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雨みち

最終更新:2020年01月09日 14:06

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雨みち
徳田秋声


【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)秋《あき》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)十|時頃《じごろ》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号またはUnicode、底本のページと行数)
(例)※[#「りっしんべん+妄」、272-上-7]

/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)ぱら/\

濁点付きの二倍の踊り字は「/″\」



 秋《あき》も最《も》う大分《だいぶ》寒《さむ》くなつたある夕方《ゆふかた》のことである。
 朝《あさ》のうちから空合《そらあひ》が怪《あや》しく、正午迄《ひるまで》がどうかと危《あや》ぶんでゐる内《うち》に、丁度《ちやうど》十|時頃《じごろ》からぱら/\と小雨《こさめ》が降《ふ》つて来《き》た。そして冷《つめ》たい風《かぜ》が吹《ふ》き初《はじ》める。かう寒《さむ》くなつてはやりきれない。無《な》けなしの金《かね》を払《はた》いても、シャツの一|枚《まい》も新調《しんてう》せねばならぬと云《い》ふ痛切《つうせつ》な必要《ひつえう》に迫《せま》られたので、夕飯《ゆふはん》を済《すま》してから思《おも》ひ立《た》ち、九|段下《だんした》まで出《で》かけて、安《やす》いネルのやつのを購《あがな》ひ新聞紙《しんぶんし》で包《つゝ》み、それを小脇《こわき》に抱《かゝ》へて、如何《いか》にも寒《さむ》さうに首《くび》を縮《すく》めて帰《かへ》りかけた。
 雨《あめ》は止《や》みさうになつて止《や》まず、しよぼ/\と降《ふ》るので、冷《つめ》たい淋《さび》しい感《かん》を抱《いだ》かせる。心細《こころぼそ》くもなつて来《く》る。道路《みち》はまるでこねかへしたやうな泥濘《でいねい》で、電燈《でんとう》の光《ひかり》の青《あを》いのや赤《あか》いのや打交《うちまぢ》つて、電車《でんしや》のレールに落《お》ちて居《ゐ》る。
 私《わたし》は多少《いくらか》柄漏《えもり》のする番傘《ばんがさ》をさして九|段上《だんうへ》まで登《のぼ》つて来《く》ると、交番《かうばん》の前《まへ》に十五六|本《ぽん》の雨傘《あまがさ》や洋傘《かうもりがさ》が重《かさな》り合《あ》ふやうに丸《まる》く集《あつま》つて居るのである。
 坂《さか》を登《のぼ》つて来《く》る人《ひと》も、偕行社《かいかうしや》の方《はう》から出《で》て来《く》る人《ひと》も必《かなら》ず交番《かうばん》の人《ひと》だかりを立留《たちどま》つては見《み》て行《ゆ》く。
「喧嘩《けんくわ》かな、雨降《あめふり》に御苦労《ごくらう》だな。」
など、呟《つぶや》きながら上《あが》つて来《く》る書生連《しよせいれん》もあつた。私《わたし》も何《なん》となく好奇心《かうきしん》に駆《か》られて、引寄《ひきよ》せられるやうに覗《のぞ》きに行《い》つた。人《ひと》と人《ひと》との間《あひだ》に割込《わりこ》んで見《み》ると帽子《ばうし》を真深《まぶか》く冠《かむ》り、半外套《はんぐわいたう》を着《き》てゐる虎髯《とらひげ》の巡査《じゆんさ》の前《まへ》に、茶縞《ちやじま》の着物《きもの》を着《き》てゐる年頃《としごろ》三十四五|位《ぐらゐ》の小男《こをとこ》が突立《つツた》つてゐる。帽子《ばうし》の無《な》い頭《あたま》は髪《かみ》がもじや[#「もじや」に傍点]/\としてそれが雨《あめ》に濡《ぬ》れぐつたり項垂《うなだ》れてゐる。赤黒《あかくろ》い手《て》を下《さ》げ、帯《おび》をだらりと下《さ》げて、片端《かたはし》は泥《どろ》の中《なか》に引《ひき》ずつて居《ゐ》る。加之《それに》、左前《ひだりまへ》が腰上《こしあげ》の下《お》りたのかと思《おも》はれるやうに長《なが》く下《さ》つて居《ゐ》るので、下駄《げた》を穿《は》いてるのか、素足《すあし》なのかそれさへ分《わか》らぬ位《くらゐ》である。その悄然《しよんぼり》立《た》つてゐる姿《すがた》を赤《あか》い電燈《でんとう》の光《ひかり》が照《てら》してゐる。けれどもそこらは何《なん》となく薄暗《うすぐら》い。
 暫《しば》らく巡査《じゆんさ》は黙《だま》つてゐた渉、ひよつと右《みぎ》の手《て》を半外套《はんぐわいたう》から出《だ》して、額《ひたひ》を拭《ふ》く拍子《ひやうし》に巡査《じゆんさ》の顔《かほ》を見ると、さして、小男《こをとこ》に対《たい》して一生懸命《いつしやうけんめい》になつて居《い》ると云《い》ふ風《ふう》はなく、極《きは》めて無頓着《むとんちやく》さうな、平気《へいき》らしい顔《かほ》をして居《ゐ》るやうに私《わたし》には思《おも》はれた。
 けれども、私《わたし》には何《なに》が何《なん》だか少《すこ》しも分《わか》らない。
 する内《うち》、交番《かうばん》に電話《でんわ》でもかゝつて来《き》たのか、巡査《じゆんさ》は急《いそ》いで交番《かうばん》の中《なか》へ這入《はい》つたが、その時《とき》の巡査《じゆんさ》の様子《やうす》を見《み》ても、どう云《い》ふものか、小男《こをとこ》のことが全然《まるきり》頭《あたま》に無《な》いのかと思《おも》はれる位《ぐらゐ》素知《そし》らぬ風《ふう》であつた。這入《はい》つて居《ゐ》る内《うち》には、小男《こをとこ》は何《ど》うにでも出来《でき》る、逃《に》げようと、隠《かく》れようと――私《わたし》は巡査《じゆんさ》の挙動《きよどう》の暢気《のんき》なのを訝《いぶ》かしがらずにはゐられなかつた。
 暫《しば》らくの間《あひだ》は寂然《ひつそり》として、霧《きり》の様《やう》な小雨《こさめ》が降続《ふりつゞ》くのである。ふと、件《くだん》の小男《こをとこ》は頭《あたま》を上《あ》げた、そしてにやりと笑《わら》つたが、又|頭《あたま》を下《さ》げたかと思《おも》ふと、彼《かれ》は今迄《いままで》の静止《せいし》を破《やぶ》つて、身体《からだ》を動《うご》かし初《はじ》めた。下《さ》げた頭《あたま》を上《あ》げ、上《あ》げては下《さ》げる。次第《しだい》に頭《あたま》を上下《じやうか》することを忙《せは》しく、激《はげ》しくし出《だ》した。それに続《つゞ》いて、極《きは》めて自然《しぜん》に、丁度《ちやうど》時計屋《とけいや》にある人形《にんぎやう》のやうに両手《りやうて》をも振《ふ》り出《だ》した。
 そんなことをしながらも小男《こをとこ》は真面目《まじめ》な顔《かほ》をしてゐる、営養不良《えいやうふりやう》と云《い》つたやうな蒼黒《あをぐろ》い顔《かほ》に時々《とき/″\》にたくと笑《わら》ふのは余《あま》り気持《きもち》の好《よ》いものではない。
 見《み》て居《ゐ》る十二三の小僧体《こぞうてい》の男《をとこ》がとう/\笑《わら》ひ出《だ》した。それを機《きつかけ》にぐるりからもくすり/\と笑《わら》ふ声《こゑ》が起《おこ》つた。小男《こをとこ》はそれに益々《ます/\》力《ちから》を得《え》たやうに、頭《あたま》と両手《りやうて》を振《ふ》り出《だ》すと共《とも》に、そのぞろりと垂《た》れた着物《きもの》の裾《すそ》と帯《おび》を引《ひ》きずりながら、そこらを舞踏《ぶたう》でもするやうに歩《あゆ》み始《はじ》める。それにつれて益々《ます/\》頭《あたま》を大《おほ》きく振《ふ》る、その有様《ありさま》の滑稽《こつけい》なのには、誰一人《たれひとり》として笑《わら》はずにはゐられない。中《なか》にはさも/\痛《いた》ましいと云《い》つたやうな眼色《めいろ》をして見《み》て居《ゐ》る者もあるが、大抵《たいてい》の人《ひと》はもう遠慮気《ゑんりよげ》もなく声高《こわだか》に笑《わら》つた。それを聞《き》きつけると、巡査《じゆんさ》は馬鹿《ばか》に慌《あわ》てゝ飛出《とびだ》して来《き》て、
「何《なん》だ… 馬鹿《ばか》ツ…」
と、一|喝《かつ》を浴《あ》びせると、小男《ごをとこ》は滑稽《おどけ》た挙動《こなし》をして恐《おそ》れ入《い》つたと云《い》ふやうな意《こゝろ》を示《しめ》すので、巡査《じゆんさ》はその顔《かほ》を見《み》て笑《わら》ひながら、再《ふたゝ》び交番《かうばん》へ這入《はい》つて、頻《しき》りと電話《でんわ》の方をあしらつてゐる容子《ようす》である。
 人々《ひと/\》の笑声《わらひごゑ》も巡査《じゆんさ》の一喝《いつかつ》の為《ため》に、各自《めい/\》自分《じぶん》がやられたのではないかとでも思《おも》つたのか、一|時《じ》はた[#「はた」に傍点]と止《や》んだが、直《す》ぐに又《また》思《おも》ひ出《だ》したやうに笑《わら》ひ出《だ》すのである。小男《こをとこ》は平気《へいき》なもので、図《づ》に乗《の》つて益々《ます/\》活動《くわつどう》を始《はじ》めるのである。
 折々《をり/\》冷《つめた》い風《かぜ》が吹《ふ》いて来《く》る。
 巡査《じゆんさ》は電話《でんわ》の方《はう》が済《す》んだと見《み》え、のそりと出《で》て来《き》たか、小男《こをとこ》がそこらを広《ひろ》く飛《と》び歩《ある》いて例《れい》の手振《てぶり》、足振《あしぶり》の妙《めう》なことをやつてゐるので、顔《かほ》をそむけて苦笑《くせう》したが又《また》一寸《ちよつと》考《かんが》へて、つか/\と小男《こをとこ》の後《うしろ》に歩《あゆ》み寄《よ》つて、無造作《むざうさ》に襟元《えりもと》を掴《つか》んで、引倒《ひきたふ》した。小男《こをとこ》は意気地《いきぢ》なく、べたりと地《ぢ》べたに尻《しり》もちをついた。
「馬鹿《ばか》… 貴様《きさま》がそんな偽狂《にせきちがひ》の真似《まね》をしたつて駄目《だめ》だぞ、直《す》ぐ知《し》れるよ。馬鹿《ばか》…」
と、巡査《じゆんさ》が頭《あたま》から怒罵《どば》を浴《あび》せる、それに驚《おどろ》いて、一時《いちじ》寂然《ひつそり》となつたが、小男《こをとこ》はこゝが大切《たいせつ》な関所《せきしよ》と思《おも》つたらしく、一寸《ちよつと》喫驚《びつくり》して恐怖《きようふ》の色《いろ》を顔《かほ》に浮《うか》べて居《ゐ》たが、直《す》ぐに元《もと》の平気《へいき》な顔《かほ》に返《かへ》つて、にた[#「にた」に傍点]/\として、へゝゝゝと奇声《きせい》を放《はな》つて笑《わら》つた。
 巡査《じゆんさ》は眼《め》を瞋《いか》らせて、身構《みがまへ》して居《ゐ》たのであるから、直《す》ぐに「馬鹿野郎《ばかやらう》…」と叫《さけ》んで左《ひだり》の腰《こし》のあたりをしたゝか蹴《け》つた。流石《さすが》の小男《こをとこ》も、それに余程《よほど》挫《くじ》けたらしく堪《たま》らず泥濘《ぬかるみ》の中《なか》へ左手《ゆんで》を突《つ》いて身体《からだ》を支《さゝ》へ、右手《めて》で腰《こし》を痛《いた》さうに擦《さす》つて居《ゐ》る。そして、今更《いまさら》のやうに巡査《じゆんさ》を見《み》る眼《め》は如何《いか》にも恨《うらめ》しげである。その眼《め》にはどうやら涙《なみだ》が溜《たま》つて居《ゐ》るらしい。
「おや、泣《な》いてるよ。」
と、誰《だれ》かゞ隅《すみ》つこで云《い》ふ。成程《なるほど》よく見《み》ると涙《なみだ》が溢《こぼ》れてゐる。しく/\云《い》ふ鼻声《はなごゑ》も聞《きこ》える。涙《なみだ》を拭《ふか》うと思《おも》つたのか、顔《かほ》へ持《も》つて来《き》た手《て》は泥《どろ》だらけなので、また力《ちから》なく下《おろ》した。口中《くち》へも泥《どろ》が入《はい》つたのか、べつ/\と※[#「りっしんべん+妄」、272-上-7]《やたら》と唾《つば》を吐出《はきだ》してゐる。
 小止《こやみ》になつて居《ゐ》た雨《あめ》が降《ふ》りだした。風《かぜ》も寒《さむ》く吹《ふ》き添《そ》つて、見物人《けんぶつにん》も一人二人《ひとりふたり》立去《たちさ》る者《もの》もある。
 巡査《じゆんさ》はと見《み》ると、何時《いつ》の間《ま》にか交番《かうばん》の中《なか》へ入《はい》つて居《ゐ》る。先刻《さつき》から、交番《かうばん》の左側《ひだりがは》に居《ゐ》た二十五|位《ぐらゐ》の書生体《しよせいてい》の男《をとこ》がつと交番《かうばん》の前《まへ》に現《あら》はれて、一寸《ちよつと》頭《かしら》を下《さ》げた。私《わたし》はどうするかと、先《さき》へ進《すゝ》んだ。
「あれは真実《ほんたう》の狂人《きやうじん》ぢやないんですか。」
「何有《なあに》、偽者《にせ》だよ。」と、巡査《じゆんさ》の声《こゑ》は錆《さび》を帯《お》びてゐる。
「さうですか、実《じつ》に可愛《かはゆ》さうですね、何《なん》だか見《み》て居《ゐ》て戦慄《みぶるひ》を覚《おぼ》えるです。」
と、頗《すこぶ》る感激《かんげき》した声《こゑ》である。
「何有《なあに》、あんな奴《やつ》は幾《いく》らもあるんですよ。吾々《われ/\》は始終《しよつちう》出会《でつくは》すのです、彼《あれ》にも三度《さんど》ばかり説諭《せつゆ》してやつたですが駄目《だめ》なんです。」
「家《うち》は…? つまり浮浪者《ふらうしや》ですか。」
「いや、今日《けふ》は多少《たせう》罪《つみ》があるんです。」
「へえ。」と、書生《しよせい》は一寸《ちよつと》小男《こをとこ》の方《はう》を見返《みかへ》つて、
「どんなことをやつたのですか。」
「掻浚《かつさらひ》ですよ。菓子屋《くわしや》の……」
と、巡査《じゆんさ》が言《い》つた。それから巡査《じゆんさ》の語《かた》るところに依《よ》ると、富士見町《ふじみちやう》に豊前屋《ぶぜんや》と云《い》ふ洋菓子屋《やうぐわしや》がある、その店先《みせさき》に積《つ》んであるビスケツトの箱《はこ》をこつそり攫《さら》はうとした、そこへ通《とま》りかゝつたものだから、此奴《こやつ》曲者《くせもの》と、突如《いきなり》馳《は》せ寄《よ》つた、その時《とき》彼《かれ》はその菓子箱《くわしばこ》を後《うしろ》に廻《まは》したところだつたので、その箱《はこ》に手《て》をかけて、ぽんと引《ひ》いた。すると彼《かれ》は非常《ひじやう》に喫驚《がつくり》した、殊《こと》に自分《じぶん》の顔《かほ》には見覚《みおぼ》えがあると見《み》てとつたので彼《かれ》は二|度《ど》喫驚《びつくり》、それが一|度《ど》位《ぐらゐ》ならばまだしもだが、自分《じぶん》は二三|度《ど》も彼《かれ》を捕《とら》へたのであるから、実際《じつさい》彼《かれ》は堪《たま》らなかつたらしい。真青《まつさを》になつて、小声《こごゑ》でおど/\しながら旦那《だんな》… 旦那《だんな》…と哀願的《あいぐわんてき》に言《い》ふ。それを有無《うむ》を言《い》はせず引立《ひつた》てようとすると、彼《かれ》は急《きふ》に偽狂《にせきちがひ》になつて了《しま》つたのである。菓子屋《くわしや》の店《みせ》には小《ちひ》さい娘《むすめ》が一人《ひとり》新聞《しんぶん》を見《み》て居《ゐ》たので、気《き》がつかなかつたのである。彼《かれ》が幾《いく》ら巧《たくみ》に狂人《きちがひ》の真似《まね》をしたつて、駄目《だめ》なのである。彼《かれ》は新潟《にひがた》の者《もの》で、元《もと》はそば屋《や》の出前持《でまへもち》をして居《ゐ》たのが、次第《しだい》に堕落《だらく》してこんな有様《ありさま》になつたのである。
 巡査《じゆんさ》が語《かた》り終《をは》つた頃《ころ》、俄《には》かに群集《ぐんしふ》の方《はう》で高《たか》い笑声《わらひごゑ》がするので、振返《ふりかへ》つて見《み》ると、彼《か》の小男《こをとこ》は大々的《だい/″\》活動《くわつどう》をやつてゐるのである。今迄《いまゝで》とは違《ちが》つてもつと活溌《くわつぱつ》に跳《は》ね廻《まは》つてゐる、その滑稽《こつけい》さは、笑《わら》はずには居《ゐ》られぬ位《ぐらゐ》であるが、又《また》一味《いちみ》の哀愁《あいしう》の気《き》に撲《う》たれざるを得《え》ないのである。
 雨《あめ》は相変《あひかは》わらず、びしよ/\と降《ふ》つてゐるのである。
 彼《かれ》は相変《あひかは》わらずである、私《わたし》なぞの眼《め》から見《み》ると、真《しん》の狂人《きちがひ》としか思《おも》へない、偽狂《にせきちがひ》をすると云《い》つたつて、あれ位《ぐらゐ》にやるには中々《なか/\》容易《ようい》の業《わざ》ではない。一通《ひととほり》の苦心《くしん》ではない、而《しか》も彼《かれ》はそれを敢《あへ》て為《な》すの止《や》むを得《え》ざる哀《あは》れなる境遇《きやうぐう》に居《ゐ》るのである。
 彼《かれ》の腹《はら》はどうか分《わか》らぬが、見《み》たところ平気《へいき》である。その平気《へいき》さうなのが、かゝる雨《あめ》ふる寂《さび》しい夕暮《ゆふぐれ》の光景《くわうけい》を後景《バツク》としてゐるので、一《ひと》しほ悲哀《ひあい》の感《かん》を添《そ》へるのである。やがて、彼《かれ》は、頭《あたま》と左手《ゆんで》の活動《くわつどう》を止《や》めたが、右手《めて》は相変《あひかは》らず振《ふ》りながら、腰《こし》を曲《かゞ》めて、観《み》てる人《ひと》の方《はう》に接近《せつきん》しだした。彼《かれ》は手《て》を振《ふ》りながらふと気《き》のついたやうに、人指《ひとさしゆび》で一《ひ》ー二《ふ》ー三《み》ーと群集《ぐんしふ》を数《かぞ》へ出《だ》した。そして、皆《みんな》に接近《せつきん》して来《く》る。すると、人々《ひと/\》は薄気味《うすきみ》が悪《わる》いものだから、だん/\後《うしろ》に退《しりぞ》く。小男《こをとこ》は図《づ》に乗《の》つて、着物《きもの》を引《ひき》ずりながら、追《お》つて来《く》る。
 先《さき》の巡査《じゆんさ》と話《はな》して居《ゐ》た書生体《しよせいてい》の男《をとこ》は、頭《あたま》を傾《かし》げて、「実《じつ》に悲惨《ひさん》だ」と、呟《つぶや》いた。
 彼《か》の小男《こをとこ》は、そんな風《ふう》に動《うご》いてゐるうちに、大分《だいぶん》交番《かうばん》との間《あひだ》に距離《きより》が出来《でき》てゐた。群集《ぐんしふ》も疎《まば》らに散在《さんざい》すると云《い》つた有様《ありさま》である。で、ふつと立止《たちどま》つて、その鈍《にぶ》い様《やう》な薄暗《うすぐら》い眼《め》をぎろり[#「ぎろり」に傍点]と後《うしろ》に廻転《くわいてん》した。その時《とき》巡査《じゆんさ》の姿《すがた》が交番《かうばん》のかげになつて見《み》えなかつたので、彼《かれ》の眼《め》は異様《いやう》に輝《かゞや》いた。と思《おも》ふと、突如《いきなり》猛然《まうぜん》たる意気《いき》を示《しめ》して、人《ひと》と人《ひと》の間《あひだ》に向《むか》つて突進《とつしん》しようとした。
「やあ!」
と、誰《たれ》と云《い》ふことはなく叫《さけ》ぶと、巡査《じゆんさ》も驚《おどろ》き猛然《まうぜん》たる勢《いきほひ》を以て、剣《けん》をがちや/\云《い》はせながら追掛《おつか》けた。何《なに》しろ瞬間《しゆんかん》のことであるから逃《に》げる暇《いとま》が無《な》いのである。
 巡査は《じゆんさ》忽《たちま》ち追付《おひつ》いて、むつと襟首《えりくび》を引《ひ》ツつかみ、物《もの》をも云《い》はせず遮《しや》二|無《む》二|引《ひき》ずつて戻《もど》らうとする。彼《かれ》は立《た》ち上《あが》る力《ちから》もなく、反抗《はんかう》する勇気《ゆうき》も無《な》く、裾《すそ》はまくれて太股《ふともゝ》の辺《あたり》まで現《あら》はれ、泥《どろ》にはまみれる。終《つひ》には帯《おび》が解《と》ける。襟《えり》がゆるんで胸《むね》が現《あら》はになる。巡査《じゆんさ》は交番《かうばん》の前《まへ》まで引《ひき》ずつて来《き》て手《て》を放《はな》すと、彼《かれ》はばたりと正体《しやうたい》もなく大地《だいち》に倒《たふ》れた。そして、あゝと真実《しんじつ》切《せつ》なさゝうな溜息《ためいき》を吐《つ》いた。
 書生体《しよせいてい》の男《をとこ》は、「見《み》るに忍《しの》びない!」と、顔《かほ》を顰《しか》め、呟《つぶや》きながら、急《いそ》ぎ足《あし》で立去《たちさ》つた。
 巡査《じゆんさ》は、吻《ほつ》としたらしかつたが、「もうこの位《くらゐ》見《み》りやいゝんだらう、彼奴《あいつ》も大地《だいち》にくゝりつけられたんだからもう踊《をど》りませんよ。」
と、疲《つか》れたやうな語調《てうし》で言《い》つた。
 群集《ぐんしふ》の中《なか》には立去《たちさ》る者《もの》もある。又《また》新《あたら》しく寄《よ》つて来《く》る者《もの》もある。巡査《じゆんさ》はそれを追除《おひの》けようとしてゐる。
 私《わたし》も何時迄《いつまで》見《み》てるでもないからと帰《かへ》りかけた。雨《あめ》は降《ふ》つてゐる。ふと見《み》ると大地《だいち》に倒《たふ》れた彼《かれ》の上《うへ》には赤《あか》い電燈《でんとう》の光《ひかり》が落《お》ちてゐる。泥濘《でいねい》をも照《てら》してゐる。大分《だいぶん》遠《とほ》のいてから見ると、巡査《じゆんさ》は屈《かゞ》んで彼《かれ》の着物《きもの》の披《はだ》けてゐるのをかき合《あは》せてやつて居《ゐ》るらしかつた。
 私《わたし》は家《うち》へ帰《かへ》ると、何《なん》となく違《ちが》つた国《くに》へ来《き》たやうな気《き》がして、一種《いつしゆ》の平和《へいわ》を感《かん》じた。[#地付き](明治42[#「42」は縦中横]年2月「新文林」)



底本:「徳田秋聲全集第7巻」八木書店
   1998(平成10)年7月18日初版発行
底本の親本:「新文林」
   1909(明治42)年2月
初出:「新文林」
   1909(明治42)年2月
入力:特定非営利活動法人はるかぜ

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