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浪人天下酒

最終更新:2019年12月15日 21:24

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浪人天下酒
山本周五郎


【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)杉田伝九郎《すぎたでんくろう》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)主|五兵衛《ごへえ》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#8字下げ]


[#8字下げ]一[#「一」は中見出し]

「面白くない、おもしろくないぞ」
 杉田伝九郎《すぎたでんくろう》は酒気を吐きながら呟いた。
「こう世の中が泰平無事では、生きていることさえ退屈千万だ。第一これだけ人間がうようよしているのに、喧嘩らしい喧嘩ひとつないというのは怪しからんぞ、ぜんたい世間の奴等はなにをしているのか」
「――あのう、もう御飯を上りましては」
 お梶《かじ》は宥《なだ》めるように側からいった。
「馬鹿な、酒ををつけろ酒を」
「でも、もう定《きま》りだけ召上りましたわ」
「定りもくそもあるか、酒にでも酔わぬかぎり、吝《けち》臭い世の中にはとても生きておられぬ、つくづく愛想のつきた時世だ」
 どっちに愛想がつきるか知れたものではない。他人《ひと》が聞いたら恐らく呆れて笑うだろう――しかしお梶は怜悧《りこう》そうな美しい眸子《ひとみ》で、いかにも信じきった風に伝九郎を覓《みつ》めながら、
「本当に厭な御時世ですこと」と相槌を打つのだった。
 江戸浅草の今戸橋から山谷の方へはいって、ちょうど待乳山の聖天社の裏手にあたる一画、川筋の船宿に近いので舟子店と呼ばれる長屋の一軒に、我が浪人杉田伝九郎は住んでいた。
 そこは長屋のどん詰りで、裏手がどこかの武家の別墅になっている。黒塀の向う側はうかがうべくもないが、庭構えも広く、いまようやく咲きそめた早咲の梅林が塀際にあるので、風の間に間に、この貧乏長屋まで床しい香が流れてくる、何様の屋敷とも知る者はないが、折々聞えるのは若い女たちのさざめきだった。――これがまた杉田伝九郎には耳障りで癪なのだ。
 伝九郎は浪人である。しかし加賀藩の御留守役をしている伯父があって、そのほうから月々の仕送りがくるから、生活の心配はすこしもない、男振はいいし剣術は抜群の腕を持っているし、伯父のいうことを神妙にきけば、仕官の途《みち》に不自由はないのだが、
 ――伯父貴の威光で出世したところで、武士は立たぬ、自分の運は自分で拓《ひら》くのだ。
 といって承知しない。しかし江戸がいくら広くても、そうどこにでも仕官の口が転がっているわけではなかった。人一倍の腕を持ち、鈍才でもないだけにだんだん世間が忌々しくなってくる、このごろでは朝から酒浸りで、
 ――舟子店の呑ん九郎。
 という綽名までついてしまった。
 こうして不平の日を送っている伝九郎を、心から尊敬し、蔭になり日向になり労わっているのはお梶だった。彼女はこの長屋の家主|五兵衛《ごへえ》の姪でその年十八、両親に死なれて叔父の五兵衛に引取られているのだが、五兵衛夫婦が因強者で、女中同様にこき使っていた、――それを伝九郎が手当をやって身のまわりの世話に頼んでいるのだった。
 お梶は温和しい生れつきで、口数もすくなく、伏眼勝ちな淋しい顔だちであったが、洗濯から縫物、食事拵え起居の面倒まで、ほとんど痒いところへ手の届くように世話をした。もっとも伝九郎の方ではあまり世話をやきすぎるというので
 ――うるさいな、そんなに何からなにまでやることはない、もう少しおれを気楽に抛っておいてくれ。
 などと時々癇癪を起すくらいである。
 そんな時お梶は、耳たぶまで赧くしながら、淋しそうに眼を伏せ、隅の方へ引こんでじっと伝九郎の横顔を覓めるのである。――そしてその眸子のうるんだ奥には、ただ尊敬しているというだけではなく、もっと深い愛情の光りが、覚られることを惧れるようにふるえているのだった。
 今日も朝から酒で、もう一升あまりも呑みながら、例のとおり泰平無事を罵っているところだ。
「思えば戦国の世が羨ましい、この伝九郎などは一番槍、一番首、一番乗りで、たちまち一国一城の主人《あるじ》と一の字づくしの出世は目睹するごとしだ」
「本当にそうですわねえ」
「本当だとも、嘘だという奴があったら出てこい、証拠のほどを見せてやる」
 といった時だった。裏手の障子が、ばっと烈しく引裂けたと思うと、棧を打破って大きな蹴鞠が飛びこんできた、――それがまた念の入ったことに、酒肴をのせた箱膳の上へ落ちたから、皿、徳利は砕け散って狼藉たる有様。
「や、や、や!」伝九郎はいきなりその鞠をひっ掴むと、
「しめた、ひと喧嘩の口実ができたぞ、――この貧乏長屋へ皮肉に梅の香を匂わしたり、きゃあきゃあと女共の騒々しい騒ぎがいい加減癪にさわっていた時だ、ひとつ……」
「あ、杉田さま」立上る伝九郎をお梶はあわてて、「相手は由緒ありげなお屋敷、乱暴なことをなすっては危のうございます、待って」
「黙れ、こんないい喧嘩のきっかけ[#「きっかけ」に傍点]がまたと再びあるものか、たとえ相手が百万石の大名でも、武士の城廓にも等しい住居へ物を蹴こんだからは理非明白、久しぶりで腹の虫の堪能するほど暴れてやるのだ、放せ!」
 お梶の手を振放して障子を引明け、一間とない裏庭へおりると、いきなり足をあげて、ばりばりばりッと黒塀の板を蹴破った。――思切ったことをするものである。

[#8字下げ]二[#「二」は中見出し]

 黒塀の板が二枚、ばりばりと裂ける、そこから伝九郎が踏こんだとたん、三分あまり咲いた梅の疎林の中を、ちょうどこっちへ来かかる一人の娘とばったり顔を向合せた。――年は十七か八であろう、衣裳も贅を極めているし、眼の覚めるような美しい乙女である。
「あ……」意気ごんで踏入った伝九郎、思わずたっと一歩退った。――相手の娘は後についてきた女中たちをあっちへ行けと眼で知らせながら、
「婢たちが戯れの蹴鞠、お住居を騒がしてなんとも申し訳がございませぬ、不調法はわたくしからお詑び申上げまする、お腹立ちでもございましょうが、どうぞ御勘弁遊ばして……」
「いや、な、なに、決して左様なことはござらぬ、かえって痛入る、決してその、あれでござる、なにもかように、その」
 自分でも訳が分らなくなってきたので、急いで相手に鞠をわたすと、
「拙者としてはただ、物をお返しに上ったばかりなので、とにかく、そういうわけゆえ悪からず、御免ください」
 塀を蹴破って鞠を返しにいく奴があるものか、――思わず微笑する乙女の眼から、のがれるように塀外へ脱出た伝九郎、蹴破った板を元のように押着けておいて座敷へあがると、
「ふう、――伝九郎一代の失策だ」と太息をつきながら坐った。お梶は大事にならずにすんだのを喜んで、
「よく穏かにすましていらっしゃいました、あまり御様子が烈しいので、一時はどうなることかと」
「おれもこんな弱ったことはないぞ、番士ぐらいは出てくるかと思ったら、いきなり姫君の御出馬だ、なにしろあの眼の覚めるような美しさに会ってはとても手が出せない」
「そんなに美しい方でしたの?」
「美しいのなんのって、伝九郎二十七歳の今日まで、あんな美しい女《ひと》に会ったのは今日が初めてだ、おまえも見ればよかったのに」
「――本当に、惜しいことを……」
 お梶の眼は悲しげに曇った。
 お梶は自分が美しい娘でないことを知っている、その上に孤児《みなしご》で、身分も卑しい才芸の嗜もないと思っている、――しかし、自分が世界中の誰よりも篤く慕い、心ひそかに愛情を捧げている伝九郎、このままいつまでも自分だけで世話をしてあげたい、自分一人のものであってほしいと思|希《ねが》っている伝九郎から、かくも明らさまによその女の美しさを褒められては悲しかった。
「――全く、美しい女だった」
 伝九郎は嘆息するように呟いた、お梶は胸いっぱいの悲しみを隠すように、何気ない調子で、
「あの、お酒をおつけいたしましょうか」
「いや、もう飯にしよう」伝九郎はにべ[#「にべ」に傍点]もなくいって、
「実に美しい、どんな身分の女だろう」と独言のように呟くのだった。
 食事が終って半刻ほど経ってからである。家主が三人づれの浪人体の者と一緒にやってきて、突然家を変えてくれと申出た。
「変れといってどうするのだ」
「向う側の三軒目が明いておりますから、あそこへ移っていただきたいので、こちらのお三人様がどうでもこの家が気に入ったとおっしゃいますし、――甚だなんですが移っていただければ店賃の方もお負けいたします」
「いやだ、御免を蒙ろう」伝九郎は頭を横にふった。
「たとえ借屋でも一旦借りた以上は拙者の城廓、訳もなくおいそれと明渡すことはならん、第一ここは隣屋敷から梅の香も伝ってくるし、棟端れで閑静でもある――移ることは不承知だぞ」
「ですが折角こちら様が」
「諄い、そちら様がどうであろうと拙者の知ったことではない、用がすんだら帰れ」
 黙って聞いていた浪人の一人が
「挨拶も申さず失礼ながら、そう一徹なことを仰せられずと、ぜひとも譲っていただきたいのだが、如何でござる」
「なんだ貴公は?」
「お怒りでは恐入るが……」
「怒るのは当り前だ、どこの何者か知らんが、そんなにこの家を狙うというのは不審だぞ、この家の床下に金の延棒でも埋まっているのか、それとも他にもっと深い企みでもあるか、とにかくうろん[#「うろん」に傍点]千万な話だ。これはひとつ拙者が糺明して……」
「ああ否、決してそれには及び申さぬ、拙者共は向うを借りることに仕るから」
 腕捲りをして乗出した伝九郎の様子に、三人の浪人者はあわてて、家主を促しながら去っていった。
「はははははなんだ下らぬ、せっかく売ったに喧嘩も買わぬか、馬鹿者め」
 伝九郎がその後姿へ嘲笑を浴びせた時、いま去った浪人者と入違いに、武家の女中と見える若い女が、
「御免くださいませ」と訪れてきた。

[#8字下げ]三[#「三」は中見出し]

「先程は不調法をいたしまして申し訳ござりませぬ、お詑びと申すもお恥しゅうござりまするが、庭に咲きました梅『朧夜』と号《なず》けてお姫さまがお愛し遊ばす花でござります、――お笑草にひと枝」そういって差出した梅花一枝、
「いやこれは思懸けぬ賜物、かたじけのう存ずる」
 手に取るとはらり[#「はらり」に傍点]と垂れたのは枝に結びつけた短冊、――女中が去るのを待って読んでみると、見事な筆跡で、
[#ここから2字下げ]
わがやどの梅のはつ花咲きにけり
  待つ鶯はなどか来なかぬ
[#ここで字下げ終わり]
 と金槐集の古歌が認めてあった。――梅の花は咲いたのに、どうして鶯は啼きにこないのかという意味である。
「待つ鶯、――なにか別に意味がありそうだぞ」
 伝九郎は永いことその短冊を覓めていた。
 一方、例の三人の浪人者は、その日のうちに向う長屋へ移ってきた。泰平無事を託っている伝九郎、あれほど喧嘩を売ったのだから、なんとか物になるだろうと思っているが、向うは腫物へさわるように扱って、いささかも楯をついてくる様子がない。
「何だ、余程の腰抜け揃いだな」
 伝九郎、がっかりした。
 ところがそうではなかった、およそ十日あまりも経ったある夜、突然思いもよらぬ事件が勃発したのである。――その日も夕刻から、お梶を相手に酒を呑みはじめた伝九郎、
「面白くない、実に面白くないぞ」
 と例の口癖を肴にして、午後十時ごろまでに二升あまりも呷りつけ、ついにそこへ酔い倒れてしまった。こうなると手に負えない、お梶は仕方なく夜着をかけてやり、枕許へ水の用意をしておいて家へ帰った。
 深夜十二時の鐘が鳴ってしばらくすると、向う長屋の浪人者の家から、いつ集っていたか例の三人の他に七人ばかりの浪人共が、いずれも覆面黒装束で次々と忍び出てきた。
「――この家か」
「うん、毎晩今頃になると酔潰れているんだ、しかし騒がれると面倒だから静かにしろ」
 頷き合って伝九郎の住居の前へやってきたが、一人が雨戸に手をかけて引いてみる、すっと明いたので、皆手に手に大剣を抜きながら中へはいった。
 いかに酔潰れても伝九郎、これに気づかないような未熟者ではない。彼らが雨戸へ手をかけた時から既に眼を覚まし、大剣を引きつけて様子をうかがうと、どうやら向う長屋の浪人者らしい、
 ――占めた、いよいよ喧嘩を買って出たな、しかも仲間を呼んできたらしい、こいつは久し振りにひと暴れできるぞ。
 心の内にほくそ笑みつつ、なおも眠った振をしている、――と侵入してきた浪人たちは、更に裏手の障子と雨戸をあけた。
 ――臆病者め、まず逃口を拵えるか、
 可笑しく思いながら、薄眼を明けて見ていると、曲者たちは伝九郎に構わず、一人ずつ裏へおりていく様子だ。そしてすぐ、例の屋敷の黒塀の側で、
「おい、ここに塀が破れているぞ」
「そうか、音をさせずに入れ」と囁く声がきこえた。
「――しまった」伝九郎は跳起きた、「おれの寝首を掻きにきたかと思ったら、裏の屋敷を狙ったのか。いつか奴等がこの家をぜひ借りたいといったのは、こんな企みがあったのだな、――だが彼等は何者だろう、何のために」
 呟きながら、不意に伝九郎は大剣をひっ掴んでよろよろと立上った。――屋敷の中で女の悲鳴が聞えたのである。
「あの姫が危い!」直覚的に感じたから、枕許の水をぐぐっと呻って、裏へ出るなり黒塀の破れから屋敷の中へ踏こんだ、ところが、そこには浪人者たちの内二人が張番をしていたのである、――伝九郎が踏込んでいくのと、待構えていた二人が物をもいわず、抜討に左右から斬りつけるのと同時だった。正に必殺の刃風、
「心得たッ」という伝九郎の叫び、だだ! 体がもつれたと思うと、どう躱してどう斬ったか、浪人二人は血煙をあげて顛倒し、伝九郎は脱兎のように邸の方へ走っていた。
 数寄屋造の広縁、雨戸が蹴放してあって、奥には凄じい剣の響、入乱れる跫音、悲鳴の声が聞える、――伝九郎は広縁へ跳上ると、物音を頼りに駈けつけた。見るとこの家の宿直《とのい》侍と見える若い武士が三人、黒装束の曲者八名を相手に、惨澹たる死闘を展開している。
「待て、待て待て」伝九郎は大声に喚いた。
「理非は知らぬ、しかし覆面して夜討ちをかけるとは泥棒盗人の振舞だ、御当家に助勢をするからそう思え」

[#8字下げ]四[#「四」は中見出し]

 思わぬ人物の出現に、曲者たちは思わず退いたが、その内の二人は苛《いら》って、
「うぬ、長屋の素浪人だな、いつぞやの暴言の返礼もある、逃さんぞ」
「斬ってしまえ」
 喚きながら、さりとは無法な、いきなりだっと斬りつけた。軽くかわした伝九郎、
「宿直衆、姫をお護りなさい、こやつ等は杉田伝九郎が引受けた。――さあ来い、一人も生けては帰さんぞ、それ」
 叫んだと見る刹那、伝九郎の体がさっと沈んで、稲妻のごとく閃く剣、例の浪人二人を右と左へ斬放した。――曲者たちも手強しと見たか、切尖を揃えて、
「えイッ」「えイッ」短く、叩きつけるような、切迫した掛声と共に四方から取詰めてきた。――伝九郎は右へ右へと動きながら、突然ひょいと身を沈める、同時に耳を劈《つんざ》く気合、「かーッ」叫んだと思うと片手突きの一刀、右前にいた一人を刺す、剣は瞬時に返って、左から斬下ろそうとしていた奴の脾腹を割った。適確を極めた太刀筋である。
「あ――」「む!」
 諸声に倒れる二人を、乗越えて迫る四人、燭台のゆれる火を明けて、一瞬人影が入乱れたと思うと、きらり、きらり、閃く剣光につれて、曲者の一人は袈裟がけに斬られて襖もろ共だあっと倒れ、一人は頸根、一人は脇、いずれも致命の一刀を受けてたおれ伏した。
 残るは一人、こいつは敵わぬと見てばらばらと逃出したが、追い詰めた伝九郎、縁側近くで背後から、「えーイッ」と一刀肩を背の半ばまで斬放した。――血刀を提げて戻ってくる、
「もうこれだけか、残っている奴はないのか、もう少しいると思ったが……」
 贅沢なことをいっている。
「――なんだ呆気ない」と刀に拭いをかけていると、先刻の宿直侍と、奥家老らしい人品卑しからざる老武士が出てきて、礼を篤く奥のひと間へ導いた、そこには女中たちに取巻かれて、いつかの美しい姫がいた。
「今宵の助勢、かたじけのう思います」
 姫はまだ震えの去らぬ声で言った。
「世を忍ぶ身上ゆえ、礼がいたしたくても心に任せず、……命を救われながら、ただ――かたじけのうというより他に礼の仕様もありませぬ」
「いや左様な、礼などとは痛入る」伝九郎は素直に、「――夜中でもあり、もはや曲者も残っておらぬ様子、拙者はこれで」
「ああ暫く」老武士が静かに膝を進めて、
「かようなことむざと申して、お怒りを受けるかも知れぬが、――御浪々と見てお願い仕る、如何であろうか、当家に御随身くださるまいか」
「それは、次第によってはお受けもいたしましょうが」伝九郎は向直って、
「しかし姫には唯今『世を忍ぶ身上』と仰せられた、また今宵かようにお命を狙う曲者の侵入したことなど、いささか拙者の腑に落ちぬが」
「お話し申し上げよう」
 老武士は姫の方へ会釈して、「ここに在《おわ》すは、信濃国にて四万石を領する、さる藩の姫君でござる。御家に正室、妾腹の姫君二人在し、当姫君は御正室のお腹にて、近く某大守より御二男を迎えてお世継をあそばす運びになっております、――しかるに妾腹の姫君を取巻く一味の徒党ら、御家の内に奸策を弄して、一時は家中騒動にも及ぶべきところ、当姫君の御身上危きあまり、ひそかにここへお匿い申したうえ、忠節の士挙って奔走、どうやら奸臣共の謀計も打破ってござる、……しかし一味の徒党はいまなお暗躍をつづけ、姫君の命を狙って今宵のようなことまでしでかす始末、この上まだどのような暴挙をせぬとも限らぬ状態でござる」
 四万石の大名の姫に生れながら、これはまたなんという痛ましい運命の人だろう、――伝九郎は思わず涙を催していた。
「当家も奸臣共に嗅出された以上、明日にも他へ移らねばならぬが、御覧のごとく守護の人数も手薄でござる、――唯今蔭ながら拝見仕ったが、貴殿こそあっぱれ稀代の剣士、もし御随身くださらば千万の味方と存じ、失礼ながらお願い仕った。今こそ世を忍んでおらるるが、事落着のうえは四万石のお世継でござる、貴殿にも充分にお酬い申しまする」
「承知仕った」伝九郎は言下に答えた。
「後の礼などが望みではない、姫の御悲運がいかにもお痛わしゅうござる、事落着まで御守護を仕ろう」
「おお、承知してくれましたか」
 姫の面にさっと明るい微笑が浮んだ。
「わたくしも嬉しゅう思います」
「――姫」

[#8字下げ]五[#「五」は中見出し]

 伝九郎は面をあげて、
「いつぞや賜った短冊の古歌、――鶯の来て啼く御世となるまで、伝九郎身命を賭してお護り申上げまするぞ」
「頼みに思っています」
「必ず御安堵遊ばせ」
 力強くいって伝九郎はさがった。――人間どこにどんな運があるか判らない、泰平無事を託っていた伝九郎に、いよいよ望みの時期がめぐってきた、四万石の家中の争いとあれば、町中の喧嘩などとは段が違う、こいつは暴れ甲斐があるぞとすっかり嬉しがってしまった。
 朝になった、お梶がきてみると伝九郎はせっせと荷造りをしている。
「まあ、どうかなさいましたの?」
「引越しだ」
 伝九郎は包を縛りながら、
「おまえだけにいうがな、実は向うの屋敷へ召抱えられることになったのだ」
「まあ、それは……」お梶の顔が見る見る蒼白めた。
「あんな美しい姫君に仕えるというのは、男と生れても冥加だぞ、久しく夜泣きをしていたこの腕も、これでいよいよ役に立つ期《とき》がきた」
「……おめでとう存じます――」
「おまえこれからどうする、あの因強親爺の家で、朝から晩までこき使われるのも堪らないだろうが」
「――はい」
「どうするか当があるか」
「大丈夫ですわ」
 お梶は懸命に微笑しながら言った。
「実はあたくしも今日はお別れを申上げようと思っていたんですの、――いつかお話し申しましたわ、名古屋に叔母がいること」
「そこへ行くのか」
「ええ、――叔母が前からよんでくれていたんですの、それであたし思切って行く決心をいたしました」
「そうか、それは……結構だ」伝九郎も笑って、
「行ったら仕合せに暮せよ」
「はい、杉田さまもどうぞ……。もうお眼にかかれませんわね」
 梶は悪戯らしく、「でも梶には忘れられませんわ、『これだけ人間がうようよしているのに、喧嘩ひとつないのは不審千万』ってよくおっしゃいましたわね、ほほほほほ」
 笑う声の半は涙だった。
 泣く姿を見られまいと、逃げるように伝九郎の家を出たお梶は、そのまま五兵衛の家へ帰っていった。もうお終いである。いつまでも自分独りの人にしておきたかったが、それは愚な女の空《あだ》な夢だった、――杉田さまはお屋敷に抱えられ、あの美しい姫君に仕えて仕合せにお暮しなさるであろう。そう思うと江戸にいることさえ苦しくなる、お梶はその日のうちに五兵衛へ話して、杉田にいった嘘を本当に、名古屋の叔母を頼って行くことに決めた。素より因強な五兵衛、邪魔者がいなくなるのをかえって喜んだから、さっそく関所手形をととのえて、その明る朝まだ暗いうちに、わずかの路銀を持たせて旅立たした。
 旅馴れぬ女の足で、高輪の海端までくるともう脛の筋が痛みはじめた、――これから先幾十百里の独り旅。
 ――行けるかしら。
 と消える思いで立停まる、後から、
「おーい、おーい、お梶――」と呼ぶ声に、ぎょっとして振返ると、向うから息せき切って走ってくる杉田伝九郎。
「あ、杉田さま」
「お梶、ああ間に合った」と駈けつけてきた伝九郎、いきなりお梶の手を掴むと、
「馬鹿、おまえは馬鹿だぞ」
「――」
「おまえ本当に伝九郎を見捨てる気か、おまえがいなくては、おれにはなにもできやしないじゃないか、おれに洗濯や縫物をしろと言うのか、酔醒めの水は誰が汲んでくれるんだ、――おまえはいつかおれのことを、赤坊のようだと言った、赤坊のような伝九郎を抛っていっていいのか、おれは不承知だぞ」
「杉田さま」お梶はわっと泣きながら、伝九郎の胸へ泣き伏してしまった。
「おれは不承知だ、おまえは伝九郎のものだ、誰がなんといおうと放さんぞ」
「……」
「それともおれの側にいるのが厭か?」
 お梶は噎びながら、
「否え、否え、梶こそ、お側にいたいんです、でも、お美しい姫君がいらしって」
「馬鹿な、馬鹿なことを、ははははは」
 伝九郎は声をあげて笑った。
「そうか、あれが悪かったのか、そんなら別に仔細はないぞ、おれは姫君の家来だ、主従のあいだを嫉む奴はあるまい、姫はいかにも美しいが、おまえの美しさは姫にも劣らぬのだ、おまえはそれを知らず、自分で自分を卑く思い、魄く考えているのだ、その弱い気持を強くさせようと思って、おれはわざとおまえに向って姫を褒めたのだ。昨日別れる時いった言葉も同様、あの時おまえは『私も御一緒にまいります』というべきだったのだ、伝九郎はそれを待っていたのだぞ」
「それは、ほ、本当でございますか」
「嘘ではない証拠を聞かそうか、――お梶、おまえは今日から杉田伝九郎の妻になるのだ」
 歓び極まって、お梶はただ熱く熱く伝九郎を見上げるばかりだった、――海をわたって春風がくる、二人は欣々と江戸の方へ帰っていった。



底本:「痛快小説集」実業之日本社
   1977(昭和52)年11月15日 初版発行
   1980(昭和55)年2月20日 五版発行
底本の親本:「新少年」
   1938(昭和13)年1月号
初出:「新少年」
   1938(昭和13)年1月号
入力:特定非営利活動法人はるかぜ

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山本周五郎
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