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『それでは、今回の放送は終了です。……みなさん、ごきげんよう』


放送が終わった。
首輪から流れてきた音声が途切れると、零と結城は溜息をつく。


相羽シンヤ――冴島邸にて出会った相羽タカヤの双子の弟
      タカヤと戦い、死んだのだろうか

東せつな――タカヤ等と共に行動していた少女
     プリキュアという戦士だったらしいが、そんな彼女も若い命を散らしてしまった


他にも、出会ってこそいないが、せつなと同じくプリキュアであると情報を得ていた名がせつな以外にも二人呼ばれていたし、姫矢准という石堀や凪の知り合いの名も呼ばれている。
参加者はたった半日で半分にまで減っている。
殺し合いが歩みを止める様子は、依然としてない。


「……行こうぜ、結城さん」
「……ああ」


それでも、彼らは歩みを止めることはない。
なぜなら彼らは、人々を守るために戦う戦士なのだから。
戦いが終わらぬ限り、彼らの歩みが止まることは、決してないのだ。



「ふぅ、やっと森を抜けたな」
「思ったよりも時間がかかってしまったな」

放送から約1時間。
二人はようやく森を抜けたところだった。
現在地はE-2。
街へ向かうには南の教会を経由するか北の村を経由するルートのどちらかがあるわけだが…

「涼邑、寄りたいところがあるのだが…構わないか?」
「寄りたいところ?……ああ、さっきの放送の変なクイズか」

結城の提案に、一瞬きょとんとした顔をした零だったが、すぐにその真意を理解して納得した。

「村にある翠屋…ここに寄ろうってことだな?」
「ああ…先ほどのニードルという男が出してきたクイズ…あれが指し示していたのは翠屋と警察署に違いないだろう。移動に役に立つものというのがなんなのか、確かめておきたい」

結城も零も、先ほどのニードルが出してきたクイズの答えは、口に出さずとも答えをすでに導き出していた。
そこで結城は、そのボーナスの正体を確かめたいと申し出たのだ。

「だけどいいのか?街の方ではあんたの仲間が待ってるんだろ?急いだ方がいいんじゃないのか?例の移動の役に立つボーナスって奴も俺達じゃ使えないみたいだし」
「彼らなら私がいなくてもなんとかやってくれるだろうさ」

石堀の話によれば、一文字は参加者をより多く保護するため沖一也と二手に分かれたらしい。
市街地には今頃二人によって集められた参加者が多くいるであろうし、それならばこちらは村という別の切り口から攻めてみるのも悪くないだろう。
なんにせよ、情報収集と探索は無駄にはならないし、彼らだって結城の行動を咎めることはないだろう。

「…分かった。それじゃ村の方へ行くとしようぜ」
「ああ、すまないな」



こうして二人は村にある翠屋を目指して北上することとなった。

「そういや結城さん、さっきのニードルって奴のこと、あんたは知ってるか?」
「いや、記憶にないな」
「そっか…」

道中の零からの質問に、結城は否と答える。
実際の所ニードルは結城たちの世界の住人なのだが、彼がニードルと会うのは本来の未来においてはもう少し後のことであった。

「一回目の放送に出てきた男は、サラマンダー男爵…だっけ?石堀って人の話によれば、プリキュアと因縁のある相手だって話だったっけ」
「ああ…そしてオリヴィエという少年を人質に取られているかもしれないという話だったな」

冴島邸で軽く行った石堀達との情報交換を思い出しながら、結城は唸る。
そして、密かにメモを取り出し何かを書いた。

『もしもこの話が本当ならば…付け入る隙があるかもしれない』

結城の筆記による会話の内容を読んだ零もまた、メモに書き込む。
ちなみに、二人とも怪しまれないようにそれらしい会話を続けていることを明記しておく。

『だけど結城さん、元々そのプリキュアとサラマンダー男爵って奴は敵対してたんだろ?参加者で時間軸がバラバラで違うみたいだし、あんまりアテにしない方がいいんじゃないか?」
『確かにそうかもしれないな。だが、例えサラマンダー男爵が黒だったとしてもだ、それでもやはり主催陣営にはどこか穴があると私は思う』
『どういうことだ?』
『これまで得た情報を照らしてみても、私達が時間どころか世界そのものがバラバラに飛ばされたことは確かだ。そしてそれは主催陣営にも同じことが言える可能性が高い』
『主催側も、バラバラの世界で構成されてる可能性があるってことか』
「そうだ。そして、そういう集団となればおそらく目的もバラバラ、決して一枚岩ではないはずだ』

結城丈二にはデストロンの幹部時代、仲間に裏切られた苦い過去がある。
単一の組織でさえそうなのだ、複数の組織の集合体ともなれば必ずどこかで綻びが出る。
そこが狙い目だと、結城は考えていた。

『まあ、仮に主催側に裏切り者がいたとしても連絡を取る方法もないしな。今は私達にできることをやっていこう』
『了解っと』

そんな筆談と会話を繰り広げながら、彼らは翠屋へとたどり着いた。



翠屋。それはすでに死んでしまった高町なのはの両親が経営するおしゃれで雰囲気の良い喫茶店である。
もっとも、客も店員もいないここにある翠屋では、殺風景で雰囲気もへったくれもないだろうが。
そして…その翠屋の店の上空に…それはあった。

「これは…時空魔法陣か!?」
「知ってるのか、結城さん」
「ああ…人や物を一瞬で別の場所へ移動させてしまう魔法陣だ。おそらく移動に役に立つものというのは、あれで間違いないだろう」
「ふぅん、なるほどね」

結城の言葉を聞くと、零はずんずんと店に近づいていく。
そして、魔法陣の真下へとやってくると、


「はっ!」


その場で手を伸ばし、ジャンプする。
しかし零の伸ばした手は、魔法陣をすり抜けたまま何も起こらず、そのまま自由落下で重力に従って地面に着地した。

「ちぇ、やっぱ条件を満たさないとダメみたいだな。もし使えるなら目的地の街までひとっとびだったのにな」
「先ほどのクイズを信じるならば、使用条件は二人以上の参加者の殺害…だったな」
「なあ結城さん、あんたこの魔法陣のこと知ってるんだろ?これ使って主催者のとこに乗り込むとかって、出来ないのか?」
「少なくとも今は、厳しいな。主催側のコントロールシステムでも乗っ取れば可能かもしれないが…」

そもそもこれはBADANの兵器であり、結城も詳しい仕組みまでは把握していないのだ。
この魔法陣は、日本から月へ一瞬で移動させるほどの力を持っている。
そんなものをこの狭い舞台内での移動に使うとは、なんとも贅沢な話で胡散臭ささえ感じる。

「とりあえず結城さん、この周辺を調べてみないか?さっきの放送では新しいボーナスのことも言ってたし、何かあるかもしれない」
「そうだな、一文字達には悪いが、どうせ調べるなら徹底的にやってしまおう。私は店の周辺を調べてみるから、そっちは店の中を調べてみてくれ」



(時空魔法陣があるということは…やはりこの殺し合いにはBADANが?)

周辺の探索をしながら、結城は考える。
この殺し合いが始まってすぐのころにも考えた、BADANの関与の可能性を。

(しかし、そうなるとやはり三影の存在が分からなくなってくる)

一応、BADANが関与しているにも関わらず三影が参加している理由をいくつか考えてはみた。

一つは、三影が主催者と繋がっている可能性。
だが、もし三影が主催者と繋がっているのなら、それこそ他の参加者より優遇されて、最初の6時間で死ぬようなことは無いように思える。
まあ、優遇など無意味なほどの強い参加者と運悪く出会ったというのなら話は別だが、優遇されていたなら初期位置自体が恣意的に選ばれる気がする。

二つ目は、三影が村雨同様にBADANを脱走した可能性。
この場合脱走の理由が分からないが、可能性としては決して低くない気がする。

三つ目の可能性。
別の世界、または時間軸の三影を連れてきた?
パラレルワールドの存在をすでにこの殺し合いの中で確認している以上、可能性がないわけではないが…

(そういえば、村雨は私の時間軸より過去から連れてこられているんだったな…)

数時間前に出会った村雨良を思い出す。
そう、ここにいる村雨は過去の村雨。
その過去の村雨が仮に死んでしまった場合…


(未来の…私の時間軸での村雨はどうなるんだ?)


タイムパラドックスには、主に『変更型』と『分岐型』の二つの説がある。
変更型とは、過去が変われば未来が変わるという考え。おそらく最もメジャーな考え方だろう。
この説を取った場合、結城の世界では村雨は死んでいるという事になる。
一方で分岐型とは、過去を変えても未来は変わらず、新たな別の時間軸が生まれるという考えだ。
この考えの場合、ここの村雨が死んでも『村雨良が死亡した時間軸』という結城の時間軸とは無関係な新たな別の時間軸が生まれるだけで、結城が元の世界に帰っても村雨は生きているという事になるわけだが…

(……考えても分からないな。例の『時を止める』能力を持った参加者なら、何か知っているかもしれないが…)

しかし、参加者の半数が死んでいる以上、その参加者も死亡している可能性が高い。
もしも生きているなら、話を聞きたいものだが…

(そもそも何故、連れてこられた時期をバラバラにする必要があったんだ?)

零のように、参加者間での情報の齟齬による対立を引き起こす為か?
それとも他に何か理由があるのか?

(それ以前に…最初の場所で石堀や西条の同僚だという孤門も言っていたが、なぜ私達が選ばれたのか。そして、私達の命をあっさりとその手に握りながら、殺すこともなくこんなところへ連れてきて殺し合いを行わせる理由は?)

考えれば考えるほど疑問は尽きない。
とりあえず結城は、今生じた疑問をメモにまとめ、再び辺りの探索を始めた。



翠屋周辺の探索を一通り終えた結城は、翠屋店内の扉を開けた。
そして辺りを見回すが、零の姿は見当たらない。

(奥の厨房の方か?)

結城はそう思い、厨房の方へと向かった。


「涼邑、いるか……」

「……………あ」


目の前の零の口の周りには、白いクリームがついていた。
利き手にはフォークを持ち、フォークにはショートケーキの欠片が刺さっており、それを口に運ぼうとしたところで、零の腕の動きが急にピタッと停止した。
そして、フォークをケーキの乗った皿の上に置くと、バツの悪そうな顔になった。


「………涼邑」

「い、いや!サボってたわけじゃないぜ!ただ、作り置きのケーキが沢山あって、腐らすのも悪いし、休憩がてらつまもうと…」


あたふたしながら言い訳をする零に、結城は思わず吹き出してしまった。

「…まあ、せっかくだ。食事にするか」
「お、おう!腹ごしらえは大事だからな!」

時刻はまもなく3時。おやつの時間だ。


「ほう、上手いな。きっとパティシエはいい腕をしているのだろうな」
「こっちも上手いぜ!結城さん、食べてみろよ」

何故か厨房の冷蔵庫には大量のケーキが作り置きされており、二人はそのケーキで食事中であった。
零は甘いものに目が無いらしく、先ほどからとてもおいしそうに食べている。


(…こんな表情もできるんだな)


今まで結城が見てきた零は、冴島鋼牙、あるいはバラゴへの憎しみに満ちた表情や、どこか一線引いたような飄々とした態度。
そして、鋼牙に諭されて以降の、強い決意に満ちた表情。
そういうものが多かったように記憶している。
しかし、今ここにいる零は、どこか子供っぽくも見える年相応の(まだ20も越えていないらしい)青年に見えた。

「ん?どうしたんだ結城さん?俺の顔になにかついてるか?」
「…いや、うまそうに食うなと思ってな」
「モグモグ…昔は…モグモグ…そこまで…モグモグ…好きだったわけじゃ…モグモグ…ないけどな」
「…しゃべるか食べるか、どちらかにしろ」



こうして食事を終えた二人は、翠屋を出発することになった。
一応零は、探索自体は本当にちゃんとやっていたようだが、特にめぼしいものは見つからなかったそうだ。

「途中で志葉屋敷に立ち寄ってから、村を出るとしよう」
「あんたの仲間との合流は、完全に大遅刻だな」
「なあに、一文字も沖も、各々でしっかりやっているさ。村雨は少し不安だが…彼がついている限り、道を踏み外すことはないはずだ」
「鋼牙か…魔戒騎士として、あいつには負けてられないな」

どこかで戦っているであろう仲間達を想いつつ、二人は歩き出した。


【一日目/午後】
【C-1/翠屋付近】

【結城丈二@仮面ライダーSPIRITS】
[状態]:健康
[装備]:ライダーマンヘルメット、カセットアーム
[道具]:支給品一式、カセットアーム用アタッチメント六本(パワーアーム、マシンガンアーム、ロープアーム、オペレーションアーム、ドリルアーム、ネットアーム) 、パンスト太郎の首輪
[思考]
基本:この殺し合いを止め、加頭を倒す。
1:殺し合いに乗っていない者を保護する
2:零と共に移動し、とりあえず志葉屋敷を目指す
3:一文字、沖、村雨と合流する。ただし18時までに市街地へ戻るのは厳しいと考えている。
4:加頭についての情報を集める
5:首輪を解除する手掛かりを探す。
  その為に、異世界の技術を持つ技術者と時間操作の術を持つ人物に接触したい。
6:タカヤや石堀たちとはまた合流したい。
7:また、特殊能力を持たない民間人がソウルメタルを持てるか確認したい。
8:時間操作の術を持つ参加者からタイムパラドックスについて話を聞きたい
[備考]
※参戦時期は12巻~13巻の間、風見の救援に高地へ向かっている最中になります。
※この殺し合いには、バダンが絡んでいる可能性もあると見ています。
※加頭の発言から、この会場には「時間を止める能力者」をはじめとする、人知を超えた能力の持ち主が複数人いると考えています。
※NEVER、砂漠の使徒、テッカマン、外道衆は、何らかの称号・部隊名だと推測しています。
※ソウルジェムは、ライダーでいうベルトの様なものではないかと推測しています。
※首輪を解除するには、オペレーションアームだけでは不十分と判断しています。
 何か他の道具か、または条件かを揃える事で、解体が可能になると考えています。
※NEVERやテッカマンの情報を得ました。また、それによって時間軸、世界観の違いに気づいています。
※首輪には確実に良世界の技術が使われている・首輪からは盗聴が行われていると判断しています。
※零から魔戒騎士についての説明を詳しく受けました。
※首輪を解除した場合、ソウルメタルが操れないなどのデメリットが生じると思っています。
※彼にとっての現在のソウルメタルの重さは、「普通の剣よりやや重い」です。感情の一時的な高ぶりなどでは、もっと軽く扱えるかもしれません。
※村雨良の参戦時期を知りました。ただし、現在彼を仮面ライダーにすることに対して強い執着はありません(仮面ライダー以外の戦士の存在を知ったため)。




涼邑零@牙狼─GARO─】
[状態]:健康
[装備]:魔戒剣、魔導火のライター
[道具]:支給品一式、スーパーヒーローセット(ヒーローマニュアル、30話での暁の服装セット)@超光戦士シャンゼリオン、薄皮太夫の三味線@侍戦隊シンケンジャー、シルヴァの残骸
[思考]
基本:加頭を倒して殺し合いを止め、元の世界に戻りシルヴァを復元する。
0:志葉屋敷の方へと向かう。
1:魔戒騎士としてバラゴを倒す。
2:結城と共にバラゴを倒す仲間を探す。
3:殺し合いに乗っている者は倒し、そうじゃない者は保護する。
4:会場内にあるだろう、ホラーに関係する何かを見つけ出す。
5:結城に対する更なる信頼感。
6:また、特殊能力を持たない民間人がソウルメタルを持てるか確認したい。
7:涼村暁とはまた会ってみたい。
[備考]
※参戦時期は一期十八話、三神官より鋼牙が仇であると教えられた直後になります。
※シルヴァが没収されたことから、ホラーに関係する何かが会場内にはあり、加頭はそれを隠したいのではないかと推察しています。
 実際にそうなのかどうかは、現時点では不明です。
※NEVER、仮面ライダーの情報を得ました。また、それによって時間軸、世界観の違いに気づいています。
 仮面ライダーに関しては、結城からさらに詳しく説明を受けました。
※首輪には確実に異世界の技術が使われている・首輪からは盗聴が行われていると判断しています。
※首輪を解除した場合、(常人が)ソウルメタルが操れないなどのデメリットが生じると思っています。
 また、結城がソウルメタルを操れた理由はもしかすれば彼自身の精神力が強いからとも考えています。
※実際は、ソウルメタルは誰でも持つことができるように制限されています。
 ただし、重量自体は通常の剣より重く、魔戒騎士や強靭な精神の持主でなければ、扱い辛いものになります。


※時空魔法陣は翠屋の真上の上空にあります



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最終更新:2013年08月05日 10:00