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希苑組SS


合計点<+5>


タイトル<点数/コメント>






桂珪馬+夢見崎ルウク登場オサレSS『神のみぞ知る』<+5>


俺の大叔父に珪郎さんという人が居て、
この人はよくふらりと本宅に遊びにも来たりもするのだが、
正直なところ、俺はあの人の事が少し苦手だ。

珪郎さんは強い。
元々は桂家の外の魔人で(その時は名前も今とは違った)、
ばあちゃんの末の妹に婿入りしたのだが、その時から既に化物みたいに強かったらしい。
EFB能力の直撃を受けてもゲラゲラ笑いながら無傷で復活してきただとか、
一人の転校生を6年間休まず攻撃し続けて恐怖とストレスで過労死させただとか、
ほとんど冗談みたいな伝説をいくつも持っている。
少なくとも家長のばあちゃんよりは強いらしいから、実際にヤバいのだろう。
更に言うと、その全てが愉快犯だという。ニャルラトホテプみたいな人だ。

まあ幸いな事に、孫世代の俺や珪乃姉さんに対しては、
かなりの悪意混じりとはいえ、割と気さくに接してくれている。
もっとも――だからといって俺の苦手意識がなくなるわけではない。
それに俺が珪郎さんの来訪を歓迎できない理由は、もう一つある。

「見えたぞ、バッドエンディングが!」

「……」

「さぁ、死に急げ!!」

「……なぁ」

「飛び降り自殺か……
 シナリオ自体はありきたりだけど、いいエンディングだなぁ……」

「……なぁ珪馬。俺その類のゲームはやった事ないから分からないけどさ。
 それ多分、そういうゲームじゃないと思うんだが」

この家では厄介な客は全部俺に任せるというルールができたのかもしれない。
珪郎さんの孫の、桂珪馬。
俺と年の近いはとこだが、俺はこいつも全く好きになれない。

「……現実(リアル)の人間がボクに話しかけるなよ。
 せっかくのエンディングの余韻が台無しになる」

「……」

また沈黙が続く。
こいつがこの部屋に来てから、もう4時間近くになるだろうか。
珪郎さんが向こうの部屋で伯母さんや伯父さん達と
話し合ったり殺し合ったりしている間中(こっちまで呪詛が飛んできていい迷惑だ)
俺はこの珪馬が黙々と携帯ゲーム機のボタンを押する様しか見ていない。

「フフフ、次の攻略対象はお前だ!」

(……死んだ珪悟さんがこういうのよくやってたけど)

煎餅をボリボリと齧りながら、特にやる事もなく珪馬のプレイを観察する。
女の子の絵が出てきて、要所要所での主人公の行動を選択するゲームだ。
だが珪馬の攻略法が絶対に間違っている事も、何時間か見ていて大体分かった。
こいつはただただ、仲良くなった女の子を奈落に突き落とす事だけに楽しみを見出しているのだ。

(もし俺が女だったら)

(こいつみたいな男は絶対殺してるな……)

俺に限った話じゃない。実際にそう考えてる連中も多いはずだ。
こいつの攻略対象はゲーム内のキャラクターに限らないのだから。

「あのさ、さっきの話の続きだけど」

「結局、何十人殺したんだ?
 生徒会だけならともかく……
 そいつらの家族とかまで『処刑』してたのってお前なんだろ。
 珪乃姉さんからの又聞きだけどさ」


「……」

反応すら返さないか。
この野郎。いい度胸だ。

「いくら桂が殺人鬼の集まりでも、さすがにやり過ぎだろうが。
 あの事件だけで桂がどんだけ恨み買ったと思ってるんだ」

「……」

「珪郎さんが毎日みたいにうちの家族と殺し合ってるのもそのせいだぞ。
 本人は楽しいんだろうけど」

俺も人を殺してないわけじゃあないが、取り合えず常識は持っているつもりだ。
DPも得られない一般人殺しなんか、リスクとリターンが全く釣り合わない。
珪兆伯父さんは昇進が遅れると泣いていたし、こいつが桂の悪名を高めたせいで、
俺はともかく珪乃姉さんまで関係者からの復讐に晒されるかもしれない――

「ぶっちゃけ怒ってるんだよ俺は。
 お前がいつもやってるみたいなゲームなら何人殺しても責任なんてないだろうけどな。
 現実はゲームみたいに何事もなしじゃあ済まないって分かってるのか」

「……。
 ゲームみたいに?」

くるり、と珪馬が振り向く。
中性的にも思えるくらい整った顔が、俺の目をじっと見つめる。

「現実なんてヌルゲーだ。
 ゲームと現実を一緒にするな。
 ゲームの方こそ、現実みたいに甘くないんだ」

「なんだと……」

「2つ間違いがある。さっき何十人『殺した』って言ってたけど、
 僕は殺してなんかいない。彼女達が勝手に死んだんだ。
 それに希苑組の他の連中はともかく、彼女達を『処刑』した覚えもない。
 僕はただ『攻略』しただけだ」

衝動で金属バットに手が伸びるが、途中で抑える。
俺の理解の範疇を超えた価値観だ。
それはつまり、結局ゲーム感覚……って事じゃあ、ないのか。

「ゲーム感覚の一体どこが悪いんだ?
 恋に破れれば死ぬ。発狂する。そうでなくとも、心に消えない傷を抱える……
 そんなの、ギャルゲの中では当たり前の事だ。ヒロインの恋のチャンスは一度しかない。
 現実(リアル)の連中が『恋愛』だと言い張ってるリスクのない恋愛もどきなんかより、
 ギャルゲの中の恋愛の方がよほど真剣だと思わないのか?
 現実(リアル)女は愛だとか恋だとか結婚だとかをすぐ口にするくせに、
 実際にゲーム感覚で本気の恋愛をしている奴が、この世に何人いる?」

「へえ……! ゲームのし過ぎで退化したかと思ってたけど、意外とよく回る口だな。
 言葉通りゲームの中だけに閉じこもってりゃあ、死なずに済んだ奴もいるかもな!」

「ふん。珪一の方こそそう思ってるんじゃないのか?
 人の一人くらい死なないで、何が恋愛だ」

「は……?」


「話は変わるが」

さっきからずっと、まばたきすらしていない。
珪馬の目が細くこちらを射抜く。
                 . . . . . .
「お前は羨ましいな。何しろ両親がいない。
 親なんてギャルゲの主人公にとって一番不要な存在だからな。
 恋愛なら尚更だ……そう思ったんだろ?」

こいつ――

金属バットを掴んで、

「………………………。
 ……殺すなよ、ルウク。
 そいつはそれでも対霊能力はかなり高いからな」

振り抜いた凶器は、珪馬の頭蓋に達する寸前で止められている。

「悪霊――」

「死ぬぞ」

――警告されなくても分かっている。
名目上は、こいつらは桂の分家だ。
だけど珪郎さんはあまりに強く、それでいてなお力を集め続けた。
もう分家の方が、本家の連中なんかよりも遥かに強くなってしまったのだ。
桂一門の家系は……その力だけを、珪郎さんに利用されただけなのだと。

奴らはなんでも利用する。
恐ろしい副作用があるという『強化魔人』の力まで。

「珪乃さんに甘やかされすぎて弱くなったな、桂一。
 お前の方こそ現実(リアル)に生きるつもりなら、
 少しは現実を見たらどうだ」

「何を言って……」

「このままじゃお前ら本家は食われるままだって言ってるんだ。
 いつまで安全な位置にいるつもりなんだ?
 お前も十分戦えるはずだ。いつになったらお前自身が動くんだ?
 僕を異常だとあげつらっておいて――お前自身はどうなんだ!!」

気迫に圧される。
なんだ……こいつは。小さい頃からこんなだったか。
ただのゲームオタクだと思っていたのに……

「まったく、落ち着いてゲームもできないな。
 外で攻略してくる」

部屋を出て行く珪馬の後姿を、俺は呆然と眺めているしかなかった。
霊能力ではない。人の心の奥底を見抜き、抉る能力。
女の子ならあるいは、今の言葉で恋に落ちただろうか……?
そう考えると、虐殺で敵に回してしまった相手がどれだけの人数だろうと――
心理戦であいつと戦う事など、信じられない無謀に思えてきた。

「……。
 俺か……」

……俺は奴みたいに強くはない。
今はまだ、傍観する事しかできない。








最終更新:2009年07月23日 00:30