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最終更新:2020年01月10日 15:03

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徳田秋声


【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)去年《きよねん》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)三|人《にん》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号またはUnicode、底本のページと行数)
(例)※[#「怨」の「心」に代えて「皿」、第3水準1-88-72]

/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)いろ/\

濁点付きの二倍の踊り字は「/″\」



 去年《きよねん》の夏《なつ》の末《すゑ》、お美代《みよ》お広《ひろ》の妹姉《けうだい》の家《いへ》で親《した》しくなつた宗匠《そうせう》の高柳《たかやなぎ》から、「明日《あす》の夕刻《ゆふこく》三|人《にん》で行《い》く、宜《よろ》しく」と云《い》ふ電報《でんぽう》を受取《うけと》つたとき、村山《むらやま》はちよつと腹《はら》が立《た》つた。高柳《たかやなぎ》と高柳《たかやなぎ》の持《も》ちもののお広《ひろ》とが二人《ふたり》で来《く》るとか、それにお美代《みよ》がついて来《く》るとか、お美代《みよ》一人《ひとり》ははづれるとか、そんな事《こと》で可《か》なりごたついてゐたことは、しばらく村山《むらやま》のところへ来《き》て遊《あそ》んでゐた甥《おひ》の芳太郎《よしたろう》が帰《かへ》つてから村山《むらやま》が受取《うけと》つた芳太郎《よしたろう》の手紙《てがみ》でも様子《やうす》が能《よ》くわかるのであつた。芳太郎《よしたろう》が其妹婿《そのいもうとむこ》と一|緒《しよ》に来《き》たときですら、女達《をんなたち》が来《く》る来《こ》ないで、手紙《てがみ》が芳太郎《よしたろう》と村山《むらやま》のあひだに、数回往復《すうくわいおうふく》されたほどであつた。孰《いづれ》にしても、村山《むらやま》の方《ほう》では、三|人《にん》となると泊《と》めるのに困難《こんなん》であつた。女二人《をんなふたり》なら気楽《きらく》に東京見物《とうけうけんぶつ》をさせうるだけの自信《じしん》が、村山《むらやま》にあつた。彼《かれ》はそのやうに妻《つま》の諒解《れうかい》を得《え》ておいたのである。そして結局《けつきよく》は高柳宗匠《たかやなぎそうせう》とお広《ひろ》とが団体《だんたい》で東京附近《とうけうふきん》の見物《けんぶつ》に来《く》るので、お美代《みよ》は又《ま》た秋《あき》にすると言《い》つて芳太郎《よしたろう》から手紙《てがみ》が来《き》たけれど、内気《うちき》なお美代《みよ》が遠慮《えんりよ》してゐることが、村山《むらやま》には解《わか》りきつてゐた。彼《かれ》は折角《せつかく》思《おも》ひ立《た》つたお美代《みよ》を東京《とうけう》に迎《むか》へることのできないのが、物足《ものた》りなかつた。そこで彼《かれ》はまた折返《をりか》へし手紙《てがみ》を書《か》いて、お広《ひろ》が宗匠《そうせう》と方々《ほう/″\》あるいてゐるあひだ、家《うち》に泊《とま》つてゐて、団体《だんたい》の時日《じじつ》の都合《つごう》で、宗匠《そうせう》が帰《かへ》つてから、お広《ひろ》と二人《ふたり》で遊《あそ》んだら可《い》いだらうと、決定的《けつていてき》に言《い》つてやつたのであつた。
「……どつちにしても三|人《にん》は都合《つごう》がわるいから。」村山《むらやま》はその手紙《てがみ》でも念《ねん》を押《お》しておいた。
 ところが宗匠自身《そうせうじしん》が「よろしく」と打電《だでん》して来《き》たので、村山《むらやま》は自分《じぶん》の思《おも》ひどほりにならないことを牾《もど》かしく感《かん》じた。
「宗匠《そうせう》も来《く》るさうだよ。どうか都合《つごう》つくだらうか。」村山《むらやま》は茶《ちや》の室《ま》にゐる妻《つま》のお加奈《かな》に一|応《おう》当《あた》つて見《み》た。
 不仕合《ふしあは》せなことには、お加奈《かな》の機嫌《きげん》が昨日《きのふ》から遽《には》かに悪《わる》くなつてゐた。村山《むらやま》が昨年《さくねん》遣《や》りちらした貧弱《ひんじやく》な庭《には》を、いくらか気分《きぶん》の落着《おちつ》く程度《ていど》に弄《いぢ》り直《なほ》さうと思《おも》つて、少《すご》し高《たか》い木《き》などを約束《やくそく》して来《き》たことが、原因《げんいん》であつた。さうでなくとも彼《かれ》は自身《じしん》で可《か》なり気《き》がひけてゐたところへ、お加奈《かな》の文句《もんく》が出《で》たので、傷《きず》に触《さ》はられたやうに感《かん》じてつひ怒り出してしまつた。彼はそんな事を好《よ》い気《き》になつて遣《や》つてゐるのではなかつた。しかし弄《いぢ》りだした庭《には》は、弄《いぢ》れば弄《いぢ》るほど拙《まづ》くなるばかりであつた。彼《かれ》は毎日《まいにち》見《み》てゐるのが気持《きもち》がわるかつた。一|切《さい》を払拭《ふつしき》してしまひたかつた。お加奈《かな》もやるなら、一|層《そう》思《おも》ひきつてやつた方《ほう》が好《よ》いやうな気《き》もしてゐたが、村山《むらやま》が何《なに》も彼《か》も放擲《ほうてき》して夢中《むちう》になるのが、傍《はた》から見《み》ると狂気《けうき》じみてみえた。
「家《うち》がこんなに汚《きたな》いのに、極《きま》りがわるいぢやありませんか。それも何《なに》か身《み》につくものなら格別《かくべつ》ですけれど。」
「そんなものは何《なん》にも欲《ほ》しいとは思《おも》はない。」
 さうは言《い》つても、村山《むらやま》も愁《なまじ》つか手《て》をつけたところで、思《おも》ひどほりに行《い》くか何《ど》うかは解《わか》らなかつたし、色々《いろ/\》の点《てん》で不満《ふまん》のある居所《きよしよ》なので、何《ど》んなことで此処《ここ》にゐるのが厭《いや》になるかも知《し》れないと思《おも》つた。小《ちひ》さな趣味《しゆみ》に囚《とら》へられて、彼此《かれこれ》と小細工《こざいく》を施《ほどこ》すよりも、一|層《そう》周囲《しうゐ》の広々《ひろ/″\》した郊外《こうぐわい》へでも行《い》つて、思《おも》ふさま野生《やせい》の木《き》を植《う》ゑて、せい/\した森《もり》のなかに住《すま》つてゐたいやうにも感《かん》じた。けれどさうするには又《ま》た余分《よぶん》な労力《ろうりよく》と時間《じかん》とを費《つひ》やさなければならなかつた。因襲《いんしう》を打破《だは》すると云《い》ふことだけでも、彼《かれ》の生活《せいくわつ》に取《と》つては、容易《ようい》なことではなかつた。行《い》つた先《さ》きに安定《あんてい》しうるか何《ど》うかも疑《うたが》はしかつた。寧《むし》ろ因襲《いんしう》に余儀《よぎ》なくされてゐる方《ほう》が、却《かへ》つて自由《じゆう》のやうな気《き》もするのであつた。些細《ささい》な木《き》とか石《いし》とかいふものも、いくらか彼《かれ》を宿命《しゆくめい》づけてくれる因縁《いんねん》とならないとも限《かぎ》らないのであつた。
 彼《かれ》は乱《みだ》された頭脳《づのう》を静《しづ》めようと思《おも》つて、やがてふらりと家《いへ》を出《で》てしまつた。
 彼《かれ》は町《まち》をふら/\歩《ある》いてゐた。何処《どこ》へ行《い》くと云《い》ふ当《あ》てもなかつたけれど、目的《もくてき》なしに歩《ある》く癖《くせ》を彼《かれ》は元《もと》から持《も》つてゐた。少《すこ》し遠《とほ》くへ出《で》るつもりで、その用意《ようい》もして来《き》たのであつたが、それも臆劫《おくくう》であつた。今夜《こんや》着《つ》く筈《はず》のお美代《みよ》やお広《ひろ》を突《つゝ》ぱづしてしまふのも悪《わる》いと思《おも》つた。彼《かれ》は為方《しかた》なし古本屋《ふるほんや》の店頭《みせさき》を覗《のぞ》いてみた。兼々《かね/″\》読《よ》みたく思《おも》つてゐた本《ほん》があるかと思《おも》つて、目《め》を配《くば》つてみたが見当《みあた》らなかつた。震災後《しんさいご》掻集《かきあつ》めたやうな埃々《ごみ/\》したものばかりであつた。彼《かれ》は手当《てあた》り次第《しだい》表紙《へうし》をまくつて見《み》た。俳句《はいく》の大《おほ》きな短冊帳《たんざくてう》などを、一|枚《まい》々々《/\》めくつて見《み》てゐた。名《な》の知《し》れた人《ひと》は一《ひと》つも見当《みあた》らなかつたけれど、しかし字《じ》はみな善《よ》く書《か》いてあつた。俳句《はいく》にも好《よ》いものがあつた。村山《むらやま》はそれを閉《と》ぢてしまふと、今度《こんど》は書簡《しよかん》を綴《つゞ》り貼《は》つた大《おほ》きな帖《でふ》を引寄《ひきよ》せて見《み》た。新古《しんこ》色々《いろ/\》のものが、それに貼《は》られてあつた。伊藤博文《いとうはくぶん》や、大山《おほやま》や、鉄斎《てつさい》や良寛《れうくわん》の弟子《でし》や、子規《しき》などのものが目《め》についた。
「これは幾許《いくら》です。」彼《かれ》は子規《しき》のちよつとした短《みじ》かい手紙《てがみ》の価《ね》をきいて見《み》た。
「それは二十五|円《えん》でございます。子規《しき》さんのものも当節《とうせつ》はなか/\少《すく》なうございまして。」細君《さいくん》が答《こた》へた。
「さうですかね。」
「永代倉《えいたいぐら》がございますが……。」神《かみ》さんは暫《しば》らくするとさう言《い》つて、永代倉《えいたいぐら》の綺麗《きれい》な本《ほん》を二|冊《さつ》出《だ》して見《み》せた。大阪版《おほさかばん》であつた。
「成程《なるほど》。」
「これも以前《いぜん》は時々《とき/″\》出《で》ましてすけれど、震災後《しんさいご》は珍《めづ》らしございまして、昨日《きのふ》手《て》にいれたばかりでございますよ。」
「さうですかね。」村山《むらやま》はさう言《い》つて絵《ゑ》なんか見《み》てゐた。
「高《たか》いんですか。」
「さいですね。四十|円《えん》くらゐはするさうで。」
「さうですかね。」
 彼《かれ》は別《べつ》に欲《ほ》しいとも思《おも》はなかつた。四十|円《えん》あれば、相当《そうとう》な木《き》が一|本《ぽん》買《か》へると思《おも》つたくらゐであつた。
 彼《かれ》は無気味《ぶきみ》に手《て》についた埃《ほこり》を紙《かみ》で拭《ふ》きながら、そこを辞《じ》した。外《そと》は何《なん》だか変《へん》な陽気《やうき》であつた。夏《なつ》とも秋《あき》ともつかないやうな慵《もの》うさであつた。彼《かれ》はさういふ時《とき》訪《たづ》ねるのに適当《てきとう》した人《ひと》を物色《ぶつしよく》しながら、切通《きりどほ》しの方《ほう》へぶらついた。そして暫《しば》らく顔《かほ》を見《み》ない野瀬《のせ》を思《おも》ひ出《だ》した。
 野瀬《のせ》の店頭《みせさき》には、相変《あひかは》らず好《い》い加減《かげん》な古物《こぶつ》が並《なら》んでゐた。いくらか景気《けいき》が好《よ》いのか知《し》らと、彼《かれ》はシヨウウヰンドウにある水石《みづいし》や、河鹿《かじか》などを覗《のぞ》いた果《はて》に、硝子戸《ガラスど》を開《あ》けて奥《おく》へ声《こゑ》かけた。若《わか》い細君《さいくん》が出《で》て来《き》た。
「ゐないんですか。」
「をります。ちよつと呼《よ》んでまゐります。」
 さう言《い》つてゐるうちに、野瀬《のせ》が向《むか》ふ横町《よこてう》から出《で》て来《き》て、店頭《みせさき》にゐる村山《むらやま》の顔《かほ》を見《み》ると、にや/\しながら寄《よ》つて来《き》た。
「どうも御無沙汰《ごぶさた》で……」
「景気《けいき》は何《ど》うですか。」
 村山《むらやま》はさう言《い》つて店《みせ》へ上《あが》つて、上《うへ》と下《した》とへ目《め》を配《くば》つた。上《うへ》には額《がく》や懸軸《かけじく》があり、下《した》には茶器《ちやき》の箱《はこ》などかこて/\並《なら》んでゐた。
「何《なん》だか変《へん》な山水《さんすい》があるぢやないか。」
「うむ、これ大聖寺《だいせうじ》の人《ひと》ださうだが、何《ど》ういふ人《ひと》だか御存《ごぞん》じありませんか。」
「知《し》らないな。小顔《せうひん》もあるね。」
「うゝん。」野瀬《のせ》は顔《かほ》を背向《そむ》けた。
「あの壺《つぼ》は。」
「やつぱり土中《どちう》もんです。」
「当《あ》てにならないな。そこに水石《みずいし》があるね。好《い》いの。」
「好《よ》くはないが、まあちよつと。」野瀬《のせ》はさう言《い》つて、苔《こけ》の蒸《む》した石《いし》に小匙《こさじ》で水《みづ》を掬《すく》つてはかけてゐた。水《みづ》の小砂利《こじやり》の上《うへ》を目高《めだか》がすい/\と蓄音器《ちくおんき》の針《はり》のやうな形《かたち》をして泳《およ》いでゐた。
「もつと好《い》いのがある。」
「お見《み》せなさい。」
 野瀬《のせ》は庭《には》の方《ほう》から、錆《さ》びついた鉄《てつ》の水盤《すいばん》に盛《も》られた可《か》なり大《おほ》きい石《いし》を運《はこ》んで来《き》た。そして彼《かれ》は水石《みずいし》について、「……ださうです」といふ調子《てうし》で通《つう》を言《い》つたが、瀬戸《せと》ものほどには解《わか》つてゐないやうであつた。
「庭《には》は何《ど》うしました。」
「壊《こわ》してしまつた。」
「おや/\。」
 それから最近《さいきん》にあつた或《あ》る大華族《だいくわぞく》の売立《うりた》てへ話《はなし》が移《うつ》つて行《い》つた。買《か》ひ取《と》つたものが、数日《すうじつ》のうちに倍《ばい》にも三|倍《ばい》にもなつた話《はなし》などを、野瀬《のせ》が話《はな》して聞《き》かせた。
「面白《おもしろ》い……と言《い》つちや悪《わる》いが、この頃《ごろ》は脳溢血《のういつけつ》がこわくて/\。」野瀬《のせ》はまた話《はな》しだした。
「お国《くに》のお医者《いしや》で高野《たかの》といふ人《ひと》があつたでせう。あの人《ひと》も震災《しんさい》でひどくやられたところへ、婚期《こんき》の娘《むすめ》さんなんかあるので、以前《いぜん》拝領《はいれう》した手函《てばこ》をあのなかへ入《い》れて売《う》つて下《くだ》さいとお願《ねが》ひしたところ、素《もと》より××家《け》の古《ふる》い目録《もくろく》には載《の》つてゐるものだし、売《う》つてやらうといふので、その一品《ひとしな》を加《くは》へたんです。」野瀬《のせ》はさう言《い》つて、売立《うりたて》の目録《もくろく》を引張《ひつぱ》りだして来《き》て、頁《ページ》を繰《く》りながらその手函《てばこ》を示《しめ》しながら、
「本当《ほんとう》ならいくら安《やす》くも一|万《まん》五千|円《えん》くらゐのものだけれど、それでもまあ七千|円《えん》に売《う》れた。自分《じぶん》では買手《かひて》がつかないから、先生《せんせい》も大《おほ》きに悦《よろこ》んで、いくらか気《き》が弛《ゆる》んだものですかね、新聞《しんぶん》で御存《ごぞん》じでせう、取引《とりひ》きのあつた翌日《よくじつ》、不断《ふだん》のとほり患者《くわんじや》を診察《しんさつ》して、それから椅子《いす》にかけたまゝ死《し》んでしまつたんです。何《なん》ともお気《き》の毒《どく》な話《はなし》でね。」
「さうかね。」村山《むらやま》は空返事《そらへんじ》をしてゐたが、その医師《いし》がその頃《ころ》大学《だいがく》にゐた村山《むらやま》の友人達《ゆうじんたち》に色《いろ》々んな点《てん》で便宜《べんぎ》を与《あた》へてくれたことを、彼《かれ》は曾《かつ》て耳《みゝ》にしてゐたし、彼《かれ》の近所《きんじよ》でも徳望《とくぼう》のあつたことも知《し》つてゐた。
「とにかく七千|円《えん》あれば家《いへ》が建《た》ちますからね。」
「さうね。」
「年《とし》だつてまださう取《と》つてゐなかつたんですよ。」
 村山《むらやま》は何《なん》となしに憂鬱《ゆううつ》になつた。野瀬《のせ》はそのあひだ蠅《はへ》を捕《と》つて河鹿《かじか》の籠《かご》のなかへ入《い》れてやつたりした。
「こんな処《ところ》で鳴《な》くかね。」
「鳴《な》くとも。こんなものでも結構《けつこう》時間《じかん》が潰《つぶ》せる。蟻《あり》を弄《いぢ》つて、半日《はんにち》怠屈《たいくつ》を凌《しの》いだことがあつたつけが……先帝陛下《せんていへいか》の御大葬《ごたいそう》の時《とき》さ。日比谷公園《ひびやこうゑん》の外《そと》で待《ま》つてゐるうちに、腹《はら》は減《へ》る、小便《せうべん》は出《で》たくなる。咽喉《のど》は乾《かは》く。為方《しかた》がないからステツキで蟻《あり》の穴《あな》をつゝいて、それで二|時間《じかん》も潰《つぶ》したことがある。」
「さうね、僕《ぼく》も六|時《じ》何《なん》十|分《ぷん》かに人《ひと》を迎《むか》へに上野《うへの》へ行《ゆ》くんだが、
もう何時《なんじ》かな。」
「六時半《じはん》に。それぢや未《ま》だ/\。」野瀬《のせ》はさう言《い》つて、俄《には》かに思《おも》ひ出《だ》したやうに、茶※[#「怨」の「心」に代えて「皿」、第3水準1-88-72]《ちやわん》を一《ひと》つ箱《はこ》から取出《とりだ》した。
「これは好《い》いんですよ。織部《おりべ》です。」
「呉器《ごき》に似《に》てゐるやうだ。」村山《むらやま》はさう言《い》つて、廻《まは》して見《み》てゐたが、好《い》いものを一|時《じ》に沢山《たくさん》見《み》たあとなので、何《なん》だか興味《けうみ》がなかつた。
 村山《むらやま》がごろりと横《よこ》になつたので、野瀬《のせ》は終《しま》ひに竹《たけ》の花生《はない》けの一《ひと》つを棚《たな》から卸《おろ》して来《き》て、粉《こ》をつけて拭《ふ》きはじめた。
「ちよつと好《い》い竹《たけ》だね。」
「こいつ漏《も》るんで、漆《うるし》を塗《ぬ》つたんだけれど。」彼《かれ》はさう言《い》つて、こき/\磨《みが》いてゐた。野瀬《のせ》は色《いろ》々んな芸能《げいのう》と技術《ぎじゆつ》をもつてゐた。お茶《ちや》、長唄《ながうた》、漆《うるし》いぢり、飾《かざ》り屋《や》、それから歯科《しくわ》、一|番《ばん》堂《どう》に入《い》つたのが篆刻《てんこく》であつた。
「さあそろ/\出《で》かけて見《み》よう。」村山《むらやま》はさう言《い》つて、袴《はかま》を掻《か》き合《あは》した。
 村山《むらやま》はさうして話《はな》してゐるうちも、今夜《こんや》の事《こと》が気《き》にかゝつた。何《ど》うせ旨《うま》くは行《い》かないだらうと思《おも》つた。今更《いまさ》ら加奈子《かなこ》と妥協《だけう》するのも業腹《ごうはら》だつた。費用《ひよう》は少《すこ》しかゝつても、とにかく三|人《にん》のために宿《やど》を決《き》めておかうと思《おも》つて、来《く》る途中《とちう》部屋《へや》を極《き》めて来《き》たのであつた。
 仮建築《かりけんちく》のステイシヨンは相変《あひかは》らず震災当時《しんさいとうじ》のやうな気分《きぶん》であつた。村山《むらやま》はその人込《ひとご》みのなかに交《まじ》つて、時《とき》の来《く》るのを待《ま》つてゐたが、お美代《みよ》たちをそこに発見《はつけん》するのに、さう長《なが》くはかゝらなかつた。二|方口《ほうぐち》から出《で》て来《き》た多勢《おほぜい》の乗客《ぜうきやく》が、殆《ほと》んど出払《ではら》つた時分《じぶん》に、彼《かれ》はそこに立《た》つてゐる、先刻《さつき》から彼《かれ》に気《き》のついてゐたらしいお美代《みよ》の涼《すご》しい目《め》とばつたり出会《であ》つてしまつた。汽車《きしや》のなかで直《なほ》したらしい、つや/\した髪《かみ》も彼《かれ》の目《め》をひいた。彼女《かのぢよ》は手《て》に籠底《かごそこ》の更紗《さらさ》の袋《ふくろ》をもつて、そこに立《た》つた。
「お気《き》の毒《どく》な。」
「お広《ひろ》さんは。」さう言《い》つて村山《むらやま》は傍《かたはら》を振《ふり》かへると、そこに小作《こづく》りなお広《ひろ》が、姉《あね》よりもやゝ派手《はで》な姿《すがた》をして、荷物《にもつ》を下《した》におろして立《た》つてゐた。
「私《わたし》は又《ま》た今度《こんど》にしようと思《おも》ひましたけれど。」お美代《みよ》は言《い》つた。
 そこへ高柳宗匠《たかやなぎそうせう》もやつて来《き》た。
「やあ先生《せんせい》。」
「どうも其《そ》の節《せつ》は。」
 簡短《かんたん》な挨拶《あいさつ》を取《と》り交《かは》してゐるうち、村山《むらやま》は彼等《かれら》の照《て》れてくるのを恐《おそ》れて、急《いそ》いで乗物《のりもの》を慨《やと》つた。タキシイのなかで、彼《かれ》は自分《じぶん》の都合《つごう》については、何《なん》にも語《かた》らなかつた。
「とにかく宿《やど》を取《と》つておきましたからね。高柳《たかやなぎ》さんには少《すこ》しお気《き》の毒《どく》のやうな家《うち》なんで。」彼《かれ》は言《い》つた。
 小心《せうしん》なお美代《みよ》は少《すこ》し困惑《こんわく》の色《いう》を眉《まゆ》のあたりに浮《うか》べたが、直《すぐ》に都会《とくわい》の光《ひか》りと人込《ひとご》みとに気《き》をとられて、窓《まど》から目《め》を放《はな》さなかつた。村山《むらやま》はお美代《みよ》を東京《とうけう》のなかに発見《はつけん》することを、夢《ゆめ》のやうに感《かん》じた。
 直《じ》きに宿《やど》へついた。
「こゝなら静《しづ》かだからね。」部屋《へや》におちついてから村山《むらやま》が元気《げんき》づけるやうに言《い》つた。
「ほんたうに静《しづ》かだね。」お美代《みよ》もお広《ひろ》も不思議《ふしぎ》さうに言《い》つた。
 それから夕飯《ゆふはん》を吩咐《いひつ》けたりした。そして宗匠《そうせう》とお広《ひろ》とが前後《ぜんご》して、風呂《ふろ》へ行《い》つてから、お美代《みよ》が今度《こんど》の上京《ぜうけう》について、少《すこ》しごた/\した様子《やうす》を仄《ほの》めかした。
「己《おれ》の言《い》ふとほりにしないんだからな。」
 やがてお美代《みよ》も出《で》て行《い》つた。
 彼等《かれら》は落着《おちつ》きなく食事《しよくじ》をすました。
「いや、家《うち》の方《ほう》も何《ど》うにかならんこともないかと思《おも》ふが、まあ 一|両日《れうじつ》。」
 お美代《みよ》は着《つ》いたときから、先《ま》づお加奈《かな》に挨拶《あいさつ》に行《い》かうと言《い》つてゐた。
「翌朝《よくてう》でもいゝぢやないか。」村山《むらやま》が言《い》つた。
「もう九|時《じ》です。」宗匠《そうせう》は言《い》つた。
「でも悪《わる》いわ、今夜《こんや》のうちお伺《うかゞ》ひしておかないと。」
 お美代《みよ》はさう言《い》つて、仕度《したく》に取《と》りかゝつた。
「ぢや汚《きたな》いところだけれど、高柳《たかやなぎ》さんもお広《ひろ》さんにも来《き》てもらひますか。そして都合《つごう》で何《ど》うにかなるでせう。」
 外《そと》へ出《で》ると、雨《あめ》がぽち/\顔《かほ》に当《あた》つた。冷《つめ》たい風《かぜ》が吹《ふ》いてゐた。
 彼等《かれら》を迎《むか》へたお加奈《かな》は、いつものやうに調子《てうし》づいてはゐなかつたけれど、形勢《けいせい》は村山《むらやま》に取《と》つてさう険悪《けんあく》ではなかつた。
「どうか都合《つごう》できるかい。」村山《むらやま》は一《ひ》とわたり挨拶《あいさつ》がすんでから、お加奈《かな》に言《い》つた。
「え、まあ何《ど》うにか。」
 とにかく荷物《にもつ》を受取《うけと》りに、女中《ぢよちう》たちをやることにした。彼《かれ》は漸《やつ》といくらか安心《あんしん》した。[#地付き](大正14[#「14」は縦中横]年8月「女性」)



底本:「徳田秋聲全集第15巻」八木書店
   1999(平成11)年3月18日初版発行
底本の親本:「女性」
   1925(大正14)年8月
初出:「女性」
   1925(大正14)年8月
入力:特定非営利活動法人はるかぜ

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