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個性は大事
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dannocomachi
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鏡の中の私
「ようこそ団ノ子へ」
そう言われてから、少しだけ時間が経ちました。
ギルド加入書にサインをして、ギルドメニューに自分の名前が表示されて、通知が流れて。
それだけのことなのに、私はまだ少しふわふわしています。
<チョコチップ がギルド『団ノ子』に加入しました>
その文字を見た時、胸の奥がくすぐったくなりました。
ゲームの中に、自分の居場所ができた。
そう思うには、まだ早いのかもしれません。
でも、ギルドハウスの中ではいろいろな人が出入りしていて、みなさん当たり前みたいに「おかえり」とか「いってきます」とか言っています。
ゲームなのに。
ちゃんと、帰ってくる場所みたいです。
「チョコさん、大丈夫?」
「ひゃいっ」
急に声をかけられて、変な返事が出ました。
振り返ると、みたらしっぽさんが不思議そうにこちらを見ています。
「ひゃい?」
「い、今のは忘れてください……」
「わかった。忘れる」
「本当に忘れてくださいね?」
「たぶん」
「たぶんなんですか!?」
みたらしっぽさんは少し笑いました。
その笑い方は、最初に町の外で助けてくれた時と同じで、緊張しすぎていた体が少しだけ軽くなります。
「初めてのギルドハウスだと落ち着かないよね」
「はい……。思っていたより、人が多くて」
「団ノ子、人数増えてきたからね。僕もたまに誰がどこにいるかわからなくなる」
「ギルドマスターさんでもですか?」
「ギルドマスターだから全部わかる、みたいな便利機能はないんだよね」
「そうなんですね……」
それは少し意外でした。
ギルドマスターというと、何でも把握していて、みんなを引っ張っていく人だと思っていました。
でも、みたらしっぽさんは少し違います。
すごく強いのに、少し抜けているところがあります。
でも、だからこそ話しかけやすいのかもしれません。
「とりあえず、今日は無理しなくていいよ。ギルドメニューの見方とか、倉庫の使い方とか、必要なところだけ説明するから」
「ありがとうございます」
そう言われて、私は頷きました。
それから、ふと壁際にある大きな鏡が目に入りました。
ギルドハウスの入口近くに置かれている、姿見のような鏡です。
装備確認用でしょうか。
通りかかるメンバーが、武器や服の見た目を軽く確認してから出かけていきます。
私はなんとなく、その鏡の前に立ちました。
そこに映っていたのは、私でした。
黒い髪。
現実とあまり変わらない顔立ち。
少しだけゲームっぽく整ってはいるけれど、派手ではありません。
最初にキャラクタークリエイトをした時、私はあまり目立たないように黒髪を選びました。
派手な色にしたら浮いてしまう気がしたからです。
でも。
この世界に来てみると、みなさん本当に自由でした。
綺麗な髪色の人。
現実では着られなさそうな服を自然に着こなしている人。
武器も、防具も、アクセサリーも、その人らしさが出ています。
スフレさんの雰囲気は柔らかくて、歌う時の姿がとてもきれいです。
ガトーショコラさんは落ち着いていて、遠くを見る姿がすごく様になっています。
シュガーシロップさんは前衛らしく堂々としていて、剣を持って立つだけで頼れそうです。
みたらしっぽさんは……なんというか、自然にゲームの中に馴染んでいます。
それに比べると、私は。
「……ちょっと、普通すぎたかもしれません」
ぽつりと呟いたつもりでした。
でも、みたらしっぽさんには聞こえていたようです。
「普通?」
「あっ、いえ、その……」
私は慌てて首を振ります。
「最初に黒髪にしたんですけど、せっかくゲームなんだから、もう少し綺麗な色にしてもよかったのかなって」
「髪色かぁ」
みたらしっぽさんは鏡の中の私を見ました。
私は少し恥ずかしくなって、目を逸らします。
「で、でも、変ですよね。始めたばかりなのに、見た目のことばかり気にするなんて」
「変じゃないと思う」
「そうでしょうか」
「うん。見た目って大事だよ。強さの数値には出ないけど、ログインした時の気分に関わるし」
「気分……」
「それに、個性は大事」
その言葉は、思ったよりすんなり胸に入りました。
個性。
ゲームの中で、自分だけの見た目を作ること。
それは目立つためだけではなく、この世界にいる自分を少し好きになるためのものなのかもしれません。
「チョコさん、瞳の色は青なんだよね」
「はい。そこだけは、少し綺麗な色にしてみたくて……」
「じゃあ、髪も青にしてみる?」
「髪も、ですか?」
思わず聞き返してしまいました。
髪も青。
それは、最初にキャラクターを作った時の私なら、絶対に選ばなかった色です。
目立ちすぎる気がしました。
自分には似合わない気がしました。
でも、みたらしっぽさんは鏡の中の私を見ながら、当たり前みたいに言います。
「うん。明るい水色とか、空みたいな青。チョコさんの目の色と合うと思う」
「で、でも、全部青にしたら派手じゃないですか?」
「派手っていうより、チョコさんっぽくなる気がする」
「私っぽく……?」
「今はまだ、現実の自分に近い感じで作ってるでしょ。でもFoFの中なら、少し違う自分を選んでもいいと思う」
その言葉に、私は鏡の中の黒髪を見ました。
嫌いではありません。
でも、今の私は少しだけ思っていました。
せっかくこの世界に来たのに、私はまだ現実の自分のまま、端っこに立っているだけなのかもしれない、と。
「……水色」
小さく呟くと、胸の奥が少しだけ跳ねました。
怖いです。
でも、気になります。
「見てみたいです」
私は鏡の中の自分を見たまま言いました。
「青い髪の私」
「じゃあ、みんなにも聞いてみる?」
「み、みなさんにですか?」
「うん。見た目の話なら、いろんな意見があった方がいいと思う」
「で、でも恥ずかしいです」
「大丈夫。団ノ子、たぶんそういう話好きな人多いから」
それはそれで少し怖いです。
髪色会議
「髪色?」
シュガーシロップさんが腕を組みました。
「いいじゃん。変えよう」
「決定が早いです」
「悩んでるなら変えてみればいい。戻したくなったら戻せるんだろ?」
「町の美容室なら戻せるね」
ガトーショコラさんが言います。
「NPCの美容室でも基本的な変更はできるけど、細かく整えたいならプレイヤー美容室の方がいいかも」
「プレイヤー美容室?」
「うん。FoFって、戦闘や生産だけじゃなくて、アバターの調整を専門にしてる人たちもいるの。髪色、髪型、メイク、装飾のバランスまで見てくれる」
「そんなところまで……」
ゲームの世界は、思っていたよりずっと広いです。
モンスターと戦うだけではありません。
ギルドがあって、家があって、美容室まであります。
「チョコさんは青系がいいと思う」
スフレさんが私を見て言いました。
「みたと同じ意見?」
「うん。目が青いから、髪も青だと綺麗だと思う」
「スフレさんまで……」
「でも、濃い青よりは明るい水色。チョコさんの雰囲気に合いそう」
「明るい水色……」
鏡の前で想像してみます。
黒かった髪が、水色になる。
現実では絶対にしないような色です。
でも、ここはFoFです。
ゲームの中の、自分で選べる自分。
「空みたいな色、似合いそう」
ガトーショコラさんが少し考えながら言いました。
「チョコさんの目が青いから、髪も同じ系統にするとまとまりが出ると思う」
「でも、全部青くしたらすごく目立ちませんか?」
「目立つかもしれないけど、悪い目立ち方じゃないと思うよ」
「そうでしょうか……」
「それに、遠くから見てもチョコさんだってわかる」
シュガーシロップさんが真剣な顔で言いました。
「戦闘中に見つけやすい」
「戦闘基準ですか!?」
「大事だろ?」
「大事かもしれませんけど!」
「少なくとも、初狩りに絡まれてたら見つけやすい」
「その理由は少し怖いです……」
「大丈夫。次も見つける」
さらっと言われて、少し胸が温かくなりました。
怖い言い方なのに、安心してしまうのは不思議です。
「青髪、いいと思うよ」
みたらしっぽさんが言いました。
「青って言ってもいろいろあるから、美容室で見てから決めればいいし」
「はい……」
私は少しだけ考えました。
黒髪のままでいることもできます。
それは安心です。
無難で、目立たなくて、失敗しにくい選択です。
でも、今の私は、少しだけ違う選択をしてみたくなっていました。
「……行ってみたいです」
私は小さく言いました。
「青い髪、ちゃんと見てみたいです」
「じゃあ、行く?」
みたらしっぽさんが言いました。
「今からですか?」
「うん。思い立った時がいいと思う」
「でも、みなさんの予定が……」
「今日は町で整理するだけだったし」
「私は素材売りに行くついでだから大丈夫」
「うちも行くよ~」
「私も見たい」
「え、みなさん来るんですか!?」
思っていたより大人数になりそうです。
恥ずかしさで少し逃げたくなりました。
でも、みなさんの顔を見ると、からかうためではないのがわかります。
本当に、楽しそうにしてくれています。
「……じゃあ、お願いします」
私は小さく頭を下げました。
「髪色、変えてみたいです」
泡沫の輪廻
王都ペル・ゼノンの商業区は、最初に歩いた時よりも少しだけ見えるものが増えていました。
武器屋。
防具屋。
素材市場。
料理店。
アクセサリーショップ。
そして、大通りから少し外れた一角に、美容室が並んでいる通りがありました。
「ここ、初めて来ました」
「最初から来る場所ではないかもね」
ガトーショコラさんが言います。
「でも、アバターにこだわる人はかなり通うよ。新装備に合わせて髪型を変える人もいるし」
「装備に合わせて髪型を……」
私にはまだ遠い世界です。
でも、ちょっと楽しそうです。
通りには、いろいろな美容室がありました。
白い建物。
花で飾られたお店。
剣や盾の形をした看板を出している、戦闘職向けの美容室らしき場所。
その中で、ひとつだけ少し雰囲気の違うお店がありました。
水面のように淡く光る看板。
<泡沫の輪廻 Fleeting Reincarnation>
静かで、でも目を引く看板です。
「ここ?」
「うん。リンネさんって人がいる。かなり細かく見てくれるよ」
「有名なところなんですか?」
「有名。予約取れない日も多い」
「えっ、そんなお店に急に行って大丈夫なんですか?」
「今日はたぶん大丈夫。ショコ姉がさっき空き確認してた」
「いつの間に!?」
「歩きながら」
ガトーショコラさんは普通のことのように言いました。
やっぱり、すごい人です。
扉を開けると、やわらかい音が鳴りました。
店内は、外の通りよりも少し静かです。
白と青を基調にした内装で、壁にはいくつもの鏡が並んでいます。
でも、普通の鏡ではありません。
髪型や髪色のシミュレーションが、半透明のウィンドウのように重なって見えるようになっています。
「いらっしゃいませ」
奥から、一人のプレイヤーが出てきました。
落ち着いた雰囲気の人です。
名前表示には、リンネ、とあります。
「団ノ子の方ですね。予約確認しています」
「お願いします」
ガトーショコラさんが軽く頭を下げました。
「今日はこの子の髪色を見てもらいたくて」
「チョコチップです。よろしくお願いします!」
緊張しすぎて、少し声が大きくなりました。
リンネさんは優しく笑います。
「よろしくお願いします。初めてのアバター調整ですか?」
「はい……。最初に黒髪にしたんですけど、少し変えてみたくなって」
「いいですね。最初の変更は大事ですよ」
「大事、ですか?」
「はい。別人になる必要はありません。けれど、今の自分が少し楽しくなる形を選ぶのは、とても大事です」
その言葉に、少しだけ安心しました。
別人にならなくていい。
でも、少し違う自分を選んでもいい。
私はその言葉を、心の中で何度か繰り返しました。
椅子に座ると、目の前の鏡に私の姿が映ります。
リンネさんが操作すると、髪色の候補が次々に表示されました。
深い青。
淡い水色。
銀色に近い青。
紫がかった青。
白に近い空色。
どれも綺麗です。
でも、綺麗すぎて、自分に似合っているのかよくわかりません。
「これは、少し大人っぽいですね」
リンネさんが、濃い青を表示しました。
鏡の中の私は、落ち着いた雰囲気になりました。
綺麗です。
でも、少し背伸びをしすぎている気がします。
「こっちは?」
次に、銀色に近い青。
幻想的で、とても綺麗です。
でも、今度は少し冷たく見えました。
「綺麗ですけど……私には少し遠いかもしれません」
「では、もう少し明るくしましょう」
リンネさんが指を動かすと、鏡の中の髪がゆっくり変わっていきました。
黒かった髪が、淡い青へ。
それから、さらに明るい水色へ。
光を受けた部分は白に近く、影になった部分には少し深い青が落ちています。
まるで、晴れた日の空をそのまま髪にしたみたいでした。
「……わぁ」
思わず声が漏れました。
鏡の中にいるのは、確かに私です。
でも、さっきまでの私とは全然違います。
青い瞳と、同じ色を含んだ明るい髪。
少しだけ不安そうな顔をしているところは変わりません。
けれど、その姿は、ちゃんとこの世界の住人に見えました。
「すごい……」
私はそっと髪に触れました。
指先で揺れた水色の髪が、店内の光を受けてふわりと透けます。
「これ、本当に私ですか?」
「チョコさんだよ」
みたらしっぽさんが言いました。
「かなり似合ってる」
「ほ、本当ですか?」
「うん。目の色とすごく合ってる。黒髪の時より、チョコさんの雰囲気が出てる気がする」
「黒髪の時より……」
「うん。こっちの方が、FoFを楽しもうとしてる感じがする」
その言葉を聞いた瞬間、胸の奥が少し熱くなりました。
私は、楽しもうとしている。
怖いだけじゃなくて。
不安なだけじゃなくて。
この世界に、自分の色で立ってみようとしている。
「私はこっちが好き」
スフレさんが言いました。
「空みたいで、チョコさんの目と合ってる」
「うん。明るいけど、優しい色だね」
ガトーショコラさんも頷きます。
「遠くからでも印象に残るし、でも強すぎない」
「……これにします」
私は鏡の中の自分を見つめたまま言いました。
「この、水色の髪にします」
リンネさんが静かに微笑みます。
「かしこまりました。透明感を残しつつ、瞳の青と馴染むように整えますね」
確定の光が、私の周りを包みました。
数秒後。
そこにいたのは、青い髪の私でした。
鏡の中の私は、少しだけ知らない人みたいでした。
でも、怖くはありません。
むしろ、胸の奥が少し弾むような感じがします。
「私、本当にゲームの中にいるんですね」
自分でも変なことを言ったと思いました。
でも、それが一番近い言葉でした。
今までもゲームの中にいました。
歩いて、戦って、助けてもらって、ギルドにも入りました。
でも、鏡の中の自分が変わったことで、ようやくこの世界の自分を自分で選んだ気がしました。
「個性は大事です」
リンネさんが言いました。
「強い装備と同じくらい、自分で選んだ見た目は長く支えてくれますよ」
「はい!」
私は大きく頷きました。
新しい色で
ギルドハウスへ戻ると、入口にいたシュガーシロップさんがすぐにこちらを見ました。
「お、チョコ戻ってきた……って、めちゃくちゃ変わったな!」
「や、やっぱり変ですか!?」
「違う違う。すごくいい」
シュガーシロップさんはにっと笑いました。
「遠くからでも見つけやすい」
「また戦闘基準です!」
「大事だって」
スフレさんも近づいてきて、私の髪を見ました。
「すごく綺麗。空みたい」
「空……」
「うん。チョコさんと合ってる」
ガトーショコラさんも少し離れたところから頷きます。
「思い切ったね。でも似合ってる。黒髪の時より印象に残る」
「印象に……」
少し前の私なら、印象に残ると言われたら怖くなっていたと思います。
でも今は、不思議と嫌ではありませんでした。
この世界で、私だとわかってもらえる。
それは少し恥ずかしくて、でも、嬉しいことでした。
「チョコさん、隠れなくて大丈夫だよ。」
みたらしっぽさんが言いました。
私は気づけば、少しだけみたらしっぽさんの後ろに下がっていました。
「す、少しだけ恥ずかしくて……」
「変じゃないよ」
「はい……」
「でも、恥ずかしいなら半分だけ出よう」
「半分だけ……」
私はみたらしっぽさんの横から、そっと顔を出しました。
その時、ギルドチャットが勢いよく流れました。
<エクレアマルテール:新人ちゃん髪色変えたって本当!?>
<みたらしっぽ:本当>
<エクレアマルテール:写真!!>
<フォンダンアイリス:落ち着きなさい>
<エクレアマルテール:落ち着いてる!>
<フォンダンアイリス:落ち着いてる人は第一声で写真を要求しないわ>
<エクレアマルテール:だって気になるじゃん!>
「チャットがにぎやかです……」
「だいたいエクレアが原因」
みたらしっぽさんが言いました。
「でも、悪い人じゃないから」
「それは、なんとなくわかります」
文字だけでも、元気な人なのが伝わってきます。
少し遅れて、別のチャットも流れました。
<チロル:チョコチップさん、髪色変えたんですね。>
<コハク:猫にも見てもらいますか?>
<チョコチップ:猫さんにですか!?>
<コハク:はい!>
<フォンダンアイリス:また猫基準なのね>
私は思わず笑ってしまいました。
まだ会ったことのない人も多いです。
でも、ギルドチャットの中にいるだけで、少しずつ団ノ子の空気がわかってきます。
騒がしくて。
自由で。
でも、誰かが困っていたらちゃんと見てくれる。
そんな場所です。
「チョコさん」
みたらしっぽさんが言いました。
「はい」
「今日、髪色変えてよかった?」
私は鏡の方を見ました。
入口の姿見に、青い髪の自分が映っています。
まだ少し見慣れません。
でも、嫌ではありません。
むしろ、何度も見たくなります。
「はい」
私は頷きました。
「まだ少し恥ずかしいですけど……でも、嬉しいです」
「ならよかった」
「それに」
私は少しだけ髪を指でつまみました。
光を受けて、水色の髪がふわりと揺れます。
「この色なら、また外に出てみたいです」
昨日は怖かった町の外。
グラスボア一体と戦うだけで疲れてしまった平原。
初心者狩りの人たちに囲まれて、足がすくんだ帰り道。
それでも、今は少しだけ違います。
私は団ノ子に入りました。
助けてくれた人たちがいます。
そして、鏡の中の私は、昨日より少しだけゲームの世界に馴染んでいます。
「じゃあ、今度はちゃんとレベル上げに行こうか」
シュガーシロップさんが言いました。
「はい!」
「今度は初狩りじゃなくて、普通の狩りだな」
「普通の狩り……」
「まずはグラスボアから」
「またイノシシさんですね」
「今度は突進を避けよう」
「が、頑張ります」
「避けられなかったら?」
「シロが受ける」
みたらしっぽさんが即答しました。
「私なのか?」
「ウォーリアだし」
「まあ、受けるけど」
「受けるんですね」
「もちろん」
そのやり取りに、私はまた笑ってしまいました。
怖かったはずの戦闘の話が、少しだけ楽しそうに聞こえます。
それはきっと、私が強くなったからではありません。
まだまだ弱いです。
スキルも全然使いこなせません。
でも、隣にいてくれる人ができました。
そして、少しだけ、自分で選んだ自分になれました。
「個性は大事……」
小さく呟くと、スフレさんがこちらを見ました。
「うん。大事」
「はい」
私は鏡の中の自分に、少しだけ笑ってみました。
明るい水色の髪。
透き通った青い瞳。
昨日までの私と、今日からの私。
どちらも同じ私です。
でも、今日の私は少しだけ、この世界をもっと歩いてみたいと思えました。
ギルドハウスの扉が開き、王都ペル・ゼノンの光が差し込みます。
その光を受けて、水色の髪がふわりと揺れました。
「行きましょう」
私はそう言って、一歩前に出ました。
今度は、目立たないようにではなく。
ちゃんと、自分で選んだ色で。