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Little Busters!”M@STER VERSION” (突破) 5

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だれでも歓迎! 編集

Little Busters!”M@STER VERSION” (突破) 5 ◆Live4Uyua6



 ・◆・◆・◆・


 ……………………ピンポンパンポーン♪

 ご来場の皆様に、申し上げます。
『ギャルゲロワ2nd第二幕番外編・最終決戦直前記念大野球大会』は、アクシデントにより一時中断させていただきます。
 異変が解決され次第再開いたしますので、どうかそのままのお席でお待ちください。



     , -=ニ= 、
   /⌒,´   `ヾヽ
  ,'.:::::::/i|:::::トi、::、:::ヽ',
  !:::;:j;:i-ヾ__l戈、i;::::::!|
  ゞ从化}   じ`リ:::;':i
   |i`i!" _'__ "リ.:ノ:/  ……ふぅ。なんだか大変なことになってしまいましたね。
   i| ゞ≧ぅ´_ノイ,i:/   みんなは無事に帰ってこられるのでしょうか?
   `'´ ̄≧/|く´_〉==,、
.     /,}::h^ソ彡7::::八ヽ
     j'/:.:|'´  ,ク__/  `{
    ハ_ノ-、ノ└彳 ::.,!
.   〈/ `~Y.:.:.:.:.:/   i



           ,.rヘ
      _i ̄ 7´  ir ´^!
    r‐'´/  / / ヘヘ  ヽ、
    i  /   iVL__i  ヽヽ 〉
    l    / マぅ  r_レ゙
    ii  r‐v´      Y',  仮に真相を暴けたとしても、黒幕が彼らをどうするか……。
    `} ト、j    - 一/   このゲーム自体、再開の兆しはないに等しいのかもしれないな。
   ノノ i ヽ,' .    ,i゙ミ 
   "イ iヽヽ.,< `'┬‐iリミ
   リ ハヽヽ==┐ ̄「V___
   ゙" 「´ ヾ゙   i;:;:;:;く   ̄ ̄ ̄',ヽ



.'´7'´`´ヽ
! 〈(从从リ|
ヽ¶_゚ ヮ゚ノ、i <こ、ここまできてですか? そんなぁ~……。
  /)卯i、. 


γ⌒`´ゝ、
ソ〃((''))(
ζ,,d゚ ロ゚ハ' <そうなったら、私と君でステージに上がるのも一興か。
(i゙i†i´.r')



.'´7'´`´ヽ
! 〈(从从リ|
ヽ¶_゚ ヮ゚ノ、i <ええ!? いよいよ私も本編デビューのときが……。
  /)卯i、. 


γ⌒`´ゝ、
ソ〃((''))(
ζ,,d゚ ロ゚ハ' <冗談だ。
(i゙i†i´.r')



     .'´'´`´ヽ
    !    l||
    ヽ!i_l_i_j儿 <……………………。
      /_《つ
      j__」
       し'ノ



           ,.rヘ
      _i ̄ 7´  ir ´^!
    r‐'´/  / / ヘヘ  ヽ、
    i  /   iVL__i  ヽヽ 〉
    l    / マぅ  r_レ゙
    ii  r‐v´      Y',  とはいえ、彼らが無事帰還できるかどうか定かでないのは確かだ。
    `} ト、j    - 一/   〝第3視点〟を持つ〝諸君ら〟が、〝冒頭〟の意をどう読み取るかにもよろう。
   ノノ i ヽ,' .    ,i゙ミ
   "イ iヽヽ.,< `'┬‐iリミ
   リ ハヽヽ==┐ ̄「V___
   ゙" 「´ ヾ゙   i;:;:;:;く   ̄ ̄ ̄',ヽ



.'´7'´`´ヽ
! 〈(从从リ|
ヽ¶_゚ ヮ゚ノ、i <第3視点……冒頭……? 
  /)卯i、. 


γ⌒`´ゝ、
ソ〃((''))(
ζ,,d゚ ロ゚ハ' <ブリックヴィンケルと意思疎通を図ることは困難であり、また欺くことも彼らにはできまい。
(i゙i†i´.r')


            ,  -二二-  、
           /,ィ=-:: ̄ ̄::`ミ、:\
             //´:::::::::::::::i::::::::::::::::ヾ、ヽ
         //::::::∧::::::::ハ:::::::::ト、::::::ヽ:'.
           l::{:::、/ レヘ/ uゞ‐┘N::::::::!:|
            |::|:::| ○      ○ |::::::|::l  あの、言峰神父……
            '、|:::| u .:::::::::::::::::.   |::::::|::|  話が見えてこないのですが?
             l:::|、 ;   △    J l:::::.;:/
            ヽ:::}ト  _・  _,..ィ´|:://
            `iLf圭)ス_人-w从リ (
             ,. イr ぅヽ/ヽ、
            / |: :ヽ爪Y: : : }ヽ、


γ⌒`´ゝ、
ソ〃((''))(
ζ,,d゚ ロ゚ハ' <なに、ほんの戯言と思ってくれて構わないさ。今回の私の役割は、『野球の』解説なのだから。
(i゙i†i´.r')


.'´7'´`´ヽ
! 〈(从从リ|
ヽ¶_゚ ヮ゚ノ、i <そ、そうですね。私も野球の実況でした。今は大人しく、みんなが帰ってくるのを待ちましょう。
  /)卯i、. 


γ⌒`´ゝ、
ソ〃((''))(
ζ,,d゚ ロ゚ハ' <(種は第一幕にて撒かれていたものだ。しかし、それは誰にも認知されてはいなかった――)
(i゙i†i´.r')



 ならばはたして、あの神には視えていたのだろうか――――?


 ・◆・◆・◆・


 ようやく、どことも知れぬ回廊まで辿り着いた。

 ジジジ……ジジジ……と音を鳴らす蛍光灯が、点いては消え、点いては消え、延々と明滅を繰り返す。
 壁面には時期の外れたカレンダーや青年団の勧誘ポスターが貼られ、相合傘の落書きなども刻まれている。
 周囲に漂う陰鬱な空気が、遠回しな人避けのようにも思えて、しかし機能はしていない。

 ほこりやちりに塗れた薄暗い通路は、靴で踏みしめるたびに跡を残し、訪問者の人数を知らしめる。
 足跡の数は八つ。男が二人、女が六人いた。誰もが口を噤み、ただ黙々と通路を進んでいる。

(……なんだか、息苦しい)

 会話のない列、その中間あたりを、羽藤桂は歩いていた。
 ほんのり汗の滲むユニフォーム姿のまま、換気も行き届いていない通路を行く。
 清掃員も不在なのだから、そこが清潔であるはずもなく、しかし息苦しさの要因はそれだけではないのだと、感じてしまう。

 思うように声が出せない。肌がざらつく。喉は渇く。足は導かれるように勝手に前へと進んでいく。
 まやかしに過ぎないのかもしれないが、周囲に漂う異質な空気が、体から活力を奪っているようにも思えて。
 初めてオハラシサマのご神木を目の前にしたときのような、息の詰まる感覚がここにはあった。

(サクヤさんの血を、吸ったから? なんとなく、なんとなくだけれど……この先に待ち受けているものが、わかるような気がする)

 不思議と、立ち止まったり引き返したりという気にはなれなかった。
 自分はこの先に待ち受けているのもの待望しているのだろうか、と考えすぐに否定する。
 憂いは胸の中にあった。このおかしな小事が、破滅への引き金なんじゃないかと、心を締め付ける。

(誰かの仕業……っていうんなら、いったい誰が、こんなことをしたんだろう?)

 考えられるとしたらやはり、主催側の人間――神崎黎人や、彼が牛耳る一番地、シアーズ財団の職員たちの仕業だ。
 幸福の女神を自称していた、ナイアなる存在の可能性も考えられたが、彼女は九条により退場を言いつけられている。
 不可思議な力、という点を考慮するならば後者、ナイアの犯行であると解釈したほうが手っ取り早い。
 神崎らにはこのような異変を起こす理由はあったとしても、手段に欠けている。
 鬼道では為しえない部類の異変であると、その力を司る那岐から先に否定があったとおりだ。

(誰が、っていうのを考えるよりもまず……どうして、こんなことを?)

 仮に主催側の人間が犯人だとするならば、九郎の言うように、どうしてこんな回りくどい真似をしたのか。
 桂は今一度、自分たちの身に起こった異変の内容を思い起こしてみる。

 第一に、性格の変化。柚明により気絶させられた者たちは、ほとんどがこの症状だった。
 なつきに対しいつも以上に積極的な、それでいて協調性を大きく欠いた、覇気のないクリス。
 傍目からはよくわからなかったが、玲二の目から見れば確かに変貌していたという深優。
 たかだか野球で負けているというだけで大泣きしてしまう、美希とファルとドクター・ウェスト
 そして極めつけが、やよいに怪我を負わせてまで勝利をもぎ取ろうとした碧。

 これらの変化が人為的なものだったとして、その狙いはなんなのか……考えられるのは、チーム内に不和を生むことだった。
 この野球大会自体、明日の決戦に備え、全体の結束力を強化する目的があったのだ。
 主催側の人間がそれを邪魔し、自分たちに仲違いを起こそうと画策しているなら――

(う~ん……やっぱり、違うような気がする)

 理に適っている。ように見えて、こじつけの要素が強すぎる推測だった。
 極度の疲労に倒れてしまった九条の件も考えると、これを主催側の干渉と見るには、やり方がデタラメすぎるような気がした。
 干渉者の目的が、『嫌がらせ』のみと考えるのなら不自然ではないのだが……

(あれ?)

 そこでふと、桂は思った。
 自身の前を行く三人、アルと那岐と柚明。
 自身の後ろを行く五人、やよいとプッチャンとなつきとトーニャと玲二。
 自分も入れて九人、異変解決に向けて動いている今のメンバーを見渡して、新たに湧いてきた疑問がある。

(――どうして、わたしたちは無事だったんだろう?)

 異変に見舞われた者と、見舞われなかった者。
 比率はちょうど半分半分なのだが、その境界線はなんだったのだろうか。
 もし、干渉者が意図的にこのメンバーを選び出したのだとすれば――

(なにかしら、共通点がある?)

 アル・アジフ、那岐、羽藤柚明、羽藤桂、高槻やよい、プッチャン、玖我なつき、トーニャ・アントーノヴナ・ニキーチナ、吾妻玲二。
 魔導書に式神、オハラシサマに鬼の力を宿す少女、アイドルに喋るパペット人形、オリジナルのHiMEに人妖、そしてファントム。
 性別も年齢も、背負う肩書きだってバラバラな九人に、どういった共通点があるというのか。

(……やっぱり偶然、なのかな)

 考えてはみたものの、それらしい答えが思い浮かばない。
 単なる気のせいなのか、と桂は思索を打ち切りそこで足を止めた。
 前を行く三人が、立ち止まったからである。

「ここだ」

 アルが言うが、桂たちの目の前に聳えているのは、ただの壁――通路の行き止まりだけだった。

「行き止まりじゃないか。本当にここであってるのか?」

 疑問を投げかけるなつきに、桂も頷いた。
 ここへは、アルや那岐、柚明が感じたという不穏な気配を辿って流れ着いたのだ。
 その到着点になにもないとなれば、黙ってついてきた者としては不安にならざるをえない。

「焦るでない。生き残ったのは妾ら八人……多くの犠牲を伴ったが、な」

 アルは、質問を呈するなつきではなく、壁面を睨みつけながらそう答えた。
 隠し扉でもあるというのだろうか。
 桂も同様に壁面の様子を窺ってみるが、これといっておかしな点は見当たらない。

「これで終局だ。すべての黒幕が姿を現す」

 しかしアルは告げ、そして――異変は起こった。
 目の前の空間が、急激に歪む。
 まるで蜃気楼のような、空気が振動している風に映る。
 そこになにかがいる。そう思わせるには十分な、人の気配が生まれる。
 ぼうっとした、ホログラムのような像ではあるが……確かな人間の形を取りながら、

「そうか。まさか、汝であったとはな」

 桂の見知った顔が、突然に現れたのだ。
 もうこの世にはいない、弔うべき一人として認識していた少年が。
 変わらぬ立ち姿で、存在の色だけを変えて、桂たち九名の前に顕現を果たす。

「ここは、久しぶりと言っておくべきか?」

 アルは予測していたとでも言うのだろうか。
 さして驚いた風もなく、淡々とその存在に話しかけている。
 桂や他のみんなは、唖然と声を失ってしまっていた。

「のう――――棗、恭介」

 無理もない。
 なぜなら彼は、


『――ああ。久しぶりだなアル、それに桂』


 当の昔に、死んだはずの人間なのだから。


 ・◆・◆・◆・


「桂さん桂さん。ちょいと私の頬をつねってみてはくれませんかね?」
「うん、いいよ。ぎゅ~」
「いぃいいいたたたたっ! 痛いってーのぉ! 本気でつねる人がいますか!」
「ご、ごめん。でも痛いってことは、夢や幻じゃないんだよね……うん」

 信じられない光景を目の当たりにして、トーニャと桂がそんなやり取りを交わす。
 ある程度は非日常にも慣れている身、とはいえ、さすがに免疫力不足だったのだろう。
 異変の黒幕。待ち構えていた真相は、想定外もいいところだった。

「まさか……なぁ」

 ぽけーっと放心状態になってしまっているやよいの右手で、パペット人形のプッチャンが唸る。
 今さらになって、それもこんなところで、自分に近しい――いや、同じ存在に出会うとは思わなかった。
 目の前に現れた人型の虚像、質量を持ちえない幻想的存在を眺めながら、彼の復活を肯定する。

 実際に面識を持っていたのは、アルと桂、そして玲二だったろうか。
 その少年の名は、棗恭介
 星詠みの舞初日に命を落とした、紛い物のHiMEの一人だった。

「顔を知らぬ者も多かろう。こやつの名は棗恭介。我らと同じく、この儀式に参加させられていた――」
「そ、それはわかってるよアルちゃん! でも、恭介くんは死んだはずじゃ……」
『死んだよ。放送でも名前が呼ばれただろう? 俺はもうとっくとうに死人なのさ』

 声を張り上げる桂に対し、恭介はあっけらかんと言う。
 彼を紹介しようとしたアルは嘆息し、驚愕続きの桂を諌める。

「では、なんですか? 今こうやって私たちとお話しているあなたは、幽霊だとでも言うつもりですか?」

 悪鬼や妖怪の存在を肯定することはできても、目の前の事象は肯定しきれないらしいトーニャが、じとっとした目で問い詰める。

『ああ、そのとおりだ。足はちゃんと生えてるが、今の俺は実体じゃない。正真正銘の、霊体さ』

 恭介の足下を確認する。
 日本の怪談や都市伝説などでは、幽霊には足がついていなかったりするのがお決まりだが、彼にはちゃんと四肢が備わっていた。
 もっとも、それはなにかに触れたりすることはできない、形だけのものなのだろうが。

「言われてみると、この島に来る前の柚明お姉ちゃんに感じが似ているような気もするけど……」
「死者を蘇らせる法など存在しないのではなかったのですか、アルさん?」
「ああ、存在しない。しかしな、死体や死霊を操ることならば、魔術でも可能なことなのだ」

 アルは既に、恭介の存在をありえなくはないものとして捉えているようだった。
 これには、桂もトーニャも閉口せざるをえない。まだ、納得はしきれていない風だったが。

「ちょ、ちょっと待て、そんな簡単に済ませるな! 幽霊だぞ? そう簡単に認められるものでもないだろう……」

 恭介の存在を肯定できない人物がもう一人いた。玖我なつきである。
 HiMEであるゆえ、オーファン等の怪物への理解は深い彼女だったが、幽霊は管轄外らしい。
 懐疑的な眼差しで、恭介の透き通るような体をまじまじ眺めている。

「それじゃあここで僕から、推測を交えた説明をさせてもらおうかな」

 混乱の収拾役を買って出たのは、那岐だった。

「幽霊っていったらそりゃ信じられない人も多いと思うけれど、この島で起こることと考えればありえなくはないんだ。
 そもそも幽霊っていうのは、死んだ人間がこの世への未練を断ち切れず、魂を残留させてしまうものだからね。
 ここ数日行われた凄惨な殺し合いの中で、誰がスッキリ隠り世へ旅立てたというのだろう。いるわけないさ、一人だってね」

 那岐は、自嘲気味に言った。
 恭介が死んだ時点では、彼も殺し合いを牛耳る側にいたのだ。死んだ人間たちに対して、後ろめたさもあるのだろう。

「それに、この世界は特殊なのさ。憎しみ余って『鬼』になっちゃうくらいだしね。
 未練を抱えた死者が、霊魂となって生者である僕たちの前に現れても不思議じゃない」

 言われて一同は、憎悪という感情で己の存在を変質させた二人の少女がいたことを思い出す。
 鉄乙女西園寺世界。彼女たちが住まう日常では、憎しみが度を越したとて、人が鬼に変わることなどなかった。
 それはプッチャンが抱える常識と照らし合わせてみてもそうだ。

 那岐の言う、この島の特殊性とはつまりそういうことなのだろう。
 強い憎しみが鬼を生む、異常な世界。同じように、強い未練が幽霊を生む――という仮定。
 そんな信じがたい特殊性が、星詠みの舞の舞台には根付いているのかもしれない。

 だが、きっと、

「……けど、そいつが化けて出たのは、この島の仕組みだけが原因じゃない。そうなんだろ?」

 恭介が霊体化した要因は、別にある。
 誰よりも早く、その回答を自ら導き出すことができたのは、プッチャンだった。

「ここから先は、プッチャンに交代してもらっていいかな?」
「おう」

 那岐からバトンを引き継ぎ、プッチャンが語り始める。
 まずはなにから喋ろうか、悩みに悩んだ末、直接の原因となっただろう者の名を口にする。

蘭堂りのだよ」

 それは、口にするのも懐かしい妹の名前だった。

「棗恭介……そいつがこんな形で島に残っちまってるのは、たぶん、りのが力を死に際に力を使ったせいだ」

 思い出す。
 別れの瞬間には立ち会えなかったが、声だけは胸に響いてきた、最愛の妹の最後のメッセージを。


 ――こんなことを続けても、みんなが悲しむだけだと思うんです。仕方ない、っていうのもあるんだろうけど――

  ――だからって、それじゃあ悲しみが続くだけだから。連鎖は、誰かが断ち切らなきゃダメだと思うから――

     ――子供っぽい、調子いいこと言ってるかもしれないけど、私は、みんなに笑って欲しいんです――

     ――みんなに、みんなにとっての、極上な日々を目指して欲しい。それだけが、私の望みです――


 あれは、本当に単なるメッセージにしか過ぎなかったのだろうか。
 少なくとも、あのときはそうとしか受け取れなかった。力の内容よりも、りのが力に覚醒したこと自体が衝撃だったから。
 しかし今になって考えてみれば、りのの力は単なる伝心などではありえないのだと気づく。
 なぜなら、死に逝く彼女は……生者にではなく、『魂』に語りかけていたのだから。

「死んだはずの俺の魂をこのパペット人形に定着させたのは、俺とりのの母親だ。
 りのの伝心もそうだったが、蘭堂親子の持つ『神宮司の力』は魂に干渉するのさ」

 声を届ける力、それに伴う強制力。そんなものは、蘭堂りのの力の一端にしか過ぎなかったのだ。
 彼女の力の本質は、やはり母と同じ。生者と死者の区別もなく、直接魂に干渉する力。
 土壇場で目覚めた力は、兄の想像を遥かに超えていたのだと今さらに驚かされ、

「えっと……ちょっと待ってください。今、さりげに爆弾発言が飛び出しませんでしたか?」

 感傷に浸るプッチャンに、トーニャが中断を呼びかけた。

「死んだはず……? プッチャンって、一度死んだ人間なんですか?」
「おっと、そういや知らないヤツもいたか。プッチャンとは世を忍ぶ仮の姿、その正体は……」
「……プッチャンは本当は蘭堂哲也さんって言って、りのさんのお兄さんなんです」

 放心気味だったやよいがプッチャンに付け加えて告白する。
 これには、トーニャのみならず桂やなつきも驚いた様子を見せた。

「初耳だぞ、それ……」
「喋る人形って紹介されてたから、ずっとそういうものなんだと思ってた……」
「右に同じく……」
「まー、俺の過去なんて今はどうだっていいんだけどよ。神宮司の力については話しておかなきゃな」

 こほん、と一拍置いてから、プッチャンが続ける。

「神宮司の力、ってのは前にも話したよな。神宮司家の人間が持ってる、まあよくわかんねぇ超能力みたいなもんさ。
 神宮司奏……会長さんが持ってた力は、強制力なんて風に呼ばれててな。強い思念を相手に届けて、その通りにさせる。
 敵さんの側に、すずってヤツがいるだろ? そいつの持ってる言霊の能力を、極端に弱体化させたような力だ。
 他人に命令を聞かせる……いや、違うか。言っちまえば、声がデカくてなんだか逆らいづらい、お願い事みたいなもんだな」

 奏の話題を出すと、やよいとトーニャが苦い表情を浮かべた。
 二人は彼女の死に際に立ち会っている。
 あの瞬間、彼女の自殺を止められなかったのも、もしかしたら強制力が働いていたからなのかもしれない。

「で、その神宮司の力なんだが、厄介なことに力の種類はみんなバラバラなんだ。
 神宮司家の人間全員が、いま話した奏と同じ力を使えるわけじゃない。俺とりのの母親の力なんか、いい例だな。
 母親……蘭堂ちえりが持ってた力は、人形に魂を入れる力だ。俺みたいな、死んだ人間の魂をな。
 俺も全部を全部詳しく知ってるってわけじゃないんだけどよ、神宮司の力ってのは共通して、魂に干渉するんだ」

 なぜ、プッチャンがパペット人形に魂を宿してまで、現世に留まることになったのか。
 それはあえて語らない。この場には必要のない情報でもあるし、皆も心中を察してくれたのか、詮索しようとはしなかった。
 やよいには既に話してしまっているが、彼女もそれを吹聴したりはしないだろう。
 理解者は、一人だけでいい。

「では、その蘭堂ちえりさんの娘である蘭堂りのさん……彼女もまた、母親と同じような力を持っていたと?」

 トーニャの問いに対し、プッチャンは曖昧に腕を組んだ。

「りのが力に目覚めてそれを使ったのは、あの伝心が初めてでね。どういったものか、っていったら俺にもわかんねぇ。
 ただ、あの主張は単に声が馬鹿でかいだけじゃなかったんだ。この島にいる人間すべての、心に語りかけてたんだ。
 それはひょっとしたら、そのとき既に肉体を失っていた死者の魂にまで語りかけちまったのかもしれねぇ」

 プッチャンの視線が、霊体の恭介へと向く。

「こりゃあ俺の推測なんだがよ。棗恭介、おまえは――」

 最愛の妹はとんだ置き土産を残していったものだと、半ば嬉しく思いながら。
 プッチャンは、ある仮定を口にする。

「死んだ俺の魂がこの人形に宿っちまったみてぇに、おまえの魂は『この島』に宿っちまったんじゃねぇのか?」

 これに対し恭介は、

『ああ、そのとおりだ』

 すべてを理解している風に、頷いてみせた。

『俺は確かに死んだ。それは覚えてる。でもその後に……小さな女の子の声を聞いたのさ。
 蘭堂りのって名前の女の子だった。生きてるとき、一緒にメシ食ったこともあるからな。声も覚えてる。
 その子は一人で懸命に叫んでたよ。こんな馬鹿げたことはやめろ、みんなで手を取り合おう、そんな風にな』

 語り部はプッチャンから恭介へと移り、聞き手たちも黙って耳を傾ける。

『そのとき俺は、浅ましくも思っちまったのさ。俺の想いも同じだ、ってな。
 そこにいる那岐ってヤツにとってはお笑い種だろうな。なんせ俺は、自分たちのことしか考えていなかったんだから』

 恭介の言葉に、主催側の人間として彼の行動を把握していた那岐は、肩を竦めた。

「たしかに。恭介くんは、どちらかというとゲーム肯定派の人間だったからね。
 でも君は結局、悪者には染まりきれなかった類の人間だ。なにも後ろめたいことなんてないじゃないか」
『……結果的にそうなったってだけさ。りのの声を聞いた後となっちゃ、薄っすら後悔してもいる』
「おあいにくですが、今さら罪悪感云々の話をするつもりはありません。私どもとしては、もっとぶっちゃけてほしいことがあるのですが」

 柚明や玲二を気遣ってのことかどうかは知れないが、トーニャが恭介に話の続きを催促する。
 辿った道はどうあれ、ここ存在する者は全員、儀式という名の殺し合いに踊らされた者たちなのだ。
 清算は既に済んでいる。時間も切迫している。過去を蒸し返すような輩も、ここにはいない。

「棗恭介さん。あなたには、未練があった。そして、蘭堂りのさんの声を聞いた。
 この島の特殊な環境と神宮司の力、双方が化学反応を起こし、あなたが幽霊に近しい存在になったのだということは理解しました。
 では、あなたが抱える未練とはいったいなんですか? 現世に残り、わざわざ私たちの前に姿を現した、その理由をお聞きしたい」

 語調強めな、トーニャの詰問。
 恭介は目を細め、トーニャ……の後ろに立つ、影のような存在を睨み据えた。

『……理由はそいつに訊くといいさ』

 恭介の存在を前にしても動じず、寡黙に口を閉ざしていた吾妻玲二である。

『なあ、亡霊(ファントム)。俺の死の直前、一番近くにいたおまえならわかるんじゃないか?』

 玲二は無言だった。
 ゲーム肯定派の人間として、彼が暗殺者の技を他者に振るっていたことはプッチャンも知っている。
 那岐や九条から儀式の全容に関する情報を得たとはいえ、死者全員の詳細は聞かされたわけでもない。

 推察するに、恭介の死には玲二が関わっているのだろうか。
 関わっているばかりではなく、直接の加害者という可能性とて十分にある。

「ひょっとして……恨みを果たすために?」

 恭介にではなく、玲二に尋ねたのが、桂だった。
 桂と玲二が不仲なのは、プッチャンも知っている。桂の一方的な嫌悪感でもあるようだが。

「答えて、玲二さん」
「…………」

 返ってくる言葉が肯定だとしたら、桂は玲二をどうするのだろうか。
 やよいが生唾を飲む音が、右手からでも聞こえた。
 玲二が無言な限り、重々しい雰囲気は続く。

「俺は、そいつの妹を殺した」

 視線が集まる中で、玲二が口を開いた。

「そいつの死に際には、散々恨み言を言われたよ。おまえの罪は絶対に許さない――そう、な」
「それは……!」
「自己を正当化するつもりもないさ。化けて出てこられるほどの恨みを、俺はそいつに与えたんだ」

 桂の相貌が険しくなる。
 玲二は今でこそ自分たちの輪の中に加わっているが、殺人というやり方を否定したわけではない。
 彼の心情は、今もキャル・ディヴェンスに縛られている。自分が殺した人間に、詫びを入れたりもしないのだろう。

「そんなの……勝手だよ!」

 玲二の行いは許せない、そう強く抱いていた桂が、ここで反発した。
 荒げた声は、しかし玲二ではなく――恭介の側に向いている。

「わたしだって、この人のやったことは許せないよ……許してもらおうとも思わない、その考え方が嫌い!
 けど……けど、だからって! この人だって、恭介くんと同じなんだよ……。
 恭介くんと同じで、大切な人を守るために戦って、大切な人を失って……それで、今ここにいるの。
 だからわたしは、玲二さんを憎んじゃ駄目だと思ってる。それでも、どうしても恨みが晴れないっていうんなら――」

 玲二さんじゃなく、その罪だけを恨んで――と。
 かつて柚明にも送った想いを、今度は玲二のために、恭介へとぶつける。
 もう、来るところまで来たのだから。今さら憎しみに囚われるなんて、あってはいけない。

『……フッ。また奥深い名言が生まれちまったな……』

 懇願する桂に、恭介は微笑する。
 そのすべてを見通すような眼に、桂は威勢を殺がれてしまう。

「俺はもうおまえを憎まない。ただ、殺しをした罪だけは許さない……似たような台詞を、以前にも言われたな」

 玲二もまた、恭介の胸の内を知った風に微笑する。
 子供を見る大人の視線が、玲二から桂に向けて注がれていた。
 桂が、あからさまにむっとした顔を作る。子供っぽかった。

「逆に訊きたいのは俺のほうさ。棗恭介。おまえは、俺への恨みが晴れないから化けて出たっていうのか?」
『自惚れてもらっちゃ困る。俺は過去は振り返らない男なんだよ。そういうの、女の子にも嫌われちまうからな』
「……そっちには、彼女もいるのか?」
『おまえにそこまで教えてやる義理はないさ』

 恭介の死に際の状況を知らないプッチャンでは、二人の会話に内包された意味を読み取れない。
 桂も納得いかない様子で、恭介と玲二に刺々しい視線を送っていた。
 わかったことと言えば、恭介が化けて出た原因は玲二でも、憎しみといった負の感情でもないということだけだった。
 取り越し苦労だったらしい桂の横、トーニャが仕切りなおして問う。

「改めて訊きますよ。あなたの目的は、いったいなんなんですか?」
『野球をしてたからな』
「……は?」

 化けて出た理由が本人から簡潔に述べられ、聞き手たちは呆気に取られる。

『おまえたちが野球を始めたから。リトルバスターズ創始者として、黙っていられなかったのさ』

 …………。
 誰もが口を閉ざし、乾いた目で恭介を見ていた。
 素っ頓狂な顔を浮かべて、恭介は逆に皆を訝しんでいる。

「どういうことだ? リトルバスターズというのは、直枝理樹が集めた反抗勢力の名前だろう?」

 どうにか止まってしまった時間を動かそうと、なつきが訊く。

『その理樹にリトルバスターズの心を教えたのも俺たちさ。元々は野球チームの名前だ』
「……あー、そういえば朝ごはんのとき、碧ちゃんがそんなこと言ってたかも」

 桂が失笑し、一同は朝の風景を思い出す。

 ――そうだ、野球をしよう。チーム名は……リトルバスターズだ!

 あの台詞には、棗恭介との邂逅に繋がる特別な意味があったのだろうか。
《Aチーム》に《Bチーム》という飾り気のないチーム名は、仮初のものでしかなかったのかもしれない。

『みんなでいっしょに青春の汗を流し合ったとき、そこに真のリトルバスターズが誕生する……』

 恭介はひとり達観した風に、力強く熱弁する。

『おまえたちの青春、見せてもらったぜ。俺たちリトルバスターズの名を継承するに相応しい、実に――』
「じゃあ、なんですか? あなたは私たちが野球を始めたから、つい嬉しくなって出てきちゃったと?」
『よせよ、照れるじゃねぇか』
「ええい、別に褒めとらんわーっ!」

 幽霊にツッコミを入れるトーニャだった。
 そういやこいつは真人の親友でもあったんだな、とプッチャンは恭介に妙な親近感を覚え始める。
 同じ神宮司の力に翻弄される身の上でもある……が、もしかしたら彼は、望んでこの世に留まっているのかもしれない。
 野球観戦ではない、別の理由を持って。

「歓談もこのへんにして、そろそろ本音を話してもらえないかな?」

 切り出したのは那岐だった。
 恭介にはまだ、内に秘めている想いがある。
 そう察しての言葉が静寂を生み、恭介に発言を促す。

『……そうだな。退場済みの俺なんかのために、そこまで時間を割かせるのも悪い。とっとと言いたいこと言わせてもらおうか』

 全員の視線が、恭介に集中する。
 改めて見れば、淡く儚い、今にも消えてしまいそうなほど希薄な姿が映る。
 神宮司の力に見入られ、己の使命を自覚して魂の残留を決意した、自分と同じ存在。

『必ず、生きて帰ってくれ』

 真剣な相貌のまま、恭介は短く言った。
 プッチャンは彼の言霊を、他のみんなとはまた違った想いで胸に刻む。

『この島は不思議なもんでな。ここで死んでいった奴らの、いろんな想いが残滓みたいになって残ってるんだ。
 想いの力……っていったか? たぶんそんなもんなんだろうが、こんな体になっちまったせいか、俺にはそれがよく見える』

 それはきっと、他者とは異なる視点を手に入れた、恭介だけに見えるものなのだろう。
 まだ己の命を失っていない者たちは、親身になって恭介の話を聞いた。

『その残滓がな、りのの言葉を受け取ったせいか、より一層輝きを増して言ってるのさ。
 もうこんなことは終わりにしよう。もう誰が殺す姿も、殺される姿も、見たくはないってな』

 あの子供っぽい訴えは、多くの人たちの胸に届いたのだという。
 事実、あれから何人かの犠牲者は出したものの、殺し合いは中断された。
 今は生存者たちが一致団結し、明日を掴み取るために戦う段階まで来ている。
 争いが完全になくなったわけではないが、それはりのが望んだとおりの未来だった。

『これは俺だけじゃない。鈴や理樹、真人や謙吾……おまえたちを想ってる奴らの、純粋な願いだ』

 浅間サクヤの想いを、いのちを分け与えられた桂が受け継ぐ。
 千羽烏月の想いを、桂を守るという決意と合わせ柚明が継ぐ。
 如月双七の想いを、すずの面倒見付きでトーニャが受け継ぐ。
 キャル・ディヴェンスの想いは、玲二以外の者には継げない。
 菊地真の想いを、精一杯生きるという形でやよいが受け継ぐ。
 源千華留のリトルバスターズとしての想いは、等しく胸の中に。
 蘭堂りのが伝えたかった想いに、みんがみんな、便乗して。

『――絶対に、生きて帰ってくれ』

 九人の生者たちが、死者の願いを心に刻み付ける。
 誰一人、その懇願を笑ったりはしなかった。

「もとより、そのつもりだ」

 覇気に満ちた声で、アルがそう返した。
 トーニャは軽く笑う。

「というより、わざわざそんなことを言うために? もっとこう、知恵とか策とか裏技とか授けてはくれないんですか?」
『お助けキャラがお望みなら、いつでも俺の名前を呼んでくれ。そのときは全力で駆けつけ、応援に回る』
「助けちゃくれないんかい!」

 おかしなやり取りに、桂や柚明も釣られて笑う。
 視線を相棒へと向けてやれば、やよいの表情にも笑みが綻んでいた。

(……ああ。誰に背中を押されるまでもねぇ。やよいは……こいつらはみんな、生きて元の世界に戻してやるさ)

 死者は儀式の退場者ではあっても、その想いはまだ、魂と共にこの地に残っている。
 それは、想いの力を巡り争う星詠みの舞では、とても大きな意味があるのだろう。
 無碍にもできない。忘れることもできない。想いは等しく、共有するべきもの。


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