかしくない。
この死と暴力が跋扈する世界で、必ず力に依る抑止は限界が来る。
となれば、後取り得る選択肢は一つしかない。
即ち、フランドールに、道を踏み外そうとしている少女に納得させる。
それを置いて他にない。



「……考えがあるってんなら止めないけどよ、無茶はすんなよ。ネモ」
「大丈夫、しおを守るには君がいればそれで事足りるさ。アオダイの様に自明だ」
「バッカ、オメェがいなかったら誰がオラたちの首輪(コレ)外すんだよ」
「…ふ、それもそうだ。善処しよう」




当然と言えば当然の指摘に、思わず苦笑が漏れる。
それでも悟空は此方の意図を汲んでくれたようで、異論を唱えることは無かった。
無論の事、いざとなれば介入するつもりはあるのだろうが……。
それでも彼が自分の言葉を信じてくれた事に、ネモは俄かに勇気づけられる。
だが、対するフランドールは面白くない。



「…私を舐めてるのかしら。貴女より後ろのお兄ちゃん方がずっとずっと強いでしょう?
貴方より先に後ろのお兄ちゃんを壊してから、相手をしてあげる。何なら、二人一緒でも構わないよ?」



フランも悟空とネモの力量を理解していない訳ではない。
目の前の二人を相手に二対一を興じる事には明らかに無理がある事は理解していた。
だが、その無理を通さなければ───


───フラン、ちゃん………


自分が殺してしまった、初めての友達は帰ってこない。
だから引けない。退く訳にはいかない。
意地に近い感情で、フランドールは悟空を出せと要求する。
その赤い瞳に、最大級の敵意と恫喝を籠めて。



「───フラン、君に提案がある」



吸血鬼の敵意を全身にぶつけられて尚。
純白の軍服を纏った幼き船長の態度は泰然としたものだった。
アイスグリーンの瞳は、真っすぐフランの姿を見つめて。
これを伝えれば、今度こそ首輪を爆破されるかもしれない。
そう考えつつも、伝える事に迷いはなかった。


「……乃亜に頼らなくても、僕達はこの殺し合いの終了後に願いを叶える手段を持ってる。
もし、君が野原しんのすけと言う少年を生き返らせたいのなら、僕達に協力してほしい」


紅い瞳が揺れる。
もし、殺し合いに優勝せずともしんのすけを生き返らせることができるのなら。
ネモの言葉はフランにとって、降って湧いた光明であった。
だからこそ、服の袖を片腕でぎゅうっと掴んで。ネモに尋ねる。
どうやって?と。
だが、帰って来た返事は、そんな彼女の期待を著しく落胆させるものだった。


「………それは、話せない。今は何も」


何だそれは、と思った。
手当してもらった事から目の前の二人がいい人なのは、何となくフランにも分かった。
でも今の言葉は、耳障りのいい言葉で此方を丸め込もうとしている様にしか思えなかった。
どうして肝心なところを何も話せない相手を信用できようか。
落胆を通り越して怒りすら湧いてくる。
彼女は無言で、握っていたビニール傘をランドセルに仕舞った。
これだけは、傷つける訳にはいかないから。
次いで、今度は背負っていたランドセルから支給されていた剣を取り出した。
この教会に落下してから、何か傷を癒せるものは無いかと、ボロボロの身体で探した折に見つけたものだ。
最初からこれを使っていれば、しんちゃんを守れたかな。
そんな彼女の心中で漏らした呟きは、当然ながらネモ達に届くことは無い。



「……もういい。話にならないわ、貴方。そんなに壊されたいなら貴女から壊してあげる」



もうこれ以上話すことは何もない。少女の態度は、そういった様相だった。
無言で、剣を構える。それに呼応するように、ネモも拳銃のグリップを握り締めた。
静寂の中で、二人の様を見つめていたしおは、悟空に小さな声で尋ねる。


「ねぇ、悟空お爺ちゃん。ネモさん大丈夫かな?」


優勝を狙っているしおにとってはもしネモが脱落すれば喜ぶべきことだ。
だが、傍らの悟空は違うだろう。しおもそれは分かっていたが故の問いかけだった。
悟空はそんなしおの問いかけに対して、ネモとフランの二人から目を離さないまま答える。


「ネモがやりたいってんなら任せてみるさ。いざとなったら、オラが何とかする
だから心配すんな。さ、しおはちょっと離れっぞ!」
「……うん」


しおを不安にさせない様に配慮しているのだろうか、微笑みながら応える悟空。
そして、自分よりずぅっと強い相手にも、堂々と対峙しているネモ。
そんな二人を見て、しおは考えるのだ。


(───私たちの“あい“が最後に乗り越えないといけないのは………)


目の前の二人なのかもしれない。
強く意識しながら、その事を悟られぬように表情には出さず。
力の差は明白であるものの、しかし彼女は、彼女のあまい未来を譲るつもりは毛頭なかった。






「さて、後ろもつかえてるし──始めよっか。できるだけ、楽しませてね」


月光をその背に浴びて。
悪魔の妹が、目の前の玩具に向けて怪しく笑う。
その手に握るのは一振りの抜身の刀剣、神が鍛えし神造兵装。
湖の騎士が振るったその銘を、無毀なる湖光(アロンダイト)といった。
紛れもなく聖剣であり、人類史の中でも有数の名刀であるその宝剣を、魔なる少女が握る。
膂力、速度共に英霊(サーヴァント)に比肩する少女だ。
その彼女に斬られれば、英霊であるネモであっても絶命は免れない。


「……いいよ。受けて立つ。僕は、海神ポセイドンとアンピトリテの子「トリトン」にして、潜水艦ノーチラスを駆る「誰でもない者」──ネモ。キャプテン・ネモだ」


早打ち勝負に臨むガンマンの様に。
御前試合に挑む侍の様に。
決然とした態度で、ネモはフランドールに相まみえる。

船長の勇敢さを前に、フランドールは笑った。
それは無邪気な子供が新しい玩具を与えられた顔であり。
肉食獣が獲物を前に浮かべる笑みととてもよく似ていた。
あぁ、語る言葉は粗悪な詐欺師の様でも、これから壊す玩具としては一級品だ。


「貴方の血はとっても美味しかったから──血を吸ってから、壊してあげるね」


少女の握る宝剣が、熱を放つ。
その温度は一瞬で百度を超えて、無毀なる湖光を悪魔の舌の様な紅蓮の炎が包む。
炎の名を禁忌「レーヴァテイン」、彼女の持つスペルカードである。
異なる神話体系、英雄譚の宝剣のマリアージュ。
今やフランドールはネモを一撃で致死どころか即死させるだけの力を有していた。
絶死の剣を手に、フランドールが疾走を開始する───!



「──これは。僕もカードを切らないと、手に余るな」



目の前に濃密な死の気配が迫っても、ネモの声は冷ややかで。
そしてとても鮮明だった。
次の瞬間、銃声が轟く。本職足るアーチャーのクラスには及ばぬものの、見事な抜き打ちだった。


「チョロいッ!!」


だが、フランドールを止めるには至らない。
聖別された大口径の銃弾を、千度は超えているであろう炎剣で弾く。
弾幕ごっこで飛び道具の対処は知っている。
吸血鬼の心臓を射抜く事は、容易ではないのだ。
そして、銃と言う武器の性質上、距離さえ詰めてしまえばそう怖くはない。
一太刀で斬り伏せて、血を頂き、後ろに控える悟空との戦闘に向けた燃料とする。
既にフランにはその算段が立っていた。
二発三発、次弾が襲ってくるものの、正面からならばさほど労せず対処可能だ。
このまま押し切る。


「───さよなら」


ガンッ!と恐らく距離的に最後の銃弾をいなし、アロンダイトを振り上げる。
この距離ならば心臓に照準を合わせる前に叩き切る事ができる。
他の場所を撃たれたとしても吸血鬼である自分に致命傷にはならない。
返す刀でネモを斬り伏せてお終いだ。
例え肉を切られても、骨を断つ。
その意志の元、フランはアロンダイトを振り下ろした。
振り下ろそうとした。



「───っ!?」


それと殆ど同時に。
ネモの足元から、猛烈な速度で水が飛び出してきた。
猛烈な速度と圧力のその局地的な濁流は、マッハ3に達するとまで言われるウォーターカッターに酷似していた。
突如現れたネモが仕掛けた罠と、フランの炎剣が激突する。
当然、勢いはフランの方が遥かに強い。強いが故に──炎剣が一瞬で水分を蒸発させ、猛烈な圧力を生み出す。
結果──二人の間の空間が爆ぜた。水蒸気爆発を起こしたのだ。


「くっ──!」


圧力によって後退を余儀なくされ、水蒸気によって僅かな間視界が遮られる。
それが、合図だった。
フランの吸血鬼としてヒトを超えた視力が、水蒸気の向こうのネモが何かを取り出したのを捉える。


「何を出そうと…次で終わりにしてあげる!」


フランは臆さない。
このバトルロワイアルに連れてこられてから初めての敗北を喫したものの。
あの時はしんちゃんがいた。守らないといけない友達がいた。
でも、今の自分は一人だ。その背に守らないといけない枷は無い。
独りの自分に、壊せないものはない。その事を強く思いながら──少し開いてしまった距離を詰めるべく走る。


「MOOOOOOOOOOOOOッッッ!!!!!!!!!!!!!!!」


そんな彼女を出迎えたのは、勇壮なる神牛の嘶きと、防御壁の様に広がった雷廟であった。


「なっ…!?きゃああああああッッッ!!!」


突如として現れた二頭の牛と、その牛たちが発生させた雷に対処できず。
雷撃の直撃を受けて、フランドールは苦悶の声を上げた。
自身の肉の焦げた匂いを嗅ぎながら、夢中で後方へ後退する。
そして、仰ぎ見る。突如として目の前に現れた戦車(チャリオッツ)を。


「悪いね、フラン。騎兵なのに乗る物一つないんじゃ片手落ちだろう?」


御者台に鎮座し、手綱をしっかりと握り締めて、ネモはフランに告げた。
彼が操る戦車の名は『神威の車輪(ゴルディアス・ホイール)』
征服王イスカンダルこと、アレキサンダー大王の愛騎である。
これは元々神戸しおに支給されていた支給品であったが、魔力も乗り物を操った経験も無い彼女ではとても操り切れない代物だった。
だが、今の操縦者であるネモは違う。
彼の騎兵としての格を示す騎乗スキルは最高位のA+ランク。
その気になれば神獣から極音速戦闘機まで乗りこなす事ができる。


(それでも、他人の宝具を使うなんてまずできないけど…ここは乃亜の小細工の感謝かな)


ネモの本来の宝具であるノーチラス号は現在発動できない。
騎乗物を奪われた騎兵など、帯刀を禁止された侍に等しい。
そんな中で、同じギリシャ神話体系である神牛の戦車を得たのは、ネモにとって間違いなく僥倖であった。
制約として魔力消費が劣悪になっており、普段使いは出来そうにないが──
裏を返せば、戦闘時には切り札として問題なく使える。
これは『誰でもない者(ネームレス)」…彼の英霊としての性質も関係しているだろう。
何しろ彼は異なる世界線では全ての英霊達の頂点。
七騎の決戦存在である冠位(グランド)の資格さえ得るのだから。




「………余り、ワクワクさせないでもらえないかしら」



そんな、先ほどと比べれば数段以上厄介さを増した敵手の威容を見て。
仰ぎ見る吸血鬼の少女が浮かべるのは、笑みだった。
あの戦車をどうやって壊そうか、今はその事しか、彼女の脳裏には存在し得なかった。
臆する気配など、カケラほども感じない。
全力で、目の前の少年を破壊する。
時折同じ幻想郷の存在からも気が触れていると称される彼女の性分では、
守るよりも、壊す方がずっとずっといくつもの考えが浮かんでいた。

そして、その事は船長の英霊も察していたけれど。
それでも、彼女をここで説得する事を諦めてはいなかった。
ここで説得を諦めてしまえば、例えこの場での争いに勝利したとしても。
彼女は優勝を諦めず、遠からず自分達の手を離れて人の命を壊すだろう。
そうなってしまえば、もう彼女は後戻りできなくなる。
彼女を殺して止めるしかなくなる。
それは、野原しんのすけと言う少年も、きっと望んではいないはずだから……
だから、そんなしんのすけという少年が浮かばれない未来は、絶対に阻止する。



「───マスターも、きっと同じ選択をするだろう?」



想起するのは、自分が座に刻まれる切欠となった二代目のマスター。
橙色の髪をした、過酷な運命の中で、それでも諦める事を良しとしなかった少女。
彼女と駆け抜けた日々は、記録だけとなった今でもこの霊基の奥にある。
故に彼もまた、自らの想いを決して退くことは無い。



繋がる筈のなかったそれぞれの想いは交差し。
人間の子供はおろか、魔術師(マスター)のレベルでも介入できる段階を飛び越えて。
紛れもなく、聖杯に選ばれた英雄(サーヴァント)の領域の戦いが幕を開く。




【B-6 教会内/1日目/黎明】

【フランドール・スカーレット@東方project】
[状態]:ダメージ(中)、左翼損傷(修復中)、精神疲労(大)
[装備]:無毀なる湖光@Fate/Grand Order
[道具]:傘@現実、基本支給品、ランダム支給品1~2
[思考・状況]基本方針:友達になってくれたしんちゃんと一緒に行動、打倒主催
1:優勝して、しんちゃんを生き返らせる…?
2:手始めに、目の前の三人を壊す。
2:しんちゃんを殺した奴は…ゼッタイユルサナイ
[備考]
※弾幕、能力は制限されて使用できなくなっています
※飛行能力も低下しています
※一部スペルカードは使用できます。
※ジャックのスキル『情報抹消』により、ジャックについての情報を覚えていません。

【無毀なる湖光@Fate/Grand Order】
円卓の騎士、ランスロット卿の愛剣である神造兵装。
決して刃毀れせず、魔力を有する者が抜けば剣を抜いた間に全ての能力を上昇させ、ST判定において成功率が2倍になる。
竜退治の逸話を持つため、竜属性を持つ相手に対して追加ダメージを負わせる。


【孫悟空@ドラゴンボールGT】
[状態]:満腹、腕に裂傷(処置済み)、悟飯に対する絶大な信頼と期待とワクワク
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1~3
[思考・状況]基本方針:殺し合いを止める。
1:ネモが考えがあってやりたいってんならやらせてみるさ。ヤバくなったら助けてやる。
2:悟飯を探す。も、もしセルゲームの頃の悟飯なら……へへっ。
3:ネモに協力する。
4:カオスの奴は止める。
5:しおも見張らなきゃいけねえけど、あんま余裕ねえし、色々考えとかねえと。
[備考]
※参戦時期はベビー編終了直後。
※殺し合いが破綻しないよう力を制限されています。
※SSは一度の変身で12時間使用不可、SS2は24時間使用不可。
※SS3、SS4はそもそも制限によりなれません。
※瞬間移動も制限により使用不能です。
※舞空術、気の探知が著しく制限されています。戦闘時を除くと基本使用不能です。
※記憶を読むといった能力も使えません。
※悟飯の参戦時期をセルゲームの頃だと推測しました。
※ドラゴンボールについての会話が制限されています。一律で禁止されているか、優勝狙いの参加者相手の限定的なものかは後続の書き手にお任せします。


【キャプテン・ネモ@Fate/Grand Order】
[状態]:健康、しおに対する警戒心
[装備]:.454カスール カスタムオート(弾:7/7)@HELLSING、神威の車輪@Fate/Grand Order
[道具]:基本支給品、13mm爆裂鉄鋼弾(50発)@HELLSING、ソード・カトラス@BLACK LAGOON×2、
ランダム支給品1~2、神戸しおの基本支給品&ランダム支給品0~1
[思考・状況]基本方針:殺し合いを止める。
1:フランドールは、ここで止める。
2:教会→図書館の順で調べた後、学校に向かう。
3:首輪の解析のためのサンプルが欲しい。
4:カオスは止めたい。
5:しおを警戒しつつも保護はする。今後の扱いも考えていく。
6:教会で、しおの手当もしてあげる。
[備考]
※現地召喚された野良サーヴァントという扱いで現界しています。
※宝具である『我は征く、鸚鵡貝の大衝角』は現在使用不能です。
※ドラゴンボールについての会話が制限されています。一律で禁止されているか、優勝狙いの参加者相手の限定的なものかは後続の書き手にお任せします。

【神戸しお@ハッピーシュガーライフ】
[状態]ダメージ(中)全身羽と血だらけ
[装備]なし
[道具]なし
[思考・状況]基本方針:優勝する。
1:ネモさん、悟空お爺ちゃんに従い、同行する。参加者の数が減るまで待つ。
2:天使さんに、やられちゃった怪我の治療もした方がいいよね。
[備考]
松坂さとうとマンションの屋上で心中する寸前からの参戦です。


【神威の車輪@Fate/Grand Order】
古風な二頭立ての戦車で、征服王の代表的な宝具。
その戦闘能力は近代兵器でいうなら戦略爆撃機に匹敵する。
牡牛の蹄と車輪が虚空を蹴れば、その都度アーサー王の渾身の一撃に匹敵するであろう魔力とともに紫電を迸らせ、雷鳴が響き渡る。
御者台は防護力場に覆われており、ジル・ド・レェの怪魔の血飛沫を寄せ付けなかった。
制限により誰でも扱う事が出来るようになっているものの、ただの子供が乗りこなせる代物ではない。
魔力の消耗も激しくなっており、普段使いは先ずできない。


051:「藤木、友達を失くす」の巻 投下順に読む 053:KC Sleep
050:Everyday Level Up!! 時系列順に読む
026:この甘い世界嘘になるなら キャプテン・ネモ 062:MELTY BLOOD
孫悟空
神戸しお
020:燃えよ失意の夢 フランドール・スカーレット

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