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【最強決定トーナメント】

「何かおもしろいことをしようじゃないか!」

 そう、提案したのはいつものごとくのお騒がせな一柱。

「いいぜ!おもしろいことは大好きだ!喧嘩はもっと好きだけどよッ!」

 最初に呼応したのは、考えなしの暴れん坊で有名な一柱。

「なるほど、しかし、具体的には何をするおつもりですかな?」

 次に興味を示したのは普段は影をひそめている印象の強い蠢く群れを代表した一柱。

「なんだか面白そうねぇ~、そういえばお祭りには屋台はつきものよね?」

 まだ具体的には何も決まっていないのに、すでに屋台での食べ歩きに心躍らせる一柱。

「試練であるか?試練ならば仕方ないのである」
「やりたきゃ勝手にやれよ、面白そうなら見物くらい嫁といっしょにしてやるからよ
「何か必要な物があれば言うといい、我が創ろう」
「☆¶?○÷ΔΣ×●※!
「私は見守っていますよ」
「・・・・・・」
「・・・・・・」

 そのほかはといえば、これまたいつも通りの反応。
 あまりにも強大な個である彼らに協調性というものは存在しない、ただ大小無数に存在する彼らの中で不思議とこの十一の存在は馬が合うというのか、彼らの感覚とすればほんのちょっと前に行った世界と世界を繋ぐという、戯れとしては少々大それたことも彼らが興味を示して事を成したからであり、そういう意味では彼らはなんだかんだと言って相性が良いのかもしれない。

「フッフッフッ・・・、何をやるかについてはだね、実はもう考えてることがあるんだよ!」
「喧嘩か!喧嘩だな!?よぉし喧嘩だ!喧嘩をしようぜッ!!
「まぁまぁ、落ち着きましょう。しかし、いったい何をしようというのですかな?」
「フフフ・・・そ・れ・は・だねぇ~・・・」

 やろうと思えばほとんどのことができてしまう。そうした時間と実行力だけは無駄にありあまっている存在達、その中でも特にそうした無駄な思い付きと行動だけはある「頼むから寝ていてくれ」と言われても「いやだよー!バーカ!」と即反応するようなそうした存在の一柱が中心となっての悪だくみ、それはこうして密かに練り上げられ、そのハタ迷惑な戯れに多くの人々が否応なく巻き込まれることになる。



 異世界。それはこれまで伝説や伝承などという不明瞭なものとして語られてきた存在。それが1991年の初頭、突如として異世界側に存在する『神』と呼ばれる超越した力を有する存在達によって地球世界と突如として交わることとなったもう一つの世界。
 その異世界に存在する西大陸の外れにかつてはスラフと呼ばれ、今はスラヴィアと呼ばれる死と魂を司るとされる『神』モルテによって仮初の命を与えられた屍者達によって統治される宵闇の王国、その王都にあるコロシアムは今や異常な熱気と喧騒に満ちていた。
 本来、異世界と地球世界を結ぶ大ゲートと呼ばれる接続点は双方の世界の対応する地点をそれぞれ結ぶだけのもの、しかし、ある時期だけその条件が緩和されることで双方の世界から行きたい地点への通行が可能になる。
 それによって双方の世界の人々は普通であれば地理的条件によって断念せざるを得なかった選択が可能になり、普段であれば地球世界側の接続点が南極という極めて人の往来を限定させる条件にあるスラヴィアにおいてもここまで多くの双方の世界の人々が訪れるという光景が実現できたわけである。
 無数の観衆で賑わうコロシアムの中央、それまで闇に沈んでいたその場所に、まるでスポットライトのように空の星々から光が降り注ぎ、煌々と照らし出されたその場所に観衆の視線が集まる。
 さまざまな期待の籠った無数の視線の集まるその中央には円形のリングと、その上に立つ一つの人影があった。

『ハ~~~ハッハッハッハッ、ゲホゲホゴホゴホッ・・・』

 注目されることに気を良くし、雰囲気が出るかと思って高笑いをしてみたところ、その人影は見事に噎せて咳き込んだ。

『・・・レディースアンジェントルメン!ようこそ最強決定トーナメントへ!』

 スラヴィアの女王である屍姫サミュラの2Pカラーのような姿をした『死神』モルテは少々息を整えた後、まるで先ほどのことはなかったものとするかのように満面の笑みを浮かべてコロシアムの観衆に向かって声を響かせる。

『ここでこれから行われるのはおそらく君達がこれまで観たこともない戦いになることをこの僕が保証しよう!末代まで語り継げるとね!』

 コロシアムに集った群衆の多さ、そして彼らの期待の眼差し、それにご満悦らしきモルテはオーバーアクション気味にそう語ってみせる。

『さて、それではルール説明だ!ルールは簡単!16人あるいは16組の選ばれし猛者がこのリングの上で戦い、戦闘不能になるかリングの外に落とされるかしたほうが負け、相手を戦闘不能にするかリングの外にはじき出したほうが勝ち!ね!簡単でしょ?』

 モルテの説明を補足するかのようにリングの上空にはトーナメントの対戦表が浮かび上がる、ただしそこにはまだ出場者の名前などは記されてはいない。

『ただし、このリングはちょっと特別製でね!何が特別かって言うと・・・・・・えーっと・・・・・・あぁ、そうだ説明書があったんだ(ガサゴソ)う~~~んと・・・・・え~~~~っと・・・・・・んん~~~?』

 それまで饒舌だったモルテの口調が急激にたどたどしく、そしてあやしくなりはじめ、ポケットから取り出したしわくちゃな紙を広げ、眉間に皺を寄せた顔に近づけたり遠ざけたり、あるいは横にしたり縦にしたり斜めにしてみたり。

『・・・・・・おーい!セダル!バトンタッチ!』

 そして、それから少しとしないうちに簡単にその努力を放り投げた。いや、モルテの性格を考慮するならかなり努力したほうと言えなくはないが、それでもその瞬間からかの存在は司会者としての責任を放棄し、ルール説明を別の者に盛大にぶん投げる選択をしたのだ。

『え?渡した説明書を読め?読んだよ!でも全然わかんないよッ!そもそもこういうのは君のほうが得意だろ!?』
リングの上で何者かとあーでもないこーでもないとしばらくモメるモルテ、その様子は拡声されて観客にまで届く始末。正直言ってかなりみっともない姿である。

『もういいから!ボクはもうやらないからねッ!だから君がやってよッ!』

 モルテはそう言ってプンスカしながらトコトコとリングの上を歩きはじめる。それはまさに自分の思うようにならずに癇癪を起こす子供のそれである。
 モルテが職務放棄をしてリングの中央から移動すると、それを天上から照らしていた星の光もそれを律儀に追いかけ、かの存在がそのままリングの下へと降りたことでコロシアムの中央からは光が失われる。

「え?どういうこと?」
「どうなってんだよ一体、まさかこのまま中止じゃないよな?」
「まぁあのモルテだしな・・・・・・」

 観客席からは様々な声が上がりざわつきはじめた頃、再び空よりコロシアムの中央に光が注がれ、一度は誰もいなくなったそのリングの上にモルテとは異なる人影の姿があった。

『さて、本来こういうことはあまり気乗りしないのだが、モルテがその職責を放棄した都合上、我の他にこれが何かということを説明できる者がいないのだから仕方がないか』

 そうモルテと同じくコロシアム全体に響く拡声された声を発しながら円形の舞台の上に姿を現したのはまるで人形のように端正な顔立ちと体つきをした少年、スラリとしたその肢体は一見するとノームのようだが、その背丈はどちらかといえば地球人類に近い、しかし耳に位置する部分から突き出した金属的な質感の突起と彼の体に刻まれた幾何学的な刺青のような紋様、そしてその双眸が様々な色彩の光によって浮かび上がる様は彼がそうした存在ではないことを雄弁に物語る。
 かの存在の名は『鍛冶神』セダル・ヌダクルスベルグの主神にして鍛冶と創造を司る神であり、今回のこのモルテの思いつきと無茶振りから始まったイベントの骨子と運営を『巨石神』ディルカカとともに担う存在である。

『我がモルテに頼まれ、ディルカカより提供されたマテリアを基にして作製したこれを矮小なる存在の限られた思考域でも分かりやすく説明するなら、すべての存在を均一化する器だ。この地上1.252341メトル、直径14メトルの円状空間では事象顕現領域に束縛されるべき事象因果はその意味を一度虚数因果に分解され、我とディルカカによって新たに定義された仮設法則の下で作用するようになるわけだが―――』

 わかりやすくと言っておきながら、その内容はまったくもって難解であった。
 その場に居合わせる観衆皆が頭の上に?マークを出しながらポカンとしているのもお構いなしとばかりに、セダル・ヌダは単語の羅列を音声出力していくが、ただただ観客の頭の上の?マークの数が増えていくだけである。 

「ちょっとちょっとぉ!ぜんっぜんわかんないんですけどぉ!?ほらぁ?会場のみなさん首捻ってるしぃ!」

 説明が始まって間もなく、リングの外からモルテのクレームの声が上がる。

『・・・矮小な存在にはこれでもわからないか。では仕方ない、試運転を兼ねたデモプレイといこう。ウルサ、ちょっとこっちに来い』

 本来なら自分のすべき仕事であることも遥かかなたに放り投げ、無関係な第三者を装うモルテのクレームにセダル・ヌダは無表情ながらに溜息をつき、極めて芝居めいた動作でやれやれという仕草をすると、同じ神の一柱の名を言ってその存在をこの場に呼び寄せる。

「なんだ?喧嘩か!?」

 セダル・ヌダの呼び声に反応したのはかの存在の背丈のゆうに倍はあるかという逞しく均整のとれた肉体をもった存在、ドニー・ドニーの主神にして戦いを司るとされる『戦神』ウルサである。

『あぁ、そうだ。相手をしてやろう』

 繊細精緻な芸術品めいた華奢な体躯のセダル・ヌダはのしのしと巨躯を揺らしながら天から降り注ぐスポットライトに照らし出されてリングのほうへとやってくるウルサに対し、まるで挑発するようにウルサへと片手を向け、その指先をクイクイと内側に数度折り曲げてみせる。

「ヒャッハー!喧嘩だッ!」

 セダル・ヌダの言葉に反応し、どこぞのペットフードのCMに登場する犬か猫のようにリングの中へと飛び込んでいくウルサ。
 今や神話の中でしか語られなくなった神同士の戦い、『鍛冶神』と『戦神』の戦い、超常の破壊が予想される戦いがこれから行われるということに、コロシアムの観衆の中で戦慄めいた衝撃と緊張が駆け巡る。

≪ROUND1 FIGHT!!≫

 その瞬間、まるでどこかの格闘ゲームの試合開始を告げる掛け声を思わせる声が会場全体に響き、リングの上に立つセダル・ヌダとウルサの頭上に、それこそどこかで見たような赤と青のゲージが浮かび上がる。

『このほうが分かりやすいとラーとモルテが主張したので、このように地球のゲームで用いられる視覚効果を使わせてもらうこととした』
「もう喧嘩ははじまってんのに余裕だなお前ッ!」

 リングの上でほぼ棒立ちのまま説明を続けるセダル・ヌダと、そんなのお構いなしだとばかりに突進し、凶暴な笑みを浮かべながらその端正すぎるがゆえに人形めいた彼の顔面に容赦なく拳を叩きこむウルサ。
次の刹那、ドンという空気を震わせる衝撃音が辺りに響き、一部の観客は思わず目を背ける。

『このようにウルサの考えなしの攻撃はこの場ではあまり有効な攻撃とは換算されない、少量の体力ゲージを失わせる程度だ』

 戦神の一撃を顔面に受けながら、セダル・ヌダは何事もなかったかのように平然と言葉を続け、彼の言うように頭上に浮かぶ体力を示す赤いゲージは僅かに減少しているように見える。

「お?おおおおお!?」

 おそらくはかなり自信のある一撃だったのだろう、ウルサは自らの拳を平然と受け止め、それにもかかわらずその場で何事もなかったように説明を続ける同じ神の座にある存在の顔から拳を引き戻すと、訳がわからないとばかりに何度も自らの拳とセダヌ・ヌダの顔面の間で視線を往復させる。

『この場で相手に有効な攻撃を与えたいのであれば青く表示された神力ゲージを消費して攻撃を行うことを推奨する。神力ゲージは体力とは異なり時間経過によって蓄積され、技の使用によって消費された場合でも時間経過で回復する。そして最大にまで蓄積された神力を消費することで―――』

 そうセダル・ヌダが言った次の瞬間、その手に虚空から巨大かつやたらにメカニカルな意匠のハンマーが出現し、そのグリップ部分が彼の両手の中に収まると、まるでロケットのようにハンマーの一方から轟音と火柱が噴き上がり、それこそロケットのように瞬時に加速し、先程のウルサの一撃を超える勢いでヘッド部分がいまだにキョトンとした表情を浮かべるウルサの顔面へと向けて振り抜かれ・・・

≪ULTIMATE FINISH!!≫

 キーンと、まるでホームランのような音と激しい閃光と共に、ハンマーによって打ち抜かれ音速を遥かに超え、限りなく光速に近い勢いでコロシアムの外へと弾き飛ばされてそのままキランと空の星になるウルサ。

「ムチャしやがって・・・・・・」

 キラリと天上の星の一つとなったウルサに向かって、リングサイドからなぜか一人哀愁漂う表情を浮かべて敬礼をするモルテ。

『このようにタイミング良く蓄積された神力を使うことで一撃で勝負の決着をつけることのできる必殺技を使用できる。ここまで視聴覚での理解のしやすい説明をすれば矮小な存在でも理解できたのではと我は思う』

 赤い体力ゲージの下、青い神力ゲージをほぼ0になるまで大幅に減らしながら説明を続ける鍛冶神、ハンマーを傍らに置いた彼の表情はどこか満足げであった。

『そして補足だが、興が乗ったのでこれとほぼ同じ仕様をゲート通行証にも組み込んでおいた、通行証をもった者同士がある一定距離で対戦申請を行い受理されれば、その周囲に力場が形成され、先ほどと同じようなことが可能になるようにしてある、対戦の勝敗は記録され最も勝利数の多い者には報酬が出るとのことだ』
『ハイハイ!御苦労さま!セダルはルール説明だけしてくれればいいの!そういうのは僕がやるからさっさと交代してくれないかな!』

 面倒事が解決したと見るや、驚くべき迅速さでリングに上がってきたモルテがセダル・ヌダを押し出すようにリングの端に移動させ、そのまま「シッシッ」と手でジェスチャーをして完全にリングの外へと排除、そのまま何事もなかったように司会進行を再開する。

「さてっと!セダルも言ったようにみんなが持ってるゲート通行証はそういうこともできるようになってるからみんなも遊んでみてね!一番勝利数が多い人にはご褒美がまってるよ!」

 モルテの言葉にコロシアムの観衆は自らの所持するゲート通行証に目をやり、気の早い者はその場でやってみようとするが『あぁ、このコロシアムの中ではその機能は使えないようにしてあるからね』というモルテの補足で断念する。コロシアムでのイベントの後、方々で先ほど見たのとよく似た光景が繰り広げられるのは間違いないことだと誰もが想像したのは言うまでもないだろう。

『さて!いよいよトーナメント出場選手の登場だよ!トーナメント出場選手を決めるのはコレッ!』

 そう言ってモルテがお腹のあたりに開いた小ゲートから「チャラチャッチャッチャラ~」などとどこかで聞いたことのあるようなないような、そんなセルフ効果音を口ずさみながら取り出した物、それは・・・・・・

『どこにいても誰でも呼び出せるドア~』

 モルテの楽しげな声と共にニュルリという効果音がつきそうな感じで小ゲートから取り出され、そのままリングの上に置かれたのは幾何学模様の凝った装飾が全面に施された両開きの扉。

『フッフッフッ・・・・・・みんなこれが何かと困惑しているね?そう!これは僕が夜も寝ずに昼寝しながらゲームしてる横でセダルに作らせた自信作!この時期の大ゲート通過者がみんな身に着けている通行証を目印に、ランダム選択と一部僕の独断と偏見で無理やりここへ引っ張ってこれるようにするアイテムだよ!どお!?すごいでしょ!?』

 どこまでも他力本願なことをさも自分のやったことのように自慢げに語る相変わらずのクオリティーを炸裂させつつ、ポンポンバシバシと傍らの扉を叩きながら説明をするモルテ、その光景を見守る会場には一気に微妙な空気が充満するが、そんなことお構いなし。

『さて!それではこのリングに召喚する猛者達の登場だよ!』

 観衆達は内心で「それは犠牲者と呼ぶのが正しいよね?」とつぶやき、あるいは『頼むから私ではありませんように』と祈りながらモルテが扉を開く光景を固唾を飲んで見守る。

『誰が来るかな~誰が来るかな~チャラララ~ン♪』

 お昼時、サイコロを転がしたくなるテンポのリズムを口ずさみながらモルテが扉のドアノブに手をかけ、そのまま一気に観音開きに開け放つ、その瞬間、開け放たれた扉の中から煙が吹き出し瞬く間にリング上は煙に包まれる。

『ゲホゴホ・・・・・・ッ!ちょっとスタッフゥ!スモーク焚きすぎッ!誰がやったのよ責任者出てきなさいよぉ!あ、僕か・・・・・テヘペロッ♪』

 モクモクと立ち込める煙の中、モルテの一人ノリツッコミの声が響いたと思った次の瞬間、パチンという指を鳴らす音とともにリングの上の煙が跡形もなく消失し、煙の晴れたリングの上には大小様々、種族も様々な男女が様々な感情、多くは困惑の浮かぶ表情をして立ち並んでいた。


「あれ?シィちゃん?マスター?というかここってどこ?」

 完全に理解が追い付いていないといった様子で、フタバ亭と大きく刺繍されたエプロンをかけたノームの少女が一人キョロキョロと周囲を見渡している。
 彼女の名前はラニ、新天地のニシューネン市にある小さな飲食店フタバ亭のごくごく普通の従業員。
 フタバ亭の経営者夫婦の古い知り合いだという七大海賊の一つ『黄金の杯』の代表であるネモチーの誘いを受け、大きな祭りがあるというスラヴィアまでフタバ亭の面々とともにやってきたのだが、気が付けばこうしてコロシアムのリングの上に立っている状況である。


「あれ?アデーレ、私たちさっきまであそこにいたよね?ほら!あそこでレシエさんがこっちに何か言ってるよ?」
「コロシアムの特別試合の観覧に来たはずが、どうして出場者になんて・・・」

 客席の一角を指し示しすカジュアルな服装をした10代の日本人らしき女性と、その横で状況が多少理解できるだけにさらに困惑するスラヴィア貴族らしきエルフの女性。
 二人の名前は緋沢優衣とアデーレ・パルファンドゥール、二人は恋人同士であり、なり立て新米屍者と先輩屍者という関係でもある。
 今日はアデーレの師であるレシエ・バーバルディアとともにコロシアムでの特別試合の観戦に訪れたはずが、気が付けばリングの上に立っているという状況である。


「ここはどこだ?ラ・ムールの闘技場、じゃねぇよな。そもそも俺はミズハへの里帰りで門をくぐったはずなんだが・・・・?」

 腰に刀を差した身軽な旅装姿の蜥蜴人の男性が首をグルリと回して周囲を見渡しながら困惑したような声を出している。
 彼の名はカナヘビ、現在はラ・ムールを拠点に傭兵兼用心棒をして生活の糧を得ているミズハミシマ出身の蜥蜴人。
 旧知からの報せで故郷へ久方ぶりの帰郷を決心し、大ゲートをくぐったと思えばそこは目的地とはまったく異なるスラヴィアという状況である。


「あぁ!シキョウ!本当にシキョウなのだな!?」
「な、なんだよスイメイ!?ベタベタ俺の顔なんか触って気持ちわりぃな!」
「あぁ、間違いない本物のシキョウだ・・・・・・この温もりが夢や幻であるものか・・・・・・ッ!!」
「おい、スイメイ・・・・・・お前本当に大丈夫か?」


 やや古風な大延国の装束に身を包んだ狐人の男女が周囲のことなどまったく気にしてないという感じで二人のやり取りを繰り広げている。
 二人の名はスイメイとシキョウ、両者とも大延国の歴史を少しでも知る者、あるいは武芸者なら一度は耳にしたことのある有名人でありはるか過去に名を残した者たちである。
 シキョウは数百年の昔に天授を全うし、スイメイはシキョウ亡き後にその姿を歴史の表舞台から消した。
 その二人がモルテの企みとそれに協力した神々の力によって往時の若々しい姿をもってこのリングの上に姿を現したという状況である。


「ヤクやら何やらいろいろな調達にゲートの自由往来は便利かな~って思って利用してたんだけど、なるほろ、こういう落とし穴もあったわけね☆」

 ところどころにドス黒いシミのある白衣を身にまとったアラクネが複眼でキョロキョロと周囲を観察しながらギチギチと独り言を呟く。
 彼女の名はネビオラ、ラ・ムールのオアシス都市ディセト・カリマの暗部を巣とするアラクネであり、自らの探究心を満たすためには他者だけでなく自分自身でさえ容易く犠牲にするマッドサイエンティスト。
 大ゲートの自由往来をチャンスと各地のゲートを使って研究に必要な物資の調達を行っている最中、モルテに呼び寄せられてこの場所へやってきたという状況である。


「まいったな、チハルとはぐれてしまった。はやく戻らないと後が怖いぞ」

 口ではまいったなどと言いながら、顔にトライバル模様の入れ墨を彫りこんだオークは落ちつき払った仕草でツバ広の羽根つき帽子に手をやり被り直す。
 彼の名はバルバンクール、ドニー・ドニーのう現統治者『大船長』ラウダフルが擁する海賊団の幹部にしてドニー・ドニーでも指折りの剣客。
忙しい合間を縫って休暇をとっての妻とのささやかな大ゲートを利用しての旅行の最中、モルテによってこの場に連れて来られたというのが今の状況である。


「お父様、仕事中に突然こんなところに引っ張り出されるなんて職務妨害だとは思いませんか?お祭りだからって誰も彼も暇だと思っているんでしょうか?みんなが楽しんでいる時に裏方は死ぬほど忙しいってことがわかっていないらしいそこのサミュラ様のパチモンに何か文句を言わないと気が済まない気分です」

「・・・・・・」

 巨大な8本腕のムークの頭の上、チョコンとシャベル片手に鎮座した垂れた獣耳が特徴的な少女は、ビシリとモルテのほうへとシャベルを向けながらおとなしそうな外見とは不釣り合いな毒を含んだ言葉を一気にまくしたて、それに同意するようにムークが体全体を上下に揺らしてみせる。
 二人の名は岩窟王と監獄姫、スラヴィアの地下を領地とするサミュラによって創造された最古の貴族である。
 二人は日夜スラヴィアの地下に関わる様々な事業に従事し大忙しであるにも関わらず、こうしてモルテによって呼び出されて大変立腹している状況である。


「ヒック、お酒がないわよー!おかわりじゃんじゃんもってこーーーいッ!」
「姉さん、今はそんな場合じゃないからッ!」

 空になった酒瓶をブンブンと振り回しおかわりを要求する完全に酔っぱらった状態のケンタウロスの娘と、周りの状況に困惑しながらもそれを静止しようとするもう一人のケンタウロス娘、二人が身に着けているのは東部イストモスで一般的な民族衣装、そしてその容姿は実によく似ており、双子の姉妹だと推察できる。
 二人の名は精霊を魅了する稀代の踊り子の才をもつが酒と金にだらしない姉のミルミと、星神の加護を受けて未来予知とも言える占いを得意としズボラな姉の面倒を見るしっかりものの妹のルミル。
 二人は方々を旅しながらミルミに求婚してきた厄介な精霊からの逃避行を続けている最中、モルテによってこの場へと呼び寄せられてしまった。


「なるほど、時代が俺を呼んだってわけか・・・」

 植木鉢から土色の足の生えたサボテン樹人がなぜか事情をすべて察したような雰囲気を醸し出しながらパリポリと何かを食べている。
 彼(?)の名はトゲオ、名前以外は謎に包まれたサボテン樹人である。現在の彼はフタバ亭の窓際に観葉植物のごとく植木鉢ごと置かれていたはずだが、たまたま大ゲートを利用したフタバ亭の客が酒に酔った勢いでトゲオに通行証を渡し、そのままその客は出て行ってしまったことでこの場へと呼び寄せられる条件を満たしてしまいこの場へと呼び寄せられることとなってしまったのである。


「商売をしに来たはずがどうしてこんなことになったにゃ?ところで出場者が自分に賭けるのはOKですかにゃ?」

 どうやらコロシアムで飲食の販売に勤しんでいたらしき弁当売りの恰好をしたサバ柄模様の毛並の猫人は、最初こそ困惑の表情を浮かべたものの即座に思考を切り替えたらしく自分で出場者の一人である自分に賭けることも可能かとモルテに尋ね「もちろんさ!」とどこかのファストフードショップ関係の道化師を思わせるニュアンスで即答されている。
 彼の名はサバーニャ・カン・カッツォ、ラ・ムールを拠点として世界各地で商売を行う商人。
 すべてのゲートが往来自由となる期間は計り知れないビジネスチャンスと本来の貿易商とは別に様々な商売をコネを使って行っていたが、はりきりすぎた結果モルテに呼び寄せられてしまった。


「ふむ、長らく饗宴にはヴォーダンを出場させるばかりであったが、新しき創造のインスピレーションを得るにはこうした趣向も悪くはないか」

 二つの虚ろな眼孔の奥に青白い炎を揺らめかせながら、豪奢なマントを引きずるように羽織り、むき出しとなった頭骨には冠を被った一目でスラヴィアの屍者とわかる存在は、そう言って愉快とばかりにカタカタと嗤う。
彼の名は『髑髏王』ヴェルルギュリウス、サミュラによって創造された最古の貴族の一体であり、死体をつなぎ合わせて屍者を創造することに長けている。
  ヴェルルギュリウス本人は大ゲートの自由往来にもそれに伴った祭りにもさして興味はなかったが、モルテの使いである鴉によって運ばれてきた通行証が彼の手元にあったことからこの場に呼び出されることとなった。


「おかしいですね、門の前に居たはずがどうしてこんな場所に?テンコウ何か知っては・・・いませんよね」
「ニャー」

 落ち着いた印象の狐人の女性は傍らに浮かぶフワフワとした犬の姿を模した風の精霊に問いかけるが、問われた風の精霊はといえばまるで猫のような気の抜けた鳴き声をひとつ発した後はだらしなく開いた口の端から舌を出し、空中でクルリと回転して見せるばかり。
 女性の名はセイラン、大延国皇帝クウリの子にして大延国におけるゲートの開いた土地にある門市城の責任者を務める人物。
 その隣に浮かぶ雲とも犬ともつかぬ姿をした風の精霊の名はテンコウ、本来は名のある存在だと言われているが周囲では腑抜けた猫のような鳴き声を発する空を飛ぶ犬としか認識されていない。
 この一人と一体はスラヴィアからの招待を受けてゲートを渡ってやってきたが、スラヴィアについて早々モルテによって呼び寄せられたという状況である。


「セ、セイジョー・・・・・・ど、どうしたらいいの!?」
「そんなの俺に聞かれてもなぁ・・・・・・」
「何よ!私が困ってたら助けるのがあなたの仕事でしょ!それくらい常識でしょ!」
「へいへい・・・・・・」

突然のことに状況が理解できずに傍らに立つ日本人らしき少年に身を寄せる欧米人らしき小柄な少女と、それに対して頬をポリポリと掻きながら頼りない言葉を口にする少年、その反応がお気に召さなかったのか少女は途端にお冠となるが、少年が少女に何があっても彼女を守れるようにしていることと、その視線が注意深く周囲に巡らせているということには気が付かない。
二人の名はティータ・ローチャイルドと七井清浄、スラヴィア新興貴族とその腹心である。
大ゲートの自由往来期間の間はスラヴィアで通常行われている饗宴は中止となり、一時の安息期間を得た二人は純粋に祭りを楽しもうと王都へとやってきたのだが、そこでモルテに呼ばれて気が付けばコロシアムのリングの上に居たという状況である。


「正義のヒーロー!パン・ダー!今日もグゥレィォに登場!死にたい奴からかかってきな!」

大延国では生ける災害などと呼ばれる大黒白、その毛皮を用いたキグルミを身に着け、手には異様な形状の大剣を手にした人物はそう言ってポーズを決める。
 この謎のヒーローについてはすべてが謎である。どうやってなぜこの場所に呼ばれたのか、そのキグルミの中には誰が入っているのだとか、そういった一切合財全て謎である。


「なんだここスッゲー!」
「メノーはどうしてそんなはしゃげるの!?ボク達さっきまでワナヴァンと一緒に空を飛んでたんだよ?それがどうしてこんなところにいるのかとか、まずはそういうのが先じゃないかな!?」
「あれ?そういえばワナヴァンは?」
「ワナヴァン!?ワナヴァンどこーーーッ!?」

 同じ意匠の革製飛行服を身に着けた日本人とエルフの青年二人組、最初こそ日本人青年のことをたしなめていたエルフの青年は、日本人青年の指摘にはたと何かに気が付いた途端周囲に向かって何者かの名を叫ぶが返事は帰ってこず、さらに慌てふためきはじめる。
 二人の名は笛野瑪瑙とイスズ・サレンスカ、地球人の少年である瑪瑙と旅エルフというエリスタリアのエルフの中でも少々変わった部類に属すイスズは幼少期にドニーで出会い、それから親しき友として、そして今は共に冒険する相棒として同じく幼少期からの付き合いとなるワイバーンのワナヴァンと共に大ゲートの自由往来でにぎわう異世界の空を飛んでいたはずが、モルテに呼ばれて今はスラヴィアのコロシアムのリングの上、イスズがいくら呼んでもワナヴァンの姿は見えないという状況である。


「くっそぉ!今度はどこだッ!?いい加減にしねぇといくら温厚な俺でもキレるぞ!」

 そう天に向かって一人吠えるのはまさに今が生意気盛りといった様子の猫人の少年、ここへ来るまでによほど気分を害する出来事があったのか機嫌は絶不調と言った様子で身に着けている衣装もどこかくたびれた感じになっている。
 少年の名はディエル・アマン・ヘサー、少し前まではどこにでもいるごくごく平凡な猫人の少年であった。
 しかし、今は次々と立ちはだかる『太陽神』ラーの試練を突破するという運命を課せられた未来のラ・ムール王、今もラーの試練の真っ最中であったところをモルテによって呼び寄せられたのである。


『フハハハハハ!よくぞ集った猛者達よ!これから諸君らにはこのリングの上で戦ってもらう、見事にすべての戦いを制した者には僕がなんでも願いを叶えてあげよう!』

 リングの上に現れた者達がいまだに状況を把握しきれていない中、そんなの知ったことかとノリノリで進行するモルテ、リングの上からは「なんだそれ!ちゃんと説明しろ!」「そうです!こんな相手の都合を無視するようなことをしてはいけません」という真っ当な苦情や「俺が優勝したらこのふざけた試練をなんとかしてくれるのか!?」という早くも願いを口にする者まで様々。
 その反応に「あっれぇ?なんか予定と違うぞぉ?」という表情をするモルテではあったがここまできたらもうやめられないとまらないである。

『ええい!とにかく次は対戦カードの発表だ!ダラダラダラダダダダダダッ!ダダンッ!』

 無理やりにでも最後まで突っ走る決意をしたモルテの言葉に呼応し、コロシアムの中央上空に浮かぶトーナメント表のそれまで空白だった出場者欄にそれぞれの名前が浮かび上がり、それは同時にそれぞれの対戦カードが決まったことを意味していた。

『さぁ!これで泣こうが喚こうが運命の歯車は動き出した!僕達はその結末を楽しもうじゃないか!』

 一人ボルテージの高いモルテと、それとは逆に「大丈夫なのかこのイベント?」という表情を隠せない観衆と協力した神々。
こうしてスラヴィアの地で様々な感情が入りまじりながら「最強決定トーナメント」と書いて「モルテの拉致被害者達によるリアル格ゲー大会」と読むイベントはこうして幕を開けたのであった。


  • ハピカトルがちゃんと輪の中にいるのが盛大に吹いた。モルテとウルサは想像以上に波長が合う -- (名無しさん) 2015-05-20 23:59:03
  • ほとんど出てこない神が出てくるのは面白いな。行動力はあるんだよねモルテ(自分の興味にだけは -- (名無しさん) 2015-05-21 19:47:54
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最終更新:2015年06月02日 04:20