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  • 討九郎馳走

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討九郎馳走

最終更新:2019年11月01日 04:25

harukaze_lab

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管理者のみ編集可
討九郎馳走
山本周五郎

-------------------------------------------------------
【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)徒士《かち》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)気|溌剌《はつらつ》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)へ[#「へ」に傍点]
-------------------------------------------------------

[#6字下げ]一[#「一」は中見出し]

「しばらく、しばらくお待ち下さい」兼高討九郎はそわそわしながら急に面をあげて云った、「ただいまお達しの御意、いまいちど仰せ聞けられとうございます」
「その必要はない」老職水野主馬は、討九郎がそう云うだろうとかねて期していたようすで、あらぬ方へ眼をやりながら云った、「きたる六月より徒士《かち》組支配を免じ、馳走番仰せつけらる、それだけのことだ、わかったら退ってよろしい」
「それは、その、御上意でこざいますか」
「勿論《もちろん》のことだ」
「もしや人違いではこざいませんか、兼高には与右衛門もおり、玄蕃もおります、わたくしに馳走番のお達しはちと解しかねまするが」
「穏やかならぬぞ兼高」主馬は屹《きっ》とふり向いた、「お上の御意を不服だと申すのか」
「もったいない、決してさようなことはございません、決してさような」
「では有難くお受けをするがよい」
「……はあ」
 討九郎は手をあげて額をこすった。陽にやけた逞《たくま》しい額から、横鬢《よこびん》のあたりを手でこすりながら、しばらく太息《といき》をついたり膝《ひざ》をもじもじさせていた。彼がそんなに落着かないようすを見せるのは初めてである。よっぽど去就に悩んでいたらしいが、やがて心をきめたとみえて、太い眉をぴくりとさせながら云いだした。
「まことに我儘《わがまま》な申しようではございますが、ご老職もご承知のように、わたくしは無骨者で礼儀作法に疎《うと》く、まことの野人でございまして、とても馳走番などという堅苦しいお役は勤まりかねるかと存じます」
「だからどうだと申すのだ」
「つまりその、あれでございます、その、わたくし如き者には」
「お受けはならぬというのか」
「ひらに、ひらに」討九郎は両手をおろしながら云った、「ご老職の格別のお口添えをもちまして、この儀はご免ねがえますよう、おとりなしのほど、ひらにおねがい申しまする」彼の額には汗が滲《にじ》みだしていた。
「御上意にそむいてもお受けはならぬと申すのだな」
「勤まりかねるお役とわかっているものを、お受け申してあやまちを仕でかしますよりは、初めから辞退するのが至当だと存じます」
 主馬は眉をひそめてじっと討九郎をみつめていたが、やがてしずかに頷《うなず》いた。
「よし、ではそのように言上しよう」
 討九郎は退出した。――ばかなことだと思った。おそらくなにかの間違いだろうとも思った。
 兼高討九郎は五百石の番頭で、徒士組の支配をしている。年はそのとき二十六歳、まだ独身なので、方々からずいぶん縁談があるが耳もかさない。彼はじぶんで云うとおりの無骨者で、野人で、この数年来徒士組に野戦の訓練をさせることに熱中していた。――岡崎は西国諸藩に対する江戸幕府の第一線である、どのようにも武を練って万一の場合に備えなければならない、彼はそういう信念をもっていた。これは決して架空な心配ではなかった。幕府はすでに三代家光の世になっていたが、泰平の礎《いしずえ》はまだ不動のものではない。一例をあげてみると、寛永十一年に家光が上洛したとき、帰りには名古屋城へたち寄ると云いながら、ある事情から遽《にわ》かにそれをとりやめて彦根城へはいったことがある。万端の支度をして待っていた大納言義直はひじょうに怒り、
 ――かようなお扱いをうけては、天下に対して尾州の面目が立たぬ、しょせん城にたてこもって将軍家にひと合戦いどむよりほかはない。
 と決心した。そのときは紀伊の頼宣が強諫《きょうかん》して事なきを得たが、三家ですらひとつ間違うとそういうことになる状態なので、岡崎の位置はまことに重要だったのである。……だから討九郎の野戦訓練は徹底的だった。寒暑晴雨にかかわらず、矢矧《やはぎ》川をはさんで常に武者押しの行われない日はない。そして或いはその先頭に馬を駆り、また采配《さいはい》を手に疾呼《しっこ》する彼の姿を見ないことはなかった。しかもそういうときの彼は精気|溌剌《はつらつ》として、全身が炸裂《さくれつ》する弾丸のようにみえ、その圧力をもって百千の人数を自由自在に動かしていた。
 これが兼高討九郎の本領であった。不愛相で口下手で、性質はどちらかというと粗暴で人づきの悪い方だから、城中の勤めなどあまり評判がよくない。ただ徒士組を指揮して野戦の訓練をするときだけが、もっとも得意でもありその人柄にぴったりしているのだ。……ところで馳走番とはどういう役だろうか。

[#6字下げ]二[#「二」は中見出し]

 岡崎は東海道の主要な駅の一にあたっているので、参覲《さんきん》交代て上下する諸大名がたえず泊るし、尾張、紀伊の両家はじめ幕府重職の宿泊することも多い。それで「作法触れ」「馳走触れ」というものがあった。作法触れというのは町役人の方のつとめで、町の騒音をとりしまり、道を清めたり、水手桶《みずておけ》を出したり盛り砂をしたりするのである。馳走触れというのは、宿泊する大名の格式によって、出迎え見送り、宿所の世話、接待、饗応《きょうおう》などをすることで、おもに町奉行がその衝《しょう》に当っていたけれども、べつに専任の者がいて城中とのあいだを斡旋《あっせん》した。これが馳走番である。ことに尾州家や紀州家が泊るおりには、「おはなし相手」にも出なければならないので、規式作法に精《くわ》しく、まためはしの利く者でなければ勤まらぬ役だった。
 討九郎がなかばは呆《あき》れ、なかばは怒った理由が、これでよくわかるであろう。馳走番と彼とではおよそ縁の遠いはなしである。――なにかの間違いだろう。そう思ったのも無理ではあるまい。しかし老職にはっきりことわったので、彼はそのことについては安心していた。ところがその翌日のことであった。登城しようとしているところへ使者が馬をとばして来て、「お上のお召しです」とつたえた。
「直ぐにおあがり下さい、浄瑠璃郭においであそばします」
「うけたまわった、すぐに伺候つかまつる」
 馳走番のことだなと直感した彼は、叱られたときの答弁を考えながら、馬をとばして登城した。
 浄瑠璃郭というのは岡崎城の東北の隅にある一画で、鉄砲的場がある。討九郎が参入したとき城主水野忠善はそこで射撃の稽古をしているところだった。……忠善はそのとき四十一歳、こがらな肥えた躯《からだ》つきで、鉢のひらいた大きな頭と、へ[#「へ」に傍点]の字なりの口つきに特徴のある、精悍《せいかん》な風貌をしていた。
「もっと寄れ」討九郎が伺候の言上をすると、忠善はふり向きもせず、銃をとって遠い的を狙いながら云った、「……昨日、主馬から申し達した沙汰、辞退をねがい出たそうだな」
「はっ、まことにおそれながら」
「いいわけ無用」
 だあん!銃口が火を吹いた。討九郎にはその爆音が主君の叱咤《しった》の声と思われた。忠善はまだ煙を吐いている銃を侍臣にわたし、弾丸《たま》ごめのしてあるべつの銃を受け取って、ふたたび的を狙いながら云った。
「無骨者で礼儀作法にうといから勤まらぬと申したそうだが、余には余の思うところがあって命ずるのだ、辞退はならんぞ」
「……はっ」討九郎はきっと唇を噛《か》んだ。
「わかったら退ってよし」
 叱られたらこうと、考えて来た答弁を口にするひまもなく、討九郎が平伏する頭上で、だあんッ! とまた銃口から火花がはしった。その二発の銃声は、あきらかに忠善の怒りの表明にちがいない、討九郎は一言もなく退出した。
 その年は参覲出府にあたっていたので、六月にはいるとすぐ忠善は江戸へ去った。討九郎は馳走番になったものの、はじめから軽侮している役目なので、ともするとばかばかしいという気持がさきにたち、心からお役を勤めるという気が出てこなかった。たとえば、馳走番として大名の宿所へ挨拶に出ると、そのまま帰れるときもあるし、留められて盃《さかずき》を貰うおりもある、そういうときにはしぜんとはなし相手をしなければならない、それも興味のある話題でもあればかくべつだが、相手が大名のことだからはなすことはおよそきまっている。
 ――万松寺どの(監物忠善の父、大阪夏の陣に殊功あり)の逸話を聞きたい。
 ――岡崎の槍組は評判であるがどのような調練をするか。
 ――御神君より拝領の兜《かぶと》があると聞くが拝見ねがいたい。
 ――監物どのは岡崎城にいちにんも婦人を置かぬと聞いておるが、事実か、事実なら側近の用に不自由と思われるがどうか。
 ――岡崎はかくべつ武士気質のはげしい処だというが、いったいその岡崎気質とはどのようなものか。
 そういう程度の質問が多い。討九郎はいつも相手にならず、
 ――一向に存じません。
 ――わたくしには相わかりません。
 たいていそんな風に答えて知らん顔をしていた。それも思いきった不愛相さで、まったく馳走番などという感じではない。一緒にゆく町奉行がたまりかねて、いくたびも注意をしたが、――拙者には拙者の勤めかたがござる、これでいけなければお役ご免をねがうより致方がござらぬ。そう云うだけで敢えて改めようとしないばかりか、さあ来いという態度さえ示すのだった。

[#6字下げ]三[#「三」は中見出し]

 夏去り、秋去り、やがて新しい春二月を迎えた。
 討九郎の馳走番はともかくも無事に十月あまり続いた。そのような勤めぶりでたいした過ちも起らなかったことに就いては、彼はその主君忠善にもっと感謝しなくてはならなかったのである。なぜなら、監物忠善はそのころ無双の荒大名として定評があったので、そのような風変りな馳走番が出ても、宿泊する諸侯の方で早合点をして、――また監物のいやがらせであろう、これはうっかり文句をつけると、どんな理屈でやりこめられるかも知れない、触らぬ神に祟《たた》りなし。という程に考え、わざと知らぬ顔で済ませたのである。
 討九郎はむろんそんなことには気がつかなかった。彼にはいつまで経ってもその役目がつまらなくて、じぶんが馬鹿にでもなってしまいそうに思えた。だいいちはげしい野戦訓練できたえて来た五躰のふしぶしが、始終むずむずと疼《うず》くようでやりきれなかったのである。こうして二月のなかばになった一日、彼は老職の部屋へ呼ばれた。いってみるとそこには、家老の拝郷源左衛門と水野主馬とがいた。
「今日は少し相談がある」主馬がまず口を切った、「……これはお上からのお沙汰ではないが、馳走番をしばらく交代して貰いたいと思うのだ、ながくではない、この月いっぱいでよい、役目の表はそのままで休んで呉れぬか」
「むろん、そのあいだは登城に及ぼず、屋敷で勝手にしていてよろしい」と源左衛門が言葉を添えた、「……承知なら今からでも下城してよいぞ」
 まったく予想もしない話だった。厭《いや》で厭でたまらない役目である、本来なら即座に承知するはずなのに、討九郎は黙っていた。黙ってしばらく考えていたが、やがて面をあげると、きっぱりとした口調で拒絶した。
「せっかくの御相談ではございますが、この儀はおことわり申します」
「それはまたなぜだ」
「なにゆえかと申したいのは拙者の方でございます、だいいちお上のお沙汰でなく役目交代とはいかなる仔細《しさい》あってのことでございますか」
 主馬は家老の眼を見た。まさかこう反問されようとは考えていなかったのだ、然し源左衛門はすぐ頷いて、
「そうか、ではその仔細を聞かそう」とかたちを正して云った、「じつは数日うち尾張大納言家が当城下へおはいりになる、本来は五月下旬の御参覲であるが、今年はきゅうに繰上げての御出府だとある、……尾張さまと御当家お上とは、かねてより些《いささ》かゆくたてのあるおあいだがらであるし、またお上の留守城へお迎え申すことゆえ、馳走触れも格別吟味をせねばならぬ、そのほう従来の勤めぶりで、万一にも大納言家の御意にさからう等のことあっては一大事と考え、重役どもあい諮《はか》ったうえ一時お役を交代したらということになったのだ」
 討九郎はようやく老職たちの気持がわかった。大納言義直と水野忠善とは、ずいぶん以前から反目のあいだがらにあった。たとえばあるとき江戸城中において、義直が忠善にむかい、
 ――岡崎は名古屋の押えなりと聞くがまことであるか。
 こう訊《たず》ねた。忠善はその言下に仰せのとおりと答えた。遠慮の無さすぎる返事である。義直はしいて笑いながら、
 ――では余が軍勢を催して攻め寄せたらみごと防戦してみせるか。
 ――仰せまでもなきこと、尾州家に於て西三十三力国の軍勢をかり催し給うとも、岡崎一城にて二十日はくいとめてみせまする。
 そう云って忠善は昂然《こうぜん》と額をあげていた。それからまたある年、忠善はみずから家臣二人をともなって名古屋に潜入し、尾張家の武備を探索し、その城濠《しろぼり》の深浅まで密偵したことがある。そのとき義直に偶然それを発見され、危うく捕縛されかかったが身をもってのがれた。義直はこのときのことを憎み、あのおり忠善を討ちもらしたのはなにより残念なことだ。とのちのちまで口惜しがっていた。
 そういうわけで、尾張家とはむずかしい関係にあったから、主君の留守城でもしまちがいでもあってはと老臣たちが考えたのは無理のないはなしなのである。討九郎はその仔細を了解した。
「よく相わかりました、しかし」と彼は眉をあげて云った、「大納言家だから拙者ではお役が勤まらぬというお考えは些か合点がまいりません、たとえ御三家、御三卿、将軍家が御宿泊あそばしましょうとも、お上より仰せつけられました馳走番は拙者の役目でございます、せっかくのおはなしではございますが、お役交代はおことわり申します」そして彼は屹と口を閉じた。

[#6字下げ]四[#「四」は中見出し]

 討九郎の言句には一歩もゆずらぬ決意があった。そうなるともう説得のしようはない、源左衛門と主馬は交代を断念した、しかしこのたびだけは特にあやまちのないようにと、繰り返し念を押したのである。
 数日のちに尾張家の行列が岡崎へ到着し義直は宿所へはいった。……尾州、紀州の宿泊する際は、城下町はほら貝、鐘、太鼓を禁じられる。町奉行が小頭一人足軽三人をつれて城下はずれまで出迎え、つづいて宿所へ到着の祝儀を述べに出る、そして城中から家老が馳走番をともなって伺候、家老は祝儀を言上して退去し、馳走番が残るのである。
 討九郎が義直の御前へ呼ばれたのは宵の七時ごろだった。義直はそのとき四十八歳、白面の肥えた躯つきで、眦《めじり》の切れあがった双眸《そうぼう》にはげしい光りのある、英毅|濶達《かったつ》な風貌をもっていた。まえにも記したが、将軍家光の仕方が無礼であるといってまさに兵を挙げようとしたことがあるし、寛永十八年にはまた家光の世嗣竹千代(のちの四代家綱)が山王社に詣《もう》ずるに当り、尾、紀、水三家に供奉《ぐぶ》を求めたところ、
 ――大納言の官職にある者が、無官の人に供奉する例を聞かず、もし竹千代どのが将軍家の子であるからというなら、われらは東照神君の子である。いずれにしても供奉はならぬ。こうかたく拒絶した。このとき使者に立ったのは酒井忠勝と松平信綱であったが、それでは竹千代に先だって参詣《さんけい》するということで落着した。
 将軍家に対してさえ斯《こ》ういう人だった。その直情径行の資質が、そのまま相貌にあらわれている。御前へ進んだ討九郎は、ひと眼みてつよい圧迫を感じた。
「馳走役たいぎである、盃をとらすぞ」
「……はっ」
「ゆるす、近う、近う」
 かさねて云われたから、討九郎は膝行《しっこう》して義直の側近くすすんだ。……老臣の宿所はべつであるが、それにしても、そのとき座にいたのは若侍七八名で、重役と思える者はいちにんもみえなかった。
「そのほう兼高と申したな」
「……はっ」彼はしずかに面をあげた。
「矢矧川は当国の要害であると聞くが、水上より河口まで何里ほどであるか」
「はっ、およそ四十二里三十町ございます」
「…………」義直はちょっと口を噤《つぐ》んだ、言下に答えられるとは思わなかったのである、それでしばらく討九郎の顔をみまもっていたが、「では岡崎城の石垣に要した石の総数はどうだ」
「はっ」討九郎はまたたきもせずに、「櫓下《やぐらした》を除きまして総数二万七千八百個ほどの石を以て築いてございます」
「なかなか精しいな、では濠の深さは」
「常の水位一丈三尺と心得ます」
「矢矧川に架けた橋の数はどれほどか」
「八橋、十七渡舟にございます」
 義直はぎろっと眼を光らせながら「兼高、面をあげい」ときめつけるように云った、「いままで申したことは全部でたらめであろう、どうだ」「いかにも」討九郎は平然と、「仰せのとおりみんなでたらめでございます」
 こう答え、平然と義直を見あげていた。あまりに人を食った態度である。義直の眉がぴくっと見えるほどひきつった。
「はじめからでたらめを申すつもりだったのか、それとも存ぜぬゆえ致方なく申したのか」喉元《のどもと》へ白刃をつきつけるような調子だった。
「恐れながら、お訊ねの条々くらいは、岡崎の家人として存ぜぬ者は一人もござりません、もちろんはじめからでたらめを申すつもりにてお答えつかまつったのでございます、それとも、……右ようの儀につき、いちいち真実を言上つかまつるものと思召《おぼしめ》しでございましたか」
 橋、渡舟、城濠の深浅は城郭の機密である。誰がそんなことを本当に云うものか、そういう意味が討九郎の眉宇《びう》にありありとみえた。将軍家光に対してさえむざとはゆずらぬ義直も、討九郎の反問には言句に窮した。
「なかなか申すの」義直はにっと笑いながら、「役目たいぎであった、欣三郎あいてしてとらせろ」そう云って座を立った。

[#6字下げ]五[#「五」は中見出し]

 討九郎はそれから酒をしいられた。酒豪の者をそろえたとみえて、七八人いた若侍たちがいり替りたち替り相手をする。負けてはならぬと思って片はしからひきうけていたが、さすがの彼もついには泥酔し、十二時の刻を聞くころには、もうその座にいたたまれなくなった。
「もはや一滴もなりません、明日のお役がございますからこれにて」
 止められるのを振り切るように、よろよろと討九郎は立ちあがった。待っていた家士たちに、左右から支えられながら外へ出ると、更けた街すじは昼をあざむく月夜だった。主従四人はおのれたちの影を踏みながら、ひっそりと寝しずまった街を半町あまり黙って歩いたが、ふと討九郎が歩をとめて、
「弥五郎、松之丞、寄れ」
 と低く呼んだ。そして二人を近くまねいて口早になにごとか囁《ささや》いた。
「は、心得ました」彼らは面をひきしめた。
「すぐまいれ、ぬかるな」
 二人は袴《はかま》の股立《ももだち》をとりながら、町家の軒先づたいに、いま来たほうへ走っていった。屋敷へ帰った討九郎は、着物も脱がず、居間へはいって仰反《あおのけ》に倒れるとそのまま鼾声《かんせい》たかく寝こんでしまった。叩きのめされたように、ぐっすりと眠った。明けがたになって、焼けつくような喉の渇きに眼がさめ、枕許《まくらもと》の水を飲んでいると、庭の方で松之丞の声がした。……討九郎は起きあがって廊下へ出た。まだ酔いがさめていないので、ひどく足がふらついた。
「松之丞か」暗い庭の向うへ呼びかけると、霜ばしらを踏み砕きながら松之丞が走って来た。
「どうだ、なにも変りはなかったか」
「は、唯今まで見張っておりましたが、なにごともございませんでした」
「弥五郎はどうした」
「もう戻るころだと存じます」
「一緒ではなかったのか」
「は、念のため老臣がたの宿所を見てまいると申しまして」
 云いかけて松之丞はふりかえった。討九郎も裏門の方へ眼をやった。誰か走って来る跫音《あしおと》がしたのである。それは貝塚弥五郎だった。黙って縁先まで走って来た彼は、そこに主人の姿をみいだすと息を喘《あえ》がせながら、
「申上げます、老臣がたの宿所裏手より、騎馬にていちにん出た者がございます」
「いずれへまいった」
「外濠に沿って、まっすぐ矢矧川の方へ駆ってまいりました」
 討九郎の酔眼がきらりと光った。彼は屹と暁天をねめあげたが、
「よし! 松之丞、馬|曳《ひ》け」
 そう云って大剣をとりに戻った。弥五郎を供に馬をとばして屋敷を出た討九郎はまっすぐに矢矧川の堤へ出ると、ほのぼのと白明のうごきはじめた河畔をすかし見ながら、馬足をゆるめて川上の方へうたせていった。こうしておよそ十二三町ほどのぼったとき、「あっ」と弥五郎が低く叫びながら、手をあげて川の上を指さした、「渡っております」
 二人のいるところから更に半町ほど上に当って、いましも馬で川を渡して来る者の姿が見えた。討九郎はただちに馬を下りて弥五郎に預け、
「堤の下に隠れておれ、出るな」と云って走りだした。
 よほど馬術にすぐれた者とみえる。水上の方で四五日豪雨がつづき、川は水嵩《みずかさ》も増し流れも常よりはげしくなっている。その流れを巧みに乗り切って、疲れたようすもなく浅瀬へとあがって来た。……もちろん此方から渡って、また渡し戻したものに違いない。岸へ乗りつけると、馬を下りた。そこにはかねて着替えの包が置いてあったのである。
 討九郎は堤を駆け下りながら、
「何者だ」と叫んだ。不意をつかれて、相手は愕然《がくぜん》と身をひらき、いま脱ったばかりの大剣を拾った。討九郎はその面前へつめ寄りながら、「貴公いまこの川の瀬ぶみをしたな」
「…………」相手はとびだしそうな眼でこちらを見た。
「何者だ、名乗れ」
「せ、瀬ぶみではない」相手は舌の硬ばった声で叫んだ、「拙者は尾張家の家臣だ、水馬の稽古をしにまいったのだ、誰のさしずでもない、おのれのための馬術の稽古をしていたのだ」
「それにしては場所が悪いぞ」討九郎はそう云いながら大剣を抜いた、「矢矧川は岡崎の要害だ、いや江戸幕府を護る要害なのだ、その瀬ぶみをしたからは、たとえそれが大納言家の申付けだとしても生かしては置けぬ、抜け!」
 相手ものがれぬ場合と覚悟していたらしい、討九郎が「抜け!」と叫ぶより疾《はや》く、いきなり真向から抜き打ちをしかけた。……凍てる明けがたのしじまを破って、劈《つんざ》くような絶叫がとび、灰色の空に剣光がはしった。しかしそれは一|刹那《せつな》のことで討九郎の剣が大きく一|閃《せん》したとみると、相手は悲鳴をあげながら横ざまに川の浅瀬へ転倒した。討九郎は大股《おおまた》に近寄り、差添を抜きながら、ぐっと相手の濡れた衿《えり》がみを取った。

[#6字下げ]六[#「六」は中見出し]

 大納言義直の行列が宿所を発したのは、その翌朝の八時であった。……家老、町奉行らは連尺町まで見送りに出たが、討九郎の姿はみえなかった。かくて行列は城下町をぬけ、畷道《なわてみち》にかかったが、どうしたことかふいに乗物がとまってしまった。
「どうしたのだ」
 義直の声で使番が走って行った、彼はすぐに戻って来た。
「申上げます、お供先の路傍に梟首《さらしくび》がございますので、とりのぞくよう掛け合っております、いましばらく」
「……梟首だと?」
 義直の顔色が変った。するとそこへ供頭がはせつけて来た。
「申上げます」
「なんだ」義直は身をのりだした。
「お行列みちすじに梟首がございますので、とりのぞくよう厳重に申し談じましたるところ、岡崎家臣兼高討九郎なる者まかり出で、大法を犯したる曲者の梟首なればとりのぞくことかなわず、たって所望なれば押し破って通られよと申し、鉄砲三十挺火繩をかけて動きませぬ、いかがつかまつりましょうや」
「兼高、兼高と申したか」義直は唇を噛んだが、「よい、そのままやれ」そして行列は動きだした。
 畷道に高く梟首をかけ、徒士組三十人に鉄砲を持たせて、二人の番頭が警護していた。一人は川越無右衛門、一人は兼高討九郎、かけた首はいうまでもなく矢矧川の瀬ぶみをした尾州家の家臣のものである。……しずかに行列がそこへさしかかったとき、義直は乗物を停めさせた。そしてぐっと身をのりだしながら、高くかかげた梟首と、平伏している警護の者たちを見やった。
「……兼高、面をあげい」はげしい声だった、「そこにあるのは、いかなる罪を犯した者の首か、また、どうして余の通行にさきだって梟《か》けたのだ、仔細聞こう」
「恐れながらお直に申上げます」討九郎もぐっと面をあげた、「これなる者は今早朝、矢矧川を馬にて瀬ぶみつかまつりました、申すまでもなく矢矧川は岡崎の要害、これなくして岡崎の護りはございません、これを瀬ぶみされ平地の如く相成りましては、岡崎一城あって甲斐《かい》なき仕儀となります、依ってすなわち討ち止め、要害をさぐる大罪人としてこれに梟首つかまつりました、……また、大納言さま御みちすじにかけました仔細は」と云いさして討九郎はきっと義直を睨《み》た、「この者みずから、恐れおおくも尾州さま御家中なりと名乗りました、進退窮しての痴言《たわごと》とは存じましたが、万一にも事実なれば天下の大事ゆえ、無礼をもかえりみずこれに梟し、恐れながら御尊眼をけがしましてございます、……この首級まこと御家臣にござりましょうや否や、篤と御尊鑑をねがいまする」
 膝づめにのっぴきさせぬ言句だった。うしろには川越無右衛門はじめ、徒士組三十人が鉄砲を構え、すわといえば切って放たんず意気ごみである。……理非は明白だ、これ以上なにかするとすればそれは合戦である。義直はつきあげてくる忿怒《いかり》をけんめいに抑えながら、
「……見知りはない」とひと言、「乗物やれ」そう云って顔をそむけてしまった。
 大納言義直は斯うして岡崎を去ったが、そのあとで仔細を聞いた老臣たちは驚き、すぐ討九郎に謹慎を命じたうえ、江戸表へ急使をもってこれを報告した。監物忠善からは折返し使者が来た。老臣たちへはなんと云う口上だかわからない。討九郎へは墨付だった。それには次のような意味が書いてあった。
[#ここから3字下げ]
申し遣わすこと、そのほうに馳走番を命じたる仔細、いまこそ合点まいりたるべし。よき仕方なり褒めとらす。余が帰国までその心得おこたるべからず。
[#ここで字下げ終わり]
 討九郎ははっと眼がさめたように思った。じぶんを馳走番にえらんだ主君の真意がいまはじめてわかったのである。だあん! いつか鉄砲的場で、頭上に炸裂した主君の鉄砲の音が、まざまざと耳底によみがえってきた。彼は墨付を押し戴きながら「……殿」と云って平伏した。



底本:「山本周五郎全集第十九巻 蕭々十三年・水戸梅譜」新潮社
   1983(昭和58)年10月25日 発行
底本の親本:「内蔵允留守」成武堂刊
   1942(昭和17)年3月
初出:「内蔵允留守」成武堂刊
   1942(昭和17)年3月
入力:特定非営利活動法人はるかぜ

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