だんのこまち@wiki
謎の探偵現る
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夜の素材探索
「えっと……月光草が七つ、夜露の実が五つ、できれば薄明茸も三つ」
私はギルドハウスの倉庫前で、採取メモを確認していました。
ギルドハウスに慣れてきたとはいえ、倉庫の前に立つと少しだけ背筋が伸びます。
ここには、みなさんが集めた素材や装備、料理の材料、使い道のよくわからないけれどガトーショコラさんが「あとで使うかも」と言って保管したものなど、いろいろな物が入っています。
最初の頃は、触っていいのかもわからず、倉庫画面を開くだけで緊張していました。
でも最近は、少しずつ自分でも素材を入れるようになりました。
グラスボアの牙。
小さな薬草。
低レベル帯の鉱石。
まだまだ珍しいものではありません。
それでも、自分で集めたものを倉庫に入れると、少しだけ団ノ子の役に立てている気がします。
「チョコさん、今日は採取?」
近くを通りかかったスフレさんが声をかけてくれました。
「はい。夜に出る素材を少し集めてこようと思って」
「一人で?」
「はい。王都近くの安全なルートだけですし、時間も短めにします」
そう答えながら、私はメモの下にもう一つ書き足します。
<危なくなったらすぐ戻る>
これは、みたらしっぽさんにもシュガーシロップさんにも言われたことです。
前よりは戦えるようになりました。
グラスボアの突進も、全部ではありませんが避けられるようになりました。
でも、まだ一人で遠くまで行くほど強くはありません。
そこはちゃんとわかっています。
「無理しないでね」
「はい。採取場所も共有しておきます」
私はギルドチャットに短く書き込みました。
<チョコチップ:王都東の月見丘で夜素材を少し採ってきます。三十分くらいで戻ります>
すぐに返事が来ました。
<みたらしっぽ:了解。危なくなったら戻ってね>
<シュガーシロップ:敵が出たら呼んで>
<ガトーショコラ:月見丘なら北側の木陰に薄明茸あるよ>
<スフレ:帰ったら回復薬補充しておくね>
<つきみ:南の崖沿いは落ちやすいから近づかないこと>
<フォンダンアイリス:夜は視界が悪いから、採取に集中しすぎないように>
<エクレアマルテール:私も行く!?>
<フォンダンアイリス:あなたは今コロシアムでしょ>
<エクレアマルテール:そうだった!>
思わず笑ってしまいました。
こうして返事が来るだけで、少し安心します。
でも今日は、できれば一人で行ってみたい気持ちもありました。
誰かに頼らない、という意味ではありません。
みなさんがいてくれるとわかった上で、自分にできることを一つ増やしたかったのです。
「行ってきます」
私は倉庫画面を閉じ、ギルドハウスを出ました。
王都ペル・ゼノンの夜は、昼とは少し違います。
通りの灯りが石畳を淡く照らしていて、店の看板も落ち着いた色になります。
昼間のにぎやかさが少し遠くなって、足音がいつもよりはっきり聞こえる気がしました。
私の水色の髪も、夜の光の中では少しだけ色が深く見えます。
この髪色にも、だいぶ慣れてきました。
最初は鏡を見るたびに驚いていましたが、今はこの姿で町を歩くと、ちゃんとFoFの中にいる自分だと思えます。
王都の東門を抜けると、夜の草原が広がっていました。
空には大きな月。
その光を受けて、草の先が白く光っています。
「綺麗……」
一人で出てきたからでしょうか。
いつもより、周りの音がよく聞こえます。
虫の声。
遠くの魔物の足音。
風で草が揺れる音。
私はメモを見ながら、月見丘へ向かいました。
私はギルドハウスの倉庫前で、採取メモを確認していました。
ギルドハウスに慣れてきたとはいえ、倉庫の前に立つと少しだけ背筋が伸びます。
ここには、みなさんが集めた素材や装備、料理の材料、使い道のよくわからないけれどガトーショコラさんが「あとで使うかも」と言って保管したものなど、いろいろな物が入っています。
最初の頃は、触っていいのかもわからず、倉庫画面を開くだけで緊張していました。
でも最近は、少しずつ自分でも素材を入れるようになりました。
グラスボアの牙。
小さな薬草。
低レベル帯の鉱石。
まだまだ珍しいものではありません。
それでも、自分で集めたものを倉庫に入れると、少しだけ団ノ子の役に立てている気がします。
「チョコさん、今日は採取?」
近くを通りかかったスフレさんが声をかけてくれました。
「はい。夜に出る素材を少し集めてこようと思って」
「一人で?」
「はい。王都近くの安全なルートだけですし、時間も短めにします」
そう答えながら、私はメモの下にもう一つ書き足します。
<危なくなったらすぐ戻る>
これは、みたらしっぽさんにもシュガーシロップさんにも言われたことです。
前よりは戦えるようになりました。
グラスボアの突進も、全部ではありませんが避けられるようになりました。
でも、まだ一人で遠くまで行くほど強くはありません。
そこはちゃんとわかっています。
「無理しないでね」
「はい。採取場所も共有しておきます」
私はギルドチャットに短く書き込みました。
<チョコチップ:王都東の月見丘で夜素材を少し採ってきます。三十分くらいで戻ります>
すぐに返事が来ました。
<みたらしっぽ:了解。危なくなったら戻ってね>
<シュガーシロップ:敵が出たら呼んで>
<ガトーショコラ:月見丘なら北側の木陰に薄明茸あるよ>
<スフレ:帰ったら回復薬補充しておくね>
<つきみ:南の崖沿いは落ちやすいから近づかないこと>
<フォンダンアイリス:夜は視界が悪いから、採取に集中しすぎないように>
<エクレアマルテール:私も行く!?>
<フォンダンアイリス:あなたは今コロシアムでしょ>
<エクレアマルテール:そうだった!>
思わず笑ってしまいました。
こうして返事が来るだけで、少し安心します。
でも今日は、できれば一人で行ってみたい気持ちもありました。
誰かに頼らない、という意味ではありません。
みなさんがいてくれるとわかった上で、自分にできることを一つ増やしたかったのです。
「行ってきます」
私は倉庫画面を閉じ、ギルドハウスを出ました。
王都ペル・ゼノンの夜は、昼とは少し違います。
通りの灯りが石畳を淡く照らしていて、店の看板も落ち着いた色になります。
昼間のにぎやかさが少し遠くなって、足音がいつもよりはっきり聞こえる気がしました。
私の水色の髪も、夜の光の中では少しだけ色が深く見えます。
この髪色にも、だいぶ慣れてきました。
最初は鏡を見るたびに驚いていましたが、今はこの姿で町を歩くと、ちゃんとFoFの中にいる自分だと思えます。
王都の東門を抜けると、夜の草原が広がっていました。
空には大きな月。
その光を受けて、草の先が白く光っています。
「綺麗……」
一人で出てきたからでしょうか。
いつもより、周りの音がよく聞こえます。
虫の声。
遠くの魔物の足音。
風で草が揺れる音。
私はメモを見ながら、月見丘へ向かいました。
黒い影
月光草は、名前の通り月の光が当たる場所に咲く素材です。
昼間にはただの細い草に見えますが、夜になると葉の先が薄く光ります。
私はしゃがみ込み、採取ナイフで根元を傷つけないように切りました。
「一つ、二つ……」
採取数を確認しながら、バッグへ入れていきます。
前は採取中に周りを見る余裕がありませんでした。
でも今は、少しだけ意識できます。
採取。
周囲確認。
メモ。
また採取。
みたらしっぽさんに教わったわけではありませんが、たぶん戦闘と同じです。
一つのことに集中しすぎると、次に来るものに遅れてしまいます。
「月光草、六つ……あと一つ」
そう呟いた時でした。
丘の下の木立の向こうを、何か黒いものが横切りました。
私は手を止めます。
魔物でしょうか。
でも、魔物にしては動きが変でした。
獣のように走るのではなく、人が身を低くして移動しているような影。
黒い外套のようなものが、月明かりを一瞬だけ遮りました。
「……プレイヤーさん?」
私は小さく声を出しました。
返事はありません。
影はもう見えなくなっています。
気のせいだったのでしょうか。
でも、確かに何かいました。
私は少し迷いました。
確認に行くべきでしょうか。
いえ、だめです。
今日の目的は素材探索です。
安全なルートで、短時間で戻る。
自分でそう決めました。
不審なものを見かけたからといって、予定にない場所へ行くのはよくありません。
「……見なかったことにしましょう」
そう言いながら、私は最後の月光草を採取しました。
でも、一度気になってしまうと、どうしても意識してしまいます。
木立の方。
丘の影。
岩の向こう。
黒い影はもう見えません。
それなのに、見られているような感じがしました。
怖い、というより、不思議です。
敵意があるならもっと嫌な感じがするはずです。
でも、その影からは、近づいてくる圧のようなものはありませんでした。
むしろ、こちらが気づかないように距離を取っているような。
「……気にしすぎですね」
私は自分に言い聞かせ、次の素材の場所へ向かいました。
月見丘の北側。
ガトーショコラさんが教えてくれた木陰には、薄明茸があるはずです。
夜だけ傘の裏が淡く光る茸で、回復薬や一部の料理に使えると聞きました。
本当は、ここまで採れたら十分です。
でも、せっかくなら三つくらい集めたい。
私は少しだけ足を速めました。
その時、視界の端に通知が出ました。
<パーティー招待を受けました>
「え?」
知らない名前でした。
私は立ち止まります。
周囲を見ると、少し離れた岩場の近くに、三人組のプレイヤーが立っていました。
こちらを見ています。
そのうちの一人が、軽く手を振りました。
「あ、やっぱ気づいた。ねえ、ソロ?」
私は少しだけ身構えました。
「はい。今日は採取だけなので」
「採取ならパーティー組んだ方が効率いいって。こっち、空きあるから」
「いえ、大丈夫です」
私はすぐに招待を拒否しました。
角が立たないように、少し頭も下げます。
「今日は一人で採取の練習をしているので」
「練習?」
別の人が笑いました。
「採取に練習とかある?」
「初心者?」
「団ノ子ってタグついてるじゃん。あそこって最近名前見るけど、初心者も入れてるんだ」
その言い方に、少しだけ胸がざわつきました。
団ノ子の名前を、軽く扱われたような気がしたからです。
でも、ここで怒ってもよくありません。
「すみません。用事がありますので」
私はその場を離れようとしました。
また通知が出ます。
<パーティー招待を受けました>
拒否。
また通知。
<パーティー招待を受けました>
「……」
私は深呼吸しました。
落ち着いて。
相手が悪いことをしているとは限りません。
ただ、少し強引なだけかもしれません。
そう思おうとしました。
けれど、三人は距離を詰めてきます。
「そんな急がなくてもいいじゃん」
「夜の素材って一人だと危ないよ?」
「俺らと組めば安全だって」
「本当に大丈夫です」
私ははっきり言いました。
声が少し震えましたが、言えました。
「今日は一人で採取したいので、パーティーには入りません」
三人の表情が少し変わりました。
笑っているのに、目が笑っていないように見えます。
「ふーん」
「じゃあさ、その素材場所だけ教えてよ」
「団ノ子の人ならいい場所知ってるんでしょ?」
「それも、教えられません」
私は一歩下がりました。
その瞬間、足元の草が揺れます。
背後で、低い唸り声がしました。
振り返ると、夜行性の狼型モンスターが二体、こちらへ向かってきていました。
三人組の一人が笑います。
「あー、そっち行った」
「夜の敵、初心者にはきついよ」
「だから組もうって言ったのに」
違います。
この人たちは助けたいのではありません。
助けるふりをして、こちらを断りづらくしようとしている。
やっと、そうわかりました。
私は剣を抜きました。
「……自分で対応します」
狼型モンスターが地面を蹴ります。
二体同時。
一体なら、なんとか避けられるかもしれません。
でも、後ろには三人組。
横は木立。
逃げるルートが狭いです。
ギルドチャットを開く余裕はありません。
「チョコさん、横」
みたらしっぽさんの声を思い出しました。
正面から受けなくていい。
私は右へ跳びました。
一体目の突進を避けます。
でも、二体目がすぐに角度を変えました。
速い。
「っ……!」
剣を構え直した瞬間。
私の前を、黒い影が通りました。
昼間にはただの細い草に見えますが、夜になると葉の先が薄く光ります。
私はしゃがみ込み、採取ナイフで根元を傷つけないように切りました。
「一つ、二つ……」
採取数を確認しながら、バッグへ入れていきます。
前は採取中に周りを見る余裕がありませんでした。
でも今は、少しだけ意識できます。
採取。
周囲確認。
メモ。
また採取。
みたらしっぽさんに教わったわけではありませんが、たぶん戦闘と同じです。
一つのことに集中しすぎると、次に来るものに遅れてしまいます。
「月光草、六つ……あと一つ」
そう呟いた時でした。
丘の下の木立の向こうを、何か黒いものが横切りました。
私は手を止めます。
魔物でしょうか。
でも、魔物にしては動きが変でした。
獣のように走るのではなく、人が身を低くして移動しているような影。
黒い外套のようなものが、月明かりを一瞬だけ遮りました。
「……プレイヤーさん?」
私は小さく声を出しました。
返事はありません。
影はもう見えなくなっています。
気のせいだったのでしょうか。
でも、確かに何かいました。
私は少し迷いました。
確認に行くべきでしょうか。
いえ、だめです。
今日の目的は素材探索です。
安全なルートで、短時間で戻る。
自分でそう決めました。
不審なものを見かけたからといって、予定にない場所へ行くのはよくありません。
「……見なかったことにしましょう」
そう言いながら、私は最後の月光草を採取しました。
でも、一度気になってしまうと、どうしても意識してしまいます。
木立の方。
丘の影。
岩の向こう。
黒い影はもう見えません。
それなのに、見られているような感じがしました。
怖い、というより、不思議です。
敵意があるならもっと嫌な感じがするはずです。
でも、その影からは、近づいてくる圧のようなものはありませんでした。
むしろ、こちらが気づかないように距離を取っているような。
「……気にしすぎですね」
私は自分に言い聞かせ、次の素材の場所へ向かいました。
月見丘の北側。
ガトーショコラさんが教えてくれた木陰には、薄明茸があるはずです。
夜だけ傘の裏が淡く光る茸で、回復薬や一部の料理に使えると聞きました。
本当は、ここまで採れたら十分です。
でも、せっかくなら三つくらい集めたい。
私は少しだけ足を速めました。
その時、視界の端に通知が出ました。
<パーティー招待を受けました>
「え?」
知らない名前でした。
私は立ち止まります。
周囲を見ると、少し離れた岩場の近くに、三人組のプレイヤーが立っていました。
こちらを見ています。
そのうちの一人が、軽く手を振りました。
「あ、やっぱ気づいた。ねえ、ソロ?」
私は少しだけ身構えました。
「はい。今日は採取だけなので」
「採取ならパーティー組んだ方が効率いいって。こっち、空きあるから」
「いえ、大丈夫です」
私はすぐに招待を拒否しました。
角が立たないように、少し頭も下げます。
「今日は一人で採取の練習をしているので」
「練習?」
別の人が笑いました。
「採取に練習とかある?」
「初心者?」
「団ノ子ってタグついてるじゃん。あそこって最近名前見るけど、初心者も入れてるんだ」
その言い方に、少しだけ胸がざわつきました。
団ノ子の名前を、軽く扱われたような気がしたからです。
でも、ここで怒ってもよくありません。
「すみません。用事がありますので」
私はその場を離れようとしました。
また通知が出ます。
<パーティー招待を受けました>
拒否。
また通知。
<パーティー招待を受けました>
「……」
私は深呼吸しました。
落ち着いて。
相手が悪いことをしているとは限りません。
ただ、少し強引なだけかもしれません。
そう思おうとしました。
けれど、三人は距離を詰めてきます。
「そんな急がなくてもいいじゃん」
「夜の素材って一人だと危ないよ?」
「俺らと組めば安全だって」
「本当に大丈夫です」
私ははっきり言いました。
声が少し震えましたが、言えました。
「今日は一人で採取したいので、パーティーには入りません」
三人の表情が少し変わりました。
笑っているのに、目が笑っていないように見えます。
「ふーん」
「じゃあさ、その素材場所だけ教えてよ」
「団ノ子の人ならいい場所知ってるんでしょ?」
「それも、教えられません」
私は一歩下がりました。
その瞬間、足元の草が揺れます。
背後で、低い唸り声がしました。
振り返ると、夜行性の狼型モンスターが二体、こちらへ向かってきていました。
三人組の一人が笑います。
「あー、そっち行った」
「夜の敵、初心者にはきついよ」
「だから組もうって言ったのに」
違います。
この人たちは助けたいのではありません。
助けるふりをして、こちらを断りづらくしようとしている。
やっと、そうわかりました。
私は剣を抜きました。
「……自分で対応します」
狼型モンスターが地面を蹴ります。
二体同時。
一体なら、なんとか避けられるかもしれません。
でも、後ろには三人組。
横は木立。
逃げるルートが狭いです。
ギルドチャットを開く余裕はありません。
「チョコさん、横」
みたらしっぽさんの声を思い出しました。
正面から受けなくていい。
私は右へ跳びました。
一体目の突進を避けます。
でも、二体目がすぐに角度を変えました。
速い。
「っ……!」
剣を構え直した瞬間。
私の前を、黒い影が通りました。
黒い外套の人
音は、ほとんどありませんでした。
風が切れたような気配だけがして、狼型モンスターの動きが止まります。
一体目の足元に、細い黒い針のようなものが刺さっていました。
二体目の首元には、短い刃が当たっています。
刃を持っていたのは、黒い外套のプレイヤーでした。
月明かりを背にしているせいで、顔はよく見えません。
でも、その立ち姿はとても静かでした。
強い人の中には、立っているだけで圧がある人がいます。
シュガーシロップさんのように、前に出る力が伝わってくる人。
つきみさんのように、どこへでも動ける余裕がある人。
でも、この人は少し違いました。
そこにいるのに、気づいた時にはもう終わっている。
そんな感じです。
「下がって」
黒い外套の人が言いました。
声は小さいのに、はっきり聞こえました。
私は反射的に下がります。
次の瞬間、その人の足元に黒い魔法陣のようなものが広がりました。
狼型モンスターが動こうとします。
けれど、影に足を掴まれたように動きが鈍ります。
「……一掃する」
外套の人が短く言いました。
袖の中から、いくつもの小さな刃が放たれます。
それは魔法なのか、投擲武器なのか、私には判断できませんでした。
刃は月明かりを受けて一瞬だけ光り、狼型モンスターの急所を正確に捉えます。
一体。
二体。
さらに、少し離れた場所に隠れていた三体目まで。
光の粒になって消えていきました。
戦闘終了の表示が出ます。
私は剣を構えたまま、しばらく動けませんでした。
速すぎて、何が起きたのかわかりません。
三人組のプレイヤーも、黙っていました。
黒い外套の人は、その三人へ視線を向けます。
「この辺りで強引なパーティー勧誘が出ていると聞いた」
「は?」
「な、何のこと?」
「勧誘しただけだろ」
「断られたあとに招待を連打。素材場所の要求。モンスター誘導を利用した圧迫。ログは残る」
淡々とした声でした。
怒鳴っているわけではありません。
でも、その方が少し怖いです。
「次に同じことをしたら、記録を添えて通報する」
「……なんだよ、面倒くさ」
「行こうぜ」
三人は小さく文句を言いながら、足早に去っていきました。
黒い外套の人は追いません。
ただ、その背中をじっと見ていました。
やがて三人の姿が完全に見えなくなると、こちらを振り返ります。
「怪我は?」
「あ、ありません。助けていただいて、ありがとうございます」
私は慌てて頭を下げました。
「助けたというより、調査対象が動いたから処理しただけ」
「調査対象……?」
「あの三人」
外套の人は、落ちた素材を拾いながら答えました。
「数日前から、夜素材を集めに来たプレイヤーに強引な勧誘をしていた。断ると素材場所を聞き出そうとする。場合によっては、モンスターの誘導で不安を煽る」
「そんなことが……」
「大きな被害はまだ出ていない。でも、放っておくと面倒」
そう言って、その人はようやく外套のフードを少し上げました。
名前表示が見えます。
<エスプレッソ>
静かな名前でした。
「エスプレッソさん……」
「そう」
「私はチョコチップです」
「知ってる」
「えっ」
思わず顔を上げてしまいました。
エスプレッソさんは、表情をあまり変えずに言います。
「ギルドタグが出ている。団ノ子のチョコチップ。最近、初心者帯でよく見る水色髪のファイター」
「そ、そこまで……」
「調べたわけじゃない。見ればわかる情報」
「見ればわかる情報が多いです……」
私は少しだけ困ってしまいました。
でも、不思議と嫌な感じはしません。
この人は、無遠慮に踏み込んでくるというより、観察して必要なことだけ拾っているように見えました。
「さっきの黒い影は、エスプレッソさんだったんですね」
「たぶん」
「たぶん?」
「あなたが見た影が私なら、私」
「そういう答え方なんですね」
「見た本人にしか確定できない」
とても真面目です。
でも、少しだけ変です。
私は思わず笑いそうになって、すぐに口元を押さえました。
エスプレッソさんはそれに気づいたのか、少しだけ首を傾げます。
「何かおかしい?」
「いえ。真面目な方なんだなと思って」
「それは、あまり言われない」
「そうなんですか?」
「物静か、暗い、怪しい、何を考えているかわからない、は言われる」
「そ、それは……」
否定しようとして、言葉に詰まりました。
さっきまで黒い影として木立を移動していた人です。
怪しくないと言い切るのは、少し難しいです。
エスプレッソさんは小さく頷きました。
「無理に否定しなくていい」
「すみません……」
「謝ることでもない」
会話のテンポが少し不思議です。
でも、落ち着きます。
声が大きくないからでしょうか。
それとも、こちらに無理に踏み込んでこないからでしょうか。
私は剣を鞘に戻しました。
「本当にありがとうございました。あのままだと、たぶんギルドチャットを開く前に攻撃されていました」
「あなたの判断は悪くなかった」
「え?」
「拒否した。距離を取った。剣を抜いた。逃げ道も探していた」
エスプレッソさんは淡々と言います。
「失敗は、相手が聞くと思ったこと」
「……そうですね」
少し胸が痛みました。
私は、できれば相手も悪い人ではないと思いたかったのです。
でも、そう思っている間に、逃げるタイミングが遅れていました。
「疑うのは、悪いこと?」
エスプレッソさんが聞きました。
「えっと……」
「私は、悪いことではないと思う。疑うのは、嫌うこととは違う。自分と相手の距離を測ること」
「距離を測る……」
「近すぎると、見えないものがある」
その言葉は、少しだけ胸に残りました。
私は人を疑うのがあまり得意ではありません。
でも、何でも信じることが優しさとは限らないのかもしれません。
「エスプレッソさんは、そういうことを調べているんですか?」
「そういうことも」
「探偵さんみたいですね」
そう言うと、エスプレッソさんは少しだけ目を細めました。
表情としては、ほとんど変わっていません。
でも、ほんの少しだけ雰囲気が変わった気がしました。
「探偵をしている」
「……本当にですか?」
「本当に」
「FoFの職業で、探偵というものがあるんですか?」
「ない」
「ないんですね」
「職業ではない。やっていること」
エスプレッソさんは、黒い小さな手帳のようなアイテムを開きました。
そこには、場所の名前や時間、プレイヤー名らしきメモが細かく書かれています。
「怪しい動き、隠しクエスト、未確認NPC、迷惑プレイヤーの傾向。気になったことを調べる」
「すごい……」
「ただの趣味」
「趣味でここまで?」
「ソロだと、こういう遊び方が向いている」
その言葉に、少しだけ寂しさのようなものを感じました。
ソロ。
一人で遊ぶ人。
FoFには、そういう人もたくさんいるのだと思います。
一人で好きなように歩くのは、きっと楽しいです。
でも、私は団ノ子に入ってから、誰かと一緒にいる安心感を知りました。
だからでしょうか。
エスプレッソさんの言葉が、少しだけ遠く聞こえました。
風が切れたような気配だけがして、狼型モンスターの動きが止まります。
一体目の足元に、細い黒い針のようなものが刺さっていました。
二体目の首元には、短い刃が当たっています。
刃を持っていたのは、黒い外套のプレイヤーでした。
月明かりを背にしているせいで、顔はよく見えません。
でも、その立ち姿はとても静かでした。
強い人の中には、立っているだけで圧がある人がいます。
シュガーシロップさんのように、前に出る力が伝わってくる人。
つきみさんのように、どこへでも動ける余裕がある人。
でも、この人は少し違いました。
そこにいるのに、気づいた時にはもう終わっている。
そんな感じです。
「下がって」
黒い外套の人が言いました。
声は小さいのに、はっきり聞こえました。
私は反射的に下がります。
次の瞬間、その人の足元に黒い魔法陣のようなものが広がりました。
狼型モンスターが動こうとします。
けれど、影に足を掴まれたように動きが鈍ります。
「……一掃する」
外套の人が短く言いました。
袖の中から、いくつもの小さな刃が放たれます。
それは魔法なのか、投擲武器なのか、私には判断できませんでした。
刃は月明かりを受けて一瞬だけ光り、狼型モンスターの急所を正確に捉えます。
一体。
二体。
さらに、少し離れた場所に隠れていた三体目まで。
光の粒になって消えていきました。
戦闘終了の表示が出ます。
私は剣を構えたまま、しばらく動けませんでした。
速すぎて、何が起きたのかわかりません。
三人組のプレイヤーも、黙っていました。
黒い外套の人は、その三人へ視線を向けます。
「この辺りで強引なパーティー勧誘が出ていると聞いた」
「は?」
「な、何のこと?」
「勧誘しただけだろ」
「断られたあとに招待を連打。素材場所の要求。モンスター誘導を利用した圧迫。ログは残る」
淡々とした声でした。
怒鳴っているわけではありません。
でも、その方が少し怖いです。
「次に同じことをしたら、記録を添えて通報する」
「……なんだよ、面倒くさ」
「行こうぜ」
三人は小さく文句を言いながら、足早に去っていきました。
黒い外套の人は追いません。
ただ、その背中をじっと見ていました。
やがて三人の姿が完全に見えなくなると、こちらを振り返ります。
「怪我は?」
「あ、ありません。助けていただいて、ありがとうございます」
私は慌てて頭を下げました。
「助けたというより、調査対象が動いたから処理しただけ」
「調査対象……?」
「あの三人」
外套の人は、落ちた素材を拾いながら答えました。
「数日前から、夜素材を集めに来たプレイヤーに強引な勧誘をしていた。断ると素材場所を聞き出そうとする。場合によっては、モンスターの誘導で不安を煽る」
「そんなことが……」
「大きな被害はまだ出ていない。でも、放っておくと面倒」
そう言って、その人はようやく外套のフードを少し上げました。
名前表示が見えます。
<エスプレッソ>
静かな名前でした。
「エスプレッソさん……」
「そう」
「私はチョコチップです」
「知ってる」
「えっ」
思わず顔を上げてしまいました。
エスプレッソさんは、表情をあまり変えずに言います。
「ギルドタグが出ている。団ノ子のチョコチップ。最近、初心者帯でよく見る水色髪のファイター」
「そ、そこまで……」
「調べたわけじゃない。見ればわかる情報」
「見ればわかる情報が多いです……」
私は少しだけ困ってしまいました。
でも、不思議と嫌な感じはしません。
この人は、無遠慮に踏み込んでくるというより、観察して必要なことだけ拾っているように見えました。
「さっきの黒い影は、エスプレッソさんだったんですね」
「たぶん」
「たぶん?」
「あなたが見た影が私なら、私」
「そういう答え方なんですね」
「見た本人にしか確定できない」
とても真面目です。
でも、少しだけ変です。
私は思わず笑いそうになって、すぐに口元を押さえました。
エスプレッソさんはそれに気づいたのか、少しだけ首を傾げます。
「何かおかしい?」
「いえ。真面目な方なんだなと思って」
「それは、あまり言われない」
「そうなんですか?」
「物静か、暗い、怪しい、何を考えているかわからない、は言われる」
「そ、それは……」
否定しようとして、言葉に詰まりました。
さっきまで黒い影として木立を移動していた人です。
怪しくないと言い切るのは、少し難しいです。
エスプレッソさんは小さく頷きました。
「無理に否定しなくていい」
「すみません……」
「謝ることでもない」
会話のテンポが少し不思議です。
でも、落ち着きます。
声が大きくないからでしょうか。
それとも、こちらに無理に踏み込んでこないからでしょうか。
私は剣を鞘に戻しました。
「本当にありがとうございました。あのままだと、たぶんギルドチャットを開く前に攻撃されていました」
「あなたの判断は悪くなかった」
「え?」
「拒否した。距離を取った。剣を抜いた。逃げ道も探していた」
エスプレッソさんは淡々と言います。
「失敗は、相手が聞くと思ったこと」
「……そうですね」
少し胸が痛みました。
私は、できれば相手も悪い人ではないと思いたかったのです。
でも、そう思っている間に、逃げるタイミングが遅れていました。
「疑うのは、悪いこと?」
エスプレッソさんが聞きました。
「えっと……」
「私は、悪いことではないと思う。疑うのは、嫌うこととは違う。自分と相手の距離を測ること」
「距離を測る……」
「近すぎると、見えないものがある」
その言葉は、少しだけ胸に残りました。
私は人を疑うのがあまり得意ではありません。
でも、何でも信じることが優しさとは限らないのかもしれません。
「エスプレッソさんは、そういうことを調べているんですか?」
「そういうことも」
「探偵さんみたいですね」
そう言うと、エスプレッソさんは少しだけ目を細めました。
表情としては、ほとんど変わっていません。
でも、ほんの少しだけ雰囲気が変わった気がしました。
「探偵をしている」
「……本当にですか?」
「本当に」
「FoFの職業で、探偵というものがあるんですか?」
「ない」
「ないんですね」
「職業ではない。やっていること」
エスプレッソさんは、黒い小さな手帳のようなアイテムを開きました。
そこには、場所の名前や時間、プレイヤー名らしきメモが細かく書かれています。
「怪しい動き、隠しクエスト、未確認NPC、迷惑プレイヤーの傾向。気になったことを調べる」
「すごい……」
「ただの趣味」
「趣味でここまで?」
「ソロだと、こういう遊び方が向いている」
その言葉に、少しだけ寂しさのようなものを感じました。
ソロ。
一人で遊ぶ人。
FoFには、そういう人もたくさんいるのだと思います。
一人で好きなように歩くのは、きっと楽しいです。
でも、私は団ノ子に入ってから、誰かと一緒にいる安心感を知りました。
だからでしょうか。
エスプレッソさんの言葉が、少しだけ遠く聞こえました。
探偵さんと休憩
「採取、続ける?」
エスプレッソさんが聞きました。
「えっと……本当は薄明茸をあと三つ採りたかったんですけど」
「場所は知ってる」
「知っているんですか?」
「調べたから」
「探偵さんですね……」
「それは関係ない。素材ポイントの把握は基本」
そう言いながら、エスプレッソさんは木立の奥へ歩き出しました。
私は少し迷いましたが、ついていくことにしました。
不思議な人です。
でも、危ない人ではないと思います。
少なくとも、さっきの三人よりはずっと信用できます。
木立の奥に入ると、薄明茸が本当にありました。
木の根元で、淡い紫色の光を放っています。
「ここ、ガトーショコラさんに教えてもらった場所より奥ですね」
「北側の木陰には二箇所ある。手前は採られやすい。奥は少し見つけにくい」
「よく知っていますね」
「夜に歩くことが多いから」
私は薄明茸を傷つけないように採取しました。
一つ。
二つ。
三つ。
目的数、達成です。
そのまま戻ってもよかったのですが、少しだけ気持ちが落ち着きませんでした。
さっき助けてもらったのに、そのまま「では」と別れるのも違う気がします。
「エスプレッソさん」
「何?」
「少しだけ、休憩しませんか?」
エスプレッソさんは私を見ました。
「なぜ?」
「えっと……お礼を言いたいのと、少しお話したいので」
「話すことは多くない」
「少しで大丈夫です」
「騒がしいのは苦手」
「私も、大声は出さないようにします」
そう言うと、エスプレッソさんは少し考えました。
そして、近くの倒木に腰を下ろします。
「五分なら」
「ありがとうございます」
私はその隣、少し距離を空けて座りました。
バッグから、スフレさんにもらった小さな回復用クッキーを取り出します。
「よければ」
「毒は?」
「入っていません!」
「冗談」
「冗談に聞こえませんでした……」
エスプレッソさんは無表情のままクッキーを一つ受け取りました。
食べる動きも静かです。
でも、少しだけ目が和らいだように見えました。
「美味しい」
「スフレさんが作ったものです」
「団ノ子の生産職?」
「はい。生産も支援もできて、歌もすごく綺麗です」
「なるほど」
エスプレッソさんは手帳に何かを書き込みました。
「えっ、今のも書くんですか?」
「情報だから」
「スフレさんのクッキーが美味しい、という情報ですか?」
「重要」
「重要なんですね」
少しだけ笑ってしまいました。
エスプレッソさんは、やっぱり少し変わっています。
でも、その変わり方は嫌ではありません。
「団ノ子は、騒がしい?」
「騒がしい時もあります」
私は正直に答えました。
「エクレアさんがいる時は、かなり」
「そう」
「でも、ずっと騒がしいわけではありません。スフレさんやガトーショコラさんは落ち着いていますし、みたらしっぽさんも話しやすいです。つきみさんは……時々ゆるいですけど、戦闘ではすごく頼れます」
「ギルドマスターは?」
「みたらしっぽさんです」
「強い?」
「強いです。でも、強いだけではないです」
私は少し考えました。
みたらしっぽさんを一言で説明するのは、意外と難しいです。
助けてくれる人。
でも、何でも決めつける人ではありません。
隣にいてくれるけれど、無理に前へ引っ張るのではなく、歩けるようになるまで待ってくれる人。
「困っている時に、名前を呼んでくれる人です」
そう言うと、エスプレッソさんは少しだけ黙りました。
「名前を呼ぶ」
「はい」
「それは、良いギルドマスターかもしれない」
「はい。良いギルドマスターです」
私は少しだけ胸を張りました。
自分のことではないのに、誇らしい気持ちになります。
「あなたは、団ノ子が好き?」
「はい」
今度は迷いませんでした。
「まだ入ってから長いわけではありません。でも、好きです」
「そう」
エスプレッソさんはクッキーの最後の欠片を食べました。
「ソロでやっていくには、限界がある」
ぽつりと、そんなことを言いました。
「エスプレッソさんでもですか?」
「私でも。情報収集は一人の方が楽。でも、レイドや高難易度フィールドは一人では届かない場所がある」
「そうですね……」
「それはわかってる。でも、騒がしい場所は疲れる」
「団ノ子は……少し騒がしいです」
「だと思う」
「でも、静かにしていたい時に、無理に話しかけてくる人ばかりではないと思います」
たぶん。
いえ、エクレアさんは少し話しかけてきそうです。
でも、アイリスさんが止めてくれる気がします。
「たぶん、距離を置いても大丈夫です。チロルさんのカフェみたいに、静かにいられる場所もありますし」
「カフェ?」
「カフェのんびりひっそり、という猫カフェです」
「猫」
エスプレッソさんの声が、ほんの少しだけ変わりました。
「猫、好きなんですか?」
「……嫌いではない」
「そうなんですね」
「今のは記録しなくていい」
「私は探偵ではないので、記録しません」
「ならいい」
少しだけ、エスプレッソさんが照れたように見えました。
本当にほんの少しだけです。
でも、見間違いではないと思います。
「団ノ子について、少し調べる」
エスプレッソさんが言いました。
「えっ」
「入るとは言っていない。調査するだけ」
「調査……」
「騒がしい場所か。危険な場所か。居心地が悪い場所か。逆に、使える場所か」
「使える場所、という言い方は少し寂しいです」
「では、関われる場所か」
「そちらの方がいいと思います」
「わかった」
エスプレッソさんは手帳に何かを書き直しました。
私はその様子を見て、少しだけ嬉しくなりました。
この人は、言葉を聞いてくれる人です。
静かで、少し怪しくて、探偵で。
でも、ちゃんと相手の言葉を受け取ってくれます。
エスプレッソさんが聞きました。
「えっと……本当は薄明茸をあと三つ採りたかったんですけど」
「場所は知ってる」
「知っているんですか?」
「調べたから」
「探偵さんですね……」
「それは関係ない。素材ポイントの把握は基本」
そう言いながら、エスプレッソさんは木立の奥へ歩き出しました。
私は少し迷いましたが、ついていくことにしました。
不思議な人です。
でも、危ない人ではないと思います。
少なくとも、さっきの三人よりはずっと信用できます。
木立の奥に入ると、薄明茸が本当にありました。
木の根元で、淡い紫色の光を放っています。
「ここ、ガトーショコラさんに教えてもらった場所より奥ですね」
「北側の木陰には二箇所ある。手前は採られやすい。奥は少し見つけにくい」
「よく知っていますね」
「夜に歩くことが多いから」
私は薄明茸を傷つけないように採取しました。
一つ。
二つ。
三つ。
目的数、達成です。
そのまま戻ってもよかったのですが、少しだけ気持ちが落ち着きませんでした。
さっき助けてもらったのに、そのまま「では」と別れるのも違う気がします。
「エスプレッソさん」
「何?」
「少しだけ、休憩しませんか?」
エスプレッソさんは私を見ました。
「なぜ?」
「えっと……お礼を言いたいのと、少しお話したいので」
「話すことは多くない」
「少しで大丈夫です」
「騒がしいのは苦手」
「私も、大声は出さないようにします」
そう言うと、エスプレッソさんは少し考えました。
そして、近くの倒木に腰を下ろします。
「五分なら」
「ありがとうございます」
私はその隣、少し距離を空けて座りました。
バッグから、スフレさんにもらった小さな回復用クッキーを取り出します。
「よければ」
「毒は?」
「入っていません!」
「冗談」
「冗談に聞こえませんでした……」
エスプレッソさんは無表情のままクッキーを一つ受け取りました。
食べる動きも静かです。
でも、少しだけ目が和らいだように見えました。
「美味しい」
「スフレさんが作ったものです」
「団ノ子の生産職?」
「はい。生産も支援もできて、歌もすごく綺麗です」
「なるほど」
エスプレッソさんは手帳に何かを書き込みました。
「えっ、今のも書くんですか?」
「情報だから」
「スフレさんのクッキーが美味しい、という情報ですか?」
「重要」
「重要なんですね」
少しだけ笑ってしまいました。
エスプレッソさんは、やっぱり少し変わっています。
でも、その変わり方は嫌ではありません。
「団ノ子は、騒がしい?」
「騒がしい時もあります」
私は正直に答えました。
「エクレアさんがいる時は、かなり」
「そう」
「でも、ずっと騒がしいわけではありません。スフレさんやガトーショコラさんは落ち着いていますし、みたらしっぽさんも話しやすいです。つきみさんは……時々ゆるいですけど、戦闘ではすごく頼れます」
「ギルドマスターは?」
「みたらしっぽさんです」
「強い?」
「強いです。でも、強いだけではないです」
私は少し考えました。
みたらしっぽさんを一言で説明するのは、意外と難しいです。
助けてくれる人。
でも、何でも決めつける人ではありません。
隣にいてくれるけれど、無理に前へ引っ張るのではなく、歩けるようになるまで待ってくれる人。
「困っている時に、名前を呼んでくれる人です」
そう言うと、エスプレッソさんは少しだけ黙りました。
「名前を呼ぶ」
「はい」
「それは、良いギルドマスターかもしれない」
「はい。良いギルドマスターです」
私は少しだけ胸を張りました。
自分のことではないのに、誇らしい気持ちになります。
「あなたは、団ノ子が好き?」
「はい」
今度は迷いませんでした。
「まだ入ってから長いわけではありません。でも、好きです」
「そう」
エスプレッソさんはクッキーの最後の欠片を食べました。
「ソロでやっていくには、限界がある」
ぽつりと、そんなことを言いました。
「エスプレッソさんでもですか?」
「私でも。情報収集は一人の方が楽。でも、レイドや高難易度フィールドは一人では届かない場所がある」
「そうですね……」
「それはわかってる。でも、騒がしい場所は疲れる」
「団ノ子は……少し騒がしいです」
「だと思う」
「でも、静かにしていたい時に、無理に話しかけてくる人ばかりではないと思います」
たぶん。
いえ、エクレアさんは少し話しかけてきそうです。
でも、アイリスさんが止めてくれる気がします。
「たぶん、距離を置いても大丈夫です。チロルさんのカフェみたいに、静かにいられる場所もありますし」
「カフェ?」
「カフェのんびりひっそり、という猫カフェです」
「猫」
エスプレッソさんの声が、ほんの少しだけ変わりました。
「猫、好きなんですか?」
「……嫌いではない」
「そうなんですね」
「今のは記録しなくていい」
「私は探偵ではないので、記録しません」
「ならいい」
少しだけ、エスプレッソさんが照れたように見えました。
本当にほんの少しだけです。
でも、見間違いではないと思います。
「団ノ子について、少し調べる」
エスプレッソさんが言いました。
「えっ」
「入るとは言っていない。調査するだけ」
「調査……」
「騒がしい場所か。危険な場所か。居心地が悪い場所か。逆に、使える場所か」
「使える場所、という言い方は少し寂しいです」
「では、関われる場所か」
「そちらの方がいいと思います」
「わかった」
エスプレッソさんは手帳に何かを書き直しました。
私はその様子を見て、少しだけ嬉しくなりました。
この人は、言葉を聞いてくれる人です。
静かで、少し怪しくて、探偵で。
でも、ちゃんと相手の言葉を受け取ってくれます。
帰り道
王都へ戻る頃には、予定していた三十分を少し過ぎていました。
私はギルドチャットに報告を入れます。
<チョコチップ:素材採取終わりました。少し遅れましたが、今戻っています>
すぐにみたらしっぽさんから返事が来ました。
<みたらしっぽ:了解。大丈夫だった?>
私は少し迷いました。
さっきのことを全部書くと、きっとみなさんが心配します。
でも、隠すことでもありません。
<チョコチップ:少し強引な勧誘がありましたが、助けてくれた方がいて大丈夫でした。戻ったら話します>
<シュガーシロップ:強引な勧誘?>
<フォンダンアイリス:場所と相手の特徴、あとで教えて>
<エクレアマルテール:誰!?助けてくれた人!?>
<つきみ:チョコさんが無事ならまず戻っておいで>
つきみさんの言葉に、少しほっとしました。
「愛されている」
隣を歩いていたエスプレッソさんが言いました。
「えっ?」
「返事が早い」
「みなさん、心配してくれているんだと思います」
「それを愛されていると言うのでは」
「そ、そういう言い方をされると恥ずかしいです」
「事実の言い換え」
エスプレッソさんは真面目です。
真面目に、少し照れることを言います。
王都の東門が見えてきました。
門の灯りが近づくと、夜の草原の緊張が少しずつ薄れていきます。
「エスプレッソさんは、このまま王都へ?」
「少しだけ」
「ギルドハウスに来ますか?」
言ってから、少し早かったかもしれないと思いました。
エスプレッソさんは騒がしいところが苦手です。
いきなり団ノ子のギルドハウスに連れていくのは、きっと負担になります。
「すみません。無理にではなくて」
「今日は行かない」
「はい」
「でも、場所は知っておきたい」
「では、外からだけ案内しますか?」
「それなら」
私は少し嬉しくなりました。
王都の通りを歩き、ギルドハウスの近くまで案内します。
建物の窓からは、暖かい光が漏れていました。
中から、誰かの話し声が少しだけ聞こえます。
たぶん、エクレアさんです。
かなり元気な声です。
エスプレッソさんは、足を止めました。
「……騒がしい」
「今日は、少し騒がしい日かもしれません」
「毎日では?」
「毎日では……ないと思います」
自信が少しだけ揺らぎました。
窓の向こうから、エクレアさんらしき声がしました。
「だからそこで一気に行けば勝てるって!」
続いて、アイリスさんの声が聞こえます。
「勢いだけで勝てるなら苦労しないわよ」
やっぱり騒がしいです。
エスプレッソさんは数秒間、窓の灯りを見つめていました。
「悪い騒がしさではなさそう」
「はい」
私はすぐに頷きました。
「そうなんです」
「ただ、長時間いるには準備が必要」
「準備……」
「心の」
「なるほど」
その言い方が少しおかしくて、私は笑ってしまいました。
「今日は、ここまでにする」
「はい。ありがとうございました、エスプレッソさん」
「こちらこそ」
「え?」
「クッキー、美味しかった」
「あ、はい。スフレさんに伝えておきます」
「それは伝えなくていい」
「どうしてですか?」
「次に会った時、直接言うかもしれない」
その言葉に、私は少しだけ目を丸くしました。
次に会った時。
つまり、また会うつもりがあるということです。
「では、また会えますか?」
「調査中だから」
「それは、会えるという意味ですか?」
「たぶん」
「たぶんなんですね」
「確定はしていない。でも、可能性は高い」
「では、楽しみにしています」
エスプレッソさんは少しだけ視線を逸らしました。
「楽しみにされると、出にくい」
「出にくい?」
「黒い影として」
「普通に来てくださって大丈夫です」
「検討する」
そう言って、エスプレッソさんは黒い外套を翻しました。
夜の路地へ、静かに歩いていきます。
足音はすぐに聞こえなくなりました。
最後に、彼女が小さく呟いた気がしました。
「調査対象、ギルド団ノ子」
そして、少し間を置いて。
「チョコチップ。要観察」
「私もですか?」
思わず聞き返しましたが、もう返事はありませんでした。
本当に探偵さんみたいです。
いえ、本人が探偵だと言っていました。
私はギルドハウスの扉の前に立ち、もう一度夜の路地を見ました。
黒い影は、もうどこにもありません。
でも、不思議と怖くはありませんでした。
私はギルドチャットに報告を入れます。
<チョコチップ:素材採取終わりました。少し遅れましたが、今戻っています>
すぐにみたらしっぽさんから返事が来ました。
<みたらしっぽ:了解。大丈夫だった?>
私は少し迷いました。
さっきのことを全部書くと、きっとみなさんが心配します。
でも、隠すことでもありません。
<チョコチップ:少し強引な勧誘がありましたが、助けてくれた方がいて大丈夫でした。戻ったら話します>
<シュガーシロップ:強引な勧誘?>
<フォンダンアイリス:場所と相手の特徴、あとで教えて>
<エクレアマルテール:誰!?助けてくれた人!?>
<つきみ:チョコさんが無事ならまず戻っておいで>
つきみさんの言葉に、少しほっとしました。
「愛されている」
隣を歩いていたエスプレッソさんが言いました。
「えっ?」
「返事が早い」
「みなさん、心配してくれているんだと思います」
「それを愛されていると言うのでは」
「そ、そういう言い方をされると恥ずかしいです」
「事実の言い換え」
エスプレッソさんは真面目です。
真面目に、少し照れることを言います。
王都の東門が見えてきました。
門の灯りが近づくと、夜の草原の緊張が少しずつ薄れていきます。
「エスプレッソさんは、このまま王都へ?」
「少しだけ」
「ギルドハウスに来ますか?」
言ってから、少し早かったかもしれないと思いました。
エスプレッソさんは騒がしいところが苦手です。
いきなり団ノ子のギルドハウスに連れていくのは、きっと負担になります。
「すみません。無理にではなくて」
「今日は行かない」
「はい」
「でも、場所は知っておきたい」
「では、外からだけ案内しますか?」
「それなら」
私は少し嬉しくなりました。
王都の通りを歩き、ギルドハウスの近くまで案内します。
建物の窓からは、暖かい光が漏れていました。
中から、誰かの話し声が少しだけ聞こえます。
たぶん、エクレアさんです。
かなり元気な声です。
エスプレッソさんは、足を止めました。
「……騒がしい」
「今日は、少し騒がしい日かもしれません」
「毎日では?」
「毎日では……ないと思います」
自信が少しだけ揺らぎました。
窓の向こうから、エクレアさんらしき声がしました。
「だからそこで一気に行けば勝てるって!」
続いて、アイリスさんの声が聞こえます。
「勢いだけで勝てるなら苦労しないわよ」
やっぱり騒がしいです。
エスプレッソさんは数秒間、窓の灯りを見つめていました。
「悪い騒がしさではなさそう」
「はい」
私はすぐに頷きました。
「そうなんです」
「ただ、長時間いるには準備が必要」
「準備……」
「心の」
「なるほど」
その言い方が少しおかしくて、私は笑ってしまいました。
「今日は、ここまでにする」
「はい。ありがとうございました、エスプレッソさん」
「こちらこそ」
「え?」
「クッキー、美味しかった」
「あ、はい。スフレさんに伝えておきます」
「それは伝えなくていい」
「どうしてですか?」
「次に会った時、直接言うかもしれない」
その言葉に、私は少しだけ目を丸くしました。
次に会った時。
つまり、また会うつもりがあるということです。
「では、また会えますか?」
「調査中だから」
「それは、会えるという意味ですか?」
「たぶん」
「たぶんなんですね」
「確定はしていない。でも、可能性は高い」
「では、楽しみにしています」
エスプレッソさんは少しだけ視線を逸らしました。
「楽しみにされると、出にくい」
「出にくい?」
「黒い影として」
「普通に来てくださって大丈夫です」
「検討する」
そう言って、エスプレッソさんは黒い外套を翻しました。
夜の路地へ、静かに歩いていきます。
足音はすぐに聞こえなくなりました。
最後に、彼女が小さく呟いた気がしました。
「調査対象、ギルド団ノ子」
そして、少し間を置いて。
「チョコチップ。要観察」
「私もですか?」
思わず聞き返しましたが、もう返事はありませんでした。
本当に探偵さんみたいです。
いえ、本人が探偵だと言っていました。
私はギルドハウスの扉の前に立ち、もう一度夜の路地を見ました。
黒い影は、もうどこにもありません。
でも、不思議と怖くはありませんでした。
報告
ギルドハウスに入ると、すぐにみたらしっぽさんがこちらを見ました。
「チョコさん、おかえり」
「ただいま戻りました」
「大丈夫だった?」
「はい。素材も採れました」
私はバッグから月光草と薄明茸を取り出しました。
それから、少しだけ迷って、続けます。
「それと、不思議な人に会いました」
「不思議な人?」
シュガーシロップさんが反応します。
「はい。黒い外套の、探偵さんです」
「探偵?」
ガトーショコラさんが少し興味を持ったように顔を上げました。
「名前は?」
「エスプレッソさん、です」
その名前を出すと、何人かが首を傾げました。
まだ団ノ子では知られていない名前のようです。
私は、夜の素材探索であったことを簡単に説明しました。
黒い影を見かけたこと。
強引なパーティー勧誘に遭ったこと。
狼型モンスターが来たこと。
そして、エスプレッソさんが助けてくれたこと。
みなさんは、思ったより静かに聞いてくれました。
エクレアさんだけは途中で何度か声を上げそうになっていましたが、そのたびにアイリスさんが止めていました。
「その三人の特徴、あとで整理しましょう」
アイリスさんが言いました。
「はい。覚えている範囲で書きます」
「チョコさんが無事でよかった」
スフレさんが静かに言ってくれます。
「ありがとうございます」
みたらしっぽさんは少し考えてから、言いました。
「エスプレッソさんか。探偵って名乗ったんだね」
「はい」
「面白い人だ」
「はい。少し不思議ですけど、いい人だと思います」
「チョコさんがそう言うなら、たぶんそうなんだろうね」
その言葉が、少し嬉しかったです。
私はまだ、人を見る目に自信があるわけではありません。
今日だって、強引な勧誘をしてきた人たちに、最初は悪い人ではないかもしれないと思ってしまいました。
でも、エスプレッソさんのことは、ちゃんと自分で感じたことを言えました。
「また会えると思います」
私は言いました。
「調査中、だそうなので」
「団ノ子が?」
「はい」
「調査されるのかぁ」
みたらしっぽさんは少し困ったように笑いました。
「変なことしてないはずだけど、なんか緊張するね」
「みたは普段通りでいいと思う」
つきみさんが言いました。
「普段通りが一番調査されるやつじゃない?」
「じゃあ、ちょっとだけちゃんとする?」
「それはそれで怪しい」
「たしかに」
シュガーシロップさんが腕を組みます。
「団ノ子、調査されたらどう見えるんだろうな」
エクレアさんが勢いよく手を上げました。
「楽しいギルド!」
アイリスさんがすぐに言います。
「騒がしいギルド、の間違いでは?」
「楽しくて騒がしいギルド!」
「悪化したわ」
私はそのやり取りを見て、少し笑いました。
きっとエスプレッソさんが今ここにいたら、少しだけ後ろへ下がると思います。
でも、悪い騒がしさではない。
そう言ってくれたことを思い出しました。
「エスプレッソさんにも、いつかここに来てほしいです」
私は小さく言いました。
「無理にではなくて。でも、少しだけ」
「うん」
みたらしっぽさんが頷きます。
「その時は、静かめに迎えよう」
「静かめにできるかな」
つきみさんが言います。
「努力する」
「努力じゃなくて実行」
「それ、最近よく言われる」
みんなが笑いました。
私は採ってきた素材を倉庫に入れます。
月光草。
夜露の実。
薄明茸。
今日の探索は、予定より少し大変でした。
怖いこともありました。
でも、それだけではありません。
夜の草原で、黒い影に出会いました。
静かで、不思議で、少し怪しい探偵さん。
エスプレッソさん。
彼女は団ノ子を調査すると言いました。
それがどういう意味なのか、まだわかりません。
でも、また会える気がします。
次に会った時、私はもう少しちゃんと話せるでしょうか。
スフレさんのクッキーが美味しかったと、本人に伝えるエスプレッソさんを見ることはできるでしょうか。
そんなことを考えながら、私は倉庫画面を閉じました。
ギルドハウスの窓の外には、王都の夜が広がっています。
そのどこかに、きっと黒い外套の探偵さんがいます。
私は少しだけ、その夜が前より広く見えました。
「チョコさん、おかえり」
「ただいま戻りました」
「大丈夫だった?」
「はい。素材も採れました」
私はバッグから月光草と薄明茸を取り出しました。
それから、少しだけ迷って、続けます。
「それと、不思議な人に会いました」
「不思議な人?」
シュガーシロップさんが反応します。
「はい。黒い外套の、探偵さんです」
「探偵?」
ガトーショコラさんが少し興味を持ったように顔を上げました。
「名前は?」
「エスプレッソさん、です」
その名前を出すと、何人かが首を傾げました。
まだ団ノ子では知られていない名前のようです。
私は、夜の素材探索であったことを簡単に説明しました。
黒い影を見かけたこと。
強引なパーティー勧誘に遭ったこと。
狼型モンスターが来たこと。
そして、エスプレッソさんが助けてくれたこと。
みなさんは、思ったより静かに聞いてくれました。
エクレアさんだけは途中で何度か声を上げそうになっていましたが、そのたびにアイリスさんが止めていました。
「その三人の特徴、あとで整理しましょう」
アイリスさんが言いました。
「はい。覚えている範囲で書きます」
「チョコさんが無事でよかった」
スフレさんが静かに言ってくれます。
「ありがとうございます」
みたらしっぽさんは少し考えてから、言いました。
「エスプレッソさんか。探偵って名乗ったんだね」
「はい」
「面白い人だ」
「はい。少し不思議ですけど、いい人だと思います」
「チョコさんがそう言うなら、たぶんそうなんだろうね」
その言葉が、少し嬉しかったです。
私はまだ、人を見る目に自信があるわけではありません。
今日だって、強引な勧誘をしてきた人たちに、最初は悪い人ではないかもしれないと思ってしまいました。
でも、エスプレッソさんのことは、ちゃんと自分で感じたことを言えました。
「また会えると思います」
私は言いました。
「調査中、だそうなので」
「団ノ子が?」
「はい」
「調査されるのかぁ」
みたらしっぽさんは少し困ったように笑いました。
「変なことしてないはずだけど、なんか緊張するね」
「みたは普段通りでいいと思う」
つきみさんが言いました。
「普段通りが一番調査されるやつじゃない?」
「じゃあ、ちょっとだけちゃんとする?」
「それはそれで怪しい」
「たしかに」
シュガーシロップさんが腕を組みます。
「団ノ子、調査されたらどう見えるんだろうな」
エクレアさんが勢いよく手を上げました。
「楽しいギルド!」
アイリスさんがすぐに言います。
「騒がしいギルド、の間違いでは?」
「楽しくて騒がしいギルド!」
「悪化したわ」
私はそのやり取りを見て、少し笑いました。
きっとエスプレッソさんが今ここにいたら、少しだけ後ろへ下がると思います。
でも、悪い騒がしさではない。
そう言ってくれたことを思い出しました。
「エスプレッソさんにも、いつかここに来てほしいです」
私は小さく言いました。
「無理にではなくて。でも、少しだけ」
「うん」
みたらしっぽさんが頷きます。
「その時は、静かめに迎えよう」
「静かめにできるかな」
つきみさんが言います。
「努力する」
「努力じゃなくて実行」
「それ、最近よく言われる」
みんなが笑いました。
私は採ってきた素材を倉庫に入れます。
月光草。
夜露の実。
薄明茸。
今日の探索は、予定より少し大変でした。
怖いこともありました。
でも、それだけではありません。
夜の草原で、黒い影に出会いました。
静かで、不思議で、少し怪しい探偵さん。
エスプレッソさん。
彼女は団ノ子を調査すると言いました。
それがどういう意味なのか、まだわかりません。
でも、また会える気がします。
次に会った時、私はもう少しちゃんと話せるでしょうか。
スフレさんのクッキーが美味しかったと、本人に伝えるエスプレッソさんを見ることはできるでしょうか。
そんなことを考えながら、私は倉庫画面を閉じました。
ギルドハウスの窓の外には、王都の夜が広がっています。
そのどこかに、きっと黒い外套の探偵さんがいます。
私は少しだけ、その夜が前より広く見えました。