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  • 流星妖怪自動車

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流星妖怪自動車

最終更新:2019年12月29日 04:52

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流星妖怪自動車
山本周五郎


【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)暖《あたたか》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)度|家《うち》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定]
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号またはUnicode、底本のページと行数)
(例)※[#感嘆符二つ、1-8-75]


[#3字下げ]第一の事件[#「第一の事件」は中見出し]

 三月初めの、とある夜のことであった。暖《あたたか》い伊豆《いず》ではもう桜も散りはじめていた。
 午後から降りはじめた雨が宵になっても止《や》まず、風のない静かな夜を、音もなく霧のように降りこめていた。午後八時を少し廻った頃、下田の自動車会社の車庫へ、熱海《あたみ》まで客を送って行った車が帰って来ると、中から若い運転手の橋島《はしじま》が蒼白《あおじろ》い顔をして合宿所へとび込んで来た。丁度|家《うち》へ帰ろうとしていた友達の大井千之助《おおいせんのすけ》が、
「やあお疲れさん」
 声をかけて振返ったが、橋島の蒼白い顔を見てびっくりして問いかけた。
「どうしたんだ、ひどく顔色が悪いぜ、何か事故でもあったのかい」
「事故どころじゃあないんだ、幽霊を見ちゃった!」
「なんだって――?」
 橋島のひと言はみんなを恟《ぎょっ》とさせた。顔色から見たって冗談を云《い》っているとは思えない、其処《そこ》にいた五六人の仲間は、思わず椅子《いす》から立って橋島の方へ集って来た。
「どうしたって? 幽霊だって?」
 橋島はまだ恐ろしさの消えぬ眼で、うしろを見返りながら話しだした。
「熱海を出たのが六時十分だった。絹糸のような雨がけぶっているので、速力を弛《ゆる》めながら帰る途中、――稲取《いなとり》と河津《かわづ》のあいだにある七曲《ななまが》りまで来たんだ」
 七曲りとは、断崖《だんがい》伝いの危険な道で、左は二十五|米《メートル》あまりの切岸《きりぎし》が海に臨み、右手は高い崖《がけ》になっている。そのうえ道はうねうねと曲っているので、往来《ゆきき》の自動車には最も注意を要する場所であった。
「四つめの曲《カーブ》をきった時だった」
 と橋島は話し続けた。
「曲《カーブ》したとたんに、向うからも一台の自動車がやって来るのに気がついた。前燈《ヘッドライト》が二つ、まるで真正面《まっしょうめん》にさっ[#「さっ」に傍点]と光ったんだ、危い! と思って僕は制動機《ブレーキ》をかけた……」
「――うん」
「すると……君――」
 橋島は唾《つば》をのんだ。
「すると、向うの自動車は、すーと海の方へ曲って、そのまま消えてしまったんだ」
「消えた――?」
「そうなんだ、二つの前燈《ヘッドライト》がぐうっと海の方へ向かったと思うと、それっきりなんだ……海へ墜《お》ちれば水音がする筈《はず》だ――、僕は驚いて車を停め、崖っぷちへ行ってみたが、その辺《あたり》には車の跡さえないのだ」
 みんな思わず身顫《みぶる》いした。――雨の中を走って来た自動車が海の方へ曲ったまま消えたという。然《しか》も後には轍《わだち》の跡さえなかったと――そんな事が有り得るだろうか? 怖《おそ》れと疑いと相半《あいなかば》した感じで、みんな暫《しばら》くは陰欝《いんうつ》な雨の音を聴くばかりだった。
 その時、合宿所の表に一台の自動車が停まったと思うと、一人の警官がとび込んで来て、
「おい君、済まんが鉄綱《ワイヤー》を用意して車を一台持って来てくれんか」
 と叫んだ。――言下に橋島と大井が、
「畏《かしこま》りました、何か事故ですか」
「うん、七曲りの窪地《くぼち》へ自動車が墜落しているんだ、怪我人《けがにん》もあるらしいので急がなければならん、早く頼むぞ」
 そう云って警官は出て行った。
 今の今、橋島の話していた七曲りで、「自動車が墜ち、怪我人があった」と云う。もしや――それが橋島の見た幽霊自動車ではあるまいか?
「おい行こう」
 大井が元気に橋島の肩を叩いた。
「行ってみれば分るよ、自動車を牽《ひ》くんじゃあ五番の鉄綱《ワイヤー》が三本あれば宜《い》いだろう」
 用意は出来た。そして橋島と大井の二人は自動車で、警官達の車の後を追って出掛けた。
 現場へ着いたのは五十分ばかり後のことだった。其所《そこ》は橋島が、奇怪な自動車に会った場所から二十|米突《メートル》ほど先で、二人が行った時は、既に警官たちが窪地に集って、なかば壊れた車の中から、二人の重傷者を助けだしたところである。
「二人とも生命《いのち》は思束《おぼつか》ないですな」
 医者は診察するまでもないと云ったように呟《つぶや》いた。そのとき満島は近寄って覗《のぞ》きこんだが、
「や……園田《そのだ》じゃないか」
 と叫んだ。

[#3字下げ]妖《あや》しき盗賊?[#「妖しき盗賊?」は中見出し]

「君この男を知っているのか」
 警官が訊《き》いた。
「知っています、此方《こっち》は下田《しもだ》自動車の運転手で園田と云う僕の知人、其方《そっち》にいる紳士は駿相《すんそう》銀行下田支店の八重垣《やえがき》さんです」
「おや、気がついたらしいぞ」
 注射をしようとしていた医者が云った。警官が急いで跼《かが》むと、八重垣氏が、恐ろしそうに四辺《あたり》を見廻しながら、
「――早く、早く」
 とかすれ声で叫んだ。
「彼奴《あいつ》を捉《とら》えて下さい。あの鞄《かばん》を取返して下さい。あの中には五万円入っているのです、早く、早く……」
「鞄ですって? どうしたんです」
「本店へ輸送する金です、ああっ、彼奴《あいつ》、畜生! 早く捉えて下さい」
 本店へ輸送する金五万円、鞄に入れてあったのを強奪されたと云うのである。警官たちは、それッ! とばかりに八方へ手分けをした。
 残った人達は、重傷を負っている園田運転手と八重垣氏を病院へ運んで行ったが、その途中で二人とも遂《つい》に絶命してしまった。橋島と大井千之助は、二時間ほどかかって壊れた自動車をひきあげ、ようやく霽《は》れかかる微雨のなかを車庫へ帰って来た。
 明《あく》る日の新聞は、この奇怪な盗難事件の記事でいっぱいだった。その要点をしるすと、
 一、駿相銀行で締切勘定の後、現金五万円を本店へ送るべく、出納係の八重垣|三造《さんぞう》が鞄へ入れて出た。
 一、車は銀行へ古くから出入りの下田自動車店のもので、運転手は実直な青年である。
 一、銀行を出たのが午後八時十分。
 一、河津町を距《さ》る一|粁《キロ》の窪地で、自動車は墜落破壊し、現金五万円入りの鞄が何者かに盗み去られた。
 一、附近一帯の大捜査をしたるも犯人の足跡は不明である。
 一、運転手園田と八重垣は、車の墜落した時重傷を負って一時間後に死亡した。
「お帰りなさい兄さん」
 大井千之助が家へ帰って来ると、弟の晋吉《しんきち》が新聞を投出して振返った。
「昨夜《ゆうべ》は大変な事件でしたね」
「うん、到頭《とうとう》いま迄《まで》かかっちゃった」
「事件はいま新聞で読みましたよ。だけど僕には分らないところがあるんです」
 晋吉は利巧そうな眼を輝かしながら、
「園田さんは腕利《うでき》きの運転手でしょう?」
「そうだ、下田街道で園田と僕と二人は、どんな危険な場所を運転させても安心だと云われていたよ」
「それほどの腕をもっているのに、どうしてあんな失敗をしたんでしょう。強盗は車が墜落してから鞄を盗んだのですから、あそこで墜落さえしなければ、盗まれずに済んだ筈でしょう」
「無論さ、走ってる車から盗めるものか」
「そうすると、園田さんがどうして運転を過《あやま》ったかという事が問題ですね」
「そうだ、なにしろ七曲りは危険な道だが、僕達にはすっかり馴《な》れている、いくら雨が降ったからって、園田ほどの者がまさか……」
 と云いかけて、ふと大井は口を噤《つぐ》んだ。
「そう云えばなあー晋吉」
「なんです」
「不思議なことがあるんだ。と云うのは、あの事件のある少し前に橋島君が同じ場所で幽霊自動車に会ったというのだ」
 と千之助は橋島の話をかいつまんで物語った。晋吉は眼を閉じながら聞いていたが、
「変な話ですねえ。いま時幽霊自動車なんてあるかしら」
「橋島君の眼が、どうかしていたのかも知れないが、しかしその直《す》ぐ後であんな事件が起ったところを見ると、まん更眼の誤りとも云えないじゃないか」
「とにかく、兄さんも注意して下さいな」
 晋吉はそう云って立上った。
 事件は少しも発展しなかった。犯人の手掛りは無論のこと五万円入りの鞄の行衛《ゆくえ》も遂に分らずじまいであった。
 ところが、それから五日めの夜、突如として第二の事件が起った。
 その夜七時に下田を出た最終の遊覧自動車が、七曲りの二番めの曲《カーブ》にさしかかると、左手の崖へ衝突してめちゃめちゃに壊れている自動車を発見した。
「あ、事故だ!」
 と急いで運転手が車を停め、破壊した車の側《そば》へ駈《か》けつけてみると一人の外国人が血だらけになって、半分のめり出るような恰好《かっこう》で呻《うな》っていた。

[#3字下げ]第三の事件[#「第三の事件」は中見出し]

「ああ! 私《わし》のダイヤモンド――」
 外国人は瀕死《ひんし》の苦痛を堪えながら、
「私《わし》のダイヤモンドを取返してくれ、早く、あの妖怪《ようかい》自動車を捉《つかま》えてくれ」
「――どうしたんですか、妖怪自動車とはなんですか」
「海の方から」
 と外国人は恐ろしそうに海の方を指《ゆびさ》した。
「彼方《あっち》から不意に……妙な自動車が現われた。私《わし》の車の前へ衝突する! と思ったから、私《わし》は思わず左へハンドルをきった、すると向うの車も同じ方へ曲った、そして衝突した、衝突してしまった」
 遊覧自動車の運転手は驚いて四辺《あたり》を見廻したが、そこには外国人の云うような、妙な自動車は無論のこと、猫の仔《こ》一|疋《ぴき》いなかった。
「私《わし》は気絶した。しかし……そのあいだに、誰かが私《わし》の手筐《てさげ》を盗んで行くのを慥《たし》かに見た――あの中には十万|弗《ドル》のダイヤモンドが」
 と云いかけたまま、遂にその外国人は再び気絶してしまった。
 外国人は遊覧自動車で下田病院へ運びこまれた。かなりひどい重傷だが生命には別状がなかった。一方――この知らせを聞くと共に、第二の怪事件として警察は即時に大活動を始めたが、やはり犯人の行衛は分らなかった。
 大井晋吉はこの事件を新聞で読んだ。
「こいつは面白いぞ」
 晋吉は暫く考えてから呟いた。
「この外国人は、自分の車の前へ海の方から不意に自動車が現われたと云う。そして衝突を避けるために左へハンドルをきったら、相手も同じ方向へ曲ったので衝突したと云う――ところが、外国人の車はあんなに甚《ひど》く壊れたのに、相手の車は影も形もない……変だ。実に変だ。しかしそこに面白いところがある」
 晋吉はふと、第一の事件の直前、橋島運転手が遭ったという『幽霊自動車』の話を思いだした。
「これは橋島運転手の話とよく似ている、ただ違っているのは、橋島運転手の時には、幽霊自動車は海の方へ消えてしまったのに、今度は海の方から現われたという点だ」
 しかし、そんな事が有り得るだろうか、海の方と云えば右手は二十五|米《メートル》もある断崖だ、そこからどうして自動車がやって来られるか? そう考えると、外国人が『妖怪自動車』と云ったのも尤《もっと》もな話である。
「すると、本当に幽霊自動車が出たのだろうか? 橋島運転手も外国人も現にはっきり見たと云っている。二人までがそう云う以上は――いや待て、違うぞ、もしそれが本当に妖怪自動車なら、ダイヤモンドを盗むなんてことは出来ない筈じゃないか」
 晋吉は腕組みをして考えこんだ。
 それから更に一週間|経《た》った土曜日のことである。
 毎日のように夕方帰って来た兄の千之助が、夕飯を喰《た》べると再び出掛けようとする。
「何処《どこ》へ行くんですか」
「これから駿相銀行の人を乗せて熱海まで行って来るんだ」
「何の用なんです」
「よく知らないが、土曜日だからまた本店へ現金を送るんだろう」
「厭《いや》だなあ」
「なにが厭さ」
「だって園田さんが殺《や》られたのも駿相銀行の現金を送る途中だったでしょう、また幽霊自動車が出るんじゃないかしら」
「ばか、そう毎《いつ》も幽霊が出て堪《たま》るかい、それに僕は腕に自信があるんだぜ、何が出たってびくともするものじゃないよ」
「とにかく気をつけて行ってらっしゃい」
「大丈夫さ、安心しておいで」
 元気に千之助は出掛けて行った。
 千之助の車が銀行を出たのは午後七時少し過ぎであった。用事はやはり現金を本店へ送るので、出納係りの種原一作《たねはらいっさく》が鞄へ入れた七万円の金を持っていた。
「おい君、このあいだのような事のないように注意してくれ給えよ」
「畏りました、充分注意致します」
 千之助は叮重《ていちょう》に答えた。
 その夜は曇日《くもりび》で、へんに生暖かい風が吹いていた。河津町をぬけると間もなく、道は海沿いの断崖にかかる、やがて七曲りの難所へさしかかった。千之助はぐっと速度《スピード》をおとして、殆《ほとん》ど徐行するように迂回路《うかいろ》を走りつづけた。
「この前の事件はこの辺だったね」
「そうです、この次の曲《カーブ》でした」
「大丈夫だろうな君」
「――大丈夫です」
 千之助の声は遉《さすが》に少し顫えていた。彼は全身の神経を眼に集めて、曲《カーブ》へ来る毎《ごと》にうんと速力をゆるめた。二番の曲《カーブ》も無事だった、三番も四番も――何事もなかった。
「もうあと三つだ、あと三つ曲《カーブ》を越せば、あとは一直線の平坦《へいたん》な道だ」
 そう思いながら大事に大事をとって進んで行った。――そして遂に無事に七曲りを通過《とおりす》ぎることが出来たのである。
「やれやれ、無事に危険区域を過ぎたね、僕あ腋《わき》の下へ汗をかいたよ」
「実は私も冷汗をかきました」
 二人はそう云って明るく笑った。
 七曲りを過ぎれば、道は左へ曲って杉林の中の広い一直線の道になる、二|粁《キロ》も先まで見通しが利くから、いっぱいの速力《スピード》で痛快に走ることが出来るのだ。千之助はぐんと速力《スピード》をだした。と……五百|米突《メートル》ほど走った時であった、四十五|哩《マイル》の速力《スピード》で走っていた車の前方、殆ど十|米突《メートル》ほどの近くへ、突然――全く突然、右手の杉林の中から、二つの前燈《ヘッドライト》を光らせながら一台の自動車が現われた。
「あ――※[#感嘆符二つ、1-8-75]」
 千之助は叫んだ。向うの車は真正面へ、恐ろしい速度で此方《こっち》へ驀進《ばくしん》して来る。危ないッ! 千之助は思わずハンドルを握って、左へ急曲《きゅうカーブ》をきった。あっ[#「あっ」に傍点]と云うまもない、車は左手にあった杉の大木へ、凄《すさま》じい勢《いきおい》で衝突し、がらがらぐわあん! と粉砕した、千之助はそのまま気絶した。

[#3字下げ]奇怪な謎《なぞ》[#「奇怪な謎」は中見出し]

 千之助が病院で意識を恢復《かいふく》したのは、それから三日めの事であった。
 附きっきりで看護をしていた晋吉は、兄が生命を取止めたと知ると嬉《うれ》しさに泣き笑いをしながら、寝台にすり寄った。千之助は気がつくと何より先きに、
「種原さんはどうした、現金入りの鞄は?」
 と訊いた。
「種原さんも生命《いのち》だけは助かるそうです、しかし鞄は――盗まれました」
「やっぱり……そうか」
 千之助は呻《うめ》くように「あんなに、威張っていながら、己《おれ》も園田君と同じように失敗した、残念だぞ――晋吉」
「兄さん!」
 晋吉は低い声で云った。
「気を落さないでようく僕に話して下さい、いったいどうしてあんな失敗をしたんですか」
「橋島の云ったのは本当だ、幽霊自動車が出た」
「本当に出たんですか」
「あの杉林の中から、己《おれ》の車の真正面《まっしょうめん》へ、恐ろしい速度《スピード》で現われた……」
「眼の誤りではないでしょうね」
「ばかな、運転手ともあるものが、あの二つの前燈《ヘッドライト》を見誤る道理があるか、慥《たしか》に自動車が杉林の中から出て来たんだ」晋吉は頷《うなず》いてそっと寝台から離れた。
 三人までが口を合せたように『幽霊自動車』の現われた事を証言する。そして三回とも多額の現金と宝石を盗まれた。――この奇怪な事件をそも何と見るか、
「宜《よ》し……」
 晋吉は独りで呟いた。
「僕が秘密を探りだしてやる、これには悪漢の奇略《トリック》があるに違いない、問題は――幽霊自動車だ、どこからともなく出て、何処へともなく消えて行く、幽霊自動車の正体をつきとめるんだ、そうすれば悪漢を捕縛することも同時に出来る訳だ、宜《よ》しやってやるぞ」
 そう決心はしたものの、さてこの怪奇な謎を何処からほぐして宜《い》いか、それは晋吉にもまだ見当がつかなかった。
 警察の方でも手を尽して捜索を続けているが、依然として犯人の手掛りはない。晋吉は七曲りへ出掛けて行って、園田の車が遭難した場所や、外国人がやられた場所、また兄が襲われた杉林の道まで、何か犯人の残した証拠はないかと、――非常な熱心さで探査《そうさ》したが、結局なんの収穫もなかった。
「幽霊自動車……妖怪自動車……」
 と唄《うた》のように呟きながら、寝る間も惜しく活動しているうち、日はいつか経って、またしても、駿相銀行から本店へ現金を送る日がやって来た。
 その夕方、晋吉が病院へ見舞に行くと、千之助は待兼《まちか》ねていたように、
「晋吉今日は土曜日だな」
「そうです」
「駿相銀行の現金輸送日だ、また事件があるぞ……」
「今夜は警官が護衛して行くそうです」
「誰が護衛して行ったって駄目さ、相手は幽霊自動車だ、きっとまたやられるに違いないんだ」
「だって警官が附いていれば……」
 と云いかけて、不意に晋吉は沈黙した。
 兄の寝台の頭の方の壁に、姿見くらいの鏡があった。晋吉はその鏡に映る窓外の景色を見ながら話していたのだが、今しも、その鏡の表へ、病院の門を入って来る一台の自動車が映ったのである。
「はてな」
 晋吉は思わず呟いた。
「どうしたんだ、晋吉――」
「そうだ」
 晋吉は大声に叫びながら振返った。
「僕は発見しましたよ、兄さん」
「発見した? 何を」
「幽霊自動車の正体です、どうして今まで気がつかなかったろう、実に簡単な奇略《トリック》だ、到頭《とうとう》僕はみつけたぞ」
 晋吉はまるで躍り上るように叫んだ。
「幽霊自動車、妖怪自動車、それに相違ない、その他に考えようはない、慥《たしか》にそうだ!」
「晋吉、まあ落着けよ」
「落着いてはいられません、もうすぐ現金輸送の車が出発する時刻です。僕はこれから行って幽霊自動車の正体をあばき[#「あばき」に傍点]悪漢共を一網打尽にして兄さんの敵《かたき》を討って来ます。待っていて下さい」
「――晋吉」
 千之助の呼ぶ声を後に、晋吉は勇躍して病室をとび出した。

[#3字下げ]怪事件解決[#「怪事件解決」は中見出し]

 晋吉が駈けつけた時、現金輸送の自動車はまさに出発するところだった。
「待って下さい」
 晋吉は急いで警官を押止めた。
「僕は幽霊自動車の正体を発見しました。これから行ってその正体をあばいてやります。僕を車の助手台へ乗せて下さい!」
「それは本当か」
「見ていて下さい」
 晋吉は確信を以《も》って云いながら、てきぱきと手筈を定《き》めにかかった。
「警官の方は別の自動車で、十人ほど武装して来て下さい、二百|米突《メートル》ほど後から前燈《ヘッドライト》を点《つ》けずに来て頂きます、それから――僕に拳銃《ピストル》を貸してくれませんか、いや、人間を撃ちはしませんから」
 段取りは出来た。
 前の車には現金五万円を携えた銀行員と、運転手の脇《わき》に晋吉が乗った。――後の車には武装警官が十名、凡《およ》そ二百|米突《メートル》ほど後れて続き、いよいよ熱海へ向けて出発した。
 晋吉はそも何をせんとするか? 車は三十|哩《マイル》の速力で四十分後に河津町を通過し、七曲りの険路にかかって来た。
「大丈夫か、晋吉君」
 運転手の持田《もちだ》が不安そうに訊く。晋吉は無言のまま頷く。
 闇夜《やみよ》である、左は崖、右は断崖の海、道はうねうねと曲り曲って続く、妖気は犇々《ひしひし》と迫って、運転手も銀行員も腋の下にじっとりと冷汗を感じた。
「この次の曲《カーブ》が園田の遭難場だぜ」
 持田運転手が囁《ささや》いた。晋吉は拳銃《ピストル》を右手に、身を乗出して前方を窺《うか》がっている――車は前燈《ヘッドライト》で道を照しながら、速力も緩めず突進していた。息詰るような刻々が過ぎる……二番三番の曲《カーブ》は無事に過ぎた。
 四番の曲《カーブ》だ――車は崖に添ってぐいと曲《カーブ》をきる、と……その刹那《せつな》十|米突《メートル》ほど先の闇を劈《つ》いて、突如! 二つの前燈《ヘッドライト》が現われた。
「あ――※[#感嘆符二つ、1-8-75]」
 と見るまに、此方《こっち》の車の真正面へ、猛烈な速度《スピード》で突っかけて来る、危うし※[#感嘆符二つ、1-8-75]
「構わず進め、避《よ》けるなッ」
 晋吉は喚《わめ》きながら、伸上《のびあが》って拳銃《ピストル》を構えるや、相手の車を狙《ねら》って射《う》った。
 ターン! ターン※[#感嘆符二つ、1-8-75]
 とたんに前方で『ガシャン、ガラガラッ』
 と凄じく何かの砕ける音がしたと思うと、忽如《こつじょ》として幽霊自動車の姿は消えた。
「ああ、消えた※[#感嘆符二つ、1-8-75]」
 運転手が呆《あき》れて叫びながら車を止める、同時に晋吉は車からとび出すと、左手の崖の裂目を狙って拳銃《ピストル》を浴びせかけた。
 タン! タンタン※[#感嘆符二つ、1-8-75]
「きゃ――ッ※[#感嘆符二つ、1-8-75]」
 悲鳴が聞えて、何者かが道の上へ転げ落ちて来た。晋吉は大声に、
「動くな! 警官隊が包囲しているぞ、逃げる奴《やつ》は容赦なく射殺するぞ」
 喚きながら再び威嚇《いかく》の射撃をくれた。――そこへ後から来た車が追《おっ》ついた。ばらばらと十名の武装警官が駈けつけて来る。
「どうした」
「自動車強盗の悪漢共をお引渡しします」
 晋吉はそう云って自動車の前燈《ヘッドライト》を崖の裂け目へ向けた。見よ其所《そこ》には四人の怪漢が、両手を高くあげながら慄《ふる》えている。そして道の上にもう一人、血だらけの足を抱えながら呻《うめ》き苦しんでいた。
「捕縛しろ、――反抗したら射《う》て!」
 部長の言葉に、警官達はうむを云わさず五名を捕縛した。部長は振返って、
「それで、幽霊自動車と云うのは何処《どこ》だ?」
「ああ、其処《そこ》に壊れていますよ」
 晋吉はにやにやしながら指さした。――見ると道の上に、大きな鏡の破片が散乱している、みんなは呆れて晋吉の説明を求めるように見返った。
「なあに簡単な奇略《トリック》です。奴等は差掛枠《さしかけわく》に、大きな鏡を取付けて、目的の車が来るとその前へ鏡を向けるのです、――夜ですから、鏡へは進行して来る自動車の前燈《ヘッドライト》が強く映るでしょう、此方《こっち》から見るとそれが丁度向うからも車が来るように見えるんですよ『外国人が、海の方から来た』と云ったのは鏡の向きを変えるところへ自分の前燈《ヘッドライト》が映るのを見たんです――つまり幽霊自動車の正体は、その鏡だったのです」
「おお――」人々は思わず感嘆の声をあげた。
「有難う、お蔭《かげ》で難事件の解決が出来た、このお礼はいずれ署長からもあるでしょうが、とりあえず我々の感謝を受けて頂きます」
「いやそれには及びません」
 晋吉は部長の言葉を抑えた。
「僕はただ兄さんの敵《かたき》が討ちたかったんです、これで兄さんを満足してくれるでしょう」
 そう云って大声に、晴々《はればれ》と笑った。



底本:「周五郎少年文庫 殺人仮装行列 探偵小説集」新潮文庫、新潮社
   2018(平成30)年11月1日発行
底本の親本:「新少年」
   1936(昭和11)年3月号
初出:「新少年」
   1936(昭和11)年3月号
※表題は底本では、「流星|妖怪《ようかい》自動車」となっています。
入力:特定非営利活動法人はるかぜ

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山本周五郎
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