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149 第112話 奮闘のアラスカ

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第112話 奮闘のアラスカ

1484年(1944年)1月17日 午後9時10分 トアレ岬西方20マイル地点

救出部隊旗艦である巡洋戦艦アラスカが、レーダーに移る敵艦隊を捉えたのは、午後9時を回ってからであった。

「本艦隊より北北西、方位340度方向より28ノットの速力で接近中!距離は約18マイル!」

CICのレーダー員の声が、艦内電話を伝ってアラスカ艦長、リューエンリ・アイツベルン大佐の耳に入る。
リューエンリは電話を置くなり、救出部隊・・・第57任務部隊第4任務群司令官であるフランクリン・ヴァルケンバーグ少将に報告した。

「司令、レーダー員が敵艦隊を発見致しました。」

リューエンリの報告に、ヴァルケンバーグ少将は頬をぴくりと動かした。

「どこからやって来る?」
「敵は北北西、方位340度方向、本艦隊の現針路と交錯する形で、約27ないし28ノットのスピードで迫りつつあります。
現在、我が部隊と敵艦隊との距離は、既に18マイルを割っています。」
「敵艦隊の編成は分からんか?」
「今確かめさせています。」


その時、艦内電話のベルが鳴った。
リューエンリは電話の側に素早く移動し、受話器を取った。

「こちら艦長!」
「艦長、こちらCICです。レーダー反応によりますと、敵艦隊は総勢で16隻です。うち、2隻の反応はかなり大きい。
恐らく、戦艦クラスかと思われます。残り14隻のうち、2隻は巡洋艦です。」

「分かった。」

リューエンリは受話器を置くと、ヴァルケンバーグ少将に今の情報を伝えた。

「司令、敵は戦艦2隻を含む強力な艦隊です。」
「戦艦2隻か・・・・」

リューエンリの報告に対し、ヴァルケンバーグ少将は冷静な表情で言葉を反芻する。

「こっちのほうが不利だな。」

ヴァルケンバーグ少将は呟いた。
敵の戦艦2隻に対して、TG57.4で対抗できそうなのは、アラスカのみだ。

「28ノットのスピードでこっちに向っているとなると、敵さんは新鋭戦艦を連れている場合がある。そうなると、
厳しい戦いを強いられるな。主任参謀、何か意見は無いかね?」

ヴァルケンバーグ少将は、後ろに立っている主任参謀のアーレイ・バーク大佐に言った。

「敵さんの狙いは、クリーブランドに乗り込んだ亡命者の捕縛、あるいは抹殺にあるでしょう。」

バーク大佐は明快な口調で説明を始めた。

「敵艦隊は、恐らく、我々の艦隊に亡命者が逃げ込んだ事を知らされている筈ですが、どの艦に乗り組んでいるかまでは分からないでしょう。
もし、敵艦隊が接近して来れば、敵将はこの中で一番強力で、頑丈な軍艦であるこのアラスカに的を絞って来ると思われます。そこで、
我々は一計を案じます。」
「ほう、どのようにだね?」

ヴァルケンバーグ少将は興味深そうな口調でバーク大佐に言った。

「敵艦隊が現れた後、距離14000メートルまで接近させた後、一旦北西に遁走するのです。敵戦艦2隻は、このアラスカを狙って来るはずです。
この2戦艦をクリーブランドから充分離した上で、我々は本格的な砲撃戦を行うのです。もし、敵艦が新鋭戦艦であっても、接近砲戦を挑めば、
このアラスカでも勝算はあります。」

アラスカ級巡洋戦艦は、55口径14インチ3連装砲を3基、計9門装備している。
この主砲の特徴は、長い射程距離と砲弾の初速が速い事だ。
射程距離は37100メートルもあり、新鋭戦艦であるノースカロライナ級、サウスダコタ級の装備する45口径16インチ砲よりも一際長い。
また、高初速で撃ち出される砲弾は、680キロのSHSを距離17000メートルで厚さ390ミリの垂直装甲を貫通させる事ができ、
近距離砲戦ならば、敵新鋭戦艦に対しても大きなダメージを与えられる物と見込まれている。
ただし、敵が新鋭艦であった場合、遠距離から砲弾(捕虜からの情報で、敵新鋭戦艦が16インチ相当の主砲を装備していると言う事が判明している)
を命中させられれば、14インチ砲防御に留まっているアラスカ級の装甲では耐えられないかも知れない。
効果的に考えられた装甲配置や、機関のシフト配置などで、アラスカは打たれ強い艦になっている。
それでも、16インチ相当の砲弾を受けてしまえば、大損害は免れない。

「敵戦艦が2隻とも新鋭艦ならば、近付く前に砲弾を食らってしまう可能性があるな。だが、この艦に敵戦艦の注意を引き付けられるのならば、
クリーブランドに向う敵は圧倒的に少なくなるな。ミスター・バーク。君の方針で行く事しよう。」

ヴァルケンバーグ少将は、バーク大佐の提案通りに戦闘を始める事にした。
言うなれば、アラスカは引き付ける囮になるというのだ。
敵戦艦2隻がアラスカに食いつけば、巡洋艦部隊に対する圧力は弱くなる。
巡洋艦同士の打ち合いならば、アメリカ側が優勢だ。
敵の巡洋艦は2隻。この2隻は、オーメイ級かルオグレイ級、もしくは、ここ最近配備されたばかりの新型巡洋艦である可能性もある。
もし、敵巡洋艦が2隻とも新型巡洋艦であったとしても巡洋艦部隊には勝算がある。
まず、巡洋艦部隊を編成する軽巡は3隻と、敵の2隻に対して数で勝っている。
おまけに、軽巡3隻のうち、2隻はブルックリン級に次ぐ砲戦力を有したクリーブランド級軽巡であり、残り1隻のオークランドは
対空軽巡であるが、オークランドもまた5インチ連装両用砲8基16門に、21インチ4連装魚雷発射管を搭載しており、
(本来ならば、アトランタ級は連装両用砲を2門を減らし、魚雷兵装を撤廃させるという動きが海軍上層部で存在していたが、
シホールアンル側航空部隊の脅威が増した事や、水上砲戦においてシホールアンル海軍が徐々に手強くなりつつある事を考慮して、
基本兵装は以降のアトランタ級でもそのまま受け継がれている)砲の門数、魚雷数においてシホールアンル艦に勝っている。

ヴァルケンバーグ少将は、砲戦力や魚雷数で勝る巡洋艦部隊なら、自力で敵を撥ね退けられるであろうと確信していた。

「巡洋艦群が無事に現場海域から逃れるためにも、俺達が頑張らないといけないな。」

ヴァルケンバーグ少将は、艦橋にいるTG57.4の幕僚達や艦橋職員に向ってそう言い放った。
一見、悲壮さが漂いそうな言葉ではあるが、ヴァルケンバーグ少将の口調に悲壮さは無い。
むしろ、自信さえ伺えると、リューエンリは思っていた。

「CICより報告!敵艦隊が分離を開始しました!駆逐艦と思しき艦列2が増速しています!更に、敵巡洋艦2隻が増速しています!」

突如、艦橋のスピーカーにCICに詰めているレーダー員から報告が入る。
その報告を聞いたヴァルケンバーグ少将はすぐさま命令を発した。

「駆逐艦部隊は、敵駆逐艦を迎撃せよ!巡洋艦部隊は敵巡洋艦を迎撃しつつ、南方海域へ離脱せよ!」

ヴァルケンバーグ少将の命令を受け取った駆逐艦部隊、巡洋艦部隊がアラスカから次々と離れていく。
最初に砲火を交えたのは、駆逐艦部隊であった。駆逐艦部隊が分離してから10分後に、右舷側の海上で閃光が明滅する。

「敵巡洋艦2隻、我が部隊の巡洋艦群と間も無く接触します!」

CICのレーダー員が、刻々と敵味方の動きを知らせて来る。5分後、今度はアラスカの左舷側で閃光が明滅し始めた。
巡洋艦部隊も交戦を始めたのであろう。残るはアラスカと、北西より迫りつつある2隻の敵戦艦のみだ。

「艦長、敵を引き付けるために、何発か敵に撃ち込もう。」

ヴァルケンバーグ少将は、人の悪い笑みを浮かべながらリューエンリに言った。

「こっちが慌てて主砲を撃ってきたように見せるんだ。」

リューエンリはゆっくり頷いた。

「分かりました。それでは、第1射から斉射を行いましょう。司令」

彼は自信に満ちた口調でヴァルケンバーグに言った。

「我々は慌てて逃げるように装う訳ですが、相手は敵です。弾を命中させても構わんでしょう?」

リューエンリの言葉に、ヴァルケンバーグは一瞬、きょとんとした表情になるが、その次の瞬間には、面白いと言いたげに頷いた。

「うむ。構わんぞ。どうせなら、初弾命中を狙う気概で行くと良い。」
「わかりました。」

リューエンリは返事をすると、まずはCICに敵戦艦との距離を聞きだす。

「CIC。敵1番艦との距離はどのぐらいだ?」
「は。現在、距離15マイルを切りました。」

リューエンリはすかさず、航海科と砲術科に向けて指示を下した。

「28ノットまで増速する!主砲、右砲戦!目標、敵1番艦!」

アラスカの前部に設置されている55口径14インチ3連装砲2基が駆動音を鳴らしながら、北西方面より向いつつある敵戦艦に向けられる。
敵艦は右舷前方の位置にいるため、後部の射界がとれず、今のところは前部6門の砲しか使えない。
28ノットの高速で驀進しているためか、時折艦首が派手に海水を被る。艦は高速航行の影響で揺ているが、艦の動揺は意外と酷くない。
揺れはするのだが、巡洋艦や駆逐艦と違ってゆったりとしている。
アラスカの艦体は、長大な全長に比して艦幅にゆとりを持たせているため、高速航行時の動揺はある程度抑えられている。

敵戦艦から発砲炎が見えた。それから少し間を置いて、上空に光が灯った。敵戦艦の打ち上げた照明弾だ。

「測的よし!射撃準備良し!」

砲術科から弾んだ声音が聞こえて来る。
リューエンリはすぅっと息を吸い込んだ後、いつも通り、冷静な口調で命令を下した。

「撃ち方始め!」

命令が発せられて2秒後に、アラスカの前部甲板が閃光に覆われた。
ドゴォーン!という雷もかくやと思われる射撃音が、トアレ岬沖に響きわたる。
30秒ほどの時間が経って、CICから報告が入った。

「第1射、敵1番艦を夾叉!」

その報告に、艦橋がどよめいた。
第2斉射が6門の14インチ砲から放たれる。その砲弾は、勢いを付けて敵1番艦に落下した。
敵1番艦の周囲に砲弾が落下する。1発が、敵1番艦の中央部に突き刺さった。
その瞬間、敵艦の艦体から命中の閃光がほとばしった。

「敵1番艦に命中弾!」

この報告が流れた直後、艦内では歓声が爆発した。

「僅か2斉射で命中をたたき出すとは・・・・艦長、今の射撃は見事だ。」

ヴァルケンバーグ少将は、僅か2斉射で命中弾を出した砲術科員に対し、惜しみない賛辞を送った。

「は、ありがとうございます。この言葉は、後で砲術科に伝えておきましょう。」

この時になって、敵戦艦も射撃を開始した。水平線の向こう側に発砲炎と思しき閃光が闇夜を吹き飛ばす。
敵弾が飛来して来た、砲弾はアラスカを飛び越え、左舷1000メートルの位置に落下した。

「敵弾!本艦の左舷に落下!」

アラスカが第3斉射を放つ。その直後、敵戦艦2隻も第2斉射を撃った。

「敵1番艦、変針します!」

唐突に、CICから報告が入る。

「チッ、変針したか。」

リューエンリは思わず舌打ちをした。第3斉射弾は、敵1番艦の右舷に落下した。
敵1番艦がいきなり取舵を切ったため、第3斉射弾は全てかわされてしまった。

「敵2番艦も変針します!」

敵戦艦2隻は、第2斉射弾を放ちながら、左に回頭した。アラスカと敵戦艦は、自然に反航戦の形で撃ち合う事になった。
敵1番艦が回頭したお陰で、第3砲塔も敵艦を射界に捉える事が出来た。
第4斉射弾が、右舷14マイル向こうを反航する敵1番艦に向けて放たれる。
この斉射は、全て近弾となり、敵戦艦の右舷側に9本の水柱が吹き上がった。
第5斉射、第6斉射と、アラスカは9門の14インチ砲弾を放つが、なかなか敵1番艦を捉えられない。
第7斉射を放った所で、ようやく敵1番艦を夾叉した。
しかし、第8斉射を放った所で敵戦艦はまたもや変針した。

「敵艦、再度変針!」
「第8斉射弾、命中弾なし!」

その時、ヴァルケンバーグ少将はやや苦味の混じった表情を浮かべた。

「いかん、敵戦艦は本艦の後方に回り込もうとしている。奴ら、逆T字を描くつもりだぞ。」

敵戦艦2隻は、今度は南に向けて変針している。
このままだと、アラスカは前部の1番、2番主砲塔が敵艦を射界に捉えられない。
敵艦が後部に回り込めば、アラスカは後部第3砲塔の3門のみで、敵戦艦2隻の保有する10門以上の主砲と渡り合わねばならない。
敵戦艦2隻は、28ノットから27ノットのスピードで急速に南下しつつある。敵戦艦が第3斉射を撃ってきた。
アラスカの左舷側海面に、高々と水柱が吹き上がった。そのうちの1発は、アラスカの左舷200メートルの位置に着弾している。

「・・・・水柱からして、オールクレイ級戦艦か。」

ヴァルケンバーグ少将は、敵戦艦の正体を見抜いた。
オールクレイ級戦艦は14インチより若干小さめの主砲を1隻だけで8門搭載している。
今、アラスカに砲撃を加えている敵戦艦は2隻であるから、計16門の主砲に狙われている事になる。
(敵は新鋭艦ではない)
ヴァルケンバーグは、敵が旧式のオールクレイ級であると知って、少しだけ安堵した。
しかし、オールクレイ級も侮れない砲戦力を有している。アメリカ海軍の戦艦は、このオールクレイ級と2度の砲戦を戦い、
2度とも勝利しているが、米側も戦った戦艦が必ず大破か、中破の損害を受けている程の難敵だ。
このまま後部に回り込まれれば、余計に不利な戦いを強いられる。

「針路180度に変針!」

ヴァルケンバーグはリューエンリに命じた。リューエンリは頷いた後、アラスカを左舷に回頭させた。

アラスカの艦体が左に回った時に、上空に照明弾が炸裂する。
闇夜から曝け出されたアラスカ目掛けて、敵戦艦の主砲弾が落下してきた。この斉射弾は、意外にもアラスカのすぐ右舷側に着弾した。
1発は、アラスカの右舷後部側100メートルの海面に落下し、32900トンの艦体を僅かに振動させた。
敵戦艦との距離は13マイル(20800メートル)まで縮まっている。
アラスカの主砲が全て左舷に向けられる。
その1分後、アラスカは第9斉射を放った。
左舷側のやや斜め上に相対する形となった敵戦艦に、9発の14インチ砲弾が殺到する。
変針後の修正射撃と言う事もあって、第9斉射弾は全て敵戦艦を飛び越える。
28秒後に第10斉射が放たれる。この斉射弾は、またもや敵戦艦を夾叉した。
リューエンリは、内心で喜んだ。しかし、その喜びも長くは続かなかった。

「て、敵戦艦更に変針!」

敵戦艦2隻は、またもや針路を変更した。そのせいで、第10斉射弾は敵戦艦の左舷に落下し、9本の水柱を吹き上げた。

「くそ、また後部に回り込むつもりか!」

リューエンリは、珍しく苛立ったような口調で言う。
敵艦は、アラスカの後部を狙う形で右舷に回頭している。

「変針!針路270度!」

ヴァルケンバーグはすかさず命じた。

「変針!針路270度!」
「針路270度、アイアイサー!」

命令を受け取った操舵手が、艦を右に回頭させるために、ハンドルを思い切りぶん回す。
アラスカの巨体が、右に振られ始めた時に、再び敵戦艦の斉射弾が降り注ぐ。
敵艦の斉射は、アラスカの後方300メートルに落下しただけであったが、アラスカの乗員達は、思うような射撃が出来ぬ
自分達に対して、シホールアンル艦が挑発しているかのように思えた。
アラスカが針路270度に乗った時、敵戦艦2隻もちょうど回頭を終えていた。
敵戦艦がアラスカの上空に照明弾を打ち上げた後、第5斉射を放ってきた。
16発もの砲弾が、アラスカの右舷側海面に落下する。
多量の水柱が、敵戦艦の姿を一瞬だけ掻き消した。
アラスカが第11斉射を放つ。第11斉射は、変針後の射撃にもかかわらず、見事に敵戦艦を夾叉した。
(これで夾叉は3度目だ・・・・また貴様は逃げ回るのか?)
リューエンリは、夜闇の向こうの敵船に向けて、心中で問いただす。
敵戦艦は、こちらが夾叉や、命中弾を得るたびに変針を繰り返している。
今度もまた、敵は変針するかもしれない。
第11斉射からきっかり28秒後に、第12斉射が放たれた。
9発の14インチ砲弾は・・・・またもや敵戦艦を外れた。

「第12斉射弾、全て遠弾です!」
「くそ・・・・また外したか!」

リューエンリは拳を強く握り締めた。
遠弾とは、主砲弾が敵艦の向こう側に飛び越して弾着した事を言う。
先ほども、敵戦艦は変針を行い、アラスカの主砲弾を全てかわしている。

「また針路を変更するつもりか。」

ヴァルケンバーグが言う。その口調には、ややうんざりしたような響きが含まれていた。
だが、敵戦艦は変針しなかった。

「CICより艦橋!敵戦艦、距離を詰めてきます!現在、距離は19000!」

その報告に、ヴァルケンバーグはほうと唸った。

「どうやら、敵の指揮官は勝負に出たようだな。艦長、いよいよ殴り合いが始まるぞ!」

ヴァルケンバーグは、ドスの効いた声でリューエンリに言った。

「はっ!この勝負、受けて立ちます!」

リューエンリがそう言った直後、アラスカが第13斉射を放つ。同時に、敵戦艦2隻も斉射弾を放った。
アラスカの第13斉射弾は、敵戦艦の手前で落下する。
それと入れ替わりに、敵戦艦から放たれた16発の砲弾が、アラスカに降り注いだ。
左舷側に16本の水柱が吹き上がる。
うち3発は、アラスカの左舷60メートルという近距離に落下し、アラスカの巨体が水中爆発の衝撃波に揺さぶられた。
アラスカが第14斉射を放つ。この斉射弾は、敵1番艦の周囲に落下し、1発が後部甲板に命中した。
命中の戦艦、砲弾炸裂の閃光によって、敵1番艦の艦影がおぼろげながらも、闇夜から浮かび上がる。

「敵1番艦に命中弾!敵艦は火災発生の模様!」
「よし!」

リューエンリは、その報告に満足そうな表情を表した。
アラスカが第15斉射を放つ前に、敵戦艦2隻が斉射を撃って来た。
第15斉射が行われた6秒後に、アラスカの左舷側に水柱が吹き上がる。一呼吸置いて、更なる敵弾落下が起こった。
この時、アラスカの右舷側に3本の水柱が立ち上がった。リューエンリは、その水柱を見るなり、顔を強張らせた。

「夾叉された・・・・!」

16発中、13発は左舷側に、3発は右舷側に立ち上がっている。
敵1番艦か2番艦のいずれかがこのアラスカを夾叉したのだ。
水柱が崩れ落ちていく。この時、水平線の向こうで発砲炎とは違う閃光が煌いた。

「敵1番艦に2弾命中!」

アラスカの14インチ砲弾は、9発中2発が敵1番艦に打撃を与えていた。

「艦長。いいぞ、その調子だ。」

ヴァルケンバーグが余裕の笑みを浮かべて、リューエンリに言って来る。

「敵1番艦に対して、アラスカは有利に立っている。このまま行けば、敵1番艦を早く仕留められるぞ。」
「は、ありがとうございます。」

ヴァルケンバーグに対して、リューエンリはそう返事した。アラスカの第16斉射が放たれる。
この斉射弾は、惜しくも全てが外れてしまった。
それに対して、敵戦艦のうち、2番艦が撃ち返してきた。

「ん?敵1番艦はどうして一緒に撃たない?」

ヴァルケンバーグは、一瞬だけ敵1番艦が気になった。敵1番艦は、必ず2番艦と一緒に主砲を放って来た。
しかし、先の斉射で、敵1番艦は主砲を発射しなかった。
ヴァルケンバーグの疑問は、瞬時にして氷解した。
敵2番艦が発砲して20秒後に、敵1番艦が主砲を発射した。いきなり、アラスカの周囲にドカドカと砲弾が落下する。
ガァーン!という衝撃音が鳴り響き、アラスカの艦体が激しく揺れた。

「右舷中央部に敵弾命中!右舷2番両用砲損傷、火災発生!」

被害報告がすぐさま艦橋に届けられた。リューエンリは、すぐにダメコン班を艦内電話で呼びつけ、消火を命じた。
アラスカの第16斉射弾が弾着すると同時に、敵1番艦の斉射弾が降り注ぐ。
周囲に8本の水柱が吹き上がる。アラスカの艦首が、水柱を強引に踏み潰して突き進んでいく。
CICが、2発命中したと艦橋に伝えた瞬間、新たな斉射弾がアラスカに降り注ぐ。
新たな1発が、アラスカの後部甲板に突き刺さる。
この13ネルリ砲弾は、アラスカの後部甲板に命中するや、最上甲板を突き破り、そのすぐ下の甲板で炸裂して火災を発生させた。
敵2番艦が放った斉射弾の水柱が崩れ落ちる前に、アラスカが第17斉射を放つ。
その10秒後に、敵1番艦からの斉射弾が落下して来た。

「奴ら、交互に射撃して、こちらの弾着観測を妨害しようとしている。」

ヴァルケンバーグは、怜悧な口調でそう言った。
敵戦艦は、先ほどまで40秒おきに主砲弾を放っていた。
それが、今では2隻が20秒おきに、交互に射撃を繰り返している。
一方、アラスカは9発の14インチ砲弾を28秒おきに9発発射しているが、次の斉射に入るまで、艦の周囲には敵弾の
吹き上げた水柱で覆われ、視界を塞がれている。
普通の光学照準射撃を使用していたなら、この林立する水柱によって、射撃はやりにくくなっていただろう。
敵戦艦は、アラスカの射撃精度を悪化させるために、交互射撃を行っているのだ。
しかし、

「敵1番艦に3弾命中!」

アラスカの射撃精度は、全く劣らなかった。

「こちらにはレーダーがある。そのような小細工は通用せんぞ。」

ヴァルケンバーグは、2隻の敵戦艦に対して、自信に満ちた口調で言い放った。

第18斉射が放たれた直後、敵1番艦の射弾が落下して来た。
先の弾着で吹き上がった水柱は崩れ落ち、視界は開けていたが、またもや水柱が吹き上がって視界が悪くなった。

「右舷中央部に命中弾!40ミリ機銃座損傷!」

被害報告が入って来る。リューエンリはすぐに対処を命じたが、
(ん?敵1番艦の射撃は、さっきもこんな物だったか?)
彼はふと疑問に思った。
13ネルリ弾8発が周囲に落下すれば、いくら堅牢に作られているアラスカといえども地震にあったかのように揺さぶられる。
その振動が、今回は幾らか小さいように思えた。

「敵1番艦に2弾命中!」

CICから弾着の結果報告が入る。リューエンリは、水柱の間に移る艦影から爆炎のような物が吹き上がるのを見た。
水柱が崩れ落ち、アラスカの視界が再び良くなる。彼我の距離は18000メートルまで縮まっている。
このため、艦橋からも遠くの敵艦を辛うじて識別出来た。
敵1番艦は、後部から大火災を起こしていた。アラスカの14インチ砲弾を受けた影響であろう。
敵2番艦の射弾が落下する。新たな衝撃音が、後部から聞こえて来た。

「第3砲塔に命中弾!」

報告は、そこで区切られる。

「砲塔か・・・・」

もし、砲塔が使用不能になれば、アラスカは6門の砲で、倍以上の砲を有する敵戦艦と戦わねばならない。
そうなれば、アラスカは一層不利になるであろう。

リューエンリは砲塔が無事であるか心配になったが、

「砲塔に損傷なし!」

やや遅れて来たその一言で、リューエンリはひとまず安堵した。
(流石は新鋭巡戦だ。防御が厚い)
彼は、自分の艦の頑丈さに感謝した。
アラスカが新たな斉射を放った。敵1番艦も同時に斉射を放つ。
よく見ると、敵1番艦は前部甲板のみで発砲を行っている。後部に発砲炎が灯る事は無く、代わりに火災炎が見えるだけだ。

「先の命中弾は、後部の砲塔を潰していたか。」

ヴァルケンバーグがそう呟いた時、敵1番艦の主砲弾が降り注いで来た。左舷側の海面に、水柱が高々と吹き上がる。
艦首最前部より7メートル後方に敵弾が突き刺さる。
その次の瞬間、閃光と共に40ミリ4連装機銃座が吹き飛ばされ、海面や第1主砲塔等に夥しい破片が撒き散らされた。

「前部甲板に被弾!火災発生!」
「ダメコン班!急いで前部甲板の消火にあたれ!!」

リューエンリが、待機しているダメコン班に指示を飛ばす。その時、アラスカの射弾が敵1番艦を捉えた。
9発中、3発が命中した。
1発は、敵戦艦の中央部に命中した。命中した14インチ砲弾は敵艦の水平装甲を叩き割って第2甲板で炸裂。
爆発の影響で魔道銃2丁と両用砲座1基が吹き飛ばされた。
2発は後部甲板に命中して、火災を拡大させた。
未だに無傷の敵2番艦が、僚艦の危機を救おうと、8門の13ネルリ砲をアラスカ目掛けて撃つ。
アラスカは、第20斉射を放った直後に、敵2番艦の斉射弾を受けた。
2発が右舷中央部に命中した。命中弾は、火災を消し止めようと奮闘するダメコン班を吹き飛ばし、健在な機銃や両用砲をずたずたに引き裂いた。

「右舷中央部に新たな被弾!火災が拡大します!」

やや間を置いて、アラスカの第20斉射弾が、敵1番艦を捉えた。
一気に4発の14インチ砲弾が、前、中、後部と、満遍なく命中した。
前部部分から、やや規模の大きい爆発が起こり、爆炎の中に細長い物が舞い上がるのをリューエンリは確認した。
敵2番艦は、第2砲塔と見られる部分と、中央部から新たな火災を吹き出した。

「新たに砲塔を1基潰したか。」

ヴァルケンバーグが小声で呟く。そろそろ、艇1番艦が撃ち返すか、と思われたが、いつまで経っても敵1番艦は主砲を撃たない。
2番艦だけは、規則正しく、40秒おきに主砲弾を放っている。
何故か、この斉射弾は全て空振りに終わった。
40秒が経って、敵2番艦は再び斉射を行うが、これもまた外れる。その間、敵1番艦はずっと沈黙したままだ。
(敵1番艦もだが、2番艦は一体どうしたんだ?)
ヴァルケンバーグには、何故か敵2番艦が動揺しているように感じられた。

「敵1番艦、変針します!」

いきなり、CICから思いがけぬ報告が飛び込んで来た。

「変針だと?確かか?」
「はい、確かです。しかし、2番艦は相変わらず現針路を維持しています。」
「巡洋艦部隊より報告、我敵巡洋艦との交戦終了、敵巡洋艦1隻撃沈、1隻撃破せり。損害はオークランド被弾7発で砲塔3基使用不能。
機関損傷無し。クリーブランド5発被弾するも損害軽微。」
「ふむ、巡洋艦群はなんとか打ち勝ったようだな。」

ヴァルケンバーグは、巡洋艦部隊が敵に快勝をした事に満足した。
1分後には駆逐艦部隊からの報告も入る。駆逐艦部隊は、相手側に1隻を撃沈され、3隻大破、2隻を中破させられたが、
逆に敵艦3隻撃沈、5隻を撃破して相手を追い払った。

「司令、どうやら敵1番艦は主砲が全て使えなくなったため、後退を決意したようです。残るは、敵2番艦のみです。」

リューエンリの言葉を聞いたヴァルケンバーグは、頷いてから次の指示を下した。

「目標変更!次なる目標は敵2番艦、測的始め!」

リューエンリは、新たな目標にアラスカの主砲を合わせた。
無傷の敵2番艦が更なる斉射弾を加える。新たに1発が、アラスカの第1砲塔に命中する。
天蓋に着弾した敵弾は、あらぬ方向に跳ね飛ばされていった。

「射撃準備良し!」
「砲術長、斉射で決めるぞ!」
「わかりました!」

リューエンリは、艦内電話で砲術長に確認を取った後、敵2番艦に対する射撃を開始した。

「撃ち方始め!」

敵2番艦に対して、55口径14インチ砲9門が斉射弾を放った。敵2番艦も13ネルリ砲8門を咆哮させる。
敵2番艦の左舷側海面に9本の水柱が立ち上がる。その水柱によって、敵2番艦は視界を妨げられた。
一方、敵2番艦の射弾は、またもやアラスカを捉えていた。

「右舷中央部に命中弾!右舷射撃レーダー全壊!」

敵の放った13ネルリ弾8発のうち、1発が煙突のやや右斜め上に配置されていたMk37射撃指揮装置を根元から粉砕した。
破片は、アラスカの特徴である変わった1本煙突右側の下半分の表面を、破片の突き刺さった醜いあばた面に変えてしまった。
この時点で、彼我の距離は17000メートル台にまで縮まっていた。

28秒後にアラスカが斉射弾を放つ。
今度は1発が、敵戦艦の中央部に命中した。
命中の瞬間、敵の艦影がオレンジ色に染まり、中央部から爆炎と共に、夥しい破片が吹き上がった。

「夾叉弾を得ないですぐに命中弾か。やるな。」

ヴァルケンバーグ少将が、小声でアラスカの射撃を評価する。
リューエンリはそれが聞こえていたが礼を言うのは後にしようと思い、何も言わなかった。
敵戦艦が斉射を放つ。その8秒後にアラスカが第3斉射を撃つ。
互いの砲弾が上空で交錯し、それぞれの目標に向けて落下していく。
アラスカには2発、敵2番艦には1発が命中した。
2発のうち、1発は艦尾に命中し、艦尾側にあった2基の40ミリ4連装機銃がばらばらに打ち砕かれた。
もう1発は第2砲塔のすぐ目の前で命中し、炸裂したが、表面をささくれ立たせただけで被害は軽微であった。
一方、敵戦艦には、1発が命中している。この命中弾は、敵戦艦の第3砲塔の天蓋に命中した。
14インチ砲弾は天蓋を貫通し、砲塔内部で爆発した。
爆発の直後、天蓋は左右にめくれ上がり、砲塔自体が旋回板から外れてしまった。
敵2番艦が応戦するが、アラスカの艦橋からは、敵2番艦が明らかに砲力を減少している事が分かった。
アラスカの左舷側海面に、6本の水柱が立ち上がる。敵2番艦の斉射弾は、アラスカを捉える事が出来なかった。

「よし、まずは砲塔1基」

その時、CICから切迫した声が艦橋に響いて来た。

「司令!巡洋艦部隊から緊急信です!我、敵戦艦の攻撃を受ける!」

その報告に、今まで冷静に務めていたヴァルケンバーグは、初めて戸惑いを見せた。

「敵戦艦・・・・だと?」
「その報告は確かか!?」
「はい。間違いありません!巡洋艦部隊は敵戦艦と交戦しています!」
「なんてこった・・・・・!」

リューエンリはやられたと思った。

「司令、早くこの2番艦を討ち取って、巡洋艦部隊の救援に向わねば。」
「駆逐艦部隊が残っているだろう。通信参謀、各駆逐隊に緊急信!各駆逐隊は速やかに巡洋艦部隊の援護に当たれ!」

ヴァルケンバーグがそう命じた直後、後部から強い衝撃が伝わって来た。

「ぐ・・・・!」

リューエンリとヴァルケンバーグは、その衝撃になんとか耐えた。
少しばかりの間を置いて、被害報告が入ってきた。

「第3砲塔に敵弾命中!第3砲塔は使用不能の模様!」
「なっ・・・・!」

彼は、ヴァルケンバーグと顔を見合わせていた。砲塔がやられた。そうなると、まず思い浮かぶのが弾薬の誘爆である。
いくら頑丈な戦艦とはいえ、砲塔内部を叩き割られ、更に、下部の弾薬庫を誘爆させられれば、たちまち轟沈だ。

「砲塔はどうなっている?破壊されたのか!?」

リューエンリはすかさずダメコン班に聞き返した。

「敵弾は砲塔の真正面と、砲塔と甲板の繋ぎ目に命中したようです!砲塔自体は無事ですが、砲身と装填機構、旋回盤に
異常が出て、目下使用不能です!」

敵2番艦の放った13ネルリ弾は、2発が第3砲塔に命中していた。
命中した弾のうち1発は、砲塔の正面、1番砲と2番砲の間に命中して炸裂した。
砲塔の正面装甲は貫通できなかったが、3本の砲身が強烈な爆風と破片に歪められ、真っ直ぐに弾を撃ち出せなくなっていた。
2発目は第3砲塔右側の砲塔と甲板の繋ぎ目に命中して炸裂した。
この瞬間、砲塔の旋回盤が衝撃で歪み、砲の旋回自体が出来なくなっていた。
更に、この立て続けの被弾によって、砲塔内部の装填機構が故障してしまった。このため、第3砲塔は1発の砲弾も撃てなくなっていた。
残り6門となった主砲が咆哮する。
6発中、1発が敵2番艦の後部に命中した。敵艦の後部に高々と爆炎と破片が吹き上がる。
アラスカが第5斉射を撃った。
この時、互いの距離は17000メートルを切ろうとしていた。
6発放たれた砲弾のうち、2発が敵2番艦に命中する。
敵2番艦も命中弾を浴びる前に斉射弾を叩き出す。
砲弾の飛翔音が近付いてきた、と思った直後、アラスカの周囲に水柱が立ち上がり、新たな衝撃が32900トンの艦体を揺さぶる。

「右舷中央部及び後部艦橋に命中弾!火災発生!」

被害報告が艦橋に伝えられた直後、巡洋艦部隊から新たな報告が入った。

「軽巡クリーブランドより入電!敵戦艦の砲撃でオークランド被弾炎上!我、敵戦艦より砲撃を受ける!」

リューエンリは、一瞬悔しげな表情を浮かべる。
(巡洋艦部隊が第3の戦艦と撃ち合っているのに、俺達は敵2番艦に梃子摺っている。早く、奴を仕留めなければ!)
リューエンリの心に、焦燥の念が生まれ始めた。
アラスカが咆哮する。リューエンリの焦燥が砲撃に現れたかのように、アラスカの射弾は敵戦艦を捉えられなかった。

「砲術!何をやっとるか!しっかり狙え!!」

リューエンリは思わず、砲術科を叱咤する。敵2番艦が斉射弾を放って来る。
やや間を置いて、アラスカの左右両側に水柱が立ち上がり、ついで艦体に衝撃が伝わる。
リューエンリには、まるで、敵2番艦がこのアラスカを味方の救援に行かせないとしきりに訴えているかのように思えた。

「前部甲板に被弾!火災発生!」
「くそ、敵もなかなかだな。」

ヴァルケンバーグが忌々しそうな口調で呟く。
それを払拭してやるといわんばかりに、アラスカが新たな斉射を撃った。
敵2番艦に向けて、6発の砲弾が降り注ぐ。そして、6発のうち、1発が敵2番艦に命中した。
命中箇所は、敵2番艦の前部部分、詳しく説明すると、第2砲塔のすぐ左側であった。
アラスカ級巡洋戦艦は55口径14インチ砲という長砲身砲を搭載している。
680キロの14インチ砲弾は、この主砲によって、秒速870メートルという高初速で撃ち出される。
敵2番艦の主要防御区画は、この14インチSHSによってあっさりと撃ち抜かれ、最上甲板より下層の弾薬庫まで達し、そのエネルギーを解放した。
唐突に、敵2番艦が艦橋の前から閃光を発した。
そのまばゆい光に、アラスカ艦橋にいたリューエンリとヴァルケンバーグ、その他の艦橋要員、そして見張り員は、一瞬にして視力を奪われた。

「うわ・・・!」

リューエンリの耳に、誰かがうめく声が聞こえた、と思った瞬間、雷もかくやと思えるような大音響が耳に飛び込んできた。
視力はすぐに回復した。
リューエンリは、自分の目に移った光景を見て、最初は茫然としていた。
今さっきまで、激しく殴り合っていた敵2番艦が、前部部分から大火災を起こして這うような速度で航行している。
その巨大な火災炎は、すぐ後ろの艦橋をも飲み込もうとしている。
敵2番艦の前部にあった2基の主砲塔は、1基が完全に消し飛び、もう1基はあらぬ方向砲身を向けていた。

それに加えて、敵2番艦は艦首を大きく沈み込ませている。ダメージが艦の深部にも行ったのであろう。
敵2番艦が戦闘力、いや、船としての力すら無くしかけている事は誰の目から見ても明らかだ。

「敵2番艦沈黙!」

その報告を聞いたリューエンリは、ようやく我を取り戻した。

「艦長、このアラスカも大分やられたな。」

ヴァルケンバーグ少将がリューエンリに言って来る。

「そうですな。この様子じゃ、少なめに見積もっても中破確定です。」
「確かにな。だが、今はここでのんびりしておれんぞ。」

ヴァルケンバーグはそう言うなり、次の命令を下した。

「巡洋艦部隊の救援に全速で向う!針路180度に変針!」
「取舵一杯、針路180度!全速前進!」

命令を受け取った航海科は、アラスカを左に回頭させる。
回頭後、アラスカは機関を全力発揮させた。
バブコック&ウィルコックス缶8基のボイラーが180000馬力の最大出力を叩き出し、32900トンの巨体を、
時速32・5ノットという高速で航行させる。
白波を派手に蹴立てながら、アラスカはひたすら南、目の前で明滅する閃光に向けて疾走して行った。
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