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希苑組SS


合計点<+20>


タイトル<点数/コメント>







ダンゲロス・プロセルピナプロローグSS5『推参』


校舎裏にある鉄製の非常階段は、かつて赤く塗られていたという。
それが少しずつ少しずつ白く染め上げられていったのは、一体いつの頃からだったのか。

……想像していたのかもしれない。階段の上に大量に散る、白色の意味を。
気付いていたのかもしれない。
生徒達の間に伝わる『金髪のレイプ魔』の都市伝説――その意味を。

でも、今更そんな事を考えたところで、どうなるというのだろう。
夜の階段の上に座る影は、恐怖に固まる僕の前で、ゆっくりと服を脱いで……

「 やらないか 」

僕は気付いてしまった。

「エン・ジェル先生……?」

―――――――――――――――――――――――――――

              02 エン・ジェル

―――――――――――――――――――――――――――

「……」

何故分かったのだろう。何よりも僕自身が不思議だった。
エン・ジェル先生は、いつも僕が学校で見ていた彼女とは、
まるで別人のような姿をしていたのに。
その髪の色も……体つきも。

「……マサキくん……?」

金髪の人物が僕の名を呼ぶ。
――ああ。この低い声は。

「エン・ジェル先生……! エン・ジェル先生……ですよね!?
 どうしてこんな、金髪ビッチみたいな事を……
 嘘だと……言ってください……」

「違うわ。違う……!
 私はエン・ジェルなんかじゃない……
 ただのレイプ魔……
 あなたみたいなノンケでもかまわないで食ってしまう魔人なのよ」

押し殺したような彼女の叫びが、僕には何故だか嘆きに聞こえた。
そうだ。きっとレイプ魔はこの人だったのだろう。
そして僕はこれからレイプされて――
精液の最後の一滴まで絞り尽くされて、死ぬのだろう。

「……大丈夫ですよ」

それでも僕は、誘蛾灯に引かれる羽虫のように自分から歩んでいて……

「僕は先生を信じていますから」

――その瞬間、

「ふ……ざけ……
 ふざけないでよッ! この童貞野郎ッ!!」

ずぶり、という異物感が、僕の下腹部に突き刺さる。


「せ……先生……ッ」

焼けた鉄のような苦痛の波が、僕の全身を這い回る。
腹の中がパンパンに膨れる感触に、嘔吐感すら湧き上がる。
だけどそれ以上に伝わってくる。
エン・ジェル先生の苦痛が。そうせずにはいられない、彼女の悲しみが。

「こ……こんなこと初めてだけど、いいんです……
 僕は……エン・ジェル先生みたいな人が――」

「それ以上言うなって言っているでしょうがッ!!」

血が飛び散る。僕の肛門が裂けているのだ。

「……はは」

自嘲の笑いが漏れる。
僕は自分から、こんな事を……まるで道化だ。

「ッハハハ!!
 いいザマね! よくしまって吸いついてくる……!
 このまま血まみれでやりまくるのもいいかもしれないわね!!」

――ああ。

どうして僕は、知るべきでない事だけを気付いてしまうのだろう。

僕を犯し続けるエン・ジェル先生の目には、紛れもない死の怯えがあった。
……この人もきっと、死を目の前にして狂ってしまったのだ。
自分から夜のこの階段に踏み込んだ僕と……同じように。

「エン・ジェル先生……ッグ……ずっと……
 言いたかった……事が……」

息が続かない。
声が既に死の間際の喘ぎに変わっている事が、自分でも分かった。

「……っ。
 どうして……どうして私をそんな風に呼ぶの。
 こんな事までされて、まだ私みたいな女を……先生だ なんて」

――それは。

        好きだったからです――

「グゥ……ウホッ……いい……男……
 先生、は……ッ………ゥ……いい男……です……
 ……………………………………………………」

けれど、最期に笑顔を作れたかどうか。
それだけは自分でも分からなかった。



ダンゲロス・プロセルピナプロローグSS6『着手』


「まずはセーブ……と」

{くくっ 客が来たぞ ケイマ}

「分かってる」

中庭のベンチに座る少年は、一見独り言を呟いているように見えた。
だが、その程度の事は些細な問題なのかもしれない。
彼は先ほどから、ずっとゲーム画面に目を落としたままなのだから。

「……。
 現実(リアル)のモブキャラ程度が……
 少しは静かにゲームをさせてくれ」

年端も行かぬ少年から、初老に近い男性まで――
老若入り混じった男達の憎悪の視線を、一身に受けながら。

―――――――――――――――――――――――――――

               05 桂珪馬

―――――――――――――――――――――――――――

「ねえちゃんをかえせ」
          「娘と同じ苦しみを」
   「妻をどこにやった!」
            「お婆ちゃんの仇…」
   「死ね!」  「くたばれ!」
      「死ね!」           「死ね!」
  「外道!」     「呪われろ!」
「死神!」    「死ね!」    「死ね!」

彼らは魔人ではなかった。
魔人の能力すら凌駕するという強化魔人に、ただの人間が勝てるはずもない。
だが彼らの怨恨はその程度の事実で消えるものではなかった。

何故ならこの少年――
桂珪馬に殺された数多の女性もまた、無力な一般人だったからだ。

{大丈夫かケイマ……
 お前 そのうち本当に殺されるぞ}

「ん。ルートの修正が必要かな……」

怨嗟の海の中で、眉一つ動かさず呟く珪馬。
この現実の光景には何の感慨も抱いてはいない。
今の言葉も、ただゲームのストーリーについて述べたにすぎない。

「何してる……ッ!
 くそ……調子に乗りやがってこの狂人めッ!
 無視、するなッ!!」

男達のうちの一人が、珪馬の持つ携帯ゲーム機を弾き飛ばす。
群集の苛立ちは頂点に達しようとしていた。

「……」

整った顔を少しだけ上げ、前髪の隙間から男を見つめる珪馬。

「西村真由美 自殺」


「は……? お前、」

男の言葉を遮るかのように。

「珪馬くん!!」

頭上から声が降ってくる。
群集が空を見上げ――

「ずっと愛してるから!!
 わたし……! 星になってもきっと、あなたの事だけを見ているから……
 だから、見て!」

目撃してしまう。
一人の女子生徒が屋上から身を投げ出すその瞬間を。

「十一時二十五分三十一秒。
 歌唱の才能の限界に絶望し、転落死」

そして彼女の体は、
たった今ゲーム機を弾き飛ばした男の真上に――

「な、あ」

「バッドエンドに狂いなし」

数cm先で二人分の肉片が飛び散る様を、冷たい眼差しで見届け……
先ほど叩き落されたゲーム機に手を伸ばす。

{くくっ 相変わらずえげつないな}

「こんなの、鬱ゲーの中ではぬるい方だよ、ルウク。
 それよりこっちのシナリオ分岐の方が気がかりだ」

溜息をついて、珪馬はゲームの再び世界へ没頭する。
もはやこの男達がどこまでも無力である事を知っているのだ。
今の一人の死だけで、誰もが萎縮する事を計算している。

「……楽しいか? くそッ……
 俺達の……俺達の命をっ、ゲームみたいに弄びやがって……!
 俺の妹も、そんな風に楽しみながら殺しやがったのか!!」

一人の男が、泣き叫びながら彼を糾弾するが。

「 全然 」

{くくくっ}

「確か向井田香織ルートだよな?
 クリアしたけど全然ぬるくて面白くなかった……
 君達の親族全員のシナリオよりおもしろいもの5012タイトル。
 同じくらいのもの15タイトル。つまらないもの1タイトル――」

彼はただただ淡々と、ゲームをプレイし続ける。
現実に一切目を向けず。

「『ゲームみたいに』とか、軽々しく口にするな。
 現実(リアル)のくだらない恋愛もどきより、ゲームの方がずっと面白い」


ダンゲロス・プロセルピナプロローグSS7『再誕』


びくり、と少女が身を震わせた。
花瓶に挿している途中だった花を手に、
気配の元――教室の入口へと顔を向ける。

「気付くか。
 ……目が見えないと勘が良くなるってのは、もしかすると本当なのかもな」

「あの、あ……」

少女は精一杯何かの言葉を発しようとするが、
男はそれを遮る。

「……全然駄目だな。それは」

「ひっ……」

無造作に、つかつかと少女に歩み寄り……
少女ではなく、花瓶へと手を伸ばす。

「朝早くから水を替えてるのはいいけれどさ。
 茎がこっち側に偏っちゃってるだろ?
 それにまっすぐじゃなくて、少しは放射状に挿さないと折角の花が見えない」

「あ、あり……ありが、とう。わたし、あの……」

言葉同様たどたどしい礼を受けて、
困ったように男が笑う。

「ははは。いいって。可愛いなお前」

「でも、ありがとう、その……あなた、名前……」

そして、その笑顔のままで。

「だからいいって。
 オレは花組の九郎可明楽だ。お前を殺しに来た」

「――お前、伝説の魔人のクローンなんだってなあ」

―――――――――――――――――――――――――――

        11 魔山アリスクローン覇虐王・影

―――――――――――――――――――――――――――

「ひ、ひっ」

「お前らのとこのSRRの比じゃない、信じられない怪物だったそうだ。
 単純な戦闘能力だけでも、もうEFB能力者クラス……
 統率力とカリスマはもう信仰の域に達していたらしい。
 最後は生徒会も番長グループも皆殺しにして行方不明ときた」

踵が背後の壁に当たる。もう逃げられない。

「ちがい、ちがうっ、わたし、アリスはその……
 わたし、クローンで、わたしは……なにも、ぜんぜん」

「で、うちの姫様が言うんだ。
 そういう化物がまた表に出てきたらみんな困るよな?
 その力を少しでも引き継いでる可能性があるなら――」

アリスクローンが転倒する。
隠し持っていたビリヤードの球が、ばらばらと散る。

「いや、いやだっ、ぶたないで……
 こわい……こわい……こわい………!」

その場にうずくまってブルブルと震える少女。
九郎可はそれを見下ろしながら、無表情でナイフを取り出す。
死者の残留思念を読み取る『零視』。
どの部位を刺せば一撃で死ねるかなど、
『被害者』の視点から何度も体験して知り尽くしている――

「……『なんてな』」

「ふ、……? ……?」

しかしその手は途中で止まる。
目を閉じ、愉快そうに笑う九郎可。

「あはははっ、冗ー談だよ。やっぱ面白いなお前。
 大丈夫だって。そんなわけないのは、俺の頭でも分かるさ。
 結局名前を借りてるだけの偽者なんだろ?
 お前みたいな弱そうなのは絶対違うって」

「え、でも、あぅ……
 その……アリスは、クローンで……」

「……ん?」

「えぅっ、でもアリスは、アリスの……」

「いや、いいって。
 マジ怖い目に遭いたくないなら、もう希苑組からも手を引けよ?」

アリスクローンが逃げるように走り去った後で、
九郎可は……冷静に、自分の目の前の光景を確認する。

崩れかけた壁で大きく開け放たれた窓が、
自分の目と鼻の先にあった。

(あのまま踏み込んでいたら――)

最初から害意がなかったなど、嘘だ。
紛れもなく危機を感じたために、攻撃を止めたに過ぎない。
ビリヤードの球が散った、あの一瞬。
能力範囲内に把握していた残留思念の配置に、異常な『ずれ』が生まれたのだ。

「本人すら気付かないうちに『位置』を……
 …………魔山アリス狂終絶哀・闇のクローン、か」

……九郎可明楽の能力は弱い。ただ思念を感知するだけの力だ。
にも関わらず彼がここまで生き残ってこれたのは、その戦闘力の高さ故ではない。
『死ぬ人間』がどんな状況で油断し、どんなミスで追い詰められ、どう行動したか。

死者の思考から得た経験を元に判断できる危機管理能力こそが――彼の本当の強さだ。

ポケットに手を入れてその場を立ち去りながら一人、苦笑する。

「ったく、オレじゃなかったら死んでたぞ――」



ダンゲロス・プロセルピナプロローグSS8『出撃』


この薄暗い部屋で照明効果をもたらすのは、蝋燭の一本だけだ。
――環境としては中々悪くない。
視覚からの余計な情報を制限する事で、却って聴覚の感受性は高まる。
かといって完全に視覚を閉ざすのも良くない。
目標物が全く存在しない環境では視覚が一点に定まらず、集中力が乱れるのだ。

部屋の装飾として、仏教美術と思われるオブジェクトが置かれている。
絵画はともかく、彫刻は余計だ。木造の壁から反響する音に余計な効果を加え、
こちらでそれを計算して最適な修正を加える必要性が生まれる。
どの道、薄暗いこの部屋に装飾など必要ないというのに。

「平野様。
 セッティングが完了いたしました。再生を開始いたします」

「そう。ありがとう」

――勿論、そんな事を口に出して言う筈もない。
音楽鑑賞用アンドロイドである自分は、マスターの命令にのみ忠実であれば良い。

―――――――――――――――――――――――――――

        03 EA01β版

―――――――――――――――――――――――――――

今日も十節平野は私の流す音楽に合わせて奇妙な姿勢を取りつつも、
(本当に奇妙なのだ。生活を営む上であのような体勢が必要な状況があるのか?)
遠慮なく私に話しかけてくる。

「相変わらず良い音ですね」

「……」

演奏中に返答を行わないのは仕様だ。彼女がこちらに話しかけるのは良い。
だが私が喋ればその音声は即ち、音楽鑑賞を妨げるノイズ要素に他ならない。

「あなたが送られてきてから、私の生活も随分と充実しました。
 希苑組からの誘い、少しは考えてみることにしましょう。
 私はこうして家に居るだけで良いのですから」

彼女が微笑みかけてくるが、私は笑わない。
演奏中はただのオブジェクトに徹するのだ。

「……でもEA01。私が階段を封鎖する時……
 あなたも希苑組を助けに?」

聞かずとも分かっている事を。演奏中はただ鑑賞に集中すべきなのに。

「…………。
 あなたのマスターとして、ひとつ命令したい事があります。
 その日もあなたに、この部屋で音楽を流していてもらいたいのです。
 私が集中して能力を使う為にも、あなたの音楽が必要ですから」

――演奏が終わる。
次の曲のセッティングが完了するまでの限られた時間の間だけ、私は口を開く事ができる。

「不可能です」

「平野様。お分かりでしょうが、平野様は正式には私のマスターではありません。
 私はマスターの命令で平野様の要求を叶えているのみで、
 したがってマスターの直接命令は系統上平野様の命令より上位となります。
 そして青空の会との戦闘行為への参加は」

回答の途中で、次の曲が始まってしまう。
だが最後まで答える必要もない。くだらない会話だ。くだらない。
私はただ音楽を演奏していればいいのだ。

「……夏は羽虫が多いのですね」

蝋燭の光に照らされた床を見て、彼女が小さく呟く。

「そう。羽虫の羽音も、音楽鑑賞のノイズですものね。
 私と話しながら、こんなに正確に……しかも無音で……」

視線の先には、私が焼いた十数匹の蚊が。

「出力が十分なら、きっと……恐ろしい兵器になるのでしょうね。
 ……見えてしまう、のですよ。
 こんなに綺麗な音を出せるのに、あなたは」

「……」

……くだらない。
私はただ、音楽を演奏できればいいのに――







最終更新:2009年07月24日 12:22