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ギルド団ノ子 高難易度レイドへの挑戦
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dannocomachi
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そろそろ、やろう
ギルドハウスができてから、団ノ子の時間は少し変わった。
以前は王都ペル・ゼノンの片隅に集まり、仮のテーブルを囲んで話していた。
それが今は、帰る場所がある。
入口を開ければ誰かの声がして、倉庫には素材が増え、練習場では武器の音が響き、奥の部屋ではガトーショコラが地図を広げている。
ルカの召喚獣が廊下の端をてくてく歩いていることもあれば、ティオが新しい料理の試作を持ってきて、チロルが「これ、カフェで出せるかな」と真剣に悩んでいることもある。
エクレアが勢いよく扉を開けて、アイリスに「もう少し静かに入りなさい」と言われるのも、だいぶ見慣れた。
チョコチップは、最初の頃よりずっと自然にその中へ入ってくるようになった。
挨拶をして、倉庫に素材を入れて、スフレに装備の相談をして、たまにシュガーシロップに稽古をつけてもらう。
水色の髪がギルドハウスの灯りに揺れるたび、みたらしっぽは、あの子もちゃんと団ノ子の一員になったんだなと思う。
そして、エスプレッソ。
まだ正式なメンバーではない。
けれど、最近はギルドハウスの外から中を観察していることがある。
本人いわく、調査。
そんな日々の中で、みたらしっぽの中にずっと残っていたものがあった。
ギルド団ノ子だけで、高難易度レイドを攻略する。
凍てつく城では、TRustDiamonDや他の大手ギルドと一緒だった。
あれはあれで大きな経験だった。
けれど、いつまでも誰かの攻略隊に混ざるだけではない。
団ノ子として、自分たちの名前で挑む。
そのタイミングが、そろそろ来ている気がした。
「というわけで」
みたらしっぽはギルドハウスの会議室で、全員を見回した。
テーブルの上には、一枚のレイド資料が表示されている。
<高難易度マルチパーティーレイド>
<絶対零度ニブルヘイム>
エクレアが一番最初に反応した。
「名前がもう強い!」
「そこ?」
「大事でしょ! 絶対零度だよ? ニブルヘイムだよ? 絶対寒いし絶対強いじゃん!」
「それはそう」
シュガーシロップも腕を組んで頷いた。
「絶対零度って名前で弱かったら困るな」
「弱い方が助かるんだけどね」
みたらしっぽが言うと、アイリスが資料を見ながらため息をついた。
「助からないわよ。ギミック説明を見る限り、かなり面倒なタイプね」
「面倒?」
チョコチップが少し緊張した顔で聞く。
ガトーショコラが画面を拡大した。
「絶対零度ニブルヘイムは、凍りついた古い街そのものがレイドフィールドになってる。開始地点は南門。そこから市街地を抜けて、中央広場、旧市庁舎前、最後に北の大聖堂跡へ向かう流れ」
彼女はスナイパーらしく、背中に長銃を預けている。
スコープ付きの銃身が、会議室の灯りを受けて鈍く光った。
「敵の数がかなり多い。街路、建物の窓、屋根、地下水路の入口。いろんな場所から湧くみたい。しかも猛吹雪で視界が悪いから、遠距離職も狙いづらい」
「つまり、ショコ姉でも見えない時がある?」
シュガーシロップが聞く。
「見えない時はある。でも、見える場所を探すのが仕事」
ガトーショコラは淡々と答えた。
「あと、このレイドは止まると危ない。吹雪の中で一定時間動きが止まると、凍結深度っていうゲージが上がる。最大になると全体凍結」
「移動しながら大量の敵と戦う、か」
つきみが呟いた。
「正面で全部受けるだけじゃ崩れるね」
ロウガンが頷いた。
「盾で止めるより、道を作る必要がある」
「ロウガンさんがそう言うなら、本当にそうなんだろうね」
みたらしっぽは資料の参加メンバー欄を開いた。
「構成はこう」
画面に名前が並ぶ。
ロウガン・ロースト《ガーディアン》
シュガーシロップ《ウォーリアー》
エクレアマルテール《グラディエーター》
ガトーショコラ《スナイパー》
ルカ《召喚師》
スフレ《吟遊詩人》
みたらしっぽ《グラディエーター》
チョコチップ《サムライ》
つきみ《マジックナイト》
チロル《バレットダンサー》
フォンダンアイリス《神官》
そして、最後の一枠が空白になっていた。
「あと一人」
アイリスが言う。
「他のメンバーは?」
「都合が合わなかったり、今回はまだ難しそうだったり。無理に入れるより、ちゃんと動ける人がいい」
「野良を入れるの?」
シュガーシロップが聞く。
みたらしっぽは首を横に振った。
「できれば、関係者で行きたい。今回は団ノ子としての挑戦だから」
会議室が少し静かになる。
その時、チョコチップが控えめに手を上げた。
「あの……一人、声をかけてみたい方がいます」
「チョコが?」
みたらしっぽが少し驚く。
チョコチップが自分から誰かを呼びたいと言うのは、かなり珍しい。
「はい。エスプレッソさんです」
その名前が出た瞬間、エクレアがぱっと顔を上げた。
「探偵さん!」
「声が大きいわ」
アイリスが止める。
「だって探偵さんだよ!? 黒い外套で、夜の草原に現れるやつ!」
「言い方だけ聞くと完全に怪しいわよ」
「怪しいのは否定しきれないです」
チョコチップが小さく言う。
「でも、とても強いです。周りを見る力もありますし、敵の位置を読むのが上手いです。今回みたいなレイドなら、きっと助けになると思います」
「チョコがそう言うなら、聞いてみよう」
みたらしっぽは頷いた。
チョコチップは少し緊張した様子で、フレンド欄を開く。
短いメッセージを打つ。
しばらくして、返事が来た。
<絶対零度ニブルヘイム>
<調査対象として興味はある>
<ただし、長時間の大声は不可>
チョコチップは画面を見て、少し困ったように笑った。
「大声は不可、だそうです」
全員の視線が、自然とエクレアへ向いた。
「なんで私を見るの!?」
「自覚がないなら重症ね」
アイリスが言う。
「あるよ! ちょっとだけ!」
「ちょっとではないわ」
数分後、ギルドハウスの扉が静かに開いた。
黒い外套。
小柄な影。
足音がほとんどしない。
エスプレッソは会議室の入口に立つと、全員を一人ずつ見た。
武器。
装備。
立ち位置。
癖。
彼女の視線は、まるでそれらをまとめて記録しているようだった。
「呼ばれた」
短い一言。
チョコチップが立ち上がる。
「来てくださってありがとうございます」
「参加すると決めたわけではない」
「はい。でも、来てくれました」
「……それは事実」
エスプレッソは資料を見た。
数秒だけで、画面を切り替える。
「移動型。大量湧き。視界不良。凍結深度。中ボスあり。最終目標、飛竜ニーズベッグ討伐」
「読むの早いね」
みたらしっぽが言う。
「歩きながら読んだ」
「それ、危なくない?」
「廊下だったから」
「そういう問題かなぁ」
エスプレッソはみたらしっぽを見た。
「参加条件」
「うん?」
「必要以上に騒がないこと」
「努力する」
「努力ではなく実行」
「最近それ、いろんな人に言われる」
「言われるなら直した方がいい」
「正論だ」
つきみが少し笑った。
エクレアが手を上げる。
「じゃあ、歓迎の挨拶は小声でする!」
「今の時点で小声ではない」
「むずかしい!」
「練習して」
「ようこそ……」
「まだ大きい」
「ようこそ……」
「許容範囲」
「やった!」
「跳ねない」
「はい」
エクレアが珍しく小さく座り直したので、アイリスが少し驚いた顔をした。
「あなた、言えばできるのね」
「アイリスが言ってもできるよ?」
「今度からもっと言うわ」
「それは困る!」
エスプレッソはそのやり取りをしばらく見ていた。
それから、チョコチップへ視線を戻す。
「あなたが呼んだ」
「はい」
「理由は?」
「一緒に行きたいと思いました」
チョコチップはまっすぐ答えた。
「それに、エスプレッソさんなら、私たちが見落とすものを見つけてくれると思いました」
エスプレッソは少しだけ黙った。
表情はほとんど変わらない。
けれど、目の奥がほんの少し揺れた気がした。
「調査対象に同行する」
「参加してくれるってこと?」
みたらしっぽが聞く。
「そう」
チョコチップの顔がぱっと明るくなる。
エスプレッソは視線を逸らした。
「喜びすぎ」
「す、すみません」
「謝ることではない」
こうして、最後の一枠が埋まった。
ギルド団ノ子。
初めての、ギルド内メンバー中心による高難易度レイド攻略。
絶対零度ニブルヘイムへの挑戦が始まることになった。
以前は王都ペル・ゼノンの片隅に集まり、仮のテーブルを囲んで話していた。
それが今は、帰る場所がある。
入口を開ければ誰かの声がして、倉庫には素材が増え、練習場では武器の音が響き、奥の部屋ではガトーショコラが地図を広げている。
ルカの召喚獣が廊下の端をてくてく歩いていることもあれば、ティオが新しい料理の試作を持ってきて、チロルが「これ、カフェで出せるかな」と真剣に悩んでいることもある。
エクレアが勢いよく扉を開けて、アイリスに「もう少し静かに入りなさい」と言われるのも、だいぶ見慣れた。
チョコチップは、最初の頃よりずっと自然にその中へ入ってくるようになった。
挨拶をして、倉庫に素材を入れて、スフレに装備の相談をして、たまにシュガーシロップに稽古をつけてもらう。
水色の髪がギルドハウスの灯りに揺れるたび、みたらしっぽは、あの子もちゃんと団ノ子の一員になったんだなと思う。
そして、エスプレッソ。
まだ正式なメンバーではない。
けれど、最近はギルドハウスの外から中を観察していることがある。
本人いわく、調査。
そんな日々の中で、みたらしっぽの中にずっと残っていたものがあった。
ギルド団ノ子だけで、高難易度レイドを攻略する。
凍てつく城では、TRustDiamonDや他の大手ギルドと一緒だった。
あれはあれで大きな経験だった。
けれど、いつまでも誰かの攻略隊に混ざるだけではない。
団ノ子として、自分たちの名前で挑む。
そのタイミングが、そろそろ来ている気がした。
「というわけで」
みたらしっぽはギルドハウスの会議室で、全員を見回した。
テーブルの上には、一枚のレイド資料が表示されている。
<高難易度マルチパーティーレイド>
<絶対零度ニブルヘイム>
エクレアが一番最初に反応した。
「名前がもう強い!」
「そこ?」
「大事でしょ! 絶対零度だよ? ニブルヘイムだよ? 絶対寒いし絶対強いじゃん!」
「それはそう」
シュガーシロップも腕を組んで頷いた。
「絶対零度って名前で弱かったら困るな」
「弱い方が助かるんだけどね」
みたらしっぽが言うと、アイリスが資料を見ながらため息をついた。
「助からないわよ。ギミック説明を見る限り、かなり面倒なタイプね」
「面倒?」
チョコチップが少し緊張した顔で聞く。
ガトーショコラが画面を拡大した。
「絶対零度ニブルヘイムは、凍りついた古い街そのものがレイドフィールドになってる。開始地点は南門。そこから市街地を抜けて、中央広場、旧市庁舎前、最後に北の大聖堂跡へ向かう流れ」
彼女はスナイパーらしく、背中に長銃を預けている。
スコープ付きの銃身が、会議室の灯りを受けて鈍く光った。
「敵の数がかなり多い。街路、建物の窓、屋根、地下水路の入口。いろんな場所から湧くみたい。しかも猛吹雪で視界が悪いから、遠距離職も狙いづらい」
「つまり、ショコ姉でも見えない時がある?」
シュガーシロップが聞く。
「見えない時はある。でも、見える場所を探すのが仕事」
ガトーショコラは淡々と答えた。
「あと、このレイドは止まると危ない。吹雪の中で一定時間動きが止まると、凍結深度っていうゲージが上がる。最大になると全体凍結」
「移動しながら大量の敵と戦う、か」
つきみが呟いた。
「正面で全部受けるだけじゃ崩れるね」
ロウガンが頷いた。
「盾で止めるより、道を作る必要がある」
「ロウガンさんがそう言うなら、本当にそうなんだろうね」
みたらしっぽは資料の参加メンバー欄を開いた。
「構成はこう」
画面に名前が並ぶ。
ロウガン・ロースト《ガーディアン》
シュガーシロップ《ウォーリアー》
エクレアマルテール《グラディエーター》
ガトーショコラ《スナイパー》
ルカ《召喚師》
スフレ《吟遊詩人》
みたらしっぽ《グラディエーター》
チョコチップ《サムライ》
つきみ《マジックナイト》
チロル《バレットダンサー》
フォンダンアイリス《神官》
そして、最後の一枠が空白になっていた。
「あと一人」
アイリスが言う。
「他のメンバーは?」
「都合が合わなかったり、今回はまだ難しそうだったり。無理に入れるより、ちゃんと動ける人がいい」
「野良を入れるの?」
シュガーシロップが聞く。
みたらしっぽは首を横に振った。
「できれば、関係者で行きたい。今回は団ノ子としての挑戦だから」
会議室が少し静かになる。
その時、チョコチップが控えめに手を上げた。
「あの……一人、声をかけてみたい方がいます」
「チョコが?」
みたらしっぽが少し驚く。
チョコチップが自分から誰かを呼びたいと言うのは、かなり珍しい。
「はい。エスプレッソさんです」
その名前が出た瞬間、エクレアがぱっと顔を上げた。
「探偵さん!」
「声が大きいわ」
アイリスが止める。
「だって探偵さんだよ!? 黒い外套で、夜の草原に現れるやつ!」
「言い方だけ聞くと完全に怪しいわよ」
「怪しいのは否定しきれないです」
チョコチップが小さく言う。
「でも、とても強いです。周りを見る力もありますし、敵の位置を読むのが上手いです。今回みたいなレイドなら、きっと助けになると思います」
「チョコがそう言うなら、聞いてみよう」
みたらしっぽは頷いた。
チョコチップは少し緊張した様子で、フレンド欄を開く。
短いメッセージを打つ。
しばらくして、返事が来た。
<絶対零度ニブルヘイム>
<調査対象として興味はある>
<ただし、長時間の大声は不可>
チョコチップは画面を見て、少し困ったように笑った。
「大声は不可、だそうです」
全員の視線が、自然とエクレアへ向いた。
「なんで私を見るの!?」
「自覚がないなら重症ね」
アイリスが言う。
「あるよ! ちょっとだけ!」
「ちょっとではないわ」
数分後、ギルドハウスの扉が静かに開いた。
黒い外套。
小柄な影。
足音がほとんどしない。
エスプレッソは会議室の入口に立つと、全員を一人ずつ見た。
武器。
装備。
立ち位置。
癖。
彼女の視線は、まるでそれらをまとめて記録しているようだった。
「呼ばれた」
短い一言。
チョコチップが立ち上がる。
「来てくださってありがとうございます」
「参加すると決めたわけではない」
「はい。でも、来てくれました」
「……それは事実」
エスプレッソは資料を見た。
数秒だけで、画面を切り替える。
「移動型。大量湧き。視界不良。凍結深度。中ボスあり。最終目標、飛竜ニーズベッグ討伐」
「読むの早いね」
みたらしっぽが言う。
「歩きながら読んだ」
「それ、危なくない?」
「廊下だったから」
「そういう問題かなぁ」
エスプレッソはみたらしっぽを見た。
「参加条件」
「うん?」
「必要以上に騒がないこと」
「努力する」
「努力ではなく実行」
「最近それ、いろんな人に言われる」
「言われるなら直した方がいい」
「正論だ」
つきみが少し笑った。
エクレアが手を上げる。
「じゃあ、歓迎の挨拶は小声でする!」
「今の時点で小声ではない」
「むずかしい!」
「練習して」
「ようこそ……」
「まだ大きい」
「ようこそ……」
「許容範囲」
「やった!」
「跳ねない」
「はい」
エクレアが珍しく小さく座り直したので、アイリスが少し驚いた顔をした。
「あなた、言えばできるのね」
「アイリスが言ってもできるよ?」
「今度からもっと言うわ」
「それは困る!」
エスプレッソはそのやり取りをしばらく見ていた。
それから、チョコチップへ視線を戻す。
「あなたが呼んだ」
「はい」
「理由は?」
「一緒に行きたいと思いました」
チョコチップはまっすぐ答えた。
「それに、エスプレッソさんなら、私たちが見落とすものを見つけてくれると思いました」
エスプレッソは少しだけ黙った。
表情はほとんど変わらない。
けれど、目の奥がほんの少し揺れた気がした。
「調査対象に同行する」
「参加してくれるってこと?」
みたらしっぽが聞く。
「そう」
チョコチップの顔がぱっと明るくなる。
エスプレッソは視線を逸らした。
「喜びすぎ」
「す、すみません」
「謝ることではない」
こうして、最後の一枠が埋まった。
ギルド団ノ子。
初めての、ギルド内メンバー中心による高難易度レイド攻略。
絶対零度ニブルヘイムへの挑戦が始まることになった。
凍都ニブルヘイム
レイド入口は、雪原の果てにぽつんと立つ古い門だった。
巨大な石造りの門。
その上部には、欠けた文字で「NIFLHEIM」と刻まれている。
門の向こうは白い。
ただ雪が積もっているのではない。
吹雪そのものが、そこに壁のように立っている。
「入る前から視界ゼロに近いね」
ガトーショコラが長銃のスコープを調整しながら言った。
「これ、狙撃できる?」
シュガーシロップが聞く。
「できる場所を探す。できない場所では撃たない」
「潔い」
「撃てないのに撃つ方が危ないから」
ロウガンが盾を構える。
氷の粒が盾の表面に当たり、細かな音を立てた。
「隊列」
つきみが短く言う。
「前列、ロウガン、シロ、私。中列、みた、エクレア、チョコちゃん。後列、ショコ姉、ルカ、スフレ、チロルさん、アイリス、エスプレッソさん。敵が横から来たら、中列が切る。後列は絶対に孤立しない」
「了解」
みたらしっぽは剣を抜いた。
グラディエーターになってから、戦い方は変わった。
ただ前に出るだけではない。
ロウガンが作る道。
つきみが整える流れ。
シュガーシロップが支える横幅。
その隙間に入って、敵の形を壊す。
今回のレイドでは、きっとそれが必要になる。
「チョコ、大丈夫?」
隣のチョコチップに声をかける。
チョコチップは刀の柄に手を添えたまま、少しだけ深呼吸した。
「緊張しています。でも、大丈夫です」
「無理しないでね」
「はい。でも、今日はちゃんと最後まで行きたいです」
その声は、以前よりずっと落ち着いていた。
最初にグラスボアを怖がっていた頃とは違う。
「それじゃ、行こう」
みたらしっぽが言う。
レイド開始。
門をくぐった瞬間、音が変わった。
風。
雪。
遠くで軋む建物の音。
そして、どこかから聞こえる、低い鐘の音。
そこは、街だった。
かつて街だった場所、と言う方が近い。
石畳は氷に覆われ、家々の窓には白い霜が張りついている。
倒れた街灯。
凍った噴水。
半分雪に埋もれた馬車。
通りの両側には、商店だったらしい建物が並んでいた。
けれど、人の気配はない。
代わりに、窓の奥から青白い光が揺れている。
<絶対零度ニブルヘイム>
<進行目標:南門街区を突破せよ>
<凍結深度が最大になると、全パーティーが全体凍結状態になります>
「来た」
アイリスが表示を確認する。
「止まりすぎないで。回復も移動しながらやるわ」
「最初の敵、左二階」
ガトーショコラが言った。
長銃の銃口が、吹雪の中でわずかに動く。
乾いた発砲音。
二階窓にいた氷の弓兵が、光の粒になって消えた。
「右路地、三体」
エスプレッソが続ける。
「早いな」
チロルが銃を抜く。
「右、俺が見る」
バレットダンサーのチロルは、足を止めなかった。
踊るように身をひねりながら銃弾を撃ち込む。
路地から飛び出してきた氷獣の足元に弾丸が入り、動きが鈍る。
「ロウガン!」
「受ける」
ロウガンが前へ出る。
氷獣が盾にぶつかる。
ロウガンは押し返さない。
盾の角度を変えて、敵の勢いを通りの外側へ流す。
その隙間を、シュガーシロップが踏み込んで広げた。
「道、開ける!」
「入る!」
みたらしっぽとエクレアが同時に走る。
正面の氷兵へ、二人の連撃が入る。
エクレアは以前よりかなり動きが鋭くなっていた。
勢い任せに見えて、ちゃんと敵の詠唱や武器の振り始めを見ている。
「奥の魔法兵、詠唱!」
「撃つ」
ガトーショコラの銃声。
魔法兵の手元が弾け、詠唱が止まる。
「チョコ、今!」
「はい!」
チョコチップが刀を抜いた。
サムライの動きは、グラディエーターとは違う。
連撃ではなく、間を読む。
吹雪の中で、チョコチップの髪が揺れた。
「一閃!」
氷兵の胴が斜めに裂ける。
「いいね!」
シュガーシロップが声を上げる。
「ありがとうございます!」
「でも前!」
「はい!」
すぐに次の敵が来る。
このレイドでは、喜んでいる時間すら短い。
道の奥から、鐘の音が鳴った。
一回。
それと同時に、凍結深度ゲージが少し上がる。
「鐘でゲージ上昇?」
アイリスが言う。
「たぶん、街区ごとの時間制限」
ガトーショコラが答える。
「鐘が鳴るたびに吹雪が強くなる」
エスプレッソが短く付け加えた。
実際、視界が少し白くなった。
敵の輪郭がぼやける。
「急ぐ?」
エクレアが聞く。
「急ぐ。でも崩れない」
つきみが前を見たまま言った。
「この街、焦らせる作りしてる」
「嫌な街だな」
チロルが後ろを撃ちながら笑う。
「滅びた理由、性格悪いからじゃない?」
「街に性格があるかは知らないけど、設計は悪趣味ね」
アイリスが言う。
その瞬間、左右の建物の扉が一斉に開いた。
中から、凍った市民のような姿のモンスターが現れる。
剣を持つ者。
槍を持つ者。
手に青白い炎を灯す者。
数が多い。
「囲まれる!」
ルカが召喚獣を呼ぶ。
小型の召喚獣たちが路地の入口へ走り、敵の進路を一瞬だけ塞ぐ。
「長くは持ちません!」
「十分!」
みたらしっぽは前方の敵へ斬り込む。
倒す。
また倒す。
けれど、敵は減らない。
少し進めば、また別の扉が開く。
「これ、全部倒そうとすると止まる!」
つきみが叫ぶ。
「でも倒さないと通れない!」
シュガーシロップが押し返す。
「通る分だけでいい!」
ロウガンが短く言う。
しかし、初見の判断は難しい。
倒すべき敵。
無視できる敵。
止めるだけでいい敵。
それがまだわからない。
凍結深度ゲージが上がる。
鐘が二回目を鳴らした。
吹雪が一段と強くなる。
ガトーショコラのスコープが白く曇った。
「視界が悪い。屋根上の敵、見失う」
「後ろ、弓兵!」
チロルが振り向くが、弾が吹雪に紛れてわずかに逸れる。
氷の矢がスフレの近くに刺さった。
「っ……歌が途切れる」
「スフレ!」
アイリスが回復を飛ばそうとする。
しかし、足元に霜が広がり、詠唱が止められた。
「動きながらだと、大きい回復が通らないわ!」
「前に抜ける!」
みたらしっぽは叫んだ。
だが、その前方に氷の騎士が三体並んだ。
重い盾。
槍。
道が完全に塞がれる。
ロウガンが受ける。
シュガーシロップが横から押す。
みたらしっぽとエクレアが削る。
それでも、時間が足りない。
鐘が三回目を鳴らした。
白い冷気が、街全体を満たす。
「まずい!」
つきみが魔力障壁を張る。
ロウガンが盾を構える。
アイリスが回復を重ねようとする。
けれど、凍結深度ゲージは最大まで達した。
足元から白い氷が伸びる。
ロウガンの盾。
シュガーシロップの剣。
エクレアの叫びかけた口。
チョコチップの刀。
みたらしっぽの視界。
すべてが青白く凍った。
<全体凍結>
<パーティー全滅>
一回目の挑戦は、南門街区を抜ける前に終わった。
巨大な石造りの門。
その上部には、欠けた文字で「NIFLHEIM」と刻まれている。
門の向こうは白い。
ただ雪が積もっているのではない。
吹雪そのものが、そこに壁のように立っている。
「入る前から視界ゼロに近いね」
ガトーショコラが長銃のスコープを調整しながら言った。
「これ、狙撃できる?」
シュガーシロップが聞く。
「できる場所を探す。できない場所では撃たない」
「潔い」
「撃てないのに撃つ方が危ないから」
ロウガンが盾を構える。
氷の粒が盾の表面に当たり、細かな音を立てた。
「隊列」
つきみが短く言う。
「前列、ロウガン、シロ、私。中列、みた、エクレア、チョコちゃん。後列、ショコ姉、ルカ、スフレ、チロルさん、アイリス、エスプレッソさん。敵が横から来たら、中列が切る。後列は絶対に孤立しない」
「了解」
みたらしっぽは剣を抜いた。
グラディエーターになってから、戦い方は変わった。
ただ前に出るだけではない。
ロウガンが作る道。
つきみが整える流れ。
シュガーシロップが支える横幅。
その隙間に入って、敵の形を壊す。
今回のレイドでは、きっとそれが必要になる。
「チョコ、大丈夫?」
隣のチョコチップに声をかける。
チョコチップは刀の柄に手を添えたまま、少しだけ深呼吸した。
「緊張しています。でも、大丈夫です」
「無理しないでね」
「はい。でも、今日はちゃんと最後まで行きたいです」
その声は、以前よりずっと落ち着いていた。
最初にグラスボアを怖がっていた頃とは違う。
「それじゃ、行こう」
みたらしっぽが言う。
レイド開始。
門をくぐった瞬間、音が変わった。
風。
雪。
遠くで軋む建物の音。
そして、どこかから聞こえる、低い鐘の音。
そこは、街だった。
かつて街だった場所、と言う方が近い。
石畳は氷に覆われ、家々の窓には白い霜が張りついている。
倒れた街灯。
凍った噴水。
半分雪に埋もれた馬車。
通りの両側には、商店だったらしい建物が並んでいた。
けれど、人の気配はない。
代わりに、窓の奥から青白い光が揺れている。
<絶対零度ニブルヘイム>
<進行目標:南門街区を突破せよ>
<凍結深度が最大になると、全パーティーが全体凍結状態になります>
「来た」
アイリスが表示を確認する。
「止まりすぎないで。回復も移動しながらやるわ」
「最初の敵、左二階」
ガトーショコラが言った。
長銃の銃口が、吹雪の中でわずかに動く。
乾いた発砲音。
二階窓にいた氷の弓兵が、光の粒になって消えた。
「右路地、三体」
エスプレッソが続ける。
「早いな」
チロルが銃を抜く。
「右、俺が見る」
バレットダンサーのチロルは、足を止めなかった。
踊るように身をひねりながら銃弾を撃ち込む。
路地から飛び出してきた氷獣の足元に弾丸が入り、動きが鈍る。
「ロウガン!」
「受ける」
ロウガンが前へ出る。
氷獣が盾にぶつかる。
ロウガンは押し返さない。
盾の角度を変えて、敵の勢いを通りの外側へ流す。
その隙間を、シュガーシロップが踏み込んで広げた。
「道、開ける!」
「入る!」
みたらしっぽとエクレアが同時に走る。
正面の氷兵へ、二人の連撃が入る。
エクレアは以前よりかなり動きが鋭くなっていた。
勢い任せに見えて、ちゃんと敵の詠唱や武器の振り始めを見ている。
「奥の魔法兵、詠唱!」
「撃つ」
ガトーショコラの銃声。
魔法兵の手元が弾け、詠唱が止まる。
「チョコ、今!」
「はい!」
チョコチップが刀を抜いた。
サムライの動きは、グラディエーターとは違う。
連撃ではなく、間を読む。
吹雪の中で、チョコチップの髪が揺れた。
「一閃!」
氷兵の胴が斜めに裂ける。
「いいね!」
シュガーシロップが声を上げる。
「ありがとうございます!」
「でも前!」
「はい!」
すぐに次の敵が来る。
このレイドでは、喜んでいる時間すら短い。
道の奥から、鐘の音が鳴った。
一回。
それと同時に、凍結深度ゲージが少し上がる。
「鐘でゲージ上昇?」
アイリスが言う。
「たぶん、街区ごとの時間制限」
ガトーショコラが答える。
「鐘が鳴るたびに吹雪が強くなる」
エスプレッソが短く付け加えた。
実際、視界が少し白くなった。
敵の輪郭がぼやける。
「急ぐ?」
エクレアが聞く。
「急ぐ。でも崩れない」
つきみが前を見たまま言った。
「この街、焦らせる作りしてる」
「嫌な街だな」
チロルが後ろを撃ちながら笑う。
「滅びた理由、性格悪いからじゃない?」
「街に性格があるかは知らないけど、設計は悪趣味ね」
アイリスが言う。
その瞬間、左右の建物の扉が一斉に開いた。
中から、凍った市民のような姿のモンスターが現れる。
剣を持つ者。
槍を持つ者。
手に青白い炎を灯す者。
数が多い。
「囲まれる!」
ルカが召喚獣を呼ぶ。
小型の召喚獣たちが路地の入口へ走り、敵の進路を一瞬だけ塞ぐ。
「長くは持ちません!」
「十分!」
みたらしっぽは前方の敵へ斬り込む。
倒す。
また倒す。
けれど、敵は減らない。
少し進めば、また別の扉が開く。
「これ、全部倒そうとすると止まる!」
つきみが叫ぶ。
「でも倒さないと通れない!」
シュガーシロップが押し返す。
「通る分だけでいい!」
ロウガンが短く言う。
しかし、初見の判断は難しい。
倒すべき敵。
無視できる敵。
止めるだけでいい敵。
それがまだわからない。
凍結深度ゲージが上がる。
鐘が二回目を鳴らした。
吹雪が一段と強くなる。
ガトーショコラのスコープが白く曇った。
「視界が悪い。屋根上の敵、見失う」
「後ろ、弓兵!」
チロルが振り向くが、弾が吹雪に紛れてわずかに逸れる。
氷の矢がスフレの近くに刺さった。
「っ……歌が途切れる」
「スフレ!」
アイリスが回復を飛ばそうとする。
しかし、足元に霜が広がり、詠唱が止められた。
「動きながらだと、大きい回復が通らないわ!」
「前に抜ける!」
みたらしっぽは叫んだ。
だが、その前方に氷の騎士が三体並んだ。
重い盾。
槍。
道が完全に塞がれる。
ロウガンが受ける。
シュガーシロップが横から押す。
みたらしっぽとエクレアが削る。
それでも、時間が足りない。
鐘が三回目を鳴らした。
白い冷気が、街全体を満たす。
「まずい!」
つきみが魔力障壁を張る。
ロウガンが盾を構える。
アイリスが回復を重ねようとする。
けれど、凍結深度ゲージは最大まで達した。
足元から白い氷が伸びる。
ロウガンの盾。
シュガーシロップの剣。
エクレアの叫びかけた口。
チョコチップの刀。
みたらしっぽの視界。
すべてが青白く凍った。
<全体凍結>
<パーティー全滅>
一回目の挑戦は、南門街区を抜ける前に終わった。
反省会は温かい部屋で
ギルドハウスへ戻ると、しばらく誰も話さなかった。
負けた。
それも、思ったより早かった。
けれど、重すぎる空気になりかけたところで、エクレアが両手を机に置いた。
「悔しい!」
「そこは素直ね」
アイリスが椅子に座りながら言う。
「だって悔しいじゃん! 街に入ってすぐ凍ったんだよ!?」
「すぐではない。七分四十六秒」
エスプレッソが手帳を見ながら言った。
「細かい!」
「記録だから」
「でも七分ならすぐだよ!」
「高難易度初見としては、情報量は取れた」
ガトーショコラが長銃を壁に立てかけ、レイドログを開く。
「敵の湧き方が重要。扉、窓、屋根、路地。あと、鐘が鳴るたびに吹雪が強くなる」
「街区ごとに鐘が三回」
つきみが資料に線を引く。
「三回目までに抜けないと凍結深度が一気に上がる。倒す敵を減らさないと間に合わない」
「でも敵を無視しすぎると後ろが崩れる」
シュガーシロップが言う。
「そこは俺とショコラで後ろを見る」
チロルが答えた。
「俺は動きながらでも撃てる。ショコラは屋根上と遠距離を落とす。近づいてきた敵は俺が散らす」
「私は止まって撃つタイミングを絞る」
ガトーショコラが言う。
「全部狙うと逆に遅れる。屋根上、魔法兵、鐘の近くにいる敵。この三つを優先する」
「鐘の近く?」
チョコチップが聞いた。
「二回目の鐘が鳴る直前、鐘楼の下に青い火を持った敵がいた。たぶん吹雪強化に関係してる」
「見えてたの?」
みたらしっぽが驚くと、ガトーショコラは少しだけ肩をすくめた。
「一瞬だけ。撃つには遅かった」
「次は撃つ?」
「次は撃つ」
その言い方が、とてもガトーショコラらしかった。
ルカも召喚リストを開く。
「路地塞ぎ用の召喚獣を増やします。長時間は持ちませんが、十秒でも敵の流れを遅らせられれば、通路を抜けられるかもしれません」
「歌も変える」
スフレが静かに言った。
「攻撃強化より、移動補助と凍結耐性を優先する。最初から火力を出すより、街区を抜けることを優先した方がいい」
「回復も同じね」
アイリスが頷く。
「一気に戻すより、削られすぎないようにする。止まって大回復は無理。移動しながら踏める回復を置くわ」
ロウガンは地図を見ていた。
「盾で受ける位置を変える。道の真ん中ではなく、角で受けて外へ流す。街の壁を使う」
「ロウガンさん、そんなことできる?」
エクレアが聞く。
「やる」
短い。
でも、全員が納得した。
ロウガンが「やる」と言えば、それは本当にやるという意味だ。
「みたは?」
つきみが聞く。
みたらしっぽは少し考えた。
「僕とエクレアは、倒すんじゃなくて道を切る。チョコはその切れ目に一撃を入れる。シロは押し広げる。つきみは崩れそうなところを支える」
「いいと思う」
つきみは頷く。
「ただ、みたとエクレアは前に出すぎると戻れない。街区は視界が悪いから、互いの位置を見失ったら終わる」
「じゃあ合図を決めよう!」
エクレアが言う。
「合図?」
「私が『いくよ!』って言ったら突っ込む!」
「いつも言ってるわよ」
アイリスが呆れる。
「じゃあダメか!」
「自分で気づいたのは偉いわ」
「褒められた!」
「褒めてないわ」
エスプレッソがぽつりと言った。
「短い音がいい」
「音?」
「吹雪で声が消える。長い言葉は通らない。前進、停止、横、後ろ。四つだけ」
「なるほど」
ガトーショコラがすぐにメモを作る。
「鐘が鳴る前後は視界も悪いし、声も通りづらい。短い合図は必要だね」
チョコチップが小さく手を上げた。
「あの、鐘の音は私が数えます」
「チョコが?」
「はい。前回、音だけは聞こえました。吹雪で見えなくても、鐘の回数ならたぶんわかります」
エスプレッソが手帳に何かを書いた。
チョコチップが少し慌てる。
「また記録ですか?」
「重要」
「毎回恥ずかしいです……」
「良い記録」
「良い記録でも恥ずかしいです」
少し笑いが起きる。
負けた。
でも、誰も諦めていない。
それだけで、みたらしっぽは少し安心した。
「もう一回行こう」
みたらしっぽは言った。
「今度は南門街区を抜ける」
負けた。
それも、思ったより早かった。
けれど、重すぎる空気になりかけたところで、エクレアが両手を机に置いた。
「悔しい!」
「そこは素直ね」
アイリスが椅子に座りながら言う。
「だって悔しいじゃん! 街に入ってすぐ凍ったんだよ!?」
「すぐではない。七分四十六秒」
エスプレッソが手帳を見ながら言った。
「細かい!」
「記録だから」
「でも七分ならすぐだよ!」
「高難易度初見としては、情報量は取れた」
ガトーショコラが長銃を壁に立てかけ、レイドログを開く。
「敵の湧き方が重要。扉、窓、屋根、路地。あと、鐘が鳴るたびに吹雪が強くなる」
「街区ごとに鐘が三回」
つきみが資料に線を引く。
「三回目までに抜けないと凍結深度が一気に上がる。倒す敵を減らさないと間に合わない」
「でも敵を無視しすぎると後ろが崩れる」
シュガーシロップが言う。
「そこは俺とショコラで後ろを見る」
チロルが答えた。
「俺は動きながらでも撃てる。ショコラは屋根上と遠距離を落とす。近づいてきた敵は俺が散らす」
「私は止まって撃つタイミングを絞る」
ガトーショコラが言う。
「全部狙うと逆に遅れる。屋根上、魔法兵、鐘の近くにいる敵。この三つを優先する」
「鐘の近く?」
チョコチップが聞いた。
「二回目の鐘が鳴る直前、鐘楼の下に青い火を持った敵がいた。たぶん吹雪強化に関係してる」
「見えてたの?」
みたらしっぽが驚くと、ガトーショコラは少しだけ肩をすくめた。
「一瞬だけ。撃つには遅かった」
「次は撃つ?」
「次は撃つ」
その言い方が、とてもガトーショコラらしかった。
ルカも召喚リストを開く。
「路地塞ぎ用の召喚獣を増やします。長時間は持ちませんが、十秒でも敵の流れを遅らせられれば、通路を抜けられるかもしれません」
「歌も変える」
スフレが静かに言った。
「攻撃強化より、移動補助と凍結耐性を優先する。最初から火力を出すより、街区を抜けることを優先した方がいい」
「回復も同じね」
アイリスが頷く。
「一気に戻すより、削られすぎないようにする。止まって大回復は無理。移動しながら踏める回復を置くわ」
ロウガンは地図を見ていた。
「盾で受ける位置を変える。道の真ん中ではなく、角で受けて外へ流す。街の壁を使う」
「ロウガンさん、そんなことできる?」
エクレアが聞く。
「やる」
短い。
でも、全員が納得した。
ロウガンが「やる」と言えば、それは本当にやるという意味だ。
「みたは?」
つきみが聞く。
みたらしっぽは少し考えた。
「僕とエクレアは、倒すんじゃなくて道を切る。チョコはその切れ目に一撃を入れる。シロは押し広げる。つきみは崩れそうなところを支える」
「いいと思う」
つきみは頷く。
「ただ、みたとエクレアは前に出すぎると戻れない。街区は視界が悪いから、互いの位置を見失ったら終わる」
「じゃあ合図を決めよう!」
エクレアが言う。
「合図?」
「私が『いくよ!』って言ったら突っ込む!」
「いつも言ってるわよ」
アイリスが呆れる。
「じゃあダメか!」
「自分で気づいたのは偉いわ」
「褒められた!」
「褒めてないわ」
エスプレッソがぽつりと言った。
「短い音がいい」
「音?」
「吹雪で声が消える。長い言葉は通らない。前進、停止、横、後ろ。四つだけ」
「なるほど」
ガトーショコラがすぐにメモを作る。
「鐘が鳴る前後は視界も悪いし、声も通りづらい。短い合図は必要だね」
チョコチップが小さく手を上げた。
「あの、鐘の音は私が数えます」
「チョコが?」
「はい。前回、音だけは聞こえました。吹雪で見えなくても、鐘の回数ならたぶんわかります」
エスプレッソが手帳に何かを書いた。
チョコチップが少し慌てる。
「また記録ですか?」
「重要」
「毎回恥ずかしいです……」
「良い記録」
「良い記録でも恥ずかしいです」
少し笑いが起きる。
負けた。
でも、誰も諦めていない。
それだけで、みたらしっぽは少し安心した。
「もう一回行こう」
みたらしっぽは言った。
「今度は南門街区を抜ける」
二回目、中央広場
二回目の挑戦で、南門街区は突破できた。
最初の反省がすぐに効いた。
ロウガンが街角で敵を受け、シュガーシロップが道を押し広げる。
ガトーショコラは屋根上の弓兵と青い火を持つ敵を正確に撃ち抜いた。
吹雪で視界が悪い中、銃声だけが乾いて響く。
一発ごとに、厄介な敵が消える。
「鐘前、青火一体」
「見えた」
発砲。
鐘の音が遅れる。
「いい!」
みたらしっぽが走りながら声を出す。
チロルは後方を踊るように撃ち、ルカの召喚獣が路地を塞ぐ。
アイリスの回復は小さな光となって進行方向へ置かれ、スフレの歌が足を軽くする。
チョコチップは鐘の回数を聞きながら、必要な場所にだけ刀を振った。
「二回目です!」
「あと一回で抜ける!」
つきみの声。
全員が南門街区の出口へ走る。
三回目の鐘が鳴る直前、凍った門をくぐった。
視界が一瞬開ける。
そこは、中央広場だった。
巨大な噴水が凍りつき、広場の中心で青白い柱のようになっている。
周囲には壊れた露店。
倒れた看板。
凍ったベンチ。
そのすべてが、昔そこに人がいたことを示していた。
けれど、今そこにいたのは人ではなかった。
凍りついた鎧をまとった巨躯の騎士。
巨大な斧。
背中に氷の旗。
<中ボス:霜葬騎士グラキエス>
「中ボス!」
エクレアが声を上げる。
「それは見ればわかるわ」
アイリスが杖を構えた。
グラキエスが斧を地面に叩きつける。
広場全体に氷の波が走った。
「跳んで!」
つきみの声。
全員が反応する。
氷の波を避けきれなかった召喚獣が一体、砕けて消えた。
「攻撃範囲が広い!」
ルカが新しい召喚獣を呼び直す。
「正面は俺が見る」
ロウガンが盾を構える。
グラキエスの斧が振り下ろされる。
重い。
盾に当たった瞬間、ロウガンの足元の氷が割れた。
「ロウガン!」
「持つ」
「シロ、横!」
「任せろ!」
シュガーシロップが斧の柄へ剣を叩き込む。
つきみが魔力障壁を重ね、衝撃を散らす。
みたらしっぽとエクレアが左右から入る。
「膝、硬い!」
「鎧に氷が重なってる!」
ガトーショコラがスコープを覗いた。
「背中の旗。あれ、周囲の雑魚を呼んでる」
「撃てる?」
「角度がない」
「俺が回る」
チロルが滑るように広場を横切った。
グラキエスの周囲には、凍った兵士たちが次々に現れる。
倒しても、旗が揺れるたびにまた湧く。
「旗を壊さないと無理!」
ガトーショコラが言う。
「チロル、誘導する!」
みたらしっぽが声を出す。
「エクレア、正面を荒らす。チョコ、旗に通る瞬間を待って」
「了解!」
「はい!」
エクレアが正面へ飛び込む。
「こっち見て!」
「それ、タンクの台詞じゃないわよ!」
アイリスが叫ぶが、グラキエスは一瞬だけ反応した。
斧の向きが変わる。
その瞬間、ロウガンが盾で押し込み、つきみが障壁で斧の軌道を逸らす。
背中が、ほんの一瞬だけ開いた。
「今」
エスプレッソの声。
ガトーショコラの銃声が響く。
弾丸が旗の根元を撃ち抜いた。
チロルの弾が続き、氷の旗にひびが入る。
「チョコ!」
みたらしっぽが叫ぶ。
チョコチップが走った。
「雪月一閃!」
刀が旗の裂け目を斬り抜いた。
氷の旗が砕ける。
湧いていた兵士たちの動きが鈍った。
「通った!」
「本体!」
みたらしっぽとエクレアが同時に斬り込む。
スフレの歌が攻撃へ切り替わった。
短時間だけ、全員の攻撃が強くなる。
「ここ」
スフレが言った。
「今なら押せる」
「行く!」
みたらしっぽの連撃。
エクレアの高速斬撃。
シュガーシロップの重撃。
つきみの魔力刃。
チョコチップの一閃。
攻撃が重なり、グラキエスの鎧に大きな亀裂が入った。
だが、完全には倒れない。
グラキエスが斧を高く掲げる。
広場の四方に、青い魔法陣が浮かぶ。
「全体攻撃!」
アイリスが叫ぶ。
「回復、先に置くわ!」
しかし、広場の外周から吹雪が一気に流れ込んできた。
視界が消える。
ロウガンの姿も、つきみの姿も、数歩先で白く霞む。
鐘が鳴った。
一回。
二回。
三回。
「まだ倒しきれてない!」
シュガーシロップが叫ぶ。
「全員、中央!」
つきみが言う。
「でも凍結深度が!」
「中央の噴水、影になってる!」
エスプレッソの声が飛んだ。
全員が凍った噴水の影へ走る。
だが、間に合わなかった。
グラキエスの斧が地面へ落ちる。
氷の衝撃波。
凍結深度が一気に上がる。
白い光。
全体凍結。
二回目の挑戦は、中ボスの残りHPわずかで終わった。
最初の反省がすぐに効いた。
ロウガンが街角で敵を受け、シュガーシロップが道を押し広げる。
ガトーショコラは屋根上の弓兵と青い火を持つ敵を正確に撃ち抜いた。
吹雪で視界が悪い中、銃声だけが乾いて響く。
一発ごとに、厄介な敵が消える。
「鐘前、青火一体」
「見えた」
発砲。
鐘の音が遅れる。
「いい!」
みたらしっぽが走りながら声を出す。
チロルは後方を踊るように撃ち、ルカの召喚獣が路地を塞ぐ。
アイリスの回復は小さな光となって進行方向へ置かれ、スフレの歌が足を軽くする。
チョコチップは鐘の回数を聞きながら、必要な場所にだけ刀を振った。
「二回目です!」
「あと一回で抜ける!」
つきみの声。
全員が南門街区の出口へ走る。
三回目の鐘が鳴る直前、凍った門をくぐった。
視界が一瞬開ける。
そこは、中央広場だった。
巨大な噴水が凍りつき、広場の中心で青白い柱のようになっている。
周囲には壊れた露店。
倒れた看板。
凍ったベンチ。
そのすべてが、昔そこに人がいたことを示していた。
けれど、今そこにいたのは人ではなかった。
凍りついた鎧をまとった巨躯の騎士。
巨大な斧。
背中に氷の旗。
<中ボス:霜葬騎士グラキエス>
「中ボス!」
エクレアが声を上げる。
「それは見ればわかるわ」
アイリスが杖を構えた。
グラキエスが斧を地面に叩きつける。
広場全体に氷の波が走った。
「跳んで!」
つきみの声。
全員が反応する。
氷の波を避けきれなかった召喚獣が一体、砕けて消えた。
「攻撃範囲が広い!」
ルカが新しい召喚獣を呼び直す。
「正面は俺が見る」
ロウガンが盾を構える。
グラキエスの斧が振り下ろされる。
重い。
盾に当たった瞬間、ロウガンの足元の氷が割れた。
「ロウガン!」
「持つ」
「シロ、横!」
「任せろ!」
シュガーシロップが斧の柄へ剣を叩き込む。
つきみが魔力障壁を重ね、衝撃を散らす。
みたらしっぽとエクレアが左右から入る。
「膝、硬い!」
「鎧に氷が重なってる!」
ガトーショコラがスコープを覗いた。
「背中の旗。あれ、周囲の雑魚を呼んでる」
「撃てる?」
「角度がない」
「俺が回る」
チロルが滑るように広場を横切った。
グラキエスの周囲には、凍った兵士たちが次々に現れる。
倒しても、旗が揺れるたびにまた湧く。
「旗を壊さないと無理!」
ガトーショコラが言う。
「チロル、誘導する!」
みたらしっぽが声を出す。
「エクレア、正面を荒らす。チョコ、旗に通る瞬間を待って」
「了解!」
「はい!」
エクレアが正面へ飛び込む。
「こっち見て!」
「それ、タンクの台詞じゃないわよ!」
アイリスが叫ぶが、グラキエスは一瞬だけ反応した。
斧の向きが変わる。
その瞬間、ロウガンが盾で押し込み、つきみが障壁で斧の軌道を逸らす。
背中が、ほんの一瞬だけ開いた。
「今」
エスプレッソの声。
ガトーショコラの銃声が響く。
弾丸が旗の根元を撃ち抜いた。
チロルの弾が続き、氷の旗にひびが入る。
「チョコ!」
みたらしっぽが叫ぶ。
チョコチップが走った。
「雪月一閃!」
刀が旗の裂け目を斬り抜いた。
氷の旗が砕ける。
湧いていた兵士たちの動きが鈍った。
「通った!」
「本体!」
みたらしっぽとエクレアが同時に斬り込む。
スフレの歌が攻撃へ切り替わった。
短時間だけ、全員の攻撃が強くなる。
「ここ」
スフレが言った。
「今なら押せる」
「行く!」
みたらしっぽの連撃。
エクレアの高速斬撃。
シュガーシロップの重撃。
つきみの魔力刃。
チョコチップの一閃。
攻撃が重なり、グラキエスの鎧に大きな亀裂が入った。
だが、完全には倒れない。
グラキエスが斧を高く掲げる。
広場の四方に、青い魔法陣が浮かぶ。
「全体攻撃!」
アイリスが叫ぶ。
「回復、先に置くわ!」
しかし、広場の外周から吹雪が一気に流れ込んできた。
視界が消える。
ロウガンの姿も、つきみの姿も、数歩先で白く霞む。
鐘が鳴った。
一回。
二回。
三回。
「まだ倒しきれてない!」
シュガーシロップが叫ぶ。
「全員、中央!」
つきみが言う。
「でも凍結深度が!」
「中央の噴水、影になってる!」
エスプレッソの声が飛んだ。
全員が凍った噴水の影へ走る。
だが、間に合わなかった。
グラキエスの斧が地面へ落ちる。
氷の衝撃波。
凍結深度が一気に上がる。
白い光。
全体凍結。
二回目の挑戦は、中ボスの残りHPわずかで終わった。
旗と噴水
「あと少しだったのに!」
ギルドハウスでエクレアが机に突っ伏した。
「あと少しだったから悔しいのよ」
アイリスはそう言いながら、レイドログを確認している。
悔しそうなのは、アイリスも同じだった。
「中ボスの旗破壊は成功してる」
ガトーショコラが映像ログを流す。
「問題は最後の全体攻撃。噴水影に入れば軽減できるけど、気づくのが遅れた」
「でも、エスプレッソさんは気づいてた」
つきみが言う。
エスプレッソは手帳を閉じた。
「一回目の斧攻撃で、噴水の裏だけ霜が薄かった。完全な安全地帯ではないが、軽減地点」
「それを全員に伝える前に吹雪が来たのね」
アイリスが言う。
「次は最初から噴水を基準に動く。グラキエスのHPが三割を切ったら、中央寄り」
「旗は?」
みたらしっぽが聞く。
「旗はショコラが撃つ。チロルが角度を作る。チョコが壊す」
ガトーショコラは淡々と言った。
「チョコの一閃、旗にかなり通ってた」
チョコチップが少し緊張した顔をする。
「次も、私が?」
「うん」
「わかりました」
彼女は刀の柄を軽く握った。
「やります」
その返事に迷いはなかった。
シュガーシロップが笑う。
「チョコ、強くなったな」
「まだまだです」
「まだまだって言えるなら強くなってる」
「そういうものですか?」
「そういうもの」
ロウガンが短く頷いた。
「できることが決まっているのは強い」
「ロウガンさんまで……ありがとうございます」
チョコチップは少し照れたように頭を下げた。
「じゃあ次は中ボス突破」
みたらしっぽは言った。
「その先にニーズベッグがいる」
会議室が少し静かになった。
飛竜ニーズベッグ。
レイドの最終ボス。
まだ姿すら見ていない。
けれど、そこに辿り着けるところまでは来ている。
「行こう」
つきみが言った。
「次は、街の奥を見る」
ギルドハウスでエクレアが机に突っ伏した。
「あと少しだったから悔しいのよ」
アイリスはそう言いながら、レイドログを確認している。
悔しそうなのは、アイリスも同じだった。
「中ボスの旗破壊は成功してる」
ガトーショコラが映像ログを流す。
「問題は最後の全体攻撃。噴水影に入れば軽減できるけど、気づくのが遅れた」
「でも、エスプレッソさんは気づいてた」
つきみが言う。
エスプレッソは手帳を閉じた。
「一回目の斧攻撃で、噴水の裏だけ霜が薄かった。完全な安全地帯ではないが、軽減地点」
「それを全員に伝える前に吹雪が来たのね」
アイリスが言う。
「次は最初から噴水を基準に動く。グラキエスのHPが三割を切ったら、中央寄り」
「旗は?」
みたらしっぽが聞く。
「旗はショコラが撃つ。チロルが角度を作る。チョコが壊す」
ガトーショコラは淡々と言った。
「チョコの一閃、旗にかなり通ってた」
チョコチップが少し緊張した顔をする。
「次も、私が?」
「うん」
「わかりました」
彼女は刀の柄を軽く握った。
「やります」
その返事に迷いはなかった。
シュガーシロップが笑う。
「チョコ、強くなったな」
「まだまだです」
「まだまだって言えるなら強くなってる」
「そういうものですか?」
「そういうもの」
ロウガンが短く頷いた。
「できることが決まっているのは強い」
「ロウガンさんまで……ありがとうございます」
チョコチップは少し照れたように頭を下げた。
「じゃあ次は中ボス突破」
みたらしっぽは言った。
「その先にニーズベッグがいる」
会議室が少し静かになった。
飛竜ニーズベッグ。
レイドの最終ボス。
まだ姿すら見ていない。
けれど、そこに辿り着けるところまでは来ている。
「行こう」
つきみが言った。
「次は、街の奥を見る」
三回目、飛竜の影
三回目で、霜葬騎士グラキエスは倒せた。
旗を破壊し、噴水の影で全体攻撃を軽減し、最後はロウガンが斧を受け止めたところへ全員で攻撃を重ねた。
グラキエスが崩れ落ちた時、中央広場の吹雪が少しだけ弱まった。
その先に、旧市庁舎へ続く大通りが現れる。
「突破!」
エクレアが声を上げる。
「まだ大きい」
エスプレッソが言う。
「でも突破したよ!?」
「それは事実」
「じゃあ少し許して!」
「少しなら」
「やった!」
「喜ぶのはあと」
アイリスが言う。
「まだレイド中よ」
旧市庁舎前の通りは、南門街区よりさらに崩れていた。
建物の上部は折れ、路面は割れ、地下から冷気が吹き上がっている。
敵の数も増えている。
氷兵だけではない。
飛行型の氷魔。
屋根の上を移動する射手。
地下水路から湧く獣。
「上、下、横。全部来るね」
チロルが銃を構える。
「忙しい方が踊りがいあるだろ?」
「あるけど、限度はある」
「チロルさんがまともなことを」
チョコチップが言う。
「俺、そんなに普段まともじゃない?」
「カフェではまともです」
「それはそれで複雑」
ガトーショコラの銃声が響く。
屋根上の射手が消える。
「右上、処理。左下、ルカお願い」
「はい」
ルカの召喚獣が地下水路の入口へ飛び込み、光の壁を作る。
そこへ氷獣がぶつかり、動きが止まった。
「みた、左が薄い」
つきみの声。
「見えた」
みたらしっぽは走る。
エクレアが右で暴れ、シュガーシロップが中央を支える。
チョコチップはみたらしっぽの作った隙間に入り、一撃で敵の核を斬る。
かなり噛み合ってきている。
だが、街は簡単には奥へ進ませない。
旧市庁舎前の階段に差しかかった時、空が暗くなった。
吹雪の奥。
巨大な翼の影。
「上!」
エスプレッソが叫ぶ。
次の瞬間、氷のブレスが大通りを斜めに焼いた。
いや、焼いたのではない。
凍らせた。
通りの半分が、一瞬で白い氷に覆われる。
避け遅れた召喚獣が消える。
シュガーシロップのHPが大きく削れた。
「シロ!」
「まだ立ってる!」
シュガーシロップは笑ったが、余裕はなかった。
「今のがニーズベッグ?」
みたらしっぽが空を見る。
吹雪の奥で、影が旋回している。
まだボス戦ではない。
だが、すでに攻撃してきている。
「市街地後半から、上空妨害が入るみたいね」
アイリスが回復を飛ばしながら言う。
「ちょっと待って、それずるくない!?」
エクレアが言う。
「ボスが先に挨拶してくれてると思えば?」
チロルが返す。
「挨拶がブレスなの怖すぎ!」
「来る」
ガトーショコラがスコープを空へ向けた。
「飛行位置、左上。撃てるけど、落とすのは無理」
「牽制だけでいい」
つきみが言う。
ガトーショコラが撃つ。
銃声。
吹雪の中で、遠くの影がわずかに揺れた。
ニーズベッグの咆哮が響く。
その音だけで、足元の氷が震えた。
「前へ!」
ロウガンが叫ぶ。
全員が走る。
旧市庁舎を抜け、北の大聖堂跡へ。
しかし、飛竜の妨害と大量の敵で隊列は少しずつ乱れた。
アイリスの回復が届かない位置へ、エクレアが出すぎる。
チョコチップがそれを追いかけようとする。
「チョコ、戻らない!」
みたらしっぽが叫ぶ。
「でも、エクレアさんが!」
「エクレアは戻ってくる!」
本当に、エクレアは戻ってきた。
HPを半分以上削られながらも、笑っている。
「危なかった!」
「危なかったじゃないわよ!」
アイリスが怒る。
「ごめん! でも魔法兵止めた!」
「そこは助かったわ!」
「怒りながら褒められた!」
「褒めてない!」
そんなやり取りをしている余裕は、もう少なかった。
大聖堂跡の門が見えた。
その直前で、ニーズベッグが再び降下する。
氷のブレス。
今度は正面。
避ける場所がない。
ロウガンが盾を構える。
つきみが障壁を重ねる。
シュガーシロップも前へ出る。
「受ける!」
白いブレスが三人を飲み込んだ。
アイリスが回復を重ねる。
スフレの歌が凍結耐性へ切り替わる。
それでも、凍結深度が一気に上がる。
鐘が鳴る。
一回。
二回。
三回。
大聖堂跡の門へ辿り着く直前、全体凍結が発動した。
三回目の挑戦は、ボスエリアの入口で終わった。
旗を破壊し、噴水の影で全体攻撃を軽減し、最後はロウガンが斧を受け止めたところへ全員で攻撃を重ねた。
グラキエスが崩れ落ちた時、中央広場の吹雪が少しだけ弱まった。
その先に、旧市庁舎へ続く大通りが現れる。
「突破!」
エクレアが声を上げる。
「まだ大きい」
エスプレッソが言う。
「でも突破したよ!?」
「それは事実」
「じゃあ少し許して!」
「少しなら」
「やった!」
「喜ぶのはあと」
アイリスが言う。
「まだレイド中よ」
旧市庁舎前の通りは、南門街区よりさらに崩れていた。
建物の上部は折れ、路面は割れ、地下から冷気が吹き上がっている。
敵の数も増えている。
氷兵だけではない。
飛行型の氷魔。
屋根の上を移動する射手。
地下水路から湧く獣。
「上、下、横。全部来るね」
チロルが銃を構える。
「忙しい方が踊りがいあるだろ?」
「あるけど、限度はある」
「チロルさんがまともなことを」
チョコチップが言う。
「俺、そんなに普段まともじゃない?」
「カフェではまともです」
「それはそれで複雑」
ガトーショコラの銃声が響く。
屋根上の射手が消える。
「右上、処理。左下、ルカお願い」
「はい」
ルカの召喚獣が地下水路の入口へ飛び込み、光の壁を作る。
そこへ氷獣がぶつかり、動きが止まった。
「みた、左が薄い」
つきみの声。
「見えた」
みたらしっぽは走る。
エクレアが右で暴れ、シュガーシロップが中央を支える。
チョコチップはみたらしっぽの作った隙間に入り、一撃で敵の核を斬る。
かなり噛み合ってきている。
だが、街は簡単には奥へ進ませない。
旧市庁舎前の階段に差しかかった時、空が暗くなった。
吹雪の奥。
巨大な翼の影。
「上!」
エスプレッソが叫ぶ。
次の瞬間、氷のブレスが大通りを斜めに焼いた。
いや、焼いたのではない。
凍らせた。
通りの半分が、一瞬で白い氷に覆われる。
避け遅れた召喚獣が消える。
シュガーシロップのHPが大きく削れた。
「シロ!」
「まだ立ってる!」
シュガーシロップは笑ったが、余裕はなかった。
「今のがニーズベッグ?」
みたらしっぽが空を見る。
吹雪の奥で、影が旋回している。
まだボス戦ではない。
だが、すでに攻撃してきている。
「市街地後半から、上空妨害が入るみたいね」
アイリスが回復を飛ばしながら言う。
「ちょっと待って、それずるくない!?」
エクレアが言う。
「ボスが先に挨拶してくれてると思えば?」
チロルが返す。
「挨拶がブレスなの怖すぎ!」
「来る」
ガトーショコラがスコープを空へ向けた。
「飛行位置、左上。撃てるけど、落とすのは無理」
「牽制だけでいい」
つきみが言う。
ガトーショコラが撃つ。
銃声。
吹雪の中で、遠くの影がわずかに揺れた。
ニーズベッグの咆哮が響く。
その音だけで、足元の氷が震えた。
「前へ!」
ロウガンが叫ぶ。
全員が走る。
旧市庁舎を抜け、北の大聖堂跡へ。
しかし、飛竜の妨害と大量の敵で隊列は少しずつ乱れた。
アイリスの回復が届かない位置へ、エクレアが出すぎる。
チョコチップがそれを追いかけようとする。
「チョコ、戻らない!」
みたらしっぽが叫ぶ。
「でも、エクレアさんが!」
「エクレアは戻ってくる!」
本当に、エクレアは戻ってきた。
HPを半分以上削られながらも、笑っている。
「危なかった!」
「危なかったじゃないわよ!」
アイリスが怒る。
「ごめん! でも魔法兵止めた!」
「そこは助かったわ!」
「怒りながら褒められた!」
「褒めてない!」
そんなやり取りをしている余裕は、もう少なかった。
大聖堂跡の門が見えた。
その直前で、ニーズベッグが再び降下する。
氷のブレス。
今度は正面。
避ける場所がない。
ロウガンが盾を構える。
つきみが障壁を重ねる。
シュガーシロップも前へ出る。
「受ける!」
白いブレスが三人を飲み込んだ。
アイリスが回復を重ねる。
スフレの歌が凍結耐性へ切り替わる。
それでも、凍結深度が一気に上がる。
鐘が鳴る。
一回。
二回。
三回。
大聖堂跡の門へ辿り着く直前、全体凍結が発動した。
三回目の挑戦は、ボスエリアの入口で終わった。
それでも奥は見えた
「見えた」
全滅後、みたらしっぽは最初にそう言った。
ギルドハウスに戻ってきたメンバーたちは、疲れた顔をしている。
でも、前回までと違って目が死んでいない。
「見えたね」
つきみが頷く。
「ニーズベッグ、かなり面倒」
「飛んでるだけで面倒なのに、市街地でブレス撃ってくるのズルい!」
エクレアが言う。
「ズルくても仕様よ」
アイリスが資料を開く。
「大聖堂跡に入る前のブレス。あれは受けるんじゃなくて、避けるギミックだと思うわ。ロウガンたちが受けてくれたから耐えたけど、凍結深度が上がりすぎた」
「避ける場所、あった?」
シュガーシロップが聞く。
ガトーショコラが映像ログを止めた。
「ここ。大聖堂前の左右に壊れた柱がある。ブレス直前、柱の影だけ雪の流れが変わってる」
「見えてたの?」
「全滅する瞬間に」
「それ、次ならいけるやつだ」
チロルが頷いた。
「俺も右の柱、見た。あそこに入ればブレス軽減できる」
「左は?」
エスプレッソが言う。
「左の柱は崩れかけ。二人まで。右は四人。残りは中央の瓦礫裏」
「よく見てたね」
みたらしっぽが言うと、エスプレッソは淡々と答えた。
「全滅する時ほど情報が取れる」
「探偵っぽい」
チョコチップが言う。
「探偵だから」
「そうでした」
少しだけ笑いが起きる。
疲れている。
でも、誰も嫌な疲れ方はしていない。
「次でボスまで行く」
みたらしっぽは言った。
「ニーズベッグを見て、負けても情報を取る」
「勝つじゃなくて?」
シュガーシロップが聞く。
「もちろん勝ちたい。でも、初見ボスで勝てると思いすぎると崩れる」
「みたが冷静だ」
エクレアが少し驚く。
「僕だってたまには冷静になるよ」
「たまになんだ」
「毎回だと疲れる」
「チロルと同じこと言ってる」
チロルが笑った。
「良い考え方だろ?」
「良いかは微妙」
つきみが立ち上がる。
「でも、次は行ける。大聖堂まではもう道ができてる」
ロウガンも頷いた。
「次はブレスを受けない」
「受けたい?」
シュガーシロップが聞く。
「受けなくていいものは受けない」
「ロウガンさんが言うと重いな」
「盾役の言葉ね」
アイリスが言う。
全員がもう一度装備を確認する。
料理を食べ直し、消耗品を補充し、スキル構成を少し変える。
失敗は積み上がっていく。
けれど、それはただの失敗ではない。
次へ進むための地図になっていく。
全滅後、みたらしっぽは最初にそう言った。
ギルドハウスに戻ってきたメンバーたちは、疲れた顔をしている。
でも、前回までと違って目が死んでいない。
「見えたね」
つきみが頷く。
「ニーズベッグ、かなり面倒」
「飛んでるだけで面倒なのに、市街地でブレス撃ってくるのズルい!」
エクレアが言う。
「ズルくても仕様よ」
アイリスが資料を開く。
「大聖堂跡に入る前のブレス。あれは受けるんじゃなくて、避けるギミックだと思うわ。ロウガンたちが受けてくれたから耐えたけど、凍結深度が上がりすぎた」
「避ける場所、あった?」
シュガーシロップが聞く。
ガトーショコラが映像ログを止めた。
「ここ。大聖堂前の左右に壊れた柱がある。ブレス直前、柱の影だけ雪の流れが変わってる」
「見えてたの?」
「全滅する瞬間に」
「それ、次ならいけるやつだ」
チロルが頷いた。
「俺も右の柱、見た。あそこに入ればブレス軽減できる」
「左は?」
エスプレッソが言う。
「左の柱は崩れかけ。二人まで。右は四人。残りは中央の瓦礫裏」
「よく見てたね」
みたらしっぽが言うと、エスプレッソは淡々と答えた。
「全滅する時ほど情報が取れる」
「探偵っぽい」
チョコチップが言う。
「探偵だから」
「そうでした」
少しだけ笑いが起きる。
疲れている。
でも、誰も嫌な疲れ方はしていない。
「次でボスまで行く」
みたらしっぽは言った。
「ニーズベッグを見て、負けても情報を取る」
「勝つじゃなくて?」
シュガーシロップが聞く。
「もちろん勝ちたい。でも、初見ボスで勝てると思いすぎると崩れる」
「みたが冷静だ」
エクレアが少し驚く。
「僕だってたまには冷静になるよ」
「たまになんだ」
「毎回だと疲れる」
「チロルと同じこと言ってる」
チロルが笑った。
「良い考え方だろ?」
「良いかは微妙」
つきみが立ち上がる。
「でも、次は行ける。大聖堂まではもう道ができてる」
ロウガンも頷いた。
「次はブレスを受けない」
「受けたい?」
シュガーシロップが聞く。
「受けなくていいものは受けない」
「ロウガンさんが言うと重いな」
「盾役の言葉ね」
アイリスが言う。
全員がもう一度装備を確認する。
料理を食べ直し、消耗品を補充し、スキル構成を少し変える。
失敗は積み上がっていく。
けれど、それはただの失敗ではない。
次へ進むための地図になっていく。
大聖堂跡
四回目の挑戦。
南門街区。
中央広場。
霜葬騎士グラキエス。
旧市庁舎前。
そこまでは、これまでで一番安定していた。
もちろん簡単ではない。
吹雪は視界を奪い、敵は次々に湧き、鐘は容赦なく鳴る。
それでも、全員が何をするべきかを少しずつ理解していた。
「鐘、一回目です!」
チョコチップの声。
「青火、右」
ガトーショコラの銃声。
「左路地、塞ぎます」
ルカの召喚獣。
「後ろ、俺が見る」
チロルの銃撃。
「凍結耐性、上げる」
スフレの歌。
「回復地点、前方」
アイリスの光。
「道を開ける」
ロウガンの盾。
「押す!」
シュガーシロップの剣。
「薄いところ、切るよ」
つきみの魔力刃。
「エクレア、合わせて!」
「任せて!」
みたらしっぽとエクレアの連撃。
「チョコ!」
「はい!」
チョコチップの一閃。
街が、少しずつ開いていく。
そして、大聖堂前。
ニーズベッグが降下する。
「柱!」
ガトーショコラの声。
全員が分かれて走る。
右の柱へロウガン、シュガーシロップ、アイリス、スフレ。
左の柱へみたらしっぽ、チョコチップ。
中央の瓦礫裏へつきみ、エクレア、チロル、ルカ、ガトーショコラ、エスプレッソ。
氷のブレスが大通りを飲み込む。
柱が軋む。
瓦礫が砕ける。
だが、凍結深度は最大まで上がらない。
「耐えた!」
エクレアが叫ぶ。
「まだ油断しない!」
アイリスが返す。
「でも耐えた!」
「それはそう!」
今度はアイリスも否定しなかった。
大聖堂跡の門が開く。
中には天井がなかった。
屋根が崩れ、吹雪がそのまま降り注いでいる。
折れた柱。
凍った祭壇。
砕けたステンドグラス。
その中央に、巨大な飛竜が降り立った。
氷の鱗。
黒い翼膜。
長い尾。
額には青白い角。
<飛竜ニーズベッグ>
咆哮。
大聖堂跡全体が震えた。
「来た……!」
みたらしっぽは剣を握り直した。
ニーズベッグは飛竜らしく、地上に留まらない。
着地して爪で薙ぎ払い、すぐに飛び上がる。
上空から氷の槍を降らせ、壁際に追い込む。
かと思えば、急降下して尾で後衛を狙う。
「速い!」
チョコチップが刀を構えながら言う。
「見てからじゃ遅い!」
つきみが叫ぶ。
「影を見る!」
大聖堂跡の床には、ニーズベッグの影が落ちる。
吹雪で本体が見えなくても、影の動きで降下位置がわかる。
「影、右!」
エスプレッソの声。
チロルが右へ撃つ。
ニーズベッグの降下軌道がわずかにズレる。
ロウガンが盾で爪を受けた。
「重い」
「持つ?」
みたらしっぽが聞く。
「短くなら」
「短くでいい!」
シュガーシロップが横から爪を叩く。
つきみの魔力障壁が尾の軌道を逸らす。
「攻撃入る!」
エクレアが走った。
みたらしっぽも続く。
二人のグラディエーターが、ニーズベッグの脚へ連撃を入れる。
硬い。
だが、通る。
「鱗、割れる!」
「チョコ、脚のひび!」
「はい!」
チョコチップが一歩深く踏み込む。
「氷華一閃!」
刀がひびを正確に斬った。
ニーズベッグが怒りの声を上げ、翼を広げる。
「飛ぶ!」
ガトーショコラが銃を構えた。
「翼膜、撃てる」
発砲。
弾丸が翼膜を貫く。
ニーズベッグの飛び上がりがわずかに遅れた。
「ショコ姉、すごい!」
エクレアが言う。
「まだ落とせてない」
「落とす気なんだ!?」
「落とせるなら落とす」
ガトーショコラは淡々としている。
だが、ニーズベッグは簡単には落ちない。
上空へ舞い上がると、大聖堂跡に氷の槍が降り始めた。
床に白い予兆。
壁際に逃げると、横からブレス。
中央に残ると、氷槍。
「逃げ場を潰してきてる!」
アイリスが叫ぶ。
「回復、置く場所がないわ!」
スフレの歌も途切れがちになる。
「ごめん、歌が切れる」
「切れてもいい!」
みたらしっぽは氷槍を避けながら言った。
「生きてれば立て直せる!」
その瞬間、ニーズベッグが急降下した。
狙いは後衛。
ルカ。
「ルカ、下がって!」
シュガーシロップが走る。
しかし距離がある。
ロウガンは正面の氷兵に足止めされている。
みたらしっぽも間に合わない。
黒い外套が動いた。
エスプレッソがルカの前へ滑り込み、黒い針を床に刺す。
影のような罠が広がり、ニーズベッグの降下が一瞬だけ鈍る。
「一秒」
エスプレッソが言った。
「十分!」
つきみが魔力障壁を重ねる。
ルカが横へ逃げる。
ニーズベッグの爪が床を砕いた。
「助かりました!」
「礼は後」
エスプレッソはすぐに移動する。
その時、ニーズベッグの尾が彼女をかすめた。
HPが大きく削れる。
「エスプレッソさん!」
チョコチップが駆け寄ろうとする。
「止まらない」
エスプレッソが短く言った。
「でも」
「止まると死ぬ。進んで」
チョコチップは一瞬だけ唇を噛んだ。
そして、前を見た。
「……はい!」
その判断ができるようになった。
みたらしっぽは、それを見て胸の奥が熱くなる。
だが、レイドは待ってくれない。
ニーズベッグのHPが半分を切った瞬間、吹雪がさらに強くなった。
大聖堂跡の床に、氷の根のようなものが走る。
ニーズベッグが空へ上がり、天井のない空から巨大な氷塊を落とし始めた。
「第二形態!」
ガトーショコラが叫ぶ。
「翼の氷が増えてる。飛行時間が長くなる」
「つまり地上に降りない?」
エクレアが叫ぶ。
「こっちの攻撃届かないじゃん!」
「落とす」
ガトーショコラが言った。
「翼の付け根に氷核が二つ。左右同時に壊せば、たぶん落ちる」
「左右同時?」
「片方だけだと再生する」
「いやらしい!」
「高難易度だからね」
つきみが冷静に言う。
「右をショコ姉とチロル。左をエスプレッソとルカの召喚補助。みたとエクレアは落ちた後に入る。チョコは核が露出したら一撃」
「了解!」
「はい!」
ニーズベッグが旋回する。
ガトーショコラが右翼へ狙いを定める。
吹雪の中、スコープ越しの視界は最悪だ。
それでも、彼女は待った。
一発でいい場所を撃つために。
「右、撃つ」
銃声。
同時にチロルが踊るように銃弾を重ねる。
右翼の氷核にひびが入る。
左ではエスプレッソの黒い刃と、ルカの召喚獣が作った光の足場が重なった。
エスプレッソが一瞬だけ空中へ跳ぶ。
黒い刃が左翼の氷核を刺す。
「左、ひび」
「もう一発!」
ガトーショコラの二発目。
チロルの追撃。
エスプレッソの投擲。
左右の氷核が同時に砕けた。
ニーズベッグがバランスを崩し、大聖堂跡へ落ちる。
「来た!」
ロウガンが盾を構える。
落下の衝撃。
床が割れる。
全員の足元が揺れる。
「今!」
スフレの歌が切り替わる。
温存していた攻撃強化。
「短いけど、通せる」
「十分!」
みたらしっぽは走った。
エクレアが横に並ぶ。
「今度こそ!」
「合わせるよ!」
二人の連撃が、ニーズベッグの首元へ入る。
鱗が割れる。
内部の青い光が見える。
「チョコ!」
みたらしっぽが叫ぶ。
チョコチップは刀を構えていた。
焦らない。
足元を見る。
敵を見る。
呼吸を整える。
「雪月——」
その瞬間、ニーズベッグの目が光った。
尾が横から迫る。
チョコチップは動けない。
一撃に集中していた分、避ける余裕がない。
「チョコ!」
シュガーシロップが叫ぶ。
つきみが走る。
だが、間に合わない。
みたらしっぽも届かない。
黒い影が、チョコチップの前に入った。
エスプレッソ。
尾の直撃を受けるのではなく、黒い針を床に刺し、尾の軌道をわずかにずらす。
完全には逸れない。
エスプレッソのHPが大きく削れる。
だが、チョコチップへの直撃は外れた。
「続けて」
エスプレッソが言った。
チョコチップの目が揺れる。
でも、刀は下ろさない。
「一閃!」
刃が青い光を斬った。
ニーズベッグが大きく仰け反る。
「入った!」
エクレアが叫ぶ。
「押し切る!」
みたらしっぽは剣を握り直した。
全員の攻撃が重なる。
ロウガンが爪を受ける。
シュガーシロップが尾を押し返す。
つきみが魔力障壁でブレスの向きを逸らす。
アイリスが回復を飛ばす。
スフレが歌う。
ルカの召喚獣が氷兵の流入を止める。
ガトーショコラとチロルが翼の再生を妨害する。
エスプレッソはHPが危険域のまま、それでも死角を潰している。
「もう少し!」
みたらしっぽは叫んだ。
だが、ニーズベッグも最後の力を使った。
翼が再生する。
身体全体が青白く光る。
大聖堂跡の上空に、巨大な氷の魔法陣。
「全体!」
アイリスの声が響く。
「防御を集める!」
ロウガンが中央へ。
つきみが隣へ。
シュガーシロップが横に立つ。
三人の前衛が並ぶ。
だが、凍結深度はもう高い。
この全体攻撃を受けたら、耐えられるかどうかわからない。
「止まったら凍る」
エスプレッソが言った。
「でも散ったら落ちる」
つきみが返す。
「じゃあ、動きながら固まる」
みたらしっぽは言った。
「円で回る。ロウガンさんを中心に、全員で回る。ニーズベッグの攻撃を一点で受けずに流す」
「即興ね」
アイリスが言う。
「無茶?」
「無茶だけど、止まるよりマシよ」
「じゃあやる!」
エクレアが笑った。
ロウガンを中心に、全員が円を描くように動く。
アイリスの回復が円の内側に置かれる。
スフレの歌が、輪をつなぐ。
吹雪が渦になる。
ニーズベッグの氷魔法が降る。
HPが削れる。
足元が凍る。
それでも、動く。
止まらない。
ロウガンの盾が氷を受ける。
つきみの障壁が砕ける。
シュガーシロップが横から支える。
「まだ!」
ロウガンの声。
「まだ持つ!」
シュガーシロップの声。
「持たせるわ!」
アイリスの声。
いつものツンも何もない。
ただ、絶対に落とさない神官の声だった。
全体攻撃が終わる。
ニーズベッグが地上へ落ちる。
青い核が、胸元に露出した。
「最後!」
ガトーショコラの銃声が、核の周囲の氷を砕いた。
チロルの弾丸が続く。
ルカの召喚獣が加速の光を置く。
スフレの歌が、最後の一歩を押す。
「みた、行ける?」
つきみが聞く。
「行ける」
「道、作る」
つきみが前へ出る。
魔力刃で氷兵を切り開く。
シュガーシロップが押し広げる。
エクレアが笑う。
「一緒に行くよ!」
「うん!」
チョコチップも刀を構える。
「私も行きます!」
「もちろん!」
エスプレッソが短く言う。
「核、右下が薄い」
「了解!」
みたらしっぽは走った。
エクレアが左。
チョコチップが中央。
三人の攻撃が重なる。
グラディエーターの連撃。
高速斬撃。
サムライの一閃。
核が割れた。
ニーズベッグが大きく咆哮する。
最後にロウガンが盾を構え、全身でぶつかった。
「終わりだ」
盾の一撃が、割れた核を砕いた。
<レイドクリア>
<絶対零度ニブルヘイムを攻略しました>
吹雪が止んだ。
大聖堂跡に、初めて静けさが戻る。
空から差し込んだ淡い光が、凍りついた街を照らした。
ニブルヘイムは、まだ滅びた街のままだ。
けれど、そこに閉じ込められていた冷たい時間だけが、少しだけ動き出したように見えた。
誰も、すぐには声を出さなかった。
息をしている音だけが聞こえた。
その沈黙を破ったのは、やっぱりエクレアだった。
「勝った……勝ったぁ!」
「声量」
エスプレッソが言う。
でも、今度は下がらなかった。
エクレアは涙目で笑う。
「今のは許して!」
「今回だけ」
「やった!」
シュガーシロップはその場に座り込んだ。
「きつかった……」
「シロが座るの珍しい」
みたらしっぽが言うと、シュガーシロップは笑った。
「座るくらいにはきつかった」
チョコチップは刀を鞘に戻し、手元を見た。
少し震えている。
「最後、怖かったです」
「でも止まらなかった」
つきみが言う。
「すごくよかった」
「ありがとうございます」
チョコチップの表情が少し緩む。
その横で、エスプレッソが静かに立っていた。
HPはかなり減っている。
けれど、彼女は平然としている。
チョコチップが駆け寄った。
「エスプレッソさん、さっき庇ってくれましたよね」
「庇ったというより、尾の軌道をずらした」
「それを庇ったと言うと思います」
「解釈の違い」
「ありがとうございます」
エスプレッソは視線を逸らした。
「あなたが攻撃を通した。だから問題ない」
「それでも、ありがとうございます」
チョコチップがそう言うと、エスプレッソは少しだけ黙った。
そして、小さく答えた。
「どういたしまして」
本当に小さな声だった。
でも、チョコチップにはちゃんと聞こえたようで、嬉しそうに笑った。
南門街区。
中央広場。
霜葬騎士グラキエス。
旧市庁舎前。
そこまでは、これまでで一番安定していた。
もちろん簡単ではない。
吹雪は視界を奪い、敵は次々に湧き、鐘は容赦なく鳴る。
それでも、全員が何をするべきかを少しずつ理解していた。
「鐘、一回目です!」
チョコチップの声。
「青火、右」
ガトーショコラの銃声。
「左路地、塞ぎます」
ルカの召喚獣。
「後ろ、俺が見る」
チロルの銃撃。
「凍結耐性、上げる」
スフレの歌。
「回復地点、前方」
アイリスの光。
「道を開ける」
ロウガンの盾。
「押す!」
シュガーシロップの剣。
「薄いところ、切るよ」
つきみの魔力刃。
「エクレア、合わせて!」
「任せて!」
みたらしっぽとエクレアの連撃。
「チョコ!」
「はい!」
チョコチップの一閃。
街が、少しずつ開いていく。
そして、大聖堂前。
ニーズベッグが降下する。
「柱!」
ガトーショコラの声。
全員が分かれて走る。
右の柱へロウガン、シュガーシロップ、アイリス、スフレ。
左の柱へみたらしっぽ、チョコチップ。
中央の瓦礫裏へつきみ、エクレア、チロル、ルカ、ガトーショコラ、エスプレッソ。
氷のブレスが大通りを飲み込む。
柱が軋む。
瓦礫が砕ける。
だが、凍結深度は最大まで上がらない。
「耐えた!」
エクレアが叫ぶ。
「まだ油断しない!」
アイリスが返す。
「でも耐えた!」
「それはそう!」
今度はアイリスも否定しなかった。
大聖堂跡の門が開く。
中には天井がなかった。
屋根が崩れ、吹雪がそのまま降り注いでいる。
折れた柱。
凍った祭壇。
砕けたステンドグラス。
その中央に、巨大な飛竜が降り立った。
氷の鱗。
黒い翼膜。
長い尾。
額には青白い角。
<飛竜ニーズベッグ>
咆哮。
大聖堂跡全体が震えた。
「来た……!」
みたらしっぽは剣を握り直した。
ニーズベッグは飛竜らしく、地上に留まらない。
着地して爪で薙ぎ払い、すぐに飛び上がる。
上空から氷の槍を降らせ、壁際に追い込む。
かと思えば、急降下して尾で後衛を狙う。
「速い!」
チョコチップが刀を構えながら言う。
「見てからじゃ遅い!」
つきみが叫ぶ。
「影を見る!」
大聖堂跡の床には、ニーズベッグの影が落ちる。
吹雪で本体が見えなくても、影の動きで降下位置がわかる。
「影、右!」
エスプレッソの声。
チロルが右へ撃つ。
ニーズベッグの降下軌道がわずかにズレる。
ロウガンが盾で爪を受けた。
「重い」
「持つ?」
みたらしっぽが聞く。
「短くなら」
「短くでいい!」
シュガーシロップが横から爪を叩く。
つきみの魔力障壁が尾の軌道を逸らす。
「攻撃入る!」
エクレアが走った。
みたらしっぽも続く。
二人のグラディエーターが、ニーズベッグの脚へ連撃を入れる。
硬い。
だが、通る。
「鱗、割れる!」
「チョコ、脚のひび!」
「はい!」
チョコチップが一歩深く踏み込む。
「氷華一閃!」
刀がひびを正確に斬った。
ニーズベッグが怒りの声を上げ、翼を広げる。
「飛ぶ!」
ガトーショコラが銃を構えた。
「翼膜、撃てる」
発砲。
弾丸が翼膜を貫く。
ニーズベッグの飛び上がりがわずかに遅れた。
「ショコ姉、すごい!」
エクレアが言う。
「まだ落とせてない」
「落とす気なんだ!?」
「落とせるなら落とす」
ガトーショコラは淡々としている。
だが、ニーズベッグは簡単には落ちない。
上空へ舞い上がると、大聖堂跡に氷の槍が降り始めた。
床に白い予兆。
壁際に逃げると、横からブレス。
中央に残ると、氷槍。
「逃げ場を潰してきてる!」
アイリスが叫ぶ。
「回復、置く場所がないわ!」
スフレの歌も途切れがちになる。
「ごめん、歌が切れる」
「切れてもいい!」
みたらしっぽは氷槍を避けながら言った。
「生きてれば立て直せる!」
その瞬間、ニーズベッグが急降下した。
狙いは後衛。
ルカ。
「ルカ、下がって!」
シュガーシロップが走る。
しかし距離がある。
ロウガンは正面の氷兵に足止めされている。
みたらしっぽも間に合わない。
黒い外套が動いた。
エスプレッソがルカの前へ滑り込み、黒い針を床に刺す。
影のような罠が広がり、ニーズベッグの降下が一瞬だけ鈍る。
「一秒」
エスプレッソが言った。
「十分!」
つきみが魔力障壁を重ねる。
ルカが横へ逃げる。
ニーズベッグの爪が床を砕いた。
「助かりました!」
「礼は後」
エスプレッソはすぐに移動する。
その時、ニーズベッグの尾が彼女をかすめた。
HPが大きく削れる。
「エスプレッソさん!」
チョコチップが駆け寄ろうとする。
「止まらない」
エスプレッソが短く言った。
「でも」
「止まると死ぬ。進んで」
チョコチップは一瞬だけ唇を噛んだ。
そして、前を見た。
「……はい!」
その判断ができるようになった。
みたらしっぽは、それを見て胸の奥が熱くなる。
だが、レイドは待ってくれない。
ニーズベッグのHPが半分を切った瞬間、吹雪がさらに強くなった。
大聖堂跡の床に、氷の根のようなものが走る。
ニーズベッグが空へ上がり、天井のない空から巨大な氷塊を落とし始めた。
「第二形態!」
ガトーショコラが叫ぶ。
「翼の氷が増えてる。飛行時間が長くなる」
「つまり地上に降りない?」
エクレアが叫ぶ。
「こっちの攻撃届かないじゃん!」
「落とす」
ガトーショコラが言った。
「翼の付け根に氷核が二つ。左右同時に壊せば、たぶん落ちる」
「左右同時?」
「片方だけだと再生する」
「いやらしい!」
「高難易度だからね」
つきみが冷静に言う。
「右をショコ姉とチロル。左をエスプレッソとルカの召喚補助。みたとエクレアは落ちた後に入る。チョコは核が露出したら一撃」
「了解!」
「はい!」
ニーズベッグが旋回する。
ガトーショコラが右翼へ狙いを定める。
吹雪の中、スコープ越しの視界は最悪だ。
それでも、彼女は待った。
一発でいい場所を撃つために。
「右、撃つ」
銃声。
同時にチロルが踊るように銃弾を重ねる。
右翼の氷核にひびが入る。
左ではエスプレッソの黒い刃と、ルカの召喚獣が作った光の足場が重なった。
エスプレッソが一瞬だけ空中へ跳ぶ。
黒い刃が左翼の氷核を刺す。
「左、ひび」
「もう一発!」
ガトーショコラの二発目。
チロルの追撃。
エスプレッソの投擲。
左右の氷核が同時に砕けた。
ニーズベッグがバランスを崩し、大聖堂跡へ落ちる。
「来た!」
ロウガンが盾を構える。
落下の衝撃。
床が割れる。
全員の足元が揺れる。
「今!」
スフレの歌が切り替わる。
温存していた攻撃強化。
「短いけど、通せる」
「十分!」
みたらしっぽは走った。
エクレアが横に並ぶ。
「今度こそ!」
「合わせるよ!」
二人の連撃が、ニーズベッグの首元へ入る。
鱗が割れる。
内部の青い光が見える。
「チョコ!」
みたらしっぽが叫ぶ。
チョコチップは刀を構えていた。
焦らない。
足元を見る。
敵を見る。
呼吸を整える。
「雪月——」
その瞬間、ニーズベッグの目が光った。
尾が横から迫る。
チョコチップは動けない。
一撃に集中していた分、避ける余裕がない。
「チョコ!」
シュガーシロップが叫ぶ。
つきみが走る。
だが、間に合わない。
みたらしっぽも届かない。
黒い影が、チョコチップの前に入った。
エスプレッソ。
尾の直撃を受けるのではなく、黒い針を床に刺し、尾の軌道をわずかにずらす。
完全には逸れない。
エスプレッソのHPが大きく削れる。
だが、チョコチップへの直撃は外れた。
「続けて」
エスプレッソが言った。
チョコチップの目が揺れる。
でも、刀は下ろさない。
「一閃!」
刃が青い光を斬った。
ニーズベッグが大きく仰け反る。
「入った!」
エクレアが叫ぶ。
「押し切る!」
みたらしっぽは剣を握り直した。
全員の攻撃が重なる。
ロウガンが爪を受ける。
シュガーシロップが尾を押し返す。
つきみが魔力障壁でブレスの向きを逸らす。
アイリスが回復を飛ばす。
スフレが歌う。
ルカの召喚獣が氷兵の流入を止める。
ガトーショコラとチロルが翼の再生を妨害する。
エスプレッソはHPが危険域のまま、それでも死角を潰している。
「もう少し!」
みたらしっぽは叫んだ。
だが、ニーズベッグも最後の力を使った。
翼が再生する。
身体全体が青白く光る。
大聖堂跡の上空に、巨大な氷の魔法陣。
「全体!」
アイリスの声が響く。
「防御を集める!」
ロウガンが中央へ。
つきみが隣へ。
シュガーシロップが横に立つ。
三人の前衛が並ぶ。
だが、凍結深度はもう高い。
この全体攻撃を受けたら、耐えられるかどうかわからない。
「止まったら凍る」
エスプレッソが言った。
「でも散ったら落ちる」
つきみが返す。
「じゃあ、動きながら固まる」
みたらしっぽは言った。
「円で回る。ロウガンさんを中心に、全員で回る。ニーズベッグの攻撃を一点で受けずに流す」
「即興ね」
アイリスが言う。
「無茶?」
「無茶だけど、止まるよりマシよ」
「じゃあやる!」
エクレアが笑った。
ロウガンを中心に、全員が円を描くように動く。
アイリスの回復が円の内側に置かれる。
スフレの歌が、輪をつなぐ。
吹雪が渦になる。
ニーズベッグの氷魔法が降る。
HPが削れる。
足元が凍る。
それでも、動く。
止まらない。
ロウガンの盾が氷を受ける。
つきみの障壁が砕ける。
シュガーシロップが横から支える。
「まだ!」
ロウガンの声。
「まだ持つ!」
シュガーシロップの声。
「持たせるわ!」
アイリスの声。
いつものツンも何もない。
ただ、絶対に落とさない神官の声だった。
全体攻撃が終わる。
ニーズベッグが地上へ落ちる。
青い核が、胸元に露出した。
「最後!」
ガトーショコラの銃声が、核の周囲の氷を砕いた。
チロルの弾丸が続く。
ルカの召喚獣が加速の光を置く。
スフレの歌が、最後の一歩を押す。
「みた、行ける?」
つきみが聞く。
「行ける」
「道、作る」
つきみが前へ出る。
魔力刃で氷兵を切り開く。
シュガーシロップが押し広げる。
エクレアが笑う。
「一緒に行くよ!」
「うん!」
チョコチップも刀を構える。
「私も行きます!」
「もちろん!」
エスプレッソが短く言う。
「核、右下が薄い」
「了解!」
みたらしっぽは走った。
エクレアが左。
チョコチップが中央。
三人の攻撃が重なる。
グラディエーターの連撃。
高速斬撃。
サムライの一閃。
核が割れた。
ニーズベッグが大きく咆哮する。
最後にロウガンが盾を構え、全身でぶつかった。
「終わりだ」
盾の一撃が、割れた核を砕いた。
<レイドクリア>
<絶対零度ニブルヘイムを攻略しました>
吹雪が止んだ。
大聖堂跡に、初めて静けさが戻る。
空から差し込んだ淡い光が、凍りついた街を照らした。
ニブルヘイムは、まだ滅びた街のままだ。
けれど、そこに閉じ込められていた冷たい時間だけが、少しだけ動き出したように見えた。
誰も、すぐには声を出さなかった。
息をしている音だけが聞こえた。
その沈黙を破ったのは、やっぱりエクレアだった。
「勝った……勝ったぁ!」
「声量」
エスプレッソが言う。
でも、今度は下がらなかった。
エクレアは涙目で笑う。
「今のは許して!」
「今回だけ」
「やった!」
シュガーシロップはその場に座り込んだ。
「きつかった……」
「シロが座るの珍しい」
みたらしっぽが言うと、シュガーシロップは笑った。
「座るくらいにはきつかった」
チョコチップは刀を鞘に戻し、手元を見た。
少し震えている。
「最後、怖かったです」
「でも止まらなかった」
つきみが言う。
「すごくよかった」
「ありがとうございます」
チョコチップの表情が少し緩む。
その横で、エスプレッソが静かに立っていた。
HPはかなり減っている。
けれど、彼女は平然としている。
チョコチップが駆け寄った。
「エスプレッソさん、さっき庇ってくれましたよね」
「庇ったというより、尾の軌道をずらした」
「それを庇ったと言うと思います」
「解釈の違い」
「ありがとうございます」
エスプレッソは視線を逸らした。
「あなたが攻撃を通した。だから問題ない」
「それでも、ありがとうございます」
チョコチップがそう言うと、エスプレッソは少しだけ黙った。
そして、小さく答えた。
「どういたしまして」
本当に小さな声だった。
でも、チョコチップにはちゃんと聞こえたようで、嬉しそうに笑った。
エスプレッソの答え
ギルドハウスに戻ると、すぐに祝勝会のような空気になった。
ティオが用意していた料理を並べ、チロルが飲み物を配り、コハクからはギルドチャットに短い報告が来ていた。
<コハク:猫にも伝えました>
<チロル:猫、レイドわかるかな>
<コハク:目が合いました>
<エクレアマルテール:なら大丈夫!>
<フォンダンアイリス:なぜ納得するのよ>
いつものやり取り。
けれど、今日は少しだけ特別だった。
団ノ子だけで、高難易度レイドを攻略した。
何度も全滅して。
会議して。
作戦を変えて。
街の構造を覚え、中ボスを突破し、飛竜ニーズベッグを倒した。
それは、ただのクリア表示以上のものだった。
みたらしっぽは、壁際にいるエスプレッソのところへ向かった。
エスプレッソはスフレから渡されたクッキーを持っていた。
食べるかどうか、少し迷っているように見える。
スフレが言う。
「食べないの?」
「前に食べた」
「美味しかった?」
「美味しかった」
「じゃあ、またどうぞ」
「……ありがとう」
スフレは小さく笑って戻っていった。
エスプレッソはクッキーを一口食べる。
表情はあまり変わらない。
でも、少しだけ目が柔らかくなった。
「今日はありがとう」
みたらしっぽが言う。
「必要なことをしただけ」
「その必要なことが、かなり助かった」
「そう」
「調査はどうだった?」
エスプレッソは少し黙った。
それから、黒い手帳を閉じた。
「ギルド団ノ子。騒がしい」
「否定できない」
「たまに、とても騒がしい」
「それも否定できない」
「でも、悪い騒がしさではない」
みたらしっぽは少し笑った。
「それはよかった」
「距離を取る自由がある。静かにしていても、無理に中心へ引っ張られない」
「たぶん、みんな好きにしてるだけだけどね」
「それがいい」
エスプレッソは会議室の方を見た。
エクレアが次のレイドの話をしようとして、アイリスに止められている。
シュガーシロップはロウガンに盾の受け方を聞いている。
ガトーショコラは攻略ログを整理しながら、チロルと銃撃位置の話をしている。
ルカは召喚獣を膝の上に乗せ、スフレにクッキーを分けてもらっている。
チョコチップは少し離れたところで、こちらを気にしていた。
「ソロは楽」
エスプレッソが言った。
「一人なら、自分の都合で動ける。調査も、探索も、撤退も」
「うん」
「でも、今日のレイドは一人では届かなかった」
「そうだね」
「ニーズベッグも、グラキエスも、街そのものも。一人では無理」
「うん」
「それは、少し悔しい」
その言葉は意外だった。
エスプレッソが悔しいと言うとは思わなかった。
「でも」
彼女は続ける。
「一人では見えなかったものもあった」
「そっか」
エスプレッソは、チョコチップの方を見た。
チョコチップは目が合うと、少し慌てて背筋を伸ばした。
その姿を見て、エスプレッソがほんの少しだけ口元を緩めた。
「ギルド団ノ子への加入を希望する」
静かな声だった。
けれど、はっきりしていた。
みたらしっぽはすぐにギルド管理画面を開いた。
「ようこそ、団ノ子へ」
招待を送る。
エスプレッソは数秒だけ画面を見つめた。
そして、承認する。
<エスプレッソ がギルド『団ノ子』に加入しました>
その通知が流れた瞬間、エクレアが立ち上がった。
「ようこそー!」
「声量」
「ごめん! でもようこそ!」
「今は許す」
「やった!」
アイリスがため息をついた。
「まあ……今日はいいわ」
「アイリスも嬉しい?」
「嬉しくないとは言ってないわ」
「言った!」
「言ってないわよ」
チョコチップがエスプレッソの前へ歩いていく。
水色の髪が、ギルドハウスの灯りでふわりと揺れる。
「エスプレッソさん」
「何?」
「来てくれて、ありがとうございます」
「あなたが呼んだ」
「はい」
「だから来た」
チョコチップは少し目を丸くした。
それから、嬉しそうに笑った。
「はい」
エスプレッソはその笑顔を見て、少しだけ視線を逸らす。
「要観察、継続」
「まだですか?」
「重要対象だから」
「それは、良い意味ですか?」
「良い意味」
チョコチップは少し照れながらも、笑っていた。
みたらしっぽは、その光景を見ながら、胸の奥が静かに熱くなるのを感じた。
四人で始まったギルドが、ここまで来た。
最初は、FoFを遊び尽くすために作った場所だった。
レイドで仲間が増えた。
コロシアムで悔しさを知った。
カフェで休む場所を知った。
凍てつく城で、自分たちの形を探した。
チョコチップと出会い、エスプレッソと出会い。
そして今日、団ノ子だけで高難易度レイドを攻略した。
「みた」
つきみが隣に来た。
「何?」
「ギルドマスターっぽい顔してる」
「どんな顔?」
「嬉しいのに、ちょっと責任感じてる顔」
「そんな顔してる?」
「してる」
「じゃあ、たぶん合ってる」
つきみは少し笑った。
「でも今日は、嬉しいだけでいいんじゃない?」
みたらしっぽはギルドハウスの中を見回した。
ロウガン。
シュガーシロップ。
エクレア。
ガトーショコラ。
ルカ。
スフレ。
チョコチップ。
つきみ。
チロル。
アイリス。
エスプレッソ。
みんなが、それぞれの場所で笑っている。
「うん」
みたらしっぽは頷いた。
「今日は、嬉しいだけでいいか」
窓の外には、王都ペル・ゼノンの夜景が広がっていた。
その遠くに、凍りついた街ニブルヘイムがある。
猛吹雪の中、何度も全滅した街。
中ボスに阻まれ、飛竜に落とされ、それでも最後には走り抜けた街。
ギルド団ノ子は、絶対零度ニブルヘイムを攻略した。
それは、ただのクリアではない。
失敗を重ねても前へ進めると、みんなで証明した日だった。
そしてその夜、ギルドハウスにはいつもより少し長く、笑い声と、温かい灯りが残っていた。
ティオが用意していた料理を並べ、チロルが飲み物を配り、コハクからはギルドチャットに短い報告が来ていた。
<コハク:猫にも伝えました>
<チロル:猫、レイドわかるかな>
<コハク:目が合いました>
<エクレアマルテール:なら大丈夫!>
<フォンダンアイリス:なぜ納得するのよ>
いつものやり取り。
けれど、今日は少しだけ特別だった。
団ノ子だけで、高難易度レイドを攻略した。
何度も全滅して。
会議して。
作戦を変えて。
街の構造を覚え、中ボスを突破し、飛竜ニーズベッグを倒した。
それは、ただのクリア表示以上のものだった。
みたらしっぽは、壁際にいるエスプレッソのところへ向かった。
エスプレッソはスフレから渡されたクッキーを持っていた。
食べるかどうか、少し迷っているように見える。
スフレが言う。
「食べないの?」
「前に食べた」
「美味しかった?」
「美味しかった」
「じゃあ、またどうぞ」
「……ありがとう」
スフレは小さく笑って戻っていった。
エスプレッソはクッキーを一口食べる。
表情はあまり変わらない。
でも、少しだけ目が柔らかくなった。
「今日はありがとう」
みたらしっぽが言う。
「必要なことをしただけ」
「その必要なことが、かなり助かった」
「そう」
「調査はどうだった?」
エスプレッソは少し黙った。
それから、黒い手帳を閉じた。
「ギルド団ノ子。騒がしい」
「否定できない」
「たまに、とても騒がしい」
「それも否定できない」
「でも、悪い騒がしさではない」
みたらしっぽは少し笑った。
「それはよかった」
「距離を取る自由がある。静かにしていても、無理に中心へ引っ張られない」
「たぶん、みんな好きにしてるだけだけどね」
「それがいい」
エスプレッソは会議室の方を見た。
エクレアが次のレイドの話をしようとして、アイリスに止められている。
シュガーシロップはロウガンに盾の受け方を聞いている。
ガトーショコラは攻略ログを整理しながら、チロルと銃撃位置の話をしている。
ルカは召喚獣を膝の上に乗せ、スフレにクッキーを分けてもらっている。
チョコチップは少し離れたところで、こちらを気にしていた。
「ソロは楽」
エスプレッソが言った。
「一人なら、自分の都合で動ける。調査も、探索も、撤退も」
「うん」
「でも、今日のレイドは一人では届かなかった」
「そうだね」
「ニーズベッグも、グラキエスも、街そのものも。一人では無理」
「うん」
「それは、少し悔しい」
その言葉は意外だった。
エスプレッソが悔しいと言うとは思わなかった。
「でも」
彼女は続ける。
「一人では見えなかったものもあった」
「そっか」
エスプレッソは、チョコチップの方を見た。
チョコチップは目が合うと、少し慌てて背筋を伸ばした。
その姿を見て、エスプレッソがほんの少しだけ口元を緩めた。
「ギルド団ノ子への加入を希望する」
静かな声だった。
けれど、はっきりしていた。
みたらしっぽはすぐにギルド管理画面を開いた。
「ようこそ、団ノ子へ」
招待を送る。
エスプレッソは数秒だけ画面を見つめた。
そして、承認する。
<エスプレッソ がギルド『団ノ子』に加入しました>
その通知が流れた瞬間、エクレアが立ち上がった。
「ようこそー!」
「声量」
「ごめん! でもようこそ!」
「今は許す」
「やった!」
アイリスがため息をついた。
「まあ……今日はいいわ」
「アイリスも嬉しい?」
「嬉しくないとは言ってないわ」
「言った!」
「言ってないわよ」
チョコチップがエスプレッソの前へ歩いていく。
水色の髪が、ギルドハウスの灯りでふわりと揺れる。
「エスプレッソさん」
「何?」
「来てくれて、ありがとうございます」
「あなたが呼んだ」
「はい」
「だから来た」
チョコチップは少し目を丸くした。
それから、嬉しそうに笑った。
「はい」
エスプレッソはその笑顔を見て、少しだけ視線を逸らす。
「要観察、継続」
「まだですか?」
「重要対象だから」
「それは、良い意味ですか?」
「良い意味」
チョコチップは少し照れながらも、笑っていた。
みたらしっぽは、その光景を見ながら、胸の奥が静かに熱くなるのを感じた。
四人で始まったギルドが、ここまで来た。
最初は、FoFを遊び尽くすために作った場所だった。
レイドで仲間が増えた。
コロシアムで悔しさを知った。
カフェで休む場所を知った。
凍てつく城で、自分たちの形を探した。
チョコチップと出会い、エスプレッソと出会い。
そして今日、団ノ子だけで高難易度レイドを攻略した。
「みた」
つきみが隣に来た。
「何?」
「ギルドマスターっぽい顔してる」
「どんな顔?」
「嬉しいのに、ちょっと責任感じてる顔」
「そんな顔してる?」
「してる」
「じゃあ、たぶん合ってる」
つきみは少し笑った。
「でも今日は、嬉しいだけでいいんじゃない?」
みたらしっぽはギルドハウスの中を見回した。
ロウガン。
シュガーシロップ。
エクレア。
ガトーショコラ。
ルカ。
スフレ。
チョコチップ。
つきみ。
チロル。
アイリス。
エスプレッソ。
みんなが、それぞれの場所で笑っている。
「うん」
みたらしっぽは頷いた。
「今日は、嬉しいだけでいいか」
窓の外には、王都ペル・ゼノンの夜景が広がっていた。
その遠くに、凍りついた街ニブルヘイムがある。
猛吹雪の中、何度も全滅した街。
中ボスに阻まれ、飛竜に落とされ、それでも最後には走り抜けた街。
ギルド団ノ子は、絶対零度ニブルヘイムを攻略した。
それは、ただのクリアではない。
失敗を重ねても前へ進めると、みんなで証明した日だった。
そしてその夜、ギルドハウスにはいつもより少し長く、笑い声と、温かい灯りが残っていた。