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Mighty Heart、Broken Heart (前編)

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Mighty Heart、Broken Heart (前編) ◆guAWf4RW62



鼻腔を刺激する潮の香り。
そう遠くない場所から届く波の音。
ビーチリゾートのログハウス前にて、二人の少年少女が話し込んでいる。

「そうか。お前は静留から私について聞いたんだな?」
「うん。シズルは君の事を必死に探していたよ」

玖我なつきはクリス・ヴェルティンから、何故自分について知っているのかの説明を受けていた。
説明によればクリスは、藤乃静留からなつきについて聞かされたとの事。
念の為、静留の口調や外見的特徴についても尋ねてみたが、クリスはあっさりと答えてみせた。
取り敢えず、嘘は吐いていないと判断して良いだろう。

クリスが殺し合いに乗っているかどうか、なつきはまだ確信を得た訳では無い。
しかし多少のリスクに目を瞑ってでも、静留に関する情報は入手しておきたい所。
故になつきは猜疑心を一旦抑え込んで、クリスとの会話を続けようとする。

「それで、静留は今どうしてるんだ?」
「……それについては、少し長くなりそうなんだ。
 外で長話をするのは危ないと思うし、建物の中で話さない?」

早速一番の疑問を問い掛けると、クリスは言い淀むような表情を見せた。
なつきはその表情の意味が気になったが、確かに外で長々と話すのは危険である。
此処は殺戮の孤島。
話し込んでいる隙に狙撃されても、決して可笑しくはないのだ。
なつきはクリスに促されるまま、建物の中へと踏み込んでゆく。
――ある意味外よりも、建物の中の方が遥かに危険地帯である事すら知らぬまま。


クリスは忘れていた、建物の中で何が行われているかを。
なつきは気付かなかった、建物の中から聞こえてくる微妙に湿った声に。


「…………は?」

ピタリ、と。
扉を開けた瞬間、なつきは石像の如く動きを止めた。

「あ、あぁん……アルちゃん、真ちゃん、駄目だよ……」
「何を云うか、桂。首筋に付いた血も残さず舐めとらねば、勿体無いではないか。
 それに汝が悪いのだぞ? かように魅力的な匂いを漂わせておるから、いけないのだ」
「ふふ、桂の肌ってすべすべだねー」


なつきが目撃した光景を一言で表すと、桃色空間。
丸太造りのログハウスの一室で、三つの白い物体が蠢いている。

床に寝そべりながら喘ぎ声を上げている、ツインテールの美少女。
そんな彼女の首元に、小柄な女の子が唇を押し当てている。
その横では、少年にも少女にも見える人物が、ツインテールの少女の腕に頬擦りをしていた。

「大体汝とて、本気で嫌がっているようには到底見えぬがな。声が上ずっているぞ?」
「そ、それはアルちゃんが……ざらざらの舌でわたしの首を舐めるから――あんっ……!」

ペロリ、ペロリという音。
艶めかしい舌が、白い柔肌を優しく撫でる。
その度に紡ぎ上げられる、甘く切ない声。
ツインテールの少女が顔を紅潮させる中、小悪魔のような女の子は心底愉しげに戯れを続ける。


「ふむ、汝はこの辺りが弱いのか。これは良い発見をしたな」
「ひゃうっ……! うぅ、ずるいよぉ……」

なつきは動けない。
凍り付いた意識の中、何処か別の世界の出来事を見ているかのような錯覚。
パヤパヤ。
ホイホイ。
聞き覚えの無いそんな言葉だけが、何故か頭の中に浮かび上がっていた。

だが硬直した脳も、時間の経過と共に機能を取り戻してゆく。
なつきはハッと我に返って、現実を正しく認識した。

「な、な、ななななな……」

此処は恋愛禁止の風華学園では無いが、最早そのような事など些事に過ぎぬ。
一気に赤く染まる、なつきの頬。
なつきは天井に向けて発砲しながら、全力全開の大声で叫んだ。

「何をやっているんだ、貴様らは――――っ!!!」



    ◇     ◇     ◇     ◇



で。
一通り怒鳴り散らした後。
次になつきを待っていたのは、アルによる叱責だった。

「全く、いきなり発砲するとは何を考えておるのだ? 軽率にも程があるわ!
 幸い建物の中だったから、銃声はそこまで遠くには届いていないと思うが……」
「う…………。す、すまなかった……」

銃を撃ってしまった以上、その音を聞き付けた襲撃者が現れるかも知れない。
可能ならば直ぐに移動すべきだったが、今は放送を目前に控えている状況。
動き始めるのは、少なくとも放送を聞き終えてからでないと難しいだろう。

「まあまあ、それくらいにしておこうよ。ボク達もちょっと調子に乗り過ぎちゃったしさ」
「真ちゃんの云う通りだよ。大体アルちゃんがわたしの血を吸おうとしたのが、そもそもの始まりじゃない」
「むぅ……。汝、意外と痛い所を突いてきおるな」

糾弾の矛先がアルへと向かう。
アルもやり過ぎたという自覚はあるのか、明確な反論は出来なかった。

「でもさ、アル。桂の血って、そんなに美味しいの?」
「うむ。アレは正に至高の馳走よ。汝も身を人外に堕とす事があれば、一度飲んでみると良い」
「ちょっとアルちゃん、人を食べ物か何かみたいに云わないでよーっ!」

凄惨な殺人遊戯の最中にも関わらず、何処か間の抜けた会話が続く。
図らずして、弛緩した雰囲気が場を支配する。
そんな雰囲気を切り裂いたのは、来るべくして来た放送の時だった。


『――やあ、参加者の皆さん、気分はどうだい?』


    ◇     ◇     ◇     ◇



(……ユイコ。生きていたんだね)

放送を聞き終えたクリスは、ようやくその事実を知るに至っていた。
来ヶ谷唯湖が生きていた。
落ち着いて考えてみれば、それは何ら不思議の無い事。
悲鳴が聞こえたからと云って、唯湖が殺されてしまったとは限らない。
唯湖は、卓越した身体能力と冷静な判断能力を併せ持っている。
そんな彼女ならば、椰子なごみの襲撃を凌ぎ切る可能性も十分にあったのだ。

嬉しくないと云えば嘘になる。
何時の間にかクリスは、自身の予想以上に唯湖に惹かれていた。
逢いたい、こんな自分を支えてくれた彼女に。
触れたい、彼女の艶やかな黒髪に。
また一緒に、同じ道を歩きたい。

クリスのその希望は、決して実現不可能なものでは無い。
唯湖が生きていると分かった以上、再び逢える可能性はある。
否、何としてでも絶対に再会して、今度こそ守り切ってみせる。


放送によって報された事実は、クリスに新たな希望と決意を与えていた。
しかし、それでもクリスは素直に喜ぶ気にはなれない。
決して忘れてはいけない――この島に於ける放送は、絶望すらも運んでくるモノだと云う事を。


(マコト……)

クリスが横に視線を移すと、力無く地面に膝を付いている真の姿が目に入った。
無理もない、と思う。
彼女の同行者であった伊藤誠の名前が、つい先程の放送で呼ばれてしまったのだ。
それに葛木宗一郎という人物もまた、真の仲間だった筈。
その両方を同時に失ってしまったのだから、真の精神的ダメージは計り知れないものがあるだろう。

「また沢山の人が……死んじゃったんだね。恭介くんが探してた理樹くんって人まで……死んじゃった」
「……そう、だね」

桂が洩らした呟きに、クリスは只頷く事しか出来なかった。
第一回放送から合わせて約三十人。
もう、余りにも多くの人が死んでしまった。
温泉で出会った橘平蔵も、先の放送で呼ばれていた。
そんな現実がある以上、唯湖が無事だったとは云え喜んでいられる筈が無い。
それはクリス以外の者達も同じ。
皆一様に押し黙って、重い静寂が部屋の中を支配していた。
しかしそこで、敢えて話を切り出す者が一人。

「皆……こうしていても仕方が無い。情報交換と作戦会議を行うぞ」

厳然たる声で告げる少女の名は、アル・アジフ
その提案自体は決して間違ったものではないが、まだ放送から幾ばくの時間も経ってはいない。
皆の士気は回復しておらず、特に真は放送以来一言も発していない。

「アルちゃん、いくら何でも早過ぎるよ。もうちょっと時間を置いてからの方が……」
「時間を置いたり、ただ嘆き悲しむ事で死んだ者が蘇るのならば、妾とてそうするがな。
 死んでいった者達に妾達がしてやれるのは、この忌まわしい遊戯を破壊する事だけだ。
 それに忘れるでないぞ? 妾達がこうしている間にも、この島の何処かで、誰かが命の危機に瀕しているかも知れないのだ」


アルの主張は正しい。
死んでしまった者達の事を本当に想い遣るのならば、今は一刻も早く行動すべきなのだ。
少しでも早くこの殺人遊戯を止め、遺された人々の命を救う事こそが、死者達にとって最高の弔いになるだろう。
アルの主張の正当性に、桂は言葉を返せない。
代わりに口を開いたのは、意外な人物だった。

「……そうだ。落ち込んでいる暇なんて、無いんだ。
 守らないと。誠さんも、葛木先生も、死んじゃったのなら……。ボクが、やよいを守らないと」

今まで黙り込んでいた真が、唐突にそう呟いていた。
その声には覇気が感じられず、その瞳には生気が見受けられない。
真は殆ど幽鬼のような動きで立ち上がって、身体を扉の方へと向けた。

「ごめん、皆とは此処でお別れだよ。ボクは……やよいを守りに行かないと、いけないから」

それだけ言い残して、真はログハウスを後にしようとする。
しかし、そこで後ろから手を握り締められた。
真が背後へと振り返ると、そこには必死の表情を浮かべる桂の姿。

「……離してよ」
「駄目、だよ」

真に促されても、桂は手を離そうとはしない。
寧ろ、握り締める力を益々強めていた。

「早く、離してよ。じゃないと……やよいを探しに行けない」
「駄目! 今の真ちゃんを放っておく訳にはいかないよ!」

桂は手を離さない。
今の真がまともな精神状態でない事くらい、桂には一目で分かっていた。
そんな真を一人で出歩かせるなど、許容出来る筈が無い。

至近距離で絡み合う、視線と視線。
そうして暫くの間見つめ合っていたが、不意に真が視線を床へと落とした。

「桂、お願いだから……行かせてよ。ボクは誠さん達の代わりに、やよいを守らないといけないんだ。
 誠さん達が、死んだのは……ボクの所為なんだから」
「真ちゃんの、せい?」

桂が尋ねると、真はコクリと縦に頷いた。

「ボクはこの島で、いきなり間違いを犯してしまって。
 助けを求めている女の子を、最低な形で、見捨ててしまって。
 そんな時に……誠さんと出会ったんだ」

何の前触れも無く、凄惨な殺人遊戯の中に放り込まれて。
恐怖に屈して、小牧愛佳を見捨ててしまった後。
真が出会ったのは、伊藤誠という少年だった。

「誠さんは……流されやすくて、いい加減な部分もあって。
 それでも……最高のパートナーだったよ」

誠が立派な人物だったかと云うと、疑問符が付くかも知れない。
時には欲望に流されたり、辛辣な言葉を口にする事もあった。

だがそれでも、誠は善人だった。
真が愛佳にしてしまった最低の行為を、聞かされても。
鮫氷新一に真が糾弾されていた時も。
誠は決して、真を見捨てたりはしなかったのだ。
更にその後、真は二人の仲間との遭遇を果たした。

「その後に出会った二人も、良い仲間だった。
 やよいは元気で優しい子だし、葛木先生は頼れる大人って感じで。
 皆、最高の仲間だよ」

葛木宗一郎と高槻やよいの加入によって、真達の態勢は盤石となった筈だった。
教会では結束に罅が入りもしたが、悪人など一人も居なかったのだから、きっと元通りになれた筈。
いずれ、時間が解決してくれる筈だった。
そう、真が愚かな選択肢さえ選ばなければ。

「なのに――ボクは自分から皆の下を離れてしまった」

教会の懺悔室で。
真は仲間達の意見すら聞かずに、得体の知れぬ何者かの甘言を受け入れてしまった。
その結果が、伊藤誠と葛木宗一郎の死である。

真はあくまでも淡々とした口調で、己が辿って来た道程を語り続ける。
しかし、それも限界。
積もりに積った激情は、確実に彼女の中で膨れ上がっている。

「ボクが居れば、何かが変わっていたかも知れなかった。ボクにも何か、出来る事はあった筈なんだ。
 だから……全てはボクの責任」

ポロリ、と地面に落ちる滴。
これまで静かに語るだけだった真が、唐突に目から涙を零していた。

「距離を置くだなんて、間違いだったんだ! ボクは仲間と一緒に行動しなきゃいけなかったんだ!
 そうすれば誠さんや葛木先生だって、死なずに済んだかも知れないのに……!」

真は声を荒ぶらせて、感情のままに叫びを上げる。
あの時、立ち去る誠を追っておけばと。
見知らぬ何者かの言葉などに、耳を貸さなければと。
そんな想いだけが、止め処も無く溢れ出して来る。

皆が黙り込む中、部屋の中に真の嗚咽だけが響き渡る。
そのまま経過する事、十数分。
やがて仮初めの落ち着きを取り戻した真は、血を吐くような決意と共に告げる。

「誠さんも葛木先生も、ボクの所為で死んでしまった。
 きっと今頃、やよいは独りで怯えていると思うんだ。
 だから――ボクは行くよ。せめて、やよいだけでも、守る為に」
「真ちゃん……」

今の真に掛けられる言葉を、桂は持ち合わせていなかった。
貴女の所為じゃない、という言葉は口に出来ない。
それは裏を返せば、『お前が居た所で何も出来なかった』と云う意味になる。
そんな酷い言葉を口に出来る訳が無い。

もう、桂でも真を止められない。
真は別れの挨拶すらしないままに立ち去ろうとして――


「待て」


そんな彼女を尚引き止めたのは、最強と呼ばれし魔導書、アル・アジフだった。


「汝がやよいと云う者を守りたいのは良く分かったが、何も一人で行く必要は無いだろう?
 妾達も連れていけ」
「でも……アル達は、此処で情報交換や作戦会議をするんじゃないの?
 ボクには……そんな時間は無いんだ」

真としては、一刻も早くやよいを探しに行きたい所。
悠長に情報交換や作戦会議をしている暇など無い。
だからこそ真は単独行動を取ろうとしていたのだが、そんな彼女の意見をアルは一蹴する。

「ふん、少しは頭を使え。そんなモノ、移動しながらでも出来るわ。そうであろう、桂?」
「え……う、うん! そうだよ! 難しい話なんてアルちゃんに丸投げして、一緒に行こうよ!」
「いや、妾に任せきりは困るがな……。兎に角、歩きながら情報交換すれば、高槻やよいの捜索に支障は出ん。
 どうだ真。これならば、汝とて文句はあるまい」
「…………」

真は答えない。
積極的に肯定する気も否定する気も、無いようであった。
アルは直ぐに視線を移して、クリスとなつきにも問い掛ける。

「クリス。それに確か、汝はなつきという名だったか。汝達はどうだ? 妾の案に乗るか?」
「僕はそれで構わないよ」
「……私も異存は無い。お前達と一緒に行動すると決めた訳では無いが、静留について聞かせて貰わないとな」

クリスには、そもそもアルの提案を拒絶する理由が無い。
なつきはアル達を完全に信用した訳では無いが、静留の情報を聞くまで別行動は取れない。
残る問題は、棗恭介達と結んだ『第四回放送までにカジノで合流する』と云う約束だけだったのだが。

「あ、でもアルちゃん。恭介くん達との約束は……」
「何、いざとなれば電話がある。約束の時刻までに待ち合わせ場所に戻れなかったなら、電話をすれば良いだけだ」

それも、あっさりと解決した。
こうしてアル達は、全員で話し合いながら移動する事となった。



    ◇     ◇     ◇     ◇


ホテル、プール、土産屋、飲食店。
所狭しと建物が立ち並ぶリゾートエリアの中を、五人の少年少女が歩いてゆく。
桃色の長髪を潮風に靡かせながら、アルが険しい表情で呟いた。

「……ふむ。源千華留は、殺し合いに乗っているかも知れぬという訳か」
「ああ。奴に同行していた直枝理樹も、先程の放送で名前を呼ばれている。
 断定は出来ないが、限り無く黒に近い灰色と云った所だろう。
 それに、深優・グリーアについても一応注意しておいた方が良い」
「でもアルちゃん、なつきちゃん。
 恭介くんやトルタちゃんは、千華留さんは殺し合いに乗っていないって云ってたよ?」
「甘いぞ、羽藤。源千華留は『本性を隠して集団の中に潜む危険人物』だ。
 その恭介やトルタとやらが騙されていた、と考えるのが自然だろう」

なつきが美優から聞いた疑惑によれば――源千華留は殺人鬼である可能性が高い。
その疑惑に明確な証拠は無いが、安易に切り捨てる事も出来ない。
千華留の同行者であった山辺美希も、殺人鬼の存在を示唆していた。
更に、同じく同行者であった直枝理樹は、先の放送で名前を呼ばれている。
これ程までに条件が揃っているのだから、警戒して然るべきだろう。


「それより、いい加減静留について教えろ。さっきから私が話してばかりじゃないか」

なつきが不満げな目で、アルを思い切り睨み付ける。
彼女が苛立つのも当然だ。
先程から、なつきが一方的に情報を流すといった形が続けている。
早く静留について知りたいなつきとしては、今の状況は不本意なものだろう。

「汝はどうやら、藤乃静留の情報だけが目当てのようだからな。藤乃静留の情報を先に教えたら、直ぐに何処かへ行ってしまうかも知れん。
 故に、藤乃静留について教えるのは一番後だ。今暫くは、妾達の情報交換に付き合って貰うぞ」
「く、貴様……」
「そう怒るでない。妾達とて情報が欲しいだけなのだ。藤乃静留については、最後に必ず教えると約束しよう」
「……分かった、暫くはお前達の情報交換に付き合おう。但し約束を破ろうとしたりしたら、容赦無く撃たせて貰うぞ」

千年以上の時を生きて来たアルの方が、こと駆け引きに関しては一枚上手。
なつきはアルに従うしか無くなり、情報交換は滞る事無く続いてゆく。
結果として、静留に関する情報以外は大方出揃った。
しかし予想以上に情報量が多かった為、全てを記憶し切るのは至難の業。
故に一同は、それぞれが持っている紙に情報を書き写した。
その内容は、以下の通りになる。



=========================================


殺し合いに乗った人物(生存者のみ):腕に赤い外套を巻いた茶髪の男、椰子なごみ、支倉曜子、ドライ、ツヴァイ、鮫氷新一
 上下が白の学生服の剣士(死亡済みの一乃谷愁厳である可能性が高い)、黒い長髪に切れ長の目をした女剣士(千羽烏月である可能性が高い)、千羽烏月、


要警戒人物(生存者のみ):源千華留(限り無く黒に近い灰色)、黒須太一、深優グーリア、柚原このみ、巨漢の男


安全だと思われる人物(生存者のみ):高槻やよい、ファルシータ・フォーセット井ノ原真人神宮司奏
 アントニーナ・アントーノヴナ・ニキーチナ、九鬼耀鋼、来ヶ谷唯湖、トルティニタ・フィーネ、棗恭介、大十字九郎
 如月双七、杉浦碧、蘭堂りの、ユメイ、菊地真、玖我なつき、クリス・ヴェルティン、羽藤桂、アル・アジフ、ドクター・ウェスト、山辺美希


  • 劇場に、IDとパスワードが必要なパソコンがある。
  • H-6のボート乗り場に、クルーザーが止めてある。
  • 『本当の参加者』、もしくは『主催が探す特定の誰か』が存在するかも知れない。
  • 教会の懺悔室には、得体の知れぬ何者かが潜んでいる。恐らくは、企画主催側の人間。
  • 教会の懺悔室の主によって、真は島の北西から南東にまでワープさせられた。
  • 真は『空白の二時間』の間に、懺悔室の主に何かをされた可能性がある。
  • 並行世界が存在する可能性は高い。死者蘇生が存在する可能性も一応ある。
  • 空港に軍用の戦闘機が放置してある。
  • 首輪には盗聴機能や監視カメラが付いている。
  • 主催者による監視は、『上空』『重要施設』『首輪』の3つから、カメラと盗聴器によって行なわれている。これは、棗恭介による推測である。
  • 棗恭介の所有しているデジタルカメラには、『首輪の設計図―A』というデータが入っている。このデータの信憑性はかなり高い。
 またAと銘打ってある以上、BやC、D。少なくともAを含めて2枚以上が存在する事はほぼ確実。
  • カジノでコインを貯めれば、様々な景品を入手出来る。
  • ドクター・ウェストは大馬鹿だが本物の天才。独力で首輪を解除出来る可能性が高い。
  • アル・アジフは魔術に関して深い知識を持っている。


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情報が出揃った事で、アルの要求は果たされた。
なつきは苛立ちを隠し切れぬ様子で、静留についての情報を要求する。

「ほら、もう良いだろう? 私はちゃんと、お前達の情報交換に付き合ってやったぞ。
 さあ、約束通り静留について話すんだ」
「……良いだろう。クリス、汝が知る限りの事を話してやってくれ」
「うん……分かったよ」

促されて、クリスは話し始めた。
静留が必死になつきを探していた事を。
事故で藤林杏を殺してしまった事を。
そしてなつきを生き延びらせる為に、殺し合いに乗ってしまった事を――――




「……くそっ。静留、どうしてそんな馬鹿な真似を……!」

全てを知ったなつきは、苦々しげに奥歯を噛み締める。
本来ならば、否定したかった。
自分の親友はそんな愚かな真似などしないと、声を大にして主張したかった。
しかし辛そうな表情を浮かべるクリスの姿が、なつきに現実逃避を許さない。

「僕は……シズルを止める事が出来なかった。彼女を暗い闇の底から救えなかったんだ」

静留について語るクリスの声は、深い無念と苦渋に満ちている。
なつきとてその様子を見れば、クリスが嘘を吐いてないと判断するしか無かった。

「静留……本当に、馬鹿だ。お前がそこまでする価値なんて、私には、無いのに……」

なつきは視線を落として、力無く項垂れる。
自分にとって何よりも大切な親友、藤乃静留。
普段は人を食った態度だけど、本当は物凄く優しくて。
そんな彼女が自分の為に悪業を重ねていると思うと、どうしようもないくらいに胸が痛む。

「お前がそうやって必死に戦っている間、私は何も出来なかった。
 若杉や伊達と一緒に行動していたのに……結局生き残ったのは、私一人で」

嘗てなつきの同行者であった若杉葛伊達スバルは、もうこの世にはいない。
悪夢の第一回放送を引き金として。
葛は、スバルの暴走によって殺されてしまった。
スバルは、なつきが自らの手で命を奪った。
残されたのは、人殺しの十字架を背負ったなつきだけ。

「あの怪物に襲われた時だってそうだ。私は加藤虎太郎に逃がされて、何とか命を繋いだ。
 だが……結果的に、加藤虎太郎は放送で名前を呼ばれてしまった。一緒に残った狐だって、きっと助からなかった筈だ」

なつきが怪物から逃げ出した後、何があったのか想像するのは余りにも容易い。
恐らくは加藤虎太郎も小狐も、あの怪物の前に破れ去ってしまったのだろう。
なつきは戦う力があるにも関わらず、一人と一匹を犠牲にしておめおめと逃げ延びたのだ。

「そんな私に、価値なんてある訳無いだろう……?
 静留が手を汚して守る価値なんて、私には無いんだ」

少女は自身の辿ってきた道程を振り返って、口元に皮肉な笑みを浮かべた。
それは、自分自身に対する嘲笑に他ならない。
しかしそんな彼女の自嘲を、クリスは許そうとしなかった。

「それは違うよ、ナツキ。君の事を大切に想ってる人がいるんだから、自分に価値が無いなんて云っちゃ駄目だ。
 君に価値が無いだなんて……そんなの、シズルが可哀想過ぎるよ」

一度深い自己嫌悪に陥ったクリスだからこそ、今のなつきは認められない。
なつきが自分を無価値だと断定すれば、そんなモノの為に戦っている静留は一体何なのか。
だからこそ、クリスはなつきの言い分を絶対に認めない。

「それに、今まで何も出来なかったとしても……。これから頑張れば良いだけなんじゃないかな」

告げる声に迷いは無く。
クリスはなつきの視線を一身に受けながら、話を続けてゆく。

「いや……君は頑張らなくちゃいけないんだ。シズルを救えるのは、ナツキだけなんだから」
「私、だけ?」
「うん。シズルは本当に……心の底から、君の事を大切に想っているみたいだったから――」

クリスはそう云って、なつきへと歩み寄った。
割れ物を扱うかのような優しさで、そっと少女の手を握り締める。

「君がこの手を差し伸べさえすれば、きっとシズルを救えるよ」
「…………」

なつきは口を閉ざしたまま、何も語らない。
ただ手に伝わる暖かさのみを感じている。
向けられた言葉は、そのどれもが真摯な想いに満ちたものだった。

「もしシズルを救いたいと思うのなら力を貸して、ナツキ。
 君の力が、必要なんだ」

エメラルドの瞳が、真っ直ぐになつきを射抜く。
なつきはゆっくりと――本当にゆっくりと、頷いていた。


    ◇     ◇     ◇     ◇

182:第三回放送-巡り続ける運命の鎖- 投下順 183:Mighty Heart、Broken Heart (後編)
時系列順
179:運命はこの手の中廻り出すから 玖我なつき
クリス・ヴェルティン
アル・アジフ
羽藤桂
菊地真

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